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ゴブリン退治クエスト終了

何日か村に滞在していたある日。
少年が部屋に飛び込んできた。
「クエスト忘れてた〜!」
手に持っていたクエスト受領書を見る。
見覚えのあるようでないような、その記載内容。

「ゴブリン退治、急がないと〜!」
どうでもいいと思った。

ゴブリンが盗賊をしているみたい。
クエストの主は、荷物を取られた商人の男性。
ついでに盗まれた長男も取り返して欲しいと言っていたけど。

「なんで子供がついでなんだろう」
首をかしげる。
商人の男性はすごく微妙な顔をしていた。

村と村を繋ぐ馬車道。
森を迂回するように作られた砂利道とは別に、馬車を使わない冒険者が歩いて作られた道がある。
森の中を次の村まで直進する道は迂回するより近くて。
商人の男性は仕事の時間に間に合いそうになくて、仕方なくその道を使った。
そしてゴブリンに出会って散々な目にあったという。

「それで僕、考えたんだけどね」
少年はショートソードを抜いて、案内するみたいに先を歩いている。
「この森の中の道を歩いていたら、ゴブリンが出てくると思うんだ!」
首をかしげる。

確かにゴブリンはいるかもしれない。
いるかもしれないけど。
「どうかしたの?」

右を指差す。
茂みから顔を出している、舌なめずり真っ最中のワーウルフを指差す。
「うわぁああ! で、でたな!」
盗賊じゃないけど魔物が現れた。

クエストの期限は今日の夜。
今は昼ごはんを食べようかどうしようか悩む頃。
「こ、ここここはぼくにまかせて、君はさきにいって!」

首をかしげる。
狼に餌を置いて立ち去っても意味がないような気がする。
ワーウルフが嬉しそうに尻尾を振っている。

時間が無いのでワーウルフを肩に担ぐ。
なにやら煩いけど気にしない。
「え、えっと。連れていくの?」
首をかしげる。
とりあえずこれ、どうしようか。

ワーウルフの尻尾を握る。
「ぎゃうんっ」
あ、大人しくなった。
もう少し強く握ってみる。
「ぎゃうううんっ。ちょっと、いたい、いたいって!」
少し緩める。
「はふ〜。まったく、何て子供だい。この馬鹿力」

少し強く握ってみる。
「ぎゃううんっ!」

また道を歩く。
少年は少し落ち込みながら、ショートソード片手に歩く。
「今度は、僕だってやれるって見せるんだから!」
首をかしげる。

「今度はって、あんたに負ける魔物はいないと思うよ」
ラージマウスが現れた。
またラージマウス。
「あ、きみは!」
「なになに? 今度は冒険者の真似事〜?」
「真似事じゃなくて、冒険者なんだよっ」
「へ〜。じゃあちょっと遊んであげるよ♪」

でも残念。
今日は遊んでいる時間が無い。
「ん? げ、あんたは」
ラージマウスを肩に担ぐ。
「ぎゃ〜〜! は〜な〜し〜て〜!」
ラージマウスがじたばたと暴れる。
どうしようかな。

とりあえず暴れても煩いだけなので、放置する事にした。
「え、えっと。その子も連れて行くの?」
首をかしげる。
「えっと。連れて行くからそうやって、運んでいるんだよね」
首をかしげる。

邪魔だから邪魔をしないように捕まえているだけなのに、少年は不思議な事を言う。
「くぅ〜! この馬鹿力小娘〜!」
肩に乗せている魔物を捕まえている力を強める。
「ぎゃ〜〜〜! いたい、いたいって!」
「ぎゃうううんっ! ちょ、あたしは関係ないだろ!」

大人しくなるまで少しずつ力を強くすると、大人しくなった。
「あぁ。二人とも気絶してる」
首をかしげる。
そんなに強くやった覚えはないのに。
二人の顔が後ろに来るように担いでいるから顔が見えない。
でもきっと大丈夫。

「ふん。以前出会った少年か。やれやれ、骨のある冒険者はいないものか」
ワーウルフを投げる。
「どわぁあっ! ま、まものを投げるだと!?」
ラージマウスを投げる。
「ぐはぁっ」
近くに生えていた木を投げる。
「そ、それは無理〜〜!」
リザードマンを倒した。
「うわぁ。凄い有様」

ラージマウスとワーウルフを改めて確保して道を歩く。
「それ、もしかして投げるために運んでるの?」
首をかしげる。
ああ、そういえば投げるのにちょうどいい大きさかもしれない。
うなずく。
「うわぁ」

「ねぇ。どうやったら逃げる事が出来るかな〜」
「人間も魔物も、諦めが肝心だよ」

「ゴブリン、出てこないな〜」
少年はだんだんと疲れてきている。
リザードマンが出てきてから、全然魔物が姿を現していない。
そういえば今は林道のどの位置にいるんだろう。
「何でもいいから魔物、でてこ〜い!」

バサバサと羽ばたきながらハーピーが現れた。
「ぎゃ〜! また連れ去られる〜! た〜べ〜ら〜れ〜る〜!」
ラージマウスが暴れる。
「よし、ねずみちゃんをゲット!」
ハーピーがラージマウスを足で掴んで飛び去る。

そのラージマウスの足を掴んで振る。
「ぎゃあ〜〜〜!」
「ぴゃ〜〜〜!」
ハーピーとラージマウスが地面に倒れた。

「あ、あたし。まだ生きてる?」
「あー、生きてるよ。あとは魔王様に祈ることだよ」
「私はねずみちゃんと一緒ならいいけどね〜」
私の肩にワーウルフとラージマウスが乗っている。
そしてラージマウスの上にハーピーが乗っている。
「ぼく、童話で似たような話を読んだことがあるよ」
首をかしげる。
どの童話の事だろう。

「もう、早くゴブリンでてこーい!」
歩きつかれた少年がへたり込んだ。
「呼ばれて」
「でてきて」
「あらほらさっさー」
茂みから現れた3人のゴブリンが少年を囲んだ。

「で、でたな! おじさんの荷物と、あと、ついでに連れ去った人を返すんだ!」
「あれ、男の子がついでなんだ?」
「だ、だって、おじさんが……じゃなくて。早く返すんだ!」
少年とゴブリンのやり取りを見ながら。
私はゴブリンたちがやってきた方向を見る。

いくらか歩いた先の地面が盛り上がっていて、穴が開いている。
穴は草で覆われていて中が見辛い。
中からは、人間の匂いが……するのかな。
食べ物の匂いが沢山でわかりづらい。

「おや。あの子たち、人間の、しかも若いオスの匂いがするねぇ」
「ああ、向こうだよね。何だか寝ているみたいだよ。きもちよさそーに寝ている音が聞こえる」
ワーウルフが鼻を鳴らす。
ラージマウスが丸い耳をぴくぴく動かす。
さすが狼とネズミ。
耳と鼻が利く。

「よーし。三人がかりでやっちゃえ〜」
「あの男の子みたいにかわいがってあげるよぉ」
「あげるよぉ〜」
「う、うわわ、3人がかりなんてっ」
「人間だって一人の魔物に数人がかりで倒そうとするんでしょ? いいじゃない」
「じゃない〜」

ワーウルフを持つ。
「わ〜! 投げないでくれって! ようはあの坊やを助けりゃいんだろ?」
首をかしげる。
「加勢するから普通に下ろしてくれって」
ワーウルフを下ろす。

「がんばってね、おねーさん」
ラージマウスを持つ。
「え? え?」
振りかぶって。
「わ、わわわわ〜! わたしも手伝うから〜!」
ラージマウスを下ろす。

「じゃ、わたしはねずみちゃんで遊ぼうっと♪」
ハーピーを持つ。
「え? あれ、なんかまた捕まっちゃった。嫌な予感がするよ」
「あーあ。ご愁傷様」
「変態トリ女。あんたの犠牲は無駄にしないよ」

ハーピーを投げる。
「ぴゃーーー!」
「きゃうっ」
ゴブリンの頭に直撃。
ゴブリンを倒した。
ハーピーを倒した。

「あ、じゃあ。わたしたちもいくぞー!」
「お、おー!」
ワーウルフとラージマウスがゴブリンに襲い掛かった。

「ちょっと、なに人間の味方をしてるのよぁ」
「してるのよぉ」
「うるさい! あんたら、あの小娘の恐ろしさを知らないから言えるんだよ!」
「死にたくないー! もう振り回されたりするのはやだ〜!」
やっぱりワーウルフとラージマウスは煩い。
動物系だからかな。
ふしぎ不思議。

「あの二人なら抑えれると思うけど、急がないと」
パンを食べながら見つけた穴に向かう。
「ここに捕まっている人がいるの?」
背の高い草が壁の様になっていて穴の向こう側が見辛い。

構わず草を書き分けて穴に入る。
「あっ。この草の向こう側に洞窟があるんだ!」
慌てて少年も穴に入ってきた。

洞窟の中はほんのり光っている。
ヒカリゴケの一種かな。
緑色にぼんやり光る苔が床に壁に天井に生えている。

「わぁ。きれい」
少年はじっと苔を見ている。
うれしそうな顔をしてる。
なんでだろう。
ふしぎ不思議。
よくわからないので、じっと少年の顔を見る。

洞窟の奥に荷物が置いてある。
その荷物の手前に裸の男の子が寝ている。
裸なのは、魔物に食べられていたからかな。
体中がべたべたで、せーえきや魔物の体液があたりに染み込んでいる。

「う、うわ。えっと、食べられていたのかな」
うなずく。
「つれて帰った方がいいよね」
荷物を指差す。
「え? なに?」

荷物の量は多いけど。
どうやって持って帰るんだろう。
首をかしげる。

「えっと。荷物、だよね。……あっ」
少年が慌てだす。
「どうしよう。男の子を連れて帰ろうとしたら荷物が持てない。荷物、多いよね」
少し考える。
うん、問題ない。

私は穴を出る。

……。

……、……。

「おじさーん。荷物、取り返してきました〜」
「おお、日が落ちたからどうなるかと思ったよ。それで、荷物はどこだい?」
「ここだよ。まぬけなおっさん」
「ちょっと多かったよぉ」
「おおかったよぉ」
「なぬっ!? あのとき襲ってきたごぶりんじゃあない!」

「あたしらもいるよ」
「なんだってあたしまで。ああ、いや、もちろん喜んで運んだよ! はい!」
「私だけ飛んで往復したよー。飛ぶ分だけ速いからってー」
「他の魔物まで!?」

「ちゃんと息子さんも連れ戻してきましたよ」
「ああ、それはどうでもいいけど」
「え、どうしてですか!?」
少年は驚いている。
少年の後ろにいる男の子は俯いたまま。

「仕事もろくにやらない駄目なやつだ。いっそ魔物に連れ去られた方がいいというもんだ」
「そ、そんな」
「だから言っただろ。俺が戻らない方がいいってさ」
少年は落ち込んでいる。

「おまけに魔物の助けを得るなんて。お前は冒険者失格じゃないのか?」
「う、そ、それは」
「あんた。荷物を取り返してもらっておいてその言い草はなんだい?」
ワーウルフが尻尾をピンと伸ばしている。

「人間ってのは礼の一つも言えないのかい?」
「ふん。こちらは仕事の成果に報酬を払う側だ。だというのに、こんなギリギリまで待たされて」
少年はまた落ち込んだ。
ワーウルフは歯をむき出しにしている。
「まったく、今度からは相手を見て依頼をすることにしよう。さ、報酬だ。さっさと帰ってくれ」

「嫌なやつでしょ? だから私たちも、こいつから盗んだんだよ」
「私たちもぉ、相手を選ぶんだよぉ」
「だよぉ」
「もっかい盗んでやろうか?」
「あ。そ、それはだめっ」
少年が慌てて止めに入る。

「どうしてさ」
「だ、だって。今度は強い冒険者の人に雇われたら」
ただじゃすまない。
もしかすると、殺されるかもしれない。
少年はそう言いたいのかも知れない。

「君は人間なのに魔物の心配なんぞするのかい。まったく、冒険者としては失格だ」
「そ、そんな。で、でも」
「この事は冒険者ギルドにも報告しておくからな」

「へん。こんなおっさん、放っておいて行こう」
ラージマウスが少年の手を引く。
でも少年は動こうとしない。

少年は私を見る。
「ねぇ。僕、間違っているのかな」
首をかしげる。

ドラゴン退治をするために冒険を始めた少年が。
魔物の心配をして、冒険者でいられなくなるかもしれなくて。
私のほうを見ている。

「ふん。子供二人で冒険者か。冒険者の質も落ちた物だ」
商人の男性は私と少年を見ている。
悪意の篭った目で見ている。

私は少年の手を引く。
少年は少しだけ驚いて、俯いた。

「あんた。あんな馬鹿な人間の味方をするのかい?」
ワーウルフが怒っている。
ラージマウスも、ゴブリンたちも、男の子も。
ハーピーは、よくわからない。
私は首をかしげる。

商人の男性が家のドアを閉める。
私は腕まくりをする。
皆が不思議そうに私を見ている。
商人が家の中に入っていく音を聞きながら腕を回す。

商人の家を殴る。
思いっきり殴る。
家の壁が崩れて、屋根が落ちる。

そして私は少年の手を引いて走る。
他の魔物も後からついて走ってくる。
途中で宿に寄ってから荷物をとって村を出る。

少年が笑っている。
面白いので、私はそれをじっと見ていた。

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13/01/14 18:03 るーじ

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