カクテルとお前とオレと大人(中編)
「おいユウタ知っているか」
「某漫画のようにかっこつけた言い方をするんじゃない。なんだ?」
何気ない、男子高校生同士のアホな会話。
オレのいた世界での、オレが通っていた高校での一時。
ある日の昼休みのことだった。
「この世界には『エロマンガ島』って島が存在するらしいぞ」
「マジかっ!?」
オレ以外にも男友達が反応して集まってくる。
「あれ? でもエロマンガ島は温暖化の影響で沈んだって聞いたぞ? 地図でも見られないし」
「それ、嘘だよ。誰かが沈んだとかデマ言って、ちょうどその時に地図の記載が、エロマンガ島が現地の発音に近いイロマンゴ島に変えられたから、そんな都市伝説ができただけさ」
男どもから安堵のため息が漏れる。
そんなことで安堵してどーする。
いや、オレもやったうちのひとりだが・・・
「オランダにはスケベニンゲンってところがあるらしいぞ」
「俺達の聖地だな。修学旅行はそこに行こう」
「いや〜、エロい地名と言えば、ロシアのヤキマンコは外せないだろう」
「なにそれ、ヤバいだろう!」
「他にも南アフリカにはチンコ川ってのがあってだな・・・」
「ストレートすぎだろう!」
こんなことだけで騒げる馬鹿な男子高校生。
ああ、あの頃は純粋でアホで楽しかった。
「地名に限らず、ストレートにエロい名前っていろいろあるよな」
「ああ、そう言えばカクテルにもあったよな」
「なに、それ?」
「ああ、その名も・・・」
そんな思い出とともにクーラーボックスを開ける。
中に入っているのはウォッカ、ピーチリキュール、クレーム・ド・フランボワーズ(ラズベリーのお酒だ)、そしてパイナップルジュース・・・
「何々、カクテル?」
「そうだ」
オレはそれだけ言って手早く用意をする。
コリンズ・グラスに氷を入れ、ウォッカを15cc、ピーチリキュールを20cc、クレーム・ド・フランボワーズを15ml、パイナップルジュース を80cc計って入れる。
適当でも良いらしいし、素早さを重視して入れているからぴったりとその量を入れているかどうかは怪しいけど、まぁ良いだろう。
これを軽くステアー(マドラーでかき混ぜる)するだけで出来上がり。
「あれれ? かしゃかしゃ〜って、やらないの?」
「ああ、やらない。シェイクするのは一気に温度を冷やしたい物か、しっかり混ぜないと分離してしまうクリームとかを使ったカクテルの時だけだ」
もうちょっと待ってくれと俺はエレーヌに断り、急いでもう一つ同じカクテルを作る。
ちなみに材料はクレメンスさんから
「結婚記念日だから、お祝いとしてはつまらないものだけど、分けてあげる」
と譲ってもらった。
材料も道具も、ディランさんとクレメンスさんが経営しているお店がカフェバーのため、簡単に手に入った。
「はい、どうぞ」
短い間だが、氷が溶けて味が変わっているかもしれないので後につくった方をエレーヌに渡す。
「なぁに、これ? 新しいカフェバーのメニュー?」
「新しいってほどでもないけど、まあ飲もうぜ。こほん」
臭いセリフを言ってみようとして咳払いをする。
「・・・乾杯」
「乾杯〜♪」
駄目だ、思いつかなかった!!
軽くグラスをぶつけて淡い桃色の液体を煽った。
桃の甘みと香りが口いっぱいに広がり、さらにパイナップルジュースの甘みと爽やかさがさらに広がる。
うん、とにかく甘い。
しかし、クンと来るアルコールの刺激は、大人な気持ちを味あわせてくれつつも、優しくはないものだ。
「・・・おいしいわね、これ!」
「だろ?」
このカクテルだけはいつか作ってやろうと高校生の時から、マティーニやギムレットなど他のオーソドックスなカクテルそっちのけでレシピを覚えていた。
そして今、とても大切な、好色なメロウとともにそれを飲んでいる。
「で、このカクテルの名前は?」
はいはい来ました、待っていました。
多分、オレは今ドヤ顔に近い表情を浮かべている。
これ言ったら絶対エレーヌはなんか言うな。
というか狙って作ったからな。
こんなこと、エレーヌじゃないと言えない、できない。
「Sex on the beach」
「なにそれ! エッチな名前ね!」
ほら言った!予想通りの反応をしたぞ!
エレーヌは楽しげに笑いながら言う。
「浜辺でエッチ!? ストレートね!」
お前の言葉の方がストレートだぞと突っ込みたいが苦笑して我慢しつつ、もう空になったエレーヌのグラスを水で軽く洗う。
「もう一杯いかが?」
「いただくわ」
手早く、さっきと同じ要領でSex on the Beachを作る。
「これがやりたくてユウタはわざわざ魔導保冷箱を持ち歩いてあたしとデートして、ここに来たんだ?」
「・・・まぁな」
こんなこと、エレーヌ相手じゃないとできないよ、と苦笑しながらオレはエレーヌに新しいSex on the Beachを渡す。
いや、苦笑しながらと言うけど、一部では本気の笑顔だ。
こんなバカなこと、エレーヌが相手じゃないとできない。
それが嬉しくて、そして予想通りの反応で喜んでくれたエレーヌを見るのが楽しくてついつい笑顔がこぼれてしまう。
オレ達は波の音と周りにいるカップルの微かな声をBGMにしながら、Sex on the Beachを飲み、たわいもない雑談(という名の猥談)を続けた。
・・・どうしてこうなった?
いつの間にかウォッカの瓶だけが空だ。
多少誤差は出るとはいえ、Sex on the Beachを作り続けたら全部の材料がちょうどなくなる量を用意したはずなのに・・・
理由は簡単だ。
酔っ払ったオレたちはSex on the Beachを作るのがおっくうになり、途中からウォッカだけを飲みだしたからだ。
ウォッカをラッパ飲みしてエレーヌのくちびるを奪い、ウォッカを流し込む。
それを飲み干したエレーヌが今度は自分からウォッカを口にし、キスしながらオレに口移しでウォッカを飲ませる・・・
こんなことを繰り返していたらこのざまだ。
フラフラするが気分は悪くない。
師匠から喰らった上段回し蹴りで、痛みを取り除いたらこんな感じかも・・・
あれは気持ちいいくらいに意識が飛ぶからなぁ・・・オレ、マゾじゃないはずなのにな。
砂浜にあおむけで寝転びながらオレは考える。
そう言えばエレーヌは・・・?
「ぐすっ・・・ひぐっ、うう・・・」
泣いている!?
エレーヌの泣き声を聞いてオレは身体を起こした。
「某漫画のようにかっこつけた言い方をするんじゃない。なんだ?」
何気ない、男子高校生同士のアホな会話。
オレのいた世界での、オレが通っていた高校での一時。
ある日の昼休みのことだった。
「この世界には『エロマンガ島』って島が存在するらしいぞ」
「マジかっ!?」
オレ以外にも男友達が反応して集まってくる。
「あれ? でもエロマンガ島は温暖化の影響で沈んだって聞いたぞ? 地図でも見られないし」
「それ、嘘だよ。誰かが沈んだとかデマ言って、ちょうどその時に地図の記載が、エロマンガ島が現地の発音に近いイロマンゴ島に変えられたから、そんな都市伝説ができただけさ」
男どもから安堵のため息が漏れる。
そんなことで安堵してどーする。
いや、オレもやったうちのひとりだが・・・
「オランダにはスケベニンゲンってところがあるらしいぞ」
「俺達の聖地だな。修学旅行はそこに行こう」
「いや〜、エロい地名と言えば、ロシアのヤキマンコは外せないだろう」
「なにそれ、ヤバいだろう!」
「他にも南アフリカにはチンコ川ってのがあってだな・・・」
「ストレートすぎだろう!」
こんなことだけで騒げる馬鹿な男子高校生。
ああ、あの頃は純粋でアホで楽しかった。
「地名に限らず、ストレートにエロい名前っていろいろあるよな」
「ああ、そう言えばカクテルにもあったよな」
「なに、それ?」
「ああ、その名も・・・」
そんな思い出とともにクーラーボックスを開ける。
中に入っているのはウォッカ、ピーチリキュール、クレーム・ド・フランボワーズ(ラズベリーのお酒だ)、そしてパイナップルジュース・・・
「何々、カクテル?」
「そうだ」
オレはそれだけ言って手早く用意をする。
コリンズ・グラスに氷を入れ、ウォッカを15cc、ピーチリキュールを20cc、クレーム・ド・フランボワーズを15ml、パイナップルジュース を80cc計って入れる。
適当でも良いらしいし、素早さを重視して入れているからぴったりとその量を入れているかどうかは怪しいけど、まぁ良いだろう。
これを軽くステアー(マドラーでかき混ぜる)するだけで出来上がり。
「あれれ? かしゃかしゃ〜って、やらないの?」
「ああ、やらない。シェイクするのは一気に温度を冷やしたい物か、しっかり混ぜないと分離してしまうクリームとかを使ったカクテルの時だけだ」
もうちょっと待ってくれと俺はエレーヌに断り、急いでもう一つ同じカクテルを作る。
ちなみに材料はクレメンスさんから
「結婚記念日だから、お祝いとしてはつまらないものだけど、分けてあげる」
と譲ってもらった。
材料も道具も、ディランさんとクレメンスさんが経営しているお店がカフェバーのため、簡単に手に入った。
「はい、どうぞ」
短い間だが、氷が溶けて味が変わっているかもしれないので後につくった方をエレーヌに渡す。
「なぁに、これ? 新しいカフェバーのメニュー?」
「新しいってほどでもないけど、まあ飲もうぜ。こほん」
臭いセリフを言ってみようとして咳払いをする。
「・・・乾杯」
「乾杯〜♪」
駄目だ、思いつかなかった!!
軽くグラスをぶつけて淡い桃色の液体を煽った。
桃の甘みと香りが口いっぱいに広がり、さらにパイナップルジュースの甘みと爽やかさがさらに広がる。
うん、とにかく甘い。
しかし、クンと来るアルコールの刺激は、大人な気持ちを味あわせてくれつつも、優しくはないものだ。
「・・・おいしいわね、これ!」
「だろ?」
このカクテルだけはいつか作ってやろうと高校生の時から、マティーニやギムレットなど他のオーソドックスなカクテルそっちのけでレシピを覚えていた。
そして今、とても大切な、好色なメロウとともにそれを飲んでいる。
「で、このカクテルの名前は?」
はいはい来ました、待っていました。
多分、オレは今ドヤ顔に近い表情を浮かべている。
これ言ったら絶対エレーヌはなんか言うな。
というか狙って作ったからな。
こんなこと、エレーヌじゃないと言えない、できない。
「Sex on the beach」
「なにそれ! エッチな名前ね!」
ほら言った!予想通りの反応をしたぞ!
エレーヌは楽しげに笑いながら言う。
「浜辺でエッチ!? ストレートね!」
お前の言葉の方がストレートだぞと突っ込みたいが苦笑して我慢しつつ、もう空になったエレーヌのグラスを水で軽く洗う。
「もう一杯いかが?」
「いただくわ」
手早く、さっきと同じ要領でSex on the Beachを作る。
「これがやりたくてユウタはわざわざ魔導保冷箱を持ち歩いてあたしとデートして、ここに来たんだ?」
「・・・まぁな」
こんなこと、エレーヌ相手じゃないとできないよ、と苦笑しながらオレはエレーヌに新しいSex on the Beachを渡す。
いや、苦笑しながらと言うけど、一部では本気の笑顔だ。
こんなバカなこと、エレーヌが相手じゃないとできない。
それが嬉しくて、そして予想通りの反応で喜んでくれたエレーヌを見るのが楽しくてついつい笑顔がこぼれてしまう。
オレ達は波の音と周りにいるカップルの微かな声をBGMにしながら、Sex on the Beachを飲み、たわいもない雑談(という名の猥談)を続けた。
・・・どうしてこうなった?
いつの間にかウォッカの瓶だけが空だ。
多少誤差は出るとはいえ、Sex on the Beachを作り続けたら全部の材料がちょうどなくなる量を用意したはずなのに・・・
理由は簡単だ。
酔っ払ったオレたちはSex on the Beachを作るのがおっくうになり、途中からウォッカだけを飲みだしたからだ。
ウォッカをラッパ飲みしてエレーヌのくちびるを奪い、ウォッカを流し込む。
それを飲み干したエレーヌが今度は自分からウォッカを口にし、キスしながらオレに口移しでウォッカを飲ませる・・・
こんなことを繰り返していたらこのざまだ。
フラフラするが気分は悪くない。
師匠から喰らった上段回し蹴りで、痛みを取り除いたらこんな感じかも・・・
あれは気持ちいいくらいに意識が飛ぶからなぁ・・・オレ、マゾじゃないはずなのにな。
砂浜にあおむけで寝転びながらオレは考える。
そう言えばエレーヌは・・・?
「ぐすっ・・・ひぐっ、うう・・・」
泣いている!?
エレーヌの泣き声を聞いてオレは身体を起こした。
11/07/13 20:50更新 / 三鯖アキラ(旧:沈黙の天使)
戻る
次へ