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地上へ |
トンネルの中を進むと、匂いがドンドンと強くなる。
そして行き着いた先には広い空間。 軽い模擬戦位なら出来る広さと足場のある広場。 今まで上ったり下ったりしていたから、平坦な地面は穴に落ちて以来初めて。 少年はほっと一息ついて座り込む。 「疲れたぁ」 「あたしもー」 ピクシーは動いていないのに、少年の肩に座る。 「あたしだって飛んでいたんだから疲れるのー」 疲れた理由は巨大化。 「だって少年が精をくれたら解決したのにー」 無駄遣い禁止。 暫く休んで、でもやっぱり誰も来ない。 「どう、聞こえるー?」 首を横に振る。 私は耳がいいけど、ワーラビットやラージマウスほど耳は良くない。 ここでしゃべっていれば、向こうに声が聞こえるかと思ったんだけど。 反応らしい反応は無い。 「おかしいわねー。落ちる前は同じ位置にいたのに」 たぶん、押したときに別のトンネルに落ちたのが悪い。 運が悪かったらすごく深いところに行ってる。 「どうする?」 目指す場所は同じ。 まずは外に出る。 そしてドラゴンの現れる村に行く。 「まぁそれしかないよねー」 ピクシーが頷く。 そして、少年の体力が回復するまで待ってから、トンネル歩きを再開する。 しばらく歩くと、魔物の匂いがしてきた。 「あれ。君たちどこから入ってきたの?」 スコップを持った魔物。 黒くて大きな下半身がアラクネに似てる。 「私はアラクネじゃないよ。ジャイアントアントって言うんだ」 蟻さん。 「そうだよ。蟻さんだよ」 蟻さんで大正解。 「ところで、汗かいてるけど。仕事してたの?」 「うん。地下にいっぱい道を作らなきゃいけないからね」 蟻さんは汗をかいてる。 その汗のにおいはとっても甘い。 これに似た甘さは良く知ってる。 「僕たちは道を歩いていたら落ちちゃって」 「道を? あー、穴を掘りすぎて地盤が脆くなっていたんだね」 蟻さんの失敗? 「そうだねー。うん、ごめんっ」 どうでもいいけど地上に出たい。 「うん。でも、穴掘りを急がないといけないし」 「どうして急ぐのー?」 ピクシーが聞いて、私たちも蟻さんを見る。 「何でも近くに教団の町があるんだけどね。そこからの脱走計画って事で秘密の抜け穴を作っているんだ」 「でもさー。ここって全然違う場所だよね。その教壇の町から遠く離れた、森側の道を通っていたはずなんだけど」 「え? そうなんだ。穴を掘っているのは私だけじゃないし、急いで掘ってくれって言われてるから、気がつかないうちに全然違う所を掘っていたのかもしれないね」 どうでもいいけど。地上に出たい。 「うん。自力でそとに出る事って出来る?」 生き埋めになりそうだからやってない。 「そうかー。ちょっと待ってて。今から地上に続く穴を空けるから」 蟻さんがトンネルを掘って、私たちがついていく。 ピクシーも少年も口数が減ってる。 顔を見ると、何だか顔が赤い。 なんとなくピクシーをポケットに入れて、少年に抱きつく。 「はい、外だよ」 久しぶりの外の空気を吸う。 羽があったら羽を伸ばしたい気分。 「はぁ。外だー」 「うん。外だねー」 少年もピクシーも久しぶりの外で、いっぱい空気を吸ってる。 「それじゃ。私は穴掘りに戻るから」 そういえば。 「ん? 何?」 脱出計画って、何? 蟻さんの話を聞いた。 教団の町には沢山の魔物たちや、その旦那さんやパートナーが捕まっていて、酷い目に合っているみたい。 それを助けようとして色んな所の魔物が集まってる。 そして脱出日が近いって。 「明日!?」 少年は驚いてる。 「いや、無理でしょ。今更こんな所に穴を掘っているくらいなんだし」 「たぶん、地下に降りる事だけなら大丈夫だと思うんだ。いっぱい掘ってるから」 蟻さんは自信満々。 「私たちも手伝ってみたいけど。遠いんでしょ?」 「うーん。ここがどこだかわからないからねー」 空を見上げる。 今は夜で、空には星が広がってる。 教団の町はどっちにある? 「向こうだよ」 蟻さんがスコップの先端を向ける。 「なんでわかるの?」 ピクシーも私も不思議。 「私たちはずっと土の中だからね。方向感覚には自信があるんだよ」 じゃあここがどこだかわかる? 「西の森のすぐ側だよ。一夜宿から半日歩いた距離って所かな」 教団の町までの距離は? 「んー。馬で3日か4日、かな?」 「どのみち、ここからじゃ間に合わないわねー」 蟻さんは仕事の続きをするといって穴の中に入って行った。 「どうする?」 ご飯を食べて寝る。 「それが一番だよねー。あ、ねぇねぇ。精を」 チョップ。 「いたいって! 地面にめりこんじゃうでしょー」 少年はご飯を食べると直ぐに寝てしまった。 ピクシーはたまたま近くに通りかかった旅人を浚ってどこかに行った。 しばらくしたら戻ってくるみたい。 私は少年に抱きつく。 体が熱い。 こういうことは何度も何度もあった。 母様と父様が仲良くしている部屋に入った時。 眼鏡ラージマウスに噛まれた時。 寂れた屋敷でお嬢様と糸目のお兄さんが再開した時。 こういう時は、気分が落ち着かない。 だから発散させないといけない。 少年に抱きついて、匂いをかいで、体を摺り寄せる。 でも落ち着かない。 だから私は立ち上がって走り出した。 熱さを忘れるように。 全力で。 |
13/02/24 00:46 るーじ
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