須黒優香
「ん、んふぅ……あっ、ああっ! ん、んん〜っ!」
どしゃぶりの雨の夜、薄暗くて狭い私の部屋に、雨音に混じって熱っぽい女の吐息が響く。
その声を上げているのは私、須黒優香だ。
そう、今、私は自分で自分を慰めていた。
「あっ、ひゃん! んっ、んああ……!」
黒い羽毛が乳首を撫で上げ、私は短く悲鳴のような嬌声を上げる。
年に何回も来る発情期……今はまさにその時期で私は情欲で火照っている身体を持て余していた。
発情期に入ってしまうと、仕事なんか出来たものではない。
一日中部屋に閉じこもって自分を慰める時間が続く。
今日も朝から頭をもたげていた性欲が日没になると抑えきれないほど高まっていた。
日が沈んだのがだいたい19:00ちょっと前、さきほどイッた時に時計を見たら23:30頃だった……もう4時間以上も私はずっとオナニーを続けていることになる。
しかし何回イッても疼く身体は止まらないのだ。
タンクトップをたくし上げ、下半身は裸の状態で私は自分がもたらす快感に布団の上を転げまわる。
「あ、あああっ! うあ、あ、あ……はぁう!」
私の嬌声のトーンがまた一段階上がる。
左の手は相変わらず薄い胸の頂点で尖っている乳首を転がしていたが、右手が股間に伸びていた。
その、股間を何度もいじった右手はすでに私の体液でベトベトである。
股間もしかり、なんども絶頂に達した膣はだらしなく淫液を垂れ流し、内股や尻のあたりまでべちょべちょに濡らしていた。
「ひぅ! あっ、ああっ、あぅ! ん、んふう!」
羽の先でクリトリスを弾くようにして愛撫しながら、私は声を漏らす。
女の身体で最も敏感と言われる部位から快感が全身に弾け、私は身体を竦ませた。
しかし、手の動きは止まらない。
羽が陰核を弾く度に私は快感の階段を絶頂へと向かって駆け上がっていく。
このまま果ててもいいし、すでに2回ほどクリトリスの刺激だけでイッているが、今はその気分ではなかった。
クリトリスほど敏感ではないが、クリトリスよりもっといじって欲しくて疼いている部分を、自分で慰める。
ぬぷ……
陰唇をこじ開け、その奥に潜む柔肉をかき分けながら、私の手羽先が膣内に入っていく。
膣内に指を入れるのは、今日で3回目……私の右の黒い翼がべっとりと濡れているのはこのためだ。
肉壁から溢れ出すいやらしい汁が羽毛にどんどん染み込んでいく。
「あ、あふうぅ……」
望んでいるほどではないにせよ、膣内を満たす圧迫感に私はゆっくりと声を漏らす。
クリトリスと比べるとやはり快感は多少劣るのだが、やはりこの圧迫感は心地よい。
この圧迫感が、「彼」の性器や指で与えられていると思い込もうとすることができる。
「あぁ……高野く、ぅん……」
思わず、その「彼」の名前が喘ぎ声と共に口から漏れる。
高野とは、私の店に来る常連客の一人だ。
仕事に一生懸命で、美味しそうにビールを飲み、私が焼く焼鳥を食べてくれる男である。
そんな彼に、私は好意を寄せていた。
だったら発情期の今、彼を襲えばいいのだが、私はそうしていない。
彼には、恋人がいるらしいからだ。
中世の魔物だったら問答無用に自分の欲望に忠実に襲いかかったかもしれないが、今の時代はそうは行かない。
恋人のいる彼の迷惑にならないように、私は彼を襲うまいと自分を抑制し、そして火照る身体を自分で慰めて押さえつけている。
だが……好きなものはやはり好きだ。
この気持ちは抑えられない。
「ああ、高野くん……高野くぅん!」
はっきりと彼の名前を呼びながら私は激しく、肉壷を掻き回し、激しく羽先を出し入れした。
ぐちゅぐちゅという卑猥な音とともに、私の頭に霞がかかっていく。
そのまま、快感の閾値が振り切った。
「ああ、また来る、来ちゃうっ! 高野くんっ! 私、また……あ、ああああっ!」
ビクビクと身体を戦慄かせ、私はこの日7回目の絶頂に達する。
しばらく私は痙攣していたが、やがてくたりと布団の上に脱力した。
ほんの少しの間、インターバル。
呼吸を整える。
時計を見てみると0時を少し回ったくらいだ。
雨は未だに激しく、滝のように降っており、音を立てている。
ガァアン!
突然、ものすごい音が響いた。
雷でも落ちたのかと一瞬思ったが違う。
音は下から、外と中から響きわたっていた。
誰かが店のドアを思いっきり叩いたかぶつかったらしい。
絶頂後の余韻に浸っていた私もさすがに飛び上がり、身構えた。
「誰っ!?」
私は窓を開けて、店の入口を見下ろしてみる。
はっとした顔で、高野朋彦が……私の思い人で先程まで私のオカズにされていた男がこっちを見ていた。
「うぇっ!? 優香さん……」
私がいないとでも思っていたのだろうか、バツが悪そうに彼は声を漏らす。
こんな土砂降りの夜だと言うのに彼は傘を持っておらず、濡れ鼠になっていた。
身体が少しふらついていて目に力が入っていないところを見ると、おそらく酔っ払っている。
店の扉を思いっきり叩いたのも彼だろう。
酔っていてもそんなことをするとは思えない彼なのだが……
何かあったに違いない。
だから……
「入りなさい。今、鍵を開けるわ」
普通の人間だったら追い返したかもしれないが、私はそう言っていた。
股間を手早くティッシュで拭いてショーツとデニムを穿き、玄関の鍵を開けて彼を迎え入れる。
「高野くん、大丈夫?」
「うー……」
私の言葉に応えず、彼はフラフラしながらうめき声を上げた。
半分くらい寝てしまっている。
よろめいている彼の身体を支え、私は階上の自分の部屋に彼を連れて行く。
そこでぐっしょりと濡れているスーツとワイシャツ、下着などを脱がせた。
本当は風呂やシャワーに入って身体を温めた方が良さそうだが、そんな余裕はなさそうだ。
来客用に用意していた男物の甚平を彼に渡し、そして私は彼の頭をごしごしとバスタオルで拭いた。
うつらうつらしているが、彼は大人しく私が渡した甚平に袖を通す。
甚平を着た高野は布団の上にばたりと倒れ込んだ。
「すみません、優香さん……」
ぼそぼそと高野がつぶやく。
酔っている状態だと本音が出やすい。
本当に申し訳なく思っているのだろう。
「まぁ……いいのいいの。とりあえず今日は寝なさい」
「はい……すみま、せ……」
それ以上は続かなかった。
規則正しい寝息を高野は立て始める。
私は彼が風邪をひかないように厚手の毛布をかけてやり、そしてふぅとため息を付いた。
高野朋彦はとても真面目な男だ。
アルコールに関してだらしないということもなく、私の店で飲むときは多くてもビール3杯でセーブしている。
また仕事熱心でつい先日までは一生懸命、昇進をかけて企画を練って書類にしていたはずだ。
『……もしかして、それがうまくいかなかったのかな?』
だが、それだけで自棄酒を起こすほど彼は幼稚ではないはずだ。
とすると、何が彼にここまで酒を飲ませたのか……
「すぅ……すぅ……」
アルコールの影響か彼の眠りは深く、寝言を言ったり、悪い夢に顔をしかめたりする様子もなさそうだ。
「まったく、どうしたのかしらね……」
そっと私は羽の先で彼の頬を撫でてみる。
彼の寝息はまったく乱れず、身じろぎもしない。
ちょっとやそっとでは起きないだろう。
「…………」
何を思ったか、私は彼の横に身体を横たえた。
形としては……いや、形だけではなく、添い寝だ。
彼の横顔が目の前にあり、私の胸が高鳴った。
こんなに近くに身を寄せているのに、彼はやはり起きない。
私はさらに大胆になり、デニムを脱ぎ捨て、彼にかけられている毛布の中に自分も潜り込んだ。
雨で濡れていた彼の身体はあまり温かくはなく、毛布の中も温まってはいなかった。
彼の身体が温まるにはもう少し時間がかかりそうだ。
『なら、私が温めればいいわよね……』
言い訳にもならないようなことを考えながら、私はさらに身体を寄せた。
愛しい男の身体が目の前にある。
自分の吐息がかかるくらいに彼と私の身体が近い。
そっと私は彼の顔を自分の方に向けた。
彼の吐息も私にかかり、そしてそれは私をぞくぞくとさせる。
「あっ……」
思わず私は声を漏らす。
少しアルコール臭いが、それでも彼の、魔物娘が敏感に感じ取ることができる彼だけの男の匂いを私は感じ取っていた。
その匂いだけで私の頭はくらくらとし、理性を薄れさせていく。
「あっ、いや……」
もぞもぞと私は下半身を動かす。
じゅん、と音を立てて、私の秘部がまた濡れてきた。
あっと言う間に蜜壷から愛液が溢れ出て、ショーツを冷たく濡らしていく。
頭だけではなく、彼の精の匂いは私の身体をも刺激していた。
どんどん私の息が荒くなり、下腹部から沸き起こった熱が全身に回っていく。
もともと発情期に入っていた私の身体はあっという間に情欲の炎で燃え上がる。
『って、私は何をしているの!?』
私は腰を引いた。
確かに私は彼のことが好きでたまらないが、彼はあくまで私の客であり、そして彼には恋人がいる。
こうして添い寝することなんて許されないし、ましてその横で発情するだなんて、言語道断だ。
万が一彼が起きたりしたら、どう言い訳をするつもりなのか。
『でも……離れたくない……!』
一度は腰を引いた私だが、次の瞬間には元に戻るどころか、むしろもっと彼に身体を密着させていた。
腕が彼の首後ろと胸に回され、私の身体の前面が彼の腕に密着する。
『冷たい……でも、高野くんの身体……』
彼の身体を温めようとするかのように、私は彼に身体を擦りつける。
その時、偶然に彼の手が私の下腹部を撫でた。
「……っ!」
ショーツ越しだったため刺激はそれほどでもないが、彼の身体が私のその大事なエリアに触れたことが、私を興奮させた。
私の身体がさらに燃え上がる。
もう我慢できない。
すぐにでも彼の身ぐるみをはがし、彼の象徴を受け入れたかった。
かろうじて残った理性がそれをとどめる。
そもそもアルコールが入っていると男は勃起しにくいものだ。
だが身体の疼きは耐え難いものとなっていた。
「ごめん……なさい……高野くん」
聞こえていないだろうが、私は目の前の男に謝る。
もぞもぞとショーツを毛布の中で脱ぎ捨て、性器を露にした。
そして彼の腕をとり、私の股間にこすりつける。
ひんやりとした彼の腕が、私の柔肉に当たった。
「んっ……!」
彼の意思は全くないが、それでも彼の身体が私の性器に触れていることが私を高ぶらせる。
くいくいと私は腰を前後に振る。
その度にクリトリスが彼の腕にこすりつけられ、ビリビリとした刺激が私の脳へと伝わった。
「んあっ! んふううっ!」
思わず大きな声が漏れてしまい、私は口を必死に閉じて喘ぎ声をこらえた。
クリトリスを物理的に刺激するのは普段のオナニーでやっている。
だが彼の腕による刺激はまた別の快感であった。
自分が慣れきっている刺激とはまた違うによるじれったさ、騎乗位のように腰を動かしている自分の淫らさ、そして彼の腕を使っているということが私を興奮させる。
「んっ、んっ、ふっ、んっ、んっ、んんんっ」
声を殺しながら私は腰をくいくいと前後に動かす。
半分くらいは意思を持って動かしているが、もう半分くらいは無意識で反射的にも近いものだ。
快感で腰が引けるがすぐにまた彼の腕にこすりつける……
その繰り返しだ。
「んっ、あっ、やぁ……!」
ショーツを脱ぐ前から濡れていた私の蜜壷からじわりと愛液が溢れ、彼の腕を濡らした。
彼の腕からぬるぬるとした感触がするので、分かる。
寝ている彼の体を汚している……その背徳感に私は背筋を震わせた。
「ごめん……なさい……ごめ……ああっくっ……!」
そのことに一人私は彼に謝る。
もっとも、彼は私の言葉など聞いていない。
そして私も口で言っていることと身体がしていることは裏腹だった。
腰の動きがどんどん速くなってきてしまう。
くちゅくちゅと私の秘部と彼の腕が粘着音を立てる。
クリトリスも陰唇もまるごと擦られている刺激に耐え切れず、私は彼にギュッとしがみついた。
「あっ、あっ、高野く……ん、んんっ、んんん!」
思わず抱きしめた者の名前を呼ぶが、慌てて私は口を真一文字に結んで声をこらえる。
いくらアルコールの影響で深い眠りに落ちているとはいえ、彼が起きない保証はない。
『そう……高野くんが起きたら、どうするつもりなのよ、私……!』
添い寝くらいなら何とでも言うことができるだろう。
だが今の私は、下半身は丸出し。
そこは興奮の証で濡れ、さらに擦りつけていた彼の腕も私のいやらしい体液で濡れている。
「だめ、だめなのぉ……」
震える小さな声で私はつぶやく。
あえて口にすることで自分に今やっている行為が危険すぎることを思い起こさせ、中断させようとしたのだ。
だが、腰の動きは止まらない。
それどころかもっと刺激を求めて、腰をよりぐいっと彼の腕に押し付けるようにし、アソコを擦りつける。
「あくぅっ! ダメっ、ダメなのにぃ……!」
もう自分で自分の身体を制御できない。
とうとう私の片足が彼の身体に巻きつけられ、自分の身体に引き寄せようとする。
腰を押し付けた上にさらに脚を絡みつけ、私の中の気持ちよさが一気に膨れ上がった。
腰だけでなく、身体全体がぶるぶると小刻みに動き出す。
『まずい……イキそう……!』
このままだと彼の耳元で絶頂の声を上げてしまう。
それはまずい。
彼の身体を使ってイクこと自体が十分危ない行為だとおもうが、だからと言って声を上げるまで大胆にも成りきれなかったし、自慰を中断することなど到底できなかった。
「はむっ! んっ! んんん!」
少しでも音量が抑えられるように、私は自分の翼に噛み付いて口を塞いだ。
それでも声が漏れるが、何もしないよりはましだろう。
その間も身体の動きは止まってくれなかった。
雨の音と自分のくぐもった嬌声、自分の股間と彼の腕から漏れ出す湿ったイヤらしい音だけが響く。
『ダメ……イクっ!』
そう考えた次の瞬間、とうとう終わりの瞬間がやってきた。
快感が爆発するのと入れ替わりに身体の全てが下腹部に吸い込まれるような感触……
イッてしまっていた。
ぎゅうぎゅうと下腹部を中心にして、私の身体が丸まる。
私の中に溜っていた液体がぴゅぴゅっと外に吹き出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
しばらく私は彼の腕と身体にしがみついて絶頂の快感に耐えていたが、やがて身体を弛緩させた。
快感が去った後に襲いかかってくるのは、後悔の念と羞恥心……
『彼が酔って寝ているのをいい事に……私、なんてことをしてしまったんだろう……』
のろのろと私は翼と脚を広げ、彼の拘束を解いて身体を離した。
名残惜しいような気持ちがあるのだが、ダメだ。
これ以上、彼にくっついているとまたこの淫らな行為をしてしまいそうだ。
『彼には、恋人がいるのに……』
秘め事後の荒い息にため息を混ぜ、私はティッシュに手を伸ばし、数枚引き出して彼の腕を拭った。
そして、私の性器も……
そうしてから、私はまた寝ている彼の姿を見てみた。
先程、私が彼の身体に自分の性器を擦りつけてオナニーしていたことなどなかったかのように、彼は私が寝かしつける前とあまり変わらない状態で寝ている。
せいぜい変わっているのは、眠りに落ちる直前は天井を向いていた首が今は横を向いていることくらいか……
私の中の後悔の気持ちと羞恥の気持ちが、さっきよりさらに膨れ上がる。
だが、それと同時に別のはっきりとした気持ちが私の中で自己主張をした。
好き……
やっぱり、私は彼のことが好き。
こんな小さくて汚らしい私の店に来てくれた彼。
美味しい美味しいと言って焼鳥を食べてくれ、それも一度ではなく通いつめてくれるほど来てくれる彼。
仕事の楽しいところも辛いところも私に話してくれる彼。
そんな彼のことが好き……
特に何か大きなことがあったわけではないが、彼はもはや私の中ではただの常連客ではなく、「男」であった。
でもその男には別の女がいる。
そして彼は私の気持ちも、先程何をされたかも知らず、酔って深い眠りに落ちている。
「私もひどい女だけど……あなたもひどい男……」
しゅんと私は鼻を鳴らす。
鼻を鳴らしてから私は我に返った。
自分の淫液が染み付いたティッシュは……彼がゴミ箱を漁るとは思えないが、分かりにくいように底の方へと押しやる。
時計を見てみると1:30……朝まではもう少し時間があった。
「少し寝たほうがいい……」
ぽつりと私は一人つぶやき、新たなショーツとおりものシートを取り出し、身につける。
そして別の毛布を取り出して彼から少し離れたところでそれにくるまって横になった。
何度も絶頂に達してほどほどに疲労していた身体はゆっくりと、心地よい眠りに私を誘う。
『……彼が起きる前に目を覚まして、消化にいいおかゆを作って……』
恋人ではない男のための朝食のメニューをボーッと考えながら、私は眠りの誘いにそのまま落ちた。
私のこの気持ちがどうなったか……
それはまた別の話である。
どしゃぶりの雨の夜、薄暗くて狭い私の部屋に、雨音に混じって熱っぽい女の吐息が響く。
その声を上げているのは私、須黒優香だ。
そう、今、私は自分で自分を慰めていた。
「あっ、ひゃん! んっ、んああ……!」
黒い羽毛が乳首を撫で上げ、私は短く悲鳴のような嬌声を上げる。
年に何回も来る発情期……今はまさにその時期で私は情欲で火照っている身体を持て余していた。
発情期に入ってしまうと、仕事なんか出来たものではない。
一日中部屋に閉じこもって自分を慰める時間が続く。
今日も朝から頭をもたげていた性欲が日没になると抑えきれないほど高まっていた。
日が沈んだのがだいたい19:00ちょっと前、さきほどイッた時に時計を見たら23:30頃だった……もう4時間以上も私はずっとオナニーを続けていることになる。
しかし何回イッても疼く身体は止まらないのだ。
タンクトップをたくし上げ、下半身は裸の状態で私は自分がもたらす快感に布団の上を転げまわる。
「あ、あああっ! うあ、あ、あ……はぁう!」
私の嬌声のトーンがまた一段階上がる。
左の手は相変わらず薄い胸の頂点で尖っている乳首を転がしていたが、右手が股間に伸びていた。
その、股間を何度もいじった右手はすでに私の体液でベトベトである。
股間もしかり、なんども絶頂に達した膣はだらしなく淫液を垂れ流し、内股や尻のあたりまでべちょべちょに濡らしていた。
「ひぅ! あっ、ああっ、あぅ! ん、んふう!」
羽の先でクリトリスを弾くようにして愛撫しながら、私は声を漏らす。
女の身体で最も敏感と言われる部位から快感が全身に弾け、私は身体を竦ませた。
しかし、手の動きは止まらない。
羽が陰核を弾く度に私は快感の階段を絶頂へと向かって駆け上がっていく。
このまま果ててもいいし、すでに2回ほどクリトリスの刺激だけでイッているが、今はその気分ではなかった。
クリトリスほど敏感ではないが、クリトリスよりもっといじって欲しくて疼いている部分を、自分で慰める。
ぬぷ……
陰唇をこじ開け、その奥に潜む柔肉をかき分けながら、私の手羽先が膣内に入っていく。
膣内に指を入れるのは、今日で3回目……私の右の黒い翼がべっとりと濡れているのはこのためだ。
肉壁から溢れ出すいやらしい汁が羽毛にどんどん染み込んでいく。
「あ、あふうぅ……」
望んでいるほどではないにせよ、膣内を満たす圧迫感に私はゆっくりと声を漏らす。
クリトリスと比べるとやはり快感は多少劣るのだが、やはりこの圧迫感は心地よい。
この圧迫感が、「彼」の性器や指で与えられていると思い込もうとすることができる。
「あぁ……高野く、ぅん……」
思わず、その「彼」の名前が喘ぎ声と共に口から漏れる。
高野とは、私の店に来る常連客の一人だ。
仕事に一生懸命で、美味しそうにビールを飲み、私が焼く焼鳥を食べてくれる男である。
そんな彼に、私は好意を寄せていた。
だったら発情期の今、彼を襲えばいいのだが、私はそうしていない。
彼には、恋人がいるらしいからだ。
中世の魔物だったら問答無用に自分の欲望に忠実に襲いかかったかもしれないが、今の時代はそうは行かない。
恋人のいる彼の迷惑にならないように、私は彼を襲うまいと自分を抑制し、そして火照る身体を自分で慰めて押さえつけている。
だが……好きなものはやはり好きだ。
この気持ちは抑えられない。
「ああ、高野くん……高野くぅん!」
はっきりと彼の名前を呼びながら私は激しく、肉壷を掻き回し、激しく羽先を出し入れした。
ぐちゅぐちゅという卑猥な音とともに、私の頭に霞がかかっていく。
そのまま、快感の閾値が振り切った。
「ああ、また来る、来ちゃうっ! 高野くんっ! 私、また……あ、ああああっ!」
ビクビクと身体を戦慄かせ、私はこの日7回目の絶頂に達する。
しばらく私は痙攣していたが、やがてくたりと布団の上に脱力した。
ほんの少しの間、インターバル。
呼吸を整える。
時計を見てみると0時を少し回ったくらいだ。
雨は未だに激しく、滝のように降っており、音を立てている。
ガァアン!
突然、ものすごい音が響いた。
雷でも落ちたのかと一瞬思ったが違う。
音は下から、外と中から響きわたっていた。
誰かが店のドアを思いっきり叩いたかぶつかったらしい。
絶頂後の余韻に浸っていた私もさすがに飛び上がり、身構えた。
「誰っ!?」
私は窓を開けて、店の入口を見下ろしてみる。
はっとした顔で、高野朋彦が……私の思い人で先程まで私のオカズにされていた男がこっちを見ていた。
「うぇっ!? 優香さん……」
私がいないとでも思っていたのだろうか、バツが悪そうに彼は声を漏らす。
こんな土砂降りの夜だと言うのに彼は傘を持っておらず、濡れ鼠になっていた。
身体が少しふらついていて目に力が入っていないところを見ると、おそらく酔っ払っている。
店の扉を思いっきり叩いたのも彼だろう。
酔っていてもそんなことをするとは思えない彼なのだが……
何かあったに違いない。
だから……
「入りなさい。今、鍵を開けるわ」
普通の人間だったら追い返したかもしれないが、私はそう言っていた。
股間を手早くティッシュで拭いてショーツとデニムを穿き、玄関の鍵を開けて彼を迎え入れる。
「高野くん、大丈夫?」
「うー……」
私の言葉に応えず、彼はフラフラしながらうめき声を上げた。
半分くらい寝てしまっている。
よろめいている彼の身体を支え、私は階上の自分の部屋に彼を連れて行く。
そこでぐっしょりと濡れているスーツとワイシャツ、下着などを脱がせた。
本当は風呂やシャワーに入って身体を温めた方が良さそうだが、そんな余裕はなさそうだ。
来客用に用意していた男物の甚平を彼に渡し、そして私は彼の頭をごしごしとバスタオルで拭いた。
うつらうつらしているが、彼は大人しく私が渡した甚平に袖を通す。
甚平を着た高野は布団の上にばたりと倒れ込んだ。
「すみません、優香さん……」
ぼそぼそと高野がつぶやく。
酔っている状態だと本音が出やすい。
本当に申し訳なく思っているのだろう。
「まぁ……いいのいいの。とりあえず今日は寝なさい」
「はい……すみま、せ……」
それ以上は続かなかった。
規則正しい寝息を高野は立て始める。
私は彼が風邪をひかないように厚手の毛布をかけてやり、そしてふぅとため息を付いた。
高野朋彦はとても真面目な男だ。
アルコールに関してだらしないということもなく、私の店で飲むときは多くてもビール3杯でセーブしている。
また仕事熱心でつい先日までは一生懸命、昇進をかけて企画を練って書類にしていたはずだ。
『……もしかして、それがうまくいかなかったのかな?』
だが、それだけで自棄酒を起こすほど彼は幼稚ではないはずだ。
とすると、何が彼にここまで酒を飲ませたのか……
「すぅ……すぅ……」
アルコールの影響か彼の眠りは深く、寝言を言ったり、悪い夢に顔をしかめたりする様子もなさそうだ。
「まったく、どうしたのかしらね……」
そっと私は羽の先で彼の頬を撫でてみる。
彼の寝息はまったく乱れず、身じろぎもしない。
ちょっとやそっとでは起きないだろう。
「…………」
何を思ったか、私は彼の横に身体を横たえた。
形としては……いや、形だけではなく、添い寝だ。
彼の横顔が目の前にあり、私の胸が高鳴った。
こんなに近くに身を寄せているのに、彼はやはり起きない。
私はさらに大胆になり、デニムを脱ぎ捨て、彼にかけられている毛布の中に自分も潜り込んだ。
雨で濡れていた彼の身体はあまり温かくはなく、毛布の中も温まってはいなかった。
彼の身体が温まるにはもう少し時間がかかりそうだ。
『なら、私が温めればいいわよね……』
言い訳にもならないようなことを考えながら、私はさらに身体を寄せた。
愛しい男の身体が目の前にある。
自分の吐息がかかるくらいに彼と私の身体が近い。
そっと私は彼の顔を自分の方に向けた。
彼の吐息も私にかかり、そしてそれは私をぞくぞくとさせる。
「あっ……」
思わず私は声を漏らす。
少しアルコール臭いが、それでも彼の、魔物娘が敏感に感じ取ることができる彼だけの男の匂いを私は感じ取っていた。
その匂いだけで私の頭はくらくらとし、理性を薄れさせていく。
「あっ、いや……」
もぞもぞと私は下半身を動かす。
じゅん、と音を立てて、私の秘部がまた濡れてきた。
あっと言う間に蜜壷から愛液が溢れ出て、ショーツを冷たく濡らしていく。
頭だけではなく、彼の精の匂いは私の身体をも刺激していた。
どんどん私の息が荒くなり、下腹部から沸き起こった熱が全身に回っていく。
もともと発情期に入っていた私の身体はあっという間に情欲の炎で燃え上がる。
『って、私は何をしているの!?』
私は腰を引いた。
確かに私は彼のことが好きでたまらないが、彼はあくまで私の客であり、そして彼には恋人がいる。
こうして添い寝することなんて許されないし、ましてその横で発情するだなんて、言語道断だ。
万が一彼が起きたりしたら、どう言い訳をするつもりなのか。
『でも……離れたくない……!』
一度は腰を引いた私だが、次の瞬間には元に戻るどころか、むしろもっと彼に身体を密着させていた。
腕が彼の首後ろと胸に回され、私の身体の前面が彼の腕に密着する。
『冷たい……でも、高野くんの身体……』
彼の身体を温めようとするかのように、私は彼に身体を擦りつける。
その時、偶然に彼の手が私の下腹部を撫でた。
「……っ!」
ショーツ越しだったため刺激はそれほどでもないが、彼の身体が私のその大事なエリアに触れたことが、私を興奮させた。
私の身体がさらに燃え上がる。
もう我慢できない。
すぐにでも彼の身ぐるみをはがし、彼の象徴を受け入れたかった。
かろうじて残った理性がそれをとどめる。
そもそもアルコールが入っていると男は勃起しにくいものだ。
だが身体の疼きは耐え難いものとなっていた。
「ごめん……なさい……高野くん」
聞こえていないだろうが、私は目の前の男に謝る。
もぞもぞとショーツを毛布の中で脱ぎ捨て、性器を露にした。
そして彼の腕をとり、私の股間にこすりつける。
ひんやりとした彼の腕が、私の柔肉に当たった。
「んっ……!」
彼の意思は全くないが、それでも彼の身体が私の性器に触れていることが私を高ぶらせる。
くいくいと私は腰を前後に振る。
その度にクリトリスが彼の腕にこすりつけられ、ビリビリとした刺激が私の脳へと伝わった。
「んあっ! んふううっ!」
思わず大きな声が漏れてしまい、私は口を必死に閉じて喘ぎ声をこらえた。
クリトリスを物理的に刺激するのは普段のオナニーでやっている。
だが彼の腕による刺激はまた別の快感であった。
自分が慣れきっている刺激とはまた違うによるじれったさ、騎乗位のように腰を動かしている自分の淫らさ、そして彼の腕を使っているということが私を興奮させる。
「んっ、んっ、ふっ、んっ、んっ、んんんっ」
声を殺しながら私は腰をくいくいと前後に動かす。
半分くらいは意思を持って動かしているが、もう半分くらいは無意識で反射的にも近いものだ。
快感で腰が引けるがすぐにまた彼の腕にこすりつける……
その繰り返しだ。
「んっ、あっ、やぁ……!」
ショーツを脱ぐ前から濡れていた私の蜜壷からじわりと愛液が溢れ、彼の腕を濡らした。
彼の腕からぬるぬるとした感触がするので、分かる。
寝ている彼の体を汚している……その背徳感に私は背筋を震わせた。
「ごめん……なさい……ごめ……ああっくっ……!」
そのことに一人私は彼に謝る。
もっとも、彼は私の言葉など聞いていない。
そして私も口で言っていることと身体がしていることは裏腹だった。
腰の動きがどんどん速くなってきてしまう。
くちゅくちゅと私の秘部と彼の腕が粘着音を立てる。
クリトリスも陰唇もまるごと擦られている刺激に耐え切れず、私は彼にギュッとしがみついた。
「あっ、あっ、高野く……ん、んんっ、んんん!」
思わず抱きしめた者の名前を呼ぶが、慌てて私は口を真一文字に結んで声をこらえる。
いくらアルコールの影響で深い眠りに落ちているとはいえ、彼が起きない保証はない。
『そう……高野くんが起きたら、どうするつもりなのよ、私……!』
添い寝くらいなら何とでも言うことができるだろう。
だが今の私は、下半身は丸出し。
そこは興奮の証で濡れ、さらに擦りつけていた彼の腕も私のいやらしい体液で濡れている。
「だめ、だめなのぉ……」
震える小さな声で私はつぶやく。
あえて口にすることで自分に今やっている行為が危険すぎることを思い起こさせ、中断させようとしたのだ。
だが、腰の動きは止まらない。
それどころかもっと刺激を求めて、腰をよりぐいっと彼の腕に押し付けるようにし、アソコを擦りつける。
「あくぅっ! ダメっ、ダメなのにぃ……!」
もう自分で自分の身体を制御できない。
とうとう私の片足が彼の身体に巻きつけられ、自分の身体に引き寄せようとする。
腰を押し付けた上にさらに脚を絡みつけ、私の中の気持ちよさが一気に膨れ上がった。
腰だけでなく、身体全体がぶるぶると小刻みに動き出す。
『まずい……イキそう……!』
このままだと彼の耳元で絶頂の声を上げてしまう。
それはまずい。
彼の身体を使ってイクこと自体が十分危ない行為だとおもうが、だからと言って声を上げるまで大胆にも成りきれなかったし、自慰を中断することなど到底できなかった。
「はむっ! んっ! んんん!」
少しでも音量が抑えられるように、私は自分の翼に噛み付いて口を塞いだ。
それでも声が漏れるが、何もしないよりはましだろう。
その間も身体の動きは止まってくれなかった。
雨の音と自分のくぐもった嬌声、自分の股間と彼の腕から漏れ出す湿ったイヤらしい音だけが響く。
『ダメ……イクっ!』
そう考えた次の瞬間、とうとう終わりの瞬間がやってきた。
快感が爆発するのと入れ替わりに身体の全てが下腹部に吸い込まれるような感触……
イッてしまっていた。
ぎゅうぎゅうと下腹部を中心にして、私の身体が丸まる。
私の中に溜っていた液体がぴゅぴゅっと外に吹き出した。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
しばらく私は彼の腕と身体にしがみついて絶頂の快感に耐えていたが、やがて身体を弛緩させた。
快感が去った後に襲いかかってくるのは、後悔の念と羞恥心……
『彼が酔って寝ているのをいい事に……私、なんてことをしてしまったんだろう……』
のろのろと私は翼と脚を広げ、彼の拘束を解いて身体を離した。
名残惜しいような気持ちがあるのだが、ダメだ。
これ以上、彼にくっついているとまたこの淫らな行為をしてしまいそうだ。
『彼には、恋人がいるのに……』
秘め事後の荒い息にため息を混ぜ、私はティッシュに手を伸ばし、数枚引き出して彼の腕を拭った。
そして、私の性器も……
そうしてから、私はまた寝ている彼の姿を見てみた。
先程、私が彼の身体に自分の性器を擦りつけてオナニーしていたことなどなかったかのように、彼は私が寝かしつける前とあまり変わらない状態で寝ている。
せいぜい変わっているのは、眠りに落ちる直前は天井を向いていた首が今は横を向いていることくらいか……
私の中の後悔の気持ちと羞恥の気持ちが、さっきよりさらに膨れ上がる。
だが、それと同時に別のはっきりとした気持ちが私の中で自己主張をした。
好き……
やっぱり、私は彼のことが好き。
こんな小さくて汚らしい私の店に来てくれた彼。
美味しい美味しいと言って焼鳥を食べてくれ、それも一度ではなく通いつめてくれるほど来てくれる彼。
仕事の楽しいところも辛いところも私に話してくれる彼。
そんな彼のことが好き……
特に何か大きなことがあったわけではないが、彼はもはや私の中ではただの常連客ではなく、「男」であった。
でもその男には別の女がいる。
そして彼は私の気持ちも、先程何をされたかも知らず、酔って深い眠りに落ちている。
「私もひどい女だけど……あなたもひどい男……」
しゅんと私は鼻を鳴らす。
鼻を鳴らしてから私は我に返った。
自分の淫液が染み付いたティッシュは……彼がゴミ箱を漁るとは思えないが、分かりにくいように底の方へと押しやる。
時計を見てみると1:30……朝まではもう少し時間があった。
「少し寝たほうがいい……」
ぽつりと私は一人つぶやき、新たなショーツとおりものシートを取り出し、身につける。
そして別の毛布を取り出して彼から少し離れたところでそれにくるまって横になった。
何度も絶頂に達してほどほどに疲労していた身体はゆっくりと、心地よい眠りに私を誘う。
『……彼が起きる前に目を覚まして、消化にいいおかゆを作って……』
恋人ではない男のための朝食のメニューをボーッと考えながら、私は眠りの誘いにそのまま落ちた。
私のこの気持ちがどうなったか……
それはまた別の話である。
12/10/25 20:24更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
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