連載小説
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会戦
雲の中を即時編成の6機編隊で飛行していく。
暫く飛び続けると雲を抜け、海と空だけの真っ青な風景となった。
AEWのコンタクト位置はこの辺だったなと思い出し、無線を開く。
<もうすぐ敵が潜んでいると思われる地点だ。これより2機ごと3隊に散開し、索敵に当たる。3・4、5・6番機は別の空域を頼む。2番機は俺について来い>
<<ういっす>>
<情報収集・偵察ポッドは会敵し、やむを得ない場合は投棄を許可する>
<<2番機了解>>
<<3〜6番機了解>>
<それでは、これより散開>
<<3番機レーダーコンタクト。ベクター・トゥ・スリーファイブセブン。どうやら手間は省けたらしい。敵さん、向こうからお出ましのようだ>>
パッと視線を巡らし、センターコンソールのレーダーに機影が映っていることを確認する。
数は4機。綺麗なアローヘッドで接近してくる。
数日振りの実践を控え、背筋に汗が伝う。
今時、前線軍人なら魔物娘がどんな理由で戦争を続けているかを理解していない奴は殆どいないといってもいい。理解していない、いや理解しようとしないのは上層部の人間だけだ。だが、俺たちは所詮軍人。上層部に逆らったら即・銃殺だ。適当に打ち払って帰ってもらうとしよう。
ピアニストのような指さばきで武装を変更し、ポッドをパージする。ゴトンと音がして、機体が一瞬フワリと浮き上がる。
武装選択で今度はメイギックを選択。マスターアームON、セイフティ解除。
中距離ミサイルを搭載していないのでBVRが不可能な分不利ではあるが格闘戦に持ち込んでしまえば軽戦であるこちらに分があるだろう。
<各機、戦闘準備>
<<ラジャー>>
スロットルを握り直し、HUDを睨む。距離計が飛ぶように数字を減らし、敵の接近を知らせる。
距離30マイルを割った。この距離は相手の射程内の筈だが、撃ってこない。
ということは敵は中・長距離ミサイルを積んでいないのであろう。
どういう訳かは分からないが、これで望みは出てきた。
そんなことを思ったとき、正面の雲間が一瞬きらりと光った。
<見つけた、ジュラヴだ。フレイム1、ジャグ、エンゲージ>
翼を左右に振り、スロットルをミリタリー出力から更に押し込む。
アフターバーナーを焚かれ、尻に火がついた愛機は弾かれる様に加速してゆく。
一度上昇しIRSTの有効範囲から逃れると、翼を翻して敵編隊に殴り込みをかけていく。
<2番機、援護頼む>
<<任せなって、隊長。マーチン、エンゲージ>>
<<こちらも行くぞ。フレイム3トゥ6、エンゲージ>>
6機は編隊を保ったまま位置エネルギーを速度に変えつつ、敵機のやや上方に占位しながら正対し航過。お互いに攻撃できる位置にいなかったのでそのまますれ違う。
<<舐めやがって・・・!>>
敵機4機はミサイルを積んでいなかった。
引き上げ中のGに耐えているところで僚機の呻きともつかぬ台詞が聞こえた。
不可解な状況ではあるが、ミサイルの有無は戦闘時には極端な優劣を作る。
敵の考えが不明な以上不安は少なからずあるが、やらなければやられるのが空だ。
大きなループを描く敵2機の後ろに滑り込む。敵はダイブしシザースへ。
<逃がすか!>
グイと機首をねじ込み追従する。
風切り音とエンジン音のみが支配する世界で、Gと狭まる視界に耐えながら機を操っていく。
サクフォイ・ジュラヴD。サクフォイ社の大型制空戦闘機ジュラヴの艦載型だ。
マルチロール運用能力と艦載能力を与えられたD型であるが、その強力なエンジンと優れた空力特性はモデル初期からのクラスを超えた運動性能を微塵も失ってはいない。
そして優れた性能もあるが、敵パイロットの腕も相当だ。
敵は巨体を軽々と操り、なかなか有効射撃位置につかせてはくれない。
右へロール、左へロール。接近しすぎているため、ミサイルは使えない。
体をきつく縛るGに歯を食いしばり、ラダーを蹴る。
機体がくるりと裏返りそれに合わせて世界が裏返しになる。
スプリットSで逃れる敵が水面をかすめた瞬間、背筋が凍った。
スロットルを一気に絞り、操縦桿を斜めに引く。
機体が横倒しになり、ほんの僅かに上げきるスペースが生じる。操縦桿を直線的に引き直す。
すかさずアフターバーナーON。愛機は辛うじて水面突入を免れた。
しかし、ほぅと息をつく間もなく次の危機は訪れる。
<<フレイム1、チェック・シックス、エネミー!!>>
<!!>
先ほどまで追っていたはずのジュラヴがバックミラーに映り、戦慄する。
たまらず操縦桿を右に倒し、ラダーペダルを踏み込む。ギリギリで敵弾を回避する。
読まれて偏差を食っていたらやられていた、とジンギングで揺さぶられつつ冷や汗をかいた。
一度は回避したが、未だに状況は変わっていない。敵は真後ろに陣取り今か今かとタイミングを図っている。
シザースに持ち込むが、高度があまりないのでパワーの差でやや苦しい。
3回クロスした直後、遂にリーサルコーンへの侵入を許してしまった。
最早ここまでか。バックミラーに大きく映る敵に呪詛の言葉を吐きかけながら、短かった人としての人生を軽く振り返ってみた。嗚呼、そういえばロクな人生ではなかったな。と思い直し、考えることをやめた。
敵機の銃口が光った瞬間、バッと黒い影がミラーを横切った。
<<隊長!!右だ!>>
右に思い切り操縦桿を倒し、一瞬目をつぶった俺の機体には何も起こらず、着弾音がしたのは無線からだった。
<<ハハハーッ!隊長、敵さんのタマは俺がいただきましたぜ。んじゃお先に・・・って何だこりゃ?>>
眼下を飛び抜けていくマーチンのラーフェイルにはべったりと水色の液体のようなものがぶちまけられている。
<<ペイント弾!?敵は模擬弾を積んできたってのか?ふざけやがって!!>>
<<舐められてるなんてレベルじゃねぇぞ!>>
アフターバーナーを焚き、一気に上昇して敵機の追撃に入ったマーチン機。
しかし数瞬後、異変は起こった。
<<クッソが、・・・レッドランプ!?>>
<どうした!?>
急旋回で敵機との間合いを図っていた俺の耳にマーチンの悲鳴とレッドアラートが届く。
<<コンピュータに異常が!ウイルス!?どこから?イジェクションシート強制作動!!?うわぁっ!!!>>
目下のラーフェイルのキャノピーが弾け飛び、ついでマーチンことフレイム2が虚空へと打ち上げられていく。
乗り手を失った機体はぐらりと肩を落とし、水面に激突して果てた。
ふわふわと空を漂うマーチンからの応答はない。おそらく気絶したのであろう。
敵は謎の兵器を使ってきた。これを解明しないわけには迂闊に手が出せない。
まさかの事態だ。判断は急を要した。
<SOS、ボーディ、こちらフレイム1、マーチンが脱出した!救援を頼む!敵は新兵器を使用せり、空域は分かるな!?一旦帰投する>
<<隊長!マーチンは!?>>
<フレイム3、ローティス!やむを得ない、由々しき事態だ。マーチンは救難機に任せよう。全機各個戦場を離脱!帰投せよ!>
アフターバーナーを点火し一気に離脱を図る。敵機は追っては来なかった。

数時間後、救難ヘリは空荷のまま帰投した。
万が一を考え、やりきれない気持ちのまま俺たちは艦内待機を命じられ、その日はそれで終わった。
相手にどんな意図があったとしても、こちらにしてみれば僚機を失った痛みは物理的な痛みよりもはるかに大きい。
それが戦争、これが戦場だ。
強者のみが生き残るサバイバルゲーム。
翌日、PXから一人の女性隊員が失踪したのだが、失意の彼らの耳には入らなかった。
12/09/15 08:00更新 / それとメルカバー
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■作者メッセージ
戦闘パートです。
構想20分でできた新兵器がでました。はい。
ご指摘を頂いたので2話を結合してみました。
いかがでしょうか?(´・ω・)

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