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029.その再会は運命であり、皮肉である |
強さを求めてけんかをしたり、食べたり、色々勉強したり。
そんなある日。 何時もの様に人間がやって来たみたい。 問題は、その人間が魔物と一緒に来たこと。 人間は誰かと番(つがい)になっていなかったこと。 魔物と一緒に行動していたら普通は番(つがい)になってる。 違うってことは、なんだろ。 「気になるなら見に行ってみたらどう?」 ディリアは気になる? 「俺は気になるぜ!」 カナシャは気になる派。 ディリアは? 「私も興味があるわね」 そーなんだ。 「貴女がそんなに反応するって辺り、凄く興味深いわね」 むー? 「ほら、貴女の尻尾」 指さされた先を見る。 尻尾びたんびたんしてた。 あれ、いつの間に? 「思い当たる節があるのでしょう? ほら、行きましょう」 行こう行こう。 ごぉ。 不思議な人間と魔物の組み合わせは、食べ物を運ぶ荷馬車に乗ってきたみたい。 色んな魔物に囲まれてる。 「知り合いだったみたいね?」 ディリアが楽しそうに笑ってる。 首をかしげる。 「また、尻尾」 びたんびたん? 「おーよ。めっちゃ動いてるぞ」 びたんびたん。 知ってる匂いがいっぱいある。 「そう。なら声をかけてきなさい。ほら、急いで」 ごぉ。 や。 「や、じゃない。この連中を何とかしてくれないか」 眼鏡ラージマウスは相変わらず生真面目な顔してる。 「あははー。そっちも変わんないね〜」 ラージマウスも変わんない。 「苦労したよー。ここまで来るのって」 金槌リザードマンは苦労したように見えない。 「誰かさんが大暴れをするお蔭で、人間たちの警戒レベルが上がっていたんでな」 リザードマンはなんだか仏頂面。 「この男の子以外はやりたい放題だったから、いい旅だったよ〜」 ゴーストは本当に自由。 「もう弓矢に追いかけ回される日々は嫌だよぉ」 ハーピーはトラウマを負ったらしい。 「……ふん」 フェアリーはなんか不機嫌。 「……えっと」 少年はちょっとは成長したのかな。 何だかみんなの中心が似合ってる。 「あ、そうだ! いろいろ話を聞かせてよ! そっちも色々あったんでしょ? こっちもあったんだよ!」 ラージマウスが抱き着いて来た。 抱き留めてそのままくるくるー。 「あら、良いわね。私もこの子の話、聞いてみたいわ。色々迷惑かけたでしょう?」 「ハプニングが盛りだくさんで、飽きはしなかったがね」 ディリアと眼鏡ラージマウスは何だか気が合うみたい? 「とりあえず、飯だ飯!」 「いいねぇ。ここの特産品って興味あったんだ〜」 カナシャは明るい金槌リザードマンと肩を組んで歩き出した。 うん。 カナシャも大概ドラゴンのプライドないよね。 みんな相変わらずだった。 金槌リザードマンとラージマウスはずっと食べてる。 カナシャと一緒に。 リザードマンと眼鏡ラージマウスは、ディリアとお話してる。 何の話してるんだろ。 ハーピーとゴースト? なんかお出かけしたみたい。 あの二人は何時だって自由。 「彼女たちは、この国に戻る前の仲間なのですか?」 隊長さんは私の隣。 それにしても。 「えっと。どうかした?」 少年は何だか戸惑ってる。 ドラゴンに囲まれて。 「ただの人間が魔物を連れてくるとは。勇者なのか?」 「だが弱そうだぞ」 ドラゴンは強い相手を叩きのめすのが趣味。 弱そうな少年を相手にすることはない。 「竜王の住まう国に自ら足を運ぶ。並大抵の胆力ではないな」 「効かぬ剣を振り回す愚か者よりは気骨がある」 相手にすることは、ない。 はずだけど? 「お前の巣はどこだ?」 「え、えっと。ここからは遠いけど」 「武力は鍛えているようだな。貧弱だが」 「うう、全然強くならなくて」 ドラゴンたち、興味津々。 「そのようですね」 隊長さんも? 「初めて見るタイプ、とは言い難いですが。ドラゴンに囲まれて萎縮はしているようですが、恐怖は抱いていないようです。稀な存在ですね」 そうなんだ。 ふーん。 「竜王様?」 「む、何者だ。邪魔立て」 どいて。 「竜王様でしたか。どうぞ」 「え、竜王? この子が?」 うなずく。 「え、でも。ちっちゃいし」 「貴様ぁ!? 竜王様に何と言う事を!?」 「ひっ、え、えっと、ごめんなさい!」 「そうだぞ!」 「竜王様は強くてかわいい我らの象徴なのだぞ!」 「強さこそ正義! 可愛いこそ正義なのだ!」 ドラゴンの正義が微妙に変質している気がする。 気のせい、きっと。 「えっと。は、初めまして」 ……。 首をかしげる。 なにか違う。 「え、えっと?」 首をかしげる。 「どうやら彼は記憶喪失らしい」 眼鏡ラージマウス。 どゆこと? 「あの日。少年たちがドラゴンに敗れた翌日。彼は部分的に記憶を失っていた。ある人物の記憶だけが、無いのだ」」 とくてーの。 「そうだ。誰に関しての記憶かは、言わずとも良いだろう?」 なぜか睨まれた。 首をかしげる。 「あんたがやったんじゃないの?」 フェアリーは怒ってる。 なんで? 「だって。あんた、ずっと」 なんで。 少年は忘れてるのかな。 「ずっと……え?」 ドラゴンの巣。 大きく広い屋上は、あちこちにドラゴンの姿がある。 人形態、竜形態。 色んな姿で飛びまわって、たまに喧嘩して。 ここにいるドラゴンはほとんどが子供ドラゴン。 遊んで、火を噴いて、飛んで、暴れて。 誰が一番強いかを決めたり、もっと強く成ろうとしたり。 子供ドラゴンってそういうものみたい。 私はそういうこと、無かったけど。 みんな私より弱かったから。 ドラゴンは遠くへ飛んで、いろいろなものを見下ろすために翼がある。 硬い鱗も硬い爪も、強い力も、全部が全部。 邪魔なものを片付けるためのもの。 噛んでも引っ掻いても駄目な相手は火で焼いちゃう。 大抵のものは焼けばいい。 ドラゴンより強いのは少ない。 だからドラゴンは好き勝手に飛びまわって、我が儘放題する。 でも、人間もそれは同じ。 高い塔を作っていろいろなものを見下ろして。 硬い防具と硬い武器と、強い体と魔術を使って。 邪魔なものを全部片づけちゃう。 戦って勝てないなら、頭を使って片づける。 多くの人間は弱いけど、人間は色々なものに勝ってきた。 ドラゴンにさえ勝ってきた。 だから、人間も好き勝手に我が儘放題している。 どうでもいいけど。 「記憶喪失、ね」 ディリアが隣にいた。 「細かい話はあの子と一緒にいた魔物たちに聞いたわ」 そうなんだ。 「人は頭部に強い衝撃を受けると記憶を失うことがあります」 隊長さんもいた。 「他には、心に強い衝撃を受けることでも、記憶を失うことがあります」 そうなんだ。 「ですが記憶は何かのきっかけで戻る場合もあります。決して諦めないでください」 隊長さん、なんだか暗い。 「貴女はどうするつもりなのかしら」 ディリアがじっと見てくる。 夕焼けの陰になって顔が見えない。 「ここまで動揺したのは、貴女が大けがをした日以来よ」 大けがをした日。 んー。 「例の、勇者が竜王様の巣に現れた日ですか」 「ええ。それから数日は広場に顔出さなくなって、巣に顔を出してみたら。随分とへこんでいたわね」 そうだったかな。 あまり覚えてない。 「今はあの時よりも随分とへこんでるわね」 そうなんだ。 「ま、仕方ないわよね。番にしようと思ってた相手が、自分を忘れてたら」 んー。 ……。 んー? 「ああ。あの少年が竜王様の思い人なのですね」 「他に考えられないわよ。よーく見てみたら、あのハーレム王様と似てる部分がなくもないし」 「はーれむ。あ、あの。もう少し言葉を選んでいただいてもよろしいのでは。意味は、その、通じますが」 「だって見たでしょう。あの魔物たちの半数以上は、あのちびっ子を慕っていたでしょう。ほんと、番っていないのが不思議なくらい」 番う。 つがう。 つーがーうー? 「この子はこの子で、変に意識しすぎているし」 「意識している、でしょうか」 「子作りやら恋愛やら、その類になるといつも以上にポンコツになる」 ぽんこつはひどい。 「だって、昔は違ったでしょう?」 どうだったかな。 「え、昔と言いますと」 「その子が旅を出る前の話。今以上に具体的な話に乗ってきてたわよ?」 どうだったかな。 覚えてない。 「こうやってとぼけているってことは、当たりってこと。あのちびっ子相手を押し倒して、そのまま」 掴んで、えーい。 「ほらね」 「貴女も随分と慣れていらっしゃいますね」 「一応、幼馴染だからよ」 もっかい投げる? 「照れ隠しとして受け取るわよ?」 むー。 むー。 「貴女があのちびっ子をどうとも思ってなかったら」 ディリアは、ちょっと静かになる。 「私はあのちびっ子を、聖域に連れていくわよ?」 だめ。 「あら? 貴女が欲しがらないなら、私の番にしてもいいでしょ」 だめ。 だめ。 だめ。 「どうしてかしら?」 なんでも。 だめ。 だめ。 だめ。 「だったら、もう少し自分に正直になったらどうかしら」 むー。 ディリア、ひどい。 「竜王様は、どうしてあの少年のことを、その」 隊長さんは何だか言いづらそう。 「夫にしないのですか?」 むー。 むむー。 「怖いんでしょ」 ディリア? 「今まで人間を見て来たと言っていたわよね。そして、沢山の人間と仲良くなって」 ディリア。 「たくさん嫌われたって」 ディリア。 「そして悲しかったって」 ディリア。 「あのちびっ子に嫌われたくないんでしょ。ああ、それとも」 でぃーりーあ。 「怖がられたくn」 ディリア! 「……はぁ。出そうと思えば出せるじゃない。大きな声。鼓膜が破れそうになったけれど」 ディリアは耳を抑えて嫌そうな顔をしてる。 でも、ディリアが悪い。 「いつまで経っても逃げ回っている貴女が悪いんでしょう。他の人にとられたくない。でも、自分から手を伸ばさない」 だって。 少年は。 「少年は?」 ドラゴンのことを好きじゃないから。 少年は、人と魔物が仲良くなるようにしたい。 だから皆が怖がっているドラゴンと仲良くなって、大丈夫だって言いたい。 それだけ。 別に少年はドラゴンが好きなわけじゃない。 もしかしたら。 小さい頃に別れた魔物と仲良くしたいのかもしれない。 ラージマウスたちと仲良くしたいのかもしれない。 少年はドラゴンなら何でもいい。 私じゃなくてもいい。 少年が笑い合うその中に、私はいないかもしれない。 やだ。 そんなのやだ。 でも。 少年は子供。 大人だってドラゴンは怖いのに。 子供はもっと怖いはず。 あの時だって、少年は怯えてた。 ドラゴンに怯えてた。 だから、少年の隣にドラゴンがいると、少年は笑えない。 やだ。 少年は笑っててほしい。 でも。 でも。 やだ。 となりにいたい。 少年の隣にいたい。 でも、少年に笑っててほしい。 でも。 でも。 誰かの隣で笑っててほしいけど、誰かの隣で笑っててほしくない。 そんなのやだ。 やだ。 私が、少年の隣にいたい。 一緒にいたい。 「それが本音ね」 うなずく。 ディリアが私に抱き着いてくる。 優しい力で。 「バフォメットが言ってたわ。あのちびっ子の記憶を取り戻すには、きっかけがいる。でもまだ足りないって」 どういうこと? 「一つは、貴女が素直になる事。貴女がずっと尻込みしていては成るものも成らないわ」 わかんない。 「貴女の力で、いつも通りごり押しで記憶を復活させればいいのよ」 わかんない。 どうやったらいいのかな。 「それこそ、貴女が強くなりたいと願うように。記憶が戻ってほしいと願えばいいのよ」 そうなの? 「大丈夫ですよ。貴女が本当に望めば、きっと叶います」 隊長さんのお墨付き? 「いえ。ただ、そう願っているだけです。駄目ならダメで、ほかの方法を探しましょう」 「後ろ向き何だか前向き何だかわからない話ね」 それで。 「なにかしら?」 他のきっかけってなに? 「あら。案外冷静ね」 ほかのきっかけってなに? 「ああ、それはもうすぐ到着するみたいよ」 首をかしげる。 何か聞こえる。 「さぁ、行きましょう。貴女が逃げなければ、私は成功するまで手伝ってあげるわよ」 「私も助力ながらお手伝いいたします」 知っている声が聞こえる。 知っている声が集まってる。 胸騒ぎを引き連れて。 |