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勇者の少女 |
リナリアは勇者。
神に選ばれた人間。 勇者と言うだけで他の人よりも遥かに強い。 「きゃっ」 例え岩に頭をぶつけても、傷一つ負わない。 例えレンガに頭をぶつけても傷一つ負わない。 「うわわっ」 例え建物の角に頭をぶつけても傷一つ負わない。 「あはは。大丈夫大丈夫。ほら、私ってさ。勇者だから」 でも、思う。 勇者は簡単に怪我をしない。 でも。 勇者にぶつかったレンガや建物は傷を負う。 主にヒビが入る。 「あ、あはは。あ、あとで直すよ? ちゃんと」 よく転ぶ勇者、リナリア。 転倒の勇者? 「そ、そんな不名誉な称号は要らないよっ」 首をかしげる。 リナリアは勇者だけど勇者らしくない。 よく転ぶ。 「わたっ」 よく食べる。 「あ、あれおいしそう。はい、買って来たから一緒に食べよう」 よく笑う。 「あはは。またこけちゃった。あ、こら。笑わないでよー!」 休憩。 今は座ってお菓子を食べている。 「歩きつかれた?」 町が壊れる前に休憩。 「もー。それは言わないでよ」 リナリアは魔物と戦った事、ある? 「ううん。まだ訓練しかしたことが無いの」 魔物を見たことはある? 「ううん。それも無いんだ。あ、もしかして魔物を見たことがあるの?」 リナリア、顔が近い。 「あはは。ごめんごめん」 昔、教会で魔物図鑑を見たことがある。 「あ、私もあるよ。勇者だからって事で、月に1回は読まされたんだよー」 怖かった? 「怖かったよ。私は小さい頃に教会でお祈りをしていた時に、勇者になったからね」 それからずっと? 「うん。小さい頃は毎日見てたよ。こわーい魔物の絵」 昔の魔物は図鑑に書いてある姿とあまり変わりが無かったって聞いてる。 「そうなんだ。じゃあ、今は?」 教会は今の魔物の姿を知らないのかな。 「ねぇねぇ。じゃあ今の魔物ってどういう姿をしているの?」 知っちゃいけないと思ってるのかな。 「ねー。意地悪しないで教えてよー」 やだ。 「いーじーわーるー」 頬を引っ張っても、やだ。 リナリアは他の冒険者と比べて、どこか子供っぽい。 話を聞くとわかった事。 リナリアの勇者としての才能はとても高いみたい。 今まで冒険者として旅をしたことも全然ないんだって。 だって、教会の人の所でずっと暮らしていたから。 リナリアは世間をよく知らない。 とても強くて、でも友達が少ない。 よく笑うリナリアを見て。 どうしてかな。 昔の私を思い出す。 「そういえば。大会に出るの?」 うなずく。 「ええー!?」 すごい驚いてる。 首をかしげる。 「危ないよ! 怪我しちゃうよ!」 首をかしげる。 私は強いから、相手の方が怪我をする。 「それじゃあ相手が怪我しちゃうから危ないよ!」 リナリアが戦っても相手は怪我する。 「私は怪我しないから大丈夫!」 首をかしげる。 「……あれー? なんだか、あれー?」 宿に帰る。 リナリアは別れる時、最後まで手を振っていた。 「ああ。ゴーストは持って行ってくれたのだね」 うなずく。 「どうかしたのかね」 眼鏡ラージマウスはいる。 他は? 「洗濯物を取り込んでいるよ。そろそろ戻ってくる頃だ」 「何かあったのかね」 勇者がいた。 「……いつぞやの偽者ではないのか」 うなずく。 「リナリア。教会の秘蔵っ子といった所か」 よく転んでいた。 「だが、強いのだろう?」 多分。 リナリアは優しい。 おっちょこちょい。 でも、勇者。 「何だ。我々のことを心配しているのか」 うなずく。 「嬉しい限りだ。だが、問題無さそうなのだろう?」 わからない。 「どういうことだ?」 私は勇者を今までに3人見たことがある。 一人は元勇者で、とても優しくて強い人。 一人は勇者だけどとても怖くて、強い人。 一人は勇者で優しくて、強い人。 「何が違うのかわからないが。勇者が強いと言う点に関しては変わらないようだな」 戦わない時は仏頂面。 戦う時も仏頂面。 それも勇者。 「ただいまー。どうしたの?」 「いや。町に勇者が来たと言うのだが」 少年は? 「そのまま買出しに出るといっていた。さすがに人目につく仕事は少年にお願いするしかないからな」 「勇者? あー。私も一人見たことあるよ」 「怖いのか?」 ラージマウスは会ったことがあるみたい。 眼鏡ラージマウスは無いみたい。 「怖いって言うかね。やっぱり人間だから、色々だと思うよ」 「そうなのか」 リザードマンも会ったことがないみたい。 「いや。魔界に行けば元勇者でよければ色々といるよ」 金槌リザードマンは会った事あるみたい。 「そういや。眼鏡じゃない方のラージマウスは元人間だったっけ」 「私も元鼠だが」 「そうだっけ。で、さ。魔物と戦った事ある?」 「んー。あるよ」 ラージマウスが眉を寄せてる。 「冒険者の間じゃ、魔物にされたり魔物の恋人になるのって、死んだのと同じ扱いだったからね」 「奥歯に挟まった言い方だ。何が言いたい」 「私も魔物を殺したよ。ラージマウスだって何人か」 「む。そうか。すまん」 「少女ちゃんは?」 首を横に振る。 「そっか。それが一番だよ」 「だが、冒険者ならば魔物退治以外の仕事もあるのだろう」 「ああ、あったよ。もちろん、人間だって殺した事はあるよ。護衛の時に一人、だけどね」 リザードマンが聞いて、ラージマウスが答える。 そしてリザードマンが私を見る。 「やはり人を殺めたこともあるのか。では」 「やめなよ」 金槌リザードマンがリザードマンを睨む。 「む、ぅ」 「気になるのはわかるけどねぇ」 「好奇心はあるが。少々ぶしつけだ」 「悪いとは思ってるが。そこまで言われるほどの事か」 うなずく。 「いや。言われている本人が同意してもさ」 私も人を殺したことがあるか、だよね。 「う、うむ」 私は。 「ストップ」 もが。 ラージマウスに口を塞がれた。 「答えはいいよ。それより、晩御飯を作ろう。少女ちゃんの作る料理、私たちも作れるようにならないとね」 「そうだ。あの大人数向けの料理に慣れておかなければ、大会の日は食事が回らない」 今日は皆でたくさん料理を作った。 少年が帰ってきてから皆で料理を食べた。 「え? 勇者様に会ったの?」 うなずく。 「そっかー。僕も会いたかったなー」 リナリアは優しい。 きっとお話したら仲良くなれる。 「そっかー。だったら嬉しいなー」 でも。 「ん、どうかしたの?」 勇者は魔物を倒すために、神様が力を与えた。 「それがどうかしたの?」 少年は不思議そうにしてる。 でも私は首を横に振って、少年と一緒にベッドに入る。 私は神様が好きじゃない。 |
13/02/03 23:30 るーじ
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