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木を切る |
「今日はゴブリン退治のクエストを受けてきたよ!」
少年の頬をひっぱる。 「ひたたた。はにふるんはひょ〜」 何をするのかといわれたら、柔らかそうなものを触ってる。 私は少年の頬をひっぱったまま近くの森に入ってく。 少年はショートソードを振っている。 ショートソードで木を切り倒そうとしている。 私が素手で木を叩き割って見せた後、ずっとこの調子。 「えいっ、やぁ!」 剣に振られている少年がいくら剣を振っても、木が傷つくだけで一向に切れない。 元々、木を切るために人間が使う道具は、先端が重く分厚い刃の刃物。 薪割りの斧。 力ではなく重さで叩き割る。 剣で木を切るのは、中々出来ないと思う。 腕の立つ剣士でもこんな事はしないと思う。 けど少年は木を切ろうとしてる。 ふしぎ不思議。 「くっ、また抜けなくなっちゃった。この、このっ」 深く食い込んだ剣を抜こうと、体を横に倒して木の幹を踏んでいる少年。 そんなに苦労するなら木を割ったほうが早いのに、なんで抜こうとするんだろう。 少年の考える事はよくわからない。 「く、く〜〜〜、わっ!」 剣が抜けると、少年は地面を転がった。 「あいたたた」 土汚れた少年は木をじっと見ている。 少しの間そのままじっとしていて。 また立ち上がって木を切ろうと剣を振り始めた。 「なにやってるんだろう。あれ」 遠くで私たちを見ていたラージマウスが呟いた。 でも遠くにいるから少年は気づいていない。 ラージマウスは木に隠れながら少しずつこちらに近付いてくる。 なにをするつもりだろう。 ラージマウスの行動を見ると、少年の荷物に近付いているみたい。 少年はやっぱり魔物には気づいていない。 ラージマウスは、なぜか私に気づいていない。 もう荷物しか見ていない。 「にひっ。もーらいっ♪」 荷物を掴んで持ち上げると、ラージマウスが笑う。 でも少年は気づいてない。 視線を外す。 ラージマウスはそろそろと歩いている。 でも音が遠ざからない。 少年に近付いている。 なにをするつもりだろう。 「きみもも〜らいっ」 「ひゃあっ!」 少年が持ち上げられた。 「わ〜〜! はなして〜!」 「にひひ〜! おとこのこげっとだぜ〜!」 「なんだか最近こんなのばっかりだ〜!」 少年がじたばたしている。 少年の荷物は、地面に置いてある。 荷物を取りに来たのに荷物を置いてる。 ラージマウスは何しに来たんだろう。 ふしぎ不思議。 「それじゃ、まったね〜!」 とりあえず、私が叩き割って椅子代わりに使っていた木を掴んで、投げる。 「うひゃっ!?」 「わぁああっ」 動きが止まったのでラージマウスに近付く。 「い、いまのあんたがやったの?」 うなずく。 「で、でも私の方が早いんだからっ」 ラージマウスが走り出す。 私は近くにある木を掴んで、ひきぬいて、投げる。 「ちょっ、あんた、いまの当たったら死んじゃうじゃない!」 「そんなことより下ろして〜!」 首をかしげる。 木が当たっただけで死ぬドラゴンはいない。 だから死なない。 次の木を引き抜く。 「え、まじ? というか普通死ぬでしょ!」 「あの子って時々、信じられないくらい知らない事が多いんだよ」 「もしかして」 「次は当てる気なのかな」 うなずく。 ラージマウスが戻ってきた。 「それでさー。やっぱりせーえきもいいけど、チーズとどっちが好きかってのは、永遠のテーマなわけよ」 「ぼくにせーえきのことを話されても、わからないよ」 サックに入っていたご飯を、少年と私とラージマウスが食べている。 ラージマウスは本当に何をしに来たんだろう。 首をかしげる。 「でさ。あんたずっと何やってたの?」 「ん。木を、切りたかったんだ」 「それで?」 「これで」 ラージマウスがショートソードを指差して、少年が頷く。 「んー、あー、なるほどね〜」 「え? どうかしたの?」 ラージマウスが私を見ている。 なんだろう。 首をかしげる。 「無理無理、やめときなさい。あの子はべっかくだよ?」 「え、あ、えっと。ちがうんだって! そういうのじゃなくって!」 「はいはいわかってるって。あ、ミルクちょーだい。せーえきじゃないほうの」 「う〜〜〜。違うんだって」 ラージマウスと少年がずっと話をしている。 私はずっと聞いているだけ。 今日の分のパンを食べ終わった。 手持ち無沙汰。 何をしよう。 「え、わぁっ! な、なに?」 少年の後ろに座る。 手持ち無沙汰なので少年の頭を撫でる。 少年が慌てて逃げようとするので、お腹に手を回して捕まえる。 「あ〜、こりゃこりゃ」 ラージマウスが笑ってる。 何だか楽しそう。 でも何だか不愉快。 「その子のこと気に入ってるんだ?」 首をかしげる。 「ま〜い〜けどね。魔物には気をつけなさいよ」 首をかしげる。 「いきなり、ぱ〜っと浚われちゃうから」 私はラージマウスの後ろを指差す。 正確には、ラージマウス目掛けて飛んできたハーピーを指差す。 「え、なにな」 そしてハーピーは見事、ラージマウスを捕まえて空に飛んで行った。 「きゃ〜〜〜! またあんたなの〜!?」 飛び去っていくハーピーは、見た事がある。 あの夜以来、仲良しになっていたみたい。 「やめて〜! は〜な〜し〜て〜!」 「あの子も、大変なんだね」 少年が二人の魔物を見送りながらつぶやいた。 そしてなぜか私のほうを見る。 「えっと、離してくれる?」 首を横に振る。 今日は一日、私が満足するまで少年の頭を撫でていた。 |
13/01/12 21:00 るーじ
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