連載小説
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前編
「退屈すぎる。私は出て行く」
「ちょ、フリーダ何を言って……」
 同族の仲間の止める声も聞かず、ジャバウォックのフリーダは丘にめり込んだ岩に拳を叩きつけた。岩が崩れ落ち、神秘的な青色の光を放つ洞窟が現れる。満足そうにフリーダの紫色の尾が揺れた。
 ジャバウォックは不思議の国固有のドラゴンだ。肉体、知能、魔力、どれをとっても原種にひけをとらず、不思議の国の番人を務めている。だがこのフリーダは今、その任務を放棄して外に飛び出そうとしていた。
 今フリーダを止めている同族がいる通り、ジャバウォックは他にもたくさん不思議の国に生息している。故に彼女一人が任務を放棄したところで問題はないのだが、さすがに異世界に飛び出すとなるとさすがに仲間は不安があるようだ。
 しかし、フリーダの決意は固そうである。長いオールドローズ色の髪をかきあげ、豊満な胸を揺らして彼女は笑ってみせる。
「ここで待っていたらこの淫らな身体を振るうこともない。ならばこちらから打って出る。それだけだ」
「……まあ、好きにするといいわ」
 一度は止めたが、男と交わること以外にあまり興味を持たないのが魔物娘だ。フリーダを引き留めようとしていたジャバウォックは肩を竦めた。
「安心しろ。すぐに私にふさわしい婿を見つけて戻ってきてみせる。それじゃあな」
 フリーダはひとつ笑いを浮かべ、そして青色の洞窟に身を踊らせた。もういない彼女にいってらっしゃいと残されたジャバウォックはつぶやく。続けて不安そうに呟いた。
「ところでこのワープルート……女王様が作る正規のルートじゃないとどこに出るかランダムなんだけど、大丈夫かしら? 帰るのは簡単だけど……」



「ぬおっ!?」
 素っ頓狂な声をフリーダは上げる。ワープルートを通って放り出された所は空の上。さすがの彼女も驚いた。だが幸い彼女はドラゴン族だ。空中で身体をひねり、その大きな翼を羽ばたかせて飛翔する。
 空中でホバリングしながら彼女は下を見下ろした。どうやらここは山岳地帯のようだ。見渡すかぎり山脈が続いている。多くは緑に包まれているが一部は硬そうな岩肌が崖を作ってむきだしになっていた。そして彼女はその山脈の中でもっとも高い山の頂上近くに街があるのを捕らえる。
「こんな山の中の田舎にいい男がいるかどうか怪しいが……行ってみるか」
 空中で一度宙返りを打ち、フリーダはその村に降下した。


「親方ー! 空から女の子がー!」
「何をバカなことを言って……おお、本当だな! と言うかアレ、ドラゴンじゃないのか?」
 山岳地帯の村、ベルクオロスにて。空を見上げた大工と棟梁の叫ぶ。彼らの声を聞いてあちこちから村人が集まってくる。
 その村の開けた場所に、フリーダは着地した。着地したフリーダは村人を挑戦的な目で見渡す。大工農夫肉屋魚屋鍛冶屋などの男が多い。そのそばには彼らの妻だろうか。ラージマウスやワーラビット、ハーピーなど山岳の森林を住処とする魔物娘が好奇心が半分、不信感が半分と言った感じで見ている。
 職業や種族などに貴賎はないと言われるが、このジャバウォックはそうは考えない。自分より明らかに格下に見える男や種族に、フリーダは鼻を鳴らした。
 わざわざ不思議の国から出張って来たが、期待外れだ。しかしこの村だけがこの世界のすべてではないだろう。ならばすぐにここを発って別の街に行こう。そう考えて羽ばたこうとした時、フリーダの後ろでざわめきが起こった。
 振り向いてみると、群衆が左右に開けた。その中から現れたのは、黒いブリガンダインで身を固め手に長槍を持った男と、竜の翼と尾を持った魔物娘だ。その翼は背中からではなく、腕から広がっている。
『ワイバーンとその竜騎士……か』
 目を細めてフリーダは二人を値踏みする。男は齢三十くらいに見えた。若さは成りを潜め、代わりに円熟さが出ている。なかなかいい男ではないかとフリーダは唸った。
 しかし、その相手の女がワイバーンと言うのは気に入らない。ワイバーンもやはりれっきとしたドラゴン種でありスピードはトップクラスであるが、やはり原種らと比べると格としては見劣る。ましてや今彼女を見ているのは不思議の国を出たばかりの高慢なジャバウォックだ。
『ちょっと遊んでやるか……それで男が私にふさわしくて、そこの飛竜がつまらなかったら……私にも"食べさせて"もらおうか。見せてやろう。私がすべてを圧倒する淫らな竜であることを……』
 挑戦的な考えをフリーダは胸に抱く。そのフリーダに男が声をかけた。
「どうも、魔物娘のお嬢さん。こんな山奥の村にようこそ。俺はこのベルクオロスの守り手、竜騎士のジェイクだ。観光と婿探しなら歓迎するぜ」
 観光と婿探しなら。その「なら」の部分をジェイクは強調した。つまり、そうでないなら……この村に来た目的が略奪などであった場合は、魔物娘であっても容赦しない。そう彼は言っていた。フリーダは不敵な笑みを浮かべる。この様子なら喧嘩をふっかけるのも難しくなさそうだ。
「そうだな、婿探しのためにこの田舎にたまたま寄った。田舎臭くてあんまりいい男もいないなと思っていたけど……アンタはちょっといいかもね」
「ちょっと! 彼はあたしのよ! 横盗りは許さないわ!」
 ジェイクが口を開くより先に横のワイバーンが彼をかばうように腕と翼を広げた。後ろにいるジェイクもジャバウォックのあまりの言い様にかすかに眉を寄せている。彼らは、フリーダの言葉が挑発であることは分かっていた。だがそれでも不快な物は不快なようだ。
 自分が望む展開になっているなとフリーダはほくそ笑んだ。この状況をさらに加速させるため、フリーダはさらに挑発する。
「さぁ、どうかな。私はジャバウォック。他を圧倒する淫らで強大な存在。そんなワイバーンより絶対私の方がいいぞ。強さでも、床の上でも、な」
 流れるようなオールドローズ色の髪、眩く丸い胸の膨らみ、つやつやとした褐色の肌、妖しげな暗紫色の翼や尾、それらの身体を強調する薄い布地の服、鋭くも魅惑的な目を持った整っている顔立ち……彼女が自信を持っている通り、すれ違えばどの男も振り返り、彼女に欲情を抱くであろう。だが
「……客人、あまり妻のサラをバカにしないでいただきたい」
 押し殺した声でジェイクが警告する。村に害をなしていなくても、これ以上言うようであれば私闘に及ぶことも辞さないと、その声がその目が言っていた。同じ目をサラがフリーダに向ける。
 もうひと押し。フリーダは牙をむき出しにして笑いながら挑発した。
「言われて悔しいならかかってくれば? 群れないと何もできないひ弱人間と飛トカゲが」
「「……!」」
 瞬時に二人の目が燃え上がったかのようだった。ジェイクはサラの肩を掴んでヒラリと飛んだ。ほぼ同時にサラの身体が光りを放つ。目配せも合図も何もないのに息の合った行動だった。それから間もなく、前魔王時代の姿となったワイバーンに跨った竜騎士が空を飛び、ジャバウォックを見下ろしていた。ワイバーンの緑の身体に赤い手綱が映えている。
 狙い通りの展開だ。満足気に笑ったフリーダは手を緩やかに開き、無造作に構えた。
「おー、見ものだぞ!」
「けど近いと危ないぞ」
「避難避難……!」
 周囲の取り巻きが、潮が引くかのようにその場から去る。だがあくまで危なくない位置に避難しただけ。離れた所や家の窓、屋根の上などあらゆるところから、突然の来訪者と村の守り手の戦いを奇術のショーでも見るかのように目を輝かせて見守った。
「ハッ……!」
 先手を打ったのはジェイク達であった。空中から何のモーションもなく急降下し、ジャバウォックに向かって槍を突き出す。後ろに跳んでフリーダはそれを躱した。ジェイクの槍は空を切り、急降下したサラは大地に足をついた。土埃が舞い起こる。
 だがこれで終わりではなかった。飛竜が足を使って大地を蹴り、フリーダに向かって滑空しながら突進する。彼女の背に乗るジェイクはいつの間にか武器をスピアからショートアックスに持ち替えている。
「せやああぁ!」
「ぐっ……!」
 予期しなかった二段攻撃をフリーダは躱すことができなかった。手をクロスさせ、ガードの姿勢を取る。ゴッ……手斧がジャバウォックの手に叩きつけられる。強靭なドラゴン種の甲殻によって守られていたため致命打にはならなかったが、それでも確かに当たった。手から走る鈍い痛みにフリーダは顔をしかめる。だが、感じたのは痛みだけではない。そこから甘い熱が毒のように広がり、全身を火照らせたのだ。
『まさか、あの武器……魔界鉄?』
 魔界銀が含まれた武器は、攻撃を加えた者の身体を傷つけてて流血させることはない。血の代わりに精や魔力を流出させる。人間の女であればそれによって魔物化してしまうだろう。魔物娘は魔物化などはしないし、多少は精や魔力を失っても問題はないが……魔界銀のもう一つの効果は避けることができない。発情の効果だ。
『く……ふふふ、わざわざ私のアソコを濡れさせるとは……いいだろうこの後が楽しみだ!』
 魔界鉄の効果に、そして思わぬオープニングヒットにフリーダの気分が高揚する。右足と拳を引き、フリーダは構え直した。
「デヤッ!」
 二度目の急降下攻撃。これを迎撃すべくフリーダは脇を閉めて膝を軽く曲げ、ワイバーンの腹部を目掛けてアッパーカットを放とうとする。だがその時、警鐘が彼女の内に鳴り響いた。従って動きを止め、上体を反らす。
「くおっ!」
 自分の鼻先をワイバーンの尾がかすめていった。最後まで急降下することなく、騎竜は宙返りを打ったのだ。その尾でフリーダの顎を撃ちぬくつもりだったらしい。そのままアッパーを打っていたらカウンターを食らっていただろう。いかに頑強なジャバウォックでも、そのダメージは大きい。
『あぶないあぶない……そして次か……!』
 躱して安心している場合ではない。フリーダの前でサラが今度は身体を旋回させる。その勢いに乗せてジェイクが槍を真横に振り抜いた。かがんでフリーダはそれをやり過ごす。そして立ち上がる勢いも加えて地上で宙返りを打った。彼女の足が、空中にいるサラの腹を蹴り抜こうとする。
 しかし、フリーダの一撃は虚しく空を切った。サラとジェイクは背中を向けて一目散にフリーダから離れて間合いを取っていた。
「サラ……!」
「ゴアアアアッ!」
 ジェイクの呼びかけに咆哮で応え、二人は高度を上げる。その高さおよそ10ヤード。普通の人間や魔物では攻撃が届かないだろう。だが
「それで逃げたつもりか?」
 仁王立ちしたフリーダがカッと口を開く。開かれた口からは桃色の光があふれていた。その口に溜められていたエネルギーが放たれる。
「くっ……!」
「……!」
 横に転がるようにしてサラとジェイクはそれを躱した。二人がいた空間を桃色の炎が通り過ぎていった。フリーダが放ったのはピンク・ブレス。受けた者の心と身体を情欲に焦がす、ジャバウォックならではのブレスだ。物理的に身体を焼くわけではないが、受ければ情欲で戦闘続行は不可能であろう。それまで一方的に攻撃していたジェイクとサラに緊張が走る。
「ふっ、私の初撃を躱したか……はあぁっ!」
 二度目のブレスが放たれる。二度目ともなると余裕を持って二人は避けた。そう来なくてはとフリーダは笑う。
 両拳を腰のあたりにフリーダは引いた。その彼女の腕と脇腹の間を縫うようにして何かがにゅっと伸びる。彼女の腰から生えているそれの先端がガバっと開いた。中には歯が生えそろっており、舌が覗いている。
 夫となる男の全身をくまなく舐め回すための副口だ。舐め回すことがメインの役割であるが、もちろんこの口からもブレスを放つことができる。
「っはぁああ!」
 三つの口から桃色の火炎弾が放たれる。さすがに三つとなると避けるのは厳しいようだった。二つは躱したが、三つ目の火炎弾が二人の正面に迫る。
「きしゃああああっ!」
 間一髪、旧世代の姿をしているサラが口から氷のブレスを吐き出して火炎弾を相殺する。
「ほう、それもなんとかしたか……」
 意外そうな声の中にもねっとりとした嘲笑が混じっている。最初こそ虚を突かれて攻めこまれていたフリーダだったが、ペースを取り戻しつつあった。肩から力が抜ける。
「きしゃあああああっ!」
 サラが再び氷のブレスを吐く。細かい氷の刃の吐息が吹雪のようにフリーダに浴びせられる。
「手数勝負か? いやぁああああ!」
 フリーダが力強く背中の翼を羽ばたかせ、その吹雪を自分から反らせる。さらに、副口からピンク・ブレスを放つ。
「……!」
 ブレス攻撃を中断してサラはとんぼ返りを打つ。彼女がいた空間を桃色の火炎弾が焦がした。
 再びジャバウォックと、竜騎士と騎竜は対峙する。
 フリーダはどっしりと腰を据え、かかってくるジェイクとサラに対応するべく身構えている。機動性では自分が劣っていることは彼女も認めざるを得なかった。だから、自分からは仕掛けずに待つ。接触の機会を待ち、一撃で勝負を決める算段なのだ。
 一方、悠々とフリーダの周囲を旋回して見せているジェイクとサラだが、内心は焦燥していた。勢い良く突撃して敵を撫で斬りにして打ち倒すのができないなら、機動性をもってヒット・アンド・アウェイの攻撃をするのが自分たちの戦い方だ。だが相手もそれを理解して、こっちの攻撃を待っている。こうなるとウカツに手を出せない。さっきは奇襲で上手く攻撃が通ったが、今のフリーダの手数を見ると次もうまくいく保証はない。そしてその攻撃を一発でも受けたら終わりも同然なのだ。
 だが、かと言って手をこまねいているわけにもいかない。
「行くぞ、サラ……!」
「ゴアアアアっ!」
 三度目の急降下攻撃。牽制にフリーダは火炎弾を放つが、わずかに軌道を変えることでサラはこれを躱した。あっという間に竜騎士らはジャバウォックとの間合いを詰める。
「はいっ!」
 ジェイクが槍を突き出した。フリーダはそれを左手で払い、サラの顎を狙ってストレートを放つ。だがフリーダが拳を伸ばした時には二人の姿はそこにはなく、横に飛んでいた。
「セヤッ!」
 再びジェイクが槍を突き出す。これは手では捌けない。フリーダは翼をはためかせてその軌道をそらす。ジェイクたちの方に向き直りながらフリーダは跳び回し蹴りを放つ。だがそのときにはもうサラとジェイクはそこにいない。
「はぁああ!」
 三度目の槍撃。これをフリーダは足で捌く。さらに逆の足の後ろ回し蹴りでサラ達を強襲した。一度後ろに離れて竜騎士達はそれを躱す。しかしそれもほんの一瞬。再び二人はフリーダに詰め寄り、槍撃を繰り出す。今度の狙いは肩だ。半身になってフリーダはそれを躱す。だがそれで終わりではなかった。槍はすぐに引き戻され、今度はフリーダの腹を突いた。
「あがっ……!」
 身体を逸らして避けようとしたが、躱しきれなかった。直撃こそしなかったものの、魔界鉄の穂先がフリーダの腹を切りかすめていた。魔力が抜ける感覚と、快楽の混じった魔界鉄ならではの痛みが腹から全身へと回る。
「おああああああっ!」
 副口からピンク・ブレスを二発放つ。だがその攻撃はまたもや空を切る。避けたジェイクがさらに槍撃を繰り出す。それをフリーダは捌き、反撃する。
 フリーダを中心にジェイクとサラは旋回して小技をコツコツと当てる。フリーダの身体に攻撃が積み重ねられていた。魔界鉄ゆえに身体に傷は残らないが、魔力と精の漏出、快感は彼女の身体を蝕んでいく。フリーダも反撃を試みているが、二人は速すぎて攻撃が当たらない。
「このぉおおお!」
 焦ったフリーダは二段回し蹴りを放つ。大振りでかつ一度見た技を見逃すサラではない。ワイバーンはそれを、高度を上げて躱した。そして強靭な足でフリーダを蹴りつける。如何に強力な魔物であるジャバウォックでも、攻撃の最中に大きな衝撃を受けると身体の平衡を保つのは至難の業だ。回し蹴りで片足立ち状態だったフリーダは大地に叩きつけられる。
「ゴアアアアっ!」
 地面に転がったフリーダにサラが追い打ちの火炎弾を吐きかける。フリーダは転がってそれを躱した。二発、三発、サラが追撃する。それも転がって躱したフリーダだったが。
「うっ……!」
 背中に痛みと快感が走る。転がって見てみると、彼女がいた空間に手槍が突き立っていた。ジェイクが投げたものだった。どうやらそれが背中をかすめたらしい。サラのブレス攻撃を避けることに意識をとられすぎ、そちらまで注意が向かなかった。
 しかしそれに驚いている暇はない。この間にもサラのブレスが浴びせかけられている。このままではまずい。サラのブレスを一方的に受けている上に、それを避けてもジェイクがさらに手槍を投げつけてくる。
「ぬぅうう!」
 首を支点に跳ね起き、さらに右アッパーを放つ。ここで初めてフリーダの攻撃が当たった。アッパーが胸にヒットする。苦痛の呻きを上げながらワイバーンはたまらず後退した。
 嵐のような連撃が収まる。フリーダは構え直した。サラとジェイクも旋回を止め、その場でホバリングしてフリーダに対峙する。
『……私の攻撃が当たった……あいつら、私が完全に受けに回っていたから慢心していたのもあるけど……これは……』
 追撃を止めているサラとジェイクの様子を見てフリーダの口がニヤリと笑みを作った。見抜いたのだ。高速旋回とその間の攻撃、一発でもクリーンヒットすればアウトなジャバウォックの攻撃の回避、そして今のラッシュ。それらは彼らの体力と集中力を着実に消耗させていた。一方的に攻撃して有利に戦いを運んでいた彼らとて、代償はあったのだ。
「サラ……もうアイツにはバレている。なら……アレで行くぞ」
「……!」
 ジェイクが相棒に話しかけている。サラは返事をしないが、おそらくテレパシーか何かを使っているのだろう。その内容はフリーダには分からない。
「……大丈夫だ。俺を信用しろ」
 竜騎士はぽんぽんと騎竜の首を叩く。その言葉で心を決めたか、ワイバーンは鼻息を鳴らし、鋭い目で戦いの相手を見据えた。
「何を作戦立てたか分からないけど……潰させてもらう」
 フリーダは構え直し、挑発するように手招きする。その挑発に乗るようにして竜騎士達は軽く飛び上がり、そして急降下攻撃を仕掛けてきた。最初に見せたところからも、やはり竜騎士の一番得意な攻撃のようだ。そして最後の一撃として、切り札としてこの攻撃をしてきたらしい。しかし勢いはあるように見えても動きは鈍く、彼らが消耗していたことを表している。
「はあああああっ!」
 背中を向けるほどフリーダは身体をひねり、その体勢から跳び上がって上段回し蹴りを繰り出した。旋風脚だ。さすがに跳んで蹴りを放つことを二人は考えていなかったらしい。その蹴りはサラの脚に直撃する。
「ぎゃあああああ!」
「ぬわああああ!」
 強烈な蹴りを受けて、騎竜は激痛の咆哮を上げながら空中で回転する。その勢いで竜騎士も空中に放りだされた。手を離れたスピアが宙を舞う。本当は顎か胸や腹を狙ったのだが、これで大きな隙ができた。
「やはりその程度! とどめだーッ!」
 口を大きく開いた。渾身のブレス攻撃をジャバウォックはワイバーンに叩き込もうとする。
「ああああああああっ!」
 情欲に染まりきった絶叫がベルクオロスに響き渡った。しかしその声を上げたのはサラではない。フリーダだった。空を仰ぎ、強烈な快感でガクガクと身体が痙攣させている。
「あ、が……」
 震えながらフリーダは首を後ろにひねった。その後ろには、手斧を構えたジェイクが立っていた。この魔界鉄のトマホークで斬りつけられたらしい。快感の度合いからしてかなり強力な一撃を加えられたようだ。
 何が起きたのか、混乱した頭でフリーダは考える。こいつは自分の蹴りで騎竜から勢い良く振り落とされたはずだ……なのになぜ、図ったかのように私の後ろに立って奇襲をかけてきたのか……いや、本当に図ったのではないか。蹴りを脚で受けたのもわざとで、標的を二つに分散し、そして奇襲攻撃を仕掛けるのは全て彼らの戦略だったのでは……!?
「う、うおおおおおっ!」
 ボディーブローがジェイクに向かって放たれた。恐るべきはジャバウォックの体力と魔力か、まだ動こうとする。フリーダとジェイクの距離はわずか3フィート。直撃は必至かと思われた。しかし
「やあっ!」
「ぐおっ!?」
 フリーダの背後から鋭い声が聞こえ、同時に後頭部にものすごい衝撃が走った。今度は純粋な痛みだ。前につんのめりながら、背後から奇襲をかけてきた者をフリーダは睨む。そこにいたのは、旧代の姿から戻ったサラだ。
 熱り立ったフリーダはサラに襲いかかろうとする。しかしそれより先にジェイクがフリーダの背中を目掛けてトマホークを振り下ろした。魔界鉄の刃がフリーダの身体を通り抜け、魔力が失われる。
「このぉおお!」
 フリーダは裏拳をジェイクに放とうとしたが、サラの攻撃がそれを阻む。よろけたフリーダにさらにトマホークの斬撃がジェイクから繰り出された。
 片方に攻撃しようとしたらもう片方がかばうように攻撃する。もう片方を攻撃しようとすると逆の相方が。二匹の蛇のように竜騎士と騎竜はジャバウォックに執拗にからみつき、攻撃を加えていく。
 どちらか一方だけを相手にしたのであれば、フリーダの方が圧倒的に強かっただろう。だが相手は二人。しかもただ数が増えただけではなく互いに守り合い互いに攻め合う、息の合ったコンビネーションを繰り出す相手だ。反撃も捌くこともできない。二人の連携攻撃をフリーダは為す術もなく受け続ける。
「イヤーッ!」
 サラの方を向いていたフリーダの背中に、ジェイクがショートスピアを突き刺す。正確無比の片手突きは心臓を的確に捕らえ、胸を貫いた。このショートスピアが本物の鋼鉄であったら、フリーダの命はなかっただろう。だがこのショートスピアは魔界鉄製。傷口から魔力と精を奪い、代わりに武器の魔力を身体に送り込む物。武器からの魔力がフリーダの心臓から全身へと回る。
「ふあああああああっ!」
 淫らな絶叫がフリーダの口からほとばしる。それと同時にぶしゃっと破裂音が彼女の下半身から響いた。フリーダの足元のベルクオロスの大地が濡れる。魔界鉄の効果によって絶頂して緩みきった身体が、潮や尿などの体液を吹き出したのだった。
「あ、あ、あああ……」
 盛大なアクメを迎えたジャバウォックは、ベルクオロスの大地にドウと倒れた。村中から村の守り手の勝利を喜ぶ歓声が上がる。ここに竜騎士と騎竜、それに対峙した桃色のドラゴンの私闘に決着がついたのであった。
14/02/02 18:48更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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■作者メッセージ
はい、そんな訳でジャバウォックSS……と思ったらワイバーンがメインになったSSでした。
いやぁ、始めは不思議の国でジャバウォックと勇者が出会って……なんてオーソドックスなSSを書いてなんて思っていたのですが、それだと私が書くと普通のドラゴンと変わらないかもなと迷いまして……
そうして考えたのが、まさかのジャバウォックが外に飛び出すと言う展開でした。
でも飛び出したはいいけど、それからどうするんだと考えていたら……ジャバウォックがメインじゃなくなってしまいました、ナムサン!
しかも、こんなジャバウォックとタイマン張って戦える相手が、ヴァンパイアのルナか、そしてこのジェイクとサラでした。
そんなわけでこの二人のバトルだったわけですが、いかがだったでしょうか?
なんかフリーダがちょっと嫌な性格になっちまった……
そして何より……普通の剣士や格闘家、魔法使いのバトルなら自分で身体を動かしてみたりして執筆するのですが、騎兵とか騎竜とか、そんなもの全然想像できなくて苦戦したんだじぇ……

さて、次はエロシーンです! 夫婦のラヴラヴパゥワーを全力で見せつけます!
頑張りまする……

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