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お見舞い |
大会が終わった。
でもまだ町から出ない。 少年はまだ寝たまま。 そして私は今日もテントに通う。 少年は大会の翌日には目を覚ましていた。 でも怪我が酷いので、まだちょっとだけ安静にしないといけない。 私も少年も、勇者と戦って負けた。 最初に交わした言葉は、大会に関して。 その次は、勇者に関して。 後は何時も通りの話をしていた。 「みんなはどうしてる?」 宿屋で働いてる。 おばさんは戻ってきたけど、お客さんは結局来なかったから、問題は何もなかった。 「そっかぁ」 少年の怪我はあと2,3日安静にしていないといけない。 だから今は怪我が落ち着くまで待ってる。 「いや。君も十分、治療が必要なんだけどね」 首をかしげる。 お医者さんが言うには、私が使われた毒はとても危ないものだったみたい。 だから私も栄養剤と解毒薬を飲まないといけない。 別にアレ位の毒は問題ないけど、人間の振りをするためだから仕方ない。 「そう言えば君は闘技大会の準決勝まで進んだんだってね」 有名? 「そりゃもうね。決勝よりも見ごたえのある戦いだったと評判だよ」 決勝は見ていないから知らない。 「勇者リナリアが一撃で叩き伏せて終了だよ」 リナリアは不器用。 「一撃で終わらなかったのは君だけだったよ。君、小さいのにとても強いんだ」 強さには自信があった。 「彼女は優勝した後、君を探していたようだよ」 首をかしげる。 どうして探していた? 「それは本人に聞いてくれ」 テントに誰か入ってきた。 見覚えのある顔。 「ここにいたんだ」 勇者の男の子。 なんでか知らないけど、顔に青アザがついてる。 「あれは君がやったのかな?」 首を横に振る。 「やっと見つけたよー」 男の子の後ろからリナリアも入ってきた。 首をかしげる。 「勇者二人が揃って何の用かな」 「うん。お見舞いに来たんです」 勇者の男の子は林檎が入ったかごを持っている。 リナリアは……潰れた箱。 「う、そんな目で見ないでよー。たぶん、中身は美味しいままだからっ」 転んで潰してお見舞い。 犠牲者は箱と男の子? 「えっと。それはまた別なんだけどね」 二人揃って全然違うほうを見る。 「りんご、持って来たよ」 「ありがと」 少年と勇者の男の子のやりとりは、何だか変。 少年の様子が変なのは、予選の時に何かあったからかな。 少年は教えてくれなかったけど。 「ねぇ。ちょっと、いいかな?」 リナリアに手を引かれてテントの外へ。 お医者さんは手を振って見送ってくれた。 「えーっと。ごめん!」 頭突きが痛い。 「あいたたた。えっと。ごめん」 何の? 「えっと。大会での事と。あと、いまの頭突き」 大会で何かあったかなと思い出す。 でもよくわからない。 「準決勝の最後で、私ちょっとズルしちゃったんだ」 首をかしげる。 「あの時、魔法を使ったんだ」 首をかしげる。 魔法を使ったように見えなかった。 「うん。そりゃそうだよ。だって、後ろから使ったんだから」 リナリアはあの時、魔法を使ったみたい。 掌から風の塊を飛ばして、私の頭を後ろから攻撃した。 よくわからないけど、物凄く痛かった。 「う〜。ごめんって」 でも闘技大会は魔法禁止じゃなかったのに、どうして? 「だって。みんな魔法を使っていなかったし。それに、あなただってあえて剣での戦いをしていたじゃない」 何を言われたのか分からない。 「あなた、本当は剣を使って戦うのじゃないでしょ?」 ……うなずく。 「あー、やっぱりそうだったんだ。普段はどうやって戦っているのか知らないけど。物凄くやり辛そうだったもん」 リナリアはドジだけど、戦いに関しては凄い。 私はリナリアが魔法を使えることなんてぜんぜん分からなかった。 リナリアはこけるのが得意なだけじゃなかった。 「何だか、と〜っても失礼な事を考えていない?」 考えていないから頬を引っ張らないで。 「だーめ。反省するまでずっとこうだから」 じゃあリナリアの頬も引っ張る。 「ほひゃ〜、ひっはははいへ〜」 でも引っ張る。 「どう? ちょっと形はあれだけどおいしいよね」 うなずく。 リナリアが買って来たケーキは甘くて美味しい。 いつも食べてばかりだから美味しい物にはすぐ気づく。 「それ、褒めてるのかなー?」 首をかしげる。 「あの子ね。勇者になってから色んな魔物を倒してきたみたいなんだ」 リナリアは急に真面目な顔になった。 「魔物は悪いから倒さなくちゃいけないんだってさ」 リナリアも同じじゃないの? 「そうなんだけど。あの子はちょっと考え方が頑固なんだ」 勇者は魔物を倒さないといけない。 勇者は悪い奴を倒さないといけない。 「でも、悪い人ってどういう人なのかな」 リナリアは何だか悩んでいる。 「あの子も、神父様たちと同じ事を言ってるの。魔物は悪いです。魔物と仲良くしている人も悪いです。だから、倒しましょうって」 それが当たり前の事じゃないのかな。 神父様じゃなくてもみんな同じ事を言う。 「うん。でも、なんだろう。魔物に会った事が無いからかな。よくわからないんだ」 「ねぇ、教えて。魔物ってみんな悪いの? ゴブリンやオークが盗賊をしていたり、ワーウルフが人を襲ったりする話は聞くんだけど。本当に魔物はみんな悪者なの?」 首をかしげる。 教会の人の話を疑うの? 「そうじゃない、んだけど。やっぱりそうなのかな」 リナリアが落ち込んでる。 「神父様は、魔物に会えば分かるって言ってたんだ。だから、魔物に会ったことがあるあなたの、話を聞けばちょっとは何か分かるかなーって」 見れば分かると言うのなら、実際に会えばいい。 「ねぇ。魔物って怖い? 魔物って恐ろしい?」 首をかしげる。 私はワーウルフやオークよりも強い。 戦っても負けない。 だから怖くない。 「あ、そうなんだ」 リナリアは何が知りたいの? 「え? どういうこと?」 魔物に剣を向けなくてもいい理由を探している? 「違うよ。私は魔物を倒すための勇者なんだから、倒すのは変わらないよ」 それなら話を聞かなくてもいい。 見て、切って、倒せばいい。 「うん。やっぱり、そうなんだよね」 リナリアはよくわからない。 魔物が本当に悪いのかどうかを聞く意味ってあるの? 「うん。私も分からない。どうしてかな。こんな事を誰かに話すの、今回が初めてなんだ」 リナリアは落ち込んでるのか、悩んでるのかよくわからない顔をしてる。 「魔物は倒さないといけないし、魔物は倒す。でも、倒していいのかなって迷っている、のかなぁ」 リナリア、こっち向いて。 「なに? ……わざわざ顔を持って向けなくてもいいんだけど」 リナリアは、勇者の男の子が悪い事をしたと思ったから、殴った? 「……うん。たぶん、そうだと思うよ」 どうして悪い事をしたと思ったの? 「それは。……どうして、だろう。悪い事をしていないはずなのに」 リナリアは迷ってる。 でも、何だろう。 もの凄く不思議。 リナリアを見ていると、とても嫌な気持ちになる。 リナリアのことは嫌いじゃないのに。 リナリアは魔物と戦っちゃいけない。 ん、違う。 リナリアは魔物と会っちゃいけないような気がする。 リナリアが驚いて目を大きくしている。 リナリアの顔から手を離す。 「どういうこと?」 私はリナリアとあの男の子以外の勇者に会った事がある。 リナリアは、怖い勇者になって欲しくない。 私はリナリアにそう告げて、宿に戻った。 「君に聞きたいことがある」 宿に戻って少年の話やリナリアたちの話をした後。 私の部屋に眼鏡ラージマウスがやってきた。 何だか凄く真面目な顔をしてる。 「勇者とは一体何なのだ?」 首をかしげる。 リナリアに会った日、勇者については私も話をしたし。 眼鏡ラージマウスも勇者の事を知っていたのに。 「勇者は魔物を倒す。魔王を倒す。それは知っている。だが、君の話を聞いていてある疑問が浮かんだ」 首をかしげる。 ベッドに腰掛けたまま、枕を抱きしめる。 「魔物を倒すための力を主神から受け取った物が勇者と呼ばれる。それは知っている。だが、勇者だからと言って、魔物に敵意や悪意を持つ訳ではない。そのはずだ」 外は曇っていて、真っ暗。 雨音が聞こえ始めた。 「勇者はなぜ、魔物を倒すという事に固執するのだ。なぜ、疑問を抱きながらも」 眼鏡ラージマウスの言葉が止まらない。 顔が近付いてくる。 でも、何だか何時もと様子が違う。 「我々魔物が何をしたと言うのだ。かつての魔物と我々は違うのだぞ。なぜ、何故だ!」 眼鏡ラージマウスが私の肩を掴む。 昔、何かあった? 「何か……」 眼鏡ラージマウスが急に静かになる。 そして私から少しずつ離れていく。 「済まない。少し、頭を冷やしてくる」 部屋を出て行く眼鏡ラージマウスの背は、寂しそうだった。 雨が降り始めて、窓ガラスを叩く雨音が聞こえていた。 |
13/02/09 23:52 るーじ
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