連載小説
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敵国に囚われ尋問を受ける女兵士
「こんなことしたって無駄だよ! 僕は絶対負けないから!」

 狭く、窓のない閉め切られた石造りの部屋の中に、エバの声が虚しく響く。その部屋にはエバと壁に据えられた蝋燭以外には何もなく、そして赤く燃える蝋燭の灯が、今のエバの姿を煌々と照らしていた。
 エバは防具を身に着けていた。それも重々しい金属鎧ではなく、動きやすさを重視した革製のものである。その上さらに俊敏さを高めるために、下半身は丈長のズボンの上から腿当てを装備しているだけであった。腰に提げている武器が小振りの短剣であることもまた、今の彼女が機動性重視の装備をしていることを言外に示していた。
 そんな軽装備を身に纏ったエバは、現在手枷を付けられ拘束されていた。さらにその枷は天井から伸びた鎖と繋がり、好き勝手動けないようになっていた。
 
「くっ! この……っ!」

 嫌らしいことに、天井から伸びた鎖はエバの爪先がギリギリ床につく高さに設定されていた。おかげでエバは自分の足で立てるか立てないか微妙なラインで浮かされ、余計に体の自由を奪われる結果になっていた。地に足をつけようと足掻くほど体が前後左右に揺れ、そこから元いた場所に戻ろうとして余計に体力と集中力を浪費する。
 そうしてエバを消耗させ、ここから逃げ出す意欲そのものを減衰させていく。それがエバに施された拘束の真意であった。しかし悲しいかな、脱出と直立に躍起になっていたエバにそこまで思考を巡らせる余裕はなく、彼女は完全に敵の術中に嵌っていた。
 今はそういう設定だった。
 
「ああもう、なんでこんな中途半端な長さにするのかな。これじゃ全然逃げられないよ……!」

 苛立たしげにエバが言葉を漏らす。その間も彼女の体は振り子のように小刻みに揺れ続け、彼女から冷静な判断力と思考能力を奪っていく。浅はかなエバはそのことに気づくことなく、一刻も早く逃げ出そうとなおも体を揺らし続ける。
 不毛であった。
 
「えっ?」

 この部屋に唯一ある鉄製の扉が重々しく開かれたのは、まさにその時であった。ドアと壁を繋ぐ金具が擦れて鳴り響く金切り声に気づいたエバが、咄嗟に動きを止めてそちらに意識をやる。
 エバの揺れが止まる。そしてほぼ宙ぶらりんの格好になったエバの所へ、扉の奥から一人の男がやってくる。
 革のズボンを履き、腰から上は何も着けず、上半身裸になった細身の男。
 
「くっ、絶対に負けないぞ……!」

 これから自分がどうなるのか。エバは嫌と言うほど想像できていた。
 
 
 
 
 敵国に囚われそこで尋問を受け、最初は抵抗するも結局快楽に負けて敵側の雌に成り下がる兵士の少女。
 それが第二回戦をやるにあたって男が望んだシチュエーションだった。当然ながら捕まる役はエバで、彼女を尋問するのが男だった。それを聞いたエバは即座に首肯せず、代わりに「ふうん」と声を上げた。
 
「君、そういうのに興味あるんだ。ちょっと意外かな」

 嫌だから渋ったのではない。純粋に驚いたから、承諾する前に感想を述べただけである。
 しかし当の男はエバの反応を見て、違う意味で危惧を抱いた。自分の性癖に関して何か誤解されているのではないかと思ったのだ。そしてすぐさまエバに対し、これはあくまでそういうのもやってみたいというだけであって、そういうプレイが特別好きと言うわけではないと弁明した。
 
「わかってる。大丈夫だよ。それくらいわかってるから」

 そんな男の必死な姿を見たエバは、思わず苦笑した。「この人」は他人をいたぶって喜ぶような人間ではない。彼女は誰よりそれを分かっていた。
 
「大丈夫。僕はちゃんとわかってるよ」

 狼狽する男の目をまっすぐ見つめながら、エバが慈愛の微笑みを湛えて言い放つ。愛する人からそう断言された男は自然と心を落ち着かせていき、一方のエバは体の力を抜いていく男を見つめたまま言葉を続けた。
 
「でも、君がそれを望むなら、僕は喜んでやるよ」

 躊躇のない、確かな意志の込められた言葉。そこから強い決意を感じた男は、思わず息をのんだ。
 いいのか? 恐る恐る男が尋ねる。エバは満面の笑みを浮かべ――ついでに体から魔力を放出させ、男の問いに答えた。
 
「君の喜びが僕の喜びだから」

 エバの魔力が男に纏わりつく。愛の力が男の理性を引きはがす。
 献身と狡猾の軍師が駄目押しの一撃を放つ。
 
「僕を好きにしていいのは、君だけなんだよ?」

 刹那、男の中から躊躇いが消えた。
 
 
 
 
 そして今。エバは男のリクエスト通り、冷たい石の部屋の中で体の自由を奪われていた。服装は他の騎士仲間から貰い受けたものであったが、部屋の方は二人がそれまでいた所をエバが魔術で作り替えたものだった。どういう原理で何をしたのか男は気になったが、エバが「話すと長くなるよ?」と言ってきたので、この場で深く追求することはしなかった。
 今はそんなことよりプレイ優先だ。エバも男も同じ気持ちだった。
 
「……悪いけど、話せる情報は一つもないよ。拷問するだけ無駄だね」

 早速エバがロールプレイを開始する。目の前に立った男――敵国の拷問官を鋭く睨みつけ、不敵な笑みを浮かべて啖呵を切る。対して男は悔しがる素振りも見せず、ただニヤニヤ笑ってエバの肢体を舐め回すように眺めた。
 
「そんなに見つめないでくれる? 気持ち悪いな」

 嫌悪感たっぷりにエバが吐き捨てる。本当は男から邪な視線を向けられて躰が昂り始めていたのだが、ぐっと我慢する。堕ちる前からもっとジロジロ見て、などとは口が裂けても言えない。
 対して我慢していたのは男も同じだった。いつもの露出の激しい煽情的な格好も良いが、今身に着けている実用性重視の服装もまたグッドだ。
 本当に可愛い。自分の嫁は何を着てもエロい。様になる。天使だ。男は今すぐにでも彼女を褒め称えたい気分だった。しかしそこをこらえて、男が演技を再開する。
 そういうプレイがしたいと言ったのは自分自身だ。ならば貫徹せねば。
 
「ふん。浮ついた台詞なんて聞いても嬉しくないよ」

 美しい女だ。その拷問官の言葉に、エバが真っ向から反論する。眉間に皺を寄せ、本気で拒絶の意思を見せる。エバは完全に役になりきっていた。
 その一方、これからどんなことをされるんだろうと期待もしていた。こういうことがしたいと男は言ってきたが、具体的に何をしたいかまでは教えてくれなかったのだ。
 そうして胸膨らませるエバに、早速男が応えた。
 
「あっ」

 男がエバの尻へ手を伸ばす。硬く太い指が小振りのヒップを掴み、ズボンを盛り上げる柔らかな肉に深々と食い込む。
 五本の指と掌が、エバの尻を嫌らしく撫でる。男の熱がズボン越しに伝わり、それがエバの神経を揺さぶる。
 
「ンっ……」

 揉まれた尻から甘い電流が走る。脳が軽く小突かれ、艶めいた声が漏れる。
 その後すぐに我に返る。自分の口から漏れ出た声に驚き、エバが咄嗟に口を噤む。唇をきゅっと閉じ、これ以上反応しないと意思表示する。
 しかし男はそれを聞き逃さなかった。敏感だな。ニヤニヤ笑って男が言う。
 
「そ、そんなことは!」

 反射的にエバが反応する。男が構わず言葉を続ける。
 恥じることは無い。それがお前の本性だ。
 抵抗するな。素直になれ。もっと淫乱になれ。
 
「違う! 僕は淫乱じゃない!」

 エバが力強くそれを否定する。そのまま男の反論を遮るようにエバが言い放つ。
 
「僕は淫乱じゃない、兵士だ! お前達の侵略から祖国を守るために戦う戦士だ! お前なんかと一緒にするな!」

 女兵士が叫ぶ。必死の形相だった。自分はそうであるべきだと、死に物狂いで自分自身に言い聞かせていた。
 強情な奴め。だがそれだけ堕とし甲斐がある。男は酷薄な笑みを浮かべた。そしてもう片方の手を伸ばし、両手でエバの尻を掴んだ。
 また揉まれる。そう思った咄嗟にエバが口を閉ざす。しかし男は、彼女の思惑通りに動かなかった。
 
「え? ――うわっ!」

 男は尻を掴む手に力を込め、その場でエバを回転させた。エバの手枷と繋がっていた鎖は、さらに天井に付けられた金具と繋がっており、その金具は自由に回るように出来ていた。
 そしてエバは地に足がついていない。抵抗は不可能だった。エバは男にされるがまま、そこで回転する羽目になった。
 
「きゃっ!」

 遠心力を全身で感じ、短く可愛らしい悲鳴がエバの口から漏れる。踏ん張ることも出来ない。どこで止めるか、決定権は男にあった。
 その回転を、男はすぐに止めた。エバが背中を見せたところで、彼はその細い腰に手を添えた。
 十本の指が鎧を捕らえる。動きが止まり、無防備な背中が男の視界に映る。
 
「な、なにをする……!?」

 肩越しに男を見ながら、エバが怯えた声を出す。男が視界から消えたことで、一気に恐怖心が湧き上がる。
 背後に男の気配を感じる。それ以外のことが全く把握できない。
 これから何をされるんだ?
 
「こ、姑息なことするんだね。でもこんなことで、僕は屈しないぞ……ッ!」

 しかしここで弱みを見せるわけにはいかない。そこに付け込まれたら取り返しのつかないことになる。だからエバは虚勢を張った。額から嫌な汗が流れ落ち、心臓は早鐘のように跳ね上がっていたが、それでも本心を悟られまいと必死だった。
 自分は誇り高き兵士。卑劣な拷問に屈してはならない。
 
「殺すなら殺せ! 僕はどんな拷問にも屈しない!」

 心を奮い立たせるようにエバが叫ぶ。男はそれを黙って聞いていた。それまでのエバの言葉にも反応しなかった。
 ただ彼はエバの背中を見つめていた。細く長い腕。無駄な贅肉のない、すらりと引き締まった美しい背中。そして眼前に突き出た、形の整ったぷりぷりのお尻。
 エロい。男の息が荒くなる。下半身に血が滾り、肉欲のままに下卑た笑みを浮かべる。エバが男の吐息を肌で感じ、全身に寒気を感じる。
 気持ち悪い。
 
「やめろ……! 僕をそんな目で見るな……!」

 女を捨てた兵士が、絞り出すような声で言う。男はスタンスを変えない。邪魔が入らないのをいいことに、美しく愛らしいエバの背中をまじまじと観賞する。
 実際この時、男はエバの背中に本気で見惚れていた。素肌は服で隠れているはずなのに、どうして背筋のラインだけで欲情出来てしまうのか。大好きな女性の反りを前にして、ズボンに隠された男のペニスは痛いほど硬度を増していた。
 このまま犯してしまいたい。鎖を外し、プレイを放棄し、二人で存分に愛し合いたい。男の中の一部分が声高に主張する。しかしその一方で、今はこの特殊な状況を存分に楽しむべきだと叫ぶ自分もいる。悩ましい二者択一だ。
 そして少しの逡巡の後、男は後者を選択した。せっかくエバが合わせてくれているのだ。最後まで付き合おう。
 
「やめろよ……なんとか言ったらどうなんだ……!」

 そこまで思考した時、エバの言葉が割って入る。彼女の台詞には自分が性的対象として見られていることへの羞恥と屈辱が入り混じった、嫌悪の感情が込められていた。
 それが男の脳をプレイに引き戻した。直後、男は気持ちを切り替え、エバの求めに応えることにした。
 エバの背後で、男がおもむろに右手を持ち上げる。後ろで何かが動いている。それをエバが察した瞬間、男の右手が勢いよくエバの尻目掛けて振り下ろされた。
 
「ひぃっ!」

 男の手がエバの尻を叩く。スナップの効いた一撃が、容赦なくエバの肉を打ちのめす。
 ちなみに手で叩くのを決めたのは男の方だった。エバは「鞭の方がそれっぽいよ?」と提案してきたが、男は素手を選んだ。どんな理由があろうと、エバに鞭を振るうのは絶対に嫌だった。
 閑話休題。鋭い衝撃が尻から全身に広がる。エバはたまらず悲鳴を上げ、すぐさま男に非難の眼差しを向けた。
 
「何をするんだ! いきなり叩くなんて!」

 肩越しに男を睨みながらエバが叫ぶ。男はそれを無視し、再び彼女の尻を叩く。
 
「ひゃん!」

 兵士の口から可愛らしい悲鳴がこぼれる。鎖で浮かされた体が揺れ、それに合わせてその形の良い尻も左右に揺れる。
 ズボンで隠された尻肉が目の前でふりふり動く。男の劣情を誘う媚びた動き、まさに娼婦の動きだ。
 それに触発されたように、男が続けてそこを叩く。
 
「あん! やめっ、ひぃん! あッ、そこッ、きゃァん!」

 何度も何度も叩きのめす。お構いなしに平手打ちを食らわせ続ける。
 その度に鎖が軋み、尻が揺れ、エバの悲鳴に甘いものが混じっていく。叩かれる度にエバの目元に涙が滲み、頬が紅潮し、半開きになった口から熱い吐息が漏れる。
 
「やッ、もうやめっ、やめてよ……!」

 そして十数回目の殴打の後、弱々しい声色でエバが漏らす。ズボンの股間の部分が独りでに湿りだし、水気が足首に向かって伸びていく。
 エバの痴態を見た男が手を止める。エバの体の揺れが収まり、再び宙ぶらりんの格好に戻る。
 その手枷の部分を掴み、男がエバの後ろから顔を寄せる。そして薄汚い笑みを浮かべながら、彼女の耳元で囁く。
 気持ちよかっただろう?
 
「なっ――」

 直後、エバが絶句する。男が畳みかける。
 気持ちよかったはずだ。気持ちよかったと言え。
 
「ふっ、ふざけるなっ。誰が気持ちよくなんか」

 上ずった声でエバがそれを否定する。しかし顔は赤さを増し、目は焦点が合わずあちらこちら泳いでいた。
 男はそれを見逃さなかった。嘘をつくな。気持ちよかったはずだ。エバの耳元で再び告げる。
 直後、エバの耳朶が真っ赤になる。エバの額からまた汗が流れ落ちる。
 
「違う。違う。僕は叩かれて喜んだりしない」

 覇気の無い声でエバが反論する。男がそれを否定する。
 認めろ。お前は叩かれて喜ぶ淫乱だ。
 
「違うっ。僕はそんな変態じゃない。淫乱じゃない――!」

 素直になれ。お前は変態だ。言いながら男がエバのズボンに手を伸ばす。そして躊躇うことなく、彼女の履くそれを一気にずり降ろす。
 
「ひっ――」
 
 白く瑞々しい尻が露わになる。素肌が外気に触れた瞬間、エバが甲高い悲鳴を上げる。
 
「やめろ! 脱がすなっ! 変態! 最低! 屑!」

 体を激しく揺さぶりながら、エバが立て続けに罵声を浴びせる。男はエバから顔を離し、その悪あがきをニヤニヤ見守っていた。
 そして暫く眺めた後、その剥き出しの尻を叩いた。
 
「へんたっ、にゃああっ!?」

 ズボン越しではない「生」の衝撃。それまで以上の痛みを感じ、エバは一際強く咆哮した。以前と同じく、そこには甘い気配が漂っていた。
 男は手加減しない。その悲鳴に気を良くし、エバの尻を叩き続ける。
 
「あン、ひぃン、やっ、きゅッ、ほおおっ!」

 何度も叩く。何度も叩く。エバの白い果実が真っ赤に熟れていく。熟すにつれて、エバの悲鳴にも艶が乗る。
 舌を突き出し、耳まで赤くし、涙を流して歓喜する。虐められることに悦びを感じる。
 男の欲望の捌け口にされている。そのことにたまらなく快感を覚える。
 マゾめ。マゾめ! 男が糾弾する。糾弾しながらエバの尻を叩く。
 叩かれる度にエバの口から吐息が漏れる。言い訳は不可能だった。
 
「あッ、ふッ、やッ、ふン……ッ!」

 やがて男が叩く手を止める。エバの尻は見事に赤く腫れあがっていた。熟した桃が、男の目の前でゆらゆら揺れていた。
 一方のエバは唐突に痛みが消えたことに対し、まず戸惑いを覚えた。戸惑いつつも、息を整えるので精一杯だった。
 体が熱い。興奮が収まらない。この昂ぶりは何なのか。エバはもう気づいていた。取り繕う余裕も無かった。
 
「あ、ああッ、やああっ……」

 認めたくない。最後の意地が脆い抵抗を試みる。そこに男が声をかける。
 気持ち良かったと言え。無慈悲な言葉がエバの胸を抉る。
 僕はぶたれて喜ぶマゾ豚ですと言え。男の言葉が耳を通る度、甘い電流が脳髄を駆け巡る。
 駄目だ。堪えろ。僕は兵士だ。
 
「ぼ、僕は――」

 エバの口が開く。理性が抵抗を試みようと、力を振り絞って口をこじ開ける。
 次の瞬間、男が再び尻を叩く。
 
「いいぃぃぃいん!」

 エバが絶叫する。理性が雲散霧消する。追い打ちをかけるように三度、続けて男が尻を叩く。
 肉が打ちのめされ、景気の良い音が三度鳴り響く。三度目の直後、陰唇から盛大に潮が噴き出す。絶頂を迎えたエバの秘所はぐしょぐしょに濡れていた。
 自分を解放しろ。抵抗はやめて楽になれ。エバの後頭部を掴み、男が促す。
 大丈夫。俺はお前の全てを受けいれる。
 さあ。
 
「……ぼく、は」

 それが引き金になる。僕のような変態を、どうしようもない駄目な人間を受け入れてくれる。
 エバの心が溶ける。壁が崩れる。理性と欲望が一つに絡み合う。
 
「ぼくは……僕は、マゾ豚です……!」

 そして陥落する。
 
「僕は変態ですッ! 敵にぶたれて喜ぶ、マゾの雌豚ですッ!」

 一度崩れれば、後は為すがままだ。
 
「もっとぶって! もっと叩いて! お仕置きしてッ! 僕をいじめてえぇッ!」

 ――もう少し溜めた方が良かったろうか。ノリノリで演技する一方、心の隅でエバがそんなことを思う。
 そしてすぐに気持ちを切り替える。ここは整合性よりテンポ優先だ。
 この間一秒未満。思考を雌豚に切り替える。
 
「はやくッ! 早くッ! もっと僕を躾てよおぉッ!」

 完全に屈服したエバがあられもない声を上げる。嫌らしく尻を振り、股間から飛沫をまき散らし、本能のままに叫び狂う。
 もはやそこに、誇り高き兵士の姿は無かった。エバにとってはもうどうでも良かった。
 
「お願い! お願いお願いいぃぃぃ!」

 ――わかった。
 懇願を受け、男が頷く。そして男はエバから顔を離し、おもむろにズボンを脱ぎ始めた。
 数秒後、男がズボンを脱ぎ捨てる。全裸になった男は無駄のない精悍な肉体を惜しげもなく晒し、股間から雄々しく伸びた肉棒もまた恥じらうことなく見せつけた。健康的な逞しさと性的な猛々しさが同居した、完璧な肢体だった。
 後ろ向きにされたエバは、その肉体美を観賞することが出来なかった。しかし男の持つ陰茎の気配――それの放つ雰囲気や匂いには、エバは敏感に反応した。
 次に何をされるのか。聡い雌豚女兵士はそこにも気づいた。
 
「ああ、入れるんですね? 僕をそれで調教するんですねっ?」

 太い逸物が陰唇に挿し込まれ、硬いモノが肉と襞の圧迫を押し分け進み、自分の膣を侵略していく。その光景と感触を幻視しながらエバが恍惚と呟く。そのエバの予想は大体当たっていた。
 自分のやりたいことを向こうから先に言われ、男は一瞬返答に困った。しかしすぐに次善策が思いつき、その通りに動くことにした。
 まず亀頭の先端を、赤くなった尻に押しつける。そしてそのぷにぷにした感触を楽しみながら、男がエバに告げる。
 罪を告白しろ。
 
「ふえっ?」

 いきなりの言葉にエバが戸惑う。亀頭を尻肉にくっつけたまま、男が再び言う。
 お前の罪を全て明かせ。そうすればこれを入れてやる。
 お前の犯した一番の大罪は何だ。言ってみろ。
 
「僕の、罪……」

 男に問われ、エバの頭が急速に冷えていく。同時に男が何を求めているのか、エバはすぐに理解する。
 エバが人間だった頃に抱いていた、後ろめたくはしたない願望。男はそれさえも己の快感のスパイスにしようとしていた。それを知ったエバの心は喜びに震えた。何故なら男は、「そんな浅ましい僕の感情」に興奮してくれているからだ。
 だからエバはそれに従った。求められるままに、自身の恥ずかしい過去を暴露した。
 
「僕は、昔……男の人を好きになりました……」

 拷問に屈した兵士が情報を明かす。口の端から涎を垂らし、幸せそうに笑みを浮かべて、エバが言葉を紡いでいく。
 
「魔物になる前は、僕は男でした。……男、なのに……男の人に、恋をしたんです……」

 恋をした。自慰もした。二人で添い遂げたいと何度も夢想した。
 男同士の許されない関係。下劣な、唾棄すべき、許される訳のない愛。
 
「教団の人間なのに、男なのに……僕は、その人を好きになった……気持ちを止められなかった……!」

 自分を押し殺してきた過去が脳裏に蘇る。同時にその時感じていた悲しみと切なさがぶり返し、エバの声に悲痛さが混ざる。またしても演技を逸脱していた。そんなことはもうどうでもいい。
 ああ、どうして。
 人を好きになっただけで、どうしてこんなに苦しまなければならないのか。
 
「罰してください! お仕置きしてください! 僕を嬲ってくださいっ――!」

 どんな形でもいい。彼が欲しい。開いた古傷を埋めようとするかのようにエバが叫ぶ。男の愛が欲しいと雌が吠える。
 刹那、男が動く。考えるより前に体が動いた。彼もエバ同様、これがプレイであることを失念していた。
 どうでもいい。両手を広げ、背後からエバを抱きすくめる。
 
「えっ」

 拷問官にあるまじき愛の抱擁。プレイ外の行為に一瞬、エバが虚を突かれる。
 俺もだ。エバの耳元で男が告げる。
 俺もお前が好きだった。
 
「――ああ」

 そして思い出す。
 僕達は共犯者だ。
 同じ想いを共有していた。
 途端に心が軽くなる。
 
「僕も……君を愛して、いいんだよね……?」

 抱きしめられたまま、エバが確認を取る。男が無言で頷く。
 
「良かった」

 鎖骨を覆う男の腕に自分の手をかけ、エバが笑みをこぼす。それを見た男の心も暖かくなる。
 そこで男がようやく、自分のしていることに気づく。そして抱きついたまま、思い出したようにエバに告げる。
 とりあえず、お仕置き。
 
「今更気づいたの?」

 男の温もりを感じつつ、エバが呆れた口調で言い返す。自分のことは棚にあげた上での発言だった。
 当の男は、そんなエバの心境には気づかなかった。気づかないまま、ただごめんと我に返って謝罪する。バツの悪そうな表情で、小さく頭を下げる。
 
「締まらないなあ」

 それを見て、エバが苦笑いを浮かべる。男もそれに同意し、二人揃って小さく笑いあう。
 心が軽くなる。背後の男に感謝を伝える。
 
「でもありがとう。心配してくれて」

 ――エバの悲しむ顔は、見たくないから。
 
「うん。僕はもう平気だから。取り乱してごめんね」

 俺の方こそごめん。ちょっと調子乗り過ぎた。
 
「ふふっ、やっぱり君、S役は向いてないよ」

 違いないな。エバの言葉に男が頷き、二人仲良く笑いあう。
 冷たく薄暗い石の部屋の中に、色彩豊かな微笑の花が咲き誇る。
 その数秒後、二人揃って気持ちを切り替える。
 
「それじゃあ改めて……最後までしようか?」

 穏やかな顔でエバが尋ね、男がそれに同意する。ここまでやったのだ。せっかくだから最後までやり通そう。
 しかし今から再開されるそれは、もうそれまでの物とは毛色が違っていた。
 
「僕は任務に失敗して捕まって、拷問に屈して大事な情報を漏らしてしまった、最低の兵士ですっ。そんなだめだめな僕を、君の棒で罰してくださいっ♪」

 男が離れると同時に、エバが尻を振って誘惑する。その動きと声色は完全に、意中の男と愛を交わしたい女がするものだった。「調教され快楽に屈した兵士」がやっていいレベルのものではない。
 男はそれを気にしなかった。ただ可愛いとだけ思い、エバの尻にそっと両手を添える。
 プレイはする。方向性が変わるだけだ。強いて言うなら、そこに愛が混じる、と言うべきか。
 我ながら痛いことを考えてしまった。そう思い直した男は頭を切り替え、眼前のエバの尻に注目した。
 そしてエバに告げる。
 挿れるぞ。
 
「うん。来て♪」

 笑顔でエバが返す。男が腰を引き、そこから一気に肉棒を突っ込む。
 表面に血管を浮かせた剛直が、容赦なく膣を突き刺す。男の分身は一気に深奥まで到達し、亀頭の先端と子宮口が正面衝突する。
 
「ほおっ……!」

 その衝撃で、エバが軽く達する。その後すぐに回復し、今度は自分から男を攻め立てる。濡れそぼった襞で肉棒の皮を柔らかく包み込み、子宮口をぱくぱく動かして亀頭の先を咥えこむ。
 
「もっと、もっと虐めて? ご主人様?」

 しかしそれ以上は攻撃しない。今の自分は快楽に屈服した雌奴隷。自分の役割は雌豚として、男をその気にさせるだけだ。
 あとはされるがまま。エバは己の全てを男に委ねた。
 
「いやらしいエバの……女兵士のぬれぬれ雌豚おまんこ、存分に味わってください♪」

 そのつもりだ! 男が吠え、腰を振り始める。最初から容赦ないピストン運動を仕掛け、徹底的に攻めまくる。
 
「き、きたっ、きたあああっ♪ 君のっ、ご主人様のおちんちん、ゴリってきちゃあああっ♪」
 
 相手の都合を考えない、一方的な動き。ただ女の肉を貪るだけの、男本位の下劣なセックス。
 
「あばれてるッ! 僕の中で、きゃんッ! 君があばれてるっ! ひン! ああ許してッ! おまんここわれちゃうよおっ!」
 
 今はそれで良かった。今のエバはそれを求めていた。
 
「やッ、ああん! ……もっとっ、あン! もっと『使って』! やんッ! ……僕をッ、僕で幸せになってッ!」

 奴隷。肉便器。性処理道具。快楽に溺れるエバの頭の中に、人権を投げ捨てた言葉が次々浮かんで来る。
 それが彼女を燃え上がらせる。男を愛するアルプは、その男の道具になることに無上の喜びを覚えた。
 そこに男の声が混じる。もう出る。射精する。エバを無視して自分だけ絶頂しようとする。
 
「うんッ! 来てッ! 僕の中に、ひぃん! いっぱい出してッ!」

 エバが喜んでそれに答える。肉棒が激しく膣肉を抉り、先走り汁が結合部から噴き出す。体内に入り込んだ異物が暴れまわる、その感触を受けて全身が熱くなる。
 そして終焉が訪れる。最後に男が深々と肉棒を突き刺し、子宮と密着させた状態で鈴口から灼熱を吐き出す。
 
「あッ、ヒッ!」

 暴力的な精子の奔流。それが自分の膣を白く塗り潰す。望んでもいない快楽の電流が脳に突き刺さり、理性が肉欲で強制的に上書きされていく。
 薄汚いな精液が、心と体を蹂躙していく。
 
「あァ……やああ……よごれるぅ……」
 
 気持ちいい。キモチイイ。
 
「よごれちゃう……ぼくがきえちゃうよぉ……」
 
 一瞬エバが白目を剥く。口を大きく開け、全身をガクガク震わせる。陰唇と膣の隙間から生臭い白濁液を垂れ流し、喉の奥から恐怖の声を絞り出す。
 その顔は歓喜に満ちていた。一人の兵士が、一匹の雌に堕ちた瞬間だった。
 
 
 
 
「気持ちよかった?」

 事後。部屋を元に戻し、二人揃ってベッドに腰かけ休息している中で、素に返ったエバが男に問いかける。既にプレイは終了済みであり、故にそれまで彼女が纏っていた被虐的な雰囲気は完全に霧消していた。
 
「僕、ちゃんと上手に出来たかな?」

 子供のように純真な眼差しを向けながら、エバが嬉々として感想を求める。その姿を可愛いと思いながら、男は自分の感想を素直に伝えた。
 最高だった。凄いエロくて興奮した。
 
「えへへ、よかった♪」

 好きな人から褒められ、エバがくしゃっと笑みを浮かべる。無邪気なアルプはそのまま男の腕に抱きつき、その白く滑らかな頬を使って二の腕に頬ずりした。
 
「君が喜んでくれて、僕も嬉しいな。頑張った甲斐があったよ」

 つき合ってくれてありがとうな。男もまた、そうしてじゃれつくエバの頭を優しく撫で、彼女に感謝を伝える。するとエバは顔を赤くし、ますます嬉しそうに破顔して男の腕に抱きつく力を強くする。
 二人の周りに、暖かな空気が満ちていく。その優しさと愛しさに満ちた雰囲気を、二人は暫し無言で堪能した。
 
「ところで、話は変わるんだけどさ」

 そうしてその空気を存分に味わった後、不意にエバが声をかける。どうした? と声をかける男に向かって、エバが続けて言う。
 
「僕もちょっと、やってみたいことがあるんだ。次は僕がリクエストしてもいいかな?」

 もちろん。なんでもいいよ。エバの頼みを聞いた男は、快くそれを受け入れた。
 
「本当? 嬉しい! ありがとうね!」

 自分の要求が通ったことを受け、エバは実に嬉しそうに男に礼を述べた。しかし男が具体的に何をするんだと尋ねると、エバは笑ったままそれを突っぱねた。
 
「それは始まってからのお楽しみ。期待しててね」

 なんだそりゃ。男が言い返す。エバは梃子でも動かない。
 
「ダメダメ。今言ったら面白くないでしょ?」

 何が何でも、エバは話したくないようだった。男は素直に観念し、エバに任せることにした。
 そのエバが、満面の笑みを浮かべて男に言ってくる。
 
「絶対損はさせないから、期待しててね」

 それは楽しみだ。男は心からそう思った。そしてエバは男に後ろを向くよう指示し、ベッドから離れ、次のプレイで使う服を物色し始めた。
 何が始まるのか、男はまるで見当がつかなかった。
18/03/22 19:05更新 / 黒尻尾
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まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33