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教会の白いユウシャ

今日は少年と一緒に特訓をしている。
日課の薬草採りをしながら昨日の事を思い出す。
魔物がたくさん居る、不思議なお屋敷。
今はどうなっているのかな。

「僕も行ってみる」
今日の分を採り終わった。
気になるのお屋敷に行こうとしたら、少年が付いてくると言ってきた。

「少年は止めておいた方がいい」
眼鏡ラージマウスが少年を見る。
「魔力の高い場所に訪れると言う事は、魔物化を引き起こす」
「そうなんだ」
「私がその実例だ」

「だから君を連れて行くわけにはいかないのだよ」
来るのはネズミ2にトカゲ2?
「そりゃ確かにネズミだけどさー」
「あはは。トカゲだってさ」
「笑い事か!」

「君はどうして大丈夫なの?」
首をかしげる。
「あー、確かに。同じ理屈ならそのちびっ子も魔物化するかも知れないんだよね」
「問題ない」
「大丈夫だと思うけどねー」
ネズミ二人が問題ないと言ったから、多分問題ない。
「多分って何だよ」
「少年。今日の特訓はこれまでだ。たまには休みも要るぞ」

少年は納得していないみたい。
でもご飯を作る人がいないと困る。
お腹が空くから。
「う、うん。じゃあ、宿屋さんに戻ってるから」

「本当にこれ、効果があるのか?」
リザードマンがラージマウスに聞いてるのは、人化けの幻のこと。
大きな耳や尻尾を無くしているんじゃなくて、見えなくしているだけ。
触ったら耳がちゃんとある。
「あまり触らないでもらえるかな。変装の意味がなくなる」
後で気をつける。
「今、気をつけてくれ」

町は北側に闘技場があって、東に宿屋が多くて、西に物を作る職人の家が多い。
中央には食べ物屋さん、食材を売るお店は東に多い。
そして南には人が少なくて、屋敷は町の南側にある。
だから南のほうから町に入れば、誰かに見られる事はない。

「用心とは、気の緩みを無くす事だ」
首をかしげる。
「ついたみたいだよ。大丈夫、周囲に私たち以外が居る『音』はないよ。ラージマウスのこの耳にかけて」
「ワーウルフでもいれば匂いによる索敵も出来たのだがな」
「ない物ねだりってやつだねー」
でも白い人たちはまた来てる。
「わかるのか、少女」
匂いで。

屋敷のドアはやっぱり壊されていた。
ソファも壊されていた。
「うわぁ、ザ・廃屋って感じだね」
「急ぐぞ。もう間に合わないのかもしれないが」

「仲間を連れてきたのか。だがもう遅い」
白い人が寝ている人に向けて剣を振り上げている。
違う、剣で突き刺そうとしている。
「足止めをしておけ」
「今度は本気だ。不意打ちは効かねぇぞ、化け物!」
「悪いが、こちらも遊びではない。行くぞ」

「へっへーん。極悪ハーピーに比べリャ、あんたの動きはすっとろいんだよ」
「ネズミ風情が!」
「多少腕はあるようだが。私はお前以上の凄腕を知っている」
「化け物が化け物に憧れるのは勝手だが。我々は冒険者風情とは違うぞ」

「やれやれ。私は戦闘要員ではないのだがね」
「我が雷に焼かれて浄化されるがいい、魔物め」
「鍛冶屋の底力、見せてやるよ!」
「剣を捨てたリザードマン如きが! 俺様の斧で断ち切ってくれる!」

狭い部屋なのに、たくさん人が入っている。
ナイフを持った白い人はラージマウスを追い掛け回してる。
剣を持った白い人とリザードマンが切り結んでる。
白い人が放った雷を眼鏡ラージマウスが避けている。
白い人が振り下ろした斧を金槌リザードマンがハンマーで弾いた。
とても煩くなった。

「この爪は特別製でね。主神様の加護を受けた銀の爪だ。こいつに猛獣も一滴で即死する毒を塗りこんでいる。どうだい、きれーな紫色だろう?」
なんだかとっても罰当たり。
「魔物如きが、なめたこと抜かすな! 魔物を殺すためだ。主神様だって祝福してくれるさ!」
邪魔、どいて。
あの白い人を止めないといけない。

「永遠の眠りにつくがいい」
永遠の眠りはだめ。
「……時間稼ぎにもならないのか。役立たずめ」
寝ている人を起こすのは駄目。
起きないようにするのはもっと駄目。

「私は教会の洗礼を受け、主神の恵みを受け、魔物を討つ宿命を背負う者」
白い人が私に剣を向ける。
「……すなわち、勇者だ」

勇者。
魔王を倒すために生まれた人。
とても強い力を持っている人間。
あるいは、魔物を倒すための力を生まれた後に貰った人。

「そうだ。私が勇者だ」
嘘は良くない。
「うそだと?」
うん。
嘘はよくない。

だって、勇者はあなたほど弱くない。
その程度で、勇者なんて言っちゃ駄目。
「魔物が知ったような口を聞く」

知っている。
私は勇者を知っている。
だからわかる。
貴方は偽者。
偽者の勇者。

「貴様。私を侮辱するというのか。ならば死しかあるまい」
貴方は偽者。
だから貴方では、ドラゴンに勝てない。

「剣を抜かないのか」
ショートソードは使わない。
ところで、赤い目の人はどうしたの?
「切り捨てた。幾ら魔物といえど、首を切り落とされては生きてはおるまい」

「首を切り落とした? 随分ひどいことをするもんだね、さすが『人間』だね」
ラージマウスが白い人に腰掛けてる。
何をどうやったのか知らないけど、白い人はぐったりとしている。
「魔物相手だ。当然だろう」
「人間相手でも同じ事をするんだろう。教会様ってさ」

「魔物に組する者は滅ぼす」
「違うでしょ。教会にとって都合の悪い人間は、でしょ」
ラージマウスはなんだか怒ってる。
「証拠もなしに疑う。やはり魔物だな」
「はいはい。相変わらず話が通じない」
うなずく。

「止めておけ。この者たちの性根は腐っている」
リザードマンの相手をしていた白い人が膝をついている。
肩から血が出ている。
「お前たちの眼から見れば、さぞかし我々は腐ってみてるのだろう」
「何だ。認める勇気は持ち合わせていたのか」
「魔物と人間の価値観は大きく異なる。お前たちにとっての白は我々にとっての黒。ゆえに、お前たちの言葉など聞くに値しないと言う事だ」

「我々を舐めないでくれるか? 確かに性に関しての考え方が異なる事は認めよう。だが我々魔物も、人と同じだ」
「人間を食ってきたお前たちの価値観が? 我々人間と同じ? 馬鹿馬鹿しい。獣の方がよほど近しいぞ」
リザードマンがどんどん不機嫌になっていく。
「何故魔物を殺す。我々は最早、人間を殺そうとしていないのだぞ!」
「それが正義だからだ」

「正義の名の下に無差別に殺す事を正当化する。人間とはよくわからないな」
眼鏡ラージマウスは手の中にある硬貨で遊んでいる。
「主神は全ての創造主。主神の正義が我々の正義だ。何が間違っている」
「同族を殺める事さえ正義と口にする点が不自然なのだよ」
「ほぉ?」

白い人が雷を放つ。
眼鏡ラージマウスが硬貨を1枚だけ、雷に向けて投げる。
雷は硬貨に当たると煩い音を立てて消え去る。
「君も無駄な事は止めておけ。その魔法は対象物を感電させるが、貫通力はない。ゆえに、雷に縁のある物を当てれば、容易に防げるのだよ」
白い人が悔しそうな顔をして、また魔法を唱えている。
また防がれるのに。

「さて。先ほどの続きだ。動物社会において、同族殺しは『あり得る』。だが、それはやむを得ぬ場合だけだ」
雷が放たれて、眼鏡ラージマウスが硬貨を投げる。
「縄張りに侵入者が入ってきた時。餌の取り合い。子を守る場合。ところが、実際に命を落とす事はない。なぜなら、双方共に命が危うくなる場合、引き下がるからだ。子を守る場合だけは別だがね」
「ネズミの高説に耳を傾けるようになっては、狂人だ。そして、私は狂人ではない」
雷を使う白い人が膝を突いている。
魔法を使いすぎて疲れたみたい。

「とりあえず、全員外に出したらいいんじゃないかな。ここ、ホコリっぽいし」
金槌リザードマンが手の中のハンマーを回している。
白い人の持っていた斧は、割れてる。
刃の部分が壊れていて、もう棒みたいになっている。
金槌リザードマンは両手でそれぞれのハンマーを回してる。
二つ持っていたんだ。

「ならばお前たちが立ち去れ。私はまだ用がある」
「固定観念ってさ、怖いよねー。例えば、『戦わないリザードマンは異常だ』とかね」
斧を持っていた白い人は気絶してる。
たぶんハンマーで叩いた。
「小難しい話はわからないからね。ちょっと外に出てるよ」
倒れている白い人を引き摺って金槌リザードマンが出て行く。

「やれやれ。彼も連れて行ってはくれないか?」
「はいはいっと」
金槌リザードマンがハンマーを投げる。
魔法を使って疲れていた白い人の頭に当たって、白い人が倒れる。
「というかさ。ラージマウスの力なら普通に運べるでしょ」
「運ぶ事は得意だ。では、少女よ。後は君が為したい事を為すといい」

皆出て行った。
残ったのは寝ている人と私と白い人。
そして、首と体が離れ離れになっている赤い目の人。
「お前も出て行くがいい。この場限り、見逃してやろう」
出て行かない。
偽者の勇者を片付ける。

「偽者、偽者、偽者。何度私を侮辱するつもりだ。貴様は勇者を知っていると言うのか」
父様が勇者だから。
「……ほぉ」
もう一度だけ、聞く。
どうしてその人を二度と起きれないようにする?
「魔物だからだ。それ以上の理由があるか?」
わかった。

人の巣に勝手に入ってきて。
魔物だからって殺そうとする。
そんな人は、どうなってもいい。

「その姿。貴様、やはり魔物か」
死なないように加減はする。
「その腕の爪、鱗。リザードマンか?」
生きるか死ぬか。
神様に祈っていればいい。
「違う。リザードマンで無い。だとすれば……まさか」
でも、勇者なら。
この程度じゃ死なないよね?

「終わったのかい」
ラージマウスが白い人たちを縄で縛っている。
私は引き摺ってきた白い人を見せる。
「むぅ。生きているのか」
勇者なら生きている。

「息をしている音は聞こえるし。大丈夫じゃない?」
「けどまぁ、ずいぶんとやっちゃったね。怒った?」
金槌リザードマンが頭を撫でてくる。
首をかしげる。

「あとの始末は我々が行う。君は、そうだな。この服に着替えて宿に戻るといい」
眼鏡ラージマウスから服を借りる。
眼鏡ラージマウスの服?
「そうだ。サイズは恐らく同じだろう」

「そうだな。着替えるといい。あの少年にそのような姿は見せたくはないのだろう?」
うなずく。
「ほら、顔ぐらい拭きなよ。あー、もう」
ラージマウスがハンカチで私の顔を拭く。

「それとだ。件の赤い目の人物については心配は無用だ」
リザードマンたちに指示を出してから、眼鏡ラージマウスが私を見る。
首をかしげる。
「あの者は恐らく、魔物としては生きている」
首をかしげる。
「気づいていなかったのかね。彼女はアンデッドだよ。寝ている御仁もな」

服を着替えて、もう一度寝ている人の部屋に入る。
「また助けられたのか」
赤い目の人が部屋の真ん中で座っている。
首は体と引っ付いている。

「デュラハン。首無し騎士の魔物だ。首は元々、置いているだけだ」
首をかしげる。
……首をかしげる事が出来ないと言う事?
「いや、それ位は可能だが。首が離れると、少々タガが外れてしまうだけだ」
でも動いてなかった。

「……」
首をかしげる。
「気絶だ。後頭部を強打したのだ」

簡単にラージマウスたちのことを話して屋敷を出る。
「話は終わった?」
「後は任せるといい」
ラージマウスと眼鏡ラージマウスが入れ替わりに入っていく。
「リザードマン二人も後からおっつけやってくるよ」
私は宿に帰った。

今日は別々のベッドで寝ることにした。
少年が不思議そうな顔をしていたので、頭を撫でた。
一緒に寝たかったのかな、と聞いてみたら、少年は顔を赤くしてベッドに入ってしまった。

今日は腕だけ魔物だった。
だから今日は人間じゃなかった。
だから。
今日は別々。

少年と一緒に寝たいけど。
少年と一緒に寝たくない。

父様、母様。
人間って、何?
私は人間がよくわからない。
私が何でこんなに困っているのかも、よくわからない。

父様。
母様。

会いたい。

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13/01/26 23:45 るーじ

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