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討伐隊

「どうやら、明日にも来るらしいよ」
闘技場の受付で糸目のお兄さんが告げたのは。
予想より早い討伐隊の知らせだった。

「今度来る討伐隊には勇者はいないけど、代わりに魔法使いや戦士たちが沢山来るってさ」
少年はいまいない。
私は一人で最近の様子を聞きに来た。
少年が一緒じゃなくてよかったと思うのは、不思議な気持ち。

「呆れた物だよ。魔法使い2部隊に戦士が30人。デュラハンの騎士団でも討伐する気かな」
あの屋敷ならデュラハンはいる。
「……それを僕に伝えていいのかい?」
伝えても伝えなくても何も変わらない。
「どういうことだい?」

糸目のお兄さんが何もしなかったら、あの屋敷は無くなる。
それだけ。
「いい事じゃないか。長年頭を悩ませ続けてきた魔物の巣窟が無くなるんだよ」
糸目のお兄さんは笑ってる。

「討伐隊の人たちにもちゃんと伝えないとね。ああ、そうそう。今回の討伐にはこの町に残っている二人の勇者の手も借りるそうだよ」
リナリアならドラゴンが相手でも勝てそう。
「ははは。あの強さを見れば納得だよ」

糸目のお兄さんはやっぱり笑っている。
私は宿に戻る。
「君は魔物が嫌いかい?」
背を向けた私に糸目のお兄さんが問いかけてきた。

人も魔物もあまり関係が無い。
「どういう事かな。聞き様によっては、教会の神父様に怒られそうな話だけど」
だって、どっちも弱いから。
「勇者は別かな?」
首をかしげる。

勇者は強くない。
ちょっと怖いだけ。
そう言うと糸目のお兄さんは黙ってしまったので、今度こそ宿に戻る。

「討伐隊が豪勢だねぇ」
ラージマウスは料理を作る手を止めて呆れてる。
一緒に料理をしていたリザードマンは、剣の柄に手を添えてやる気満々。
「幾らでも掛かってくるがいい。残らず蹴散らしてくれる」

でもリザードマンじゃ無理。
「何故だ? 一介の戦士程度では何人いようが私には勝てないぞ」
リザードマンが無い胸を張ってる。

今回の討伐隊の選出基準。
「ん?」
ミノタウルスと互角以上に戦える事。
或いは単身でゴブリンの巣を壊滅できる事。

「何それ」
ラージマウスは変な顔になるくらい呆れてる。
リザードマンも似たような顔をしてる。
「随分とゴブリンの巣が滅ぼされているのだな」
強さの目安だから、そんなに滅ぼされていないと思う。

「けどさー。そんなに沢山の討伐隊が何でたかだかお化け屋敷程度でやってくるのかな」
金槌リザードマンと眼鏡ラージマウスも降りてきた。
「少年はハーピーの相手をさせている」
啄まれているのかな。
「いや。走りこみの特訓だ」

「それでどこかへお出かけかな?」
首をかしげる。
「君は魔界豚を狩るように、討伐隊を狩るつもりなのだろう」
眼鏡ラージマウスを見る。

「最近の君はどうにも力の使いすぎだ。もう少し抑えてはどうかね」
それなら、あの屋敷の人たちがどうなってもいい?
「そうではない。だが、冷静さを失ってはならない」
落ち着いて腰を下ろしていたら、巣に攻め込まれる。
それまで待つ?

「落ち着きなって」
「そーそー。ほら、紅茶でも飲んで」
ラージマウスがチーズ、金槌リザードマンが紅茶を持って私を椅子に座らせる。

「何故そこまで慌てるんだ?」
リザードマンも戦闘モードに入っている。
「確かに。だが、今のお前は焦っているように見える」

今回の討伐隊は、教会が動いてる。
「それがどうかしたか」
教会と仲良くなった勇者は、皆魔物を殺す事しか考えなくなる。

前にそういう勇者に会った事がある。
眼鏡ラージマウスが耳を動かす。
「そうか。強かったか?」
怖かった。
「怖いって。少女っちが怖いと思うほど強かった?」
金槌リザードマンの言葉に首を横に振る。

何も考えてなかった。
話もしない。
じっと魔物を見て。
殺すだけ。

他に何もしない。
もしかしたらご飯も食べていないのかもしれないし、寝ていないのかもしれない。
勇者の力を限界まで出して。
そのまま死んじゃう。

リナリアや勇者の男の子にはそうなって欲しくない。
でもきっとそうなる。
だからその前に何とかしないといけない。

「焦りは禁物だ。まず問題を整理しよう」
眼鏡ラージマウスが指を2本立てる。
「えっと。まず討伐隊だけど。これって前みたいに屋敷の中で倒せばいいんじゃないの?」
ピクシーがパタパタ羽を動かして飛び回っている。

「そいつは無理だねぇ」
金槌リザードマンがくるくるとハンマーを回す。
「こっちの倍以上の数だよ。しかも屋敷の中にわざわざ入ってきてくれるとは限らないし」
「同感だ。迎え撃つしかないだろう」
リザードマンがうなずく。

「迎え撃つにしても、前の様に片付ける事は無茶だろうが。そこは工夫次第だ」
眼鏡ラージマウスが指を一本曲げる。
「次に、勇者二人の扱いだ。このまま放って置けば『怖い勇者』になってしまうらしいが」

「そんなの簡単じゃない」
ピクシーが私の頭に降りてきた。
「ドラゴン退治ってのがあるんでしょ。二人にそれを教えたら?」
リナリアがドラゴンを倒して終了。
「……ホントに勝っちゃうんだ」

それに結局魔物に出会ってしまう。
「魔物に出会ったぐらいでそう変わるわけが無かろう」
きっと変わる。
「大丈夫だって」
「そうそう」
みんなが言っても私の気持ちは変わらない。

討伐部隊を倒して、それから。
……。
「どうやって二人の勇者を『怖い勇者』にならないようにするか。それは倒してから考えるといいだろう」
うなずく。

リナリアが怖くなってほしくない。
あの勇者の男の子も、まだ大丈夫だから怖くならないで欲しい。
いまの魔物はそんなに悪くないって母様が言ってた。
それなのに討伐なんて。

主神なんてだいっきらい。


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13/02/16 00:28 るーじ

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