Luxurious Bubble Victory
「……チェック(王手)」
「くっ……ならばキングをここに……」
「ナイトをこっちに。チェック・メイトだ」
「キーッ!」
クドヴァンの白いナイトが、ルナの黒いキングを追い詰めていた。キングに逃げ道はない。
ルナの負けであった。
冬の寒いある夜、二人は食後のチェスを楽しんでいた。今日の試合でクドヴァンの三勝〇敗。圧倒的にクドヴァンが勝っていた。
本当は二勝したところでクドヴァンは切り上げたかったのだが、ルナがもう一回とせがむので、もう一試合したのだが……この結果である。
「ルナ……ちゃんと『どっちの手の方が良い手か』を考えないと勝てないよ?」
横に置かれた最後の陶酔の果実を摘みながら、クドヴァンは笑って言った。それは分かるんだけど……とルナは呻く。
ヴァンパイアであるルナは人間だったクドヴァンより身体能力は遥かに優れるし、頭も悪くはない。しかし、チェスだけはどうしてもクドヴァンには勝てなかった。
「さて……」
陶酔の果実を飲み込んでから、クドヴァンは言う。
「君が三戦目を要求した時、負けたら何でも言うことを聞くと言ったね?」
「な、『何でも』とは言ってないわ!」
うつむいていたルナが首を急に上げて反論する。それに対してクドヴァンは敗者に反論の資格はないと言わんばかりにクックッと笑った。とは言え、そうひどいことを要求するつもりではなかった。
「じゃあ、ルナ……僕と一緒に風呂に入ってくれないか?」
「……え?」
罰ゲームの内容にルナは二重に驚いた。思った以上に軽かったこと、そしてクドヴァンが「一緒に風呂に入る」と言ったこと……
基本的に、ルナとクドヴァンは、湯浴みは別に行う。理由は、ルナは身体や髪を洗う際は召使いの魔物娘に丹念にやらせるためだ。一度一緒に入ったことがあるのだが、髪の手入れに関してはクドヴァンは不得手だったため、やはり召使に任せることになった。クドヴァンもそれに対して異を唱えなかった。
しかし、彼はどうしても今日はルナと一緒に風呂に入りたいらしい。
「どうして?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。とにかく、罰ゲームとして今日は僕と一緒にお風呂に入る事、いいね?」
彼の意思は読めなかったが……しかし悪い話ではないとルナは判断し、首を縦に振ったのだった。
「ふぅ……」
「はぁ……」
浴場に息を吐き出す声が響く。ルナとクドヴァンの物だ。
二人は今、一人どころか二人で入るにしても広すぎる浴槽の中に腰を下ろしている。浴槽にはハーブ湯が張られていた。
普段は一人でつかる風呂で、いつも一緒にいる者が横にいる……それだけで何か特別なような気が二人はした。ベッドで互いの裸は何度も見合っているのに、こうして浴場で、湯の中で見てみるとまた新鮮だ。
ルナの身体は女性らしく丸みを帯びており、肌はシミ一つなくまるで新雪のように白く、美しい。湯面からは華奢な肩と、胸元と乳房の裾野が出ており、そこが眩しかった。そしてそこから下は湯の中で揺れて見えない。それがまた彼女の肢体を連想させてそそる。
一方、クドヴァンの方も、男として見栄えのする身体をしていた。ルナと一緒に研究をしている人間のため筋骨隆々といった感じではないが、細身の身体に堅そうな筋肉がついている。
「いつ見てもいい身体をしているわね、クドヴァン……いえ、そういう意味ではなくて……」
自分が言った言葉が官能的にとられたのではないかと思い、ルナは慌てて訂正する。それに対してクドヴァンは軽く笑っただけであった。分かっている。妻を守るために身体を鍛え、慣れない刺突剣を振っていることを言ってくれているのだと。
「ルナも……きれいな身体をしている」
「ふふふ。それはエロティックな意味で言っているわよね?」
二の腕を使ってルナは胸を寄せた。湯面に浮かぶ白い双丘が互いに軽く潰れ、一本線を形成する。その谷間にクドヴァンは思わず目が吸い込まれた。と
突然、ばしゃりと湯が顔にかかった。ルナがお湯を弾いたのだった。
「ふふ、私がいくら綺麗だからって見過ぎよ、クドヴァン」
「す、すまない……」
「うぅん、いいわ……この身体はクドヴァンの物だから……」
恥じ入るクドヴァンにルナは笑ってみせる。ちょっといたずらがしたかっただけなのだ。チェスでは散々な目にあったのもあるし、この後に何かされることに対する前倒しの仕返しでもあった。
そう、ルナはある程度は予測していた。クドヴァンはただ単に自分と風呂に入りたがっているわけではないと。もし風呂に入りたがっているだけなのであれば、自分が召使に髪を洗ってもらってから一緒に入ればいい。だがクドヴァンはそれも拒否して最初からルナと一緒に風呂に入ることを望んだ。何かあるはずなのだ。多分、髪が乱れるようなことが。それが何かまでは分からないけど。
ルナは湯の中でクドヴァンの手を取った。そして頭を彼の肩に預け、頬を擦り付けた。甘えると同時に無言の催促だ。クドヴァンは軽く笑い、ルナに湯から出るように言った。どうやら湯の中でやることではないらしい。洗い場に出ると、クドヴァンが何かを棚から取り上げた。
「何かしら、それは?」
「これ? ハッチソンの石鹸だ」
ハッチソン……最近作られた、香水や石鹸を売るキャンサーを中心とする団体である。キャンサーの身体から作られる泡を加工して作られた石鹸が主力商品だ。キャンサーによって作られた石鹸らしく、洗浄能力や臭い消しにおいては、これを超す石鹸はないとすら言われている。だが彼女らの身体と魔力から作られるものゆえ生産数は決して多くはなく、かなりの高級品だ。それをクドヴァンが持っていた。
「どうしたの、それ?」
「君の姉さんからだ」
いつものおせっかいなダンピールの姉だ。ルナは苦笑した。クドヴァンもつられて笑ったが、その笑いが今度はいたずらっぽい物に変わる。
「この石鹸はルナが持っていて。で、軽く魔力を込めて。本当に軽くだよ」
「え? え、ええ……」
言われるままにルナは両手でクドヴァンから石鹸を受け取り、魔力を込める。すると石鹸から泡が溢れだし、ルナの手を包みだした。ルナもハッチソンの物ではないが、石鹸は使うことがある。だがこの石鹸から出た泡は普通の石鹸のそれとかなり違った。とてもぬめっている。ルナは泡を自分の腕に延ばしてみた。手は泡を塗り広げながらぬるぬると自分の腕を滑っていく。その感触に、プライド高い貴族でありながらも淫らな魔物娘であるルナはあることを考えつく。この手でクドヴァンのモノを扱いたらどうなるか……
そこまで考えてルナはクドヴァンが何を考えているか気づいた。この石鹸は、身体を洗らうことがメインの石鹸ではない。むしろ、性行為のための機能がメインだ。キャンサーの泡だけではなく、おそらくスライムの粘体も混じっている……そんな石鹸だ。この石鹸で、自分の身体を洗って欲しいとクドヴァンは言いたいのだろう。しかも、タオルなどではなく、ルナの身体を使って。
かすかな恥辱をルナは覚えた。分家ではあるが貴族の彼女だ。母のソワレは貧乏で使用人が一人もいない状態だったが、ルナは物心がついたころには使用人がいた。他人の身体は愚か、自分の身体も洗ったことがない。その使用人がすることをやってくれと頼まれているのだ。いや、使用人がすることを超えている。クドヴァンが頼んでいるのはもっと官能的なこと。その肢体を使って洗ってくれと言っているのだから。
しかし、恥辱を覚えつつも、ルナはどこかで期待感を持っていた。これはただ身体を洗うという行為ではなく、性行為だ。きっと洗われているうちに夫は勃起し、自分の手や身体、太ももや腹によって射精することだろう。そのことに魔物娘として、いや、女としての興味と矜持がくすぐられる。思わずルナはくちびるを舐めた。
「分かったわよ」
「僕、何も言っていないんだけど……」
「この石鹸を使って身体を洗って欲しいんでしょう? キャンサーのように」
そう言いながらルナは手を胸元に持っていった。とろりと、泡がルナの胸に落ちていく。生き物は動くものには反射的に視線を向けてしまう。クドヴァンとて例外ではない。ルナの手からソープがこぼれ、胸の膨らみに落ちてその球面を伝っていく様子を見つめてしまう。
今度はクドヴァンが苦笑を漏らす番だった。ルナの仕草に見とれてしまったこと、そして自分がやりたいことを見ぬかれたことに。
「ふふふ……」
怪しげにルナは笑いながら、自分の身体に石鹸を塗りたくった。右手が蛇のように這いまわって身体をぬるぬるにしていく。胸、腹、太もも、内股……ルナの白い肌が風呂の湯とは違う物に濡れ、妖しげな光を放った。しかも、ただ濡れているだけではない。泡が彼女の身体の一部を隠している。見えないと言うのはよりその見えていない部分の想像を掻き立て、気にさせる。何度も身体を重ね、隅々まで知り尽くしたつもりのルナの身体であるが、それでもこうしてみるとやはりその下が気になってしまう。
「ほら、クドヴァンも……」
ルナが左手に持つ石鹸からあふれる泡を掬い、クドヴァンの胸板にそれを塗り始めた。彼女にふわふわと胸を撫でられるのも嫌いではない。普段、夜明け前の交わりでベッドにてそのように愛撫されることもしばしばだ。だが今、ソープを塗られる感触はまた違った物だった。
ヴァンパイアは手早く男の身体に泡を塗っていく。かなり大雑把な塗り方である。このあと、自分の身体を使って改めて塗りたくり、洗うからだ。胸から肩、また胸へと戻ってそこから腹へ、腹から太もも、そして後回しにしていた大事なところへ。
「あうっ……!」
普段と違う感触にクドヴァンは思わず声を上げた。言葉で言えば、確かに摩擦と圧迫感による快感だ。だがその質は全く違う。
ソープを使っている事によってルナの手とクドヴァンの肉棒との摩擦力はほとんどない。よってルナの手はクドヴァンのものを握れず、ぬるぬると抜けていく。まるでうなぎが手から抜け出るように。だが、そのぬるりと擦れる感触がクドヴァンに刺激を与えていた。
ルナも、クドヴァンがいつもと違う感触に悶えているのに気付いたらしい。あとで身体で洗うからと思っていたが、そこは入念に前洗いすることにしたようだ。ソープを塗りたくった手が翻り、再びクドヴァンのモノの先端に添えられる。そこから手が下へと降りて根本まで泡が塗りたくられた。摩擦力を消す泡によって手はぬるぬると根本まで何の抵抗もなく滑っていく。
ルナの手は確かにクドヴァンのペニスに触れており、押し付けられている。それでもぬめりが過剰な力を受け流し、クドヴァンに心地よい圧迫感とぬめりの感触を伝え、快感として脳へと伝わらせた。
「あ、あ、ルナ……」
「ふふふ……どうですか、クドヴァンさん?」
ルナは左手の石鹸を置いてその腕をクドヴァンの背中に回し身体にぐっと近づける。そしていたずらっぽく自分が娼婦になったつもりで、夫をさん付けで読んでみた。迫ってきたソープに濡れている胸にクドヴァンは腕を伸ばそうとする。
「あら、ダメよクドヴァン。今日は私にこの石鹸でサービスして欲しいんでしょう? なら今日は全部任せて……」
ルナにそう言われても不満そうなクドヴァンであったが、ヴァンパイアの手がそれを封じた。手の上下運動がぐちゅぐちゅと音が立つほど激しくなっていた。ソープによって摩擦力が減らされ、亀頭から竿までスムーズに手が滑る。敏感なところを攻め立てられ、クドヴァンの言葉はうめき声に変わる。
自分の手さばきで男を封じた女は優越感に浸り、にんまりと笑う。だがそこで慢心したりなどしない。さらに追い詰める。ルナが手首をしならせる。普通だったら肉棒が雑巾のように絞り捻られ、クドヴァンは苦痛の声を上げたはずだ。だが今は摩擦力が殆ど無い。ぬるぬるとルナの手がペニスを撫で回す。
「ルナ、それ……気持ちいい……」
「そのようね、ふふふ……とろけた顔しちゃって……♥ こうするともっと気持ちいい?」
手首のスナップを効かせながらルナは手の上下運動を再開させた。ひねる動きに加えてしごく動き。それだけではない。先端でもひねるような動きをするため、ルナの手のひらが亀頭を子どもの頭を撫でるかのように這いまわるのだ。普段であれば痛いくらいの刺激が、ソープによって腰が浮くほどの快感に変わる。
クドヴァンの声が昂ってきた。射精が近い。何度も身体を重ねたルナはそれを敏感に感じ取る。ソープを使った愛撫は初めてだが、そこのところは一緒だ。
「ところでクドヴァン。この石鹸は口にしても大丈夫な物なのかしら?」
手を休めずにルナが尋ねる。ちろりと桃色の舌がくちびるを舐めた。ルナの問いにクドヴァンは頷く。ルナの目が細められた。
「そう、ならいいわ……」
何が良いのかとクドヴァンは尋ねようとしたが、できなかった。ルナが握りこみ方を変えていた。中指から小指はクドヴァンの竿を握りこんでいる。その三本の指でルナはクドヴァンの肉棒を扱いた。残る人差し指と親指はその三本の指から少し離しリングを作っている。その輪を使ってルナは亀頭を重点的に攻めた。先端、カリ首、裏筋が何度も何度も、ルナの指によって撫でられる。フィニッシュに向けての猛攻であった。
指は膣と違って熱くはなかったし硬い感触もある。だがそれでもぬめりと圧迫感、そして弱点をピンポイントで攻めてくるという点では、単純な快感で見れば甲乙つけ難かった。
「うっ……!」
クドヴァンの身体がぶるりと震える。それと同時に鈴口からソープとは違う白い粘液が溢れだした。白濁液はルナの手の甲を汚していく。それでもルナは容赦しない。クドヴァンの勃起を保つべく、ゆるやかに手を動かし続ける。その間も、まるで尿道から搾り出されるかのように精液がクドヴァンの身体からこぼれ続けた。
「ふふふ……♪」
クドヴァンの射精が収まったところでようやくルナは右手を離した。手を自分の口元に持っていく。そしてそのまま舌を伸ばして彼女は精液を舐めとった。キャンサーの泡の味が混じってしまうのが気に入らなかったが、夫の精液と言うものはそれでも味わいたいと思えるものだった。気に入らないからって捨てるだなんてもったいない。
「ん、れる、れろ……」
ちろちろとルナは自分の手を舌で清めていく。その間、ときどきクドヴァンに視線をやる。先ほど出した精液を、自分が舐めているんだと男にアピールする。手は性器から離れていたが、その視線とビジョンはクドヴァンの勃起を保ち続けた。しかし彼の理性は崩れかけていた。クドヴァンはルナに襲いかかろうとする。それをルナは自分の身体で押し止めた。
「だ・め・よ♥ 今日は私がサービスするんだから……あなたもそう望んだんでしょう?」
「う……」
チェスでは自分が勝ったと言うのに、こういう場になるとルナにやりこめられる傾向が強い。特に、一度主導権を握られてしまうと、基本的にもう取り返せない。少しクドヴァンは惨めな気分になった。
だがそれもほんの少しだけ。今回はチェスで勝って、普段できないプレイができているのだ。そして今日は全てルナに任せることが出き、自分はふんぞり返ってルナから与えられる快楽を味わっていられる。それでいいじゃないか。いや、むしろこの上ない贅沢だ。夜の貴族たるヴァンパイアのルナが、ここまでしてくれるだなんて。
ルナの身体にもたれるようにして、クドヴァンは身体の力を抜いた。
「それでいいわ、クドヴァン。私に任せて……私に委ねて……私を感じて……」
歌うように言いながらルナはクドヴァンを浴室の床にそっと押し倒した。自分も一緒に、彼の右手に身体を横にし、密着させた。泡でぬめったルナの胸、腹、脚がクドヴァンの身体に当たる。そして性器も。泡のせいで感じ取りにくいが、そこは確かに泡とは違う液体でぬめっていた。
「どう、クドヴァン? 私の身体は?」
軽く、踊るようにルナは身体をくねらせる。クドヴァンの腕にルナのぬるぬるとした身体が擦り付けられる。ペニスなどには触れられていないのに、それだけでも心地いい。
摩擦がほとんどないため、触れているルナの身体の箇所が連続的に変わる。パン生地のように柔らかい胸が押し当てられているかと思ったらぽちりと腕にしこりを感じる。また柔らかい胸を感じたかと思えば硬い胸骨が当たった。その時にルナが軽く腕に力を込めればむにゅりと双丘がクドヴァンの腕を挟み込んだ。もしこれをペニスにやられたらどうなるか……ルナに胸で愛されたことも何度もあるが、その時は唾液などで申し分ない程度に濡らした程度で、ここまでぬめりにまみれていなかった。
ルナもそれを考えたようだ。クドヴァンに身体を押し付けながらにんまりと笑う。
「もしかしてクドヴァン、この胸でペニスを挟まれたいと思ったかしら?」
「まあね……」
「ふふ、いいわ。でもまだよ。今はこうしてあげるわ……」
ルナの白い脚が伸びた。イルカのようにつるりとした脚もソープにまみれており、よりいっそう妖しげな光沢を放っている。その脚がクドヴァンの下腹部のあたりで折り曲げられた。
「ル、ルナ!?」
「うふふ……これもぬるぬるしていていいでしょう?」
クドヴァンのペニスがルナの太ももとふくらはぎに挟まれていた。意外なルナの行動にクドヴァンは戸惑いを隠せない。一方、ルナは自信満々と言った様子だ。ソープを使ったプレイはもちろん、このように太ももとふくらはぎで挟むという行為も初めてだと言うのに。
だがルナの自信は過信ではなかった。ルナと太ももとふくらはぎはみっちりと筋肉が詰まっている。だが女性らしく、ほどほどに脂も乗っていて柔らかさも備えられていた。胸や手、膣とは違う柔らかさと圧迫感を備えた部位……それが彼女の太ももとふくらはぎだった。また、ルナの肌の肌理が細かいことも外せない。
ルナが脚を緩やかに動かし始めた。動き自体は手と違って拙劣であるが、太ももとふくらはぎの筋肉による圧迫感がそれを補う。
脚だけではない。ルナの身体は未だにクドヴァンに押し当てられている。腕に当たる柔らかな感触、そして太ももに当たる、肌とは違う柔肉の感触にクドヴァンの心臓が跳ねていた。
「足で扱いたこともあったけど、膝裏で攻めたことはないわね……どうかしら? それなりに気を払っているし、自信があるのだけれど?」
「ああ、最高だよ、ルナ……」
確かにルナの脚は素晴らしいと夫であるクドヴァンも思っていた。貴族である彼女は脚が覗くドレスも多く持っている。自他共に美脚と認められなければ、そのようなドレスを着て社交場には行けないだろう。その脚によって愛撫されていることを思うとクドヴァンの興奮は嫌でも高まってくる。
本当は自分のモノを挟んでいるルナの太ももを愛撫したかったのだが、ルナの上半身が腕に密着しているのでできない。いや、むしろルナは狙ってそうしていた。いたずらっぽくルナが笑う。少し悔しがっているクドヴァンにルナはさらにサービスする。
ルナの石鹸にまみれているルナの右手が伸びた。その手がクドヴァンの身体を這いまわり始めた。洗うのとはまた違う、明確に愛撫をすると言う意志を持った動きだ。一撫でニ撫でした右手は、クドヴァンの胸の上で落ち着いた。そして指が彼の胸のいただきを攻め始める。
「うっ、くふっ……!」
クドヴァンの身体が跳ねた。乳首が弱い女は多いが、男でも敏感な者は多い。クドヴァンもそうだった。ルナにそこを転がされるたびにくすぐったさと同時にやけどしたところに氷を当てられたかのような快感が胸から全身へと回るのだ。
舌のようにぬるぬるとしていて、それでいて舌より硬くてはっきりとした物に転がされる快感にクドヴァンは身体を攀じる。だが身体を動かせばルナの脚に挟まれているペニスも動き、ぬるぬると擦り付けられる。にちゃにちゃと男のペニスとヴァンパイアの脚が粘着質な音を立てた。
「クドヴァン……かわいいわ」
ルナがクドヴァンに囁きかける。大の大人だと言うのにかわいいと言われる。恥ずかしい。だが気持ちいいのは止まらなかった。クドヴァンの様子にルナは笑う。そしてサービスをさらに重ねていく。ペニスを自分のふくらはぎと太ももに挟んだままルナは押さえつけるようにクドヴァンの身体に半ば乗り上げた。顔をクドヴァンの横に近づける。耳にふっと行きを吹きかけた。クドヴァンが身体をすくめる。それだけでは終わらない。ルナは舌を伸ばし、チロチロとクドヴァンの耳を舐める。
「あ、あ、ルナぁ……」
ペニスを脚に挟まれて愛され、乳首を転がされ、耳を攻められ、クドヴァンは切ない声をあげる。その様子にルナはますます悦に浸り、愛撫に熱が入った。だがあと一歩と言うところが足りない。脚による愛撫はやはり器用さに欠ける。手とは比べ物にならない、口や舌も然り。挿入時の腰の動き、足による踏みつけの愛撫と比べてもそうだ。
もう一押しをどうするか……愛撫の動きは止めないままルナは素早く頭を巡らす。
そして思いついた。ついつい、石鹸を使った愛撫に夢中になっていて忘れていた。自分が何者たるかを。
「ねぇ、クドヴァン……?」
大事な男の耳元でルナは媚びた声でささやく。
「イカせて欲しい?」
「う、あ……」
クドヴァンの口から言葉にならない声が漏れた。脚で挟まれての愛撫、胸や耳への愛撫は確かに気持ちいいのだが、射精には至らない。焦れったい気がクドヴァンにもあった。ルナに焦らされているという思いはなかったが。そこにルナにこのように尋ねられ、クドヴァンは少し戸惑った。そして選択に迷う。もう少しルナの脚の愛撫を楽しむか、このまま一息に射精に導いてもらうか……
贅沢な悩みの末、クドヴァンは口を開いた。
「イカせて欲しい……」
「ふふっ、分かったわ。それじゃあ……イッて♥」
言葉と共に、ルナは切り札を切った。クドヴァンがうめき声をあげた。
ルナの牙がクドヴァンの首に突き刺さる。彼の首もソープにぬめっていたがヴァンパイアの牙は物ともせず、的確にその肌と肉を穿っていた。血が吸い出されるのと入れ替えに魔力とそれによる快感がクドヴァンの身体に注がれる。
「うあ、あ、あ……!」
オスの種付けの本能のようなものだろうか、反射的にクドヴァンの腰がガクガクと跳ね上がる。そして腰を突き出した形で彼は射精した。挟まれた太ももとふくらはぎの間から覗くペニスの先端からスペルマが勢い良く噴き上がる。宙に放たれたスペルマはやがて重力に従って落ち、ルナの脚を汚した。
「ん、ん、んちゅ……んん♥」
顔はクドヴァンの首に埋めたままだったが、自分の脚に精液がかかるのをルナは感じた。吸血したまま、目をにぃっと細める。じわじわと、今度は肌から出された精を吸収した。愛する者が出した物と一つになる様をまざまざと見せつける。
吸血鬼に血を吸われながら、自分が出した精液すら吸収される様子をクドヴァンは見て軽く戦慄する。やはり、自分が交わっている相手は別格の存在、ヴァンパイアであるのだと。だが、その彼女と愛を交わせているのだと思うと、 もう三度も精を放ったと言うのに牡の象徴が力を取り戻す。
自分の太ももとふくらはぎに感じる熱さと硬さにルナは満足気に笑った。少し名残惜しいが、ルナは脚を伸ばして肉棒を圧迫から解放する。さらに、首筋に突き立てていた牙も離す。
「脚でイクあたり、クドヴァンも業が深いわね?」
「ルナの脚がイケナイからだよ……」
荒い息の下でクドヴァンは答える。口はまだまだ達者だ。だがまた愛撫を加えてやればまた女のように喘ぎ、その性器から屈服の証を放ってくれることだろう。そして、愛撫の引き出しはまだ残っている。
ルナは半ば乗り上げていた身体を本格的にクドヴァンの上に乗せる。そこからずるずると滑ってクドヴァンの足元へと身体を移動させた。ちょうど、腹のあたりに勃起したペニスが当たるように。ルナは身体を倒してクドヴァンの物を腹で下敷きにした。豊かな胸はクドヴァンの腹の上でぬるりと滑り、ひしゃげる。脚ははしたなくカエルのように開かれ、クドヴァンの伸ばされた脚に絡みついた。
その体勢でルナは身体を踊るかのように動かし始めた。腰が円を描くかのように動かされ、それにつられて身体も揺すられる。
ルナがクドヴァンにしていることは、石鹸の主でもあるキャンサーがよくする"全身洗い"という物だ。だがルナはそれを知らない。ただ魔物娘の本能の赴くままにしているのだ。
夜の貴族は男の身体の上で、粘液にまみれた裸体を淫らにくねらせて踊る。男の身体を洗うために、そして男の快感をふいごで吹くかのように燃え上がらせるために。
「は、う……!」
ルナの思惑通り、愛撫を始めたらクドヴァンはすぐに声を上げ始めた。ルナの柔らかな肉がペニスを刺激する。普通なら潰され、摩擦力が働いて捻られ、痛みが強いはずだ。それを快感に変えている存在はもはや言わずもがなだ。にちゃにちゃと音を立ててルナの腹とクドヴァンのペニスがこすれ合う。ときどき先端がルナのへそに嵌まった。不規則な快感を生み出す。それと同時に、ルナにも母親と言う存在がいて彼女とへその緒を通して繋がっていたことをクドヴァンの身体を震わせた。
「ダメよ、クドヴァン……これだけでイッちゃ……まだまだなのだから……」
牙を見せて笑いながら、ルナは更に身体をクドヴァンの足元へとずらしていく。ごくりとクドヴァンは喉を鳴らした。クドヴァンのペニスにルナの身体の一部が近づいてくる。豊かな胸が。
クドヴァンの期待に違わず、ルナはその双丘でクドヴァンの肉棒を挟み込んだ。牡の象徴が、牝のもう一つの象徴によって包み込まれる。
「ああ……」
クドヴァンは歓喜のため息を漏らす。ルナの胸は、身体の中でも特に柔らかくてふんわりとしていて、それでいながらクドヴァンの硬くなっているモノを押し返す弾力があり、また粘液の影響を除いてもなめらかであった。全てが極上の感触だ。そして何より、夜の貴族が娼婦のように女性の象徴たる胸で男のモノを挟み込んでいるのだ。挿入以上に官能的なヴィジョンにクドヴァンは頭がどうにかなってしまいそうだった。
ルナが胸でクドヴァンを愛撫するのはないわけではないが、少し珍しい。その貴重さがクドヴァンの心をさらに煽る。胸で奉仕する自分のヴァンパイアの姿をもっとよく見ようとクドヴァンは肘を突いて上体を少し起こした。
上目遣いでクドヴァンの反応を見ながらルナは手で自分の胸を外側から押す。それによってクドヴァンのペニスが左右から圧迫され、締め付けられた。ルナは手の力を緩め、肉棒への圧迫を解除する。そうしたかとたら再び圧迫した。ルナの柔らかな胸が彼女自身の手によってつぶれあいひしゃげあい、その間に挟まれているクドヴァンのモノがもみくちゃにされる。
「どうしたのかしら、クドヴァン? まだ圧迫しているだけなのに息が荒くなっているわよ?」
勝ち誇ったかのようにルナが言う。そう、圧迫しているだけ。それなのにどんどん高まってしまっている。クドヴァンの頬の紅潮は風呂場の温度にのぼせたのではなく、羞恥心のためだ。そして顔にも血は登っているが、股間にも血は滾っていた。
クドヴァンの様子にルナは笑いながら、次の技を繰り出す。外側に添えていた手をわずかに下に回した。その手で胸を掬い上げるかのように持ち上げる。
もちろん、クドヴァンの肉棒をきつめに挟み込んだまま。柔らかで滑らかな乳肉が竿をしごきぬく感触は名残惜しさと焦れったさも伴った快感があった。思わず腰を突き上げそうになる。
その胸が今度は下に打ち落とされた。粘液にまみれた胸の柔肉が亀頭にまとわりつく。敏感なところを攻め立てられ、クドヴァンは身体を揺らした。
「んっんっ……」
胸を揺らすのと同時にルナは身体も揺する。 体重を移動させるごとにルナの口から息が漏れた。貴族なのに胸での愛撫をしているルナが、貴族なのに一生懸命な様子のルナが愛おしい。本当のところは頭や背中をクドヴァンは撫でてやりたいくらいであった。体勢の問題でできないのだが。
「この石鹸があると胸での愛撫もやりやすいわね……クドヴァンはどう? 久しぶりの胸での愛撫は気持いいかしら?」
ペニスを間に挟んだままたぷたぷと胸を揺らしながら、ルナは訊ねる。彼女が胸を揺らすたびに粘液によってにちゃにちゃと胸が音を立てた。
「ああ、いいよ……最高だよ、ルナ……」
「あら? 最高? でもまだまだこれでは終わらないのよ?」
胸を揺らす動きを止めずに、ルナは首を傾げてみせる。クドヴァンも驚いた顔をした。今までルナにパイズリをされたことはあるのだが、全て今のように胸で扱く感じであった。まだ隠し持っている愛撫方法があるのだろうか。
クドヴァンの返事を待たず、ルナはその秘めていた技を見せる。普通であったら摩擦で痛いだけであっただろう愛撫の仕方を。
「ぬ、あ、あああ……!」
思わずクドヴァンは声をあげていた。ルナの攻めが変化している。挟んで扱いていた動きから、左右の乳房を交互に上下するように動かしたのだ。ルナの胸の谷間の中でペニスはあちこちに振り回されてしごき抜かれた。それに加え、上にくる粘液にまみれた乳房によって亀頭を撫でられる。先ほどより激しい攻めにクドヴァンは悶える。
ときどきルナは攻め手を戻し、先ほどのように圧迫する。ルナの胸の中でクドヴァンのペニスはパンパンに膨れ上がっていた。ぎゅっと左右から押さえつけられていると言うのに、今にも精を放って爆発したいとひくついている。鈴口からとろりと先走り汁が漏れ、ソープとは違う液体で亀頭を濡らした。
「うあ、ル……な……あ、あ!」
「あらあら、とうとう腰まで振っちゃったのかしら、クドヴァン?」
ルナの嘲笑の通り、クドヴァンは腰をかくかくと振っていた。肘を床についている上に膝にはルナが乗っているため動きは小さかったが、それでも確かに振られている。騎乗位で下から突き上げるかのように。
「クドヴァン、セックスではないのよ? そこに射精しても私は孕まないわ。なのに腰を振ってしまうなんて……そんなに気持ちいいの?」
自らの胸を淫らにこねくり回しながら挑発するかのように夜の貴族は言う。その目はやや焦点があっておらず、とろけている。口もだらしなく半開きになっていた。秘裂はひくついて、ソープとは異なる粘液をたらりと風呂場の床に垂らしている。
ここまでクドヴァンに直接攻められていないのにルナは濡れていた。貴族たる自分が娼婦のようにクドヴァンの身体を自分の身体を使って洗い、そして今は胸で愛撫している。その事実が彼女の精神的な興奮を煽り、本人が知らないうちに肉体的にも燃え上がらせた。
しかし今、ルナはクドヴァンと一つになっていない。性器にクドヴァンの象徴を受け入れておらず、腰を振って自ら気持ち良くなることもできない。その無意識の欲求不満は、胸の愛撫の苛烈さへと昇華される。
貴族にあるまじき下品な咀嚼音にも似た音を立てながら、ルナは自分の胸をもみくちゃにした。そのバストに挟まれているペニスが猛威に晒され、のたうちまわる。
「あ、あああ……ルナ、激しすぎ……やめ……出るから……」
「出る? 出てしまうの? 射精してしまいそう?」
クドヴァンの懇願を耳にしつつも聞くことはない。その顔には獲物を仕留めた肉食獣のような笑みが広がっている。吸血鬼の牙がギラリと光った。
「いいわよ、出して。クドヴァンのザーメン、私の胸に出しなさい。ドクドクと乳内射精しなさい……!」
夜の貴族はもはやお上品ではいられない。淫語を口にしながら左右の乳を激しく交互に揺さぶり、男の性器をいたぶる。ふんわりとした柔らかな胸で、ぎゅうぎゅうと締め付け、撫で回し、ぐちゅぐちゅともみくちゃにし、ずりずりと擦り立てる。
「あ、あ、ああああ!」
吸血鬼の胸によって男は天国へと導かれた。ルナの胸に包まれているペニスが、その中でびくびくと脈動する。
「ん……♥」
ルナの顔が恍惚にとろける。胸の谷間にどろどろとした熱いぬめりを感じた。強くペニスを挟んでいるため外からでは分からないが、自分の胸の谷間で夫が精液を吐き出しているのがルナにははっきりと分かった。
「まだ出ているわね」
乳で搾るかのように、ルナはぎゅっともう一押しクドヴァンの肉棒を圧迫する。その刺激のおかげでクドヴァンは射精の最後の瞬間までルナの極上の胸を味わうことができた。
ルナの胸にたっぷりと精液をぶちまけたクドヴァンはガクリと風呂場の床の上に身体を弛緩させた。腰砕けになっているクドヴァンに笑いながらルナは身を乗り出す。
「とても気持ちよさそうだったわね、クドヴァン。私の胸があなたのザーメンまみれでドロドロよ……ほら……♥」
クドヴァンの前でルナは胸を軽く左右に広げて見せる。彼女の言葉の通り、吸血鬼の胸の谷間は白濁液にまみれていた。高貴な魔物娘の胸をここまで汚す……その背徳感に男は打ち震える。
「でもまだまだよ。このソープを使って他にもやりたいことがあるわ」
「え、まだやるのかい?」
「ふふふ……この石鹸を使って色々して欲しいと強請ったのはクドヴァンではなくて?」
戸惑いの声をあげるクドヴァンに対してルナは笑いながら首を傾げてみせる。その顔には男を屈服させたことに対する、女としての勝者の笑顔が浮かんでいた。
ようやくクドヴァンは悟る。これは仕返しなのだと。チェスで惨敗したことに対する意趣返しなのだと。
「さあ、夜はまだ長いわよ、クドヴァン。あなたの望みどおり、この石鹸でたっぷり奉仕してあげるわ……」
そうルナは言うが、奉仕とは言葉ばかり。今のルナは罰ゲームで奉仕をする者ではなく、性的上位者で男を快楽漬けにする魔物娘であった。男であれば誰も逃れられない。
『でもいいんじゃないかな』
考えるのが面倒くさくなった。何でもいい。今はこの快楽に溺れてしまおう。
それでも、とクドヴァンは思う。クドヴァンは思う。ルナの仕返しをしようとする気持ちは本当ではあるが、夫を気持ち良くしようという気持ちも本当だ。でなければ夜の貴族がこのように娼婦のような真似をするはずがない。その振る舞いを見せるのはただ一人の男、自分の前だけ……その征服感がクドヴァンを満たす。
『ルナの言うとおり、夜はまだまだだな……』
ソープまみれの身体を絡みつけてくるルナを見ながら、クドヴァンは身体を弛緩させて夜の貴族による言葉ばかりの奉仕に身を委ねた。
「くっ……ならばキングをここに……」
「ナイトをこっちに。チェック・メイトだ」
「キーッ!」
クドヴァンの白いナイトが、ルナの黒いキングを追い詰めていた。キングに逃げ道はない。
ルナの負けであった。
冬の寒いある夜、二人は食後のチェスを楽しんでいた。今日の試合でクドヴァンの三勝〇敗。圧倒的にクドヴァンが勝っていた。
本当は二勝したところでクドヴァンは切り上げたかったのだが、ルナがもう一回とせがむので、もう一試合したのだが……この結果である。
「ルナ……ちゃんと『どっちの手の方が良い手か』を考えないと勝てないよ?」
横に置かれた最後の陶酔の果実を摘みながら、クドヴァンは笑って言った。それは分かるんだけど……とルナは呻く。
ヴァンパイアであるルナは人間だったクドヴァンより身体能力は遥かに優れるし、頭も悪くはない。しかし、チェスだけはどうしてもクドヴァンには勝てなかった。
「さて……」
陶酔の果実を飲み込んでから、クドヴァンは言う。
「君が三戦目を要求した時、負けたら何でも言うことを聞くと言ったね?」
「な、『何でも』とは言ってないわ!」
うつむいていたルナが首を急に上げて反論する。それに対してクドヴァンは敗者に反論の資格はないと言わんばかりにクックッと笑った。とは言え、そうひどいことを要求するつもりではなかった。
「じゃあ、ルナ……僕と一緒に風呂に入ってくれないか?」
「……え?」
罰ゲームの内容にルナは二重に驚いた。思った以上に軽かったこと、そしてクドヴァンが「一緒に風呂に入る」と言ったこと……
基本的に、ルナとクドヴァンは、湯浴みは別に行う。理由は、ルナは身体や髪を洗う際は召使いの魔物娘に丹念にやらせるためだ。一度一緒に入ったことがあるのだが、髪の手入れに関してはクドヴァンは不得手だったため、やはり召使に任せることになった。クドヴァンもそれに対して異を唱えなかった。
しかし、彼はどうしても今日はルナと一緒に風呂に入りたいらしい。
「どうして?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。とにかく、罰ゲームとして今日は僕と一緒にお風呂に入る事、いいね?」
彼の意思は読めなかったが……しかし悪い話ではないとルナは判断し、首を縦に振ったのだった。
「ふぅ……」
「はぁ……」
浴場に息を吐き出す声が響く。ルナとクドヴァンの物だ。
二人は今、一人どころか二人で入るにしても広すぎる浴槽の中に腰を下ろしている。浴槽にはハーブ湯が張られていた。
普段は一人でつかる風呂で、いつも一緒にいる者が横にいる……それだけで何か特別なような気が二人はした。ベッドで互いの裸は何度も見合っているのに、こうして浴場で、湯の中で見てみるとまた新鮮だ。
ルナの身体は女性らしく丸みを帯びており、肌はシミ一つなくまるで新雪のように白く、美しい。湯面からは華奢な肩と、胸元と乳房の裾野が出ており、そこが眩しかった。そしてそこから下は湯の中で揺れて見えない。それがまた彼女の肢体を連想させてそそる。
一方、クドヴァンの方も、男として見栄えのする身体をしていた。ルナと一緒に研究をしている人間のため筋骨隆々といった感じではないが、細身の身体に堅そうな筋肉がついている。
「いつ見てもいい身体をしているわね、クドヴァン……いえ、そういう意味ではなくて……」
自分が言った言葉が官能的にとられたのではないかと思い、ルナは慌てて訂正する。それに対してクドヴァンは軽く笑っただけであった。分かっている。妻を守るために身体を鍛え、慣れない刺突剣を振っていることを言ってくれているのだと。
「ルナも……きれいな身体をしている」
「ふふふ。それはエロティックな意味で言っているわよね?」
二の腕を使ってルナは胸を寄せた。湯面に浮かぶ白い双丘が互いに軽く潰れ、一本線を形成する。その谷間にクドヴァンは思わず目が吸い込まれた。と
突然、ばしゃりと湯が顔にかかった。ルナがお湯を弾いたのだった。
「ふふ、私がいくら綺麗だからって見過ぎよ、クドヴァン」
「す、すまない……」
「うぅん、いいわ……この身体はクドヴァンの物だから……」
恥じ入るクドヴァンにルナは笑ってみせる。ちょっといたずらがしたかっただけなのだ。チェスでは散々な目にあったのもあるし、この後に何かされることに対する前倒しの仕返しでもあった。
そう、ルナはある程度は予測していた。クドヴァンはただ単に自分と風呂に入りたがっているわけではないと。もし風呂に入りたがっているだけなのであれば、自分が召使に髪を洗ってもらってから一緒に入ればいい。だがクドヴァンはそれも拒否して最初からルナと一緒に風呂に入ることを望んだ。何かあるはずなのだ。多分、髪が乱れるようなことが。それが何かまでは分からないけど。
ルナは湯の中でクドヴァンの手を取った。そして頭を彼の肩に預け、頬を擦り付けた。甘えると同時に無言の催促だ。クドヴァンは軽く笑い、ルナに湯から出るように言った。どうやら湯の中でやることではないらしい。洗い場に出ると、クドヴァンが何かを棚から取り上げた。
「何かしら、それは?」
「これ? ハッチソンの石鹸だ」
ハッチソン……最近作られた、香水や石鹸を売るキャンサーを中心とする団体である。キャンサーの身体から作られる泡を加工して作られた石鹸が主力商品だ。キャンサーによって作られた石鹸らしく、洗浄能力や臭い消しにおいては、これを超す石鹸はないとすら言われている。だが彼女らの身体と魔力から作られるものゆえ生産数は決して多くはなく、かなりの高級品だ。それをクドヴァンが持っていた。
「どうしたの、それ?」
「君の姉さんからだ」
いつものおせっかいなダンピールの姉だ。ルナは苦笑した。クドヴァンもつられて笑ったが、その笑いが今度はいたずらっぽい物に変わる。
「この石鹸はルナが持っていて。で、軽く魔力を込めて。本当に軽くだよ」
「え? え、ええ……」
言われるままにルナは両手でクドヴァンから石鹸を受け取り、魔力を込める。すると石鹸から泡が溢れだし、ルナの手を包みだした。ルナもハッチソンの物ではないが、石鹸は使うことがある。だがこの石鹸から出た泡は普通の石鹸のそれとかなり違った。とてもぬめっている。ルナは泡を自分の腕に延ばしてみた。手は泡を塗り広げながらぬるぬると自分の腕を滑っていく。その感触に、プライド高い貴族でありながらも淫らな魔物娘であるルナはあることを考えつく。この手でクドヴァンのモノを扱いたらどうなるか……
そこまで考えてルナはクドヴァンが何を考えているか気づいた。この石鹸は、身体を洗らうことがメインの石鹸ではない。むしろ、性行為のための機能がメインだ。キャンサーの泡だけではなく、おそらくスライムの粘体も混じっている……そんな石鹸だ。この石鹸で、自分の身体を洗って欲しいとクドヴァンは言いたいのだろう。しかも、タオルなどではなく、ルナの身体を使って。
かすかな恥辱をルナは覚えた。分家ではあるが貴族の彼女だ。母のソワレは貧乏で使用人が一人もいない状態だったが、ルナは物心がついたころには使用人がいた。他人の身体は愚か、自分の身体も洗ったことがない。その使用人がすることをやってくれと頼まれているのだ。いや、使用人がすることを超えている。クドヴァンが頼んでいるのはもっと官能的なこと。その肢体を使って洗ってくれと言っているのだから。
しかし、恥辱を覚えつつも、ルナはどこかで期待感を持っていた。これはただ身体を洗うという行為ではなく、性行為だ。きっと洗われているうちに夫は勃起し、自分の手や身体、太ももや腹によって射精することだろう。そのことに魔物娘として、いや、女としての興味と矜持がくすぐられる。思わずルナはくちびるを舐めた。
「分かったわよ」
「僕、何も言っていないんだけど……」
「この石鹸を使って身体を洗って欲しいんでしょう? キャンサーのように」
そう言いながらルナは手を胸元に持っていった。とろりと、泡がルナの胸に落ちていく。生き物は動くものには反射的に視線を向けてしまう。クドヴァンとて例外ではない。ルナの手からソープがこぼれ、胸の膨らみに落ちてその球面を伝っていく様子を見つめてしまう。
今度はクドヴァンが苦笑を漏らす番だった。ルナの仕草に見とれてしまったこと、そして自分がやりたいことを見ぬかれたことに。
「ふふふ……」
怪しげにルナは笑いながら、自分の身体に石鹸を塗りたくった。右手が蛇のように這いまわって身体をぬるぬるにしていく。胸、腹、太もも、内股……ルナの白い肌が風呂の湯とは違う物に濡れ、妖しげな光を放った。しかも、ただ濡れているだけではない。泡が彼女の身体の一部を隠している。見えないと言うのはよりその見えていない部分の想像を掻き立て、気にさせる。何度も身体を重ね、隅々まで知り尽くしたつもりのルナの身体であるが、それでもこうしてみるとやはりその下が気になってしまう。
「ほら、クドヴァンも……」
ルナが左手に持つ石鹸からあふれる泡を掬い、クドヴァンの胸板にそれを塗り始めた。彼女にふわふわと胸を撫でられるのも嫌いではない。普段、夜明け前の交わりでベッドにてそのように愛撫されることもしばしばだ。だが今、ソープを塗られる感触はまた違った物だった。
ヴァンパイアは手早く男の身体に泡を塗っていく。かなり大雑把な塗り方である。このあと、自分の身体を使って改めて塗りたくり、洗うからだ。胸から肩、また胸へと戻ってそこから腹へ、腹から太もも、そして後回しにしていた大事なところへ。
「あうっ……!」
普段と違う感触にクドヴァンは思わず声を上げた。言葉で言えば、確かに摩擦と圧迫感による快感だ。だがその質は全く違う。
ソープを使っている事によってルナの手とクドヴァンの肉棒との摩擦力はほとんどない。よってルナの手はクドヴァンのものを握れず、ぬるぬると抜けていく。まるでうなぎが手から抜け出るように。だが、そのぬるりと擦れる感触がクドヴァンに刺激を与えていた。
ルナも、クドヴァンがいつもと違う感触に悶えているのに気付いたらしい。あとで身体で洗うからと思っていたが、そこは入念に前洗いすることにしたようだ。ソープを塗りたくった手が翻り、再びクドヴァンのモノの先端に添えられる。そこから手が下へと降りて根本まで泡が塗りたくられた。摩擦力を消す泡によって手はぬるぬると根本まで何の抵抗もなく滑っていく。
ルナの手は確かにクドヴァンのペニスに触れており、押し付けられている。それでもぬめりが過剰な力を受け流し、クドヴァンに心地よい圧迫感とぬめりの感触を伝え、快感として脳へと伝わらせた。
「あ、あ、ルナ……」
「ふふふ……どうですか、クドヴァンさん?」
ルナは左手の石鹸を置いてその腕をクドヴァンの背中に回し身体にぐっと近づける。そしていたずらっぽく自分が娼婦になったつもりで、夫をさん付けで読んでみた。迫ってきたソープに濡れている胸にクドヴァンは腕を伸ばそうとする。
「あら、ダメよクドヴァン。今日は私にこの石鹸でサービスして欲しいんでしょう? なら今日は全部任せて……」
ルナにそう言われても不満そうなクドヴァンであったが、ヴァンパイアの手がそれを封じた。手の上下運動がぐちゅぐちゅと音が立つほど激しくなっていた。ソープによって摩擦力が減らされ、亀頭から竿までスムーズに手が滑る。敏感なところを攻め立てられ、クドヴァンの言葉はうめき声に変わる。
自分の手さばきで男を封じた女は優越感に浸り、にんまりと笑う。だがそこで慢心したりなどしない。さらに追い詰める。ルナが手首をしならせる。普通だったら肉棒が雑巾のように絞り捻られ、クドヴァンは苦痛の声を上げたはずだ。だが今は摩擦力が殆ど無い。ぬるぬるとルナの手がペニスを撫で回す。
「ルナ、それ……気持ちいい……」
「そのようね、ふふふ……とろけた顔しちゃって……♥ こうするともっと気持ちいい?」
手首のスナップを効かせながらルナは手の上下運動を再開させた。ひねる動きに加えてしごく動き。それだけではない。先端でもひねるような動きをするため、ルナの手のひらが亀頭を子どもの頭を撫でるかのように這いまわるのだ。普段であれば痛いくらいの刺激が、ソープによって腰が浮くほどの快感に変わる。
クドヴァンの声が昂ってきた。射精が近い。何度も身体を重ねたルナはそれを敏感に感じ取る。ソープを使った愛撫は初めてだが、そこのところは一緒だ。
「ところでクドヴァン。この石鹸は口にしても大丈夫な物なのかしら?」
手を休めずにルナが尋ねる。ちろりと桃色の舌がくちびるを舐めた。ルナの問いにクドヴァンは頷く。ルナの目が細められた。
「そう、ならいいわ……」
何が良いのかとクドヴァンは尋ねようとしたが、できなかった。ルナが握りこみ方を変えていた。中指から小指はクドヴァンの竿を握りこんでいる。その三本の指でルナはクドヴァンの肉棒を扱いた。残る人差し指と親指はその三本の指から少し離しリングを作っている。その輪を使ってルナは亀頭を重点的に攻めた。先端、カリ首、裏筋が何度も何度も、ルナの指によって撫でられる。フィニッシュに向けての猛攻であった。
指は膣と違って熱くはなかったし硬い感触もある。だがそれでもぬめりと圧迫感、そして弱点をピンポイントで攻めてくるという点では、単純な快感で見れば甲乙つけ難かった。
「うっ……!」
クドヴァンの身体がぶるりと震える。それと同時に鈴口からソープとは違う白い粘液が溢れだした。白濁液はルナの手の甲を汚していく。それでもルナは容赦しない。クドヴァンの勃起を保つべく、ゆるやかに手を動かし続ける。その間も、まるで尿道から搾り出されるかのように精液がクドヴァンの身体からこぼれ続けた。
「ふふふ……♪」
クドヴァンの射精が収まったところでようやくルナは右手を離した。手を自分の口元に持っていく。そしてそのまま舌を伸ばして彼女は精液を舐めとった。キャンサーの泡の味が混じってしまうのが気に入らなかったが、夫の精液と言うものはそれでも味わいたいと思えるものだった。気に入らないからって捨てるだなんてもったいない。
「ん、れる、れろ……」
ちろちろとルナは自分の手を舌で清めていく。その間、ときどきクドヴァンに視線をやる。先ほど出した精液を、自分が舐めているんだと男にアピールする。手は性器から離れていたが、その視線とビジョンはクドヴァンの勃起を保ち続けた。しかし彼の理性は崩れかけていた。クドヴァンはルナに襲いかかろうとする。それをルナは自分の身体で押し止めた。
「だ・め・よ♥ 今日は私がサービスするんだから……あなたもそう望んだんでしょう?」
「う……」
チェスでは自分が勝ったと言うのに、こういう場になるとルナにやりこめられる傾向が強い。特に、一度主導権を握られてしまうと、基本的にもう取り返せない。少しクドヴァンは惨めな気分になった。
だがそれもほんの少しだけ。今回はチェスで勝って、普段できないプレイができているのだ。そして今日は全てルナに任せることが出き、自分はふんぞり返ってルナから与えられる快楽を味わっていられる。それでいいじゃないか。いや、むしろこの上ない贅沢だ。夜の貴族たるヴァンパイアのルナが、ここまでしてくれるだなんて。
ルナの身体にもたれるようにして、クドヴァンは身体の力を抜いた。
「それでいいわ、クドヴァン。私に任せて……私に委ねて……私を感じて……」
歌うように言いながらルナはクドヴァンを浴室の床にそっと押し倒した。自分も一緒に、彼の右手に身体を横にし、密着させた。泡でぬめったルナの胸、腹、脚がクドヴァンの身体に当たる。そして性器も。泡のせいで感じ取りにくいが、そこは確かに泡とは違う液体でぬめっていた。
「どう、クドヴァン? 私の身体は?」
軽く、踊るようにルナは身体をくねらせる。クドヴァンの腕にルナのぬるぬるとした身体が擦り付けられる。ペニスなどには触れられていないのに、それだけでも心地いい。
摩擦がほとんどないため、触れているルナの身体の箇所が連続的に変わる。パン生地のように柔らかい胸が押し当てられているかと思ったらぽちりと腕にしこりを感じる。また柔らかい胸を感じたかと思えば硬い胸骨が当たった。その時にルナが軽く腕に力を込めればむにゅりと双丘がクドヴァンの腕を挟み込んだ。もしこれをペニスにやられたらどうなるか……ルナに胸で愛されたことも何度もあるが、その時は唾液などで申し分ない程度に濡らした程度で、ここまでぬめりにまみれていなかった。
ルナもそれを考えたようだ。クドヴァンに身体を押し付けながらにんまりと笑う。
「もしかしてクドヴァン、この胸でペニスを挟まれたいと思ったかしら?」
「まあね……」
「ふふ、いいわ。でもまだよ。今はこうしてあげるわ……」
ルナの白い脚が伸びた。イルカのようにつるりとした脚もソープにまみれており、よりいっそう妖しげな光沢を放っている。その脚がクドヴァンの下腹部のあたりで折り曲げられた。
「ル、ルナ!?」
「うふふ……これもぬるぬるしていていいでしょう?」
クドヴァンのペニスがルナの太ももとふくらはぎに挟まれていた。意外なルナの行動にクドヴァンは戸惑いを隠せない。一方、ルナは自信満々と言った様子だ。ソープを使ったプレイはもちろん、このように太ももとふくらはぎで挟むという行為も初めてだと言うのに。
だがルナの自信は過信ではなかった。ルナと太ももとふくらはぎはみっちりと筋肉が詰まっている。だが女性らしく、ほどほどに脂も乗っていて柔らかさも備えられていた。胸や手、膣とは違う柔らかさと圧迫感を備えた部位……それが彼女の太ももとふくらはぎだった。また、ルナの肌の肌理が細かいことも外せない。
ルナが脚を緩やかに動かし始めた。動き自体は手と違って拙劣であるが、太ももとふくらはぎの筋肉による圧迫感がそれを補う。
脚だけではない。ルナの身体は未だにクドヴァンに押し当てられている。腕に当たる柔らかな感触、そして太ももに当たる、肌とは違う柔肉の感触にクドヴァンの心臓が跳ねていた。
「足で扱いたこともあったけど、膝裏で攻めたことはないわね……どうかしら? それなりに気を払っているし、自信があるのだけれど?」
「ああ、最高だよ、ルナ……」
確かにルナの脚は素晴らしいと夫であるクドヴァンも思っていた。貴族である彼女は脚が覗くドレスも多く持っている。自他共に美脚と認められなければ、そのようなドレスを着て社交場には行けないだろう。その脚によって愛撫されていることを思うとクドヴァンの興奮は嫌でも高まってくる。
本当は自分のモノを挟んでいるルナの太ももを愛撫したかったのだが、ルナの上半身が腕に密着しているのでできない。いや、むしろルナは狙ってそうしていた。いたずらっぽくルナが笑う。少し悔しがっているクドヴァンにルナはさらにサービスする。
ルナの石鹸にまみれているルナの右手が伸びた。その手がクドヴァンの身体を這いまわり始めた。洗うのとはまた違う、明確に愛撫をすると言う意志を持った動きだ。一撫でニ撫でした右手は、クドヴァンの胸の上で落ち着いた。そして指が彼の胸のいただきを攻め始める。
「うっ、くふっ……!」
クドヴァンの身体が跳ねた。乳首が弱い女は多いが、男でも敏感な者は多い。クドヴァンもそうだった。ルナにそこを転がされるたびにくすぐったさと同時にやけどしたところに氷を当てられたかのような快感が胸から全身へと回るのだ。
舌のようにぬるぬるとしていて、それでいて舌より硬くてはっきりとした物に転がされる快感にクドヴァンは身体を攀じる。だが身体を動かせばルナの脚に挟まれているペニスも動き、ぬるぬると擦り付けられる。にちゃにちゃと男のペニスとヴァンパイアの脚が粘着質な音を立てた。
「クドヴァン……かわいいわ」
ルナがクドヴァンに囁きかける。大の大人だと言うのにかわいいと言われる。恥ずかしい。だが気持ちいいのは止まらなかった。クドヴァンの様子にルナは笑う。そしてサービスをさらに重ねていく。ペニスを自分のふくらはぎと太ももに挟んだままルナは押さえつけるようにクドヴァンの身体に半ば乗り上げた。顔をクドヴァンの横に近づける。耳にふっと行きを吹きかけた。クドヴァンが身体をすくめる。それだけでは終わらない。ルナは舌を伸ばし、チロチロとクドヴァンの耳を舐める。
「あ、あ、ルナぁ……」
ペニスを脚に挟まれて愛され、乳首を転がされ、耳を攻められ、クドヴァンは切ない声をあげる。その様子にルナはますます悦に浸り、愛撫に熱が入った。だがあと一歩と言うところが足りない。脚による愛撫はやはり器用さに欠ける。手とは比べ物にならない、口や舌も然り。挿入時の腰の動き、足による踏みつけの愛撫と比べてもそうだ。
もう一押しをどうするか……愛撫の動きは止めないままルナは素早く頭を巡らす。
そして思いついた。ついつい、石鹸を使った愛撫に夢中になっていて忘れていた。自分が何者たるかを。
「ねぇ、クドヴァン……?」
大事な男の耳元でルナは媚びた声でささやく。
「イカせて欲しい?」
「う、あ……」
クドヴァンの口から言葉にならない声が漏れた。脚で挟まれての愛撫、胸や耳への愛撫は確かに気持ちいいのだが、射精には至らない。焦れったい気がクドヴァンにもあった。ルナに焦らされているという思いはなかったが。そこにルナにこのように尋ねられ、クドヴァンは少し戸惑った。そして選択に迷う。もう少しルナの脚の愛撫を楽しむか、このまま一息に射精に導いてもらうか……
贅沢な悩みの末、クドヴァンは口を開いた。
「イカせて欲しい……」
「ふふっ、分かったわ。それじゃあ……イッて♥」
言葉と共に、ルナは切り札を切った。クドヴァンがうめき声をあげた。
ルナの牙がクドヴァンの首に突き刺さる。彼の首もソープにぬめっていたがヴァンパイアの牙は物ともせず、的確にその肌と肉を穿っていた。血が吸い出されるのと入れ替えに魔力とそれによる快感がクドヴァンの身体に注がれる。
「うあ、あ、あ……!」
オスの種付けの本能のようなものだろうか、反射的にクドヴァンの腰がガクガクと跳ね上がる。そして腰を突き出した形で彼は射精した。挟まれた太ももとふくらはぎの間から覗くペニスの先端からスペルマが勢い良く噴き上がる。宙に放たれたスペルマはやがて重力に従って落ち、ルナの脚を汚した。
「ん、ん、んちゅ……んん♥」
顔はクドヴァンの首に埋めたままだったが、自分の脚に精液がかかるのをルナは感じた。吸血したまま、目をにぃっと細める。じわじわと、今度は肌から出された精を吸収した。愛する者が出した物と一つになる様をまざまざと見せつける。
吸血鬼に血を吸われながら、自分が出した精液すら吸収される様子をクドヴァンは見て軽く戦慄する。やはり、自分が交わっている相手は別格の存在、ヴァンパイアであるのだと。だが、その彼女と愛を交わせているのだと思うと、 もう三度も精を放ったと言うのに牡の象徴が力を取り戻す。
自分の太ももとふくらはぎに感じる熱さと硬さにルナは満足気に笑った。少し名残惜しいが、ルナは脚を伸ばして肉棒を圧迫から解放する。さらに、首筋に突き立てていた牙も離す。
「脚でイクあたり、クドヴァンも業が深いわね?」
「ルナの脚がイケナイからだよ……」
荒い息の下でクドヴァンは答える。口はまだまだ達者だ。だがまた愛撫を加えてやればまた女のように喘ぎ、その性器から屈服の証を放ってくれることだろう。そして、愛撫の引き出しはまだ残っている。
ルナは半ば乗り上げていた身体を本格的にクドヴァンの上に乗せる。そこからずるずると滑ってクドヴァンの足元へと身体を移動させた。ちょうど、腹のあたりに勃起したペニスが当たるように。ルナは身体を倒してクドヴァンの物を腹で下敷きにした。豊かな胸はクドヴァンの腹の上でぬるりと滑り、ひしゃげる。脚ははしたなくカエルのように開かれ、クドヴァンの伸ばされた脚に絡みついた。
その体勢でルナは身体を踊るかのように動かし始めた。腰が円を描くかのように動かされ、それにつられて身体も揺すられる。
ルナがクドヴァンにしていることは、石鹸の主でもあるキャンサーがよくする"全身洗い"という物だ。だがルナはそれを知らない。ただ魔物娘の本能の赴くままにしているのだ。
夜の貴族は男の身体の上で、粘液にまみれた裸体を淫らにくねらせて踊る。男の身体を洗うために、そして男の快感をふいごで吹くかのように燃え上がらせるために。
「は、う……!」
ルナの思惑通り、愛撫を始めたらクドヴァンはすぐに声を上げ始めた。ルナの柔らかな肉がペニスを刺激する。普通なら潰され、摩擦力が働いて捻られ、痛みが強いはずだ。それを快感に変えている存在はもはや言わずもがなだ。にちゃにちゃと音を立ててルナの腹とクドヴァンのペニスがこすれ合う。ときどき先端がルナのへそに嵌まった。不規則な快感を生み出す。それと同時に、ルナにも母親と言う存在がいて彼女とへその緒を通して繋がっていたことをクドヴァンの身体を震わせた。
「ダメよ、クドヴァン……これだけでイッちゃ……まだまだなのだから……」
牙を見せて笑いながら、ルナは更に身体をクドヴァンの足元へとずらしていく。ごくりとクドヴァンは喉を鳴らした。クドヴァンのペニスにルナの身体の一部が近づいてくる。豊かな胸が。
クドヴァンの期待に違わず、ルナはその双丘でクドヴァンの肉棒を挟み込んだ。牡の象徴が、牝のもう一つの象徴によって包み込まれる。
「ああ……」
クドヴァンは歓喜のため息を漏らす。ルナの胸は、身体の中でも特に柔らかくてふんわりとしていて、それでいながらクドヴァンの硬くなっているモノを押し返す弾力があり、また粘液の影響を除いてもなめらかであった。全てが極上の感触だ。そして何より、夜の貴族が娼婦のように女性の象徴たる胸で男のモノを挟み込んでいるのだ。挿入以上に官能的なヴィジョンにクドヴァンは頭がどうにかなってしまいそうだった。
ルナが胸でクドヴァンを愛撫するのはないわけではないが、少し珍しい。その貴重さがクドヴァンの心をさらに煽る。胸で奉仕する自分のヴァンパイアの姿をもっとよく見ようとクドヴァンは肘を突いて上体を少し起こした。
上目遣いでクドヴァンの反応を見ながらルナは手で自分の胸を外側から押す。それによってクドヴァンのペニスが左右から圧迫され、締め付けられた。ルナは手の力を緩め、肉棒への圧迫を解除する。そうしたかとたら再び圧迫した。ルナの柔らかな胸が彼女自身の手によってつぶれあいひしゃげあい、その間に挟まれているクドヴァンのモノがもみくちゃにされる。
「どうしたのかしら、クドヴァン? まだ圧迫しているだけなのに息が荒くなっているわよ?」
勝ち誇ったかのようにルナが言う。そう、圧迫しているだけ。それなのにどんどん高まってしまっている。クドヴァンの頬の紅潮は風呂場の温度にのぼせたのではなく、羞恥心のためだ。そして顔にも血は登っているが、股間にも血は滾っていた。
クドヴァンの様子にルナは笑いながら、次の技を繰り出す。外側に添えていた手をわずかに下に回した。その手で胸を掬い上げるかのように持ち上げる。
もちろん、クドヴァンの肉棒をきつめに挟み込んだまま。柔らかで滑らかな乳肉が竿をしごきぬく感触は名残惜しさと焦れったさも伴った快感があった。思わず腰を突き上げそうになる。
その胸が今度は下に打ち落とされた。粘液にまみれた胸の柔肉が亀頭にまとわりつく。敏感なところを攻め立てられ、クドヴァンは身体を揺らした。
「んっんっ……」
胸を揺らすのと同時にルナは身体も揺する。 体重を移動させるごとにルナの口から息が漏れた。貴族なのに胸での愛撫をしているルナが、貴族なのに一生懸命な様子のルナが愛おしい。本当のところは頭や背中をクドヴァンは撫でてやりたいくらいであった。体勢の問題でできないのだが。
「この石鹸があると胸での愛撫もやりやすいわね……クドヴァンはどう? 久しぶりの胸での愛撫は気持いいかしら?」
ペニスを間に挟んだままたぷたぷと胸を揺らしながら、ルナは訊ねる。彼女が胸を揺らすたびに粘液によってにちゃにちゃと胸が音を立てた。
「ああ、いいよ……最高だよ、ルナ……」
「あら? 最高? でもまだまだこれでは終わらないのよ?」
胸を揺らす動きを止めずに、ルナは首を傾げてみせる。クドヴァンも驚いた顔をした。今までルナにパイズリをされたことはあるのだが、全て今のように胸で扱く感じであった。まだ隠し持っている愛撫方法があるのだろうか。
クドヴァンの返事を待たず、ルナはその秘めていた技を見せる。普通であったら摩擦で痛いだけであっただろう愛撫の仕方を。
「ぬ、あ、あああ……!」
思わずクドヴァンは声をあげていた。ルナの攻めが変化している。挟んで扱いていた動きから、左右の乳房を交互に上下するように動かしたのだ。ルナの胸の谷間の中でペニスはあちこちに振り回されてしごき抜かれた。それに加え、上にくる粘液にまみれた乳房によって亀頭を撫でられる。先ほどより激しい攻めにクドヴァンは悶える。
ときどきルナは攻め手を戻し、先ほどのように圧迫する。ルナの胸の中でクドヴァンのペニスはパンパンに膨れ上がっていた。ぎゅっと左右から押さえつけられていると言うのに、今にも精を放って爆発したいとひくついている。鈴口からとろりと先走り汁が漏れ、ソープとは違う液体で亀頭を濡らした。
「うあ、ル……な……あ、あ!」
「あらあら、とうとう腰まで振っちゃったのかしら、クドヴァン?」
ルナの嘲笑の通り、クドヴァンは腰をかくかくと振っていた。肘を床についている上に膝にはルナが乗っているため動きは小さかったが、それでも確かに振られている。騎乗位で下から突き上げるかのように。
「クドヴァン、セックスではないのよ? そこに射精しても私は孕まないわ。なのに腰を振ってしまうなんて……そんなに気持ちいいの?」
自らの胸を淫らにこねくり回しながら挑発するかのように夜の貴族は言う。その目はやや焦点があっておらず、とろけている。口もだらしなく半開きになっていた。秘裂はひくついて、ソープとは異なる粘液をたらりと風呂場の床に垂らしている。
ここまでクドヴァンに直接攻められていないのにルナは濡れていた。貴族たる自分が娼婦のようにクドヴァンの身体を自分の身体を使って洗い、そして今は胸で愛撫している。その事実が彼女の精神的な興奮を煽り、本人が知らないうちに肉体的にも燃え上がらせた。
しかし今、ルナはクドヴァンと一つになっていない。性器にクドヴァンの象徴を受け入れておらず、腰を振って自ら気持ち良くなることもできない。その無意識の欲求不満は、胸の愛撫の苛烈さへと昇華される。
貴族にあるまじき下品な咀嚼音にも似た音を立てながら、ルナは自分の胸をもみくちゃにした。そのバストに挟まれているペニスが猛威に晒され、のたうちまわる。
「あ、あああ……ルナ、激しすぎ……やめ……出るから……」
「出る? 出てしまうの? 射精してしまいそう?」
クドヴァンの懇願を耳にしつつも聞くことはない。その顔には獲物を仕留めた肉食獣のような笑みが広がっている。吸血鬼の牙がギラリと光った。
「いいわよ、出して。クドヴァンのザーメン、私の胸に出しなさい。ドクドクと乳内射精しなさい……!」
夜の貴族はもはやお上品ではいられない。淫語を口にしながら左右の乳を激しく交互に揺さぶり、男の性器をいたぶる。ふんわりとした柔らかな胸で、ぎゅうぎゅうと締め付け、撫で回し、ぐちゅぐちゅともみくちゃにし、ずりずりと擦り立てる。
「あ、あ、ああああ!」
吸血鬼の胸によって男は天国へと導かれた。ルナの胸に包まれているペニスが、その中でびくびくと脈動する。
「ん……♥」
ルナの顔が恍惚にとろける。胸の谷間にどろどろとした熱いぬめりを感じた。強くペニスを挟んでいるため外からでは分からないが、自分の胸の谷間で夫が精液を吐き出しているのがルナにははっきりと分かった。
「まだ出ているわね」
乳で搾るかのように、ルナはぎゅっともう一押しクドヴァンの肉棒を圧迫する。その刺激のおかげでクドヴァンは射精の最後の瞬間までルナの極上の胸を味わうことができた。
ルナの胸にたっぷりと精液をぶちまけたクドヴァンはガクリと風呂場の床の上に身体を弛緩させた。腰砕けになっているクドヴァンに笑いながらルナは身を乗り出す。
「とても気持ちよさそうだったわね、クドヴァン。私の胸があなたのザーメンまみれでドロドロよ……ほら……♥」
クドヴァンの前でルナは胸を軽く左右に広げて見せる。彼女の言葉の通り、吸血鬼の胸の谷間は白濁液にまみれていた。高貴な魔物娘の胸をここまで汚す……その背徳感に男は打ち震える。
「でもまだまだよ。このソープを使って他にもやりたいことがあるわ」
「え、まだやるのかい?」
「ふふふ……この石鹸を使って色々して欲しいと強請ったのはクドヴァンではなくて?」
戸惑いの声をあげるクドヴァンに対してルナは笑いながら首を傾げてみせる。その顔には男を屈服させたことに対する、女としての勝者の笑顔が浮かんでいた。
ようやくクドヴァンは悟る。これは仕返しなのだと。チェスで惨敗したことに対する意趣返しなのだと。
「さあ、夜はまだ長いわよ、クドヴァン。あなたの望みどおり、この石鹸でたっぷり奉仕してあげるわ……」
そうルナは言うが、奉仕とは言葉ばかり。今のルナは罰ゲームで奉仕をする者ではなく、性的上位者で男を快楽漬けにする魔物娘であった。男であれば誰も逃れられない。
『でもいいんじゃないかな』
考えるのが面倒くさくなった。何でもいい。今はこの快楽に溺れてしまおう。
それでも、とクドヴァンは思う。クドヴァンは思う。ルナの仕返しをしようとする気持ちは本当ではあるが、夫を気持ち良くしようという気持ちも本当だ。でなければ夜の貴族がこのように娼婦のような真似をするはずがない。その振る舞いを見せるのはただ一人の男、自分の前だけ……その征服感がクドヴァンを満たす。
『ルナの言うとおり、夜はまだまだだな……』
ソープまみれの身体を絡みつけてくるルナを見ながら、クドヴァンは身体を弛緩させて夜の貴族による言葉ばかりの奉仕に身を委ねた。
14/02/23 19:38更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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