龍だらけのターニングポイント
中学の頃だっただろうか。映画館のポスターを見て何となく面白そうだったのでそのまま観た一本の映画。
オレンジのスープラがニトロ全開でかっ飛ばす。
｢ワイルドスピード｣に衝撃を受けた俺は、いつかあんなカッコイイチューニングカーでかっ飛ばしたいと思っていた。
･･･映画に憧れて数年後。
やっと自分のクルマを手にした。
とは言っても、ちょっとバイトをしているだけの学生の身分でそんな何十万もする中古車が買えるわけもなく現実は20年落ちのAT191カリーナ。
正直言って、ボロい。
おまけにSG-iって安グレード。正直、バンパーは傷だらけだしシートはだいぶヤレている。ワイスピやイニDに憧れた自分としては5MTだったのがせめてもの救いだ。親戚のじいさんが急に死んで･･･まぁ、要はお下がりって訳。
あの映画のようにニトロ全開でストリートをかっ飛ばす･･･なんてのは何年も先の話だろう。
でも、幸運(いや、不幸か？)も手伝って初めて手にした自分のクルマ。傷だらけの顔面は解体屋で適当なジャンクパーツを安く買ってきて自分で交換、通販で買った安いカッティングシートで作った自作バイナルを張る。見た目だけは何とか一端のストリートレーサーっぽくなった･･･と言いたいのだが、ワイスピ2のS2000を参考にしたらどこで間違えたのか完璧に痛車になってしまった。まぁ、それはそれでアリなのだが。
ボディはホワイトなのに何故か顔面がブラック。だが、本場USのスポコン系EFシビックで感覚が麻痺したのか･･･これも一つのデザインとして受け入れていた。
ある程度形も整ってきたので、お祓いでも受けてみようかと近所のお社に行ってみた･･･。
後から思えば、ずいぶん無茶苦茶なことをしたものである。
♪The dragon's coming out
To lead you to the power
And every one will see〜
道中、Powerful T.の The Year Of The Dragonを大音量で流していた。
まぁ、さすがに社に付く前には音量を下げたが。
余談だがオーディオにそんなに金をかけられるわけもなく、解体屋のクレスタから引っこ抜いた超が付くほど旧型のナビにセルシオのスピーカー、サブウーファーは知り合いの板金屋でもらってきた安物なわけで総額5000円かかったかどうかと言うくらいだ。
･･････････････････････････････････････
｢あら、それでしたらこれに必要事項を記入してください。｣
社務所にいた一人の巫女さん。
予想だにしないタイミングで現れた美人のお姉さんに、思考が止まってしまう。
｢あのー、もしもし？｣
｢あ、はいっ！えーと、これがこうでーーーっ!｣
彼女はしょうがないわねぇ、と言った表情でくすっと笑った。
｢今すぐでもできますけど、どうします？｣
｢は、はいっ！お願いしますっ！｣
明らかに、俺は声が裏返っていた。ポーカーフェイスは苦手なクチなので、多分表情も大変なことになっていただろう。
｢･･･。｣
彼女は社務所からでてくるときも、すっと思わせぶりな視線を投げかけてきた。
｢あーあ、彼女に目を付けられちゃったねぇ。｣
｢･･･え？私、何か地雷踏みました？｣
｢君、ここに奉ってある神を知らないのかい！？｣
･･･知っているわけがない。この街には進学してから越してきたのだから。
｢水を司る、龍神様だよ。｣
｢へぇ、そうなんですか。｣
そこに、例の『彼女』がやってきた。
｢それでは、はじめましょうか。｣
･･････････････････････････････････････
無事お祓いが終了した後。
｢良かったら、観ていってください。｣
彼女は俺を本殿に連れて行き、その前で舞を披露してくれた。
彼女の美しさと舞の美しさが、二重に攻撃を仕掛けてくる。
神々しい美しさと、性的な意味での美しさ。罰当たりだがどことなくエロい、だけどやっぱり神々しい。こんな合わせ技反則だよと思いながら、彼女に見とれていた。
そして初穂料を納めようとした。
だが、その瞬間･･･彼女の目の色が変わった。
そして出てきた彼女に･･･手首を捕まれた。
｢もう一度、本殿で待っていてください。｣
それから数分後。
本殿には俺と彼女の二人っきり。
｢あぁ、脚を崩してもいいですよ。ここの神様は、礼儀にうるさくないですから。｣
正座がしんどそうな様子を見ての気配りに、素直に甘えることにした。
｢先ほどから、私の身体を舐めるように見てましたよね。｣
｢ご、ごめんなさいっ！あまりに美しくて、ついっ！｣
｢あんまり熱い視線を送るモノだから、私も欲情しちゃうじゃないですか･･･｣
アレ、｢欲情｣??
何か話が変な方向に向いてるぞ。
｢まだ気づかないんですか？｣
何がだよ。
｢私が、ここの神様なんです。｣
｢はい！？｣
そんなバカな。ありえない。どういうことなの･･･。
｢初穂料は、あなた自身です。私の男になって下さい。｣
｢は？｣
正直、意味が理解できなかった。
･･････････････････････････････････････
そういえばあのじいさん、死ぬ間際に意味深なことを言ってたな。
｢近いうち、竜神様がお前を求めるだろう。その時は、すぐに応えてやるんだぞ･･･｣
正直、クルマが「Carina＝竜骨座」なだけに最初はネタかモノの例えと思った。
折角やるんだから大切に乗れよ、とか、そう言う意味だと思っていた。
だから、適当に聞き流していた。
しかし、そうではなかった。
全くもって言葉通りの事態が、今まさに起こっている。
いったい俺はどうすればいいんだ？
･･････････････････････････････････････
思わず目を閉じ、頭を抱えて悩んでいた。
その時だった。
とんとんっ。
何か硬い紐のようなモノが、俺の肩をそっと叩く。
すると･･･
目の前に、巨大な竜がいた。
驚いて両腕を上げた瞬間、腰回りに｢彼女｣の尻尾が巻き付く。
試しに外そうと試みるが、全然外れる気配はない。
｢離すわけないじゃないですか。むしろ離れたくなくしてあげます。｣
完全にロックオンされていると言うわけだ。
｢一つ確認するが、アンタはさっきまでそこにいた巫女さんと同一人物ってコトでいいのか？｣
｢えぇ、その通りです。｣
｢･･･そうか。さっきまで邪な目でアンタを見ていたことは謝る。だから離してくれ。｣
｢･･･はぁ、辰巳さんは私が何を欲しているか理解していないようですね。いいです、今からその身体に教え込んであげます。｣
その瞬間、俺は押し倒された。
不思議と床は暖かい。
｢♪遅か〜れ〜早か〜れ〜避けら〜れ〜ぬ〜｣
｢待てっ！それ以上は著作権的にアウトだっ！｣
確かアレは、数年前に珍しく新品で購入したとある”地平線”な楽団のCDの収録曲だった。
自分のクルマにもコピー(マスターは部屋で保管している)が置いてあったのでネタを使えるのはわかっていたのかもしれないが、しかし何でこんなネタを知ってる。
そんな混乱をよそに、彼女は親か友達が罠にかかったことを喜ぶいたずらっ子のような表情を浮かべながら俺に覆い被さってくる。
｢まぁ、本当にここでこうするつもりでしたからホットカーペットを用意しておきました。｣
本当に彼女に喰われるのは遅かれ早かれ避けられぬらしい。
そして･･･そのまま俺を優しく抱きしめた。
少しゴツゴツした腕は頼りがいを感じさせる。
その表情と口調は深い包容力を感じさせる。
むにむにと押し当てられたおっぱいは理性という名の武装を解除させる。
その体温は体だけでなく心まで暖めてくれる。
彼女は、その全身で俺に｢安心｣を与えてくれている。
出会って半日も経っていない。
だが、俺の本能が言っている。
この龍神様になら、身を預けても大丈夫だと
｢･･･これから、どうするつもりですか･･･？｣
｢辰巳さんを、私のモノにします。私を、最初で最後の女にしてもらいます。欲情した神様に押し倒されているって、どういう意味かわかりますよね？｣
･･････････････････････････････････････
俺は、こくりと頷いて彼女に身を任せることにした。
｢改めて、俺は水崎 辰巳。あなたは？｣
｢え、名前ですか!? 困りましたねぇ･･･実は、『綾月の龍神様』で通っているので･･･ちゃんとした名前って言うのはないんですよ･･･。｣
綾月というのは、この社がある土地の名前である。
｢それじゃ、しばらく『綾さん』って呼ばせてもらっていいかな。｣
｢綾･･･水崎 綾･･･はいっ！｣
｢それでは、善は急げです！早速始めましょう！｣
明らかに興奮している。俺の制止も無視し、下半身を脱がせ始める。
暴走機関車とは今の綾さんのことを言うのかもしれない。
｢ま、待って綾さ･･･｣
ぬぷっ。
｢あっ･･･！｣
その間、わずか1分。
俺の童貞は、綾さんにアッサリ奪われてしまった。
そして互いに、理性を失った獣となった･･･
と言いたいのだが、綾さんのま○こは童貞には刺激が強すぎた。
3往復であっという間に昇天。
ハッキリ言って、我ながら情けな･･･
｢ふふ、もうイっちゃったんですね。私のおま○こ、そんなに気持ち良かったんですかぁ〜？｣
｢･･･｣
正直、一回イったんだから離してくれと思う。
しかし放出してしぼんだ、普通なら抜け落ちてしまいそうな俺のモノを綾さんはがっちりとくわえ込んで離さない。しかも腰が完全にホールドされており、脱落を許さない。
･･･そんなこんなで、発狂しかねないくらい感じてしまっているのだが･･･言葉を出す余裕がない。
｢は･･･な･･･せ･･･｣
｢だーめっ♪｣
俺が苦しいのはわかってるはずだ。
くちゅっ。
綾さんが軽く動いて、また俺を責め立てる。
｢･･･もし“壊れて”も大丈夫ですよ。私がずっとこうしてあげます。自分を解放して、私に身を委ねて、今を楽しみなさい。｣
･･･その瞬間、理性が爆破された。
苦痛の正体は、受容の限界を超えた快楽だった。
理性と快楽の摩擦熱が、一気に消える。
だが、それは同時に龍神様の手下となると言うことでもあった。
しかしそれにも気づかず、快楽に負けて俺は腰を振っていた。
そしてそれにもかかわらず、綾さんはもっともっとと俺を求めてくる。
どこの誰が、あの巫女さんがこんな淫乱だと思うだろう。
･･･
神様は神聖な存在であることは間違いない。
だから、こんな性的なことは大嫌い。そう思っていた時期が俺にもありました。
･･･今、俺はその神様に性的な意味でむさぼられちゃってます。
･･･
ただ、一方的にむさぼられているわけではなかった。
俺もまた、綾さんをむさぼっていたのだった。
互いの与える快楽が、相手を興奮させ、それがさらなる興奮として返ってくる。
そして･･･
｢綾さんっ！そんなに締め付けないでっ！もう我慢できないっ！｣
｢我慢しないでっ！辰巳くんっ！私ももうだめっ！二人でイこっ！｣
｢あぁーーーーーっ！！！｣
二人の声が重なった。
そして、脱力した身体も重なった。
･･････････････････････････････････････
しばらくして、綾さんが囁いた。
｢ふふ、夢中で腰振っちゃって。良かったわよ。決めた。今日からあなたは私の夫。ご両親にも納得してもらって、いっそのこと今から婚姻届でも。｣
｢おいおいおい。｣
･･･話が急すぎるぞ。
｢いいじゃないですか。それとも私では不満ですか？｣
そんなわけない。人に化けてる姿には恐ろしく見惚れていたし、今の姿だって神々しいのに凄くエロい。趣味に理解も示してくれているし、拒否する理由がどこにあるのだろう。
ただ、結婚を決めるには交際期間が恐ろしく短すぎ、判断材料も少なすぎると言うだけだ。
それに、本当のところ言うとクルマの販売に関わって巷で騒がれる「若者のクルマ離れ」の抑止に尽力したいとも思っていた。だからそんな重大なことを簡単には決められない。
しかしそれを聞いても尚、綾さんのアタックは続く。
いや、むしろ火に油を注いでしまった。
｢それは、もっと早く言うべきでしたね。しかし一度交わってしまった以上、辰巳くんにはもう職業選択の自由はありません。私の伴侶として、永久就職する以外には。｣
きっぱり言いやがった。
｢勿論見返りはあります。さすがに大富豪のような生活は無理でしょうけど、それでも私と一緒にいてくれるならそのおじいさまくらいの、いえそれ以上の生活を保障できます。｣
正直、安定的な生活が送れるというのは魅力的だ。
｢但し、断れば今すぐ、そして一生路上生活者ですからね？｣
マジかよ。
何でそんな極端な分岐！？
｢正直なところ言いますと、今すぐ学校を辞めて頂きたいくらいなんです。神職としての知識を覚えるという必要もありません。そんな上辺だけの行動よりも、私は今のこの幸せな時間を大切にしたい。神様本人がこう言うのに、それを曲げる必要がどこにあるんですか?｣
･･･そうか。
一人で寂しいっていうのは、誰でも同じなんだな。
だから、俺は綾さんにこう言った。
｢結婚に関しては、心の準備ができるまで待ってください。ただ･･･｣
ところが、彼女は聞く耳を持たなかった。
｢♪遅か〜れ〜早か〜れ〜｣
｢だからその曲はやめろっ！｣
｢す、すいません！ちょっと助けてください！｣
｢君は綾月の龍神様に魅入られて、しかも交わってしまったんだ。もう、どうすることもできないよ。辰巳くん、もう龍神様に養ってもらうしかないのさ。｣
｢龍哉(りゅうや)さん、もう『綾月の龍神様』なんて呼ばないでください。今日から、私の名前は『水崎 綾』です。もっと親しみを込めて、呼び捨てでもかまいませんよ。｣
｢辰巳くんが、竜骨座という名前のクルマに乗って、何も知らずに龍神様を奉るお社にやってきた。しかも辰年って意味のタイトルの曲を聴きながら。きっと、綾さんと結婚するのは必然でしかないのさ。これで辰年生まれならパーフェクトだったんだけどなぁ。｣
明るく話す二人とは対照的に、俺の表情は暗かった。
それを察し、龍哉さんは声のトーンを落としこう続ける。
｢･･･夢を諦めざるを得なくなったのは残念だし申し訳ないと思う。しかし･･･｣
｢あまり言いたくはありませんが、例えどこで就職しても、所詮ナンバーで管理され換えの効く歯車でしかありません。でもここでは辰巳くんはもう唯一無二の、私のかけがえのない夫であり助手なんです。｣
｢それ以前に神が心身共に満たされている、そんな地には必ず発展がもたらされる。それは歴史的に証明されているんだ。迷う理由は、もうないはずだ。｣
･･････････････････････････････････････
目を閉じて、状況の把握と判断を行うことにしよう。
・たまたま会った巫女さんが、実は地元の龍神様だった。
・俺は彼女に激しく求婚されている。
・彼女が半ば逆レイプするような形で俺たちはヤッてしまった。
・しかし自分自身にも火がついてしまい、結局和姦同然に。
・求婚に応じれば、あのじいさん以上の生活が一生涯保証される。
・だが、断れば一生涯路上生活者。
・就職活動は強制終了。それどころか、退学して欲しいとさえ思っている。
・神職としての技能・知識はいっさい必要とされない。
・俺の趣味に対する理解は十分にある。
それでは、俺自身の状況はというと･･･
・就職活動はじわじわ始まりだしたところだが、幸先がいいとはいえない。
・先述の通り夢はあるものの、まだ妄想に過ぎない。
・実際に話を聞くと、自分につとまるかは正直不安だらけ。
・かといって、他に選択肢も思い浮かばない。
･･････････････････････････････････････
｢･･･巳さん、辰巳さんってば!｣
｢え、何?何なの!?｣
｢･･･とりあえず、今日は泊まっていってください。｣
仕方なしに、それに従うことにした。
風呂に入っていると、彼女が半端なくアタックしてくる。
背中を流してくれるのは序の口で･･･
｢辰巳くん。今度は、私の身体･･･洗ってください。｣
チョットマテ、トイウコトハデスヨ。綾サンノぼでぃーヲ触リマクルトイウコトデスヨ。
･･･その後、綾さんのペースに飲み込まれて結局喰われてしまったのは言うまでもない。
コトのあとの風呂を済ませ、綾さんの部屋で二人くつろいでいた。
彼女の部屋からは、青々とした山と大きな湖が見える。
｢私は、こう見えてこの森を管理しています。気候を操り、この地に雨をもたらすことによって。｣
｢もし職業を聞かれたら、誇りを持って言ってください。竜神様の助手として、気候の安定に努めていると。｣
彼女が住むのは、凄く立派な一軒家。
派手な装飾はないけど、芯がしっかりしていて築30年は経つそうだが妙なきしみは一切無い。派手さはないけど芯がしっかりしてて不朽の価値を持つって、レガシィかよってな話だが。
正直、木造特有のきしみが嫌で｢家を建てるなら絶対鉄筋コンクリート造!!｣と豪語していた自分の理想を根底から揺るがしてしまうほどだった、それくらい立派だった。
雰囲気は和風でありながらも、洋風のしゃれた部分や機能性も併せ持つ。これなら、あと20年住み続けたってさして問題は出ないだろう。
｢今日は、辰巳くんが来てくれて本当に嬉しいです。私、ずっと寂しかったんです。｣
時にお社の来客に貸すことはあっても、ほとんど使われない１階の部屋。
確かにこんなお屋敷に一人じゃぁ、いくら神様と言えど寂しいに違いない。
2階にある彼女の部屋。
山からの冷たいそよ風が、完全に開け放たれたベランダの窓から吹き込んでくる。
｢寒いですけど、何だか気持ちいいですね。｣
｢この風景を、二人でずっと護っていきましょうね。｣
もう、全ては決まった。
･･････････････････････････････････････
彼女に後から聞いた話だが、あのじいさんも別の竜神様の加護を受けていたらしい。
その神様はじいさんの意志を尊重して今の生活を壊さないように配慮はしてくれたらしい。その分戻りは少なかったが、それでも老後に不安もなく普通にテレビとビデオを地デジ化して、家をオール電化にして、俺に小遣いをくれる程度の経済的余裕はあった。クルマが20年落ちだったのもただ買い換えるほどの理由がなかったからで、いつでも買い換えることはできたらしい･･･それもキャッシュで。
｢ほとんど接触の無かったおじいさまでもあの調子ですから、私を娶った辰巳さんがどうなるかは推して知るべきです。まぁ、悪いようにはしませんよ♪｣
･･････････････････････････････････････
結局、俺と綾さんはしばらくして結婚した。
学校も辞めることになった。
部屋も引き払って、例の屋敷を存分に活用している。
俺はとにかく持ち物が多いんだが･･･それでもスペースが余るってどんだけ。
今日は田畑の様子を見回りに行くことになっていた。
状況の把握は仕事する上で大切なのは、龍神様であっても変わらないのだ。
｢あ、今日は結構山の方に行きますのでこっちで。｣
確かに、エアロ＋ローダウンで農道なんて無謀すぎるわけで。
こんな土地だしパジェロかランクルにでも乗ってるのかと思いきや、出てきたのは･･･
｢よりによってムッソーって･･･今度は”ダブル・ドラゴン”ですか。｣
知らない人のために解説すると、ムッソーというのは韓国のSUVを得意とするメーカー、サンヨンが製造・販売している大型SUV。
で、サンヨンを漢字で書くと｢双竜｣。
こんな所まで竜、それもダブルでかよと思わず笑ってしまう。
｢ホント、不思議ですよね。探した訳じゃなくって、この子も縁あってウチに来たんです。｣
｢次はどんな“龍”絡みのものが来るんでしょうね。｣
｢･･･人と龍のハーフがそろそろ来てくれてもいい頃なんですけどね。｣
冗談とも本気ともとれる彼女の一言と共に、“トリプル・ドラゴン”はその場をあとにした。
オレンジのスープラがニトロ全開でかっ飛ばす。
｢ワイルドスピード｣に衝撃を受けた俺は、いつかあんなカッコイイチューニングカーでかっ飛ばしたいと思っていた。
･･･映画に憧れて数年後。
やっと自分のクルマを手にした。
とは言っても、ちょっとバイトをしているだけの学生の身分でそんな何十万もする中古車が買えるわけもなく現実は20年落ちのAT191カリーナ。
正直言って、ボロい。
おまけにSG-iって安グレード。正直、バンパーは傷だらけだしシートはだいぶヤレている。ワイスピやイニDに憧れた自分としては5MTだったのがせめてもの救いだ。親戚のじいさんが急に死んで･･･まぁ、要はお下がりって訳。
あの映画のようにニトロ全開でストリートをかっ飛ばす･･･なんてのは何年も先の話だろう。
でも、幸運(いや、不幸か？)も手伝って初めて手にした自分のクルマ。傷だらけの顔面は解体屋で適当なジャンクパーツを安く買ってきて自分で交換、通販で買った安いカッティングシートで作った自作バイナルを張る。見た目だけは何とか一端のストリートレーサーっぽくなった･･･と言いたいのだが、ワイスピ2のS2000を参考にしたらどこで間違えたのか完璧に痛車になってしまった。まぁ、それはそれでアリなのだが。
ボディはホワイトなのに何故か顔面がブラック。だが、本場USのスポコン系EFシビックで感覚が麻痺したのか･･･これも一つのデザインとして受け入れていた。
ある程度形も整ってきたので、お祓いでも受けてみようかと近所のお社に行ってみた･･･。
後から思えば、ずいぶん無茶苦茶なことをしたものである。
♪The dragon's coming out
To lead you to the power
And every one will see〜
道中、Powerful T.の The Year Of The Dragonを大音量で流していた。
まぁ、さすがに社に付く前には音量を下げたが。
余談だがオーディオにそんなに金をかけられるわけもなく、解体屋のクレスタから引っこ抜いた超が付くほど旧型のナビにセルシオのスピーカー、サブウーファーは知り合いの板金屋でもらってきた安物なわけで総額5000円かかったかどうかと言うくらいだ。
･･････････････････････････････････････
｢あら、それでしたらこれに必要事項を記入してください。｣
社務所にいた一人の巫女さん。
予想だにしないタイミングで現れた美人のお姉さんに、思考が止まってしまう。
｢あのー、もしもし？｣
｢あ、はいっ！えーと、これがこうでーーーっ!｣
彼女はしょうがないわねぇ、と言った表情でくすっと笑った。
｢今すぐでもできますけど、どうします？｣
｢は、はいっ！お願いしますっ！｣
明らかに、俺は声が裏返っていた。ポーカーフェイスは苦手なクチなので、多分表情も大変なことになっていただろう。
｢･･･。｣
彼女は社務所からでてくるときも、すっと思わせぶりな視線を投げかけてきた。
｢あーあ、彼女に目を付けられちゃったねぇ。｣
｢･･･え？私、何か地雷踏みました？｣
｢君、ここに奉ってある神を知らないのかい！？｣
･･･知っているわけがない。この街には進学してから越してきたのだから。
｢水を司る、龍神様だよ。｣
｢へぇ、そうなんですか。｣
そこに、例の『彼女』がやってきた。
｢それでは、はじめましょうか。｣
･･････････････････････････････････････
無事お祓いが終了した後。
｢良かったら、観ていってください。｣
彼女は俺を本殿に連れて行き、その前で舞を披露してくれた。
彼女の美しさと舞の美しさが、二重に攻撃を仕掛けてくる。
神々しい美しさと、性的な意味での美しさ。罰当たりだがどことなくエロい、だけどやっぱり神々しい。こんな合わせ技反則だよと思いながら、彼女に見とれていた。
そして初穂料を納めようとした。
だが、その瞬間･･･彼女の目の色が変わった。
そして出てきた彼女に･･･手首を捕まれた。
｢もう一度、本殿で待っていてください。｣
それから数分後。
本殿には俺と彼女の二人っきり。
｢あぁ、脚を崩してもいいですよ。ここの神様は、礼儀にうるさくないですから。｣
正座がしんどそうな様子を見ての気配りに、素直に甘えることにした。
｢先ほどから、私の身体を舐めるように見てましたよね。｣
｢ご、ごめんなさいっ！あまりに美しくて、ついっ！｣
｢あんまり熱い視線を送るモノだから、私も欲情しちゃうじゃないですか･･･｣
アレ、｢欲情｣??
何か話が変な方向に向いてるぞ。
｢まだ気づかないんですか？｣
何がだよ。
｢私が、ここの神様なんです。｣
｢はい！？｣
そんなバカな。ありえない。どういうことなの･･･。
｢初穂料は、あなた自身です。私の男になって下さい。｣
｢は？｣
正直、意味が理解できなかった。
･･････････････････････････････････････
そういえばあのじいさん、死ぬ間際に意味深なことを言ってたな。
｢近いうち、竜神様がお前を求めるだろう。その時は、すぐに応えてやるんだぞ･･･｣
正直、クルマが「Carina＝竜骨座」なだけに最初はネタかモノの例えと思った。
折角やるんだから大切に乗れよ、とか、そう言う意味だと思っていた。
だから、適当に聞き流していた。
しかし、そうではなかった。
全くもって言葉通りの事態が、今まさに起こっている。
いったい俺はどうすればいいんだ？
･･････････････････････････････････････
思わず目を閉じ、頭を抱えて悩んでいた。
その時だった。
とんとんっ。
何か硬い紐のようなモノが、俺の肩をそっと叩く。
すると･･･
目の前に、巨大な竜がいた。
驚いて両腕を上げた瞬間、腰回りに｢彼女｣の尻尾が巻き付く。
試しに外そうと試みるが、全然外れる気配はない。
｢離すわけないじゃないですか。むしろ離れたくなくしてあげます。｣
完全にロックオンされていると言うわけだ。
｢一つ確認するが、アンタはさっきまでそこにいた巫女さんと同一人物ってコトでいいのか？｣
｢えぇ、その通りです。｣
｢･･･そうか。さっきまで邪な目でアンタを見ていたことは謝る。だから離してくれ。｣
｢･･･はぁ、辰巳さんは私が何を欲しているか理解していないようですね。いいです、今からその身体に教え込んであげます。｣
その瞬間、俺は押し倒された。
不思議と床は暖かい。
｢♪遅か〜れ〜早か〜れ〜避けら〜れ〜ぬ〜｣
｢待てっ！それ以上は著作権的にアウトだっ！｣
確かアレは、数年前に珍しく新品で購入したとある”地平線”な楽団のCDの収録曲だった。
自分のクルマにもコピー(マスターは部屋で保管している)が置いてあったのでネタを使えるのはわかっていたのかもしれないが、しかし何でこんなネタを知ってる。
そんな混乱をよそに、彼女は親か友達が罠にかかったことを喜ぶいたずらっ子のような表情を浮かべながら俺に覆い被さってくる。
｢まぁ、本当にここでこうするつもりでしたからホットカーペットを用意しておきました。｣
本当に彼女に喰われるのは遅かれ早かれ避けられぬらしい。
そして･･･そのまま俺を優しく抱きしめた。
少しゴツゴツした腕は頼りがいを感じさせる。
その表情と口調は深い包容力を感じさせる。
むにむにと押し当てられたおっぱいは理性という名の武装を解除させる。
その体温は体だけでなく心まで暖めてくれる。
彼女は、その全身で俺に｢安心｣を与えてくれている。
出会って半日も経っていない。
だが、俺の本能が言っている。
この龍神様になら、身を預けても大丈夫だと
｢･･･これから、どうするつもりですか･･･？｣
｢辰巳さんを、私のモノにします。私を、最初で最後の女にしてもらいます。欲情した神様に押し倒されているって、どういう意味かわかりますよね？｣
･･････････････････････････････････････
俺は、こくりと頷いて彼女に身を任せることにした。
｢改めて、俺は水崎 辰巳。あなたは？｣
｢え、名前ですか!? 困りましたねぇ･･･実は、『綾月の龍神様』で通っているので･･･ちゃんとした名前って言うのはないんですよ･･･。｣
綾月というのは、この社がある土地の名前である。
｢それじゃ、しばらく『綾さん』って呼ばせてもらっていいかな。｣
｢綾･･･水崎 綾･･･はいっ！｣
｢それでは、善は急げです！早速始めましょう！｣
明らかに興奮している。俺の制止も無視し、下半身を脱がせ始める。
暴走機関車とは今の綾さんのことを言うのかもしれない。
｢ま、待って綾さ･･･｣
ぬぷっ。
｢あっ･･･！｣
その間、わずか1分。
俺の童貞は、綾さんにアッサリ奪われてしまった。
そして互いに、理性を失った獣となった･･･
と言いたいのだが、綾さんのま○こは童貞には刺激が強すぎた。
3往復であっという間に昇天。
ハッキリ言って、我ながら情けな･･･
｢ふふ、もうイっちゃったんですね。私のおま○こ、そんなに気持ち良かったんですかぁ〜？｣
｢･･･｣
正直、一回イったんだから離してくれと思う。
しかし放出してしぼんだ、普通なら抜け落ちてしまいそうな俺のモノを綾さんはがっちりとくわえ込んで離さない。しかも腰が完全にホールドされており、脱落を許さない。
･･･そんなこんなで、発狂しかねないくらい感じてしまっているのだが･･･言葉を出す余裕がない。
｢は･･･な･･･せ･･･｣
｢だーめっ♪｣
俺が苦しいのはわかってるはずだ。
くちゅっ。
綾さんが軽く動いて、また俺を責め立てる。
｢･･･もし“壊れて”も大丈夫ですよ。私がずっとこうしてあげます。自分を解放して、私に身を委ねて、今を楽しみなさい。｣
･･･その瞬間、理性が爆破された。
苦痛の正体は、受容の限界を超えた快楽だった。
理性と快楽の摩擦熱が、一気に消える。
だが、それは同時に龍神様の手下となると言うことでもあった。
しかしそれにも気づかず、快楽に負けて俺は腰を振っていた。
そしてそれにもかかわらず、綾さんはもっともっとと俺を求めてくる。
どこの誰が、あの巫女さんがこんな淫乱だと思うだろう。
･･･
神様は神聖な存在であることは間違いない。
だから、こんな性的なことは大嫌い。そう思っていた時期が俺にもありました。
･･･今、俺はその神様に性的な意味でむさぼられちゃってます。
･･･
ただ、一方的にむさぼられているわけではなかった。
俺もまた、綾さんをむさぼっていたのだった。
互いの与える快楽が、相手を興奮させ、それがさらなる興奮として返ってくる。
そして･･･
｢綾さんっ！そんなに締め付けないでっ！もう我慢できないっ！｣
｢我慢しないでっ！辰巳くんっ！私ももうだめっ！二人でイこっ！｣
｢あぁーーーーーっ！！！｣
二人の声が重なった。
そして、脱力した身体も重なった。
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しばらくして、綾さんが囁いた。
｢ふふ、夢中で腰振っちゃって。良かったわよ。決めた。今日からあなたは私の夫。ご両親にも納得してもらって、いっそのこと今から婚姻届でも。｣
｢おいおいおい。｣
･･･話が急すぎるぞ。
｢いいじゃないですか。それとも私では不満ですか？｣
そんなわけない。人に化けてる姿には恐ろしく見惚れていたし、今の姿だって神々しいのに凄くエロい。趣味に理解も示してくれているし、拒否する理由がどこにあるのだろう。
ただ、結婚を決めるには交際期間が恐ろしく短すぎ、判断材料も少なすぎると言うだけだ。
それに、本当のところ言うとクルマの販売に関わって巷で騒がれる「若者のクルマ離れ」の抑止に尽力したいとも思っていた。だからそんな重大なことを簡単には決められない。
しかしそれを聞いても尚、綾さんのアタックは続く。
いや、むしろ火に油を注いでしまった。
｢それは、もっと早く言うべきでしたね。しかし一度交わってしまった以上、辰巳くんにはもう職業選択の自由はありません。私の伴侶として、永久就職する以外には。｣
きっぱり言いやがった。
｢勿論見返りはあります。さすがに大富豪のような生活は無理でしょうけど、それでも私と一緒にいてくれるならそのおじいさまくらいの、いえそれ以上の生活を保障できます。｣
正直、安定的な生活が送れるというのは魅力的だ。
｢但し、断れば今すぐ、そして一生路上生活者ですからね？｣
マジかよ。
何でそんな極端な分岐！？
｢正直なところ言いますと、今すぐ学校を辞めて頂きたいくらいなんです。神職としての知識を覚えるという必要もありません。そんな上辺だけの行動よりも、私は今のこの幸せな時間を大切にしたい。神様本人がこう言うのに、それを曲げる必要がどこにあるんですか?｣
･･･そうか。
一人で寂しいっていうのは、誰でも同じなんだな。
だから、俺は綾さんにこう言った。
｢結婚に関しては、心の準備ができるまで待ってください。ただ･･･｣
ところが、彼女は聞く耳を持たなかった。
｢♪遅か〜れ〜早か〜れ〜｣
｢だからその曲はやめろっ！｣
｢す、すいません！ちょっと助けてください！｣
｢君は綾月の龍神様に魅入られて、しかも交わってしまったんだ。もう、どうすることもできないよ。辰巳くん、もう龍神様に養ってもらうしかないのさ。｣
｢龍哉(りゅうや)さん、もう『綾月の龍神様』なんて呼ばないでください。今日から、私の名前は『水崎 綾』です。もっと親しみを込めて、呼び捨てでもかまいませんよ。｣
｢辰巳くんが、竜骨座という名前のクルマに乗って、何も知らずに龍神様を奉るお社にやってきた。しかも辰年って意味のタイトルの曲を聴きながら。きっと、綾さんと結婚するのは必然でしかないのさ。これで辰年生まれならパーフェクトだったんだけどなぁ。｣
明るく話す二人とは対照的に、俺の表情は暗かった。
それを察し、龍哉さんは声のトーンを落としこう続ける。
｢･･･夢を諦めざるを得なくなったのは残念だし申し訳ないと思う。しかし･･･｣
｢あまり言いたくはありませんが、例えどこで就職しても、所詮ナンバーで管理され換えの効く歯車でしかありません。でもここでは辰巳くんはもう唯一無二の、私のかけがえのない夫であり助手なんです。｣
｢それ以前に神が心身共に満たされている、そんな地には必ず発展がもたらされる。それは歴史的に証明されているんだ。迷う理由は、もうないはずだ。｣
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目を閉じて、状況の把握と判断を行うことにしよう。
・たまたま会った巫女さんが、実は地元の龍神様だった。
・俺は彼女に激しく求婚されている。
・彼女が半ば逆レイプするような形で俺たちはヤッてしまった。
・しかし自分自身にも火がついてしまい、結局和姦同然に。
・求婚に応じれば、あのじいさん以上の生活が一生涯保証される。
・だが、断れば一生涯路上生活者。
・就職活動は強制終了。それどころか、退学して欲しいとさえ思っている。
・神職としての技能・知識はいっさい必要とされない。
・俺の趣味に対する理解は十分にある。
それでは、俺自身の状況はというと･･･
・就職活動はじわじわ始まりだしたところだが、幸先がいいとはいえない。
・先述の通り夢はあるものの、まだ妄想に過ぎない。
・実際に話を聞くと、自分につとまるかは正直不安だらけ。
・かといって、他に選択肢も思い浮かばない。
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｢･･･巳さん、辰巳さんってば!｣
｢え、何?何なの!?｣
｢･･･とりあえず、今日は泊まっていってください。｣
仕方なしに、それに従うことにした。
風呂に入っていると、彼女が半端なくアタックしてくる。
背中を流してくれるのは序の口で･･･
｢辰巳くん。今度は、私の身体･･･洗ってください。｣
チョットマテ、トイウコトハデスヨ。綾サンノぼでぃーヲ触リマクルトイウコトデスヨ。
･･･その後、綾さんのペースに飲み込まれて結局喰われてしまったのは言うまでもない。
コトのあとの風呂を済ませ、綾さんの部屋で二人くつろいでいた。
彼女の部屋からは、青々とした山と大きな湖が見える。
｢私は、こう見えてこの森を管理しています。気候を操り、この地に雨をもたらすことによって。｣
｢もし職業を聞かれたら、誇りを持って言ってください。竜神様の助手として、気候の安定に努めていると。｣
彼女が住むのは、凄く立派な一軒家。
派手な装飾はないけど、芯がしっかりしていて築30年は経つそうだが妙なきしみは一切無い。派手さはないけど芯がしっかりしてて不朽の価値を持つって、レガシィかよってな話だが。
正直、木造特有のきしみが嫌で｢家を建てるなら絶対鉄筋コンクリート造!!｣と豪語していた自分の理想を根底から揺るがしてしまうほどだった、それくらい立派だった。
雰囲気は和風でありながらも、洋風のしゃれた部分や機能性も併せ持つ。これなら、あと20年住み続けたってさして問題は出ないだろう。
｢今日は、辰巳くんが来てくれて本当に嬉しいです。私、ずっと寂しかったんです。｣
時にお社の来客に貸すことはあっても、ほとんど使われない１階の部屋。
確かにこんなお屋敷に一人じゃぁ、いくら神様と言えど寂しいに違いない。
2階にある彼女の部屋。
山からの冷たいそよ風が、完全に開け放たれたベランダの窓から吹き込んでくる。
｢寒いですけど、何だか気持ちいいですね。｣
｢この風景を、二人でずっと護っていきましょうね。｣
もう、全ては決まった。
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彼女に後から聞いた話だが、あのじいさんも別の竜神様の加護を受けていたらしい。
その神様はじいさんの意志を尊重して今の生活を壊さないように配慮はしてくれたらしい。その分戻りは少なかったが、それでも老後に不安もなく普通にテレビとビデオを地デジ化して、家をオール電化にして、俺に小遣いをくれる程度の経済的余裕はあった。クルマが20年落ちだったのもただ買い換えるほどの理由がなかったからで、いつでも買い換えることはできたらしい･･･それもキャッシュで。
｢ほとんど接触の無かったおじいさまでもあの調子ですから、私を娶った辰巳さんがどうなるかは推して知るべきです。まぁ、悪いようにはしませんよ♪｣
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結局、俺と綾さんはしばらくして結婚した。
学校も辞めることになった。
部屋も引き払って、例の屋敷を存分に活用している。
俺はとにかく持ち物が多いんだが･･･それでもスペースが余るってどんだけ。
今日は田畑の様子を見回りに行くことになっていた。
状況の把握は仕事する上で大切なのは、龍神様であっても変わらないのだ。
｢あ、今日は結構山の方に行きますのでこっちで。｣
確かに、エアロ＋ローダウンで農道なんて無謀すぎるわけで。
こんな土地だしパジェロかランクルにでも乗ってるのかと思いきや、出てきたのは･･･
｢よりによってムッソーって･･･今度は”ダブル・ドラゴン”ですか。｣
知らない人のために解説すると、ムッソーというのは韓国のSUVを得意とするメーカー、サンヨンが製造・販売している大型SUV。
で、サンヨンを漢字で書くと｢双竜｣。
こんな所まで竜、それもダブルでかよと思わず笑ってしまう。
｢ホント、不思議ですよね。探した訳じゃなくって、この子も縁あってウチに来たんです。｣
｢次はどんな“龍”絡みのものが来るんでしょうね。｣
｢･･･人と龍のハーフがそろそろ来てくれてもいい頃なんですけどね。｣
冗談とも本気ともとれる彼女の一言と共に、“トリプル・ドラゴン”はその場をあとにした。
12/02/24 15:17更新 / ぜろトラ！