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気分転換 |
「お祭りに行こう!」
ラージマウスがこんな事を言い出した。 だから私たちは高い木の下で立っている。 「雨、止んでよかったねぇ」 ピクシーが私の肩に座って足をバタバタさせている。 事の始まりは、少年が宿に戻ってきてから事。 大会が終わったから町を出るか、町外れの屋敷の事が気になっているから残るのか。 みんなで話している内に段々と暗い雰囲気になっていた。 そこでラージマウスが提案をしたのが、お祭りだった。 「私、話にしか聞いたことが無かったんだよね。お祭り」 ラージマウスはとっても嬉しそうにしてる。 リザードマンも素振りをしてる。 「腕が鳴る。私の腕がどこまで通用するか」 「お祭りって、どんなお祭り?」 少年は祭りの内容をあまり知らないみたい。 金槌リザードマンが少年に耳打ちをする。 「ええ〜!? 危なくないの?」 「大丈夫なんだよ。たぶん」 ピクシーと眼鏡ラージマウスも見たことない? 「私は人間の町の傍でずっと暮らしていたからねー」 「私も使い魔生活の頃も魔物になってからも家に篭っていた。その後も旅をしていたのだが、祭りに参加したことは無かったな」 眼鏡ラージマウスの引き篭もり疑惑。 「……私の主は基本的に家の中で過ごす人だったのだよ。インキュバスになってからは、言うまでも無くだ」 「それで、どうやって、その。お祭りのある村に行くの?」 少年が私たちを見る。 「そりゃ、こうやって、だよ」 金槌リザードマンが荷袋から紐のついた変なものを取り出す。 紐を掴んで、回す。 穴の開いた変な物から音が聞こえ始める。 ラージマウスと眼鏡ラージマウスが大きな耳を動かす。 「笛なのか」 「たかーい音を出す笛みたいだよ。私には聞こえないけどね」 「そろそろかな」 笛を回しながら金槌リザードマンが影を見る。 影は正午を差している。 「それじゃ、行くよっ」 金槌リザードマンが回していた笛を空へ投げる。 細く高い音を立てて笛が空まで飛んでいく。 「飛ばし過ぎじゃないの?」 空を見上げているラージマウスが呟く。 「いや、当たりの様だ」 「みたいだねー」 二人のラージマウスが耳を動かす。 空を小さな影が飛んで、真上で止まり。 急降下してきた。 「ってうわぁ!?」 ラージマウスが眼鏡ラージマウスの陰に隠れる。 空から降りてきた影は笛を持っている。 そして匂いをかいでいる。 「はいはーい。飛竜宅急便でーす」 頭に赤い帽子、首から飛竜のマークの札を下げている龍が立っていた。 「ワイバーンか。初めて見たぞ」 リザードマンが身構えている。 赤い帽子のワイバーンはリザードマンに気づいてないみたいで、笛の匂いをかいでる。 「この笛を持っていたのは誰?」 「ああ、私だよ」 金槌リザードマンが手を上げる。 「なるほどねー。恋人の精の匂いのついた笛を投げれば、簡単に見つけられるって訳ねー」 ピクシーが納得してる。 「恋人じゃないよ。旦那さんだよ」 なぜか口を尖らせる赤い帽子のワイバーン。 「何人乗るのかな? 数によって料金が違うよー」 「そうだねー。6名だよ」 瓶詰め1名。 「ちょっと、私、ビンに入るの!?」 風で吹っ飛ばされるよ? 「うう〜」 「ん?」 赤い帽子のワイバーンは少年の匂いを嗅ぐ。 「え、えっと」 息が掛かる距離にまで近付かれているから、少年が戸惑ってる。 「フリーの人間? 私が旦那ありでよかったね」 それから私のほうを見る。 「んー?」 赤い帽子のワイバーンが私に近付いて、やっぱり匂いを嗅いでくる。 「……ん?」 首をかしげられた。 首をかしげる。 「それじゃ料金についてだけど」 「5人と瓶詰めでいいんだよね」 首をかしげる。 「ちょっと。その子も乗るんだけど」 少年が慌てている。 「やだよ。この子は乗せない」 でも両翼をクロスして断られた。 「どういうこと? 笛を使って料金を払えば何でも運んでくれるんだよね」 「嫌なものや嫌だよ。ほら、どうするの? 乗るのか、乗らないのか」 赤い帽子のワイバーンは私のほうを見ない。 仕方ないので私は皆から離れて準備運動をする。 行く方向はわかっている。 なら問題はない。 「少しいいかな」 眼鏡ラージマウスがやってきた。 そして私の耳元に顔を近づけてくる。 「実は……何もしないから逃げないでくれ」 首をかしげる。 「はい毎度ありーっと」 「待たせたね」 眼鏡ラージマウスと一緒に皆と合流。 そして赤い帽子のワイバーンの足に縄を括りつける。 「なに? 運ばないよ」 でもみんなと一緒に行きたい。 「連れてかないって言ってるでしょ」 じゃあ飛ばせない。 「へぇ?」 赤い帽子のワイバーンが笑う。 「私と力勝負をするって言うの?」 首をかしげる。 私は貴女ほど弱くない。 「いいじゃない。ワイバーンが空の王者だって言われる理由、見せてあげるよ」 そういうと息を吸い。 体の輪郭がぶれて。 赤い帽子のワイバーンが竜の姿になった。 低い唸り声を上げて頭を下げたその目が私を見ている。 勝てるのか?と問いかけるように目を細めている。 「それじゃあ乗り込もうか」 金槌リザードマンは笛を返してもらうと、赤い帽子のワイバーンの背に乗る。 ワイバーン、竜の姿になってもちょこんと頭の上に帽子が乗ってる。 飛んでも落ちないのかな。 皆が瀬の上に乗ったのを確認して、赤い帽子のワイバーンが翼を動かし、空へと飛ぶ。 当然、私はそれに引っ張られて空へと飛ぶ。 勝ち鬨を揚げる様に赤い帽子のワイバーンが咆哮を響かせて、あっと言う間に雲の高さまで上がる。 久しぶりに見た、空の光景。 少年はきっと初めて見たんだと思う。 初めて見た空の光景が、赤い帽子のワイバーンの上。 ……何だか、やだ。 目指す村が見えてくると高度を下げて、村の前に降りた。 竜化を解いた赤い帽子のワイバーンが胸を張って私の前に来た。 「どうだ。私の方が強いだろう」 首をかしげる。 「なんだとぉ」 首をかしげる。 「まぁまぁ。落ち着きなって」 「そうだとも。空の王者の飛翔、素晴らしかった」 金槌リザードマンと眼鏡ラージマウスが間に入ってきた。 「そう? そうだよね、やっぱりそうだよね!」 なんだか、すごく単純。 赤い帽子のワイバーンがまたどこかへ飛んでいく。 「少年。アミュレットは持っているか?」 「うん。ちゃんと持ってるよ」 少年は胸にかけてある首飾りを見せる。 「それが無いと、少年としても困るだろうからな」 「うん」 少年が身につけているアミュレットは、周辺の魔物の魔力を吸収する効果がある。 これを身につけていると、魔物やインキュバスになりにくくなると言う事。 「少年は初めてだったかな?」 「うん」 少年が頷くと、金槌リザードマンが芝居がかった口ぶりでお辞儀をする 「それじゃ、ようこそ魔界へ!」 「出して〜! 着いたなら出して〜!」 どこかから、誰かの声が聞こえたけど気にしない。 「早く瓶から出してよ〜! 私も魔界の空気を味わいたい〜! とびまわりたい〜」 |
13/02/11 23:46 るーじ
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