戻る / 目次 / 次へ

017.後出しジャンケン

ドラゴンが火を吹くように。
サンダーバードは雷を生み出す。
バチバチ光っていて眩しい上に、速くて、雷まで落とす。
当たるとびりってする。

昔はワイバーンの群れをサンダーバードが落としていたなんて話があるくらい、サンダーバードは強かったみたい。
ワイバーンがどれだけ速く飛んでも、雷より遅い。
だからドラゴンの中には、サンダーバードを嫌っている人もいる。
それ位、雷ハーピーは強い。

「ほーらほらほらほら! ドンドンいくよー!」
イングラムが羽を動かすと、雨の様に雷が降ってくる。
雷一本は槍よりも太くて、矢よりも速い。
当たると岩でも鉄の盾でも簡単に壊れる。

「ほーらほらほらほら!」
サンダーバードは元気な人が多いみたい。
大声で笑いながら飛んで来て、翼を動かして雷を落とす。
跳んで避けても誤差修正して全部当たるから、体中がビリビリする。


何度か雷を受けた後、イングラムが私の傍に降りてきた。
「まいっちゃうねぇ。ドラゴン落としの雷も、あんたにゃ通じないってワケ?」
ちょっと休憩タイムのイングラムは、笑いながら羽を繕ってる。
イングラムの雷を受けた私の服は、すっかりボロボロ真っ黒こげ。

「最初に話を聞いた時は驚いたけどね。ドラゴンが私を呼ぶってさ。私を狩りに来たのかと本気で思ったよ」
イングラムは楽しそうに笑ってる。
イングラムは強い相手でも待っていたのかな。
ふしぎ不思議。

「ああ。私たちとドラゴンは、よく空の取り合いをしていたからね。ああ、ワイバーンもいたっけ?」
「じゃんけんみたいな物よ」
翼の音一つ立てて、隣にディリアが降りてきた。
ディリア、おかえり。

「ええ、ただいま」
じゃんけんって、どゆこと。
「ワイバーンは速さでドラゴンを翻弄する。サンダーバードは雷でワイバーンをからめとる。ドラゴンはブレスで雷を飲み込む」
首をかしげる。

ワイバーンも確か炎を吹く。
「けれどドラゴンに比べれば、あんなものは火種よ。サンダーバードの雷を打ち消せるほどの物じゃないわ」
「それに、ドラゴンなら何度か耐えられるけど。ワイバーンじゃ、ねぇ」
二人はワイバーンの方が弱いって思ってるみたい。

「第一、気に食わないのよね。人間側に付くってところが、特に気に入らないのよ」
「そーなんだよねぇ。ワタシら相手に勝てないからって、人間相手に付くなんてネー」
空の上の争いは地上よりも激しいみたい。
みんな、強さに自信があるから。

「それで。速さに自信があるそっちのドラゴンさんは、どうなのかしらねぇ?」
「ドラゴンも落とす雷というのも、とても凄い事だと思うのだけれど?」
二人とも仲良さそうに話をしている。
おやつ、食べようっと。


「聞く所によると、ワイバーンよりも速いんだっけ? あはは。雷より速いのー、それ」
「雷で落としたドラゴンは多いと聞くけれど。まさか老竜や幼竜相手、なんて言わないですわよね」
教のおやつは手作りプリン。
魔界特製牛乳と魔界特製卵を使った濃厚プリンに、甘いマカイモから搾り出した甘い汁をコトコト炒めて作ったカラメルソースをたっぷりとかけた、手作りプリン。

「アハハハハ。挑発? いいじゃん。熱いねぇ」
「いいえ。単純な疑問を口にしただけですわ。それを挑発と受け取るとは。底が知れますわね」
料理には凄く凝った料理と、シンプルを追及した料理がある。
これは、シンプルを追求して素材の持ち味を生かした、おいしいプリン。

「アハ、アハハハ。いいねぇいいねぇ。アンタも遊び甲斐がありそうだよ」
「ええ。遊んであげるから空を飛びなさい。10秒間、待ってあげるわよ」
サイズは小さいけど、他にも魔力たっぷりのデザートがあるから、問題ない。
まずは一口、いただきます。

「アハ♪ 10秒経ったら降りてくるよ。黒焦げになったアンタを、介抱するためにね!」
「出来るものならやってみなさいな?」
おいしいから、一口で全部食べちゃった。
次は何を食べようかな。


沢山の雷が落ちる。
地面を焼き尽くす炎が燃え広がる。
飛び交う二つの影。
いつの間にか、ディリアとイングラムがケンカをしていた。

イングラムの雷は止まない雨の様に沢山沢山降り注ぐ。
上にも前にも下にも。
1つでも当たったら残り全部に当たる。
というか、全部同時に当たる。

ディリアは沢山ブレスを吹きながらアッチこっち飛んでる。
よくわからないけど、炎を吹くと雷は曲がるみたい。
辺り一面火の海で大変。
アイスとか冷えてる方が美味しいデザートは、もう食べ終わったからいいけど。

二人は遠距離攻撃を続けている。
近付いたらすぐ終わるからかな。
ドラゴンの一撃は重いし。
サンダーバードの接触雷撃は飛ばす以上にビリビリする。


そろそろ焼きたてマカイモパンを食べようかなと思ったら、ディリアが誰かに蹴飛ばされた。
「はんっ。そんな所にドラゴンがいたんだ? わりぃわりぃ、トロいんで、岩かと思ったよ」
ドラゴンハーピーって言うと本気で怒る魔物。
ワイバーンが現れた。

「あら。ハーピーもどきじゃない。こんにちわ」
ディリアが土煙を落として立ち上がる。
「相変わらず非力ねぇ。ドラゴン属を名乗るのがおこがましいほど」
「オイオイ。あれをハーピーと呼ばれちゃあ、ハーピー属もいい迷惑さ。あんな鱗の付いた翼。優雅さの欠片もありゃしない」

イングラムとディリアと、あとワイバーンの、えっと、ヴェニー。
この3人はとても仲がいい。
2人揃うといつもケンカ。
3人揃うと大喧嘩。

「トロトロちょろちょろ、鬱陶しいんだよ! 貧弱な羽で飛ぶハーピーも。ノロマでとろいドラゴンも。全部、邪魔なんだよ!」
「奇遇ね。私も空の王者を詐称する者が多くて、大変遺憾だと思っていたところだわ」
「アハハハハハ。輝きもしない、優雅さも無い、おまけに弾けるような雷も持たない連中が、空の王者だって。相変わらず、おかしなことをいうもんだねぇ、アハハッハハハ」
パンにはたっぷりホルスバターをつけて食べるのが魔界流。


「ソラソラソラソラソラ! ドンドンいくよぉ!」
イングラムが羽ばたけば、空は一気に明るくなる。
雲が無くても雷が落ちる。
最高最速の雷を従えるサンダーバードが、空高く飛んで災害を撒き散らす。

「雲の真似事でドラゴンが落とせるとお思いで?」
ディリアは風をかき集めて、物凄く熱いブレスを吐く。
空一面を赤く染め上げる炎が、強い明かりと熱風を生み出す。
草を焼き大地を焦がし、水を蒸発させて風を飲み込む炎のブレスを吹きながら、ドラゴンが空を我が物顔で滑空する。

「翼の扱いも、火の扱いも、まるでなっちゃあいねぇな。ちったぁ考えて動けよな」
ヴェニーの動きはとても速くて、一瞬だけ見失うほど速く動いたり、沢山のファイヤーボールを放ったりしている。
踊るように体を回転させ、飛び跳ねるように加速し、右へ左へ上へ下へ、自由気ままに飛び回っている。
森のワーウルフの様に駆けて、エルフの弓の様に炎弾を撃ち、ワイバーンが空を狩場に変える。

隊長さんが言っていた。
サンダーバードの雷を避ける事はできない。
ドラゴンのブレスと凶悪な一撃は防げない。
ワイバーンの空中機動からは逃れられない。

バフォメットが言っていた。
この三種はじゃんけんだって。
ワイバーンは雷で落とされて、サンダーバードは雷ごとブレスで焼かれて、ドラゴンは無数のファイヤーボールで撃墜される。
だからこの3種は仲が悪いんだって。

でも、パンを齧りながら私は思う。
ワイバーンは雷に当たらないようにファイヤーボールで爆風を作るし、サンダーバードはブレスに焼かれる前に雷で牽制するし、ドラゴンはファイヤーボールをブレスで誘爆させる。
だからじゃんけんにならない。
実際に、この3人はじゃんけんになっていない。

それよりも。
パンを食べ終わってから、大きく伸びをする。
翼と尻尾を出して、深呼吸。
私も混ぜて欲しい。


イングラムのまねをして、翼に雷をためて、えいやっと飛ばす。
「へ? ちょ、ちょちょちょ!? なんでドラゴンが雷使うんだー!?」
イングラムに当たったけど、あんまり効いてない。
失敗したかな。

「これは、ちょっと不味いわね」
ディリアのまねをして翼に風を乗せて飛んで、近くでブレス。
でも、避けられた。
「当たったら丸焦げってレベルじゃ済まないわよ」

今度はヴェニーのまねをして、右に左にカクカク飛ぶ。
「ちぃ! ドラゴンの癖して、洒落たマネしてんじゃねぇ!」
右の翼の力だけで右に飛んで、左の翼の力だけで左に飛ぶ。
でもヴェニーはもっと綺麗に飛ぶので追いつけない。

「まさか、アタシら全員を相手にするつもりカイ?」
「っざけんじゃねぇ! 叩き潰してやらぁ!」
「程ほどに相手して欲しいわね。黒星は増やしたくないのよ」
よーし、それじゃあ。

ファイヤーボール連打ー。
「うぃいいいい!? 1回で10個近いファイヤーボールの連射ぁ!?」
「無茶苦茶だ! 一人で弾幕張ってやがるぞ!」
「口を動かしてないで迎撃しなさい! すぐに量が増えるわよ!」


結果。
ファイヤーボールが使えるようになった。
後は、ワイバーンの不思議な飛び方とか、サンダーバードの雷とかちゃんと使えるようになりたいなー。
特訓とっくん。

「あ、あんなこと、言ってるワヨ。アンタんところの、大将」
「イカれてやがる。りゅ、竜王を、自称するだけは、あるってこと、かよ」
「一応言っておくけど。竜王は自称じゃなくて他称。あと、あの子はあれで軽く遊んだレベルだから」
「……聞かなかったことにしておくぜ、ドラゴン」

「ところで、二人とも。もう終わったって顔をしているみたいだけど」
「ん?」
「ナニナニ? やーな予感が」
「あの子の遊び相手に選ばれたのだから、これからが本番よ。ほら、見て御覧なさい。あのワクワクした顔」

「ちょ、ちょっと」
「待ちやがれ」
「今日も程ほどに頼むわよ。明日も飛び回るのだから」
とっくんだー。




バフォメットが言っていたけど、魔物の魔力は元々『やりたいことを実現する』モノみたい。
だから魔法なんて無くても、不思議な事を色々できるんだってさ。
今の魔物の、旦那さんを健康に保ったりえっちに便利な色んな効果も、そうなんだって。
そして、私の花事件や雷なんかも、それに当てはまるみたい。

本当はもっと魔力で色々してるみたいだけど、バフォメットはあんまり教えてくれなかった。
魔力で思った通りに出来るなら、何で魔法が在るのか知りたかったのに。
残念ざんねん。
仕方が無いからお菓子を食べる事にする。


たっぷりご飯を食べて体を動かせば、いつの間にか強くなっている。
ドラゴンはそういう魔物だから。
何も考えないで強くなればいい。
でも。


おーさまなんでどーでもいいから。
早く。
……もっと強くならないといけない。
魔王よりも、主神よりも、ずっとずっと強く。

戻る / 目次 / 次へ

13/08/05 23:16 るーじ

top / 感想 / 投票 / RSS / DL

まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33