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006.ジパングとおにぎりと龍 |
青い空、白い雲。
川が畑に流れ込んで水浸しになっている。 何でかな? 「ふぅ、ふぅ……さぁ、どうして、でしょうね」 ディリアはちょっと疲れているみたい。 「日が昇らないうちに叩き起こされて、その上延々と全力で飛び続ければ、誰だってこうなるでしょうね」 私はならなかった。 えっへん。 「私は初めて来たけれど。不思議なところね。寝巻きを着て歩いている人ばかりいるのね」 ふしぎ不思議。 ジパングは人も魔物も不思議。 「ところで、どうしてまたジパングに来ましたの?」 ジパングには色んな食べ物がある。 この白い『おにぎり』は、水浸しの畑から取れたおこめを使って作るみたい。 「ほれ。たんとおたべ」 「朝食を抜いてしまったので、とても嬉しいですわ。空いたお腹には、この『おにぎり』がとても染み渡りますわぁ」 ジパングの人はおおらか。 お腹が空いているって言ったらご飯をくれた。 あんまり食べると皆が食べる分がなくなりそうだから、ちょっとだけ。 「あまり食べ過ぎないようにしなさいよ。全く」 「ご馳走様でしたわ」 ごちそーさま。 「お粗末様。ほんと、よく食べたねぇ。よっぽどお腹が空いていたみたいだね」 私とディリアは見た目は子供だから、見た目よりは一杯食べたかな? ジパングは色んな魔物がいる。 例えば、さっきからずっと見ている変なハーピー。 「何故来ないのかしら」 恥ずかしがり屋さんかな。 「もしかすると、道案内をしてくれるのかしら」 手を振ってみよう。 あ、飛んできた。 「速いハーピーね」 「貴方達。西の方から来た妖怪ね」 ようかい? 「ああ。貴方達は、魔物って言うんだったかしら」 ようかいとまものが一緒? 「この地域特有の呼び方よ。ところで、何の用事?」 「私も知りたい所よ」 えっと。 強い人を探しに来た。 「探してどうするつもりだ?」 えっと、戦う。 「戦ってどうするつもりだ」 んー、また戦う。 変な格好のハーピーがディリアを見る。 ディリアは手と翼を広げる。 「この子は強くなりたいのよ。で、城の中で相手になる魔物がいなくなったから、ジパングに来た。そうでしょ?」 うなずく。 「強き者、か」 ジパングにもドラゴンがいるって聞いた。 「ああ。龍の方々の事か。あの方たちは争いごとを好まないため、無理だと思うぞ」 残念。 「他に強い妖怪? ふむ。強い魔力を持つと言う事であれば、6本以上の尾を持つ稲荷の方々だろう。9本ともなれば、神と呼べるほどの高い力を持つ」 強いのかな。 「稲荷の方々も争いごとは好まぬがゆえ、な」 むー。 「鬼などは気性が荒いため、比較的自ら進んで争いごとを巻き起こすのだが。ジパングの妖怪は根本的に西と比べて温和といわれている」 「けれど、温和な者でも、訓練ぐらいはするでしょう? それに魔物は、生まれた時から戦う術を備えているわよね」 歩き方を知っているようにえっちの方法を知っていて、飛び方を知っているように戦う方法を知っている。 それが魔物。 「近くに龍の神社がある。案内するが、くれぐれも無礼の無いように」 難しい。 「そうね。風習の違いもあるから、何が無礼に当たるかわからないの」 「争いごとを起こそうとしなければよい」 とうちゃーく。 「着いたわね」 「……西の龍の方々は、こうも速く飛ぶものなのか」 「私たちが特別なのよ」 「おや。入間山の切風様、どの様なご用件でしょうか」 白いラミアが出てきた。 「体が白いのに服も白いのね」 「ええ。巫女ですから」 みこ。 「ああ。確かジパングのシスターね」 「はい。よくご存知で」 ディリア、物知り。 「彼女は白蛇という種族で、龍に仕える巫女をしていらっしゃるのだ」 「露と申します」 「私はドラゴンのディリアよ」 よろしくー。 「……ええと」 ジパングハーピーとつゆが私を見ている。 首をかしげる。 「貴方も自己紹介をしなさい」 ドラゴン。 「名前は?」 秘密にしないといけないから、秘密。 ディリアが私の頭を小突いた。 「馬鹿。それは真名の事でしょう。普段使う名前を言えばいいのよ」 普段の名前。 んー。 「これで貴方の名前を口にする人がいない理由はわかったけれど。……ちょっと、まさか忘れた、なんて言うつもりじゃないでしょうね?」 何だったっけ? ディリアがまた私の頭を小突いた。 「叩けば思い出すかしら」 多分出てこない。 「はぁ。この子は粉塵煙る山の岩、リィーバよ」 よろしく。 「ええ、こちらこそ」 私の名前、リィーバだったんだ。 「私は小笹と申します。遠方より、はるばるお越し頂き、嬉しく思います」 龍の人はラミアみたいに見える。 でも、全然違う。 ゆっくり座っているだけなのに、強そうに見える。 小笹が私をじっと見る。 「私と組み手、でしょうか。互いの実力を確かめ合いたいと仰られましたが。なにゆえ、強さを求めるのですか?」 みんな同じ様な事を聞いてくる。 何でだろう。 「リィーバさん。貴女はとても強い力を秘めています。恐らくは、私よりも強く大きな力を」 つゆと黒いジパングハーピー……からすてんぐが驚いてる。 「まさか。この幼い少女の秘めたる力が、それほどまでに!?」 どれほどまでに? 「結論を述べますが。私の気持ちに関係なく、お断りするしかないでしょう」 どうして? 「貴女が満足するほどの戦いとなれば、とても激しい物となるでしょう。その結果、どうなってしまうか。貴女ならわかるでしょう」 まわりが、すっごく大変な事になる。 「ですから、ジパング中を探しても、組み手の相手はいないでしょう。強さを追い求めるならば、他の方法を考えると良いですよ」 むー、難しい。 「いいじゃない。今までどおり勉強をしながら、もっといい方法を探せばいいのだから」 難しい難しい難しいー。 巣に帰ったらデュラハン隊長にすっごく怒られた。 ジパング土産を渡してもすっごく怒られた。 山羊先生にも一緒になって怒られた。 他にも沢山の人に怒られた。 私はこの巣の王様で、勝手に出て行っちゃ駄目なんだって。 日帰りでも駄目なんだって。 じゃあ、私はずっとここにいるの? 翼があるのに、飛んじゃ駄目なの? 「勝手に出て行かれては困ると言う事です。置き手紙一枚を置いてジパングに行かれてしまっては、私たちもどう対処していいのか分かりません」 「そうじゃぞ。第一、転送陣を使えばもっと速く往復できたものを」 「そういう問題ではありません」 ディラハン隊長が凄く怒ってる。 「我々は貴女に従い、支える者です。上に立つ者としては、自分を支える者たちに対しての礼儀を持たなければならないのです」 王様になりたくてなったわけじゃないのに。 「……それでも、です。この城のドラゴンが貴女を王として扱う以上、貴女はドラゴンの王なのです」 ディラハン隊長はいつの間にか、怒るのをやめてた。 ドラゴンの王様。 私が一番強いドラゴンだから、ドラゴンの王様。 あの時からずっと私はこの大きくて狭い巣の中。 籠の中の鳥みたい。 人になっても皆より強いなら。 もっともっと弱くならないと特訓も出来ない。 明日になったら、山羊先生に相談しよう。 今日はちょっとたくさん飛んだから少しだけ眠い。 もっともっと強くなるために。 弱くなる方法を考えよう。 強さを手に入れるために。 弱さを手に入れよう。 |
13/07/14 21:17 るーじ
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