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討伐完了 |
最初の公園デビューから数えて10回目の天空公園。
今日も他の子供ドラゴンと遊ぶ。 吹き付けられる火のブレスを振り払う。 振り下ろされた爪を受け止める。 「くぅ! また消されたか!」 またブレスを吹いてきたので、飛び越える。 空中で軌道を変えて蹴り飛ばす。 別のドラゴンがブレスを吹いてきた。 今度は避けずに直進して、顎を掌で打ち上げる。 「中々やるようだが。私を相手にどれだけ戦えるかな?」 まだ成人していないドラゴンの中で一番年上のドラゴンがやってきた。 一度も遊んだ事が無くて、ずっと見ているだけだった。 この人はどれくらい強いのかな。 もう少し強くやってもいいのかな。 全力を出してもいいのかな。 私の前に降りてきたドラゴンを見ながら、私は拳を作った。 少しだけ、昔の事を思い出した。 最近は昔の夢を良く見る。 ゴーストが私の昔を夢としてみているのかなと思ったけど、ゴーストの見せる夢とは全然違う。 「馬鹿な。たった一人相手に」 前に屋敷に行ったとき、ゴーストは何だか楽しそうに飛び回っていたから。 きっと屋敷から出る事は無いと思う。 アンデッドはアンデッドの傍がいいのかな。 「我々が、破れただと」 あの頃は楽しかったけど、少しつまらなかった。 剣術は父様から教わっていたし、ドラゴンとしての戦い方は母様から教わっていた。 それに比べると子供ドラゴンは弱くて。 いつも私一人で皆と遊んでいた。 「しかも、こんな小さな子供に」 周りを見回すと、沢山の人が倒れている。 ちょうど公園でびゅーの時もこんな風だった。 みんなで飛び掛ってきて、みんな倒した。 話が通じない所まで一緒。 「ばけ、ものめ」 近くに住んでいるゴブリンやワーウルフたちには一声かけているから、後のことは心配ない。 それより早く帰らないと、みんなが起きてしまう。 私は太陽が昇り始めた事を確認すると、町へ向かって走り出した。 「え? ドラゴン退治?」 リナリアがケーキを食べる手を止める。 「うん。僕たち二人はそのために旅をしているんだ」 「そうなんだ。ドラゴン相手に話し合いをするために?」 「うんっ」 私は二人の勇者にドラゴン退治の話をした。 理由は簡単。 この町から二人を離すため。 勇者の男の子は腕試しに大会に出ていただけなので、基本的に自由。 リナリアも実力試しに大会に出たけど、その後の事は聞いていない。 それなら今の内にリナリアを町から離せばいい。 魔物と出会ったらどうなるかはわからないけど。 馬車で移動していればきっと大丈夫。 「でもドラゴンってすっごく怖いんだよね。私、勝てるのかなぁ」 「リナリアさんで勝てない魔物がいるんですか」 「きっといるよ! というか、怖いじゃない。ドラゴンって」 リナリアが力説するけど、勇者の男の子にはあまり分からないみたい。 ドラゴン、怖いのかぁ。 「あ、でも。僕、ワイバーンの人を見ましたけど。格好よかったけど怖いって程じゃ、えっと」 「ワイバーンを見たことあるの!?」 「ほんと!?」 勇者二人が食いついた。 「どうだった? やっぱり大きかった?」 「ワイバーンはドラゴンに属する魔物だから、やっぱり鱗とか堅かったの?」 「速かった? 空とか飛んだ?」 二人に詰め寄られて焦る少年。 少年が助けが欲しそうにこっちを見るけど。 面白そうなので私はケーキと少年の困り顔を堪能する。 「決めた! 私たちもドラゴンに会おう!」 「うん!」 二人の勇者はワイバーンの話を聞いて決意したみたい。 顔が活き活きしてる。 でも二人とも。 「ん? なーに?」 「どうかした?」 会ってどうするの? 「え、えっと。会って、それから」 「やっぱり、倒すかなぁ」 二人の勇者は悩んでる。 そんな二人に助け舟を出す。 倒しちゃったら、背に乗せて飛んでもらうなんて絶対無理。 「えー!?」 「あー、うん。そうだよね。よく考えたらそうだよね」 実はワイバーン辺りなら話次第で気前よく乗せてくれたりするけど。 ドラゴン相手じゃ乗せてくれないのでこれであってる。 「ドラゴンって強いのかな」 「ワイバーンは空の王者と言われるくらい強いから、きっとドラゴンはもっと強いのかな」 ワイバーンが聞いていたら丸焼きにされる発言。 「え、そうなの?」 前に聞いたことがある。 ワイバーンとドラゴンはライバルだって。 ワイバーンはドラゴンをのろまと言って。 ドラゴンはワイバーンを弱いと言って。 よくケンカになっていたみたい。 「そう言えば。遠い国にある竜騎士団でも、乗っているのは全部ワイバーンって聞いたことがあるよ」 「ホント?」 勇者の男の子、意外と博識。 目を輝かせたリナリアがその辺を詳しく聞き込み開始。 「そう言えば、あのワイバーンの人。今は何をしてるのかな」 少年が空を見上げる。 もしかすると空を飛んだときの事を思い出しているのかもしれない。 少年。 「ん、なに?」 もし少年がまた空の光景を見たいというのなら。 「うん。またあのワイバーンの人に」 私にも出来る事があるから、相談するように。 「むーむー、ぷはぁ。う、うん、わかった。というかいきなり口を塞がないでよー」 次は口で直接塞ぐ。 「ええー!?」 「じゃ、そう言う事で行って来るよ」 魔物に出会ってもリナリアは戦わないように。 「うん。神父様にも、なるべく魔物とは戦わないようにって言われているから」 戦力温存か、リナリアに危ない事をさせたくないのか、どっちだろう。 「大丈夫だよ。僕だってゴブリンやリザードマンくらいなら何とかなるから」 リザードマンが聞いたら怒りそう。 「それじゃ。また会おうねー」 そう言って二人を乗せた馬車は町を出て行く。 宿に戻って4人と1ピクシーに説明。 「やはり一人でやったのか」 リザードマンから拳骨を頭に落とされた。 ピクシーは頭を針で刺してくる。 「頑固なんだからねー」 「仕方ないって。少女っちは」 ラージマウスと金槌リザードマンは呆れ笑い。 眼鏡ラージマウスは眼鏡をかけ直している。 「結局、一人で済ませた訳か」 でもここから先は一人じゃ出来ない。 「どういうこと?」 ラージマウスが首をかしげる。 私たちはドラゴン退治に行かないといけない。 しかもリナリアたちより早く。 だからこの町には残れない。 「なるほど。街の事をお願いしたいってことね」 金槌リザードマンの言葉に頷く。 これからの事をお願いしたいから、それまでにできる事をして置きたかった。 「わかった。だが」 眼鏡ラージマウスが私に顔を近づける。 「事前に相談して欲しかったな」 他の皆を見る。 皆同じ様な顔をしてる。 怒ってる。 「我々は確かに、君たちの手伝いをしたいと思うし、あの屋敷の者たちを助けたいと思う」 リザードマンの言葉を、ラージマウスが引き継ぐ。 「でもねー。面倒ごとを押し付けられるってだけじゃあ、納得も出来ないよ」 よくわからない。 ちょっと話すのが遅れただけなのに、みんな怒ってる。 確かに面倒ごとを押し付けるけど、だからこそ先に労力を減らしたのに。 金槌リザードマンが少しだけ笑って私の隣に座る。 「相談して欲しいってことだよ。困ったなら相談して」 頭を撫でられる。 「友達でしょ?」 少し、言葉が出なくなる。 どう対応していいかわからない。 いろいろな事を相談するのが、友達? 「そう。困った事があったら助け合うのが友達。そういうもんだよ」 ラージマウスも少しだけ笑ってる。 首をかしげる。 友達ってそういうもの? 「そういうもの!」 金槌リザードマンが力強く頷く。 「というか今まで相談に乗ってきたアレは何だったのだ」 リザードマンが呆れてる。 んー、相談。 「もしかして。友達がいなかったとか?」 いたけど、遊んだ事はあっても相談した事無かった。 「そりゃまー、一緒に遊ぶのも友達だけどねぇ」 他の人は仲間だったりしたけど、相談したことは無かった。 された事はあったけど。 「え、どんな相談? 恋の猥談?」 ピクシーが楽しそうに飛んできた。 どうやったら、そんなに強くなれるかって聞かれた。 「……それは我々全員に共通して存在する疑問だな」 「私が言いたいことは。もっと相談事をして欲しい。困った事を話して欲しいと言う事だ」 眼鏡ラージマウスがじっと私を見る。 困った事、相談したい事。 もっと強くなりたいけど、どうしたらいい? 「む……すまない、わからないな」 リザードマンを筆頭にお手上げ。 少年がまた空を飛びたいと言ってる。 「ワイバーンに嫉妬か?」 「私たちも空は飛べないしねー」 リザードマンとラージマウスが顔を見合わせる。 「空を飛べるのなら、2階で少年の話相手をしているだろう」 空へ拉致? 「まぁ、確かに少年をつれて空を飛ぶとしても、ワイバーンほどの爽快感は得られないだろうな」 少年に色々と話せない事がある。 「む。それはあるだろうが。私たちにも話せないことか?」 眼鏡ラージマウスの顔が近い。 色々ある。 昔は冒険者仲間だったけど、剣士の道を諦めて盗賊になって、今は剣を捨ててしまった人の話。 どれだけ倒しても倒しても何も言わずに襲ってきた怖い勇者との戦いとその後の話。 教団の人たちに追われて逃げたりした時の話。 盗賊から助けたのに護衛に人から文句を言われて、商人の人から護衛を断ったら商人の人に怒られて、結局また護衛の人に怒られた時の話。 「最後の話は理不尽だな」 リザードマンが怒ってる。 実は今の話、ちょっと続きがある。 「ほぉ、何だ?」 闘技大会で毒を使った人が、その人。 昔の夢を見ていて思い出した。 あの時も私の事を化け物って言っていた。 あんなにやせていなかったし目は細くなかったけど、背の高さは同じ。 薬のにおいしかしなかったから、自信が無いけど、あの護衛の人も曲った剣を使っていた。 「なんか色々とあったんだね」 金槌リザードマンが私を抱きしめる。 他にも色々あった。 例えば、大岩を片付けた時に村の人から 「いいから。辛い事はあんまり思い出したくないでしょ」 それでも私はみんなに昔あったことをいろいろと話した。 そして最後に席を立つ。 今まで隠していた、私の秘密。 それを見たみんなは凄く驚いていた。 私の一番の悩み。 少年に私の正体を知って欲しいか、知られたくないのか、わからないこと。 人の姿に戻ってから、みんなの返事を待つ。 「いやー。正直に驚いたよ。まさか、ねぇ」 ラージマウスは顔を近づけて匂いをかいでくる。 「その強さには納得したのだが。納得できない部分が多い、のは。やはりまだまだ修行不足だからか」 リザードマンはフルフルと震えている。 「あははは。勇者だから強いのとドラゴンだから強いの。どっちでも関係ないでしょ。少女っちは少女っちなんだから」 金槌リザードマンはあんまり変わってない。 「興味深い事を知った。通りで噛んでも無駄だったわけだ」 眼鏡ラージマウスはあの時噛んだのはラージマウスにするつもり満々だったと告白してきた。 「内緒にする理由はわからないけど。内緒にしなきゃいけないの?」 ピクシーは話したそうにしているけど、黙っていてくれそう。 「ねぇ。明日一日はまだ町に残っていてよ。悩みに相談する事も含めて、これからの事を話さないといけないからさ」 ラージマウスの言葉で、私たちは解散した。 「また皆でお話していたの?」 うなずく。 少年はハーピーと何の話をしていた? 「えっと。お花の話」 首をかしげる。 「あのね。百合と薔薇、どっちが好きかなとか。百合には百合のよさがあって、薔薇には薔薇のよさがあるけど。薔薇はじゃどーだから駄目だって。」 首をかしげる。 「百合と薔薇、どっちが好き?」 少年が好き。 とは言えないので、私は百合を選んだ。 |
13/02/17 00:02 るーじ
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