連載小説
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茨の牧場と馥郁の花壇
※ソーンファーム※
※ムッギ視点※



「誘惑に負けないかぎりはね」
「誘惑?どういうこと」

女兵士が首を傾げる。

「三大欲求のことよ」

私は女兵士にソーンファームの説明をする。

「豊かな自然や豊富な食糧が生産・収穫されるソーンファーム、居住区以外なら寝るのも自由、食べるのも自由な牧場。故に性欲と同時に食欲と睡眠欲が満たされるの」
「食べるのは自由でも媚薬や魔力を含まない物でなければ話になりません」
「そうね……試しにあそこにある林檎の木にしましょ」

私は草原に一本だけ生える木を指す。

「ワーラ、林檎を五個採ってきて」
「わかったよ、ムッギ」

ワーラが柵を越え、林檎が実る木へと向かう。

「地平線いっぱいに触手が犇めく草原にも樹は生えてるのですね」
「あれも触手よ」
「触手!?」
「触手の森には子宝宝樹という触手で出来た樹があるように、草原の触手が集結して木の形を作っているのよ。でも実る果物は本物よ」

「採ってきたぞ」

ワーラは林檎を一つずつ、私、マドラさん、初太さん、そして女兵士に渡す。

「うん、美味しい」
「魔界産の作物じゃないけど、何度でも食べたくなる旨さだ」

「マドラさんに美味しいと言ってもらえるなら、収穫した甲斐があるな。兵士さんも食べてみてよ」

「……いただきます」シャリッ「美味しい」
「ね、平気でしょ?人間界の食べ物も食べたいという女王様の要望でこの牧場が出来たの」
「これなら普通に食べれるわ」
「他にも野菜畑や食用の肉や魚が実る樹があるわよ」
「肉や魚が実るって、何でもアリなんですね」
「それが不思議の国クオリティよ」


※花畑※


「この人参は甘くて美味しい、肉や魚は柔らかくて生でも食べれる」

女兵士は収穫した食糧を貪り、自力で歩ける程の元気を取り戻していた。

「ん?この先から何だか香ばしい匂いがする……」



「最後尾はここでーす、順番にお並びくださーい」



最後尾の看板を掲げドーマウスを背負った男性が言う。
女兵士はそれに興味を抱いたようでーー

「何の行列ですか?」
「美味な糖蜜と心地よい眠りが味わえる花の行列ですよ、貴女も体験してみますか?」

何も知らない来訪者を誘う男

あんたは魔物化したフェアリーか。

私は心の中でツッコミを入れつつ、女兵士に忠告をする。

「あの花に入ると人間をやめることになるわよ?」
「人間をやめる?」

「ちょっとお客様、営業妨害ですよ」
「別に嘘は言ってないわよ、あれがそうよ」

花弁の一つが開く様子を指す。

「花弁の中から、全裸の男性が出てきた、しかもアヘ顔で白い液体を身体中に付着してる」
「どう見ても精液です」
「牧場の職員が花弁の内側に付着した精液をバケツに集めせっせと運んでますよ」
「精補給食品の加工場へと運んでいるのよ」
「別の男性がにやけながら花に包まれてゆく……あの花は何なのですか?」
「あれはフェアリー・ハグの変種よ」
「……フェアリー・ハグ。見かけは花弁の閉じた花蕾だけど、中身は触手がびっしり詰まっていて、香りに誘われた妖精の全身を粘液塗れにしながら犯す触手ですよね?」
「牧場にあるそれは人間を包むくらいのサイズに変異していて、様々な香りに誘われた人間を抱き締めるように包んで快楽を教え込ては魔物の魔力を注ぎこみ、異性との交わりを求める魔物やインキュバスへと変えるの」
「人間を魔物に!?」
「フェアリーを襲った後の触手の花弁からフェアリーパウダーが採取できるように、触手の花弁から採取した男性の精液で、精補給食品が作られるの」
「そんな危険な触手、ラピッドタウンの住民達は何も言わなかったわ」
「人間から見たら危険かもしれないけど、触手から出る蜜は絶品で、触手のベッドはワーシープウールのように快適な眠りを約束させ、夫婦ペアで入れば淫らに交じわえるよう触手がサポートしてくれて、食欲・睡眠欲・性欲の三つが満たされる。故にリピーターが行列を作るから、行列に並ばない限りは大丈夫よ。それにトラップはフェアリー・ハグだけじゃないわ」


「ねぇ〜ボク?お姉さんと触手ごっこしよう?」
「うねうねして面白そうでしょ、触ってみる?」


「不思議の国の狂気に染まったテンタクル達が男女構わず誘惑したり」


「ちゅ〜」
「もみもみ」
「気持ちイイッ!イクッ!」



「アルラウネの蜜に誘われる住民も多いのよ」
「ドーマウス達がアルラウネの胸を揉んだり、蜜を吸っている」
「本来ならハニービーやグリズリーのポジションだけど、この国は固有種が多いから、ドーマウスが代わりにヤってるのよ」

「アアン、アアン、ソコを吸っちゃ、ダメっ♪」
「あまーい、もぐもぐ」
「ママー蜂蜜入りホットケーキおかわりー」


「あのドーマウス達、眠りながら蜜を食べてませんか?」
「寝てるも何もドーマウスは眠りながら歩行や会話をするの。故に会話があんな風にズレるのよ」

「乳首を吸わないでェッ!」
「あまーい、あまーい♪」
「パパがママのおっぱいを吸ってるー」


「……」
「オーイ、女兵士さん、見惚れちゃダメでしょ」
「すみません、蜜を美味しそうに食べるネズミさんが羨ましいなって思って」

「だったら交ざりますか〜?」
「とっても甘くて人間でも味わえますよ〜」

「ホラ、見惚れてるから、テンタクルが寄ってきたじゃない」
「走るよ兵士さん、マドラさん達も」

「わかった、ワーラ」
「初太、もう行くの?」

「夫婦一緒に蜜浴びプレイは如何ですか〜」

「テンタクルもああ言ってるよ」
「今は空気を読んでここを離れるぞ」

テンタクルの誘いを振り切り、私達は走る。

「ふぅ、危なかった」
「この牧場の誘惑は情事目的なら大歓迎だけと、そうじゃない場合は誘惑を振り切るのが一苦労だよ」

そんな私とワーラの前にマーチヘアが現れる。

「ねーねーニンジンは如何ー?」

目をトロンとさせながら、人参の入った籠を差し出すマーチヘア。

人参一つ一つが謎のドレッシングでテカっている。

「ねーねー君たち夫婦でしょう?一口でいいから食べてみてよ」
「いえ、結構です」
「俺達、大事な用がありますので」

再度走りだす私達。

「ねーねーニンジン如何ー?」

マーチヘアは別の住民に声をかける。

「あのマーチヘア、寝呆けて違う人を誘惑してますよ?」
「この牧場はリラックス出来る環境で無意識に眠気が襲うから、微睡みに包まれながら誘惑しても不思議じゃないわ」
「まるでドーマウスですね……」

「初太、あれって討伐隊だよね?」
「凄く疲労してるな……」


「虜の果実百%ジュース如何ですか〜」


兵士の近くで、テンタクルがジュースの試飲サービスをしている。

「虜の果実をふんだんに使ってるから〜飲めば女性は美しい魔物娘に〜男性は逞しいインキュバスになれますよ〜」

誘われるように男兵士がテンタクルの下へ。

「君〜ジュースが欲しいの〜?」
「はい、この国に来てから飲まず食わずで、インキュバスに、魔物娘の夫になってもいいから……」
「どうぞ〜たっぷり飲んでくださ〜い」
「飲んだ後は私達と触手まみれになりましょう〜」

奥からテンタクルが数名が歩いてくる。

ジュースを飲み干した男は誘われるがままに服を脱ぎ、テンタクルの中に飛び込む。

「皆、居住区まで走るわよ」
「誘惑の嵐を振り切るぞ」


※居住区※


「ハァハァ……着いたわ……ここが居住区よ」
「井戸が並んでる」
「井戸の中が住居になっていて、そこに住むドーマウスの魔力が土に浸透してるの」
「どういうこと?」
「染み込んだ魔力を養分として育った作物は糖蜜のように甘くて、甘党好きの住民から重宝されてるわ」

私達は畑仕事をしているドーマウス夫妻を遠くから眺める。

「農夫が花を収穫してますね」

「あれは『居眠花』といってドーマウスの魔力で栽培された花なの」
「あれ?ドーマウスが畑の中で倒れましたよ」
「眠気には勝てなかったわね」
「農夫さんが助けに……って農夫さん、何をしてるのですか!」

女兵士が怒るのも無理はない。
農夫がドーマウスを起こすどころか、いきなりズボンを脱ぎ、股間にそそり立つ作業棒でドーマウスの股間を耕し始めたからだ。
農夫は獣のような笑みを浮かべる。何度も叩きつけ、柔らかくした子宮に快楽の種を注ぎ込んだのだろう。
ドーマウスもドーマウスで、お腹を満たして満足感を得て、生命が芽吹く期待を抱く。

「安息の地といいながら、結局誘惑する魔物娘がいるじゃない」
「これでも大人しいほうなのよ」
「寝ているドーマウスを犯す男のどこが大人しいのよ」
「あれはドーマウスが放出する魔力の影響よ。ドーマウスは眠っている状態で魔力を放出し、それを浴びた男性は彼女に劣情を覚えて眠ったまま犯すのよ」
「眠ったまま、おかす……」

足の力が抜けて女兵士は座り込む。

「大丈夫?」

ワーラは女兵士を心配する。

「大丈夫です……ちょっと眠気が……」
「そんなわけあるか、目がうつろだぞ?」
「魔王城襲撃の時に、敵からワーシープウールの投てきを、モロに食らったので、その時の眠気が、まだ残ってるのだと思います……」
「もうすぐ四姉弟の家だから、ベッドを貸して休めるよう頼んでみるよ」
「すみません、何度もご迷惑をおかけして……」


※堂崎宅※


「ここが四姉弟宅か」

「堂崎一花、二枝、三郎、そして四葉……四人家族か」
「初太、表札の字が読めるの?」
「俺がいた国の文字、漢字で書かれてるからな」



「三郎ー」
「三兄ちゃーん」



二十歳位の女性と小学生位の少女が誰かを探している。
共通点はドーマウスの特有のパーツ。

「あの魔物娘達は?」
「彼女達がドーマウス四姉弟よ」
「二人しかいないけど?」
「長女と末妹のようね。次女は長男と共に競技場にいるはずよ」
「競技場?それは一体キャッ!

女兵士の台詞が悲鳴に変わる。

「どうしたの?」
「あの娘、パジャマがはだけてますよ」

とことこ歩く末妹。
上着から覗く微かな膨らみ。
可愛らしいドロワーズが丸見えになっている。

「寝呆けてるんだね、さっきまで夫の腕の中で眠ってたのかな?」
「だからといってあんな格好で外に出るなんて」

すっかり目覚めたように腹を立てる女兵士。

「あの程度で驚くようじゃ、長女の姿を見たら卒倒物ね」
「長女?」
「あれよ」
「パジャマがはだけて……キャァァッ!

長女の方は上着を羽織ってるだけだった。
桃色の上着では隠せないふくよかな谷間。
桃色ボタンの隣に別の桃色ボタンが見え隠れする。

「三郎ー」

長女の歩きはファッションショーのように優雅で、すらりと長い足に肌色のパンティーが映える。

「長女の堂崎一花(どうざきいちか)さん、ドーマウスにしては身長170センチのモデル体型で、幼女好きの男達から「そんなセクシーなドーマウスがいるか!」とか「ロリのイメージを崩すな!」と、常にクレームが殺到するわがままボディーはいつ見てもスゲー、おっ♪乳が揺れたぞ、乳が揺れたぞ」
「何でワーラが解説するのよ」
「いいじゃん、これから交渉しにいくんだからさ。すみませーん、お時間宜しいですかー?」

「ねぇキミ、三郎を見なかった?」
「いつも傍にいる三兄ちゃん(分身)がいないの」

ワーラに気付いた二人が尋ねる。

「分身?」



「おーい」



空から影が降ってきた。

地面から触手が生えて、影を優しく包み込む。

トランプ柄の鎧を着た兵隊が触手のクッションから降り立つ。

「三郎遅いわよ。分身を寄越さずにどこで何してたの?」
「寂しかったよ、三兄ちゃん」

一花が腹を立て、四葉が泣きそうに言う。

「まさか二枝と駆け落ち?」
「誤解だよ一花姉。女王直属の部隊による、選手及び観客全員の事情聴取で足止めを食らって」
「ホントでしょうね?」
「本当だよ、二枝も証言してくれ」

三郎が鎧の胴部分を外す。

鎧の中からショートヘアのドーマウスが顔を出した。

「サブの精、暖かーい」
「二枝、さっきの話は本当なの?」

一花さんが問う。






「……サブ、私と駆け落ちするつもり?イチねぇとヨツバを置いて」







「おい二枝、何寝呆けて意味不明な言葉を挟んでるんだ!泣きながらパジャマを脱がないで四葉、睨みながら下着を脱がないで一花姉……アッー!」



※続く※
14/05/03 21:59更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
この後、三郎は一花と四葉においしくいただかれました。







ドリルモールです。

 ドーマウス四姉弟、堂崎一家の登場です。色々とツッコミどころはあると思います……。
 因みに三郎は普段は競技場で警備兵の仕事をしており、三郎の鎧の中はミミックの異空間の原理で姉妹を入れて繋がることが出来ます。
 また、分身薬による分身体が自宅にいる姉妹の相手をしており、効果が切れたらすぐに補充をします。


四姉弟紹介は次の話で。


5/3  誤字修正






用語集
【ソーンファーム】
 不思議の国にあるドーマウスが多く住む牧場。
 人間界の野菜や果物を食べたいというハートの女王の要望で作られた。
 牧場主はアリスのソーン。

 明緑魔界のように空が青く、人間界の作物が育つので、来訪したばかりの人間達が魔物化を避けるために訪れる安息の地。

 見渡す限り触手で出来た草原が広がり、草原の触手は大人しく住民に危険が及ぶと守ってくれる。

 牧場で実る作物は、居住区以外なら収穫は自由で、いくら収穫しても一晩で作物が実る。

 不思議の国らしからぬ穏やかな土地と思われるが、人間を誘う巨大なフェアリー・ハグや不思議の国の魔力で狂ったテンタクルや住民達が発情効果のある作物を食べさせようと誘惑するが、微睡みに包まれるほど穏やかなで環境であるためドーマウスのように眠っている者が多く、それほど危険性は無い。

 居住区は井戸が連なり、井戸の中に住居がある。
 井戸の中のドーマウスの魔力が養分となり、糖分を多く含んだ作物や『居眠花』というドーマウスの魔力を含んだ花が収穫されるが、眠り続けるドーマウスの特性上、収穫どころか実際に栽培する住民は数えるほどしかいない。

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