連載小説
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裸エプロンを来た奥さん
「あなた、そろそろご飯が出来ますよ」

 素肌の上にエプロンだけを身に着けたエバが、奥に向かって声をかける。この時彼女はそれまでいた寝室とは別の部屋――火の灯った暖炉の前に立っており、その手には小さな鍋とフライ返しが握られていた。
 そのエバの元に、声を聞いた男がゆっくり近づいてくる。
 
「あなた、か……実際言ってみると、ちょっと照れくさいかな……」

 こちらにやって来る男を見つめながら自分の言葉を反芻し、気恥ずかしそうにエバが呟く。そのエバの隣に男が到達し、エバの肩にそっと手を置く。エバはそれに驚き一瞬身を強張らせるが、すぐに体の力を抜き、男に向けて自然な笑みを浮かべる。
 
「大丈夫。僕、今とっても嬉しいんだ……こんな形でも、君のお嫁さんになれて」
 
 新婚夫婦。それが男の求めたプレイ内容だった。エバも男も相思相愛の関係であり、同棲もしていたが、まだ婚姻を結んだわけではない。最近色々と忙しく、時間的余裕が無かったのだ。
 だから男は、こういうことがしたいと正直に言った。正式に夫婦の間柄になる前に、ちょっとだけその感覚を味わっておこうという魂胆だ。エバもそれを受け入れ、進んでそれに協力した。彼女が使っている暖炉も調理器具も彼らの家の物だし、鍋の中には実際にエバの作った料理が入っていた。力の入れようが違った。
 
「ところで君は、どう呼ばれるのがいいのかな? あなた? それとも旦那様?」

 男の手の感触を肩で感じながら、エバが期待に満ちた声で問いかける。男は少し悩んだ後、自然に笑いながら「あなたがいい」と答えた。
 
「了解」

 エバもまた自然に笑い返す。場の空気が弛緩し、和やかな雰囲気に包まれる。
 その空気を肌で感じながら、エバがしみじみと呟く。
 
「なんだか、こういうのっていいね。上手く言えないんだけど、心が暖かくなるっていうのかな」

 エバの顔が朗らかに綻ぶ。男もそれに頷く。
 この人と一緒になれてよかった。二人は同時に、同じことを思った。
 
「これからもよろしくね、あなた」

 隣にいる男の気配を感じながら、エバが続けて声をかける。男も頷き、エバの肩に置いた手に力を込める。それから暫し、二人でこの空気を味わう。
 しかしほのぼのな世界で終わらせる気は、当然ながら二人ともなかった。やがてエバの肩に乗っていた男の手が、するすると肌の上を滑って降りていく。
 
「あっ……もう、あなた? 私いまお昼ご飯を作ってるんですけど?」

 二の腕から腋の下を通り、親指を除く四本の指で剥き出しになった鎖骨を撫でる。嫌らしい男の手の動きに、妻と化したエバが注意を入れる。既にプレイは始まっていた。男もまた新妻の注意を無視して――そして予定通りにエプロンの隙間に手を入れ、ふくよかに膨らんだ乳房を直接揉みしだく。
 
「うん……ふっ、くうっ……」

 胸を揉まれたエバが声を押し殺す。彼女なりに貞淑な妻を演じようとしていた。
 本当は今すぐにでも男を押し倒し、欲望のままに交わりたかったのだが。それは今はお預け。エバは男のリクエストに忠実に従い、己の役割をこなした。
 
「いや、だめ……声、もれちゃう、ふっ、うん……」

 今は君を食べたい。男がそう囁きながら、その指で容赦なく胸を弄り倒す。柔らかく暖かい乳房を力任せに握りしめ、掌で乳全体を優しく撫で回す。桜色の突起が掌と擦れるたびに、エバの口から甘い悲鳴が聞こえてくる。
 
「もう、変態、なんだから……やん!」
 
 おっぱい敏感なんだね。上から覆い被せるように手で乳房を掴みつつ、男が尋ねる。エバは抵抗を止め、鍋を空いた場所に置き、安全を確保した上で何度も頷いた。
 
「はい……あなたの手でおっぱいいじられるの、とっても好きです……」

 そして目元に涙を溜め、潤んだ瞳で男を見つめながらエバが答える。本当は男が触ってくれるならどこでも大歓迎なのだが、今はそういうことにしておいた。
 一方でそれを聞いた男はますます興奮した。恥じらいと悦びの入り混じったエバの表情が、男の欲望の火に油を注いだ。もっとエバを辱めたい。もっと可愛い声を聞きたい。嗜虐心をくすぐられた男は一旦乳房から手を離し、彼女の背後に回った。
 
「あの、あなた? 何を……きゃん!」

 突然のことに戸惑うエバが、その直後可愛らしい悲鳴を上げた。彼女の後ろに回った男が、エバの双丘を両手で鷲掴みにしたのだ。さらにそこから間髪入れずに、エバのたわわなおっぱいをぐにぐにとこね回した。
 魔物化に伴い肥大化した胸から、快楽の電流が絶え間なく流れていく。それが脳を痺れさせ、思考能力を鈍化させる。後に残るのは浅ましい肉欲だけだ。
 
「あっ、あっ、あっ、いい、うれしいっ、そこっ、そこ、つよくっ、いひいいん!」
 
 小刻みにテンポよく、エバが喜びの声を上げる。口の端から涎を垂らし、瞳から理性の輝きが消えていく。
 そこに男が追い打ちをかける。可愛い。たまらなく可愛い。エバの耳元で男が連呼する。
 
「ひゃっ、しょんなっ、かわ、かわいい、なんてぇ……うひっ、ひぃいん!」

 可愛いよエバ。素敵だエバ。男の愛の囁きがエバを壊す。貞淑な妻の化けの皮が剥がれ、角を生やした性欲の悪魔がその本性を表していく。今やエバの顔は快楽でドロドロに蕩け、歓喜によって溢れる涙と鼻水と涎でぐしゃぐしゃに汚れていた。
 
「あっ、あっ、へええっ……」

 快楽の泥沼に沈み、満足に声も出せない。エバの精神は幸せでふやけ、感情のダムは結界寸前だった。
 ひび割れた壁に男がトドメを刺す。
 愛してるよ、エバ。

「――ひいいいいいいんん!」

 おとがいを上げ、エバが絶叫する。股から潮を噴き出し、太ももとエプロンをはしたなく汚していく。
 そして決壊した感情と飛翔した精神が元に戻るまで、エバは望外の喜びに身を震わせた。
 
 
 
 
 おっぱいだけでイっちゃったね。
 
「……ばか」

 エバが絶頂を迎えてから数分後。二人は立ったまま向き合って呼吸を整えていた。そして妻をイかせた達成感から嬉しそうに声を上げる男に対し、エバはそっぽを向いて悪態をついた。絶頂直後のアルプの顔は真っ赤に茹で上がり、涙とも涎ともわからぬ液体がなおもあちこちにへばりついていた。
 その粘性の液体を優しく拭いつつ、男が次に進みべきか問う。どうする? もう挿れる?
 
「……うん」

 顔を拭う男の手に自分の手を重ねながら、エバが小さく頷く。
 
「僕も欲しい。あなたのモノを、僕にも食べさせて……?」
 
 か細く、しかしはっきり熱の籠められた妻からの告白。興奮しないはずが無い。それを聞いた男がその場でゆっくり後ろに倒れ、エバもそれに合わせる。
 男の背中が床につき、エバが男の上で馬乗りの格好になる。それからエバが男の服をゆっくり脱がしていき、大好きな夫の裸体を露わにしていく。
 
「僕はもう濡れてるけど、あなたの方はどうかな?」

 そうして男の上半身を完全にはだけさせた後、期待に胸膨らませたエバがズボンに手を掛ける。男も僅かに腰を浮かせ、エバが脱がせやすいように配慮する。
 二人の共同作業。そのおかげで、男のズボンはいとも容易く脱がされた。同じように下着も取り払われ、そこからエバの望んだ物が顔を出す。
 
「……わあ」

 予想通り、男の分身は既に戦闘準備完了だった。表面に血管を浮き上がらせ、剥き出しの亀頭を瑞々しく濡らし、天に向かって雄々しく屹立したそれを見て、エバの顔が輝きを増す。
 
「硬くて太くて、いい匂い……はあ……」

 肉の棒に細い指を絡ませ、鼻腔を広げてそれの放つ臭いを大きく吸い込む。ああ、何度見ても美味しそうなおちんちんだ。
 逞しくガチガチに勃起した男の象徴を前にして、エバが陶然と息を吐く。自然と涎が溢れ出し、頭の中が肉棒のことで埋め尽くされる。
 もう無理。はやくいれたい。いれたいいれたいいれたい。
 
「ねえ、あなた……その……もういいよね?」

 濡れ場に疎い妻であろうと、慎重に言葉を選んでエバが問う。この期に及んで彼女は再び貞淑の皮を被ろうとしていた。
 しかしそれも、全ては男の要求に応えたいが為。健気なエバの献身を前に、男は心の底から喜びが溢れ出すのを感じた。
 だから男は、最後までそれに甘えることにした。ここで中途半端に気を遣ったりしたら逆に失礼だ。男はそう考え、エバの問いに静かに頷いた。
 好きなだけ動いていいよ。男はエバにそうも告げた。それを聞いたエバは驚いた。
 
「いいの?」

 驚いたまま、すぐに確認を取る。男が再度頷く。そこでエバが男の意図を察する。
 
「……わかった。絶対満足させてあげる」

 同時にやる気が満ち満ちてくる。何が何でも夫を喜ばせる。妻は燃えた。燃え滾る心のまま、エバは腰を浮かせて狙いを定めた。その後エプロンをずらし、濡れそぼった陰唇を見せびらかす。そこから腰を僅かに下げ、それと亀頭がギリギリ触れ合う位置まで持って行く。
 雄と雌の肉がフレンチキスを交わす。くちりと音を立て、二人の粘液が混ざり合う。
 その体勢のまま、とびきり蠱惑的な笑みを浮かべてエバが宣言する。
 
「覚悟してくださいね、あなた♪」

 そして相手の承諾を待たず、一息に腰を降ろす。肉棒が吸い込まれるようにエバの中に進入し、膣内の襞の一枚一枚が一斉に剛直に絡みつく。
 
「ひぐうっ! ……ふうううっ、あっ、はっ、はあ……」

 挿入直後、エバが静かに達する。目と口を大きく開き、唾液に塗れた舌を突き出す。その後何事もなく表情を澄まし、気を落ち着けようと呼吸を整える。
 
「ああ、はあ、あ……はいっ、ちゃったあ……」

 やがて息も落ち着き、幸せそうに微笑みながらエバが言葉を漏らす。目から歓喜の涙を流し、片手を使って下腹部を愛しげに撫でる。
 
「わかる? 僕の中にあなたがいるの。僕とあなたが一つに繋がってるんだよ……?」

 そして感慨深げに呟く。結合自体はこれまで何度もしてきたが、改めて言葉で説明されると「来る」ものがある。
 興奮が肉欲と直結し、下半身への血流が活発になる。肉棒がより硬さを増し、エバの襞を押し潰し膣内を容赦なく圧迫する。
 
「きゃん! ま、また硬くなった……!」
 
 その内側から蹂躙される感覚を味わったエバが喜びの悲鳴を上げる。体が震え、その振動でエプロンを膨らませていた乳房がぷるんと揺れる。
 しかしエバは動じない。寧ろ男の愚息の元気な姿に感動すら覚え、もっと彼を喜ばせたいと奮起する。
 
「もう、暴れん坊なんだから……でも、あン、もっと暴れさせてあげるっ、んだからあ……っ」

 喘ぎながらエバが告げる。そして言葉通り、男の眼前で腰を振り始める。
 
「うっ、あん、ふうっ、うう……っ」

 くちゃ。くちゃ。ぬちゃ。ゆっくりとした速さで腰を振ったために、結合部分から聞こえてくる水音も穏やかなものだった。エプロンを盛り上げる双丘もお淑やかに揺れ、たぷんたぷんと軽やかに上下していた。
 
「どう? ン……あなた、気持ちいい? あっ、うふっ……僕、あなたのこと、満足させられてるかな……?」
 
 男はその鈍重な動きに文句を言わず、エバもペースを変えようとしなかった。代わりに男は妻の控え目な問いに最高だよと答え、それを証明するために優しく微笑む。エバはそれを見て「良かった」と答え、太陽のように明るい笑顔を浮かべながら言葉を返した。
 
「こんな私でも、あなたを気持ちよく出来るんだ……あ、あっ、あンっ……ふふっ。またおちんちん、びくんって跳ねたよ……?」
 
 性に疎く、勝手を知らない若奥様。それが今のエバの想像する妻の姿だった。慣れないエッチで夫を喜ばせることが出来た。それがたまらなく幸せである。魔界軍師は夜における新妻の思考回路をそう推測し、実践していた。初々しい人妻は裸エプロンなど絶対しないという意見はこの際置いておく。
 そして妻を演じながら、無意識のうちにエバの心が言葉を紡ぐ。
 
「でも、うれしい……っ」

 何が? 反射的に男が問う。エバが男を見つめ、微笑みながらそれに答える。
 
「だって、昔のままだったらこんなこと、ンっ、出来なかったんだよ? でもぉ……っ、今はこうして繋がっていられる……」

 昔のまま。それを聞いた男の思考がプレイから抜け出す。そして彼の脳裡で、こうなる前の情景が走馬灯のように駆け巡る。まだ人間だった頃のエバと自分の関係を改めて思い返す。
 快楽に揉まれる中で、エバも同じ風景を見つめていた。そして叶うはずのない願いが叶ったことに感謝の念を抱き、その感情のまま言葉を続ける。
 
「僕、嬉しいんだ。あなたと……君と、一つになれてぇ……っ!」

 エバは演技を放棄していた。その台詞は新妻という設定から逸脱した、ウソ偽りのない「彼女」の本心だった。
 
「好きです……大好き……!」
 
 男はそれを責めなかった。妻から――大好きなエバからそんなことを言われて、冷静でいられるはずが無かった。
 
「ひゃん!」

 男が自分から腰を持ち上げ、剛直を勢いよく突き上げる。亀頭が子宮口に激突し、不意を突かれたエバが一瞬白目を剥く。
 
「はへ、ひぃ、何を……?」

 すぐに意識を取り戻したエバが怯えるように問う。男がそれを無視し、同じ勢いのまま再度腰を突き上げる。
 子宮口と亀頭が再度ぶつかる。性器同士がディープキスを交わし、快感が全身の細胞を震わせる。
 
「ほおおおおおおおっ!?」

 一突きでエバが絶頂する。顎を持ち上げ口を尖らせ、舌を伸ばして目玉を引んむく。無様なイキ顔を晒し、理性が快楽で塗り潰される。
 愛する人からの奇襲攻撃の前に、エバの脳味噌はあまりに無防備だった。そこに男の追撃が入る。
 好きだ。エバ。
 
「は、しょんな、いきなり――ひィん!?」
 
 間髪入れずに男のラッシュが始まる。唐突な告白に対するエバの言葉が快楽に上書きされる。
 ばちん! ばちん! 男の股関節とエバの尻が激しくぶつかり合う。何度も何度も衝突し、無慈悲に快感を送り込む。エバの理性はそれに対して簡単に白旗を上げた。
 あとは肉欲に飲まれ、蕩けるだけだ。
 
「あ、あちゅいっ! かちゃいっ! きみのちんちんっ、のーみしょにひびくうううううっ!?」

 言葉が溶ける。脳味噌がふやけて思考がぐしゃぐしゃになる。言葉尻が跳ね上がる。一突きごとに頭に電流が走り、視界が真っ白になる。
 嬉しい。幸せ。愛してる。それ以外の感情が全て吹き飛び、もっと欲しいと貪欲さを増す。
 
「もっろ、もっろついてっ! しきゅうついてっ! ガチガチおちんぽで、ぼくをこわしてえええええっ!」

 絶叫する。セックスに支配された獣が雄叫びを上げる。男が獣の心についた火に油を注ぐ。
 
「染まってる! そまってるっ! 僕が君でそめられてるっ! 君に征服さりぇてりゅうっ!」
 
 アルプが幸福の中で叫ぶ。男が呼応するように吠える。腰を振るスピードが上がる。水音が激しくなり、周囲に容赦なく飛沫が飛ぶ。
 やがて限界が訪れる。
 
「すきっ! すきっ! あいしてましゅっ! あいして――」

 想いの丈をぶちまけ続けるエバの膣内に灼熱が迸る。
 
「ひっ」
 
 息をのむ。白いマグマが鈴口から吐き出され、子宮を蹂躙する。
 
「――ぃいいいいいいいいいいいいんん!?」
 
 火傷しそうなほどの熱を腹部に感じ、エバの精神が飛翔する。絶頂の衝撃が全身を襲い、電気ショックを食らったようにガクガクと激しく痙攣する。バネ仕掛けのように頭が跳ね上がり、天井を見つめながら吼え狂う。
 
「あっ、あっ、あああああああああああ!?」
 
 その爆発は断続的に続いた。一度では処理しきれない量の快感が一気に脳を襲い、それに対処するためにエバは幾度も絶頂する羽目になった。イってもイっても波は収まらず、精神が灰になるまでイキ続けた。
 
「また、またイク! 素敵ッ、またイケる! 愛してくれるッ!」
 
 エバは男の精によって淫獄に突き落とされた。彼女はそれを心から楽しんだ。
 それだけ男の愛が深いことを知っていたからだ。エバは男からのプレゼントに感謝し、欠片も漏らさぬようしっかり咀嚼して味わった。
 脇目も振らずにイキまくった。
 
「あッ、ひッ! いッ! ……ひッ、ひッ……!」
 
 数分経ち、ようやく心が落ち着く。そして悦びを全て吐き出した後、エバの心はそれまでの反動から来る倦怠感で包まれた。
 それは心地の良い疲労。至福の余韻だった。
 
「い、いひぃ、しゅてきぃ……」

 呂律の回らなくなった口で、エバがぽつぽつと言葉を漏らす。
 新鮮な精子が子宮で暴れている。熱々の精液が自分の中で跳ねまわっている。
 男の愛を体内に宿し、その感触を確かに味わう。彼女の心は天国にあった。
 
 
 
 
「……ちょっとやりすぎちゃったかな」

 最初から飛ばし過ぎたか。プレイを終えた後、エバは苦笑いしながら男に尋ねた。この時二人は寝室に戻って仲良くベッドに腰かけ、互いの肩を抱き合って身を寄せていた。全裸なのは言うまでもない。
 そんな格好の中で、男はエバの言葉に耳を傾けていた。そしてエバの問いに対し、そんなことは無いと首を横に振った。
 もっと激しくしてもいいくらいだ。男はそうも言った。彼は完全に魔物の価値観に毒されていた。
 
「そっか。君がそう言ってくれるなら、僕も安心だよ」

 エバもまた、彼と同じ価値観の下に生きていた。魔物娘故当然である。そんなエバに、男が耳元で声をかける。
 
「えっ? もう次がやりたいの?」

 新しいプレイがしたい。男の求めを聞いたエバは最初驚いた。まだ休み始めてから一分も経っていない。
 
「大丈夫なの?」

 覗き込むようにエバが問いかける。男は自信満々に笑い、準備万端だよと力強く言った。
 それがエバの躊躇いを氷解させた。
 
「――わかった。それじゃあ新しいことしようか」

 満面の笑みを浮かべてエバが言った。先の絶頂の衝撃からは完全に持ち直していた。魔物娘たるもの、この程度で壊れるほどヤワではない。
 
「じゃあ、次は何にする? 君の好きなものでいいよ」

 数分で完全復活したアルプがにこやかに「第二回戦」を要求する。エバと共に人の道から外れた男も、そこに何の躊躇いも抱かずに彼女の求めに応えんとする。
 二人の視線が、同時に衣装の詰まった袋に向けられる。夜はまだ始まったばかりだ。
18/03/15 21:30更新 / 黒尻尾
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