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屋敷と魔物 |
冷えた目をしている。
私は色んな場所を歩いてきた。 色んな目を見てきた。 でも、彼女は誰よりも冷えた目をしている。 私は部屋から出る。 振り返ると、剣を構えた彼女が私を見ている。 「何故この場所へ来た?」 冷えた赤い眼が私を見ている。 「我が主に近付くな。命は惜しいだろう」 首をかしげる。 怒っているようだけど怒っていない。 何で近付いたら駄目? 「我が主は眠りについている。深い眠りについている」 眠っている人は起こさない。 でも折角だから顔を見てみたい。 「信じられるか」 赤い目の彼女は部屋の入り口から動かない。 仕方が無いので諦める。 家の外に出ようと思って。 気になったことがあった。 「何だ?」 どうしてここにはたくさん魔物がいる? 「知らん」 「我が主が眠りについて以来、魔物が増えた。それだけだ」 寝ている人は魔物? 「知らん」 人でも魔物でも守る事が変わらないから? 「そうだ」 そう。 この人は守っている。 でも目が冷えている。 ふしぎ不思議。 どうしてそんな目をしている? 「お前には関係がない」 あなたも魔物? 「関係がない」 会話にならない。 困った。 仕方が無いので帰る事にする。 天井の触角が生えた黒いのに見送られて、家の外へ。 出る前に、誰かが入ってきた。 あぶない危ない。 剣が当たると思った。 「何だ。お前も魔物か?」 何人か入ってきた。 武器を持った人たち。 白い人たち。 「教会の敵なら殺していいんだな?」 こまった。 この人たち、話を聞かない人たち。 「また来たー! 変なの来たー!」 黒いのが天井を走り回っている。 気づいたら黒いのが増えている。 「いっぱい来たー!」 「逃げろ逃げろー!」 いっぱい集まって、いっぱい逃げていった。 何しに来たんだろう。 「邪魔だ」 白い人が来たので場所を譲る。 剣を振りながら来たから、当たるかと思った。 「こいつ、やっちまっていいか?」 「後にしろ。本命を優先する」 「へいへい」 首をかしげる。 人がいっぱい入って行った。 玄関のドアが壊れている。 ドアのない入り口からこの家の魔力が外に漏れている。 ……たいきおせん? 何だか不味そうなので、部屋にあったソファで塞いでおく。 廊下の方から音が聞こえる。 剣をぶつけ合う音。 赤い目の人とさっきの人がケンカをしているのかな。 何か色々しゃべっているけど、よくわからない。 よくわからないけど、よくないことを言っている気がする。 それに煩い。 寝ている人の部屋の前に行こう。 「さっきのガキの魔物か。見逃してやっているんだ、失せろ」 煩いと寝ている人が起きる。 静かにする。 「へ。じゃあてめえが先に静かになりな!」 小さい人が服の中から爪を突き出してきた。 ショートソードで受ける。 爪は鉄で出来ている。 魔物? 「へ。俺を魔物だと? 馬鹿を言うな。これは俺の爪じゃなくて、こういう武器なんだよ!」 もう片方の爪が出てきた。 当たると危ないので遠ざかる。 どうしよう。 余計に煩くなった。 たまに魔法を使う人がいるみたいで、雷の音がとても煩い。 でも手加減するのって難しい。 ショートソード、中々当たらない。 「へへ。捕まえたぜ」 ショートソードが爪の間に入った。 「ソードブレーカーって、知ってるか?」 首を横に振る。 「剣を受けて、こう捻るとな」 嫌な笑い方。 嫌な感じがして、ショートソードから手を離す。 「お? 意外と頭が回るんだな。武器破壊失敗ーっと」 鉄の爪が私に向かって振られる。 武器破壊。 武器を壊すこと。 「お? 掌で爪を受けた? 俺の真似かぁ? だがなぁ、爪には毒を塗っていてなぁ」 私のショートソードを壊そうとした? 「少しでも怪我をしたらその傷口から……あ?」 それなら、少し強く叩いてもいいよね。 「俺の爪が、爪が折れただとぉ!?」 「先ほどの魔物か」 「お前、何故ここに戻ってきた」 赤い目の人は怪我をしている。 黒くこげている。 部屋の中には白い人が3人。 「他の者がいない。お前が倒したのか」 首を横に振る。 「ならばどうしたというのだ?」 寝ている人を起こすのは良くない。 今は昼寝の時間だから。 「逃げろ。この者たちは教会の人間だ。殺されるぞ」 首をかしげる。 「もう遅い」 白い人が手を私に向ける。 雷が手から出てきて私に飛んできた。 「直撃した。もはや動けまい。後はそこで見ているといい。直ぐにお前も殺してやる」 白い人は赤い目の人に向き直ると、剣を振り上げる。 走っていくのは面倒だから、廊下で寝ている白い人を投げる。 剣を振り上げていた白い人に当てようと思ったけど、赤い目の人に当たった。 「雷が効かない。その上、外見にそぐわぬ怪力。やはり魔物だな」 壁の方に移動した白い人が私に剣を向ける。 「大人しく死ぬが良い。それが神の意思だ」 「なぜ、助けた」 首をかしげる。 寝ている人の邪魔をしちゃいけない。 だから煩い人にはお昼寝の時間。 「お前は、魔物か?」 首をかしげる。 私は昼寝をしている白い人を持って部屋の外に出る。 そういえば、この人たちがドアを壊したけどどうしよう。 「それならば問題ない。夜が来れば自然と直る」 そうなんだ。 便利。 「助かった。礼を言う」 首を横に振る。 寝ている人の邪魔は駄目。 それに。 巣を争うとする人は悪い人。 「そうか。……もし今度訪れる事があるなら、今度は客として持て成そう」 白い人を表に全部放り出して町を歩く。 服がちょっとボロボロになったからまた買わないといけない。 パンを買って、服を買って。 外に出て金槌リザードマンを探して、ショートソードの打ち直しをお願いして。 ラージマウス二人に出会って屋敷での事を話して。 いつもの薬草を摘んで。 ついでに山に生えている花を摘んで。 屋敷に戻って、家の中に薬草と花を置いて。 宿に戻って。 「お帰り。今日も薬草を採りに行っていたの?」 うなずいて。 少年に抱きついた。 「わわっ。どうしたの?」 「あらまぁ。おあついねぇ」 宿屋のおばさんがやってきた。 「いいじゃないか。今日の仕事はもう終わりでいいよ」 「今日はどうしたの?」 首をかしげる。 「何だかいつも以上に、こう。くっついてくるよね」 うなずく。 「何かあったの?」 首をかしげる。 自分でもよくわからない。 ただ、少年と一緒にいると落ち着く。 ご飯を食べる時も。 寝るときも。 少年と一緒なら落ち着く。 今日の屋敷での出来事を思い出す。 壊れたお屋敷。 起きない人。 白い人たち。 闘技大会まで、まだまだ時間がある。 少年はまだまだ弱くて、私もまだまだショートソードをうまく使えない。 でも大会よりも色々と大変なことが起きそうな気がする。 「おやすみ」 少年に抱きついたまま目を閉じる。 私は人間の振りをしている。 魔物は私を人間だと言っている。 人間は私を魔物だと言っている。 今の私は、何だろう。 |
13/01/26 12:53 るーじ
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