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二つの村 |
今日は朝から良く晴れている。
数日続いた雨の後は、気持ちいいくらいの晴れ天気。 のぼける少年のベッドからシーツを引き出して天日干し。 まあ日は昇っていないけど天日干し。 枕を抱いて丸くなっている少年を置いて村を出る。 ちょっと走りたい気分だったので、隣村までの簡単な配達をしている。 荷物の量は行商人のおじさんくらい。 すごく心配されたけど、片手で持ち上げて見せたら納得してくれた。 人間にとっては重い荷物も、私には羽の様に軽い。 機嫌の良さそのままに荷物を背負いながら走る。 「馬車か……子供だと!? や、やろうどもやっち」 「親分が女の子にはねられたぁ!」 「おやぶーん!」 何かに当たった気がするけど、きっと気のせい。 昨日のパンの残りを齧りながら走る。 「最近、このあたりにやたら強い人間の女の子が要るって話だよ」 「そんなに強いんだ。ドラゴン級の魔物じゃないの?」 「いや、それが違うみたいでさ。覚醒が早い勇者なんじゃないかって話だよ」 「怖いねぇ。出くわさなきゃいいけど」 「そうそう。あ、なんかきた」 「え、なになに?」 また何か当たった気がするけど、きっと気のせい。 朝に井戸水を汲んだ水筒を取り出して喉を潤す。 隣の村に着いた時、ちょうど日が昇り始めていた。 村から出ようとしていた行商人の叔父さんが驚いている。 「おやおや。一人でその荷物を持っているのかい。君はとても力持ちさー」 うなずく。 力には自信がある。 「いやー、朝ごろは色々と危ないからね。気をつけるんだよー」 そう言って行商人のおじさんが歩いていく。 私は背負った荷物を村に配っていく。 少年はそろそろ起きる頃かな。 少年のいる宿に戻る前に、荷物を背負う。 配った分だけ荷物を受け取り、配ったついでに荷物を受け取る。 気づいたら来た時よりも荷物が多くなっていた。 行商人のおじさん一人じゃ、きっと運びきれないのかな。 「お嬢ちゃん、すごいね」 「お嬢ちゃんに任せればもっと隣の村との交流がしやすくなる」 「本当にすごいよ」 首をかしげる。 私は村を出て、元来た道を戻る。 村に戻ったら日が暮れていた。 なんとなく、帰りは走る気にならなかった。 宿に戻ったら行商人のおじさんがいた。 少年と一緒に食事をしていた。 そしてなぜか、眼鏡をかけたラージマウスと、金槌を腰に差したリザードマンもいた。 首をかしげる。 「あ、おかえり。戻ってくるのは遅かったんだね」 「この村を出てから村に到着するのは早かったから、疲れたのかもしれないさー」 疲れたのかな。 わからないけど、うなずく。 「君か。例の少女は」 ラージマウスが私をじっと見ている。 「見た目は普通の人間だよね。本当にそんなに強いの?」 リザードマンは腰の金槌を引き抜いて手の中で回している。 首をかしげる。 ラージマウスは好奇心旺盛で食欲旺盛。 でもこのラージマウスは、お皿に乗っているチーズを少し齧るだけ。 小食のラージマウス? リザードマンも不思議。 手にしているのは槍でも斧でも剣でもない。 槍や斧や剣を作る、鍛冶屋の金槌。 「不思議そうな顔をしているね。そりゃそうか」 「私たちは同族からすれば異端だからね」 ラージマウスがチーズを齧る。 変わっているけど、チーズ好きなのは同じ。 「チーズは栄養価も豊富で保存も効く。……ラージマウスであることも、チーズを好む理由の一つではあるだろうがね」 「私はさ。昔から武器を壊してばっかりでね。知り合いのドワーフにいつも怒られてばっかりでさ」 リザードマンは戦い好きで誇り高い魔物だと思っていたけど。 この金槌リザードマンは、なんというか。 人間みたいに気楽そうな雰囲気。 「武器を壊すんなら、武器を作ってみな。それまでは一歩もココから出さないよって、言われちゃってさ。嫌だって言ってるのに、鍛冶屋の真似事させられたんだ」 「大変だったの?」 「何度も逃げ出したけどとっ捕まった」 自由は戦って勝ち取る物。 「負けた。めっちゃくちゃ強かったんだよ」 「職人さんは強いのさー」 「逃げるたびにノルマが増え、延々と鉄を打ち続けていたら段々と面白くなってきてね。で、気づいたら剣士としての誇りなんてどうでもいいやってなっちゃったんだ」 「リザードマンから戦いに関する価値観を取れば、戦い以外の道も選ぶ。興味深い」 むしろ眼鏡ラージマウスの方が興味深い。 「私か? 私の経歴は少々特殊でね」 「生まれた家がお金持ちさん?」 「資産はあったが、それは違うな」 「周りが真面目な奴ばっかりだったんだろ」 「確かに研究熱心ではあったな」 「魔界に住んでいたからなのかなー?」 「いや。生まれも育ちも反魔物国家だ」 感染? 「ふむ。いい線をいっている」 じぃと眼鏡ラージマウスを見る。 眼鏡を取る。 「眼鏡に興味があるのか?」 眼鏡なし眼鏡ラージマウスに変化無し。 試しにかけてみる。 変化なし。 「あ、僕も借りていいかな?」 「構わないよ。壊さなければ」 「わーい。えっと、んー。なにか変わった?」 見た目が変わった。 「見たままなのさー」 眼鏡ラージマウスが眼鏡をかける。 「私は元々人間の魔法使いの下で働いていたただのネズミだった」 「へ? ネズミさん?」 「サキュバスのクスリなのかい」 「結果としては似たものが出来上がったのだろう」 薬の実験。 「そういうことだ。知識に関しては、手伝いをする中で覚えた」 二人は変わったもの同士、旅の途中で出会って一緒に行動しているみたい。 また機会があったら会おうと約束をして、今日は寝ることにする。 「今日は早起きだったんだね」 うなずく。 「気づいたら床の上だったから驚いたよ」 首をかしげる。 「でもさ。朝はここから出発してすぐに着いたんだよね。おじさんから聞いたよ」 うなずく。 「やっぱり疲れちゃった?」 首をかしげる。 どうして帰りは歩いて帰ったのか、よくわからない。 何となく、早く帰りたくなかった。 少年と一緒にご飯を食べたかったのに、足取りが重かった。 よくわからない。 「え、今日は一緒に寝るって? ええ〜」 渋る少年を無視。 少年が枕を抱いていたみたいに、少年を抱きしめる。 しばらく少年がもがいていたけど、気にしない。 じき、大人しくなる。 今日は少年も村で仕事をしていたみたい。 すぐに寝息を立て始めた。 私はその音を聞きながら、首をかしげていた。 どうして私は、村に戻る時はゆっくりと歩いていたのか。 なぜか村の人の顔と、行商人のおじさんの顔が頭に浮かんだ。 |
13/01/18 00:11 るーじ
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