影繰が歩んだ道 (1)
幸せだったんだ、あの日までは。
村の人は優しくて、親しい友人もいて、何より家族がいた。
父と、母と、それと妹と。
父は厳格でありながらも、それだけではなく、優しかったし、母はおっとりとしていて、しかしいざというときは家族を包み込むような優しさがあった。
妹はいつも僕の後ろをついてくるような子で、人見知りが激しく、何かがあればすぐ僕の後ろに隠れるような、そんな子だった。
そんな家族や、時に喧嘩したり、時に一緒に馬鹿をやったりする友人もいて、温かく見守る村人がいて……
幸せだったんだ、そう……あの日までは……
「逃げろ!!魔物の群れだ!!」
どうして、こんなことになったんだろう……
「女子どもは早く避難させろ!!早く!早く!!」
「待って!私の子どもがいないの!!どこにもいないの!!」
「諦めろ!!もう間に合わない!!」
空を埋め尽くすのは黒い影。
その影、ハーピーなどの飛行型の魔物は地面へ向かって急降下してくると、その鉤爪のような足を使って村人を持ち上げ、はるか上空から地面へと落とす。
「く、来るな!来るなぁぁぁぁぁぁ!!」
地面を埋め尽くすのは異形の群れ。
オーク、ゴブリン、リザードマンなど。
それらの全てが、村人を殴り殺し、切り裂き、まるでゴミのように村人の死骸がうち捨てられる。
「どうして……どうして……!」
僕が隠れている、最早廃屋となってしまった家の近くで、又誰かが殺される。
男、女、大人、子どもなどは一切関係ない。
魔物の目に付いた人から、次々と殺される。
魔王軍の人間狩り
そう称された、魔物の虐殺劇だ。
今まで数多くの村や町が人間狩りによって滅ぼされた。
そしてとうとう、この村が人間狩りの対象となったのだ。
「どうして……さっきまで、さっきまでは……!」
そう、さっきまでは平和そのものだった。
村人のほとんどは農作業に従事して汗水を流し、子どもは友人と一緒に遊びまわっていた。
そんな当たり前のはずだった平和が、つい数十分前に破られてしまった。
僕は必死に逃げた。
そのとき一緒に遊んでいた友人と一緒に逃げたはずだけど、いつの間にかはぐれて、それでも一人で逃げた。
逃げて、逃げて、とにかく逃げて、僕は今、この廃屋に隠れている。
「夢だ、これは……夢なんだ」
現実逃避。
僕は子どもだ。こんなむごい現実を受け入れられるほど、僕は強くない。
故に僕は現実逃避する。
これは夢で、それも飛びっきりの悪夢で、きっともうすぐ目が覚めるんだ。
そしたらそこは僕の部屋の僕のベッドで、僕はひどい寝汗をかいてて、でも今までの出来事が夢だったことに安堵するんだろう。
だからそう、これは夢だ、夢なんだ、早く覚めてよ、夢なんだろう?だから早く!早く覚めてよ!
そう願ってるのに、これは夢なはずなのに……どうして、どうして!
「どうして……覚めないんだよぉ……」
どうして、村人の悲鳴がこんなに耳にこびりついて離れないんだよぉ……
「……あれ、僕は……」
気がつくと、周りがやけに暗かった。
どうやら眠っていたらしい。
「……眠ってた?」
そう、僕は眠っていた。
そして今起きたんだ。だったら……
「夢、だったの……?」
耳を澄ますと先ほどまで聞こえていた悲鳴やら、怒号は一切聞こえない。
ただ風が吹く音しか聞こえなくなっていた。
「はは……っはははは……」
なんだ、やっぱり夢じゃないか。
そうだよ、あんなことがあるはずないじゃないか。
ここは自分の部屋じゃないけど、きっと遊んでる最中に寝ちゃって、だから僕はこんなところで寝てたんだ。
きっともう遅いんだろうな、だってすごい静かだ。
父さんや母さんはきっと心配してて、帰ったらきっと父さんにすごく怒られて、ああ、ゲンコツを食らうかも。
妹はいつも僕の後ろについてきてるような子だから、きっと僕がいないって泣いてて、今は寝てるけど、明日になったらまたものすごく泣いて僕に抱きついてくるんだろうなぁ。
「そうだよ、だから帰らなきゃ……」
そのとき、僕は気づいていたんだ。
でも気づかない振りをしてた。
あまりにも静か過ぎたんだ。
でも、僕は気づかない振りをして、家に帰ろうと廃屋の扉を開けた。
「……え?」
何もなかった。
人も、家も、木も、何もかも。
正確に言えば、家はあったし、人もいたし、木々もあった。
ただし、家は全て家としての外観は残っておらず、残骸についた火がめらめらと燃えていた。
木々もあったが、青々とした葉は全てなくなり、こちらもめらめらと火が燃えてあたりを照らしていた。
そして、人はピクリとも動かず、それどころか息もしておらず、人としてのカタチすら残っていなかった。
「…………」
嘘だ。こんなの嘘だ。
だって、だってそうだろう?さっきまでのあれは夢で、僕の悪夢で、だから人が死んでるなんてことがあるわけがないし、家が全て壊されてるなんてこともないし。
「……父さん、母さん、リン……」
夢なんだ、これもきっと夢なんだ。そうだ、そうに違いない。
そう思いながら、僕の足はひたすら僕の家に向かっていた。
そうだ、これは夢で、もし、仮に夢じゃなかったとしても、きっと父さん立ちは無事で、今も僕の帰りを待ってるんだ……
でも、僕がたどり着いた場所に、僕の家はなくて、
「あ……」
まるで僕を待っているかのように家の残骸の壁にもたれかかっている母さんとリン、そしてそれをかばうかのように覆いかぶさっている父さん。
体中から血を流していた。
「ああ……!」
「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
この数刻後、世界は桃色の魔力に包まれ、魔王は世代交代した。
この世界に住まう魔物は女の姿を持ち、人と寄り添うようになっていった。
村の人は優しくて、親しい友人もいて、何より家族がいた。
父と、母と、それと妹と。
父は厳格でありながらも、それだけではなく、優しかったし、母はおっとりとしていて、しかしいざというときは家族を包み込むような優しさがあった。
妹はいつも僕の後ろをついてくるような子で、人見知りが激しく、何かがあればすぐ僕の後ろに隠れるような、そんな子だった。
そんな家族や、時に喧嘩したり、時に一緒に馬鹿をやったりする友人もいて、温かく見守る村人がいて……
幸せだったんだ、そう……あの日までは……
「逃げろ!!魔物の群れだ!!」
どうして、こんなことになったんだろう……
「女子どもは早く避難させろ!!早く!早く!!」
「待って!私の子どもがいないの!!どこにもいないの!!」
「諦めろ!!もう間に合わない!!」
空を埋め尽くすのは黒い影。
その影、ハーピーなどの飛行型の魔物は地面へ向かって急降下してくると、その鉤爪のような足を使って村人を持ち上げ、はるか上空から地面へと落とす。
「く、来るな!来るなぁぁぁぁぁぁ!!」
地面を埋め尽くすのは異形の群れ。
オーク、ゴブリン、リザードマンなど。
それらの全てが、村人を殴り殺し、切り裂き、まるでゴミのように村人の死骸がうち捨てられる。
「どうして……どうして……!」
僕が隠れている、最早廃屋となってしまった家の近くで、又誰かが殺される。
男、女、大人、子どもなどは一切関係ない。
魔物の目に付いた人から、次々と殺される。
魔王軍の人間狩り
そう称された、魔物の虐殺劇だ。
今まで数多くの村や町が人間狩りによって滅ぼされた。
そしてとうとう、この村が人間狩りの対象となったのだ。
「どうして……さっきまで、さっきまでは……!」
そう、さっきまでは平和そのものだった。
村人のほとんどは農作業に従事して汗水を流し、子どもは友人と一緒に遊びまわっていた。
そんな当たり前のはずだった平和が、つい数十分前に破られてしまった。
僕は必死に逃げた。
そのとき一緒に遊んでいた友人と一緒に逃げたはずだけど、いつの間にかはぐれて、それでも一人で逃げた。
逃げて、逃げて、とにかく逃げて、僕は今、この廃屋に隠れている。
「夢だ、これは……夢なんだ」
現実逃避。
僕は子どもだ。こんなむごい現実を受け入れられるほど、僕は強くない。
故に僕は現実逃避する。
これは夢で、それも飛びっきりの悪夢で、きっともうすぐ目が覚めるんだ。
そしたらそこは僕の部屋の僕のベッドで、僕はひどい寝汗をかいてて、でも今までの出来事が夢だったことに安堵するんだろう。
だからそう、これは夢だ、夢なんだ、早く覚めてよ、夢なんだろう?だから早く!早く覚めてよ!
そう願ってるのに、これは夢なはずなのに……どうして、どうして!
「どうして……覚めないんだよぉ……」
どうして、村人の悲鳴がこんなに耳にこびりついて離れないんだよぉ……
「……あれ、僕は……」
気がつくと、周りがやけに暗かった。
どうやら眠っていたらしい。
「……眠ってた?」
そう、僕は眠っていた。
そして今起きたんだ。だったら……
「夢、だったの……?」
耳を澄ますと先ほどまで聞こえていた悲鳴やら、怒号は一切聞こえない。
ただ風が吹く音しか聞こえなくなっていた。
「はは……っはははは……」
なんだ、やっぱり夢じゃないか。
そうだよ、あんなことがあるはずないじゃないか。
ここは自分の部屋じゃないけど、きっと遊んでる最中に寝ちゃって、だから僕はこんなところで寝てたんだ。
きっともう遅いんだろうな、だってすごい静かだ。
父さんや母さんはきっと心配してて、帰ったらきっと父さんにすごく怒られて、ああ、ゲンコツを食らうかも。
妹はいつも僕の後ろについてきてるような子だから、きっと僕がいないって泣いてて、今は寝てるけど、明日になったらまたものすごく泣いて僕に抱きついてくるんだろうなぁ。
「そうだよ、だから帰らなきゃ……」
そのとき、僕は気づいていたんだ。
でも気づかない振りをしてた。
あまりにも静か過ぎたんだ。
でも、僕は気づかない振りをして、家に帰ろうと廃屋の扉を開けた。
「……え?」
何もなかった。
人も、家も、木も、何もかも。
正確に言えば、家はあったし、人もいたし、木々もあった。
ただし、家は全て家としての外観は残っておらず、残骸についた火がめらめらと燃えていた。
木々もあったが、青々とした葉は全てなくなり、こちらもめらめらと火が燃えてあたりを照らしていた。
そして、人はピクリとも動かず、それどころか息もしておらず、人としてのカタチすら残っていなかった。
「…………」
嘘だ。こんなの嘘だ。
だって、だってそうだろう?さっきまでのあれは夢で、僕の悪夢で、だから人が死んでるなんてことがあるわけがないし、家が全て壊されてるなんてこともないし。
「……父さん、母さん、リン……」
夢なんだ、これもきっと夢なんだ。そうだ、そうに違いない。
そう思いながら、僕の足はひたすら僕の家に向かっていた。
そうだ、これは夢で、もし、仮に夢じゃなかったとしても、きっと父さん立ちは無事で、今も僕の帰りを待ってるんだ……
でも、僕がたどり着いた場所に、僕の家はなくて、
「あ……」
まるで僕を待っているかのように家の残骸の壁にもたれかかっている母さんとリン、そしてそれをかばうかのように覆いかぶさっている父さん。
体中から血を流していた。
「ああ……!」
「うわあああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
この数刻後、世界は桃色の魔力に包まれ、魔王は世代交代した。
この世界に住まう魔物は女の姿を持ち、人と寄り添うようになっていった。
11/02/16 16:37更新 / 日鞠朔莉
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