ラナさん
恩人が部屋で、僕の服を使って自慰に耽っていた。
ラナさんは女性で、僕は男。どんなエロ漫画だよ。
しかし、自慰に耽るラナさんの姿は、人間のものではなかった。
青い肌、尖った耳にコウモリのような翼と、黒くうねうねとのたうち回る尻尾。
その姿はまるで人間のものではなく、西洋で恐れられたデーモン、もしくは魔物と形容されるべきモノの姿だった。
ラナさんはいい人だ。それは1番僕がわかっているはずなのに、恐れが僕を駆り立てる。
僕にはこの世界の常識がない。だから以前居た世界の常識でしか、物事を図ることが出来ない。
ラナさんがこの世界の全てだった。しかし、その恩人は魔物であり、僕はその魔物の恐ろしさを聞いた事がある。
連綿と続く西洋の歴史の中で、21世紀になっても未だに恐れられ続けるのが魔物だ。そしてこの世界においても、神と敵対する唯一の邪悪なる存在として、この世に存在するらしい。
だから僕はなりふり構わずに逃げた。
世界の全てから捨てられて、僕は森の中で倒れていた。そんな僕を拾って、目が覚めるまで看病してくれたラナさん。
今考えたら、女性1人で僕を家まで運べる方がおかしい。
恩人の記憶が走馬灯の様に蘇る。
僕が初めて目覚めた時、ラナさんはローブを着て、大釜で薬を作っていた。ラナさんは自分のことを薬師だと言っていた。雨で僕が仕事に出れない時は、針仕事を僕がして、ラナさんの薬を味見することもあった。
甘くてとろっとした子供用の風邪薬。眠くなる効果が強すぎて、僕はいつの間にかラナさんの膝元で眠っていた。
日暮れが近くなると、ラナさんは家の裏の川でいつも沐浴をしていた。気温の低い日には、家の中で、濡らしたタオルで身体を清めていた。
その手伝いをしたこともある。
裸になったラナさんの背をタオルで撫でてぬらし、手で擦って垢を落とす。初めて触れた女性の肌。
「ごめんね、汚かったでしょ?」
そのあと、ラナさんはなんて笑いながら僕の背中を綺麗に拭いてくれた。
服も用意してくれた。3着しかなかったローブを裁断して、僕の服に。
外仕事の最中、土砂降りの雨に降られて小屋に逃げ帰ったときは、暖かくて甘いお茶を用意して、彼女の着ていた服を脱いで、僕に着せてくれた。
丁度その日は洗濯の日で、あまりの服は無かった。
大きな胸を露わにして、下は下着だけの姿。
着ません、ラナさんが裸になってしまいます、と拒否すると「いいから着なさい!」と初めて僕に怒った。
まだほんのりと暖かい服を着て、2人で暖炉の前に椅子を並べて温まった。ラナさんは椅子の上で体操座りをして、胸を隠しながら、2人でもじもじしながら語り合った。
僕の生まれのことに、ラナさんのこと。雨のこと、ラナさんの仕事のこと、まだ僕が行ったことの無い、ラナさんの故郷のこと。そして、魔物のこと。
「傲慢で淫蕩、全ての悪の限りを尽くした存在が魔物。原初の罪の存在が魔物。人間と神に敵対した歴史は数千年もあるけど、魔物は進化して、狡猾にもヒトに限りなく近い容姿を持つようになった。だから魔物たちは人を欺く為に人に近い姿をしているけど、おかしいと思ったらすぐに逃げなさい。あなたがいなくなったら、私はイヤだから……。」
寂しそうに呟くラナさんは、もしかしたら以前、家族や大切な人を魔物に奪われたのかもしれない。バカだった僕はそんなふうに早とちりして、彼女のために生きようなんてカッコつけた決心をした。
そして、裏切られた。
ラナさんがしてくれた全てのことに、愛がなかったとは言えない。見ず知らずの男を、魔物の女が助ける。ソレは種族を超えた今世紀最大級の隣人愛と言えるのかもしれない。
それでも、裏切ったのはラナさんだ。
ラナさんは魔物だった。
信じたくはなかった、けれど、信じるしかなかった。
だから僕は逃げた。
色んな感情で心がぐちゃぐちゃになる。
それでも、逃げるために走るしかなかった。
ラナさんは女性で、僕は男。どんなエロ漫画だよ。
しかし、自慰に耽るラナさんの姿は、人間のものではなかった。
青い肌、尖った耳にコウモリのような翼と、黒くうねうねとのたうち回る尻尾。
その姿はまるで人間のものではなく、西洋で恐れられたデーモン、もしくは魔物と形容されるべきモノの姿だった。
ラナさんはいい人だ。それは1番僕がわかっているはずなのに、恐れが僕を駆り立てる。
僕にはこの世界の常識がない。だから以前居た世界の常識でしか、物事を図ることが出来ない。
ラナさんがこの世界の全てだった。しかし、その恩人は魔物であり、僕はその魔物の恐ろしさを聞いた事がある。
連綿と続く西洋の歴史の中で、21世紀になっても未だに恐れられ続けるのが魔物だ。そしてこの世界においても、神と敵対する唯一の邪悪なる存在として、この世に存在するらしい。
だから僕はなりふり構わずに逃げた。
世界の全てから捨てられて、僕は森の中で倒れていた。そんな僕を拾って、目が覚めるまで看病してくれたラナさん。
今考えたら、女性1人で僕を家まで運べる方がおかしい。
恩人の記憶が走馬灯の様に蘇る。
僕が初めて目覚めた時、ラナさんはローブを着て、大釜で薬を作っていた。ラナさんは自分のことを薬師だと言っていた。雨で僕が仕事に出れない時は、針仕事を僕がして、ラナさんの薬を味見することもあった。
甘くてとろっとした子供用の風邪薬。眠くなる効果が強すぎて、僕はいつの間にかラナさんの膝元で眠っていた。
日暮れが近くなると、ラナさんは家の裏の川でいつも沐浴をしていた。気温の低い日には、家の中で、濡らしたタオルで身体を清めていた。
その手伝いをしたこともある。
裸になったラナさんの背をタオルで撫でてぬらし、手で擦って垢を落とす。初めて触れた女性の肌。
「ごめんね、汚かったでしょ?」
そのあと、ラナさんはなんて笑いながら僕の背中を綺麗に拭いてくれた。
服も用意してくれた。3着しかなかったローブを裁断して、僕の服に。
外仕事の最中、土砂降りの雨に降られて小屋に逃げ帰ったときは、暖かくて甘いお茶を用意して、彼女の着ていた服を脱いで、僕に着せてくれた。
丁度その日は洗濯の日で、あまりの服は無かった。
大きな胸を露わにして、下は下着だけの姿。
着ません、ラナさんが裸になってしまいます、と拒否すると「いいから着なさい!」と初めて僕に怒った。
まだほんのりと暖かい服を着て、2人で暖炉の前に椅子を並べて温まった。ラナさんは椅子の上で体操座りをして、胸を隠しながら、2人でもじもじしながら語り合った。
僕の生まれのことに、ラナさんのこと。雨のこと、ラナさんの仕事のこと、まだ僕が行ったことの無い、ラナさんの故郷のこと。そして、魔物のこと。
「傲慢で淫蕩、全ての悪の限りを尽くした存在が魔物。原初の罪の存在が魔物。人間と神に敵対した歴史は数千年もあるけど、魔物は進化して、狡猾にもヒトに限りなく近い容姿を持つようになった。だから魔物たちは人を欺く為に人に近い姿をしているけど、おかしいと思ったらすぐに逃げなさい。あなたがいなくなったら、私はイヤだから……。」
寂しそうに呟くラナさんは、もしかしたら以前、家族や大切な人を魔物に奪われたのかもしれない。バカだった僕はそんなふうに早とちりして、彼女のために生きようなんてカッコつけた決心をした。
そして、裏切られた。
ラナさんがしてくれた全てのことに、愛がなかったとは言えない。見ず知らずの男を、魔物の女が助ける。ソレは種族を超えた今世紀最大級の隣人愛と言えるのかもしれない。
それでも、裏切ったのはラナさんだ。
ラナさんは魔物だった。
信じたくはなかった、けれど、信じるしかなかった。
だから僕は逃げた。
色んな感情で心がぐちゃぐちゃになる。
それでも、逃げるために走るしかなかった。
21/06/28 11:58更新 / (処女廚)
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