連載小説
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シルク番外編「枯れない花」
俺がシルクねぇちゃんと付き合い始めてからしばらく経った、ねぇちゃんの過保護もある程度落ち着いて平和な毎日だ


やることもあまり変わらずいつも通り家事を二人でこなしている


ひとつ変わったことと言えば、ねぇちゃんとよく二人で過ごすことになったぐらいかな


「…たくま、今日もいい?」


「ええよ、じゃあねぇちゃんの部屋に行こうか」


ねぇちゃんはあまり外に出て遊ぶ性格じゃなく、家でのんびりすることが好きみたいだ


マンティス…カマキリと言うと、外が好きそうにも思えるがねぇちゃんはそうでもないらしい


最近はねぇちゃんの部屋で二人静かに本を読んだりしている


気まずいとかそういうことはなく、むしろ静かに二人だけの世界に入り込めるようで俺とねぇちゃんは気に入っている


「…たくま、今日は何の本?」


「どないしようかの、魔界史や魔力学の本はあらかた読み終えてしもうたからなぁ」


「…たまにはそういうのじゃなくて、物語とか読んでみたら?」


物語は昔読んでたが、いつの間にか図鑑とかそういうのに移ってしまってたなぁ


「物語か、昔は読んでたなぁ…くもの糸とか」


「…アラクネのお話?」


あー、そうか…魔物の間ではこういう文学はあまり知られてないのかもなぁ


「ちゃうちゃう、魔物の話やないで?…簡単に説明するとカンダタっていう盗賊がいてやな」


「…黒胡椒をもらうために倒さなきゃいけないの」


「そっちは知ってんのかい」


なんでねぇちゃんが知ってるかは別として、俺はねえちゃんの部屋の本棚を見てみる


「うーん、見たことないやつばっかりやな…」


「…これ、今流行りの小説なの」


考えているとねえちゃんが本棚から一冊の本を取り渡してくれた


「へぇー、恋愛のやつなんや…魔物との恋愛の話がたくさん纏められてるのか」


「…一つ一つ完結してるから、読みやすいと思うの」


ほお、確かに読みやすそうだ…こういうのは読んだこともないしこれにしようかな


「じゃあこれ読ませてもらうで」


「…ん」


本を開くと、何か本に挟まっていた物が落ちた


「あれ、なんか挟まってたんかいな」


拾ってみると、それは使い古されたしおりだった


押し花のしおりで、使い古されているがまだ綺麗に形を保っている


「昔の物みたいやけど…ねえちゃん何これ?」


「…あ、それ…挟みっぱなしだったの」


「押し花のしおりかぁ、見た感じ手作りみたいやけどねぇちゃんが作ったやつなんか?」


そういえばねえちゃんは昔から庭の手入れとかしていたな、いろんな花とか植えてた筈だ…多分その花とか使ったんだろう


「…違うの」


「え、ねえちゃんが作ったんやないんか?じゃあそれは…」


「…昔、大切な人に貰ったの」


「大切な人?」


「…ん、たくまは覚えてないみたいだけど…とても大切な人なの」


「覚えてないって…俺が知ってる人なんか?」


「…むしろ忘れてるのがおかしいかも」


誰だろう…他の姉達だろうか?


「…本当に分からない?」


「うーん…記憶にないなぁ」


「…そう」


ねぇちゃんが少しだけ寂しそうな表情を見せた気がするが、ねえちゃんは読書の為すぐに顔を本に向けたので気のせいかもしれない


「?」


よくわからないけど…俺も本を読もうかな





日が暮れて、皆が帰ってくる時間帯になるとねぇちゃんの触覚がぴくぴくと動き出す


「…たくま、そろそろみんな帰ってくる」


「もうこんな時間かぁ、だいぶ熟読していたようやな」


まだ半分くらいだけど、かなり面白い本でついつい時間を忘れてしまう


「…まだ読み終わってないなら、持ってく?」


「そうしようかの、なかなかおもろいでこの本」


今日中に全部読んで明日返そう


「…ん、わかったの」


「じゃ、晩御飯の準備しようかの」


そしてみんなが帰ってきて、楽しく夕食を済ます


「あ、姉さま!ちょっとええか?」


「なんじゃたー坊、ワシはこれから風呂に入ろうかと思ったのだが…」


「そんな時間とらへんよ、ちょっと聞きたいことがあってな…ねぇちゃんの持ってる栞あるやろ?あれって何なのかなぁ、って思って」


食後に栞のことをシャクヤ姉さまに聞いてみた、何か知ってるかも知れない


「なんや大切な人に貰ったらしいんやけど…ねぇちゃんってば俺が忘れてるのとか言ってて、誰か知らん?」


「あぁ、あれか…たー坊が一番知ってるはずじゃぞ?まぁ、お前もあの頃はまだ小さかったし覚えてないのも無理はないか…」


うーん、姉さまも同じようなこと言ってる…誰なんだろうか


親父の知り合い?いやいや、それはないか


失礼だが親父の知り合いで女の子に花を渡すような紳士的な人はいなかったと思う、皆研究者気質だったからなぁ…


しかし俺が一番知ってる人とは…


「ま、わざわざ言うのは無粋ってものじゃからの…ちゃんと思い出す日が来るじゃろ」


「それもそうやな」


気にはなるが分からないものは仕方ない、姉さまはさっさと風呂場へ行ってしまった


「…たくま」


「あぁ、ねぇちゃん…どうしたん?」


「…そろそろ寝るの」


「もう夜も遅いからなぁ、おやすみねぇちゃん」


「…寝るの」


くいくいっと服の裾を引っ張るねぇちゃん、これは…


「い、一緒に寝ろってこと?」


「…ん」


こくりと頷くねぇちゃん、表情には相変わらず出さないが恋人になってから大胆になってきたなぁ


(夜通し本を読もうかと思ってたんやけど…まぁええか、ねぇちゃんと一緒に寝ることが優先や)


「…早く」


「はいはい、枕取ってくるから先部屋に入っててな」


「…ん」


俺は自分の部屋に枕を取りにいき、ねぇちゃんの部屋を訪ねた


「…いらっしゃい」


「ねぇちゃんは既に布団を敷いて待ってくれていた


「んじゃ、明日もあることやし寝ましょうかね」


「…ん、電気消すの」


ねぇちゃんが灯りを消す、ねぇちゃんの部屋で寝るのはなんだか新鮮だなぁ…


「…たくま、もっとこっち来て」


「ん、こうか…?」


ねぇちゃんの身体が密着するまでに近づいた、女性特有の柔らかさにドキドキする


「…ぎゅー」


「わっ、ねぇちゃん…?」


「…えへへ、あったかいの」


気持ちよさそうに俺を抱きしめるねぇちゃん、虫に近い魔物なので寒いのは苦手らしい


しかしこうも身体を押し付けられるように抱きしめられると、俺だって健全な男の子なわけで…


そりゃまぁ、反応しますよ


「…たくまの、えっち」


「いや、俺は…」


「…んっ、ちゅっ…」


俺は悪くない、と言おうとして唇で口を塞がれた


「…言い訳は男らしくないの」


「だからってキスで口を塞ぐって…恥ずかしいなぁ」


「…いいの、恋人同士だもん」


「いや、まぁそうなんやけど…」


「…だから、たくまも遠慮しなくていいから…すっきりさせてあげる」


ねぇちゃんの目が獲物を狙う魔物の…欲情した魔物の目に変わる、こうなるとねぇちゃんは表情を剥き出して俺を求めてくるのだ


こうして、ねぇちゃんと交わりすっきりして二人で抱き合いながら眠りについた


その夜、俺は夢を見た


悲しいけど、懐かしくて…それで大事な夢


「…」


ねぇちゃん…どうしたの、悲しそうな顔してるよ?


「…お花が、枯れちゃったの」


大事なお花だったの?


「…が、くれたやつだったの」


そうなんだ…


確か、これは昔の…俺とねぇちゃんの…


「くぁ…あ、朝か…?」


既にねぇちゃんは起きて布団から抜け出していたようでいなかった


「まだ、ちょっと朝早いな…ねぇちゃんは庭か?」


ねぇちゃんはいつも朝早く起きて、庭の手入れに精を出している


もともとは母さんが使っていた花壇なんだけど、いつの間にかねぇちゃんが花を植えたりして庭の手入れをいつも頑張っている


「ねぇちゃん、おはよう」


「…たくま、おはよう」


庭に行くと、案の定ねぇちゃんが庭で手入れをしていた


マンティスの証である鎌を上手く使って伸びた雑草を刈ったり、肥料などを加えたりしている


「…そういえばいつの間にかねぇちゃんが庭の手入れとかしてるけど、なんで花とか植え始めたん?」


「…どうしたの、急に」


「いや、庭弄りが好きな女の子は今時珍しいなぁと思って」


「…ん」


ねぇちゃんが庭の手入れの手を止めてこっちを向く


「…昔、花を貰ったの」


「花?」


「…多分、ただの気まぐれだったんだと思う…まだ小さかったし、ただ綺麗だからって…」


ねぇちゃんが思い出を掘り返すように言葉を紡いでいく


「…私、それでもうれしくて…その花を一日中ずっと眺めてたの…それが幸せで…」


「へぇ…」


「…でも、花がすぐに枯れちゃってね…それが悲しくて…」


ん…?なんかデジャヴを感じるぞ…


花が枯れて悲しむねぇちゃん…まるで夢の…


「…次は枯れさせないように、頑張ってたらいつの間にか日課になってたの」


「そうなんや…」


俺が見た夢と…ねぇちゃんの言っていることが、重なっている


でも、俺は何か肝心なことを忘れているような…


「たくま…?」


「ん…あぁ、すまんなボーッとしてたわ。先に朝ごはんの準備始めとくで」


「?…うん」





また、俺は夢を見た


「…」


また、枯れちゃったの?


「…ん」


また、ねぇちゃんが悲しい顔をする…


「…なんで、枯れちゃうの…?」


どうして枯れてしまうのだろう


花が枯れなければ、ねぇちゃんに悲しい顔をさせないですむのに…


枯れない花があればいいのに…


って…また、昔の夢か


また昔のことを夢に見て、またねぇちゃんに悲しい顔をさせてしまっていた…


でも、だいぶ思い出してきた…たしかあの後、必死にねぇちゃんの為に枯れない花を調べたんだ


図鑑をたくさん広げて…そして、見つけたんだ。


ねぇちゃん…見つけた、見つけたよ


「…本当?」


うん、枯れない花を…見つけたんだ


「…どこ?」


今から作るんだ、ねぇちゃんも一緒に作ろう?


「…うん」


ねぇちゃん知ってる?


本ってさ、読むだけじゃないんだ


「…?」


本はこういうことにも使えるんだよ


「…なんで、こんなに本があるの?」


これでね、枯れない花が作れるんだよ


…「押し花」って言うんだ


「…そうか、そうだったなぁ」


俺は確かに、あの時…悲しそうなねぇちゃんに花を贈った


一緒に、一生懸命に二人で作った枯れない花


それを栞にして、ねぇちゃんにあげたんだ…もう悲しそうな顔をさせたくなかったから


「…なんで忘れてたんやろ」


小さい頃の記憶だし、確かにそれ程重要な出来事でもないんだけど…忘れてたのはちょっと悔しいというか、寂しかった


でも…一番寂しかったのはねぇちゃんだろうな


ねぇちゃんと姉さまが言っていたのは俺自身のことだったのか…そりゃ忘れないと思うか


「…そうや!」


もう一度、ねぇちゃんに押し花を渡そう


付き合ってからまだプレゼントとかした事無いし、ちょうどいいだろう


「押す物は…ちょっと雰囲気に欠けるけど、前に使ってた研究資料でええか」


分厚いし重みもある、なかなか適しているんじゃないだろうか


「花は…」


昔に見た図鑑を思い出す、見た中でいい花はあっただろうか…


「ねぇちゃんが喜びそうなものはなさそうなんやけどなぁ…」


そもそもねぇちゃんが好きな花なんて…


「いや、あの花は…たしか」


昔…近所で見つけた綺麗な花があった


「…それで、つい綺麗だったから…ねぇちゃんにあげて…」


何てことだ、花をあげたのも俺だったじゃないか


「うーん、結局全部俺が忘れてたってことか…」


長年離れていたせいか、それとも俺にとっては記憶に留めることがない出来事だったのか…


ともあれ、やるべきことは決まった


「昔の場所に咲いてればええんやけど…」


早速記憶を頼りに向かってみる、ここら辺は昔とあまり変わっていないからきっとあるはず


今日はねぇちゃんが学校だから、今日のうちにやってしまわないとな…


「…あった」


花を探し近所を周りに周って、たどり着いたのは家の花壇だった


近所にはもう咲いてなかったので途方に暮れていたが、ねぇちゃんが花壇に埋めていたことを思い出して帰ってきたのだ


「全く、なんで早く思い出さなかったかな…どうにも昔の記憶は朧げで困るなぁ」


昔押し花にした物と同じ花、花壇の端のほうに目立たなく咲いているそれは昔と変わらなかった


「…花びら一枚だけ、貰っていきます」


両手を合わせて、丁寧に一枚花びらを取る


これであとは作るだけだ


「ねぇちゃん、喜ぶといいなぁ」


分厚い研究資料に挟み、あとは時が過ぎるのを待つのみだ





「…たくま、今日もお疲れ様」


「それを言うなら俺やで、ねぇちゃんもお疲れ様や」


あれから暫く月日が経ち、押し花は無事に完成した


「…じゃあ、寝よ?」


「いや、その前に渡すものがあって…」


「…渡すもの?」


俺は昔と同じ花で作った押し花の栞をねぇちゃんに手渡す


「…これ、押し花の…」


「何年ぶりやろうな、ねぇちゃんに押し花を贈るの…」


「…たくま、思い出したの…?」


「いやぁ、それはもう…ねぇちゃんに綺麗だと思った花を贈って…それが枯れてねぇちゃんが悲しんだのも…それで俺が押し花の栞を贈ったのも、全部思い出したよ」


ねぇちゃんが言っていた大切な人、って言うのも俺だったことも含めて


「忘れてて本当に悪かった、それはそのお詫びと…俺から恋人に渡すプレゼントや。…あまりプレゼントとか分からんから、ねぇちゃんが喜びそうなものにしたんやけども…」


「…っ…た、たくまっ…!」


「…うーん、うまいことはよく言えない!俺は、シルクねぇちゃんが好き!それで十分やな!」


ねぇちゃんは触覚をピクピクさせて目をパチクリさせている、どうやら驚きと嬉しさで戸惑っているようだ


「何回も聴いてるけど、ねぇちゃんは…俺のこと好き?」


「…わ、私もたくまの事、好…っ!」


「…す?」


「…すっ…!」


ねぇちゃんの顔がみるみるうちに紅くなる、何を今更恥ずかしがる必要が…


「ほら、簡単やろ?思ってるままを言えばええんよ」


俺は考えた事わりと口にするけど


「…思ってる…まま…?」


「おう」


「…っ、たくま…!」


「はいな」


「…す、好き…大好きなの…!…愛して、るよ…っ」


言い切った後に触覚や指先が忙しなくピクピク動いて…あぁ、もうかわいいなぁシルクねぇちゃんは


「…あぅ…」


「…なんや、今ねぇちゃんがすっごく愛おしいんやけど…」


こんなねぇちゃんは今までに見たことがなくて新鮮で、少し調子に乗りねぇちゃんを抱き寄せる


「…っ、たくま…弟のクセに、なまいき…!」


「うわっ!?」


するとねぇちゃんに押し倒されてしまった、少し調子に乗りすぎてしまったようだ


「…私は、お姉ちゃんなんだから…!…たくまが、そういうのは…めっ、なの…!」


「ね、ねぇちゃん…怒ってる…?」


なんとなくだが、目が釣りあがっているように見える


「…怒ってないの、でも…なまいきな弟に、おしおき…してあげないと…」


「い、いや…そんなことは…んんっ!?」


「ちゅっ…ちぅぅぅぅぅぅぅっ!」


吸われるような口付けで、弁解をする前に塞がれてしまう


もうねぇちゃんの十八番やな…これ


「…いいわけは、聞きたくないの」


「…ご、ごめんなさい…」


「…ん、ちゃんと謝ったから…許す…」


ほっ、どうやら許してくれるらしい…何に怒られてたんだって話だけど


「じゃあ…その、退いてもらわないと俺が動けないんだけど」


「…それはダメ」


いや、何でだ


「…許すけど、おしおきはするの」


「するんかい!」


「…というより、もう、我慢できないのっ!」


ねぇちゃんが完全に発情期に入ってしまったらしい


こうなったらもうねぇちゃんが治るまで耐えるしかないんだが…


とりあえず、喜んでもらったし…プレゼントに関しては結果オーライだったのか?


「ね、ねぇちゃん…お手柔らかにな?」


「…善処、するの♪」


にっこりと妖艶な笑みを浮かべるねぇちゃんに対して俺はとりあえず、もう調子に乗らないことを心に決めるのだった…
15/05/07 07:37更新 / ミドリマメ
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■作者メッセージ
投稿が遅くなり申し訳ありませんでした、最近は忙しくSSを書く時間がなかなか取れなくて…でも完走目指して頑張らせていただきます!


今回はシルクねぇちゃんの番外編でしたが如何だったでしょうか、シロ姉の番外編を書いたからシルクねぇちゃんも…と思い書いてみました

今回はラブコメ路線というか精一杯イチャイチャさせてみましたがどうでしょうか?皆様が満足できるように書けていたなら本望です

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