戻る / 目次 / 次へ |
011.「僕が旅をする理由」 |
僕の名前はロイス。
お父さんの名前はリーベンスで、お母さんの名前はロマリィ。 物心付いた時からお父さんとお母さんに混じって宿屋の手伝いをしていた、宿屋の一人息子。 小さい頃の夢は勇者だった。 少し背が伸びてからは村の兵士で、その後は騎士。 けど、それからもう少し後になると、僕の夢は大きく変わっていた。 その夢は誰にも口に出来ないまま僕は大人になって、誰かと結婚して、それでお終いになるんだと思っていた。 僕は夢を見た。 小さい頃に遊んだあの子のこと。 僕は目を覚まして、思い出す。 ある時から突然待ち合わせの場所に来なくなった子のこと。 宿屋の手伝いをしていても、どうしてもその事が頭から離れなくて、教会に行ったんだ。 教会には懺悔室があるんだ。 懺悔室って言うのは、自分の悪い事を告白して、その悪い事をしてごめんなさいってする場所なんだけど。 僕がソレを使うなんて今まで思いもしなかった。 教会の端にある部屋に入ると、誰かがそこにいた。 そして僕は、懺悔をした。 「僕は魔物と遊んだ事があります」 懺悔室の向こう側の人は、何も言わない。 だから僕は続ける。 「でも懺悔したいのはそこじゃなくて。一緒に遊んで楽しかった事じゃなくて」 大きく息を吸ってから続ける。 「僕は、友達が困っている事に気づかなかったんです。ある日突然いなくなるまで、全く気づかなかったんです」 そして僕は、懺悔室の向こう側に告白する。 「僕は友達を助けられませんでした。そして、友達がいなくなったことに。魔物がいなくなって、ほっとしてしまったんです。僕は、魔物と一緒に遊ぶことは悪いことだって知っていました。だから、一緒に遊んで楽しかったけど、いつ誰かに怒られたりしないか、怖かったんです」 その後も、僕は今まで誰にも打ち明けられなかった事を話した。 全部話し終わっても、当たり前のことだけど、中の人は何も答えてくれなかった。 懺悔室なんだからそれで当たり前。 でも、きっと懺悔室でなくても何も言ってくれなかったんじゃないかなって思うんだ。 神様は魔物は悪い生き物だって言っていた。 だから、そんな生き物と友達だってことも、助けようとしたことも、駄目なんだって知っている。 悪いことなんだって知っている。 でも、僕は思った。 友達を助ける事は悪いことなの? あんなに楽しそうに笑っている魔物は、本当に悪い生き物なの? 懺悔室で全部口に出して、最後に残った思いは。 やっぱり、友達が困っていたら助けたいってことだったんだ。 この日から、僕の中で『魔物』は変わった。 魔物はいろんな悪いことをする。 悪戯をしたり、人を連れ去ったりする。 けど、友達になれるんだって。 そう思うようになったんだ。 それから僕は、旅をした。 魔物に悪戯されて、えっと、凄く恥ずかしい目に合ったりしたけど。 魔物の友達も沢山出来たんだ。 リザードマンやラージマウスにも人それぞれ違うんだと分かったら、もっと知りたくなった。 僕は、魔物の中で一番強くて怖いドラゴンに合う事に決めた。 ドラゴンと友達になれたら、きっとどんな魔物とも友達になれるんだって。 そう皆にわかってもらえると思ったから。 そう、思っていたんだ。 「目が覚めたか、少年」 声が聞こえた。 目を開けるとそこには、友達がいた。 「びっくりしたよ。まさか、そんな事が起きているなんてねぇ」 「全くだ。あの娘、強情にも程がある」 「あはは。でもさ、あの子も何かややこしいことになっているみたいだけど、私たちも大概ややこしいよね」 最初に目に入ったのは、大きな丸渕眼鏡を掛けた女の子。 僕と同じ位の都市に見えるのに、まるで学者さんの様な目をしている。 体を起こすと、腰のベルトに金槌を指している女の人が立って笑っている。 その隣には金槌の人よりちょっと背が低いけど、ピンと背筋を伸ばし腰に剣を差している女の人。 机の上に、あんまりお行儀良くないけど、腰掛けて足をぶらぶら動かしている女の子もいる。 「あの馬鹿二人に関してだが。一応、近くにはいる。人化けが下手で、危なっかしいからここにはいない」 僕は彼女たちを良く知っている。 彼女たちはこの旅の中で知り合った、大切な友達。 でも、皆には共通の秘密があるんだ。 僕の友達は。 彼女たちは。 魔物なんだ。 |
13/07/19 20:40 るーじ
|