影繰が歩んでいる道
曰く、そいつは妙な技を使ってくるらしい。
曰く、そいつに出会った魔物、教会関係者は必ず殺されるらしい。
「……はっ!馬鹿馬鹿しい。んな訳あるかよ!」
「でも隊長、もう何人も犠牲者でてるんですよ?馬鹿馬鹿しいで片付けるのはちょっとどうかと思うんですが……」
夕暮れ時、とある教会のお膝もとの街。
そこに俺達教会騎士はいた。
そして、他の面々より若干豪華な装飾を施された鎧を着込んだ俺は、他の面々の話を馬鹿にしていた。
その話とは今まさに教会を騒がせている「影繰」についての話。
最近教会騎士が無残に殺されているという事件が多発しており、その犯人が影繰ではないかという噂。
「いーや、馬鹿馬鹿しいね。第一、その話誰に聞いたよ、お前」
「そりゃあ同僚ですが……」
「だったらなおさらおかしいことに気づけ阿呆。噂だと、そいつに会った教会関係者は必ず殺されるんだろ?だったら、何でその同僚がその話を知ってるんだよ」
「へ?他の同僚とか……ですかね?」
それを聞いて、俺を隊長と呼んだ男がそんなことをのたまった。俺はあきれたように首を振るしかなかった。
「じゃあその同僚とかは誰から聞いた?そして、そいつにその話を教えた奴はだれから?……延々と続いてキリがねぇ」
「あ……で、でも!商人から聞いたとかもあるかも……」
「金で情報やり取りするならいざ知らず、商人の無料(タダ)の噂ほどアテになんねーものはねーよ」
そう、今の世の中、金が絡まない話ほど信頼できないものはない。
何でも魔王が代替わりして魔物がなにやら変わったらしく、そのせいで世の中は混乱してるらしいのだ。
祭壇で偉ぶるしか能のない司教サマ曰く、『魔物が女性の姿をとるようになり、それにたぶらかされた背信者どもが魔物と手を組み、教会を脅かしている』そうな。
今まで教会の領地だった場所(反魔物領とでも言おうか)が魔物を受け入れ始めるようになって行き(こちらは親魔物領とでも言おうか)、その影響で経済その他もろもろが混乱しているというのは事実だが。
そんな混乱の中、信頼できるのもはなんだ?
友情?絆?そんなもの足しにすらならない。
金である。
だから今の世の中、金が絡まない話はまずアテにならない。
「それに、もしそれが本当だとしても、俺がそいつの首を取ってやるよ!」
「さすが隊長!強気っすね!!」
「おうよ!!」
「そ、そんなこと言って……」
最初にその噂話を言っていた奴はおびえているようだが、俺達はそんじょそこらの七光りで騎士になったボンボンとは違う。
影繰だかイガグリだか知らねぇが、そう簡単に……
「……それは怖いね、だったら取られる前に取っておこうかな?」
「あ?」
それが、俺の最後の言葉になった。
そして最後に見たもの。
全身を黒いローブで包み、顔をローブについているフードで隠した、怪しい人影。
それから先のことは、俺にはもうわからなかった。
集団の一番前を歩いていた男の首を刎ねる。
刎ねられた首は弧を描き、どこかへと飛んでいった。
「……は?」
その男の後ろにいた奴らは何が起こったかわかっていないようだ。
まるで石になってしまったかのように、こちらを見ているだけで、動こうともしない。
「はじめまして、そしてさようなら」
だから、こちらから話しかけてやることにした。
「……っ!?貴様!俺達を誰だと思って……!」
「知ってるさ、教会の騎士様だろ?いつも主神の教え主神の教えと偉ぶってるしか能のない騎士……違うか?」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
騎士の一人がこちらに走りよって、振り上げた剣をこちらに振り下ろそうとしている。
でも……
「それ以上近づかないほうがいいよ」
「あぁ!?」
「そこ、僕の影があるから」
ザシュッ!
その男は股下から生えてきた大きな黒い棘のようなものに脳天までを一直線に貫かれ、痛みを感じるまもなくその生涯を終えた。
「だから言ったのに……人の忠告って、聞いておくものだよね?」
「き、貴様……何者だ……?」
「さっきまで話してたじゃん。僕のことを、さ」
「まさか……影……繰……?」
そこまでいうと、騎士は全員剣に手を伸ばし、そして剣を鞘から引き抜いた。
「貴様は教会で殺害もやむなしと伝えられている!しかし、ここでおとなしく我々に身柄を拘束され、教会へと来るなら、主神の許しにより、その罪は……」
「うるさいよ」
ヒュン
何かが風を切る音が聞こえ、目の前で御託を並べていた騎士の首が飛ぶ。
「主神の許し……?そんなもの、必要ないね。それに、そもそも許されようとすら思ってないからさ」
これで三人。
残るは……4〜5人かな?
「くっ……!貴様をここで断罪する!」
ここに来て、ようやく騎士たちが本気で戦闘をする気になった。
まったくもって、平和ボケでもしてたのかな?
「うおおおおおおおお!」
前にいた一人が剣を横薙ぎに振るう。
それをバックステップで避け、さらにその場でしゃがんで左右からの斬撃を回避する。
「なにぃ!?」
避けられたことがよほど衝撃だったのか、騎士の動きが止まる。
「隙だらけだ」
その騎士の顔面に向かって黒い刃物を投げつける。
普通ならそのまま顔に刺さりお陀仏。
実際、今までの騎士はこのようなタイミングで投げつけられた刃物に絶命していた。
「くぅ!」
しかし、この騎士は体をひねり、それでも避けれないと悟ると自分の左腕を盾に、この攻撃をしのいだ。
「っ!今までの騎士とは違うみたい……っ!?」
しかもそれだけではなく、体をひねった勢いをそのままに一回転し、そのまま斬撃を加えてきた。
普通ならそんな大振りの攻撃、誰も当たりはしないが、今まで騎士を殺してきた攻撃が通じず、多少動揺していたらしい。
避けることは……無理。
ならば防ぐ!
両腕でブロックすると、そこに斬撃があたる。
ガキィンッ!
明らかに人の肉を断った音ではなく、金属同士がぶつかり合う音が響きわたる。
これにはさすがの騎士も唖然としたらしく、そのまま腕から伸びた何かに顔面を貫かれ、死。
「……っ〜……!やっぱりまだこれは苦手だな……腕がジンジンする」
剣があたった部分を手でさすり、僕は周りを見やる。
すでに殺したのは4人。
残るは3〜4人程度。その全員がこちらを警戒して先ほどのようにむやみに近づいては来ない。
「ま、無駄なんだけど……ね!」
右腕を横に振るう。
「がっ!?」
「うぐぅ!」
それと同時に、金属音とともに二人が吹き飛ぶ。
「くそ!あいつは何を使っているんだ!?」
「得物がまったく見えない……対処しようがない!!」
対処のしようがない……か。
少なくとも、僕が何を使って攻撃しているかぐらいは分かると思うんだけどね。
まぁ、気づかないなら気づかないでいいけどさ。
「そのまま気づかないうちに死ね!!」
再び腕を振るう。
そこから放たれた黒い刃は寸分たがわず二人の顔を貫き、瞬く間に絶命させた。
「これで残るは二人……と」
先ほど吹き飛ばした二人がこちらに向かってくる。
「それじゃ、ほんとにさようなら」
先ほどと同じように黒い刃を投擲する。
しかし、
「そうは行くか!!」
二人の内、後ろのほうにいた一人が両手を上にかざす。
それと同時にかざした手の上に現れる光。
「っ!?」
その光に当てられ、投擲した黒い刃は全て空気に溶けるように消滅していった。
「さっきまでお前を観察して分かった。どういう原理かは知らないが、お前は影を操っているんだろう?影は光で消える!これでお前は無力だ!」
「っ!へぇ……そこまで分かったんだ。教会も馬鹿しかいないってわけじゃあなさそうだ!!」
「俺達をなめるのも大概にしろよ!おら!!」
「くっ」
こちらの視界を制限する光の中、何とか攻撃を回避するが、回避し切れなかったのか、ローブが切り裂かれ、腕に細い傷がはしった。
「やっぱり……今のお前は攻撃を防ぐこともできない!ここで神の裁きを受けろ!影繰!!」
「お断りだね!!誰が神の裁きなんか受けるかよ!」
とは強がってみたものの、実際あの光の魔法のせいでこちらの能力はほとんど使えない。
あの魔法は単純ゆえに魔力消費が少ないのか、かれこれ長時間維持しているけど消える気配がまるでない。
その間にも次第に傷は増えていき、そろそろやばいかもしれない。
(やりたくないけど……やるしかないかな?)
首を狙った横薙ぎをしゃがんで回避、ついで飛んできた蹴りには両腕をクロスしてブロック。
当たる瞬間に自分から後ろに飛ぶことも忘れない。
「っ!?」
しかし、着地したと思ったらバランスが崩れた。
足元を見ると先ほどまでに殺した騎士の死体。
それを踏んづけてしまったため、バランスを崩したようだ。
「しま……っ!」
「今だ!!」
その隙を見逃すはずも無く、騎士はこちらに大振りの攻撃を仕掛ける。
当然体勢を立て直す暇なんてなく、僕は剣が振り下ろされるのを見やる。
「さぁ!神の元へ逝け!影繰!!」
「…………」
―――影に入ったね……―――
「ん?」
魔法で相手の攻撃を封じているため、後ろで前衛の騎士の動きを見ていた俺は、おかしなことに気がついた。
影繰を追い詰めたはずの騎士が剣を振り下ろそうとしたまま動かないのだ。
「おい!何やってるんだ!!はやくトドメを……!」
「さしたよ、トドメ」
「何!?」
影繰の声が聞こえたと同時に、騎士の背中から大きな黒い槍が突き出てくる。
あの位置から見て、即死。
「ば、馬鹿な!お前の攻撃はこの光で封じたはず……!」
「いい感じにそっちから攻撃方法を与えにきてくれたからね。何とか助かったよ」
「攻撃方法を……?」
いったい何を言っているんだ、あいつは。
「光が物体の真後ろから当たってるなら、当然反対側には光が届かない、それどころか濃い影ができるよね?」
「な……に?」
それは……つまり……
「残念でした。結構いい線はいってたと思うよ?光で影をつぶす。確かにそうすれば僕は攻撃をつぶすことができなる。でも、完全に攻撃を封じるんだったら、もっと別の方向からも光を当てるべきだったね。一箇所でも影になる場所があるんなら、僕は相手を殺せるから」
「あ……ああ……」
影繰がこっちに近づいてくる!?
で、でも大丈夫だ!
俺の魔力はまだたくさんある!
この光が維持できれば……!
「……人の話し、聞いてた?」
「ひっ!」
「一箇所でも影ができれば、僕はお前を殺せる」
そういうと、影繰は心臓の少し上辺りにこぶしを当てた。
すると、体の中心を一直線に影が……影が……!!
「……今度こそ、さようなら」
ザシュッ!
「あ〜……いつつ、今回は結構手痛い目にあったかな」
今までが今までだったから、油断があったんだろうなぁ……
うわ、細かい傷があちこちにある。ローブもぼろぼろだ。
「……おっと、忘れてた」
再び影を操り、数匹の獣を生み出す。
見た目は狼のような姿だが、その顔に目はなく、体は毛が生えておらず、全体的にのっぺりとした印象を持たされる。
「掃除、よろしく」
そういうと、数匹の獣は死体に駆け寄り、貪り始めた。
中には鎧をガリガリと食べる奴もいる。
数刻と経たずして、ここに死体も鎧も剣も残らないだろう。
残るのは誰の物かわからない血の跡だけ。
他は全部影に消えていく。
やがて掃除が終わり、僕はその場を立ち去った。
残ったのは、やっぱり血の跡だけだった。
誰もいなくなったその場に、不意に一つの小さな影が生まれた。
「ふむ……妙な技を使う男よのう」
その影は影繰が立ち去っていった方向をしばらく見つめると、やがて当たりにぶちまけられた血の跡を見やった。
「やれやれ、これでは通りがかった人間が驚くだろうに……」
そうそう呟くと同時に右腕を振るう。
するとどこからともなく水の塊が生まれ、それが血の跡にかかると、そこは血が洗い流され、元の色を取り戻した。
「これでよし……しかし、影を操る、のう……」
「……おもしろい!妾の兄上にふさわしい逸材ではないか!!」
曰く、そいつに出会った魔物、教会関係者は必ず殺されるらしい。
「……はっ!馬鹿馬鹿しい。んな訳あるかよ!」
「でも隊長、もう何人も犠牲者でてるんですよ?馬鹿馬鹿しいで片付けるのはちょっとどうかと思うんですが……」
夕暮れ時、とある教会のお膝もとの街。
そこに俺達教会騎士はいた。
そして、他の面々より若干豪華な装飾を施された鎧を着込んだ俺は、他の面々の話を馬鹿にしていた。
その話とは今まさに教会を騒がせている「影繰」についての話。
最近教会騎士が無残に殺されているという事件が多発しており、その犯人が影繰ではないかという噂。
「いーや、馬鹿馬鹿しいね。第一、その話誰に聞いたよ、お前」
「そりゃあ同僚ですが……」
「だったらなおさらおかしいことに気づけ阿呆。噂だと、そいつに会った教会関係者は必ず殺されるんだろ?だったら、何でその同僚がその話を知ってるんだよ」
「へ?他の同僚とか……ですかね?」
それを聞いて、俺を隊長と呼んだ男がそんなことをのたまった。俺はあきれたように首を振るしかなかった。
「じゃあその同僚とかは誰から聞いた?そして、そいつにその話を教えた奴はだれから?……延々と続いてキリがねぇ」
「あ……で、でも!商人から聞いたとかもあるかも……」
「金で情報やり取りするならいざ知らず、商人の無料(タダ)の噂ほどアテになんねーものはねーよ」
そう、今の世の中、金が絡まない話ほど信頼できないものはない。
何でも魔王が代替わりして魔物がなにやら変わったらしく、そのせいで世の中は混乱してるらしいのだ。
祭壇で偉ぶるしか能のない司教サマ曰く、『魔物が女性の姿をとるようになり、それにたぶらかされた背信者どもが魔物と手を組み、教会を脅かしている』そうな。
今まで教会の領地だった場所(反魔物領とでも言おうか)が魔物を受け入れ始めるようになって行き(こちらは親魔物領とでも言おうか)、その影響で経済その他もろもろが混乱しているというのは事実だが。
そんな混乱の中、信頼できるのもはなんだ?
友情?絆?そんなもの足しにすらならない。
金である。
だから今の世の中、金が絡まない話はまずアテにならない。
「それに、もしそれが本当だとしても、俺がそいつの首を取ってやるよ!」
「さすが隊長!強気っすね!!」
「おうよ!!」
「そ、そんなこと言って……」
最初にその噂話を言っていた奴はおびえているようだが、俺達はそんじょそこらの七光りで騎士になったボンボンとは違う。
影繰だかイガグリだか知らねぇが、そう簡単に……
「……それは怖いね、だったら取られる前に取っておこうかな?」
「あ?」
それが、俺の最後の言葉になった。
そして最後に見たもの。
全身を黒いローブで包み、顔をローブについているフードで隠した、怪しい人影。
それから先のことは、俺にはもうわからなかった。
集団の一番前を歩いていた男の首を刎ねる。
刎ねられた首は弧を描き、どこかへと飛んでいった。
「……は?」
その男の後ろにいた奴らは何が起こったかわかっていないようだ。
まるで石になってしまったかのように、こちらを見ているだけで、動こうともしない。
「はじめまして、そしてさようなら」
だから、こちらから話しかけてやることにした。
「……っ!?貴様!俺達を誰だと思って……!」
「知ってるさ、教会の騎士様だろ?いつも主神の教え主神の教えと偉ぶってるしか能のない騎士……違うか?」
「貴様ぁぁぁぁぁ!!」
騎士の一人がこちらに走りよって、振り上げた剣をこちらに振り下ろそうとしている。
でも……
「それ以上近づかないほうがいいよ」
「あぁ!?」
「そこ、僕の影があるから」
ザシュッ!
その男は股下から生えてきた大きな黒い棘のようなものに脳天までを一直線に貫かれ、痛みを感じるまもなくその生涯を終えた。
「だから言ったのに……人の忠告って、聞いておくものだよね?」
「き、貴様……何者だ……?」
「さっきまで話してたじゃん。僕のことを、さ」
「まさか……影……繰……?」
そこまでいうと、騎士は全員剣に手を伸ばし、そして剣を鞘から引き抜いた。
「貴様は教会で殺害もやむなしと伝えられている!しかし、ここでおとなしく我々に身柄を拘束され、教会へと来るなら、主神の許しにより、その罪は……」
「うるさいよ」
ヒュン
何かが風を切る音が聞こえ、目の前で御託を並べていた騎士の首が飛ぶ。
「主神の許し……?そんなもの、必要ないね。それに、そもそも許されようとすら思ってないからさ」
これで三人。
残るは……4〜5人かな?
「くっ……!貴様をここで断罪する!」
ここに来て、ようやく騎士たちが本気で戦闘をする気になった。
まったくもって、平和ボケでもしてたのかな?
「うおおおおおおおお!」
前にいた一人が剣を横薙ぎに振るう。
それをバックステップで避け、さらにその場でしゃがんで左右からの斬撃を回避する。
「なにぃ!?」
避けられたことがよほど衝撃だったのか、騎士の動きが止まる。
「隙だらけだ」
その騎士の顔面に向かって黒い刃物を投げつける。
普通ならそのまま顔に刺さりお陀仏。
実際、今までの騎士はこのようなタイミングで投げつけられた刃物に絶命していた。
「くぅ!」
しかし、この騎士は体をひねり、それでも避けれないと悟ると自分の左腕を盾に、この攻撃をしのいだ。
「っ!今までの騎士とは違うみたい……っ!?」
しかもそれだけではなく、体をひねった勢いをそのままに一回転し、そのまま斬撃を加えてきた。
普通ならそんな大振りの攻撃、誰も当たりはしないが、今まで騎士を殺してきた攻撃が通じず、多少動揺していたらしい。
避けることは……無理。
ならば防ぐ!
両腕でブロックすると、そこに斬撃があたる。
ガキィンッ!
明らかに人の肉を断った音ではなく、金属同士がぶつかり合う音が響きわたる。
これにはさすがの騎士も唖然としたらしく、そのまま腕から伸びた何かに顔面を貫かれ、死。
「……っ〜……!やっぱりまだこれは苦手だな……腕がジンジンする」
剣があたった部分を手でさすり、僕は周りを見やる。
すでに殺したのは4人。
残るは3〜4人程度。その全員がこちらを警戒して先ほどのようにむやみに近づいては来ない。
「ま、無駄なんだけど……ね!」
右腕を横に振るう。
「がっ!?」
「うぐぅ!」
それと同時に、金属音とともに二人が吹き飛ぶ。
「くそ!あいつは何を使っているんだ!?」
「得物がまったく見えない……対処しようがない!!」
対処のしようがない……か。
少なくとも、僕が何を使って攻撃しているかぐらいは分かると思うんだけどね。
まぁ、気づかないなら気づかないでいいけどさ。
「そのまま気づかないうちに死ね!!」
再び腕を振るう。
そこから放たれた黒い刃は寸分たがわず二人の顔を貫き、瞬く間に絶命させた。
「これで残るは二人……と」
先ほど吹き飛ばした二人がこちらに向かってくる。
「それじゃ、ほんとにさようなら」
先ほどと同じように黒い刃を投擲する。
しかし、
「そうは行くか!!」
二人の内、後ろのほうにいた一人が両手を上にかざす。
それと同時にかざした手の上に現れる光。
「っ!?」
その光に当てられ、投擲した黒い刃は全て空気に溶けるように消滅していった。
「さっきまでお前を観察して分かった。どういう原理かは知らないが、お前は影を操っているんだろう?影は光で消える!これでお前は無力だ!」
「っ!へぇ……そこまで分かったんだ。教会も馬鹿しかいないってわけじゃあなさそうだ!!」
「俺達をなめるのも大概にしろよ!おら!!」
「くっ」
こちらの視界を制限する光の中、何とか攻撃を回避するが、回避し切れなかったのか、ローブが切り裂かれ、腕に細い傷がはしった。
「やっぱり……今のお前は攻撃を防ぐこともできない!ここで神の裁きを受けろ!影繰!!」
「お断りだね!!誰が神の裁きなんか受けるかよ!」
とは強がってみたものの、実際あの光の魔法のせいでこちらの能力はほとんど使えない。
あの魔法は単純ゆえに魔力消費が少ないのか、かれこれ長時間維持しているけど消える気配がまるでない。
その間にも次第に傷は増えていき、そろそろやばいかもしれない。
(やりたくないけど……やるしかないかな?)
首を狙った横薙ぎをしゃがんで回避、ついで飛んできた蹴りには両腕をクロスしてブロック。
当たる瞬間に自分から後ろに飛ぶことも忘れない。
「っ!?」
しかし、着地したと思ったらバランスが崩れた。
足元を見ると先ほどまでに殺した騎士の死体。
それを踏んづけてしまったため、バランスを崩したようだ。
「しま……っ!」
「今だ!!」
その隙を見逃すはずも無く、騎士はこちらに大振りの攻撃を仕掛ける。
当然体勢を立て直す暇なんてなく、僕は剣が振り下ろされるのを見やる。
「さぁ!神の元へ逝け!影繰!!」
「…………」
―――影に入ったね……―――
「ん?」
魔法で相手の攻撃を封じているため、後ろで前衛の騎士の動きを見ていた俺は、おかしなことに気がついた。
影繰を追い詰めたはずの騎士が剣を振り下ろそうとしたまま動かないのだ。
「おい!何やってるんだ!!はやくトドメを……!」
「さしたよ、トドメ」
「何!?」
影繰の声が聞こえたと同時に、騎士の背中から大きな黒い槍が突き出てくる。
あの位置から見て、即死。
「ば、馬鹿な!お前の攻撃はこの光で封じたはず……!」
「いい感じにそっちから攻撃方法を与えにきてくれたからね。何とか助かったよ」
「攻撃方法を……?」
いったい何を言っているんだ、あいつは。
「光が物体の真後ろから当たってるなら、当然反対側には光が届かない、それどころか濃い影ができるよね?」
「な……に?」
それは……つまり……
「残念でした。結構いい線はいってたと思うよ?光で影をつぶす。確かにそうすれば僕は攻撃をつぶすことができなる。でも、完全に攻撃を封じるんだったら、もっと別の方向からも光を当てるべきだったね。一箇所でも影になる場所があるんなら、僕は相手を殺せるから」
「あ……ああ……」
影繰がこっちに近づいてくる!?
で、でも大丈夫だ!
俺の魔力はまだたくさんある!
この光が維持できれば……!
「……人の話し、聞いてた?」
「ひっ!」
「一箇所でも影ができれば、僕はお前を殺せる」
そういうと、影繰は心臓の少し上辺りにこぶしを当てた。
すると、体の中心を一直線に影が……影が……!!
「……今度こそ、さようなら」
ザシュッ!
「あ〜……いつつ、今回は結構手痛い目にあったかな」
今までが今までだったから、油断があったんだろうなぁ……
うわ、細かい傷があちこちにある。ローブもぼろぼろだ。
「……おっと、忘れてた」
再び影を操り、数匹の獣を生み出す。
見た目は狼のような姿だが、その顔に目はなく、体は毛が生えておらず、全体的にのっぺりとした印象を持たされる。
「掃除、よろしく」
そういうと、数匹の獣は死体に駆け寄り、貪り始めた。
中には鎧をガリガリと食べる奴もいる。
数刻と経たずして、ここに死体も鎧も剣も残らないだろう。
残るのは誰の物かわからない血の跡だけ。
他は全部影に消えていく。
やがて掃除が終わり、僕はその場を立ち去った。
残ったのは、やっぱり血の跡だけだった。
誰もいなくなったその場に、不意に一つの小さな影が生まれた。
「ふむ……妙な技を使う男よのう」
その影は影繰が立ち去っていった方向をしばらく見つめると、やがて当たりにぶちまけられた血の跡を見やった。
「やれやれ、これでは通りがかった人間が驚くだろうに……」
そうそう呟くと同時に右腕を振るう。
するとどこからともなく水の塊が生まれ、それが血の跡にかかると、そこは血が洗い流され、元の色を取り戻した。
「これでよし……しかし、影を操る、のう……」
「……おもしろい!妾の兄上にふさわしい逸材ではないか!!」
11/02/18 23:30更新 / 日鞠朔莉
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