連載小説
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出撃
「急げ、平時の哨戒とは違うんだぞ!!」
「隊長速いちょっと待って!」
「泣き言言ってる場合か馬鹿!!」
硬質ゴムの靴底がカンカンと音を立て、俺の焦燥感を加速させる。
ブリーフィングルームから甲板へ上がる通路を一気に駆け抜け、ラッタルを駆け上がる。
「フレイム1、いつでも上げられます!」
「OK、助かる!」
元々出撃準備にかかっていた愛機は定位置からトーイングカーによって一気にカタパルト上まで引き出されつつある。
動いている愛機のタラップに飛び乗って、コクピットに体を滑り込ませる。
キャノピーがゆっくりと閉まり、プシュという音と共にロックされたことを確認すると、
エンジンスタータを投入する。使い込まれた愛機の心臓が目覚め、計器という計器が立ち上がり、モニターもそれに合わせ各種点灯した。
赤いジャージのクルーが機体下部に滑り込み、短距離AAM、メイギックUの安全ピンを引き抜き使用可能にしてゆく。コクピットのモニターにもエントリが表示された。
スタンバイ・チェック・グリーン。
ついでにフライトスティックもぐりぐりと回し、ミラーに目をやりながら動翼のチェックも完了させる。
太ももに貼られた緊急時用チェックリストをすべてこなしたとき、目の前には青い海が広がっていた。
今回はトーイングカーがカタパルトまでの牽引をしてくれていたので、既にカタパルトのロックは完了していた。
<<フレイム1、ボーディ。ウィンド・イズ・カーム>>
<ウィンド・イズ・カーム。OK>
グリーンジャケットがブラスト姿勢を整え、右腕を振り下ろす。
アフターバーナーONを確認し右を見遣りつつサムアップ。
<ボーディ、フレイム1、クリアテイクオフ!>
<<フレイム1、ゴー・ロンチ!!グッドラック!>>
グワっと猛烈な加速Gが襲い、シートに体が押さえつけられる。
バッと飛行甲板を飛び出し、重力に引かれた機体は下へと沈み込むがしかし、
小柄ながらパワフルなその翼は一気に蒼空へと舞い上がった。
<ギア・アップ。オールグリーン。2〜6番機は追従せよ>
<<ラジャー、フレイム1>>
着陸脚の格納を確認し、グリーンランプの表示を確かめると、
機体を左に旋回させる。
眼下に母艦を見下ろす位置まで到達すると、2番機、3番機がカタパルトで打ち出されてくるのが確認できた。
もう一度180°旋回してくるころには全僚機が発艦完了し、3分後には全機の集結が完了した。
<ゴーダウン・トゥ・ゼロ・エイト・ナイン。フレイム隊はAEWの敵機ロスト地点付近の哨戒を行う。いいか?>>
<<オーケー、サー>>
<いくぞ!>
機首を一気に東へ向け、スロットルをミリタリー・MAXまで引き上げる。
敵位置まではそう遠くない。
今日は帰って来れるか。今はまだ、誰にも分からない。


「回してー!!」
偵察に飛んだ1機が相手のAEWと接触した。
予想よりちょっと早めの出撃ではあるが概ね予想通りなので準備は万端だ。
ラックにかけてある自分の名前の書いたヘルメットを荒っぽく掴み、頭にねじ込む。
こういう仕草がモテない原因の一つであるとはよく言われるが、
こればっかりは仕方ないと既に諦めている。
跳ね上げ式のキャノピーにタラップは付いてないが自分たちにはあまり関係ない。
フライトスーツから飛び出した羽でふわりとコクピットに飛び乗ると、
キャノピーを閉じ、海に突き出した坂道を睨んだ。
面倒くさがりだが技術は高度な魔物製の機体は余程のことがなければ整備すら必要のないタフさを備えているので、チェックシートを粗方すっ飛ばし、スロットルを奥まで押し付ける。
<ルイーダ、パープル13、クリアテイクオフ>
<<ルイーダ、ラジャー。パープル・スコードロン、テイクオフ>>
ドッとエンジンから吹き出した熱風がブラストリフレクターにぶち当たる。
グンとノーズが持ち上がり、グイグイと機速が伸びてゆく。
フルパワーで艦首の坂を駆け上がった愛機は、そのまま坂が続いているかのような角度で飛び上がった。
<<パープル4、7、11、12上がります>>
<先に行くわ、ついてきて>
<<ラジャー>>
全開で加速してゆく愛機の中で私はぼんやりと渦巻く予感のようなものを感じていた。
今回の作戦はきっと上手くいく。そしてついに私にも・・・
<・・・・・・あぁん>
<<どうしました、隊長?>>
<!・・・なんでもないわ>
<<はあ。>>
4機はまっすぐ西へと向かってゆく。
まずは前哨戦。予感と火照る体に、私の気持ちははやるのだった。
12/09/15 07:40更新 / それとメルカバー
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■作者メッセージ
書き溜め分は取り敢えず以上です。

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