連載小説
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邂逅
「勇者様、そろそろ起きてくださーい?」
「勇者様ー?」
「勇者様?」

遠くから誰かの声が聞こえてくる。
目を開けると知らない部屋のベッドの中に僕はいた。
「やっと起きてくださいましたか」
顔を覗き込む女性。サファイアのような青い瞳と、白い肌。大理石彫刻の様に整った黄金比の目鼻立ちに、陽光と風の中で光るブロンドの髪。そして、薄い生地のナイトドレスから香る上品な香りの香水。……誰だろう、この女性は。
「おはようございます。勇者様。本日の準備が整いましたので、着替えてから後ほど私の元までお願いします」
……本日の準備、とは?
そう思うつかの間に女性は部屋を出ていってしまった。
「どこなんだここ」
寝起きのぼんやりした頭で昨日の出来事を思い出す。寝ていたというのに体の疲れが全く取れていない。何故か。確か昨日は馬車に乗せられてそれで……。幌の中で……。雰囲気に流されてとんでもないことをした。それからの記憶がない。
コロワとハンテはどこに行ったのだろうか。あのふたりが居たら、きっとここがどこか分かるはずなのに。
天蓋のあるベッドから抜け出し、辺りを見回す。めちゃくちゃにでかい部屋には、欧風の、女性が好みそうな花の意匠のある机やクローゼットがある。ソファの布地には小鳥と花の刺繍がされた布が使われており、ソファの向かいに置かれたテーブルには、精巧な彫刻のされた置時計がある。
バカでもわかる高級家具の部屋。この世界で時計を見たのがここが初めてだ。初めて寄ったあの町では、鐘の音で時刻を町内に知らせていた。じゃあここは……。
ここに来て、ある結論に至る。
コロワと、ハンテと、僕。3人が向かって居たのは王都。そして、ここには高級家具だらけの部屋。そして、高級家具には……。
おもむろに置時計の裏を見る。……やはり。
時計の裏には青いバラの花と百合、そして2本の剣の紋章が刻まれている。
これは王家の紋章。その中でも、現女王セレナ・ヘレヴ・エクエスを表す紋章だ。青いバラは奇跡の象徴であり、セレナ女王が自ら定めたものであるという。
馬車の中、一昨日のビバークまでの馬車の中でコロワとハンテから色々な話を聞いた。
セレナ女王の紋章のことや、セレナ女王の持つ様々な逸話と、女王の不老不死伝説について。コロワとハンテは、女王セレナ・ヘレヴ・エクエスの剣であり盾である白銀騎士であり、だからこそ詳しい話を知っていた。

置時計の裏の紋章を指で撫でる。親指の爪程の大きさに、細かな意匠が彫り込まれ、その彫刻は1点の歪みのない直線と、黄金比のカーブを用いて美しく仕上げられている。これと同じ物か、それ以上の仕上がりの紋章がほかの家具にも全てある。
この国の絶対的な権力者であるが故に。そして民から絶大な支持を誇る女王として。百戦錬磨の女将軍としてこの国を守り続けて来たからこそ、神の宿る程に精巧な彫刻を職人達は作り、それを喜びとするのだろう。

時計を置く。すると、ちょうど朝9時の鐘が鳴った。
その時だった。

「ずいぶん時間がかかるのですね、勇者様?」
ふわりと風が窓から舞い込み、白い羽毛が辺りを舞った。
窓のある方向を振り向くと、そこには純白の双翼を携えた天上人とも言える存在が1人。
「ごきげんよう、勇者様。私はソフィア。天命により勇者様を支え、魔を排するためにこの地へ降りたヴァルキリーでございます」
純白の翼からは聖気が流れ、空気が輝く。そんな神々しい存在が、僕の手を取り、屈んで、跪く。その姿勢でも目線は僕と同じくらいにある。
その大きさ故に彼女が、ソフィアが人外の存在であるのだと意識させられてしまう。異様な程に美しく顔立ちも、胸も、光る肌も、僕とは違う上位の存在であるからだと思えば腑に落ちた。
「えっと、あの……」
手を離してくれませんか、と言おうとした。理由はドキドキするからだ。大きな、しかも美しく、僕程度の人間を片手でおもちゃのように扱えるであろう存在に捕まって、恐怖と美しさと一目惚れでよく分からなくなった心臓が早鐘を打つ。
しかし、僕が声を出す前にソフィアさんに遮られた。
「……いいえ。離しません。私達はこの時を待っていたのです。1億年と8000万年前から。勇者様が魔を滅ぼす聖なる子を数多の胎に宿らせる種の神使となるこの時を!」
僕の手を握るソフィアの手に力が入る。ソレでも痛くはない。ソフィアの手から伝わるのは、感動のような、喜びのような感情。
僕はその手を少しだけ握る。
「いや、なんか、すいません。待たせてしまって」

何言ってんだろう僕は。そう思いながら、ソフィアの潤んだ瞳に映る自分の姿を見つめていた。
22/05/05 02:16更新 / (処女廚)
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■作者メッセージ
一万年と二千年前からア・イ・シ・テ・ル〜
って感じ。
たぶんヴァルキリーさんは身長2メートル68cmくらい。
こういう人外さんはタッパもオッパも大きくて男なんか小指で無力化出来るって信じてる。
やっぱりデッッッッカイムチムチクソエロ一途おねーさんはいいよな。俺コレで巻き爪と水虫治ったからたぶん癌にも効く。

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