連載小説
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影繰とは
「そこっ!」

僕が掛け声とともにある方向を指差す。
するとそれに従うように影が矢の形を取り、高速で飛んでいく。

「がはっ!?」

そして目標に直撃。
そいつは腹部を黒い矢で射抜かれ、そのまま背後の木に貼り付けにされた。

「ぐぅ……な、なんという力だ……」
「もうおしまい?あんなに大口叩いてた割にはあっさり全滅しそうだけど」
「くっ!我々を甘く見るな人間!」
「だったら、そっちも僕を甘く見るな蜂」

僕はローブの袖口から黒い刃を生み出し、そいつの羽根を切り裂く。

「うぐぅあああああ!!」
「まず片方。それじゃ、もう片方もいってみようか」
「あがぁぁあああああああああああああ!!!」

木に貼り付けにされたそいつ、ホーネットは自身の羽根が切り裂かれる激痛にのた打ち回る。
すると腹部に刺さった矢がぐりぐりと動くこととなり、今度は腹部の痛みにのた打ち回ることになる。

「これでお前はもう空を飛べない。飛べない蜂はのたれ死ぬか?獣に食われるか?」
「くぅうううううう……」
「ま、僕はどっちでもいいけど」

僕はホーネットをそのままにし、その場から立ち去る。

「ま、、待てぇ!」
「……それじゃ、今回も掃除よろしく」

ホーネットの叫びを聞き流し、以前のように影で獣を作り出す。
すでに2匹殺してあるから、それの掃除も頼んである。
影だから、別に毒が塗られた槍を食べようが、毒が詰まったホーネットの腹を食べようが、なんら影響ないしね。

「くぅううううう!おのれぇ!!影繰ぃぃぃぃぃいいいいい!!!」

蝋燭が燃え尽きる瞬間、一際光を放つように、ホーネットが大きな叫びをあげた瞬間、
肉を引きちぎるブチブチという音が聞こえた。




「よう、影繰!今日も景気よく殺してきたらしいじゃんかよ!!」
「景気なんかよくないさ。それに、よくても悪くても殺すことに変わりは無いしね」
「ちがいねぇ!」

僕に話しかけてきた筋骨隆々の男が、ガハハと笑いながらここから出て行く。
ああ、今日も羽振りのいい狩りか、あちらさんは。どうりで機嫌がいいわけだ。

ここはとある街のギルドの地下にある、いわば裏ギルド。
表のギルドでは当然依頼として出すことができないような依頼が、ここでは出されている。そう、たとえば……

教会関係者を殺す……とかさ。

表でそんな依頼を出したら、その依頼を受理したギルドはもちろん、依頼を出した人も教会に『断罪』されるだろう。
しかし今のご時勢、教会に恨みを持つ人間なんか数え切れないほどいる。
そんな人たちの駆け込み寺が、この裏ギルド。

「影繰!あんたついこの間教会騎士何人か殺したんだってね!やるじゃんか!!」
「そっちこそ、グリズリー相手にドンパチかましたみたいじゃん」
「あ〜、ありゃだめだね。てんで張り合いが無い」
「それはあんただから言える言葉だよ」

そして、上に通常のギルド、下に裏ギルドを持つという性質上、このギルドには魔物、教会双方に恨みを持つ人がよく集まる。
普段は教会への恨みをひた隠しに、魔物への恨みを上のギルドでぶつけ、時が来たら下のギルドで教会への恨みをぶつける。
そんな奴らが時に協力したり、時に敵対したり、時に裏切ったりしながらこのギルドは動いている。
まぁ、ここまでアクの強い連中がこうして集っていること自体、ほぼ奇跡みたいなものだ。
絶対に裏切るな、なんて無理にもほどがある。
当然僕も……ね。

「あ、お帰りなさい、キトさん」
「アニー、名前で呼ぶのは辞めてくれないかな?」
「え?でもキトさんはキトさんですよね?」
「……はぁ、もういい」

これでこのやり取りは何回目だ?
少なくとも、僕がここに来てから毎回やってるはずだから……もう100回以上か?

彼女はアニー。上の名前は知らない。
この裏ギルドの一角にあるバーでウェイトレスをしている少女だ。
僕は彼女に気に入られたのか、このギルドに来た当初からやけに話しかけられる。

「では、ご注文は?」
「猪肉の香草焼き」
「キトさん、いつもそればっかり頼みますよね?たまには別なものを頼んだらどうですか?」
「うるさいな、好きなんだよ」

僕の注文を取ると、アニーはそそくさと厨房のほうへと向かっていった。
アニーの相手は、とにかく疲れる。
こちらのペースが乱されるからだ。

「……はぁ」
「辛気臭いため息なんか吐くんじゃないよ影繰!ほら、酒でもどうだ?」
「……僕の村じゃ18歳未満は酒は飲めないんだ。悪いけど酒の相方なら他を当たってくれ」
「つれないねぇ……」

そういいつつも僕の向かいの席に座る。

「……いつも酒飲んでるけど、それでまともに殺せるの?ククリ」
「おうよ!むしろ酒が入ってないと調子がでねぇや!はっはっはっは!!」
「うるせ……」

この豪快な男勝りというか、男そのものな性格の女はククリ。
これでも裏ギルドの中では有数の実力者なのだが、あいにく僕は彼女が酒の飲み比べで相手を負かしている姿しか見たことが無い。
今も右手で酒をあおりながら、左手には酒ビンが2本……当然3本でこの人が満足するはずも無いので、もっと飲んでいるだろう。
しかし、酒が入ってないと力が出ない……ジパングという東にある島国にいるアカオニとかいう魔物みたいな人だ。

「んぐっ……んぐっ……んぐっ……ぷはぁ!!あ〜!やっぱ酒はいいねぇ!!しっかし酒飲まないとか、あんた人生の10割損してるよ!絶対」
「それはあんただけだ。これでもそこそこ充実してる」

そうかいそうかい、といいながら空になった酒ビンを放り投げ、左手に持っていたうちの一本を右手に持ち替え、親指でコルクを抜こうとする。

「ん……おろ?」

しかし、さすがに酔いがかなり回ったのか、いまいち力が入らないようだ。

「……ククリ、指どけて」
「お?おお……」

僕の言葉にククリがコルクにかけていた親指をどかすと、

スポンッ

景気のいい音とともに、コルクが宙を舞った。
そのコルクを影でキャッチし、そのまま影に処分させる。

「相変わらず器用な影だねぇ……コルクも抜けるのかい」
「使えるものは何でも使う主義だから」
「でもほんと便利な影さんですよね、キト君の」

そのとき、アニーが注文した料理を片手にやってきた。
……見られてたのか。

「そういえばキト君の能力って、影を操る能力なんですよね?どういう能力なんです?」
「どういうって……そのまんまの意味だよ」
「もっと詳しく教えてくださいよ〜弱点とか」
「お断りだね、誰が弱点を好き好んで教えるのさ」
「え〜」

その後も、「教えて〜教えて〜」とじゃれ付いてくるアニーを無視しながら、僕は香草焼きを食べた。




「これを〜こうして〜そしてこれを〜こっちにまぜて〜」
「あれ?バフォ様、帰ってたんですか?お帰りなさいです」
「うむ!すまぬな、挨拶もなしで。しかし、今大事な作業の真っ最中じゃ……すまぬが、しばし一人にしてくれんかのう」
「いいですけど……助手くらいつけたほうが……」
「いや、これは妾一人で作るのじゃ。これがあれば影繰とやらも……くっくっく……」
「はぁ……」




「……で、さっきのアニーじゃないが、あんたの能力って何なのさ。魔法って感じもしないし、かといって他にそれっぽいものも聞いたことが無い」
「ククリもやっぱ気になるんだ。これ」
「当たり前だよ。というか、このギルドの中であんたの能力に興味が無い奴なんかいないよ」
「ふ〜ん……」

裏ギルドにある宿泊施設。
そこの廊下を僕とククリは歩いていた。
なぜか?僕とククリはこの宿泊施設に最早住んでいるといっても過言ではないからだ。
それに部屋隣だし。

「べつに弱点が聞きたいわけじゃない。ただ、その能力が何に分類されるのか?それがあたしは気になってるんだ」
「そういうことか……悪いけど、僕もこの力が何なのか、よくわからないんだ」
「分からない?どういうことだい?」
「そのまんまの意味。気がついたら使えるようになってたんだ。もっとも、最初はまともに操れなかったけど」
「ふ〜ん……それがどういうものか分からないものを使う……ねぇ。そもそも、原理が分からないものをどう使ってるんだよ」
「さぁ?ただ分かることといえば、僕は影を操れる、影は僕の思い通りに動くってこと。それとこの力の弱点とかを知っておけば、原理が分からなくても使えるには使えるよ」

それを聞いてククリは後頭部に手を当て、はぁ……とため息をついた。

「あたしゃ原理が分からんものを使うなんざ御免だね。怖くてたまったもんじゃない」
「ククリでも怖いとかあるんだ」
「当たり前だよ」

そういうと、ククリはいつに無くまじめな顔つきになった。

「恐怖ってのは大事さね。恐怖ってのは人間が本能で感じる警告さ。こいつは命にかかわるぞ……ってね。それを無視する奴がどんどん逝っちまう。……影繰も覚えておくといいよ」
「……わかった」

それを話しているククリは妙に真剣な顔つきだった。
きっと過去に何かあったんだろうが、それを聞くのは野暮ってものだろう。

「それじゃ、お休み」
「ん?おお……もうついてたのか。まったく、ガラにも無いまじめな話なんざするもんじゃないね……それじゃ」

そういって、僕らはそれぞれ自分の部屋に入っていった。




「原理が分からないものは怖くて使えない……か」

僕はそこに恐怖は覚えないが、確かに僕はこの能力の全てを知っているわけではない。
今この力について僕が知っていることは……

「まず、今のところ操れるのは僕の影……または僕が触れている、何かの影……」

そういうと僕は自分の影を操って一本の黒い剣にする。
そして今僕の足が踏んでいるベッドの影を操って、小さなナイフを作る。

「僕の影はそこそこの大きさの物にできる、でも僕がふれているほかの影では、それほど大きな形にはできない……」

そして足元を見る。
そこにあるはずの僕の影は無い。
そしてベッドの影も無い。

「僕が影を操っている間、影は無くなる……」

僕が手に持った剣とナイフを消すと、それと同時に足元とベッドに影が戻る。

「弱点は光……」

今度は自分の影をナイフにして、机の上のランプに近づく。

「光に近づけると影で作ったものは消える……」

ナイフをランプに近づけると、ナイフはふっと消え、また足元に影が戻る。

「影が消えないギリギリのところで物を切ろうとしても……」

またナイフを作り出し、今度はそろりそろりとランプに近づけ、消えるか消えないかのギリギリで近づけるのをやめる。
影でできたナイフはその時点ですでに向こう側が見えるくらい透けている。
その状態で机にナイフを突き立てる。
するとパキンと音がし、ナイフが折れ、消えた。

「……ロクな強度にならない」

昼間の明るい街中じゃまともに使えない能力だな。
だから、僕が襲撃をかけるのは夕暮れ時から夜の間、または路地裏などの明かりが入ってこない場所だ。

「……こんな感じかな?」

もっとも、昔は自分の影しか操れなかったし、自分の影でもそれほど大きなものは形作れなかったことから、この能力は成長するのだろう。
これから先、どんな風に成長するかはまさに未知数だ。

「……そういえば」

ふと思い出し、僕は自分の影を操り、あの獣を形作る。

「……こいつは何なんだろう」

この獣を形作る場合のみ、操ってる影による大きさの制限はないんだよなぁ……
だからベッドの影でこの獣を作っても、小さくできるってことはないし、自分の影を使ったからといって、大きく作れるわけでもない。
それに、この獣には知能があるような気がしてならない。

「…………」

うなり声などは一切出さないが、獣は今僕にじゃれ付いている。
そんな命令は下してないのに。

「……ほんと、謎だらけなのは確かだな」

結局、僕自身の力でありながら、この影繰の力は僕にとっても分からないことだらけな力だった。
11/02/19 12:44更新 / 日鞠朔莉
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■作者メッセージ
今回は影繰の能力について。
弱点が少ないと感じる人と、多いと感じる人がいると思いますが、
私はこれくらいがちょうどいいかなと。
昼間に使えないって言うのはかなり大きな弱点だと思いますし。
しかし、この能力、キト君が言ってるように成長します。
まぁ成長しても弱点なしにはしませんよ。それじゃつまらない。

まぁ、何はともあれ
これはひどい(ホーネットの扱い的な意味)
3匹いましたが、話が開始してたときにはすでに2匹殺されてて、残りの1匹も
それほど出番なく退場。

いや、別にホーネット嫌いなわけじゃないんですよ?
でも同じ蜂ならハニービーがいいかな?って具合。
ちなみに、私が一番好きな魔物娘はまだサイトの魔物図鑑にでてない奴です。
サイトで掲載されたら、その魔物娘の話が書きたいなぁ……

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