嵐の前に
「第一航空戦隊は明日1100より東へ転進し、苦戦中の第三航空戦隊の援護に向かう。単艦航行は危険なので第四駆逐艦隊を付随させるが、基本的には君たちに頼る形になってしまうだろう。明日からのフライトスケジュールは厳しいものになってしまうので、相応の覚悟はしてもらいたい。以上、解散!」
安いパイプ椅子をガタガタと鳴らしてブリーフィングルームの面々が各々の部屋に帰ってゆく。
俺も流れに従って立ち上がり、部屋をあとにした。
複雑な経路を辿り、甲板へのラッタルを上がりきると、むわっとした熱気が頬をなでた。
デッキクルーがせわしなく駆け回っていく中を一人、後甲板へと歩いてゆく。
カタパルトの蒸気で靄る後甲板の駐機場にたどり着くと、そこには慣れ親しんだ愛機が鎮座していた。
「相変わらず戦闘機が恋人、って顔してますね。」
「悪いか。PXの彼女のライバルは少ないほうがいいんだろう?ありがたく思え。」
あんたも人が悪い、と減らず口を叩きながら艦内へと消えていく背中を見送ってから、
俺は愛機を見上げた。
アラート待機が終わったらC整備が待っていたはずの愛機、ディースオール・ラーフェイルは、教団の十字架を背負ったロービジの機体に光を鈍く照り返した。
<<各当乗員は報告書提出後ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す・・・>>
コクピットから直接甲板に飛び降りると、ガンと鉄板を叩く音が足元から響いた。
またちょっと筋肉が付いてしまったのかもしれない。少し恨めしく足元を眺めていると、
甲冑にブルー・ジャケットという奇妙な格好をした影が声をかけてきた。
「お疲れ、ラズィー。」
「ありがとディーナ。王子様は見つかった?」
「まだだねぇ。向こうの船、複座が少ないからおこぼれもなかなかね。」
「まぁ、仕方ないよ。不景気だからね。」
ヘルメットを外しながら声の主を見上げる。
そこには長年同じ艦で過ごしているデュラハンが立っていた。
「いやー、色っぺーね。ウチの“紅玉の鶴姫”は。」
「からかわないの。私そのあだ名好きじゃないんだから。」
「エース様が何言ってんのよ。折角貰った渾名、格好いいじゃない。」
「私は可愛い方が好きなの!」
「はいはい。膨れない膨れない。」
そう言って頭を撫でさすってくる。
背が高けりゃ良いってもんじゃないというのが私の持論だが、正直虚しさいっぱいだ。
「あなたがそんなこと言うからじゃない。」
「そういや最近はあんた、補給課の方から“花婿製造機”なんて渾名も・・・おい、泣くなって」
「ううぅぅぅぅ・・・なによ、年増先任のくせに。」
ここまで快調だったディーナがフリーズする。
それ見たかと反撃に移る。
「なっ・・・・・・!? それはタブーだぞ!」
「タブーだからなんだってのよ。それに・・・
<<まだかラズィー!!ブリーフィングルームに集合の命令が聞こえなかったか!!>>
まくし立ててやろうかと思ったとき、不意に艦橋のスピーカーが航空参謀のアヌビス、
タチアナ中佐の怒鳴り声を撒き散らした。
「あら、お呼びね。それじゃ、私行かなきゃ。また後でね。」
「くぁwせdrftgyふじこlp・・・!!」
何かを喚きながら地団駄を踏んでいるディーナを尻目に、私は逃げるように艦橋のハッチをくぐる。
タチアナ中佐の説教は長い。やっちゃった、と若干の絶望感を抱きながら、私は艦内通路を歩いた。
時刻は1100。真っ青な空は、この海域に夏の訪れを伝えるようであった。
安いパイプ椅子をガタガタと鳴らしてブリーフィングルームの面々が各々の部屋に帰ってゆく。
俺も流れに従って立ち上がり、部屋をあとにした。
複雑な経路を辿り、甲板へのラッタルを上がりきると、むわっとした熱気が頬をなでた。
デッキクルーがせわしなく駆け回っていく中を一人、後甲板へと歩いてゆく。
カタパルトの蒸気で靄る後甲板の駐機場にたどり着くと、そこには慣れ親しんだ愛機が鎮座していた。
「相変わらず戦闘機が恋人、って顔してますね。」
「悪いか。PXの彼女のライバルは少ないほうがいいんだろう?ありがたく思え。」
あんたも人が悪い、と減らず口を叩きながら艦内へと消えていく背中を見送ってから、
俺は愛機を見上げた。
アラート待機が終わったらC整備が待っていたはずの愛機、ディースオール・ラーフェイルは、教団の十字架を背負ったロービジの機体に光を鈍く照り返した。
<<各当乗員は報告書提出後ブリーフィングルームに集合せよ。繰り返す・・・>>
コクピットから直接甲板に飛び降りると、ガンと鉄板を叩く音が足元から響いた。
またちょっと筋肉が付いてしまったのかもしれない。少し恨めしく足元を眺めていると、
甲冑にブルー・ジャケットという奇妙な格好をした影が声をかけてきた。
「お疲れ、ラズィー。」
「ありがとディーナ。王子様は見つかった?」
「まだだねぇ。向こうの船、複座が少ないからおこぼれもなかなかね。」
「まぁ、仕方ないよ。不景気だからね。」
ヘルメットを外しながら声の主を見上げる。
そこには長年同じ艦で過ごしているデュラハンが立っていた。
「いやー、色っぺーね。ウチの“紅玉の鶴姫”は。」
「からかわないの。私そのあだ名好きじゃないんだから。」
「エース様が何言ってんのよ。折角貰った渾名、格好いいじゃない。」
「私は可愛い方が好きなの!」
「はいはい。膨れない膨れない。」
そう言って頭を撫でさすってくる。
背が高けりゃ良いってもんじゃないというのが私の持論だが、正直虚しさいっぱいだ。
「あなたがそんなこと言うからじゃない。」
「そういや最近はあんた、補給課の方から“花婿製造機”なんて渾名も・・・おい、泣くなって」
「ううぅぅぅぅ・・・なによ、年増先任のくせに。」
ここまで快調だったディーナがフリーズする。
それ見たかと反撃に移る。
「なっ・・・・・・!? それはタブーだぞ!」
「タブーだからなんだってのよ。それに・・・
<<まだかラズィー!!ブリーフィングルームに集合の命令が聞こえなかったか!!>>
まくし立ててやろうかと思ったとき、不意に艦橋のスピーカーが航空参謀のアヌビス、
タチアナ中佐の怒鳴り声を撒き散らした。
「あら、お呼びね。それじゃ、私行かなきゃ。また後でね。」
「くぁwせdrftgyふじこlp・・・!!」
何かを喚きながら地団駄を踏んでいるディーナを尻目に、私は逃げるように艦橋のハッチをくぐる。
タチアナ中佐の説教は長い。やっちゃった、と若干の絶望感を抱きながら、私は艦内通路を歩いた。
時刻は1100。真っ青な空は、この海域に夏の訪れを伝えるようであった。
12/09/15 07:59更新 / それとメルカバー
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