リザードマンの恋愛奮闘記
私…リザードマンのリマが恋に落ちたのは、高校に入って間も無い頃だった
私は小さい頃から剣の腕を磨いてきた、今では大人のリザードマンと並ぶほどの腕で同世代には私に並ぶ実力者はいなかった
だから高校に入って誰かと剣を交えるなんて無い、などと思っていた
入学当初、私は高校の部活動に剣道部があると知り少し見ていくことにした、高校の剣道とはどの程度のレベルなのかを知りたかったからだ
私は大人のリザードマンと並ぶ強さを誇っている、たとえ上級生とあれど一二年違うだけでは私に敵うはずないだろう…私はそう思っていた
私の思惑通り、レベルはかなり低いと判断してよかった。
教えている教師がまだ少しマシなレベルなだけで、私には到底敵わない腑抜けどもばかりであった
そうして私が見かねて帰ろうとした時、「彼」が現れた
スラッとした高い身長、少しだけ癖っ毛の髪…そして爽やかな笑顔
私はその時、今までに無いくらいに胸がドキドキした…まともに息ができなくて顔がどんどん熱くなっていくのを感じた
見つけた、私の理想の旦那様候補…
「わ、私と手合わせしていただけないかっ!」
私は思わずそう叫んでしまっていた、なんて節操の無い…はしたない子だと思われてないだろうか?
「ははは、見たことない女子だから新入生かな?ってことは見学か、手合わせって俺とでいいのかい?」
彼は私に優しく微笑みかけて、そして試合を了承してくれた
「はいっ、貴方でなければならないのです!」
私は気を今までで一番引き締めて、近くにいた他の生徒から借りた竹刀を握り構える
周りが「防具は?」と言われたが、私にそんなものは必要ない…彼もつけていないしな
そして…
「はい、一本」
私は一瞬で負けた
何も出来ずに、私は頭に優しくペシッと入れられて負けていた
私が気を抜いていたわけではない、どこから来ても対応できるように気を張り巡らせていた…この状態の私は大人のリザードマンと互角に張り合えるというのに
それに比べ彼はどうだ、思い切り竹刀の一本を決められたであろう彼は私を気遣ってかあまりにも優しい攻撃ではないか
私は確信した、彼こそ私の旦那様に相応しい…いや彼以外あり得ない!
「ぁ…ぅ…」
「あ、ごめんよ…痛かったかい?防具着けてないから、あまり強く叩いたつもりはなかったんだけど…」
優しくペシッと叩かれたところを、彼が優しく撫でた…彼の手はなんて大きいのだろう
「い、いえ…その、貴方のお名前は…?」
「そういえば自己紹介してなかったな、俺は二年生の茅根(かやね)シンノスケだ」
「わ、私は…リザードマンのリマ、です…茅根先輩…」
そして程なくして、学校生活に慣れた頃…私は先輩に告白をした
「先輩、私の…旦那様になってはもらえないだろうか!」
「え、無理だけど」
私は撃沈した、悩みすらされないでキッパリと断られてしまった
何で断られたのだろう、客観的に見て私は悪い見た目ではないと思ったのだが…先輩はフリーだと聞いたし、それに私はここ最近で一番先輩と仲良くやっている女子のはずだ
まさか、このリザードマンの特徴的な手脚と尻尾がダメだというのか?確かに人間の中には魔物が苦手な者もいると聞いたが…
いや、先輩は今までそんな素振りは全く見せていなかったしこの前は私の手を取り剣の振り方を練習したじゃないか!
「な、何故だ!き、客観的に見て私は悪くない見た目のはずだと思うが…」
「いや、見た目とかじゃなくて…年齢がね」
しまった、彼は大人の女性が好きだったのか…私は残念ながらどちらかと言うと幼いの見た目だ
い、いや私だって後数年もすれば母上様の様に大人の女性になるのではないだろうか
「ま、待ってくれ!あ、後…数年待ってはもらえないだろうか!そうすれば母上様の様に大人の女性に…」
「いや、もっとダメだろ…」
「え?お、大人の女性が好みなのではないのか…?」
となると…もしかして年下?いやそれだったら私は大丈夫なはずだが…
「と、年下がいいなら私がいるじゃないか!な、何が不満なんだ!」
「もっと低くないとなぁ…あ、丁度あのくらいかな」
先輩が指差したのは偶然通りがかった学校帰りのランドセルを背負った幼子だった
先輩は、幼い子供が好みの…所謂ロリコンと言われる性癖の持ち主だったのだ
先輩がロリコンだったのはショックだ、しかしそんなことで諦める私ではない
どんな性癖であれ私は先輩のことが好きになったのだ、私は絶対に先輩を振り向かせてみせる!
「せ、先輩!先輩が小学生を好むのは分かった、しかしそれは世間では犯罪だ!先輩はもっと同じような歳の…せめて一年下の後輩くらいじゃないと、私のような!」
「いや、そりゃあ俺から見てもリマは可愛いと思う」
え、か、私が可愛いだなんて先輩から…実は結構脈アリなのでは
「でもなぁ…せめてもう一回り見た目が幼かったら…惜しい、実に惜しい」
そんなことは無かった、先輩は頑なに私を受け入れてくれない
「う…ほら先輩!私って結構いい身体だろう!?胸も殿方を満足させられるくらいには…」
「ふーん」
ダメだ、全く興味を示してもらえない…私では無理なのか?いやいや諦めてはならない、私は絶対に先輩を振り向かせてみせるんだ!
それから、私は先輩を振り向かせるための日々が始まった
「先輩、ほら…どうだ?ドキドキするだろう!」
「なんで俺を壁際に追い詰めてるの?」
「えーと、あれだ…壁ドン?ってやつだ!はぁっ!」
壁際に追い詰めた先輩の後ろの壁を思いっきり殴った、崩れるような音がして私の手が壁にめり込む
「ほら、ときめいただろう!」
「どこの世界に間近で壁を破壊されてときめくやつがいるんですかねぇ…」
「む、ダメか…ではこういうのはどうだ?」
壁ドンとやらは先輩には効かなかったので次の作戦を決行しよう、色々と調べてきたのでばっちりな筈だ
「アゴクイっ…あれ、なんか違う」
「まぁ、俺の方が身長デカイし」
今度はアゴクイとやらを試してみたのだが、先輩の身体が大きくてなにやら違う感じになってしまった
「ていうか立場が逆だから、アゴクイってこうだったろ」
そういって見下ろしていた先輩の顔が私の顔に近づいて、私の顎を持ち上げる…わぁ、やっぱり先輩って凛々しくてカッコ良い…
「ぁ…♪」
「おーい、なにぼーっとしてるの?俺もう帰っていい?家に帰って3チャンネルの教育番組を見なくちゃいけないんだ」
「っは!せ、先輩!ま、まだ終わってない!」
帰ろうとする先輩を素早く尻尾で捕まえる、ここで逃げられるわけにはいかないんだ!
「か、壁ドンでもアゴクイでもダメなら…こ、これでどうだ…っ!」
私は思い切って先輩の頭を抱き寄せて自らの胸に押し付ける、それなりに大きいから先輩だって少しは反応…
「や、やめろリマ…!その攻撃は俺に効く…」
「な、なんで死にそうな顔をするんだ!殿方は女性の胸が好きなのだろう!?」
「苦しいんだよ…だから離してくれ、息が出来ない…」
私自身、自分の身体には少々の自信があったのだが…先輩にはダメだったみたいだ
また一から出直すとするか、これ以上は先輩も大変そうだしな…
そんな感じで先輩にアピールしては撃沈する日々が続き、しばらくして学校内で私は興味深い場所を見つけた
「…サバト部?」
確か最上級生にいる魔物のバフォメット殿が部長をやっている部活だったはずだ、活動内容は魔術の研究など…だったか
部員はあまり多く無いが女子部員は全員何故か子供のような見た目の魔物や人だけで、噂では不老不死の研究をしてるとかしてないとか
「サバト部か…確か全員幼い見た目の生徒ばかりだったはずだが、もしかしたら先輩を振り向かせる鍵があるかもしれないな」
私はそう思い立ってすぐさまサバト部へと向かった、学校内の掲示板によれば今日は黒ミサと呼ばれる集会があるらしい
「頼もう!」
部室の扉を叩き、私は部屋へ入室する。確かに部屋にいる生徒は皆子供と見間違うような者ばかりだ、ちらほらと普通の男子生徒もいるようだが
「ほう、ようこそ我がサバト部へ。リザードマンのお客とは珍しいのう」
「貴方がサバト部の部長か、本日は貴方に相談があって参りました」
私はサバト部の部長であるバフォメット殿に先輩のことを話した、流石は最上級生なのか…下級生である私の相談を真剣に聞いてくれた
「なるほど、剣道部の茅根か…彼は我々サバト部でもよく話題に上がる人物でな。重度のロリコンで、我々サバト部の写真を貰いに来たりすることもあったのう」
「なんと、やはり見た目が幼くないといけないのか…」
「お主も悪くない見た目だと思うが、やはりロリこそ至高なのだ。剣道部に所属しているからと断られているが、彼を我がサバト部に入れようという動きもあったのだ」
見た目が幼くないとダメだというのか、しかしこの容姿をすぐに変えることなんてできることではないし…
いや、何か手があるはずだ!私は諦めないぞ!
「ふむ、まるで諦めておらぬの…そうじゃ!いい方法を教えてやろうかの?」
「いい方法?」
「このサバト部に入部すれば永遠の若さを保つことが出来るが、お主には剣道部があるからそれは無理じゃから…お主にはこれをやろう」
「これは…飴?」
「これを舐めると少しの間だけ子供の姿になれるのじゃ、我らサバト部の発明品でまだ世間には秘密なのじゃが…特別じゃぞ?」
なんと、確かにそれならば先輩を振り向かせれるかもしれない!
いやしかし…それでいいのか?偽りの姿で先輩を手に入れたとして、それは本当の愛なのか?でもそうでもしないと先輩は…
「どうするのかのう?」
「…ありがたくもらおう」
いや、これでいいんだ…これで少しでも先輩が私に目を掛けてくれればそれで…!
大きく種が変わるわけじゃない、一時的に見た目が幼くなるだけなのだから…そのくらいの誇りはかなぐり捨てるぞ
待っていろよ先輩、かならず貴方を振り向かせてみせる!
…
「先輩!」
「えっ…り、リマ…かい?」
私は早速飴を舐めて、小さく縮んだ姿で先輩の前に現れる。
私を見た先輩の目は今まで私を見ていた目とは明らかに違っていた
「サバト部に頼んで小さくしてもらったんだ、これならば文句はないだろう!」
「ぅ…ぁ、ぃゃ…ぇ…」
先輩の口がもごもごと動く、何か言いたいけど言えないようなそんな感じ…
「こ、ここまでさせたんだ!勝手だと思ってもらってもいい、誇りのないトカゲだと思ってもらっても構わない…だから、頼む…私の旦那様になってくれ…!」
「だ、だめ、だ…そんな…」
先輩はうつむき気味にそう告げた。やっぱり…か、薄々は気づいていたんだ…こんな偽りの私ではダメだと、気づいていたんだ…だけど
「ぅ、うぅぅ…っ!な、んで…ダメ、なんだぁ…っ!ひぐっ…私は、こんなにもっ…好き、なのにぃ…!」
私は膝を崩してみっともなく泣いた、人前で涙を見せたのはいつ頃以来だっただろうか?
地面にへたり込んでみっともなく涙を出す、誇りのないリザードマンを見た先輩の目にはどう映っているのだろうか
先輩は初めから私では無理だと言っていたのに、勝手に言い寄って…勝手に誇りも捨てて、勝手に泣いて…沢山迷惑かけて…
あぁ、確かに先輩が私を好きになるわけがなかった…こんな自分勝手な女、誰だって嫌だろう
「や、その!別にリマのことが嫌いとかじゃなくて、今の姿だってすっごい可愛いと思って…」
「ひぐっ…わかってる…私じゃダメ、なんだ…!それを知ってて、先輩に言い寄って…ごめんなさい、ごめんなさいぃ…っ!」
「リマ…」
あぁ、私はまた先輩に迷惑をかけている…泣いている私をどうにかしようと気にかけてくれている、ダメなのに…涙が止まらなかった
「今まで、迷惑かけて…ごめんなさいぃ…っ」
「…あぁもう、誰も迷惑とか思ってないんだよ!」
ギュッと先輩の大きな身体が私の身体を包んだ、暖かくて…まるで父上のような安心感があって…
「確かに俺は!ロリコンで小さい子にしか興味はないけど…あんなに素直に好意をぶつけられて、そんなのが迷惑なわけないだろ!」
「ぅ…あ、せ、ん…ぱぃ?」
「リマは俺の性癖を受け入れた上で、リザードマンとしての誇りもかなぐり捨ててそんな愛らしい姿になってまで俺を好きになってくれたんだ。それのどこが迷惑だって言うんだよ」
「で、でも先輩…さっき、ダメって…」
「あれは…俺自身に対してだよ。俺はリマが諦めてくれるまでずっと断るつもりだったんだ、だって俺は子供にしか興奮しないから…そんなので付き合ったりしたらお互いに不幸になるだろうし。でも俺の嗜好に合わせて姿まで変えて…」
そんな、これは私の独断で…先輩の気に病むことでは
「そんなことまでさせてしまった俺の不甲斐なさにダメと言ったんだ、俺がロリコンじゃなかったらすぐに答えが出せたはずなのに…」
「先輩は、悪くない…私が勝手に…!」
「それほどまでに俺を好きになってくれたってことだろ?リマは真剣に俺にぶつかってきてくれてたのに、俺は真剣に取り合ってなかったから…だからリマをこんな姿にして…」
「先輩、そんな…」
「俺はもう腹を括るよ、ロリコンだし小さい子にしか反応しないかもしれないけど…ありのままのリマを好きになるように頑張るから、だから…」
これは夢だろうか?幾度となく夢に見た、茅根先輩からの愛の告白…ずっと待ち焦がれていた、先輩からの…!
「俺の、彼女になってくれませんか」
「ぁ…う…せ、んぱい…」
「今までリマの告白を断ってきて、自分勝手だと思うけど…これが、俺なりの答えなんだ」
ずるい…そんなの、答えなんて決まっているじゃないか…
「喜んで、お受けいたします…♪」
「ありがとう…その、待たせて、ごめんな」
「いや…先輩が私を見てくれただけで幸せだ…♪」
先輩が小さな私を抱き上げる、どうやら泣いてへたり込んで動けなくなっていた私を察してくれたようだ
「ふふ、先輩…あったかい…♪」
「…こらこら、その姿だといつ襲うかわからないからそういうドキッとした行動は控えてくれよ」
「えへへ、じゃあこういうのはどうなっちゃうんだろうな?…シンお兄ちゃん♪」
「あ、ありのままのお前を好きになるっていう決意をしたのに…ゆ、揺らいでしまいそうだ…!くっ、静まれ…!」
「ふふふ、いつまでも私を待たせた罰だぞ?…あっ!」
私の身体が元の身体に戻った、どうやら飴の効果が切れたようだ。
あまり効果は長くないようだが、プレイの一環としてなら使えないことも無さそうだし…気が向いたらまた使ってあげよう
「リマ、戻っちゃったか…」
「そう残念そうな顔をするな、また気が向いたら飴を舐めてやる♪」
「マジで!?…いやいや、だから俺はありのままのリマを…」
「ふふ、ちゅっ…♪」
「ぁ…」
私を抱きかかえてくれている先輩の頬へキスをする、すると先輩の顔が仄かに赤くなった…気がした
「先輩、いま赤くなった…?」
「え、あ…そういや、いま少しだけドキッとした…かな?」
先輩…もしかして、私に少しながらでも反応してくれたのか!?だとしたら、そう遠くないうちに先輩の性癖が治るかもしれないな
「先輩!このまま先輩の家まで連れて行ってくれ!」
「え?なんで、別にいいけど」
「せっかく恋人同士になったんだ、ご両親に挨拶しないとな!それにどうせ先輩のことだから、子供の違法な写真でも隠し持ってるのだろう?それらをすべて規制する、そういう類の物は禁止だ!」
「えぇっ!?り、リマぁ…」
「か、代わりにこれからは私の写真で我慢しろ!き、気が向いたら小さい姿でも撮らせてやるから…」
「う、うぅ…こ、これもありのままのリマを好きになる修行だと思えば…!さようなら、俺の幼女達よ…」
これからはちゃんと先輩の趣味趣向を矯正して、私しか見れないようにしてやる
たとえロリコンが治らなくても小さな私を見てくれればそれでいいんだ
「覚悟しろ先輩、ずっと私しか見れないようにしてやるからな!」
「は、はーい…覚悟しますよ、トホホ〜…」
私は小さい頃から剣の腕を磨いてきた、今では大人のリザードマンと並ぶほどの腕で同世代には私に並ぶ実力者はいなかった
だから高校に入って誰かと剣を交えるなんて無い、などと思っていた
入学当初、私は高校の部活動に剣道部があると知り少し見ていくことにした、高校の剣道とはどの程度のレベルなのかを知りたかったからだ
私は大人のリザードマンと並ぶ強さを誇っている、たとえ上級生とあれど一二年違うだけでは私に敵うはずないだろう…私はそう思っていた
私の思惑通り、レベルはかなり低いと判断してよかった。
教えている教師がまだ少しマシなレベルなだけで、私には到底敵わない腑抜けどもばかりであった
そうして私が見かねて帰ろうとした時、「彼」が現れた
スラッとした高い身長、少しだけ癖っ毛の髪…そして爽やかな笑顔
私はその時、今までに無いくらいに胸がドキドキした…まともに息ができなくて顔がどんどん熱くなっていくのを感じた
見つけた、私の理想の旦那様候補…
「わ、私と手合わせしていただけないかっ!」
私は思わずそう叫んでしまっていた、なんて節操の無い…はしたない子だと思われてないだろうか?
「ははは、見たことない女子だから新入生かな?ってことは見学か、手合わせって俺とでいいのかい?」
彼は私に優しく微笑みかけて、そして試合を了承してくれた
「はいっ、貴方でなければならないのです!」
私は気を今までで一番引き締めて、近くにいた他の生徒から借りた竹刀を握り構える
周りが「防具は?」と言われたが、私にそんなものは必要ない…彼もつけていないしな
そして…
「はい、一本」
私は一瞬で負けた
何も出来ずに、私は頭に優しくペシッと入れられて負けていた
私が気を抜いていたわけではない、どこから来ても対応できるように気を張り巡らせていた…この状態の私は大人のリザードマンと互角に張り合えるというのに
それに比べ彼はどうだ、思い切り竹刀の一本を決められたであろう彼は私を気遣ってかあまりにも優しい攻撃ではないか
私は確信した、彼こそ私の旦那様に相応しい…いや彼以外あり得ない!
「ぁ…ぅ…」
「あ、ごめんよ…痛かったかい?防具着けてないから、あまり強く叩いたつもりはなかったんだけど…」
優しくペシッと叩かれたところを、彼が優しく撫でた…彼の手はなんて大きいのだろう
「い、いえ…その、貴方のお名前は…?」
「そういえば自己紹介してなかったな、俺は二年生の茅根(かやね)シンノスケだ」
「わ、私は…リザードマンのリマ、です…茅根先輩…」
そして程なくして、学校生活に慣れた頃…私は先輩に告白をした
「先輩、私の…旦那様になってはもらえないだろうか!」
「え、無理だけど」
私は撃沈した、悩みすらされないでキッパリと断られてしまった
何で断られたのだろう、客観的に見て私は悪い見た目ではないと思ったのだが…先輩はフリーだと聞いたし、それに私はここ最近で一番先輩と仲良くやっている女子のはずだ
まさか、このリザードマンの特徴的な手脚と尻尾がダメだというのか?確かに人間の中には魔物が苦手な者もいると聞いたが…
いや、先輩は今までそんな素振りは全く見せていなかったしこの前は私の手を取り剣の振り方を練習したじゃないか!
「な、何故だ!き、客観的に見て私は悪くない見た目のはずだと思うが…」
「いや、見た目とかじゃなくて…年齢がね」
しまった、彼は大人の女性が好きだったのか…私は残念ながらどちらかと言うと幼いの見た目だ
い、いや私だって後数年もすれば母上様の様に大人の女性になるのではないだろうか
「ま、待ってくれ!あ、後…数年待ってはもらえないだろうか!そうすれば母上様の様に大人の女性に…」
「いや、もっとダメだろ…」
「え?お、大人の女性が好みなのではないのか…?」
となると…もしかして年下?いやそれだったら私は大丈夫なはずだが…
「と、年下がいいなら私がいるじゃないか!な、何が不満なんだ!」
「もっと低くないとなぁ…あ、丁度あのくらいかな」
先輩が指差したのは偶然通りがかった学校帰りのランドセルを背負った幼子だった
先輩は、幼い子供が好みの…所謂ロリコンと言われる性癖の持ち主だったのだ
先輩がロリコンだったのはショックだ、しかしそんなことで諦める私ではない
どんな性癖であれ私は先輩のことが好きになったのだ、私は絶対に先輩を振り向かせてみせる!
「せ、先輩!先輩が小学生を好むのは分かった、しかしそれは世間では犯罪だ!先輩はもっと同じような歳の…せめて一年下の後輩くらいじゃないと、私のような!」
「いや、そりゃあ俺から見てもリマは可愛いと思う」
え、か、私が可愛いだなんて先輩から…実は結構脈アリなのでは
「でもなぁ…せめてもう一回り見た目が幼かったら…惜しい、実に惜しい」
そんなことは無かった、先輩は頑なに私を受け入れてくれない
「う…ほら先輩!私って結構いい身体だろう!?胸も殿方を満足させられるくらいには…」
「ふーん」
ダメだ、全く興味を示してもらえない…私では無理なのか?いやいや諦めてはならない、私は絶対に先輩を振り向かせてみせるんだ!
それから、私は先輩を振り向かせるための日々が始まった
「先輩、ほら…どうだ?ドキドキするだろう!」
「なんで俺を壁際に追い詰めてるの?」
「えーと、あれだ…壁ドン?ってやつだ!はぁっ!」
壁際に追い詰めた先輩の後ろの壁を思いっきり殴った、崩れるような音がして私の手が壁にめり込む
「ほら、ときめいただろう!」
「どこの世界に間近で壁を破壊されてときめくやつがいるんですかねぇ…」
「む、ダメか…ではこういうのはどうだ?」
壁ドンとやらは先輩には効かなかったので次の作戦を決行しよう、色々と調べてきたのでばっちりな筈だ
「アゴクイっ…あれ、なんか違う」
「まぁ、俺の方が身長デカイし」
今度はアゴクイとやらを試してみたのだが、先輩の身体が大きくてなにやら違う感じになってしまった
「ていうか立場が逆だから、アゴクイってこうだったろ」
そういって見下ろしていた先輩の顔が私の顔に近づいて、私の顎を持ち上げる…わぁ、やっぱり先輩って凛々しくてカッコ良い…
「ぁ…♪」
「おーい、なにぼーっとしてるの?俺もう帰っていい?家に帰って3チャンネルの教育番組を見なくちゃいけないんだ」
「っは!せ、先輩!ま、まだ終わってない!」
帰ろうとする先輩を素早く尻尾で捕まえる、ここで逃げられるわけにはいかないんだ!
「か、壁ドンでもアゴクイでもダメなら…こ、これでどうだ…っ!」
私は思い切って先輩の頭を抱き寄せて自らの胸に押し付ける、それなりに大きいから先輩だって少しは反応…
「や、やめろリマ…!その攻撃は俺に効く…」
「な、なんで死にそうな顔をするんだ!殿方は女性の胸が好きなのだろう!?」
「苦しいんだよ…だから離してくれ、息が出来ない…」
私自身、自分の身体には少々の自信があったのだが…先輩にはダメだったみたいだ
また一から出直すとするか、これ以上は先輩も大変そうだしな…
そんな感じで先輩にアピールしては撃沈する日々が続き、しばらくして学校内で私は興味深い場所を見つけた
「…サバト部?」
確か最上級生にいる魔物のバフォメット殿が部長をやっている部活だったはずだ、活動内容は魔術の研究など…だったか
部員はあまり多く無いが女子部員は全員何故か子供のような見た目の魔物や人だけで、噂では不老不死の研究をしてるとかしてないとか
「サバト部か…確か全員幼い見た目の生徒ばかりだったはずだが、もしかしたら先輩を振り向かせる鍵があるかもしれないな」
私はそう思い立ってすぐさまサバト部へと向かった、学校内の掲示板によれば今日は黒ミサと呼ばれる集会があるらしい
「頼もう!」
部室の扉を叩き、私は部屋へ入室する。確かに部屋にいる生徒は皆子供と見間違うような者ばかりだ、ちらほらと普通の男子生徒もいるようだが
「ほう、ようこそ我がサバト部へ。リザードマンのお客とは珍しいのう」
「貴方がサバト部の部長か、本日は貴方に相談があって参りました」
私はサバト部の部長であるバフォメット殿に先輩のことを話した、流石は最上級生なのか…下級生である私の相談を真剣に聞いてくれた
「なるほど、剣道部の茅根か…彼は我々サバト部でもよく話題に上がる人物でな。重度のロリコンで、我々サバト部の写真を貰いに来たりすることもあったのう」
「なんと、やはり見た目が幼くないといけないのか…」
「お主も悪くない見た目だと思うが、やはりロリこそ至高なのだ。剣道部に所属しているからと断られているが、彼を我がサバト部に入れようという動きもあったのだ」
見た目が幼くないとダメだというのか、しかしこの容姿をすぐに変えることなんてできることではないし…
いや、何か手があるはずだ!私は諦めないぞ!
「ふむ、まるで諦めておらぬの…そうじゃ!いい方法を教えてやろうかの?」
「いい方法?」
「このサバト部に入部すれば永遠の若さを保つことが出来るが、お主には剣道部があるからそれは無理じゃから…お主にはこれをやろう」
「これは…飴?」
「これを舐めると少しの間だけ子供の姿になれるのじゃ、我らサバト部の発明品でまだ世間には秘密なのじゃが…特別じゃぞ?」
なんと、確かにそれならば先輩を振り向かせれるかもしれない!
いやしかし…それでいいのか?偽りの姿で先輩を手に入れたとして、それは本当の愛なのか?でもそうでもしないと先輩は…
「どうするのかのう?」
「…ありがたくもらおう」
いや、これでいいんだ…これで少しでも先輩が私に目を掛けてくれればそれで…!
大きく種が変わるわけじゃない、一時的に見た目が幼くなるだけなのだから…そのくらいの誇りはかなぐり捨てるぞ
待っていろよ先輩、かならず貴方を振り向かせてみせる!
…
「先輩!」
「えっ…り、リマ…かい?」
私は早速飴を舐めて、小さく縮んだ姿で先輩の前に現れる。
私を見た先輩の目は今まで私を見ていた目とは明らかに違っていた
「サバト部に頼んで小さくしてもらったんだ、これならば文句はないだろう!」
「ぅ…ぁ、ぃゃ…ぇ…」
先輩の口がもごもごと動く、何か言いたいけど言えないようなそんな感じ…
「こ、ここまでさせたんだ!勝手だと思ってもらってもいい、誇りのないトカゲだと思ってもらっても構わない…だから、頼む…私の旦那様になってくれ…!」
「だ、だめ、だ…そんな…」
先輩はうつむき気味にそう告げた。やっぱり…か、薄々は気づいていたんだ…こんな偽りの私ではダメだと、気づいていたんだ…だけど
「ぅ、うぅぅ…っ!な、んで…ダメ、なんだぁ…っ!ひぐっ…私は、こんなにもっ…好き、なのにぃ…!」
私は膝を崩してみっともなく泣いた、人前で涙を見せたのはいつ頃以来だっただろうか?
地面にへたり込んでみっともなく涙を出す、誇りのないリザードマンを見た先輩の目にはどう映っているのだろうか
先輩は初めから私では無理だと言っていたのに、勝手に言い寄って…勝手に誇りも捨てて、勝手に泣いて…沢山迷惑かけて…
あぁ、確かに先輩が私を好きになるわけがなかった…こんな自分勝手な女、誰だって嫌だろう
「や、その!別にリマのことが嫌いとかじゃなくて、今の姿だってすっごい可愛いと思って…」
「ひぐっ…わかってる…私じゃダメ、なんだ…!それを知ってて、先輩に言い寄って…ごめんなさい、ごめんなさいぃ…っ!」
「リマ…」
あぁ、私はまた先輩に迷惑をかけている…泣いている私をどうにかしようと気にかけてくれている、ダメなのに…涙が止まらなかった
「今まで、迷惑かけて…ごめんなさいぃ…っ」
「…あぁもう、誰も迷惑とか思ってないんだよ!」
ギュッと先輩の大きな身体が私の身体を包んだ、暖かくて…まるで父上のような安心感があって…
「確かに俺は!ロリコンで小さい子にしか興味はないけど…あんなに素直に好意をぶつけられて、そんなのが迷惑なわけないだろ!」
「ぅ…あ、せ、ん…ぱぃ?」
「リマは俺の性癖を受け入れた上で、リザードマンとしての誇りもかなぐり捨ててそんな愛らしい姿になってまで俺を好きになってくれたんだ。それのどこが迷惑だって言うんだよ」
「で、でも先輩…さっき、ダメって…」
「あれは…俺自身に対してだよ。俺はリマが諦めてくれるまでずっと断るつもりだったんだ、だって俺は子供にしか興奮しないから…そんなので付き合ったりしたらお互いに不幸になるだろうし。でも俺の嗜好に合わせて姿まで変えて…」
そんな、これは私の独断で…先輩の気に病むことでは
「そんなことまでさせてしまった俺の不甲斐なさにダメと言ったんだ、俺がロリコンじゃなかったらすぐに答えが出せたはずなのに…」
「先輩は、悪くない…私が勝手に…!」
「それほどまでに俺を好きになってくれたってことだろ?リマは真剣に俺にぶつかってきてくれてたのに、俺は真剣に取り合ってなかったから…だからリマをこんな姿にして…」
「先輩、そんな…」
「俺はもう腹を括るよ、ロリコンだし小さい子にしか反応しないかもしれないけど…ありのままのリマを好きになるように頑張るから、だから…」
これは夢だろうか?幾度となく夢に見た、茅根先輩からの愛の告白…ずっと待ち焦がれていた、先輩からの…!
「俺の、彼女になってくれませんか」
「ぁ…う…せ、んぱい…」
「今までリマの告白を断ってきて、自分勝手だと思うけど…これが、俺なりの答えなんだ」
ずるい…そんなの、答えなんて決まっているじゃないか…
「喜んで、お受けいたします…♪」
「ありがとう…その、待たせて、ごめんな」
「いや…先輩が私を見てくれただけで幸せだ…♪」
先輩が小さな私を抱き上げる、どうやら泣いてへたり込んで動けなくなっていた私を察してくれたようだ
「ふふ、先輩…あったかい…♪」
「…こらこら、その姿だといつ襲うかわからないからそういうドキッとした行動は控えてくれよ」
「えへへ、じゃあこういうのはどうなっちゃうんだろうな?…シンお兄ちゃん♪」
「あ、ありのままのお前を好きになるっていう決意をしたのに…ゆ、揺らいでしまいそうだ…!くっ、静まれ…!」
「ふふふ、いつまでも私を待たせた罰だぞ?…あっ!」
私の身体が元の身体に戻った、どうやら飴の効果が切れたようだ。
あまり効果は長くないようだが、プレイの一環としてなら使えないことも無さそうだし…気が向いたらまた使ってあげよう
「リマ、戻っちゃったか…」
「そう残念そうな顔をするな、また気が向いたら飴を舐めてやる♪」
「マジで!?…いやいや、だから俺はありのままのリマを…」
「ふふ、ちゅっ…♪」
「ぁ…」
私を抱きかかえてくれている先輩の頬へキスをする、すると先輩の顔が仄かに赤くなった…気がした
「先輩、いま赤くなった…?」
「え、あ…そういや、いま少しだけドキッとした…かな?」
先輩…もしかして、私に少しながらでも反応してくれたのか!?だとしたら、そう遠くないうちに先輩の性癖が治るかもしれないな
「先輩!このまま先輩の家まで連れて行ってくれ!」
「え?なんで、別にいいけど」
「せっかく恋人同士になったんだ、ご両親に挨拶しないとな!それにどうせ先輩のことだから、子供の違法な写真でも隠し持ってるのだろう?それらをすべて規制する、そういう類の物は禁止だ!」
「えぇっ!?り、リマぁ…」
「か、代わりにこれからは私の写真で我慢しろ!き、気が向いたら小さい姿でも撮らせてやるから…」
「う、うぅ…こ、これもありのままのリマを好きになる修行だと思えば…!さようなら、俺の幼女達よ…」
これからはちゃんと先輩の趣味趣向を矯正して、私しか見れないようにしてやる
たとえロリコンが治らなくても小さな私を見てくれればそれでいいんだ
「覚悟しろ先輩、ずっと私しか見れないようにしてやるからな!」
「は、はーい…覚悟しますよ、トホホ〜…」
15/09/29 01:45更新 / ミドリマメ