第三章〜砂漠の国に住まう女王、正体はネロ!?―前編〜
私は人間だった・・・
人間でいたかった・・・
でも、人間でいられなかった・・・・・・
人間だったころの記憶はほとんどない。
多分、何かしらの事故か病気で死んだのだと思う。
お父さんやお母さんだった人も、一応知っている。
すごく・・やさしそうな人達だった・・・
でも、私を見るなり・・・父や母は・・・「魔物」を見る目でこちらを見ていた・・・・・・
会う人会う人が、私を見るなり普通とは違う視線を向けてくる。
恐怖・畏怖・軽蔑・嘲笑・侮蔑・好色・・・私を普通の人として向けてくれる視線は無かった。
なんで、生き返ったのだろう。
なんで、生き返らされたのだろう。
あのまま死なせてくれたら、人として終える事が出来たのに・・・
――このまま死なすには惜しい肉体だ・・・――
あなたは・・・誰なの・・・
――すぐに蘇らせてやる――
なぜ・・・私を眠らせてくれなかったの・・・
やめて、私をこれ以上苦しめないで!お願い、もう・・・あんな視線の中で生きたくない!!
「っ!!・・・はぁ・・はぁ・・・・・・」
・・・またあの夢だった・・・
いつまでたっても見るあの夢・・・
きっとこれからも見続けるのだろう・・・
きっと・・・いつまでも・・・
「う〜ん・・・日経株相場・・・Zzz」
「!!」
・・・・・・そうだった。
やっと・・・出会えたんだ・・・
私を・・・一人の「人間」としての視線を向けてくれる人
私を・・・一人の「人間」として接してくれる人
そして・・・私を・・・一人の「女性」として・・抱いてくれた人・・・
・・・最後のは、少しこっちが強引に迫ったものだけど///
それでも、もうありえないと絶望していた私に、もう人の視線を受けたくないと思っていた私に、もう一度「暖かさ」を教えてくれた人・・・
こんな私のわがままを・・・笑って許してくれた人・・・
「う〜ん・・・ユーロじゃないって・・・スクレだったって・・・マジで・・・」
私の・・・世界で一番「好き」な人・・・・・・
「えぇ!ジンバブエドル?・・・紙幣で家が作れるよ・・・むにゃ・・・Zzzz」
「っ♪」
この人を見てると、魔物としてでなく、一人女性としていとおしく思える。
私のこの思いは・・・きっと、魔物の本能とは違う・・・
きっと、「人間」として出会ったとしても、私は・・・翔一を好きになってたと思う。
他の何もかもが魔物になったしても、この思いは、ずっと・・・永遠に・・・
・・・人としての思いでありますように・・・
「しょーいち。だいすき・・だよ・・・♪」
もう一度寝よう。
今度は、翔一の手を握りながら・・・
そうすればきっと・・・いい夢が・・・見られると思うから・・・
翔一視点
あ、ありのまま 今 起こったことを思うぜ・・・
朝起きて、いつものように妄想をし、俺の愚息から白い欲望を出そうと思って、目を覚ましたら
・・・俺の布団に、家族以外の女性が、息がかかるほどの距離で寝ているではありませんか・・・
まて、まつんだ、俺・・・そうだ。素数だ!素数を数えて落ちつくんだ!!
2・3・5・7・11・13・17・19・23・29・・・・・・・・・・・・・・・
よし、落ち着いた。さて、落ち着いたところで分析の再開だ・・・
彼女は寝ている。完全に熟睡している。そしてなぜか俺の手を握っている。服装は包帯にローブを羽織っているだけというなんともサービス精神満点な服装だ・・・みているだけで俺の愚息が反応しちまった・・・
そして、極めつけはこの体・・・
初めて味わった女性の肢体・・・シリコンゴムやダッチワイフなんてちゃちなもんじゃ談じてねぇ。
リアルの、生の感触ってもんを味わったぜ・・・
「・・・そうか、俺、こっちの世界に来ているんだった。」
馬鹿な分析をしているうちに色々と思い出した。
俺、霧島翔一は一匹の猫、ネロを助けるために死んだ。そんでその猫と俺の願いが一致したとかでこの世界にきて、ネロを探す事になったんだった。
そんでなぜか砂漠にほうりだされて、最初に会った人が倒れて、助けて、何故か抱いてしまって(犯されたに近いが・・・)、そんで何故か一緒にネロを探してくれる事になったんだった。
そんで、宿を探して、見つけたのはいいが・・・
二人部屋は満席で、他に当たろうとしたらこの宿の店主の野朗が「一人部屋なら何とか工面できますぜ♪」なんて言いやがって、さすがにそれは駄目だろうと俺が断ろうとしたらロルの奴が「それでいいです!」なんて言ってしまって・・・結果シングルベットに俺とロルが寝る事になった。
・・・いや、もちろん最初は断りましたよ!さすがに同衾はまずいから俺は床で寝るって言いましたよ!!
なのにロルときたら「いっしょじゃないと・・・いや。」なんて涙ぐんでいうもんだから。
オマケに店主ときたら「まぁ、若いお二人ですからね。多少汚しても気にしませんから、熱い夜をお過ごしください♪♪」なんて言いやがって。ロルはロルで「がまんできなくなったら・・・いつでも・・・いって」とか言いやがるし。
・・・一応俺も健康男児ですから・・・そりゃもう理性を抑えるのに苦労しましたよ。
だって!健康優良男児であるこの俺を前に一人の可愛らしい女の子が、無防備に!しかもあちらの了承の上で!!この布団で一緒に寝たんですよ!!!
そりゃもう理性もいつノックダウンされてもおかしく無かったですとも。
まぁ、結果俺の理性が本能にぎりちょんで勝ってしまい、何も無いまま朝を迎えることが出来たわけだ。
「ふぅ、今思い出しても夢みたいだぜ!だって俺が死んで他の世界に来てるんだぜ!夢でもこんなのないってーの!はーーはっはっはっはっ!!」
あまりの馬鹿馬鹿しさに大笑いする俺・・・でも・・
「っはっは、ははっ・・・・・・でも、死んだんだよな、俺。」
正直今でも信じがたい。自慢じゃないが俺は夢の中でも睡眠をとったことがある。だから今この瞬間に、前の世界に戻って「全部夢だったのか〜」なんて事になっても驚きはしない。
・・・実際、心の奥では・・・元の世界が恋しいのも事実だ。
何も無くても、やることが無くても、夢が無くても・・・今まで過ごして来た事すべてを失って、平然と割り切れるほど俺は神経が太くない。
家族や友人、漫画やパソコンやゲーム、そして何よりもそうやって過ごして来たという「証」。この世界にはそれらが全部ないのだ。
もう、二度と返ることはない・・・自分の過去の証・・・・・・そういった思いが今、冷静になって、自分にのしかかる。
・・・本当に、この世界でやっていけるのだろうか・・・
「・・・顔でも洗って心機一転すっか・・・・・・っと」
布団から出ようとすると、ロルが俺の手を握っている事を思い出す。
しっかりと握られたその手は、子供が親の手を握るそれに近い感じがする。
その握ってくれている手を見ると、さっきまでの心にあった重圧がいっきに軽くなった。
「・・・過去のことうじうじ悩んでもしゃーないな。男は常に前向きでないとな!うん、俺今いいこといった。」
・・・とりあえずロルのこの手を外そう。
「よいしょ・・・って・・・あれ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・外れない。
どうする?
1:襲う
2:何とかして離す
3:ロルを抱えたまま顔を洗いにいく
と、まぁどこぞのCMみたいに頭の中に選択肢を出してはみたものの・・・
1は・・・まぁ、さすがに寝込みの女性を襲うのは紳士としてやってはいけない事だろう。
・・・別にロルに魅力がないわけではないぞ!!こんな可愛い娘はきっと元の世界には決して、断固としていないだろう!!
2・・・さっきやって駄目だったじゃん
3は・・・まぁさすがに・・ね。無理があるよね
ってか、普通にロル起こしゃいいじゃんか。俺ってアホだなぁ〜(周知の事実)
「おい、ロル。朝だぞ。そろそろ起きろ」
「う〜ん・・・」
体を揺すってみるが、かなり眠りは深いようだ。
「おーい、ロルさんや〜。朝ですぞ〜」
「うぅん・・・しょういち・・・すー・・・・・」
「グハッ!!」
な・・・なんて破壊力だ・・・
可愛い少女+寝姿+俺の名前なんて・・・・・・しかもものっそい無防備!!
・・・この少女はこの俺に対して何の警戒心もないのだろうか?仮にも昨日しったばかりの素性も知れない男だぞ?
「・・・ふふふ、お嬢さん。狼少年を前にしてその態度・・・よほど襲われたいのですね。でわっ!!」
「・・・すー・・・Zzz」
「・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・襲うポーズのまま硬直する。
この俺に女性の寝込みを襲うほど根性があるわけも無く、結局起きるまでまつことにする。
とりあえずこれからのことを考えよう。
幸い、セイのくれた路銀は結構な量で、しばらく金銭的な問題になることは無いだろう。
言語の問題も多分無いだろう。俺が日本語で話しても、この世界の人たちには普通に通じた。とりあえずネロのことでなにか手がかりがつかめるまでは特に不便なことは無いだろう。
ただ、
「そのネロの手がかりってのがなぁ・・・」
正直雲を掴むほうが簡単な気がする。最悪死ぬまでかかっても見つからないかもしれない。
ロルから聞いた話によると、この世界は大きな大陸が三つ存在するらしい。
まず、今俺たちがいる大陸「クライニア」、北の方にある小さめの大陸「ユフォア」、んで、一番大きな大陸が「ルナ」と言うらしい。他にも空にあるだとか異次元にあるとか魔界とか言うのがあるとかだが、そっちは普通の人間がいくことはほとんどないらしいので、まぁ数には入れていない。
で、今俺たちがいる場所はクライニアのど真ん中で、「ミシュアン」という大きな国らしい。
大きいといっても、ほとんどが砂漠のため人が暮らしている場所だけを見るならそこまで大きい国ではないそうだ。
が、この世界すべての大きさは、規模的には前の世界のユーラシア大陸全土くらいはありそうだ。
そんな中で一人の人物?を探すんだから、正直実感はあまりわかない。
「ほんとに見つけれんのかな・・・このまま見つけれずに老いて死んでしまうのではないだろうか・・・。」
頭を抱えて唸る。俺の特技みたいになってきた・・・
「うーん、うーーーーーん」
「・・・どうしたの?しょういち。」
「・・・・・・・・・。」
どうやら俺が唸っている間にロルはおきていたようだ。
「おはよう。ロル。」
「おはよ、しょういち♪」
「・・・んじゃ、飯でも食いにいくか」
とりあえず深く考える前に腹ごしらえをすることにした。
※
彩りのある料理、朝ごはんとは思えないくらいにボリュームがある。
その中のひときわ目立つ大きな肉に俺はフォークを刺し、口に運ぶ。
その味は・・・
「んんまぁああぁああああいいいい!!!」テーレッテレーー♪
まるで狂ったシェフの料理を食べた高校生のような反応をしてしまう。
色々と練ったものを食べたときの効果音付だ。
「しょういち、そんなに・・・おいしいの?ふつうだと・・・おもう・・けど・・。」
「あぁ、すっっっっげぇうめぇー!!なんつーか自然本来の味って感じ!」
「しょういち、いままでおいしいりょうり・・・たべたこと・・ない・・の?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。」
なんというか言葉では表しにくいのだ。
そりゃうちの家は裕福とまではいかなくとも借金があるわけでもなく、行きたい時に外食に行けるくらいの金はあった。
でも、ここの料理は、ファミレスとかでは出せない味って感じの味がする。ここの料理なら「ミスター味●子」や「美味しん●」なんかで出しても文句のつけようがないくらいうまい。味王さまが食ったら「とてつもなく!!美味いぞおおおお!!!」とかいって口から光線を出すに違いない。
「うっめー!コレならいくらでも入るぜ!」
「でも、たしかに・・・おいしい・・・・・・♪」
「へぇ、そんなに美味しいかい。作ったかいがあるってもんさ。」
不意に後ろから声をかけられる。
その人は二人分のジョッキを持って俺の後ろにいた。
「はいよ、どんどん食べな!ミシュアン一の美味さがウチの売りさ!」
「ど、どうも・・。」
なんというか、男らしい、いや、漢らしい女性が飲み物を持ってきてくれた。
この料理のシェフみたいな口ぶりだったが・・・
「えーと、この料理を作ったのはあなたですか?」
「そうさ!宿屋「ルーン」の専属シェフ兼店主の妻さ!!あんたがあまりに美味しそうに食ってるもんだからねぇ、あたしゃあんたみたいな奴が大好きさ!食事中邪魔したね、さ、どんどん食って、十分にスタミナをつけるんだよっ!!」
バンッ
「いってぇ!!」
俺の背中を叩いたあと、「あっはっはっ」と笑いながら厨房にもどっていった。なんとも元気な人だった。
この世界に来て気づいたことがあった。
それは、この世界の人は元の世界よりも人とのコミニュケーションが取りやすい事だ。この宿を探すときだって、町の人が教えてくれたからこれたのだ。この宿屋の店主も、セクハラ発言はせれど、わざわざ一人部屋に俺とロルが泊まることを了承してくれたのだから(つっても、あっちからの提案だったが)。
さっきの奥さんにしたって、初対面の俺相手に何の気兼ねもなく話かけてきた。・・・なんというか、ここの料理はこういった人との温かさがこもっているみたいだ。
「さて、飯食ったらとりあえず町に聞き込みにでも行くか。」
「うん・・・そうだ・・ね。」
テーブルの上にある料理をちゃっちゃと平らげて、俺たちは宿を後にした。
※
「うーーーー、あちーーーーーー。」
「しょういち、だいじょうぶ?」
「ギリギリアウト」
予想以上に暑い。日焼けしないためとはいえ、服の上にローブをかぶるのがこんなに暑いとは思いもしなかった。
「しょういち・・・つかれた・・なら・・・やすむ?」
「いや、大丈夫大丈夫、あと一時間くらいなら動けるって・・・。」
あんまり疲れたと言うのはやめよう。ロルに心配をかけてしまう。
でも、正直疲れた。
宿を出て、かれこれ3時間くらいは経った。その間ずっとネロについての情報を集めてみたが、案の定手がかりはゼロ。さすがに疲れが溜まってきた。
「・・・ふぃー、しっかしこの町の人は元気だなぁ・・・。」
「・・・いちおう、このくに・・・では、いちばんひとが・・・あつまる・・から。」
あちこちで商売の声が聞こえる。野太い男が「ヘラッシェー、ヘラッシェー」と声を荒げたり、おばさんに「そこの御二人さん!コレ買ってかない?おいしいわよ!!」と声をかけられたり、へんな奴らが「カバディカバディカバディカバディカバディカバディ」と円を作っていたりと、活気盛んな場所である。
しかし、その熱気がまたこのどうしようもない暑さをさらに引き上げているのだろう。夏のコミ●を思い出す。
「・・・とりあえず何か飲みモンでも買うか・・・。」
「そうだ・・・ね。さすがに・・・わたしも・・つかれた・・よ。」
飲み物を売ってそうな店を探す。
「っと、あれなんかいいんじゃねぇ?」
「『5しゅるいのみっくすふるーつじゅーす』?おいしいの・・かなぁ・・・」
「ものは試しだ!すんませーん!!」
「ヘッラッシャイ!!いくつにしますか?」
「二つ、とびっきり美味しく作ってよ。」
「ははっ!わかりやしたぜ、とびっきり美味しいのを作りましょう!」
スキンのおっさんは手際よく果物を細かくして、ひき肉機のような物で絞りだしている。
「はい、『特製ミックスジュース』二丁上がりやした!!」
「・・・あの、一つしかないように見えるんですけど・・・」
差し出されたものは一つの大きなカップ。そんで何故かストローが二つ刺さってる。
「はははっ!みたところあんた等カップルだろ!一緒に飲んでみな!!とびっきり美味しいと思うぜ!!」
「ちょちょちょ!!ちょっと待って!!俺達カップルに見えるの!?」
「はっはっはっ、隠さなくてもいいって、兄ちゃんがんばんな!!」
おっさんは大笑いしながら俺達を送りだした。一応二人分の量はあるみたいだが・・・。
「・・・とりあえず、飲むか・・・」
「・・・そう・・・だ・・ね・・・。」
と言うわけで、何故か一つのカップを二人で飲む事になった。
味は美味しかったが、なぜか飲む前よりも喉が渇いた感じがした。
ロル視点(巻き戻し)
「んんまぁああぁああああいいいい!!!」
翔一はすごく美味しそうに料理を食べている。
私にとっては普通に食べなれている味、でも、翔一は心の奥から美味しいといっている。
「しょういち、そんなに・・・おいしいの?ふつうだと・・・おもう・・けど・・。」
「あぁ、すっっっっげぇうめぇー!!なんつーか自然本来の味って感じ!」
なんだか良くわからないけど、翔一はここの料理をすごく気に入ってるみたいだ。
・・・もしかして、翔一っていつもまともな料理食べた事なかったのかなぁ・・・
でも、お金は結構持っていたし、貧乏ってわけじゃないと思ったけど・・・
「しょういち、いままでおいしいりょうり・・・たべたこと・・ない・・の?」
「いや、そういうわけじゃないけどさ。」
・・・ここの料理が気に入っただけみたい・・・別に翔一は苦しい思いをしてきたわけじゃないんだ・・・
・・・・・・そういえば、私、翔一の事何も知らないや・・・
翔一がどこで生まれて、どこで育って、どんな経緯でわたしとであったのか・・・
今探している。ネロって人のことを・・・どう思っているのか・・・
そう考えただけで胸が締め付けられる感じがした。
私のこの思いも、徒労で終わってしまうかもしれない。
ネロって人を見つけ出した瞬間、この恋は砕かれてしまうのじゃないだろうか?
考えちゃだめ!そんな事を思っちゃだめ。
今は、命を助けてくれた・・・私を絶望から救い出してくれたこの人に役立てることだけを考えなきゃ・・・
「うっめー!コレならいくらでも入るぜ!」
でも、今はただ、彼と一緒にすごせるこの時間を楽しむ。
「でも、たしかに・・・おいしい・・・・・・♪」
それくらいの役得は、あっても罰は当たらないよ・・・ね。
「へぇ、そんなに美味しいかい。作ったかいがあるってもんさ。」
いきなり翔一の後ろから、大きな声が聞こえてきた。
その女性は私達に飲み物を持ってきて、翔一と話している。
どうやらこの料理を作ってくれた人みたい。でも、すっごい声。私じゃ出せそうにない。
バンッ
ビクッ!!
女性が翔一の背中を思いっきり叩いた。叩かれていないのにびっくりするくらい大きな音だった。
「いってぇ!!」
・・・ほんとに痛そう。でも、翔一はまんざらでもない顔をしている。
・・・・・・・もしかして、翔一って・・・・・・そういうのが好きなのかな?
あの人は「あっはっはっ」と笑いながら厨房に戻っていった。
「さて、飯食ったらとりあえず町に聞き込みにでも行くか。」
「うん・・・そうだ・・ね。」
今は、翔一と一緒にいる時間を、精一杯楽しもう。
それが、今の私にとっての、一番の幸せだから・・・
翔一視点
フルーツジュースの件からかれこれ2時間。手がかり、ゼロ。
声をかけた人の数、たくさん。
声をかけてきた人の数、結構。
カバディカバディカバディ、ヤヴァイ。
タッカラプト、ポッポルンガ、プピリットパロ、ポルンガ光臨。
・・・いかん。暑さと疲労で頭がおかしくなってきた。
さすがにコレだけ歩き回ってなんの手がかりもなしだと色々とくるものがある。一言で言うと疲れた。
「はぁ〜、疲れた・・・。」
「そう・・・だね・・・ふぅ。」
魔物のロルもさすがに疲れはじめている。こりゃ早いところ手がかりを見つけださにゃ物語が進まんぞ。
こういう時は・・・
「よし、買い物をしよう!!」
「え?」
こういう行き詰ったときは、全く違う事をするに限る。
そうして、頭の中を空っぽにしてから物事を再開する。別にこれで手がかりがつかめるわけじゃないだろうが、周りのお店に顔をだして何も買わないのは少し味気がないきもしたし・・・。
「と言うわけで、しゅっぱーつ!」
「わわっ!しょういち、まってよぅ。」
飯はさっき済ませたし、なにをしようかな・・・
「ラッシャイ、ラッシャイ!イキのいいのがそろってるよ!」
「冒険に必要な道具はこちら!薬草がないとダンジョンを攻略するのは難しいよ」
「武器・防具を買っていきな!どれもうちの自慢の品ばかりだよ!」
「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ・・・ウッ・・」バタッ
どの店も自分の商品を売るために必死で頑張ってる。
まぁ、装備や薬草なんかはいいかな・・・別に勇者になるわけじゃないんだし。
「探し物はなんですか〜見つけにくいものですか〜♪ っと」
ある装飾店が目に止まる。
そういや・・・
「おーい、ロル。」
「?なに・・・しょういち?」
じっくりロルを眺めてみる。
「?・・・どうした・・の」
・・・やっぱり、ロルは女の子なのにずいぶんと飾りっ気がない。これは早急に何とかしないといけないな・・・
「ねぇ、どうした・・・の」
「よし、ロル、ちょっとそこで待っててくれ。」
「へ?・・なに・・・どうしたの?」
装飾店に入ると、思っていたよりも薄暗い。
店主らしき人は、女性。というよりも子供のそれに近い。
「いらっしゃい。何を御求めで?」
っと、やっぱりこの子がこの店の店主か・・・
「純朴な女の子に合う装飾品を頼む。」
「そうですねぇ・・・ちょっと待っててくださいね・・・。」
少女は奥に入って色々と漁っている。結構な量の装飾品があるが・・・これら全部をこの少女が管理しているのだろうか・・・
「っと、これなんかどうでしょうか?」
差し出されたもの、これは、チョーカーというやつだろうか・・・
十字架の形で、すごく細かい造りだ。結構高そうだ・・・
「ちなみにおいくら?」
「銀貨20枚でいいですよ。」
・・・高い。どのくらい高いかと言うと、一晩+朝飯付の宿泊代の軽く5倍。結構な額だが・・・
「よし、買おう。」
せっかくのプレゼントだ。ケチケチしてたら男が廃る。
「まいど。」
よし、ロルも待ってるだろうから早く行くか・・・
「お客さん、ちょっとお待ちください。」
「へ?どうしました?もしかして銀貨足りませんでしたか。」
「お客さん・・・この世界の人じゃありませんね。」
「!!!」
「そう気構えないでください。私はちょっと『そういうの』に鋭いだけです。」
「お前、何者なんだ・・・」
「・・・それは言えません。ですがこれをあなたに渡しておきます。」
そういって渡された物。それは蒼い宝石のついたネックレス。
「それを付けておきなさい。いつでも、肌身離さず。」
「・・・・・」
無言でそれを受け取る。蒼い。本当に蒼い宝石だ。
でも、その蒼は・・・どこと無く揺らめいているようにも見えた。
「それじゃ、御達者で・・・」
早いところロルの所に行こう。ロルが待っているし、何よりも・・・ここは何か嫌な予感がした。
????
いやぁ、長生きはするものだねぇ。
彼此200年は生きているけど、まさか異世界の住人がくるだなんて・・・
ルックスも体もそれなりによかったし、『うまくいけば』面白いことになりそうだしねぇ。
「さて、私もそろそろここを離れようかねぇ。」
そういって彼女はこの場所を離れた。
それと同時に、先ほどまでここにあった装飾店は跡形も無く消え去っていた
10/04/06 14:04更新 / 理科総合A(改訂版)
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