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大会までの日々 |
少年は特訓により熱を入れている。
私も釣られて熱を入れすぎないように、ほどほどに振る。 ちょっとストレスがたまったので、近所にいたオーガと遊んだりした。 それにしても。 少年は凄く弱い。 向き不向きという物はある。 オーガに魔法は向かないし、アルラウネに配達は向かない。 というか無理。 動けないし。 「うー、疲れたぁ」 ぐったり座り込む少年を見る。 「ん、どうかした」 少年、前から思っていたけど。 「うん。なに?」 特訓の仕方、根本的に間違っている。 「で、何故私が。いや、確かに暇を持て余しているとは言ったが」 近くにいたリザードマンを呼んで特訓開始。 「えい、えい!」 「駄目だ駄目だ、なっていない! 剣は腕で振るものではない!」 あ、そうなんだ。 「……お前は腕だけでなぎ倒すから関係ないだろう」 首をかしげる。 「1、2! 1、2!」 一歩踏み込んで振り下ろし、一歩下がって振り下ろす。 何だか社交界のダンスみたいな動き。 進んで止まって、下がって止まる。 「そこ、踊らない!」 首をかしげる。 リザードマンが来てから、少年の剣を振る音が変わってきた、気がする。 やっぱり武器の扱いはその道の人に任せるに限る。 「次は私に打ち込んで来い!」 「はいっ」 カンカンガンガン、煩くなる。 「はぁ!」 「うわぁっ」 「まだ半分も力を出していないぞ。そんなことでどうする!」 攻守逆転。 でも少年は直ぐにへたばる。 「走り込みだ!」 「はいぃっ」 ついでに薬草集めのクエスト。 「草を摘んでいる場合か!」 お金をくれるなら止める。 「……薬草取りも訓練だ!」 「えええ〜!」 「配達、配達〜!」 「走るのだ! 馬よりも早く!」 「無理だよ〜!」 配達クエスト、今日はあと3つ。 「無理! むりむりむり〜!」 薬草取りクエスト、On the 山。 「い、いきが」 「高山トレーニングか。いいものだ!」 薬草は崖に生えている。 「あ、あの崖を上るのぉ!?」 「小僧。山は何故あるかわかるか?」 「え、なに?」 「昇るためだ!」 「絶対ちがう〜!」 クエストは無事終了。 「ふぅ。久々にいい汗をかいた」 少年がへばって動かなくなったので、リザードマンを人間っぽく偽装させて街中まで運んでもらった。 「人に化けるというのは奇妙だな。うぅ、尻尾が」 出したら千切る。 「や、やめてくれぇ」 尻尾を隠せないリザードマンは、腰に巻いてベルトの様にしている。 手とか足は無理やり袖の長い服で誤魔化す。 「それにしても、これが人の町か」 リザードマンが珍しそうにあちこちを見ている。 まるでおのぼりさん。 「う、うるさいな」 少年を宿に置いたらあちこち回ってみよう。 「いや、わたしはだな」 回ってみよう。 闘技大会のある町は、今まで見てきた中ではちょっと大きい方。 あちこちに空き地があるのは、たぶん予選のため。 なぜなら、気の早い人がもう特訓をしていたり、予選の前哨戦みたいなものをしている。 参加しようと空き地へ近付いていくリザードマンを引き摺る。 「え、これを食べるのか」 うなずく。 町では良く売られる肉の串焼き。 ポピュラーな食べ物。 「それは知っているが。私も親魔の町に行ったことがあるからな」 反魔は? 「行った事があるというだけだ」 リザードマンは追求を嫌った。 私も聞かない。 この町は親魔物領じゃない。 どちらかといえば、反魔物派の町。 街中を武装した兵士が歩いているのは、大会が近いからという理由以外にも。 町に入り込んだ魔物を討伐するのが目的。 私はリザードマンと手を繋いだまま歩く。 リザードマンの手は緊張で固くなっていた。 「いい経験をした。礼を言う」 首を横に振る。 「はは。何だか今日はいつもと違ったな。何かあったか」 首をかしげる。 「それではな」 手を引く。 「ん?」 リザードマンの腰を突付く。 正確には、巻かれている尻尾。 「ああ、もう解いてもいい」 首を横に振る。 「え? どういうことだ」 擬態はばれている。 今回はあまりに稚拙だったから見逃されていただけ。 「そ、そうなのか?」 うなずく。 「気づかなかったが。……そんな呆れたような目をしないでくれ」 リザードマンを見送って。 大きく伸びをして。 振り返る。 「どうかしたのかい?」 糸目のお兄さんが立っている。 「仲がいいかな、あの人と」 うなずく。 「あはは。子供はいいよね。素直でさ」 糸目のお兄さんの横を通り過ぎる。 「頑張ってね。大会の参加、期待しているよ」 糸目のお兄さんは何時も通り。 優しそうな声で応援してくれた。 |
13/01/21 23:35 るーじ
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