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018.思い出話と花を咲かせて

今日は色々と実験の日。
魔力がどれだけ自由なのかを調べる実験。
でも魔法も使いたいなぁって言ったら。
後で魔法も実験もするって言ってた。

魔法を使えるようになったらもっと便利になると思うけど。
ドラゴンは魔法は得意じゃないから、難しいって言われた。
でも魔女になったら上手くいくかもって言われたんだけど。
ドラゴンがどうやって魔女になるんだろう。


「まずは魔灯花じゃ。やってみぃ」
魔力を貯めてー、えいっ。
地面に手を置いて魔力を込めると、あたり一面お花畑。
「目の当たりにするのは初めてじゃが、壮観じゃのぉ」

バフォメットや魔女たちがしゃがんで花を見ている。
「ドラゴンが咲かせた花じゃからかのぉ。緑がかっておるわ」
「私たちが咲かせれば、もっと別の花になるんでしょうか」
「やってみればわかるじゃろうが。魔王様の魔力に打ち勝つほど、自分の色が強くなければ上手くはいかんのじゃろうのぉ」

隊長さんも咲かせてみる?
「ご教授いただけるのでしたら試しますが。私は元来、剣しか知らぬ無作法者ですので、恐らくは咲かないでしょう」
隊長さんは魔力が高いみたいだから多分大丈夫。
「では、お教えいただけますか?」

魔力を貯めて。
「魔力を貯めて」
えいっ。
「えい! ……」

隊長さんのお花が咲かない。
隊長さんはお花のイメージが無いのかな。
「花、ですか」
そう、花。

ちっちゃな花が沢山咲くようにって、イメージする。
あとは魔物の魔力に全部お任せ。
「なんと言う力技。ですが、貴方だけの特権ではないですか?」
首をかしげる。

隊長さんが魔力で攻撃するのも、その一つだと思うけど。
「あれは技です。魔力の扱い方次第では、貴方も出来るようになります」
じゃあ特訓するから、一緒に頑張ろう。
「はい。わかりました」


魔力を貯めて。
「魔力を貯めて」
えいっ。
「えい……」

魔力が出ない。
「花が咲きません」
「なにをやっとるのか、二人とも」
バフォメットがやってきた。

「ナニナニ。魔力放出と魔灯花開花の練習じゃと?」
全然でない。
「そりゃお前さんは上手くいくはずも無いじゃろう」
首をかしげる。

「ただでさえ全力を出した事が無いというのに。全力で攻撃しようとすれば、被害の方が先に頭に浮かぶじゃろう?」
うなずく。
「隊長も隊長じゃ。自分には剣しか無いと思い込んでいるがゆえに、剣以外のことは出来ないと頭から否定しておる。それでは出来る物も出来んわ」
「そういうものでしょうか」

「ワシがやってみせるぞ」
バフォメットが空中から大きな鎌を取り出して、振る。
青白い何かが出てきた。
切れ味が良さそう。

「次は、こうじゃな」
バフォメットが大鎌の石突で地面を叩く。
叩いた場所をちゅうしんに、ぽつぽつと小さな花が咲き始めた。
私と隊長さんはじーっと見てるだけ。

「ほれ。この通りじゃ」
すごいすごい。
「卓越した魔力の冴え、見事です」
「そうじゃろう、そうじゃろう」

その後、バフォメットから色々話を聞きながら試したけど。
難しくってよくわかんなかった。
魔女たちはお花を咲かせるために頑張ってたけど、出来ない子もいたみたい。
他の魔物は試そうともしていないけど。


「難しいですね。普段使わない魔力の扱い方を習得するというのも」
だから勉強して特訓する。
「強くなるために、力の使い方を学ぶ。それは良い事だと思うのですが。少々意外でしたのが、戦闘に関係の無い魔力の扱いが得意だったと言う事ですね」
首をかしげる。

「花のこともそうですが。魔法薬の精製もするとは驚きました」
出来る事を色々増やしたら便利。
力技でどうにもならない時は薬を使ったらいい。
「普段からは想像も付かない思慮深さですね」

隊長さんも色々使えるようになりたいのかな。
「私は、剣に生きる者です。死してなお、魔物となってなお、それは変わりません」
旦那さんは?
「います。私がこの城にお仕えする日より、共に移ってまいりました」

一緒にいる所を見たことが無いけど、仲はいい?
「ええ。惚気になってしまいますがゆえ、話題に上げる事を出来るだけ控えていますが」
そうなんだ。
「はい」

どうやって一緒になったの?
「私がお仕えしていましたサキュバスの方と共に人間の城を襲撃した時、見つけました。彼は城の使用人で、魔物の襲撃に怯えていました」
でも、一緒になったんだ?
「はい。当時は剣だけに生きるために、私生活の雑用を押し付けるつもりでいました」

「劇的な変化はありませんでした。彼は献身的に私の世話をしてくれました。私は仕事の成果に対し労う事はありましたが、特別な感情は愚か、友好的な態度を持つつもりもありませんでした」
隊長さんは椅子に腰掛けると、少しだけ表情が優しくなった。
本人は気づいていないみたいだけど。
「彼の方から特別な何かをした、と言う事もありませんでした。いつのまにか、彼がいることが当たり前になっていて。結局、自分の気持ちにも彼の気持ちにも、中々気づかなかったのですよ」

「今日の褒美は美味い飯にしよう。しかし、魔物向けの料理では発情して困るため、自分で作らないといけない。だが、料理なんて物は作ったことが無い。どうやって彼の料理を用意しようと悩んだ事もありました。彼は普段から魔物向けの料理を食べていたというのに、ですよ」
そうは言っても、インキュバスにならない程度に抑えられた料理ですけれど、と隊長さんが笑う。
「他にも、服をプレゼントしようとして一人で人間の町に侵入してしまったり。普段洗ってもらったお返しに彼の服を洗おうとして、下着を掴んで赤面してしまったり。思い出すだけで顔が焼ける思いのすることばかりしていました」
隊長さん、意外と饒舌。

ひとしきり、出会いから意識し始めた頃のこと、そして初めてえっちをした時の事やその後のことまで、全部きっちり話し終わってから、隊長さんが口に手を当てる。
「……申し訳ありません。あ、その。話が、話を、しすぎました」
隊長さん、顔が凄い真っ赤。
「……言わないで下さい。後悔と羞恥で逃げ出したい所を、必死で堪えているのですから」


隊長さんが昔の話をしてくれたから、私も話す。
「話していただけること、なのですか?」
話せること、なの。
あれは、えっと、公園デビューのころ。


私が母様に連れられて、ドラゴンたちが集まる山の広場に来た時の事。
他の子供ドラゴンが声を掛けてきたんだけど。
弱かった。
最初に声を掛けてきた子供ドラゴンを叩いて、後からやってきた子供ドラゴンたちを叩いたり投げたりした。

その日は、衝撃的な公園デビューを飾って、母様も笑ってた。
母様の背中の上で、母様が他の大人ドラゴンと話していた事を教えてくれた。
最初の公園デビューで他の子供ドラゴンに負けないドラゴンは、強いドラゴンになるって。
母様は自慢そうに話してくれたけど、なんだかちょっと寂しそうに聞こえた。

巣に帰ると、父様に抱きついて、その日の事を話した。
父様は良く笑う人で、私の髪がくしゃくしゃになるまで撫でるのが好きだった。
頭を撫でられると嬉しいから、私はいつも尻尾を揺らしてた。
今でも、嬉しくかったら尻尾が動くけど。

翌日も、公園デビューに行った。
その時も子供ドラゴンがやってきた。
小さいけど速いドラゴンはディリア。
子供だけど大人みたいに大きなドラゴンはカナシャ。

二人は他の子供ドラゴンと違う所があった。
1つは体の大きさとか、速さ自慢に力自慢。
もう一つは、何度も何度も私にかかって来たこと。
他の子供ドラゴンは遠くで見てるだけだった。

一番年上の子供ドラゴンも、あの時以来、来なくなった。
私たち3人は沢山遊んで、いっぱいご飯を食べて過ごした。
でも、私はずっと物足りなかった。
全力で遊んでなかったから。

ずっとずっと小さい頃。
公園デビューに行く前の頃。
私は全力で暴れた事があった。
それは父様も母様もびっくりするくらいで、そして、仲間には全力を出しちゃ駄目って教えてくれた。


公園デビューからたくさん後の頃、私たちの巣にまた人がやってきた。
私は教わったとおり、ちゃんと手加減をして人間を撃退した。
ディリアやカナシャに比べたら、全然弱い。
あの時やってきた人間一人よりも、ずっとずっと弱かった。

「あの時? それに人間一人と言う事は、その人物は勇者だったと言う事ですか?」
首をかしげる。
わかんない。
「わからない、ですか?」

よく覚えていないから。
沢山たくさん暴れて、巣もボロボロになって。
父様と母様が帰ってきて。
たくさん寝た、それだけ。

「その時から規格外だった、と言う事ですか」
隊長さんが何だか変な笑い方をしてる。
「いえ。馬鹿にしていると言う事では決してありません。ただ、特別な方というのは、やはり生まれた時から特別なのですね。そう思うと、なぜかおかしくなってしまいまして」
首をかしげる。

「話の腰を折ってしまい、申し訳ありません」
問題ない。
それに話すとしても、後少しくらいだけ。
人間のことが分からないから、人間の事を知ろうと旅に出た時の事。


ドラゴンは一人前になると、旅に出て自分の巣を構える。
だから私は旅に出るために一人前だと示さないといけなかった。
大人のドラゴンとケンカして勝つ。
それが条件。

私の相手は、カナシャよりも母様よりも大きなドラゴン。
母様は驚いていたし、他の皆も驚いていた。
そして、ケンカが終わった時、皆はもっと驚いていた。
私はちょっと物足りなかったけど、母様と一緒に巣に戻ってから、旅に出た。

父様と母様は心配してくれていた。
でも、私は大丈夫だって言った。
大人のドラゴンより強い人間なんてあんまりいない。
だから大丈夫だって言った。

でも、父様が言った。
「人間は、強くなくても、怖い生き物だ。忘れるな。人間は怖い生き物だ」
首をかしげる。
父様は怖くないのに、人間は怖い?

「お前は、人間が怖いと思ったことは無いのか?」
首をかしげる。
だって、人間は弱い。
叩いたら死んじゃうくらい弱い。

父様が私の頭をくしゃくしゃに撫でる。
「いつか分かる日が来る。わかって欲しくない、と思うのは俺が親になったからか。あるいは、弱くなったからか」
「守る物が出来たから、で良いではないか。でなければ、私が抱えている不安も、弱さが原因となってしまうだろう」
父様と母様が笑う。

大丈夫。
父様も母様も守るから。
みんなを守るから。
そう言ったら、父様と母様は少し悲しそうに笑ってた。




隊長さんは、私の話を聞いた後、礼を言っただけだった。
話を聞かせてくださってありがとうございましたって。
そう言って頭を撫でてくれた。
何で撫でるのか聞いたけど、教えてくれなかった。

今の私は、人間が怖いって言っていた父様の言葉が分かる。
でも、あの時、どうして父様と母様が悲しそうだったのかは、まだ分からない。
隊長さんに聞いても、教えてくれなかった。
隊長さんは知っているような気がしたけど、教えてくれなかった。

だから、私は隊長さんに言った。
私が皆を守るから、悲しくなることなんて無いって。
怖いものも全部ほうり投げるから、問題ないって。
私の強さはそのためにあるんだって。

でも、やっぱり隊長さんは笑って頭を撫でるだけ。
頭を撫でられて嬉しいのに、なんだかもやもやする。
尻尾で床を叩いても、もやもやが晴れない。
不思議。


どうして隊長さんも、そんな顔をして笑うのか。
ぜんぜん、わかんない。

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13/08/07 19:34 るーじ

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