喧嘩後の孤独
「なんだってのよ、バカッ!」
ドスンと私はベッドに倒れ込んで叫んだ。
ついさっき、私は恋人と喧嘩をした。
いや、喧嘩とも言えないかもしれない。
私が文句を言ったら彼が怒りだし、無言で同棲しているアパートから出ていったと言うのが正しいだろう。
二人で住んでいる部屋には今、私一人しかいない。
私の叫び声はガランとした部屋に虚しく響いた。
「まったく訳が分からないわ……ふん、もう知らないっ! いたっ、いたたっ! ちょ、やめてっ!」
突然、私は一人で痛みの声をあげ、制止の声をあげる。
部屋に一人いる私が今、話しかけた相手……それは私の身体の一部、髪の蛇だ。
私たちメデューサの髪は途中から蛇になっており、本体の私たちと意識を共有しながらも自由に行動ができる。
その蛇は意地っ張りで素直じゃないメデューサとは逆に、素直な感情を表す。
髪の蛇は私達メデューサの本心を写す鏡なのだ。
その蛇が私を批難するかのように、ガブガブと私自身に噛み付いていた。
つまり自分自身を責め、咎めている。
そう、彼のことをもう知らないと私は言っているが、本当は分かっているのだ。
自分が素直じゃないことがどれだけ愚かなのかを、そして、今回の喧嘩の原因は私にあることを……
彼は残業で帰宅が遅くなることが多い。
今日はとりわけひどく、へとへとになりながらも彼は仕事を終え、終電ぎりぎりで帰宅した。
彼の帰宅が遅いのは仕事だから仕方がないのは私も分かっているが、寂しいものは寂しい。
帰ってくるなり私は彼に文句を言った。
彼が帰って来てくれたことの嬉しさの裏返しでもあるのだが、可愛さあまって憎さ百倍と言ったところだろうか、私は彼にいろいろとまくし立てた。
だが、次の言葉はまずかった。
「他の女と遊んでいるんじゃないでしょうね?」
今、冷静に考えてみれば、どうしてこんなことを言ったのか自分でも分からない。
彼は誠実で恋人である私に優しい、浮気などする人間ではないことは私自身がよく知っている。
ラミア種ならではの嫉妬深さや彼がいない間の寂しさや不安感がいなまぜになって口を突いた言葉なのかもしれない。
だが言った理由は何にせよ、一生懸命遅くまで仕事して疲れて帰ってきたところにあらぬ疑いを威圧的な言葉でかけられたので、さすがの彼も堪忍袋の尾が切れたのだろう。
無言で彼は荷物を軽くまとめて今まで持っていたビジネスバッグに詰め、部屋から出ていこうとした。
「ちょっと……!」
突然の彼の行動に驚き、ペトラアイズ(石化の瞳)で彼を拘束しようとした私だが、振り向いた彼の目を見てウッと言葉に詰まった。
彼の目はペトラアイズなんかより遥かに冷たく、そして怒りに満ちていた。
魔力も何もない目なのに、私は思わず固まってしまった。
固まっている私を尻目に彼はそのまま部屋を出ていった。
これがつい先程の出来事だ。
「う、うぅう……」
先程の出来事を整理して思い出し、なんてことをしてしまったんだとベッドの上で私は頭を抱えた。
頭の蛇も今は落ち込んでいてへにゃりと力なくうなだれている。
本当は彼に「おかえり」と優しい言葉をかけたかった。
疲れきっていた彼を慰めたかった。
彼がぐっすりと眠れるように、自分の身体で包んであげたかった。
この部屋は彼が安らげる場所であり、そして私が待っている場所にしておきたかった。
「なのにどうしてあんなことを言っちゃうのよぉ、私ぃ……!」
まったくだと言わんばかりにこつんと蛇の頭が私のこめかみをつついた。
なぜあんなことを言ってしまったのか……メデューサならではの気性と、抑圧されていた私の欲が、私にあんな態度を取らせたのかもしれない。
あれこれ彼にしてあげたいという欲もあるが、我侭な欲と言うものも私にはある。
彼にギュッと抱きしめてもらいたかった。
寂しい思いをした事について一言でも謝って欲しかった。
そして……彼に抱かれたかった。
待っている間に燃え盛っていた情欲の炎をなんとかして欲しかった。
「ひどい、ひどいよぅ……私の身体、こんなになっているのにぃ……!」
身体を掻き抱いて私はベッドの上に転がる。
呆れることに、彼と喧嘩したという状態なのに、私の身体は発情したままであった。
身体は火照り、乳首はブラの中で硬く尖り、その奥の心臓はどくどくと早鐘を打っており、そして大事なところは少しでも指で開いたら粘液がこぼれそうな程に潤んでいる。
「はあっ……ん、はぅ……」
一人でに手が胸に伸び、ブラウスの上から揉みしだく。
それではすぐに物足りなくなり、ブラウスの裾から手をいれてブラジャーを退かし、乳首を転がしながら直接触った。
胸から電気が走ったような快感が全身に流れ、私は身体を震わせた。
「ん、あんっ! はぅ、んん!」
声を上げながら夢中になって私は乳首を転がし続ける。
もう片方だけというのも足りなくなってきた。
もどかしい思いをしながら私はブラウスのボタンを全て外して前をくつろげ、両手をそれぞれの胸に這わせた。
彼の手つきを思い出しながら胸を揉みしだき、乳首を摘む。
もっとも彼の手は私の手よりもっと大きく、ゴツゴツとしていて、感触はまったくもって違うのだけれども……
「はっ、はあぁん……本当は、本当はあんたに揉んで欲しいのにぃ……いたっ!」
また頭の蛇が私のこめかみをこつんと叩いた。
こうなったのは自分の言動が原因なんだぞ、と言わんばかりに。
「分かってる、分かってるわよぉ……だけどぉ……!」
だが彼に胸を触って欲しいのも事実である。
それもそうだよねぇ、と言った感じで頭の蛇がすりすりとあやすように私の頭を撫でた。
触って欲しいのは胸だけではない。
ごろりと横向きに転がり、そろそろと私は下腹部に手を伸ばした。
自分と彼しか知らない、私の秘密の場所はさっきからずっと濡れっぱなしで、涎を垂らしている。
指先で撫でてみると、ぬるぬると私の指にその粘液が絡みついてきた。
「はふっ、あんっ! あなたのことを思って……はぅ、こんなにぐちょぐちょになっているのに……んくっ、あっ! あなたにぐちゅぐちゅして欲しいのぉ……!」
くちくちと音を立てながら私は秘裂の入口を掻き回し、時々一番敏感な突起をかすめる。
それもそうだよね、と言った感じで頭の蛇が私の頬や首根っこを撫で、そして……
にゅるにゅると一人でに伸び始めた。
あまり知られていないかもしれないが、メデューサの頭の蛇は本人の魔力で伸縮自在である。
これによって髪型を変えてオシャレをし、彼を楽しませるのだ。
だが、今はそんなことに関係なく、勝手に頭の蛇は伸びている。
「あっ、ちょ!? こらっ、何勝手にやっているの!?」
制止の声を上げるが頭の蛇は私の本心であるので、口先だけの言葉で止まるはずがない。
そして本心であるのだから、この蛇がこれから何をするのか私には分かっている。
こうして蛇が髪型を変える以外で伸びたのはこれが初めてではない。
蛇はどんどん伸びていく。
いくつかの蛇は耳に頭をこすりつけたり舌で舐めたりする。
「ひぅ!」
耳が弱いと言う女性は多いらしい。
少なくとも私は弱い。
そこを愛撫され、私は思わず身をすくませた。
また、いくつかの蛇は首筋や背中を這い回っている。
それはただ単に足場として這っているのではなく、艶かしい愛撫の意思を持っていた。
さらに二本の蛇は前に回ってきて私の乳房を一巻きする。
さながら、獲物を締め上げる蛇のように。
一巻きするしか胸にボリュームがないのが少々コンプレックスだ。
彼は私のこの控えめな胸が好きと言ってくれるけど。
胸に巻き付いて締め上げたり揺らしたりするだけにとどまらず、蛇は私の胸の頂をつついたりちろちろと舌を伸ばして舐めたりして愛撫してくる。
「ひあっ! んっ、もうっ! 私の髪の分際で何をやっているのよぉ!」
拒絶の声を上げるが、私の本心は言葉とは裏腹なのだから止まるはずがない。
私の身体はもっともっとと快感を求めている。
二匹の蛇が私の下腹に伸びていく。
そのうちの一匹が私の指を押しのけ、入口を探すかのように私の割れ目に頭を擦り付ける。
「んあっ! 本当に髪の分際で……エッチ! いたっ」
エッチなのは魔物娘のお前だろうと、伸びずに頭にとどまっていた蛇が三度こつんと私のこめかみをつついた。
その間にも秘裂をなぞっていた蛇が先端をぐっと淫孔にはめ込んだ。
にちゅ……
蛇が私の柔肉を掻き分けて体内に侵入してきた。
その太さはご丁寧にも彼のアレと同じくらいの物を模している。
膣内を満たす圧迫感と肉壁をこすられる感触に私は身悶えした。
「はうぅ! は、入って……ひあっ! あっ!? クリもいじるなんて……ダメェ!」
もう一匹、下腹部に伸びていた蛇は私のクリトリスを頭や舌でつついてくる。
先端での愛撫は彼の指の動きを真似しているが、蛇の舌によるチロチロと肉芽をかすめる愛撫はくすぐったくも鋭い快感を脳に伝えた。
その快感から逃れようと陰核を攻め立てる蛇を掴んで遠くにやろうとするが、相手は手などと違って蛇だ。
つかまれても先端部に余裕があれば、いくらでも動くことができるし、魔力を使って伸びることもできる。
快感のあまり思わずその蛇をぎゅうっと握り締めてしまうが、その程度で音を上げるほど蛇は、私の身体はヤワではない。
びくびくと身体を震わせ、蛇を握り締めながら私は呻く。
「くっ、くうううっ! 本当に……頭の蛇の、分際、で……んみゃあああっ!?」
膣内に潜り込んでいる蛇が動いたため、私の抗議の声が中断させられる。
今は突き上げるような激しい動きはしないが、蛇らしいそのうねる動きには耐えられなかった。
ぐちゃぐちゃと蛇が音を立てて肉壷を掻き回してくる。
その間も胸や背中、尻を這い回っている蛇の動きは止まない。
全身から中心に集まる快感……
彼に力強く抱きしめられ、背中などを撫でられながら突かれる感覚をなんとか再現しようと蛇は奮闘している。
だが……
「は、んんっ! 無理よぉ……! 全然違うわよぉ! あんっ、はぁん! うぅ……」
だがしょせんは蛇である。
愛する彼の身体で包まれる感覚など再現できない。
私の口から漏れる嬌声には涙声も混じっていた。
そして一番、彼の身体に包まれている感覚を再現出来ていない要素は、自分の腕だ。
一方の手は蛇を掴んでいるが、もう一方の手は自分の身体を掻き抱いていた。
本当ならば、その腕は彼の背中に回されていて、彼を抱きしめているはずだ。
だがその抱きしめる相手が今はいない……
そのことが、彼を怒らせてしまい出ていかれたこと、そして今感じているものが自分によってもたらされる仮初の快楽であることを思い出させる。
「くっ、ふああああっ! あっ、あっ! いやっ、ひぐぅ!」
突然、膣内に潜り込んでいる蛇の動きが変わり、激しくなった。
蛇らしくうねっていた動きから、膣内の弱点を狙って先端を擦りつけるようにして出入りする。
彼が私をイカせるためにする動き、私が一番弱い動きだ。
嫌な事を思い出してしまった私の心はその事実から逃げようと、仮初の快楽にとりあえず走ろうとしていた。
じゅっじゅぷっじゅっぐじゅっ……!
いやらしい音が私の身体から響く。
「やあああっ!? ダメ、ダメェ! そんなに激しく……くうぅ! もっと! もっとぉ!」
抑止と要求、相反する言葉が私の口から漏れる。
なかなか本音を言わない私の口だが、どちらも私の本音だった。
おかしくなりそうだから止めたいと言う気持ちと、さらにもっと気持ちよくなりたい、もっと続けたいという気持ち……どちらも今の私の偽らざる気持ちだ。
だが、どっちが強いかと言われたら、後者の方が強いだろう。
止まることなく蛇の抽送が繰り返される。
蛇に一突きされる度に私の脳内にモヤがかかっていき、今ここにはいない、思い人のことだけが残されて白く塗りつぶされていった。
彼の名前を呼びながら自分自身をキツく抱きしめ、自らの手で陰核の包皮をこねくり回す。
肌がぞわぞわと粟立ち、身体の奥がカッカと熱を持って沸き上がる。
「ダメぇ……イクぅ、イッちゃうぅ……」
私の口から弱々しい声が漏れる。
次の瞬間、蛇がズンと私の奥の奥を突いた。
まるで膣奥で射精するかのような突き込み。
そう、それは彼が私と共に絶頂する時の動き……二人で一緒に気持ちよくなった時の動きだ。
彼の動きを模した蛇の動きに、私の快感が閾値を振り切る。
「ひぐううううっ!」
頭から尾先までピーンと伸びる。
絶頂でこの体勢になるのは、自慰の時だけだ。
彼とのセックスの時はどのような体位であろうと彼に巻きついて達するのだから……
「あ、あう……」
張り詰めていた身体が弛緩していく。
快感の余韻でふわふわとした声で彼の名前を呼びながら、私は身体をベッドに沈みこませていった。
「……最低」
自分の愛液に濡れた自分の蛇を見て、私はぽつりとつぶやいた。
普段の長さまで縮んだ頭の蛇も落ち込んだように脱力している。
達しはした。
だが私はまったく満足していない。
とりわけ、心が満ち足りなかった。
本当ならこんな自分がもたらす快楽なんかで絶頂に達したくない。
達するのであれば彼の愛撫で、彼の性器で、彼に抱かれて達したかった。
その彼は私の言動のせいで、今ここにはいない。
「バカぁ……悪いのは、私だけどさぁ……今、どこにいるのよ……」
私が携帯に手を伸ばそうとしたそのとき、携帯が震え出した。
サブディスプレイに表示されたのは彼の名前……
猛然と私は携帯を掴んで開き、受話器を耳に押し当てた。
「もしもし……さっきは、ごめん……」
「あっ……」
ハスキーな声で怒って家を飛び出たことを彼が謝る。
悪いのは私なのに……彼の優しさに、目に涙がたまっていくのを感じた。
「いたっ」
突然、かぷっと頭の蛇が私に噛み付いた。
ついつい本心と裏腹のことを口にして誤解を招いたり相手を不快にさせたりしてしまう私への本心からの警告だ。
自分の気持ちや要求をぶちまける前に、ちゃんと謝りなさいよ、と。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。私の方こそ……ごめん」
謝る言葉を紡いだ瞬間、私は何か心地よい物を感じた。
心と身体の中でドロドロしていたものが爽やかな風で払われていくような感覚……
だがそれは性的欲求不満が解消されたものとは異なるもの……もちろん、自慰なんかでは得られない、何か温かいもの……
自然と顔が笑みの形を作っていく。
「すぐに帰るよ。近くのコンビニにいるんだ」
「早く帰って来なさい! 一人で……ずっと寂しかったんだから……」
ああ、と短く彼は返事をして電話を切った。
もうすぐ、私が本当に待ち望んでいたものがここに戻ってくる。
愛おしくて仕方がない、彼が、彼自身が。
温かい気持ちになりながら私は携帯を閉じた。
ドスンと私はベッドに倒れ込んで叫んだ。
ついさっき、私は恋人と喧嘩をした。
いや、喧嘩とも言えないかもしれない。
私が文句を言ったら彼が怒りだし、無言で同棲しているアパートから出ていったと言うのが正しいだろう。
二人で住んでいる部屋には今、私一人しかいない。
私の叫び声はガランとした部屋に虚しく響いた。
「まったく訳が分からないわ……ふん、もう知らないっ! いたっ、いたたっ! ちょ、やめてっ!」
突然、私は一人で痛みの声をあげ、制止の声をあげる。
部屋に一人いる私が今、話しかけた相手……それは私の身体の一部、髪の蛇だ。
私たちメデューサの髪は途中から蛇になっており、本体の私たちと意識を共有しながらも自由に行動ができる。
その蛇は意地っ張りで素直じゃないメデューサとは逆に、素直な感情を表す。
髪の蛇は私達メデューサの本心を写す鏡なのだ。
その蛇が私を批難するかのように、ガブガブと私自身に噛み付いていた。
つまり自分自身を責め、咎めている。
そう、彼のことをもう知らないと私は言っているが、本当は分かっているのだ。
自分が素直じゃないことがどれだけ愚かなのかを、そして、今回の喧嘩の原因は私にあることを……
彼は残業で帰宅が遅くなることが多い。
今日はとりわけひどく、へとへとになりながらも彼は仕事を終え、終電ぎりぎりで帰宅した。
彼の帰宅が遅いのは仕事だから仕方がないのは私も分かっているが、寂しいものは寂しい。
帰ってくるなり私は彼に文句を言った。
彼が帰って来てくれたことの嬉しさの裏返しでもあるのだが、可愛さあまって憎さ百倍と言ったところだろうか、私は彼にいろいろとまくし立てた。
だが、次の言葉はまずかった。
「他の女と遊んでいるんじゃないでしょうね?」
今、冷静に考えてみれば、どうしてこんなことを言ったのか自分でも分からない。
彼は誠実で恋人である私に優しい、浮気などする人間ではないことは私自身がよく知っている。
ラミア種ならではの嫉妬深さや彼がいない間の寂しさや不安感がいなまぜになって口を突いた言葉なのかもしれない。
だが言った理由は何にせよ、一生懸命遅くまで仕事して疲れて帰ってきたところにあらぬ疑いを威圧的な言葉でかけられたので、さすがの彼も堪忍袋の尾が切れたのだろう。
無言で彼は荷物を軽くまとめて今まで持っていたビジネスバッグに詰め、部屋から出ていこうとした。
「ちょっと……!」
突然の彼の行動に驚き、ペトラアイズ(石化の瞳)で彼を拘束しようとした私だが、振り向いた彼の目を見てウッと言葉に詰まった。
彼の目はペトラアイズなんかより遥かに冷たく、そして怒りに満ちていた。
魔力も何もない目なのに、私は思わず固まってしまった。
固まっている私を尻目に彼はそのまま部屋を出ていった。
これがつい先程の出来事だ。
「う、うぅう……」
先程の出来事を整理して思い出し、なんてことをしてしまったんだとベッドの上で私は頭を抱えた。
頭の蛇も今は落ち込んでいてへにゃりと力なくうなだれている。
本当は彼に「おかえり」と優しい言葉をかけたかった。
疲れきっていた彼を慰めたかった。
彼がぐっすりと眠れるように、自分の身体で包んであげたかった。
この部屋は彼が安らげる場所であり、そして私が待っている場所にしておきたかった。
「なのにどうしてあんなことを言っちゃうのよぉ、私ぃ……!」
まったくだと言わんばかりにこつんと蛇の頭が私のこめかみをつついた。
なぜあんなことを言ってしまったのか……メデューサならではの気性と、抑圧されていた私の欲が、私にあんな態度を取らせたのかもしれない。
あれこれ彼にしてあげたいという欲もあるが、我侭な欲と言うものも私にはある。
彼にギュッと抱きしめてもらいたかった。
寂しい思いをした事について一言でも謝って欲しかった。
そして……彼に抱かれたかった。
待っている間に燃え盛っていた情欲の炎をなんとかして欲しかった。
「ひどい、ひどいよぅ……私の身体、こんなになっているのにぃ……!」
身体を掻き抱いて私はベッドの上に転がる。
呆れることに、彼と喧嘩したという状態なのに、私の身体は発情したままであった。
身体は火照り、乳首はブラの中で硬く尖り、その奥の心臓はどくどくと早鐘を打っており、そして大事なところは少しでも指で開いたら粘液がこぼれそうな程に潤んでいる。
「はあっ……ん、はぅ……」
一人でに手が胸に伸び、ブラウスの上から揉みしだく。
それではすぐに物足りなくなり、ブラウスの裾から手をいれてブラジャーを退かし、乳首を転がしながら直接触った。
胸から電気が走ったような快感が全身に流れ、私は身体を震わせた。
「ん、あんっ! はぅ、んん!」
声を上げながら夢中になって私は乳首を転がし続ける。
もう片方だけというのも足りなくなってきた。
もどかしい思いをしながら私はブラウスのボタンを全て外して前をくつろげ、両手をそれぞれの胸に這わせた。
彼の手つきを思い出しながら胸を揉みしだき、乳首を摘む。
もっとも彼の手は私の手よりもっと大きく、ゴツゴツとしていて、感触はまったくもって違うのだけれども……
「はっ、はあぁん……本当は、本当はあんたに揉んで欲しいのにぃ……いたっ!」
また頭の蛇が私のこめかみをこつんと叩いた。
こうなったのは自分の言動が原因なんだぞ、と言わんばかりに。
「分かってる、分かってるわよぉ……だけどぉ……!」
だが彼に胸を触って欲しいのも事実である。
それもそうだよねぇ、と言った感じで頭の蛇がすりすりとあやすように私の頭を撫でた。
触って欲しいのは胸だけではない。
ごろりと横向きに転がり、そろそろと私は下腹部に手を伸ばした。
自分と彼しか知らない、私の秘密の場所はさっきからずっと濡れっぱなしで、涎を垂らしている。
指先で撫でてみると、ぬるぬると私の指にその粘液が絡みついてきた。
「はふっ、あんっ! あなたのことを思って……はぅ、こんなにぐちょぐちょになっているのに……んくっ、あっ! あなたにぐちゅぐちゅして欲しいのぉ……!」
くちくちと音を立てながら私は秘裂の入口を掻き回し、時々一番敏感な突起をかすめる。
それもそうだよね、と言った感じで頭の蛇が私の頬や首根っこを撫で、そして……
にゅるにゅると一人でに伸び始めた。
あまり知られていないかもしれないが、メデューサの頭の蛇は本人の魔力で伸縮自在である。
これによって髪型を変えてオシャレをし、彼を楽しませるのだ。
だが、今はそんなことに関係なく、勝手に頭の蛇は伸びている。
「あっ、ちょ!? こらっ、何勝手にやっているの!?」
制止の声を上げるが頭の蛇は私の本心であるので、口先だけの言葉で止まるはずがない。
そして本心であるのだから、この蛇がこれから何をするのか私には分かっている。
こうして蛇が髪型を変える以外で伸びたのはこれが初めてではない。
蛇はどんどん伸びていく。
いくつかの蛇は耳に頭をこすりつけたり舌で舐めたりする。
「ひぅ!」
耳が弱いと言う女性は多いらしい。
少なくとも私は弱い。
そこを愛撫され、私は思わず身をすくませた。
また、いくつかの蛇は首筋や背中を這い回っている。
それはただ単に足場として這っているのではなく、艶かしい愛撫の意思を持っていた。
さらに二本の蛇は前に回ってきて私の乳房を一巻きする。
さながら、獲物を締め上げる蛇のように。
一巻きするしか胸にボリュームがないのが少々コンプレックスだ。
彼は私のこの控えめな胸が好きと言ってくれるけど。
胸に巻き付いて締め上げたり揺らしたりするだけにとどまらず、蛇は私の胸の頂をつついたりちろちろと舌を伸ばして舐めたりして愛撫してくる。
「ひあっ! んっ、もうっ! 私の髪の分際で何をやっているのよぉ!」
拒絶の声を上げるが、私の本心は言葉とは裏腹なのだから止まるはずがない。
私の身体はもっともっとと快感を求めている。
二匹の蛇が私の下腹に伸びていく。
そのうちの一匹が私の指を押しのけ、入口を探すかのように私の割れ目に頭を擦り付ける。
「んあっ! 本当に髪の分際で……エッチ! いたっ」
エッチなのは魔物娘のお前だろうと、伸びずに頭にとどまっていた蛇が三度こつんと私のこめかみをつついた。
その間にも秘裂をなぞっていた蛇が先端をぐっと淫孔にはめ込んだ。
にちゅ……
蛇が私の柔肉を掻き分けて体内に侵入してきた。
その太さはご丁寧にも彼のアレと同じくらいの物を模している。
膣内を満たす圧迫感と肉壁をこすられる感触に私は身悶えした。
「はうぅ! は、入って……ひあっ! あっ!? クリもいじるなんて……ダメェ!」
もう一匹、下腹部に伸びていた蛇は私のクリトリスを頭や舌でつついてくる。
先端での愛撫は彼の指の動きを真似しているが、蛇の舌によるチロチロと肉芽をかすめる愛撫はくすぐったくも鋭い快感を脳に伝えた。
その快感から逃れようと陰核を攻め立てる蛇を掴んで遠くにやろうとするが、相手は手などと違って蛇だ。
つかまれても先端部に余裕があれば、いくらでも動くことができるし、魔力を使って伸びることもできる。
快感のあまり思わずその蛇をぎゅうっと握り締めてしまうが、その程度で音を上げるほど蛇は、私の身体はヤワではない。
びくびくと身体を震わせ、蛇を握り締めながら私は呻く。
「くっ、くうううっ! 本当に……頭の蛇の、分際、で……んみゃあああっ!?」
膣内に潜り込んでいる蛇が動いたため、私の抗議の声が中断させられる。
今は突き上げるような激しい動きはしないが、蛇らしいそのうねる動きには耐えられなかった。
ぐちゃぐちゃと蛇が音を立てて肉壷を掻き回してくる。
その間も胸や背中、尻を這い回っている蛇の動きは止まない。
全身から中心に集まる快感……
彼に力強く抱きしめられ、背中などを撫でられながら突かれる感覚をなんとか再現しようと蛇は奮闘している。
だが……
「は、んんっ! 無理よぉ……! 全然違うわよぉ! あんっ、はぁん! うぅ……」
だがしょせんは蛇である。
愛する彼の身体で包まれる感覚など再現できない。
私の口から漏れる嬌声には涙声も混じっていた。
そして一番、彼の身体に包まれている感覚を再現出来ていない要素は、自分の腕だ。
一方の手は蛇を掴んでいるが、もう一方の手は自分の身体を掻き抱いていた。
本当ならば、その腕は彼の背中に回されていて、彼を抱きしめているはずだ。
だがその抱きしめる相手が今はいない……
そのことが、彼を怒らせてしまい出ていかれたこと、そして今感じているものが自分によってもたらされる仮初の快楽であることを思い出させる。
「くっ、ふああああっ! あっ、あっ! いやっ、ひぐぅ!」
突然、膣内に潜り込んでいる蛇の動きが変わり、激しくなった。
蛇らしくうねっていた動きから、膣内の弱点を狙って先端を擦りつけるようにして出入りする。
彼が私をイカせるためにする動き、私が一番弱い動きだ。
嫌な事を思い出してしまった私の心はその事実から逃げようと、仮初の快楽にとりあえず走ろうとしていた。
じゅっじゅぷっじゅっぐじゅっ……!
いやらしい音が私の身体から響く。
「やあああっ!? ダメ、ダメェ! そんなに激しく……くうぅ! もっと! もっとぉ!」
抑止と要求、相反する言葉が私の口から漏れる。
なかなか本音を言わない私の口だが、どちらも私の本音だった。
おかしくなりそうだから止めたいと言う気持ちと、さらにもっと気持ちよくなりたい、もっと続けたいという気持ち……どちらも今の私の偽らざる気持ちだ。
だが、どっちが強いかと言われたら、後者の方が強いだろう。
止まることなく蛇の抽送が繰り返される。
蛇に一突きされる度に私の脳内にモヤがかかっていき、今ここにはいない、思い人のことだけが残されて白く塗りつぶされていった。
彼の名前を呼びながら自分自身をキツく抱きしめ、自らの手で陰核の包皮をこねくり回す。
肌がぞわぞわと粟立ち、身体の奥がカッカと熱を持って沸き上がる。
「ダメぇ……イクぅ、イッちゃうぅ……」
私の口から弱々しい声が漏れる。
次の瞬間、蛇がズンと私の奥の奥を突いた。
まるで膣奥で射精するかのような突き込み。
そう、それは彼が私と共に絶頂する時の動き……二人で一緒に気持ちよくなった時の動きだ。
彼の動きを模した蛇の動きに、私の快感が閾値を振り切る。
「ひぐううううっ!」
頭から尾先までピーンと伸びる。
絶頂でこの体勢になるのは、自慰の時だけだ。
彼とのセックスの時はどのような体位であろうと彼に巻きついて達するのだから……
「あ、あう……」
張り詰めていた身体が弛緩していく。
快感の余韻でふわふわとした声で彼の名前を呼びながら、私は身体をベッドに沈みこませていった。
「……最低」
自分の愛液に濡れた自分の蛇を見て、私はぽつりとつぶやいた。
普段の長さまで縮んだ頭の蛇も落ち込んだように脱力している。
達しはした。
だが私はまったく満足していない。
とりわけ、心が満ち足りなかった。
本当ならこんな自分がもたらす快楽なんかで絶頂に達したくない。
達するのであれば彼の愛撫で、彼の性器で、彼に抱かれて達したかった。
その彼は私の言動のせいで、今ここにはいない。
「バカぁ……悪いのは、私だけどさぁ……今、どこにいるのよ……」
私が携帯に手を伸ばそうとしたそのとき、携帯が震え出した。
サブディスプレイに表示されたのは彼の名前……
猛然と私は携帯を掴んで開き、受話器を耳に押し当てた。
「もしもし……さっきは、ごめん……」
「あっ……」
ハスキーな声で怒って家を飛び出たことを彼が謝る。
悪いのは私なのに……彼の優しさに、目に涙がたまっていくのを感じた。
「いたっ」
突然、かぷっと頭の蛇が私に噛み付いた。
ついつい本心と裏腹のことを口にして誤解を招いたり相手を不快にさせたりしてしまう私への本心からの警告だ。
自分の気持ちや要求をぶちまける前に、ちゃんと謝りなさいよ、と。
「どうした?」
「ううん、なんでもない。私の方こそ……ごめん」
謝る言葉を紡いだ瞬間、私は何か心地よい物を感じた。
心と身体の中でドロドロしていたものが爽やかな風で払われていくような感覚……
だがそれは性的欲求不満が解消されたものとは異なるもの……もちろん、自慰なんかでは得られない、何か温かいもの……
自然と顔が笑みの形を作っていく。
「すぐに帰るよ。近くのコンビニにいるんだ」
「早く帰って来なさい! 一人で……ずっと寂しかったんだから……」
ああ、と短く彼は返事をして電話を切った。
もうすぐ、私が本当に待ち望んでいたものがここに戻ってくる。
愛おしくて仕方がない、彼が、彼自身が。
温かい気持ちになりながら私は携帯を閉じた。
12/11/22 19:53更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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