第四章〜旅の合い間の話し合い〜
「………さびしいなぁ……。」
『………。』
「………若いのにずっと寝るって…すごい退屈な事だと思わないか?」
『………………。』
「だからさ、そろそろ動いてもいいと「はいはい、病人は起きようとしないで回復に専念しな。」
「………はい………。」
一人でぶつぶつしゃべり、へんに悟ろうとしていた俺を宿屋のおかみさんが抑える。今日で何回目のやり取りになったであろうか…。
遺跡での出来事が終わり、町に戻ってきた俺たちは、今日出発する予定だった。しかし、ここ二日の行動は、平和な日本で過ごしてきた自分にとっては無理があったみたいだ。前いた世界でも味わったことの無い高熱に襲われている。
とはいっても………。
「ビアンカさーん、やっぱり若いものに暇を与えるのはいいことじゃないと思いまーす。だから ゲホッ!ここは若いものの意思を尊重してさ…」
「馬鹿いってんじゃないよ、風邪を引いてる奴を動かすほうがよっぽどいいことじゃないさ!だいたいその言い方じゃ、まるであたしが若くないみたいじゃないか。あの嬢ちゃんにも心配かけたくないだろ?」
「…はい。」
この宿屋「ルーン」の料理長兼宿屋の店主の妻、『ビアンカ』さんは、今日の朝いち早くに俺の体調の悪さを見抜き、こうやって看病してくれている。料理だけでなく、部屋の掃除やシーツの洗濯などもしているというのに、自分の世話までしてもらっている。ありがたいことなのだが、さすがに悪い気がしてくる。
一度は断ったのだが、半ば強引に宿にもう一泊させられる事となった。店主の方も「家内はこうなったら梃子でも動きません。こちらとしては宿代さえもらえればいつまでもいていいですよ。」と言ってくれていた。ただ、いろんな客を迎える場所に病人を置いてもいいものだろうか?
「それじゃ、下に行って来るけど…くれぐれも抜け出そうとするんじゃないよ。」
「はい…ゲホッ ウェッホ!」
そんなこんなで、現在に至る。今の状況、非常に暇である。
そして、もうひとつの暇な原因…旅仲間であるロルが、朝から町に出て行ってるということ。
「ケホ……ロルの奴…大丈夫かな……ゥゲホッゴホッ ウッホ”!」
心配しても仕方が無いことだが、危なっかしい娘なので心配するなというほうがおかしい。
「……ふぅ…しゃーない……もう一度寝るか……」
全く眠たくないが、目を閉じていればそのうち意識はなくなるだろう。今はおかみさんの言うとおりさっさと体を治すことだけを考えよう。
※
「…ふぅ…。」
今回の遺跡騒動で、自分がどれだけ迷惑を掛けたかを振り返る。
半ば強引に仲間にしてもらい、生活費を払って貰っているばかりか…敵の罠にはまり、慕っている相手を危険な目にあわせ、そんな自分を助けてもらい…
「…かぜ…つらそうだった…な・・・。」
私、ロル=マシュティは自分の不甲斐なさに嘆かざるを得ません。
「さんざんめいわくかけて…おいて………きょうだって………。」
翔一の体調が悪いのだって、ビアンカさんが気づいてくれなかったらきっと気づかなかった。ああなったのだって、自分のせいなのに…気づいてあげれなかった。そんな自分が、翔一の傍にいることが、嫌になって……
「…しょういち…しんぱいしてるかな……。」
宿屋から飛び出して、現在に至る。現状、非常に気まずいです。
「…いちおう…ビアンカさんにはくすりのかいだしって…いって…る・けど…」
魔物になったためか、風邪薬なんて知らず、街をブラブラするしか出来ていない。おまけに周りの視線の中に、ちらほらと思い出のある視線が含まれている。
(………この視線…やっぱりヤだなぁ……。)
自分の服装は周りと大した差は無い。ただ、顔と腕の殆どを覆っている包帯が、否応にも存在感をだしてしまう。
当然、この包帯は怪我などではない。…自分が、『魔物』である証と言ってもいいものだ…。
(包帯を取ることが出来れば…この視線も…なくなるのに…)
いつも思っていることだけど…それが出来ればこんなに悩まなくてもいいのに…。しかし、この包帯が無ければ服を着ることも、歩くこともままならない。私達マミーの体は特別敏感なため、こうした特殊な包帯で覆うことで生活することが出来る。もしこの包帯が無ければ、吐息が肌に触れるだけで、快感と刺激によってまともに意識を保っていられなくなる…。
(………やっぱり……私みたいな魔物が…普通の生活なんて…恋なんてしちゃいけないのかな…)
さっきからこんな考えばかりしている。そしてとてもいたたまれなくなる…。この感情に嘘がないがために、辛くて、悲しくて、虚しくなる。ただでさえ異端な存在である自分は、傍にいるだけで迷惑をかけているのに……何もしてあげれない。自分が嫌いになりそうだ…。
「…このまま…どっかにいっちゃおうかな……。」
前髪を払い、空を見上げる……。
今日も、雲ひとつない、快晴だなぁ……。
「…しょういち…いまなにしているの…かなぁ……。」
※
「きー、きー………金華豚骨抜き。…き…きー…。」
俺こと霧島翔一は、一人しりとりなるもので寿命を無駄に消費していた…。
「き…キリマンジェロカフェイン抜き…またきか…きー、きーーー…うだああああああ!やってらんねえええぇぇぇ!ゲッホゲホッウェ!」
いきなり叫んだため、喉が悲鳴をあげているが、そんなの関係ないくらい今の状況がつまらない。寝ようとしても昨晩ぐっすり寝たためまったく眠たくない。それどころか体を動かしたくて仕方が無いのだ。
「ゲホッゴホッ、う〜くそぅ…もっと楽しく有意義に時間を潰せてかつ体のよくなる方法ってのはないのか…ゲホッ…」
「そんなの簡単じゃないかい、えっちなことをすれば万事解決。」
「・ ・ ・ ・ ?」
世界が数秒止まった気がした。
密室状態の部屋の中に、突然変な格好の少女がいて、エッチをすればいいと助言をくれる…そんな状況に出くわす確立は、きっと宝くじで3億当てることよりも珍しいに違いない…。そんな珍しい現象に立ち会えた自分は、きっと特別な存在なんだと、思いました。byヴェルタースオリジナル
「ん?どうしたんだい?目が点になってるけど…あ、そうか 私の体に欲情しちゃったんだねぇ、こりゃまいったね!」
「ちょっっっっっっっっっっっっっっっっっっっと待て!なんでこの部屋に君みたいな少女がいるんだい?簡潔に簡単に分かりやすくかつ丁寧に説明しておんなまし!ゲホッゲホゲホ!」
「……結構動揺しているみたいだねぇ……精神状態に難アリってところだね。」
少女は、あせっている自分をほうって置き、なにやらメモを取っている。…自分を観察しているみたいだが………。
「……で、お前は一体誰なんだ?正直今しんどいから面倒な奴なら出てってほしいんだけど…。」
「ありゃりゃ、エッチに興味ないのかい?…もしかしてインポテンツ?」
「なわきゃねぇだろうが!ちゃんと俺のジュニア達は反応すらい!」
「とまぁ、冗談はおいといて…。」
「冗談なのかよ……。」
あまりの馴れ馴れしいしゃべり方に思わずツッコミを入れてしまう。しかし、この少女が、初めてあった気がしないのもある。
「ありゃ?本当に覚えてないかな?ほら、魂の宝玉あげたじゃないか。」
「そんな厨二プレゼンツ貰った覚えないんだが……。…ん?まてよ、もしかしてお前…。」
自分の中の記憶がよみがえる…そしてある人物と一致する…。
「あー!お前この前の装飾店の!」
「やっと思い出してくれましたかい。」
服装が違うが、この顔はしっかりと覚えている。人懐っこいようで、決して近づきすぎないようにするこの目。砂漠にいるとは思えないほどの白い肌。なによりも赤に近いブラウンの髪は、乾燥しているこの地では異様なほどサラリとしてる………。
しかし、ただの少女が人に悟られることなくこの狭い部屋に入ってくることなどありえない。つまるとこ、この少女は『ただの』少女ではなく…。
「…魔物…なんだよな…。」
「そう警戒しない、こないだも助けてあげたじゃないかい♪どう?商品の性能ばっちりだったかい?」
「…あぁ、助けてくれてありがとう。で、一体なにたくらんでるんだ?ゲホッ」
否定しないところをみると、やはり魔物のようだ。
なるべく親しくならないように接する。自分の中でこの少女はどこか危険な感じがすると信号が出ているからだ…。
まるで抜き身の真剣のような…奇麗だが危険な、そんな感じの威圧感が少女からする…。
「だぁから、そぉんなに身構えない身構えない。自分は商品の評価さえ聞けたらいいんだから。」
「…評価?この火の能力の?」
そういって手から火を出してみる。この『火』の能力はいまだに使える。しかし火の能力ってどことなく死亡フラグな感じがする。主にアヴドゥルとかアヴドゥルとかアヴドゥルとか…。
「そう、その『魂の焔』を使って、なにか体調に変化とかは…うん。高熱だけだねぇ…。」
「え、ま、まぁそうだけど……。ってうぇ!?」
気がついたら目の前にいた。移動した瞬間が見えなかった。高速で動いたのか瞬間移動したのか…どちらにしても見えなかったのだからどちらかと考える必要はないが…。
少女の手が自分の額に触れる。冷たく、それでいて吸い寄せられるような感触が額に走る。
「…ふぅむ。ただの疲労かぁ…。ま、このクスリを飲んで今日一日安静にしていれば大丈夫かねぇ。」
そういって小瓶を取り出し自分の腿の辺りに放る。
「じゃ!そろそろ御いとまさせてもらうよ。」
「お、おい!お前一体誰なんだ!?なにが目的で助けたんだ!?」
「う〜ん、いっぺんに聞かれても回答に困るねぇ…ま、強いて言うなら目的は『気まぐれ』ってところかね。それじゃ」
それだけ言って窓から飛び降りた。魔物だから心配は無いだろうが、肝心なことは聞けなかった。
「…結局…なんも分かんなかったし…。」
というか、結局この火の評価は聞かなくてよかったのだろうか…。
取り残された俺は、クスリにと渡された小瓶を手に取り、蓋を開けた。栄養ドリンクのような形をした瓶の中身は、これまた栄養ドリンクのような味だった。
「ふぅ〜…なんかどっと疲れたなぁ…。」
ベットに横たわると途端に睡魔が襲ってきた…。自分はそれに逆らうことなくスっと眠りについた。
※
…どうすればいいのだろう…。
…なにをすればいいのだろう…。
…なにができるのだろう…。
(悩んでばっかりだな…私って…)
そうやってうじうじ悩む自分を想像して、また自己嫌悪に堕ちる。
今日もミシュアンの活気は衰えず、露店等から客寄せの声が溢れかえる。そんな街の中。私はただひたすらぶらついている。
何をするでもなく、フラフラと歩いている姿は、他の人からはどのように映るだろうか…。
いや、別に歩こうがなにをしようが、きっと周りの視線は変わらない。
私は、魔物なんだ…
道端で犬が何をしていようと、人からしたら犬がそこにいるというだけ…
私も同じ。何をしようと、何もしまいと、『魔物』がいるだけ…そういった風にしか見えない。
「……ほんと、わたしってなんなんだろう…。」
「おや、お嬢ちゃん!今日は彼氏と一緒じゃないのか?」
いきなりの声に少し戸惑う。横を見てみると、ここは一昨日ジュースを買った店だった。
「…あの…その……えと…。」
「…嬢ちゃん…なんか、いろいろ悩んでるみたいだね。」
「ッ!?」
「毎日嫌というほど客の顔見てきてんだ、悩んでるかどうかなんて一発でわからぁな。」
スキンヘッドのおじさんは、露店の横にある入り口から手を出して、こいこいと手を招く。私は、その招きに従い露店の中へ入る。
「ま、俺みたいなおっさんじゃ役不足かもしんないが、悩みがあるなら言ってみろ。案外こういうのは言葉にすると気が楽になるもんだ。」
「はぁ……。」
木箱を椅子代わりに座る。目の前にいるおじさんは私が魔物だということに気づいていないのだろうか…。ともあれ、店の中に入った手前、何もせず帰ることはできない。
「…ほら、いってごらん。」
「…………はい。」
私は目の前のおじさんに翔一のこと、自分のこと、ここ数日のことを話した。もちろん。自分が魔物だということも。だけど、おじさんは何も言わずに私の話を聞いてくれた。私は、悩みも、想いも、何もかもをしゃべった。
「………だから…そんな自分が…。」
「嫌いになった…か…。」
話を終える頃には、私はなぜか泣いていた。そんな自分を見て、おじさんはなにも言わずに立ち上がった。
「ちょっとまってな。」
「…?」
なにをするのかと思えば、店の果物を切り始めた。よほどこの仕事をしてきたのか、あっという間に果物を細切れにしていく。
「…もし、あんたがこのままいなくなったら…。あんたの彼…翔一さんはどう思うかね…。」
「どう…って…。」
「あんたが魔物ということも、あんたが足手まといってことも、みんな許してくれてんだろう?だったらいいじゃねぇか。」
「で、でも…わたしは……。」
「別に俺ぁあんたに出て行くなとはいわんよ。ただ…どんな形であれ、なにも言わずにどっかいくってのだけは関心しねぇな。」
「………。」
「ホレ!」
そういって渡してきたものは、一昨日飲んだジュースと同じものだった。さぁ飲めといわんばかりに進めてくるので、一口、口に含む。果物特有の甘酸っぱさが口に広がる。とたんに胸の中がスッとした気がした。
「実は、俺にゃ妻と子供がいるんだがね。妻は魔物なんだわ。」
「!?」
いきなりの衝撃告白に少し戸惑う。だけど別段珍しいことでもない。いまだに魔物への差別はあるが、魔物との結婚も認められてる。
「もちろん。周りからは非難の声もあったし、後ろ指差されることだってあった。」
「…こうかい…してないんですか…?」
「俺ぁ結婚して後悔なんてしてないさ!幸せだったさ。だがな…」
「…?」
「妻も、アンタに似た考えを持ってたんだわ。自分のせいで、自分の存在が、自分がいるためにって、そんなことばっかり考えてたんだろうな。結婚して数ヶ月後にいきなりどっかいっちまってな。」
「…………。」
やっぱり…人間と魔物は…結ばれないのかな…。
「すっげぇ寂しかったぜ?居なくなられるってのは…同時にどうしようもないくらい傷ついた。」
「………。」
「お前にとって、俺の存在はそんなもんなのか、ってな。だから俺ぁ妻をすぐさま捜しにいったさ。」
「…どうして…?」
「きまってらぁ!一発どならねぇと気がすまなかったからさ!」
そういっておじさんはおもむろに後ろの果物を袋に詰め、自分に渡してくる。
「ま、なんだか悩みを聞くはずだったのにつまんねぇ過去話を聞かせちまったな。ともかく、あんちゃんとこに帰ってやンな。きっと待ってるはずだぜ?」
「…おじさんは……おくさんにあえたの?」
「あたぼうよ!見つかってなかったらこんなとこで商売なんてやってねぇさ!」
満面の笑みをこちらに向けるおじさんの顔は、どことなく翔一に似ていた。
「…ありがとう…ございます。だいぶ…きが…らくになりまし…た……。」
「気にすんな!俺のおせっかいだからな!」
「…あの…。なまえ…おしえてもらっても…いい・・です・か?」
ふと、気になったので名前を聞いておく。いつも親しくなってからしか名前を知れていない気もする。私のだめなとこかもしれない。
「俺か?俺ぁラルクってんだ。」
「らるく…さん…。ほんとうに…ありがとうございました…。」
「いいってことよ!彼氏のあんちゃんにもよろしくな!」
「…はい!」
ハッハッハッ!と笑うおじさんの声を背に店を出た。店を出た私の足取りは、入ったときとは違っていた。まっすぐに、宿屋へと向かっていく。向かっていける。
すごく、心が楽になってた…。
※
「…んぁ………。」
昼寝をしたあとの独特の気だるさと、口内の乾き。窓の外を見ると、太陽はすでに見えず、地平線の向こうの朱色が徐々に藍色の空へと変わりつつあった。
その光景は、ビルや建物で遮られた現代の日本では、あまり見ることのできない光景だった。
「綺麗なもんだなぁ。日本にもこんな景色を見れる所あんのかなぁ…。」
『…して、日本とはどこにあるのだ?』
「うわっ!びっくりしたぁ。 マジビビルワァ!」
突然の脳内に響く声に、兄貴顔負けのリアクションをとってしまった。歪みねぇなぁ…。
『す、すまない。ずっと会話のタイミングを見計らっていたのだが……我はあまり対話をしたことがないのだ…。』
「ふーん。」
深みのあるハスキーな声が、自分の中で響き渡る。声の質からは、男性とも取れるし、女性とも取れる声をしている。しかし、こう響き渡る声というのは微妙な違和感があるのも事実だ。平和な日本で平々凡々と暮らしてきた自分にテレパシーの経験などありゃしない。
………そういやセイの声もこんな感じで聞こえてたな……。
案外、この世界ではポピュラーな対話方なのかも知れない。慣れておくにはちょうどいい。とりあえずこいつといろいろ会話をしてみよう。
「………あー…。」
『…どうした?』
「…えー、と………。」
『………。』
「そういやお前名前なかったな…。」
『肯定だ。我に固定名は存在しない。あるのは「魂の焔」という商品名だけだ。』
とたんに機械的なしゃべりになる。商品というだけあって商品明細を言う場合は淡々とした口調になるようだ。なるほど、商品としては良い品のようだ。
「でも、さすがにいっつも「魂の焔」って言うのは面倒だよなぁ?」
『肯定だ。だから主は「お前」という呼称で呼んでいるではないか。』
「あー…だから、そういう呼び方もなんか心地悪いじゃん。」
『……主は何がいいたいのだ?』
「だからさ、お前の名前をつけようと思うんだよ。」
『我の……名前……。』
「そう!名前!」
よし、対話への糸口GETだぜ!
『必要ないと思われるが…。』
糸口速攻爆☆殺!
「いやいやいや!必要なんだよ!世の中やかんに「ポチ」って名前付けて、やかんが鳴った瞬間「あ、ポチが鳴いてる!早くいってあげなきゃ♪」っていう奴だっているんだぞ!」
『そ…そうなのか……。』
なかば無理やり丸め込むことに成功した。ちなみにやかんにポチって話し。ありゃ実話だ。
「まかせとけ!すでに俺は二人?ほど名前をつけたことがある。いわば名づけのプロだ!」
『我は、主の意思に任せる…。』
「よし、任された!」
任された以上まじめに考えないとな。…しかし…どんな名前がいいだろう…。
ここは無難に火から連想して……ファイア! いや、あえてフレイムとか……。いかん、某格闘ゲームのゴムゴムの実を食べたヨガ野郎しか連想できねぇ…。
火…といえば…アヴドゥル? いや、だめだ。この名前にしたら某アイスクリームおじさんに殺されちまう。
…あえて火じゃなくて魂の方に視点を向けてみるか…。…となると…魂の英語読みって………。スピリット?エクトプラズム?…うーむ…なげぇなぁ…。
「スピ…スピリット……。スッピー?」
『スッピーでいいのか?』
「いやいやいやダメだって!」
『むぅ…すまない。』
いかん。まじめに考えないとこいつは本気でその名前を自分の名前だと認識してしまう。…魂ってほかになんかあったっけ………。
「えぇ……と……。」
『…主よ、無理に考えなくても我は困らない。今まで通りでいいのでは?』
「待って!あと5秒!あと5秒で考えるから!」
『それでは。4、3』
カウントし始めやがった!やばい!コレはガチでやばいですよ!
『2、1』
「あああああああっと!あれだ!そう!そ!」
『そ?』
「ソウル!」
『………。』
やっちまった。
これほど安直な名前もなかっただろう。
これならまだ…スッピーのほうが良かったかもしれない。
『…ソウル……。そうか、了解した。我はこれからはソウルと言う名前として認識しておく。』
「…お、おう!」
『…ソウル…か……。主よ…』
「な、なんだ!?」
『…感謝する。」
…どうやら、名前をもらえればなんでも良かったのだろう。
こいつの…ソウルの声が、今までとは違う感情のある声になっていた。なんだかんだいって、こいつにもちゃんと意思がある。人格がある。そうなったら、自分だけの物ってもんが欲しくなるものだ。
そして、実体もなく、考えることとしゃべることしかできないこいつにとって、名前っていうのが、唯一の自分の所有物になりえるものだったのだろう。
「…よろしくな!ソウル!」
『あぁ、こちらこそ。よろしく頼む、主よ…。』
よし、これで更なる対話へのステップが踏めそうだ。
『ところで主よ。』
「ん?」
『主の連れの姿が、いまだに見えないが…。』
「…忘れてた……。」
朝出かけたロルの姿が見えない。さすがにこの時間になっても帰ってこないのは心配だ。良い子は暗くなる前におうちに帰らないとパパとママに怒られちゃうぞ!
「しゃーない。探しに行くか。」
貸してもらった寝巻きから、普段着へと着替える。熱は大分下がったみたいだが、寝起きということもあって少しダルイ。ある程度厚着にして夜の寒さの対策をしておく。
ロルを探しに行くために、俺は部屋のドアを開けた…。
※
(…どうしよう……。)
ラルクさんが元気付けてくれたおかげで、部屋の前まで来ることができた。
でも、ドアの前で、この先に進む勇気が出ない。脚が竦み、手が震える。どうしても罪悪感が先立ってしまう。
(…このまま、どこかにいったほうが…。)
そんな考えがまた浮かぶ。
――ガチャッ
そんな考えをしていると、目の前にあったドアの取っ手が回った。
そして、ドアの向こうから現れた人物は……
「…ロル?どうしたんだ?こんなとこに突っ立って?」
「…しょう…いち……。」
目の前に現れたのは、今日一日…ずっと想っていた人だった……。
「…まぁ、なんにせよ無事でよかった。」
「……ぇ?」
そういえば…翔一の服装が普段着に変わってる…。こんな時間に…一体どこに行こうとしてたのか…。
……自惚れかもしれない…
……願望かもしれない…
……でも… そうだと思いたい…
「…もしかして……わたしを…さが・・そう・と…?」
「ん?あぁ…。さすがにこの時間まで帰って来ないと心配だったからな…まぁ杞憂だったみたいだけどな。」
照れ隠しなのか笑いながらベットに向かっている…。
その姿を見て…また思う…。
…翔一は……なんでそこまでして…私を気にかけてくれるのか……。
人がいいから?
私が好きだから?
人手が欲しいから?
……誰でも…よかった…?
頭の中でぐるぐると思考が渦巻く…。
それでも…確かめておきたい…。
翔一が……どう思っているのか…。
「…ねぇ…しょうい…ち……。」
「…んぁ?」
「ぁ……ぅ…。」
声が出ない……言葉が言い出せない…。
当たり前だ…これだけ迷惑を掛けておきながら、さらにもっと馬鹿なことを聞こうとしてるのだ…。
止めときたい
いいたくない
聞きたくない
まだ間に合う
やめよう?
そうだよ…
聞いたところで…
……………
…でも… 確かめたい。
「…どうした?」
「…ねぇ…しょういち…。」
残酷な結果が待ってるかもしれない
この質問に深い意味なんてないかもしれない
それでも…
「…しょういちに…とっ・・て……わたしって…ひつ・・よう…かな?」
「…え?」
「…わたし…さ…しょういちと…いっしょにすごして…はじめて…けいけんすること…たく・・さん……あって…ヒッ…すご…く…ウェッ…たのし…く…て…。」
……堪えきれない…
嗚咽が混じり始め…何を言ってるのか自分でも分からなくなり始める…
でも…
「…グスッ…でも……わたし…ずっと…めい…わ…くかヒッ…け・てて……きょう…だって……きづいて…あげ…れなか……ァ…た…。」
ぼろぼろと流れる涙
魔物の象徴ともいえる包帯に滲ませ
ぐしゃぐしゃになった顔で
それでも…最後まで…
「…ねぇ……しょぅ…いちぃ…ヒック…わたし…って……いっしょに…いて…もぉ…いい…の…か・・な……?ひつ・・よう…か…なぁ…?」
「…おねがい……しょういち…の…きもち……おしえて…」
言い切った私は、顔の水を腕の包帯で拭い去る…
…きっと酷い顔をしてるだろう…
でも…翔一の答えを聞くまでは…
目をそむけない…。
「………。」
「…しょう・・いち?」
「…よし!!」
黙ってうつむいてた翔一は、自分の膝をパン!っと叩き、こちらを向いた。
「…正直に話そう。いろいろと」
「………(コクッ」
「…実を言うと、俺はこの世界の人間じゃない。」
「…ぇ?」
…なにを突然言い出すのだろうか…
翔一が?異世界人?
…別段珍しいことではない。この世界にはいろいろな種族が共生している。人間だってピンきりだし、異世界から来る人も珍しくはない…。
でも…少し驚いた。
「…自分のいた世界では…ドジして死んじゃってさ……良くわかんないうちにこっちに来ることになってさ…。もうあらゆることが急展開だった…。」
自分の昔話を話してるはずなのに…どこか人事臭く聞こえる…。
でも…わかる気がする…。自分も生前の自分とは…どこか他人のような印象を受ける…。それと同じなのだろうか?
「でさ、この世界に来たのはつい最近で…4日前に来たんだ。」
「ぇ…それ…って…。」
「そう、ロルにあった日。あの日に俺はこの世界に来たんだ。」
…そう…だったんだ…。
「びっくりしたんだぜ?いきなり出た所が当たり一面の砂漠でさ、なーーんにもない所。一人異世界に来て、だーれもいない所にでてさ…正直、怖かったんだ…。」
「………。」
「そこで、初めて出会った人がロルだった。」
…初めて… だから…
「いやぁ、見つけた時は正直ホッとしたんだ。でもホッしてすぐさま倒れてこれまたびっくり!」
「………。」
「でも、あの時ロルに出会えなかったらと思うと…正直ゾッとするしな。ロルに出会えて本当に良かったと思ってる。」
「……でも…。」
「ん?」
「でもそれは…はじめてあったのが…わた・しだった…だけ…で…。」
他の誰でも良かったのでは?
そう思ったが…口に出せなかった…。
「んー。でも、ロルでよかったと思うよ。俺は。」
「ぇ…」
「たったの4日の付き合いだけどさ、それでも俺はロルのことを良くしってるつもりだよ。」
「……。」
「可愛くて、素直で、単純で、言葉で表すよりも表情で出てて、結構大胆で、でも引っ込み思案。それに、」
言葉半ばで翔一がこっちに来る
「…///!」
――ガサッ!
「こうやって、人のことを思いやれる、いい子だって…知ってるからね。」
ラルクさんに貰った果物を嬉しそうに見せてくる…。
…でも
「…でも、あしでまとい…だし…めいわくばっかり…」
「足手まといとも、迷惑だとも思ったことない。むしろそういう考えをする限り、俺はロルとは離れれないかな。」
「どう……して…。」
「…知ってしまったからね。ロルって女の子のことを…。図々しいかもしれないけど…俺の中ではすでに『仲間』って思ってるんだよね。」
「………。」
「だからさ、足手まといとか、迷惑だとか、そう思ってるなら…一緒にそれを解消していこうぜ?もう仲間なんだから。」
「……クスッ」
本当に、どうしようもないくらいいい人だ…。
でも…本当に…どうしようもないくらい…好き…。
「…ねぇ、しょうい…ち。」
「うん?なんだ?」
「…もっときかせて…ほしいな…しょういち…のこと・・。」
「俺のことっつっても……まぁいっか。」
「…となり…すわっても……いい…かな。」
「……。」
何もいわずにポンポンと横を叩いている。
「…しょういち……だいすき」
※
体調良し! 熱もない! 喉もスッキリ! 準備万端!
「完・全・復・活!」
「まったく…元気になったとたんすぐコレだ…。若さかねぇ。」
「ビアンカさんのおかげですよ!本当にお世話になりました!」
長いことお世話になったミシュアンともここでお別れだ…情が移った分寂しさも増すというものだ。
「寂しくなるけど…まっ! 気をつけて頑張りな!またいつでもおいで。」
「はい、また美味い飯を食べにきます!」
「シングルルームはいつでも空けておきますぜ。」ヒッヒッヒ
…相変わらずの店主…こいつそれだけが目的で宿屋やってるんじゃ…。
「おせわに…なりまし…た・・。」
「ロルちゃんも気をつけてね!しっかりとあいつを守ってやりな!」
――バンッ!
「「いっ(てぇ!)(たぁい!)」」
いきなりの背中への張り手にロルも俺もびっくりした。でもなんだが元気を分けてもらった感じがした。
「ハッハッハ!頑張りなよ!」
「いつつ、じゃ、いって来ます!」
名残惜しくもあるが、いつまでもここにいるわけにも行かない。早いとこ次の町でネロについて調べなくては…。
「次の町までどのくらいあるんだ?」
「…けっこうある…けど…ふつかもあれば…つく・よ…。」
「ふぅむ。ま、考えてもしゃーないか。それじゃ次の町に向けて出発!」
長いようで、短かかったミシュアンでの暮らし。
ネロへの手がかりはほとんどゼロだが、代わりにいろいろなものを手に入れた。次の町でも、この町のような…心地のいい出会いがあると信じて…。
『………。』
「………若いのにずっと寝るって…すごい退屈な事だと思わないか?」
『………………。』
「だからさ、そろそろ動いてもいいと「はいはい、病人は起きようとしないで回復に専念しな。」
「………はい………。」
一人でぶつぶつしゃべり、へんに悟ろうとしていた俺を宿屋のおかみさんが抑える。今日で何回目のやり取りになったであろうか…。
遺跡での出来事が終わり、町に戻ってきた俺たちは、今日出発する予定だった。しかし、ここ二日の行動は、平和な日本で過ごしてきた自分にとっては無理があったみたいだ。前いた世界でも味わったことの無い高熱に襲われている。
とはいっても………。
「ビアンカさーん、やっぱり若いものに暇を与えるのはいいことじゃないと思いまーす。だから ゲホッ!ここは若いものの意思を尊重してさ…」
「馬鹿いってんじゃないよ、風邪を引いてる奴を動かすほうがよっぽどいいことじゃないさ!だいたいその言い方じゃ、まるであたしが若くないみたいじゃないか。あの嬢ちゃんにも心配かけたくないだろ?」
「…はい。」
この宿屋「ルーン」の料理長兼宿屋の店主の妻、『ビアンカ』さんは、今日の朝いち早くに俺の体調の悪さを見抜き、こうやって看病してくれている。料理だけでなく、部屋の掃除やシーツの洗濯などもしているというのに、自分の世話までしてもらっている。ありがたいことなのだが、さすがに悪い気がしてくる。
一度は断ったのだが、半ば強引に宿にもう一泊させられる事となった。店主の方も「家内はこうなったら梃子でも動きません。こちらとしては宿代さえもらえればいつまでもいていいですよ。」と言ってくれていた。ただ、いろんな客を迎える場所に病人を置いてもいいものだろうか?
「それじゃ、下に行って来るけど…くれぐれも抜け出そうとするんじゃないよ。」
「はい…ゲホッ ウェッホ!」
そんなこんなで、現在に至る。今の状況、非常に暇である。
そして、もうひとつの暇な原因…旅仲間であるロルが、朝から町に出て行ってるということ。
「ケホ……ロルの奴…大丈夫かな……ゥゲホッゴホッ ウッホ”!」
心配しても仕方が無いことだが、危なっかしい娘なので心配するなというほうがおかしい。
「……ふぅ…しゃーない……もう一度寝るか……」
全く眠たくないが、目を閉じていればそのうち意識はなくなるだろう。今はおかみさんの言うとおりさっさと体を治すことだけを考えよう。
※
「…ふぅ…。」
今回の遺跡騒動で、自分がどれだけ迷惑を掛けたかを振り返る。
半ば強引に仲間にしてもらい、生活費を払って貰っているばかりか…敵の罠にはまり、慕っている相手を危険な目にあわせ、そんな自分を助けてもらい…
「…かぜ…つらそうだった…な・・・。」
私、ロル=マシュティは自分の不甲斐なさに嘆かざるを得ません。
「さんざんめいわくかけて…おいて………きょうだって………。」
翔一の体調が悪いのだって、ビアンカさんが気づいてくれなかったらきっと気づかなかった。ああなったのだって、自分のせいなのに…気づいてあげれなかった。そんな自分が、翔一の傍にいることが、嫌になって……
「…しょういち…しんぱいしてるかな……。」
宿屋から飛び出して、現在に至る。現状、非常に気まずいです。
「…いちおう…ビアンカさんにはくすりのかいだしって…いって…る・けど…」
魔物になったためか、風邪薬なんて知らず、街をブラブラするしか出来ていない。おまけに周りの視線の中に、ちらほらと思い出のある視線が含まれている。
(………この視線…やっぱりヤだなぁ……。)
自分の服装は周りと大した差は無い。ただ、顔と腕の殆どを覆っている包帯が、否応にも存在感をだしてしまう。
当然、この包帯は怪我などではない。…自分が、『魔物』である証と言ってもいいものだ…。
(包帯を取ることが出来れば…この視線も…なくなるのに…)
いつも思っていることだけど…それが出来ればこんなに悩まなくてもいいのに…。しかし、この包帯が無ければ服を着ることも、歩くこともままならない。私達マミーの体は特別敏感なため、こうした特殊な包帯で覆うことで生活することが出来る。もしこの包帯が無ければ、吐息が肌に触れるだけで、快感と刺激によってまともに意識を保っていられなくなる…。
(………やっぱり……私みたいな魔物が…普通の生活なんて…恋なんてしちゃいけないのかな…)
さっきからこんな考えばかりしている。そしてとてもいたたまれなくなる…。この感情に嘘がないがために、辛くて、悲しくて、虚しくなる。ただでさえ異端な存在である自分は、傍にいるだけで迷惑をかけているのに……何もしてあげれない。自分が嫌いになりそうだ…。
「…このまま…どっかにいっちゃおうかな……。」
前髪を払い、空を見上げる……。
今日も、雲ひとつない、快晴だなぁ……。
「…しょういち…いまなにしているの…かなぁ……。」
※
「きー、きー………金華豚骨抜き。…き…きー…。」
俺こと霧島翔一は、一人しりとりなるもので寿命を無駄に消費していた…。
「き…キリマンジェロカフェイン抜き…またきか…きー、きーーー…うだああああああ!やってらんねえええぇぇぇ!ゲッホゲホッウェ!」
いきなり叫んだため、喉が悲鳴をあげているが、そんなの関係ないくらい今の状況がつまらない。寝ようとしても昨晩ぐっすり寝たためまったく眠たくない。それどころか体を動かしたくて仕方が無いのだ。
「ゲホッゴホッ、う〜くそぅ…もっと楽しく有意義に時間を潰せてかつ体のよくなる方法ってのはないのか…ゲホッ…」
「そんなの簡単じゃないかい、えっちなことをすれば万事解決。」
「・ ・ ・ ・ ?」
世界が数秒止まった気がした。
密室状態の部屋の中に、突然変な格好の少女がいて、エッチをすればいいと助言をくれる…そんな状況に出くわす確立は、きっと宝くじで3億当てることよりも珍しいに違いない…。そんな珍しい現象に立ち会えた自分は、きっと特別な存在なんだと、思いました。byヴェルタースオリジナル
「ん?どうしたんだい?目が点になってるけど…あ、そうか 私の体に欲情しちゃったんだねぇ、こりゃまいったね!」
「ちょっっっっっっっっっっっっっっっっっっっと待て!なんでこの部屋に君みたいな少女がいるんだい?簡潔に簡単に分かりやすくかつ丁寧に説明しておんなまし!ゲホッゲホゲホ!」
「……結構動揺しているみたいだねぇ……精神状態に難アリってところだね。」
少女は、あせっている自分をほうって置き、なにやらメモを取っている。…自分を観察しているみたいだが………。
「……で、お前は一体誰なんだ?正直今しんどいから面倒な奴なら出てってほしいんだけど…。」
「ありゃりゃ、エッチに興味ないのかい?…もしかしてインポテンツ?」
「なわきゃねぇだろうが!ちゃんと俺のジュニア達は反応すらい!」
「とまぁ、冗談はおいといて…。」
「冗談なのかよ……。」
あまりの馴れ馴れしいしゃべり方に思わずツッコミを入れてしまう。しかし、この少女が、初めてあった気がしないのもある。
「ありゃ?本当に覚えてないかな?ほら、魂の宝玉あげたじゃないか。」
「そんな厨二プレゼンツ貰った覚えないんだが……。…ん?まてよ、もしかしてお前…。」
自分の中の記憶がよみがえる…そしてある人物と一致する…。
「あー!お前この前の装飾店の!」
「やっと思い出してくれましたかい。」
服装が違うが、この顔はしっかりと覚えている。人懐っこいようで、決して近づきすぎないようにするこの目。砂漠にいるとは思えないほどの白い肌。なによりも赤に近いブラウンの髪は、乾燥しているこの地では異様なほどサラリとしてる………。
しかし、ただの少女が人に悟られることなくこの狭い部屋に入ってくることなどありえない。つまるとこ、この少女は『ただの』少女ではなく…。
「…魔物…なんだよな…。」
「そう警戒しない、こないだも助けてあげたじゃないかい♪どう?商品の性能ばっちりだったかい?」
「…あぁ、助けてくれてありがとう。で、一体なにたくらんでるんだ?ゲホッ」
否定しないところをみると、やはり魔物のようだ。
なるべく親しくならないように接する。自分の中でこの少女はどこか危険な感じがすると信号が出ているからだ…。
まるで抜き身の真剣のような…奇麗だが危険な、そんな感じの威圧感が少女からする…。
「だぁから、そぉんなに身構えない身構えない。自分は商品の評価さえ聞けたらいいんだから。」
「…評価?この火の能力の?」
そういって手から火を出してみる。この『火』の能力はいまだに使える。しかし火の能力ってどことなく死亡フラグな感じがする。主にアヴドゥルとかアヴドゥルとかアヴドゥルとか…。
「そう、その『魂の焔』を使って、なにか体調に変化とかは…うん。高熱だけだねぇ…。」
「え、ま、まぁそうだけど……。ってうぇ!?」
気がついたら目の前にいた。移動した瞬間が見えなかった。高速で動いたのか瞬間移動したのか…どちらにしても見えなかったのだからどちらかと考える必要はないが…。
少女の手が自分の額に触れる。冷たく、それでいて吸い寄せられるような感触が額に走る。
「…ふぅむ。ただの疲労かぁ…。ま、このクスリを飲んで今日一日安静にしていれば大丈夫かねぇ。」
そういって小瓶を取り出し自分の腿の辺りに放る。
「じゃ!そろそろ御いとまさせてもらうよ。」
「お、おい!お前一体誰なんだ!?なにが目的で助けたんだ!?」
「う〜ん、いっぺんに聞かれても回答に困るねぇ…ま、強いて言うなら目的は『気まぐれ』ってところかね。それじゃ」
それだけ言って窓から飛び降りた。魔物だから心配は無いだろうが、肝心なことは聞けなかった。
「…結局…なんも分かんなかったし…。」
というか、結局この火の評価は聞かなくてよかったのだろうか…。
取り残された俺は、クスリにと渡された小瓶を手に取り、蓋を開けた。栄養ドリンクのような形をした瓶の中身は、これまた栄養ドリンクのような味だった。
「ふぅ〜…なんかどっと疲れたなぁ…。」
ベットに横たわると途端に睡魔が襲ってきた…。自分はそれに逆らうことなくスっと眠りについた。
※
…どうすればいいのだろう…。
…なにをすればいいのだろう…。
…なにができるのだろう…。
(悩んでばっかりだな…私って…)
そうやってうじうじ悩む自分を想像して、また自己嫌悪に堕ちる。
今日もミシュアンの活気は衰えず、露店等から客寄せの声が溢れかえる。そんな街の中。私はただひたすらぶらついている。
何をするでもなく、フラフラと歩いている姿は、他の人からはどのように映るだろうか…。
いや、別に歩こうがなにをしようが、きっと周りの視線は変わらない。
私は、魔物なんだ…
道端で犬が何をしていようと、人からしたら犬がそこにいるというだけ…
私も同じ。何をしようと、何もしまいと、『魔物』がいるだけ…そういった風にしか見えない。
「……ほんと、わたしってなんなんだろう…。」
「おや、お嬢ちゃん!今日は彼氏と一緒じゃないのか?」
いきなりの声に少し戸惑う。横を見てみると、ここは一昨日ジュースを買った店だった。
「…あの…その……えと…。」
「…嬢ちゃん…なんか、いろいろ悩んでるみたいだね。」
「ッ!?」
「毎日嫌というほど客の顔見てきてんだ、悩んでるかどうかなんて一発でわからぁな。」
スキンヘッドのおじさんは、露店の横にある入り口から手を出して、こいこいと手を招く。私は、その招きに従い露店の中へ入る。
「ま、俺みたいなおっさんじゃ役不足かもしんないが、悩みがあるなら言ってみろ。案外こういうのは言葉にすると気が楽になるもんだ。」
「はぁ……。」
木箱を椅子代わりに座る。目の前にいるおじさんは私が魔物だということに気づいていないのだろうか…。ともあれ、店の中に入った手前、何もせず帰ることはできない。
「…ほら、いってごらん。」
「…………はい。」
私は目の前のおじさんに翔一のこと、自分のこと、ここ数日のことを話した。もちろん。自分が魔物だということも。だけど、おじさんは何も言わずに私の話を聞いてくれた。私は、悩みも、想いも、何もかもをしゃべった。
「………だから…そんな自分が…。」
「嫌いになった…か…。」
話を終える頃には、私はなぜか泣いていた。そんな自分を見て、おじさんはなにも言わずに立ち上がった。
「ちょっとまってな。」
「…?」
なにをするのかと思えば、店の果物を切り始めた。よほどこの仕事をしてきたのか、あっという間に果物を細切れにしていく。
「…もし、あんたがこのままいなくなったら…。あんたの彼…翔一さんはどう思うかね…。」
「どう…って…。」
「あんたが魔物ということも、あんたが足手まといってことも、みんな許してくれてんだろう?だったらいいじゃねぇか。」
「で、でも…わたしは……。」
「別に俺ぁあんたに出て行くなとはいわんよ。ただ…どんな形であれ、なにも言わずにどっかいくってのだけは関心しねぇな。」
「………。」
「ホレ!」
そういって渡してきたものは、一昨日飲んだジュースと同じものだった。さぁ飲めといわんばかりに進めてくるので、一口、口に含む。果物特有の甘酸っぱさが口に広がる。とたんに胸の中がスッとした気がした。
「実は、俺にゃ妻と子供がいるんだがね。妻は魔物なんだわ。」
「!?」
いきなりの衝撃告白に少し戸惑う。だけど別段珍しいことでもない。いまだに魔物への差別はあるが、魔物との結婚も認められてる。
「もちろん。周りからは非難の声もあったし、後ろ指差されることだってあった。」
「…こうかい…してないんですか…?」
「俺ぁ結婚して後悔なんてしてないさ!幸せだったさ。だがな…」
「…?」
「妻も、アンタに似た考えを持ってたんだわ。自分のせいで、自分の存在が、自分がいるためにって、そんなことばっかり考えてたんだろうな。結婚して数ヶ月後にいきなりどっかいっちまってな。」
「…………。」
やっぱり…人間と魔物は…結ばれないのかな…。
「すっげぇ寂しかったぜ?居なくなられるってのは…同時にどうしようもないくらい傷ついた。」
「………。」
「お前にとって、俺の存在はそんなもんなのか、ってな。だから俺ぁ妻をすぐさま捜しにいったさ。」
「…どうして…?」
「きまってらぁ!一発どならねぇと気がすまなかったからさ!」
そういっておじさんはおもむろに後ろの果物を袋に詰め、自分に渡してくる。
「ま、なんだか悩みを聞くはずだったのにつまんねぇ過去話を聞かせちまったな。ともかく、あんちゃんとこに帰ってやンな。きっと待ってるはずだぜ?」
「…おじさんは……おくさんにあえたの?」
「あたぼうよ!見つかってなかったらこんなとこで商売なんてやってねぇさ!」
満面の笑みをこちらに向けるおじさんの顔は、どことなく翔一に似ていた。
「…ありがとう…ございます。だいぶ…きが…らくになりまし…た……。」
「気にすんな!俺のおせっかいだからな!」
「…あの…。なまえ…おしえてもらっても…いい・・です・か?」
ふと、気になったので名前を聞いておく。いつも親しくなってからしか名前を知れていない気もする。私のだめなとこかもしれない。
「俺か?俺ぁラルクってんだ。」
「らるく…さん…。ほんとうに…ありがとうございました…。」
「いいってことよ!彼氏のあんちゃんにもよろしくな!」
「…はい!」
ハッハッハッ!と笑うおじさんの声を背に店を出た。店を出た私の足取りは、入ったときとは違っていた。まっすぐに、宿屋へと向かっていく。向かっていける。
すごく、心が楽になってた…。
※
「…んぁ………。」
昼寝をしたあとの独特の気だるさと、口内の乾き。窓の外を見ると、太陽はすでに見えず、地平線の向こうの朱色が徐々に藍色の空へと変わりつつあった。
その光景は、ビルや建物で遮られた現代の日本では、あまり見ることのできない光景だった。
「綺麗なもんだなぁ。日本にもこんな景色を見れる所あんのかなぁ…。」
『…して、日本とはどこにあるのだ?』
「うわっ!びっくりしたぁ。 マジビビルワァ!」
突然の脳内に響く声に、兄貴顔負けのリアクションをとってしまった。歪みねぇなぁ…。
『す、すまない。ずっと会話のタイミングを見計らっていたのだが……我はあまり対話をしたことがないのだ…。』
「ふーん。」
深みのあるハスキーな声が、自分の中で響き渡る。声の質からは、男性とも取れるし、女性とも取れる声をしている。しかし、こう響き渡る声というのは微妙な違和感があるのも事実だ。平和な日本で平々凡々と暮らしてきた自分にテレパシーの経験などありゃしない。
………そういやセイの声もこんな感じで聞こえてたな……。
案外、この世界ではポピュラーな対話方なのかも知れない。慣れておくにはちょうどいい。とりあえずこいつといろいろ会話をしてみよう。
「………あー…。」
『…どうした?』
「…えー、と………。」
『………。』
「そういやお前名前なかったな…。」
『肯定だ。我に固定名は存在しない。あるのは「魂の焔」という商品名だけだ。』
とたんに機械的なしゃべりになる。商品というだけあって商品明細を言う場合は淡々とした口調になるようだ。なるほど、商品としては良い品のようだ。
「でも、さすがにいっつも「魂の焔」って言うのは面倒だよなぁ?」
『肯定だ。だから主は「お前」という呼称で呼んでいるではないか。』
「あー…だから、そういう呼び方もなんか心地悪いじゃん。」
『……主は何がいいたいのだ?』
「だからさ、お前の名前をつけようと思うんだよ。」
『我の……名前……。』
「そう!名前!」
よし、対話への糸口GETだぜ!
『必要ないと思われるが…。』
糸口速攻爆☆殺!
「いやいやいや!必要なんだよ!世の中やかんに「ポチ」って名前付けて、やかんが鳴った瞬間「あ、ポチが鳴いてる!早くいってあげなきゃ♪」っていう奴だっているんだぞ!」
『そ…そうなのか……。』
なかば無理やり丸め込むことに成功した。ちなみにやかんにポチって話し。ありゃ実話だ。
「まかせとけ!すでに俺は二人?ほど名前をつけたことがある。いわば名づけのプロだ!」
『我は、主の意思に任せる…。』
「よし、任された!」
任された以上まじめに考えないとな。…しかし…どんな名前がいいだろう…。
ここは無難に火から連想して……ファイア! いや、あえてフレイムとか……。いかん、某格闘ゲームのゴムゴムの実を食べたヨガ野郎しか連想できねぇ…。
火…といえば…アヴドゥル? いや、だめだ。この名前にしたら某アイスクリームおじさんに殺されちまう。
…あえて火じゃなくて魂の方に視点を向けてみるか…。…となると…魂の英語読みって………。スピリット?エクトプラズム?…うーむ…なげぇなぁ…。
「スピ…スピリット……。スッピー?」
『スッピーでいいのか?』
「いやいやいやダメだって!」
『むぅ…すまない。』
いかん。まじめに考えないとこいつは本気でその名前を自分の名前だと認識してしまう。…魂ってほかになんかあったっけ………。
「えぇ……と……。」
『…主よ、無理に考えなくても我は困らない。今まで通りでいいのでは?』
「待って!あと5秒!あと5秒で考えるから!」
『それでは。4、3』
カウントし始めやがった!やばい!コレはガチでやばいですよ!
『2、1』
「あああああああっと!あれだ!そう!そ!」
『そ?』
「ソウル!」
『………。』
やっちまった。
これほど安直な名前もなかっただろう。
これならまだ…スッピーのほうが良かったかもしれない。
『…ソウル……。そうか、了解した。我はこれからはソウルと言う名前として認識しておく。』
「…お、おう!」
『…ソウル…か……。主よ…』
「な、なんだ!?」
『…感謝する。」
…どうやら、名前をもらえればなんでも良かったのだろう。
こいつの…ソウルの声が、今までとは違う感情のある声になっていた。なんだかんだいって、こいつにもちゃんと意思がある。人格がある。そうなったら、自分だけの物ってもんが欲しくなるものだ。
そして、実体もなく、考えることとしゃべることしかできないこいつにとって、名前っていうのが、唯一の自分の所有物になりえるものだったのだろう。
「…よろしくな!ソウル!」
『あぁ、こちらこそ。よろしく頼む、主よ…。』
よし、これで更なる対話へのステップが踏めそうだ。
『ところで主よ。』
「ん?」
『主の連れの姿が、いまだに見えないが…。』
「…忘れてた……。」
朝出かけたロルの姿が見えない。さすがにこの時間になっても帰ってこないのは心配だ。良い子は暗くなる前におうちに帰らないとパパとママに怒られちゃうぞ!
「しゃーない。探しに行くか。」
貸してもらった寝巻きから、普段着へと着替える。熱は大分下がったみたいだが、寝起きということもあって少しダルイ。ある程度厚着にして夜の寒さの対策をしておく。
ロルを探しに行くために、俺は部屋のドアを開けた…。
※
(…どうしよう……。)
ラルクさんが元気付けてくれたおかげで、部屋の前まで来ることができた。
でも、ドアの前で、この先に進む勇気が出ない。脚が竦み、手が震える。どうしても罪悪感が先立ってしまう。
(…このまま、どこかにいったほうが…。)
そんな考えがまた浮かぶ。
――ガチャッ
そんな考えをしていると、目の前にあったドアの取っ手が回った。
そして、ドアの向こうから現れた人物は……
「…ロル?どうしたんだ?こんなとこに突っ立って?」
「…しょう…いち……。」
目の前に現れたのは、今日一日…ずっと想っていた人だった……。
「…まぁ、なんにせよ無事でよかった。」
「……ぇ?」
そういえば…翔一の服装が普段着に変わってる…。こんな時間に…一体どこに行こうとしてたのか…。
……自惚れかもしれない…
……願望かもしれない…
……でも… そうだと思いたい…
「…もしかして……わたしを…さが・・そう・と…?」
「ん?あぁ…。さすがにこの時間まで帰って来ないと心配だったからな…まぁ杞憂だったみたいだけどな。」
照れ隠しなのか笑いながらベットに向かっている…。
その姿を見て…また思う…。
…翔一は……なんでそこまでして…私を気にかけてくれるのか……。
人がいいから?
私が好きだから?
人手が欲しいから?
……誰でも…よかった…?
頭の中でぐるぐると思考が渦巻く…。
それでも…確かめておきたい…。
翔一が……どう思っているのか…。
「…ねぇ…しょうい…ち……。」
「…んぁ?」
「ぁ……ぅ…。」
声が出ない……言葉が言い出せない…。
当たり前だ…これだけ迷惑を掛けておきながら、さらにもっと馬鹿なことを聞こうとしてるのだ…。
止めときたい
いいたくない
聞きたくない
まだ間に合う
やめよう?
そうだよ…
聞いたところで…
……………
…でも… 確かめたい。
「…どうした?」
「…ねぇ…しょういち…。」
残酷な結果が待ってるかもしれない
この質問に深い意味なんてないかもしれない
それでも…
「…しょういちに…とっ・・て……わたしって…ひつ・・よう…かな?」
「…え?」
「…わたし…さ…しょういちと…いっしょにすごして…はじめて…けいけんすること…たく・・さん……あって…ヒッ…すご…く…ウェッ…たのし…く…て…。」
……堪えきれない…
嗚咽が混じり始め…何を言ってるのか自分でも分からなくなり始める…
でも…
「…グスッ…でも……わたし…ずっと…めい…わ…くかヒッ…け・てて……きょう…だって……きづいて…あげ…れなか……ァ…た…。」
ぼろぼろと流れる涙
魔物の象徴ともいえる包帯に滲ませ
ぐしゃぐしゃになった顔で
それでも…最後まで…
「…ねぇ……しょぅ…いちぃ…ヒック…わたし…って……いっしょに…いて…もぉ…いい…の…か・・な……?ひつ・・よう…か…なぁ…?」
「…おねがい……しょういち…の…きもち……おしえて…」
言い切った私は、顔の水を腕の包帯で拭い去る…
…きっと酷い顔をしてるだろう…
でも…翔一の答えを聞くまでは…
目をそむけない…。
「………。」
「…しょう・・いち?」
「…よし!!」
黙ってうつむいてた翔一は、自分の膝をパン!っと叩き、こちらを向いた。
「…正直に話そう。いろいろと」
「………(コクッ」
「…実を言うと、俺はこの世界の人間じゃない。」
「…ぇ?」
…なにを突然言い出すのだろうか…
翔一が?異世界人?
…別段珍しいことではない。この世界にはいろいろな種族が共生している。人間だってピンきりだし、異世界から来る人も珍しくはない…。
でも…少し驚いた。
「…自分のいた世界では…ドジして死んじゃってさ……良くわかんないうちにこっちに来ることになってさ…。もうあらゆることが急展開だった…。」
自分の昔話を話してるはずなのに…どこか人事臭く聞こえる…。
でも…わかる気がする…。自分も生前の自分とは…どこか他人のような印象を受ける…。それと同じなのだろうか?
「でさ、この世界に来たのはつい最近で…4日前に来たんだ。」
「ぇ…それ…って…。」
「そう、ロルにあった日。あの日に俺はこの世界に来たんだ。」
…そう…だったんだ…。
「びっくりしたんだぜ?いきなり出た所が当たり一面の砂漠でさ、なーーんにもない所。一人異世界に来て、だーれもいない所にでてさ…正直、怖かったんだ…。」
「………。」
「そこで、初めて出会った人がロルだった。」
…初めて… だから…
「いやぁ、見つけた時は正直ホッとしたんだ。でもホッしてすぐさま倒れてこれまたびっくり!」
「………。」
「でも、あの時ロルに出会えなかったらと思うと…正直ゾッとするしな。ロルに出会えて本当に良かったと思ってる。」
「……でも…。」
「ん?」
「でもそれは…はじめてあったのが…わた・しだった…だけ…で…。」
他の誰でも良かったのでは?
そう思ったが…口に出せなかった…。
「んー。でも、ロルでよかったと思うよ。俺は。」
「ぇ…」
「たったの4日の付き合いだけどさ、それでも俺はロルのことを良くしってるつもりだよ。」
「……。」
「可愛くて、素直で、単純で、言葉で表すよりも表情で出てて、結構大胆で、でも引っ込み思案。それに、」
言葉半ばで翔一がこっちに来る
「…///!」
――ガサッ!
「こうやって、人のことを思いやれる、いい子だって…知ってるからね。」
ラルクさんに貰った果物を嬉しそうに見せてくる…。
…でも
「…でも、あしでまとい…だし…めいわくばっかり…」
「足手まといとも、迷惑だとも思ったことない。むしろそういう考えをする限り、俺はロルとは離れれないかな。」
「どう……して…。」
「…知ってしまったからね。ロルって女の子のことを…。図々しいかもしれないけど…俺の中ではすでに『仲間』って思ってるんだよね。」
「………。」
「だからさ、足手まといとか、迷惑だとか、そう思ってるなら…一緒にそれを解消していこうぜ?もう仲間なんだから。」
「……クスッ」
本当に、どうしようもないくらいいい人だ…。
でも…本当に…どうしようもないくらい…好き…。
「…ねぇ、しょうい…ち。」
「うん?なんだ?」
「…もっときかせて…ほしいな…しょういち…のこと・・。」
「俺のことっつっても……まぁいっか。」
「…となり…すわっても……いい…かな。」
「……。」
何もいわずにポンポンと横を叩いている。
「…しょういち……だいすき」
※
体調良し! 熱もない! 喉もスッキリ! 準備万端!
「完・全・復・活!」
「まったく…元気になったとたんすぐコレだ…。若さかねぇ。」
「ビアンカさんのおかげですよ!本当にお世話になりました!」
長いことお世話になったミシュアンともここでお別れだ…情が移った分寂しさも増すというものだ。
「寂しくなるけど…まっ! 気をつけて頑張りな!またいつでもおいで。」
「はい、また美味い飯を食べにきます!」
「シングルルームはいつでも空けておきますぜ。」ヒッヒッヒ
…相変わらずの店主…こいつそれだけが目的で宿屋やってるんじゃ…。
「おせわに…なりまし…た・・。」
「ロルちゃんも気をつけてね!しっかりとあいつを守ってやりな!」
――バンッ!
「「いっ(てぇ!)(たぁい!)」」
いきなりの背中への張り手にロルも俺もびっくりした。でもなんだが元気を分けてもらった感じがした。
「ハッハッハ!頑張りなよ!」
「いつつ、じゃ、いって来ます!」
名残惜しくもあるが、いつまでもここにいるわけにも行かない。早いとこ次の町でネロについて調べなくては…。
「次の町までどのくらいあるんだ?」
「…けっこうある…けど…ふつかもあれば…つく・よ…。」
「ふぅむ。ま、考えてもしゃーないか。それじゃ次の町に向けて出発!」
長いようで、短かかったミシュアンでの暮らし。
ネロへの手がかりはほとんどゼロだが、代わりにいろいろなものを手に入れた。次の町でも、この町のような…心地のいい出会いがあると信じて…。
11/03/27 13:13更新 / 理科総合A(改訂版)
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