連載小説
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麦藁の姉弟と昏睡の童女
※午前四時※
※養鶏場・子供部屋※
※ムッギ視点※

「う、ううん」

いつもの朝を告げる目覚しが頭に響く。

「ふわーぁ、もう朝か」

私は体を起こしながら、頭の麦わら帽子を被り直す。
ベッドから離れ、下着を履き、黄色の燕尾服を着て、更にその上から作業用のオーバーオールを着る。

「ウー目覚しが頭に響くよー」

未だに蠢く塊が一つ。

「ワーラ、もう朝よ。とっとと起きる」
「朝は苦手だよー」
「もぅ一緒のお腹で育った姉弟なのに、どうしてこうも違うの?私は先に行くからね」
「どうぞどうぞ」

一旦身体を起こした弟は、もう一度ベッドに入り込む。

「二度寝する気ね……」

私は毛布を引ったくる。
纏うを布を奪われた弟は丸裸も同然だった。朝の寒さに体を丸める弟の下半身は熱を帯びている。

「昨日あんなにヤったのに、もう朝起ちしてる」

私は弟を無理矢理起こすために、臍に向かって直立するソレを軽く握り、上下に摩擦させる。

「うっ」
「ほらほらいい加減目覚めないと、朝の一番搾りをベッドの上に撒き散らすわよ?」
「や、やめろよ」
「言葉と裏腹に十二歳とは思えない程膨張してますけど?」
「うわぁぁっ」
「ふぅ、朝の一番搾り完了。ペロッ」

私は弟の一番搾りを舌で一舐めして、喉を潤す。

「さっ、朝の習慣はお終い。とっとと着替えて鶏の世話をするわよ」
「はーい……」


※保管所※


「媚薬入り」
「媚薬入り」
「子供化」
「媚薬入り」
「媚薬入り」
「大人化」
「媚薬入り」
「これは……普通の卵ね」
「媚薬入り」
「子供化」

「ムッギ、卵ここに置いとくぞ」
「ありがと、ワーラ」
「それにしても、ムッギの卵を見抜く洞察力はいつ見ても凄いよな、一目見ただけで媚薬入りとか大人化といった成分が解るんだもん」
「キノコによってぼんやりしていた脳が、マッドハッターに変異したことで活性化したのよ。それにワーラもインキュバスになってからは力仕事が楽になったでしょ」


「ムッギ、グレーテルさん達が来てるわよ。大人化卵を一箱」


「わかったわ母さん、すぐ行く。ワーラ、箱を担いで」
「あいよ」


※養鶏場入口※


入口の前に私と同じ位の年頃のアリスと少年が立っていた。

「おはようグレーテル」

私はアリスのグレーテルに挨拶をする。

「おはようムッギ、いつもの奴を一箱」
「ワーラ」
「はい、ご注文の大人化タマゴ一箱」
「代金よ」
「毎度あり」
「では早速」

グレーテルはカップの中にタマゴを入れ、シェイクを始める。
バーテンダーのような行為をすること三十秒。
カップの蓋をあけると、卵のカクテルーーではなく卵焼きが出来ていた。

「はい、ヘンゼル」
「モグモグ」

傍にいた少年ーーヘンゼルの身体が青年へと成長する。

「大人化完了」
「ヘンゼル、その姿になったならさっさと運びなさい!」
「わかってるよ、グレーテル」

「ヘンゼルさん、妻にこき使われて大変だな」
「仕方ないさ、力仕事を含めて、本来の姿だと恥ずかしくて接客が出来ないから」
「お互い実の姉妹を妻に持つと大変だな〜それが双子なら尚更」

「ヘンゼル、無駄口叩いてないで、トリックストリートに行くわよ!」
「わかってるよ、グレーテル」
「モタモタしてたら開店はお昼になるわよ、ただでさえうちの店は常に満員御礼なのよ」
「今日は忙しい日だよ、まかいもを輸送するため、わざわざソーンファームに向かうなんて」
「グチグチ言わないで、この里から西にトリックストリート行きの移動スポットに向かうわよ、そこでアレをやるからね!」
「アレって何するの!?」
「そんなの恥ずかしくて言えるわけないでしょ、いやらしい!」


「ヘンゼルさんも大変ね」
「素直になれないアリスを妻に持つなんてな」
「相手が実の兄弟じゃ、中々素直になれないわよ」
「そうなの?」
「そーなの!」


「お〜い」


「父さん、どうしたの?」
「二人共〜お使い頼めるか〜?」
「いいわよ、父さん」
「刑示板から情報が入ってな〜今年もドーマウス四姉弟が栽培したまかいもが収穫されたそうだ〜」

「ドーマウス四姉弟?」
「忘れたのワーラ、ソーンファームに住む姉弟よ」

「三匹のドーマウスとその夫が育てたまかいもでね、食べればチーズの味が口全体に広がる芋で、ドーマウスをはじめチーズ愛好家に親しまれてる一品だよ」

母さんが解説する。

「っていうか常に眠り続けるドーマウスがよく作物を栽培できたな」
「眠りながら栽培してるのよ」
「それで育つのかよ」
「それが不思議の国クオリティよ」

「だから二人はこれからソーンファームに行って〜まかいもとタマゴを交換してくれ〜これが交渉用のタマゴの詰め合わせだ〜」

「えー?あの花の臭いを嗅ぎながら進むのかよ、面倒クセー」

「ならワーラはお留守番ね♪」
「……」
「じゃ、私は牧場ライフを満喫しに行くから」
「待ってよー俺も行くよ」


※牧場への道※


「おや、ムッギちゃんにワーラくん、おつかい?」


緑色の燕尾服にシルクハットを被った茶髪のマッドハッターが挨拶をしてきた。

「マドラさん!?お、おはようございます」


「よぅ、養鶏場の子供達か」


マドラさんの横に立っていた青年が私達に挨拶をする。

「初太さんも一緒なのですね」
「そんなの当然だろ、俺はマドラの夫だから」

黒髪の青年ーー初太さんがあっさりと返す。

「もぅ初太ったら、照れちゃうじゃないか」

マドラさんは両手で頬を当てる。

「俺はずっとマドラの傍にいるよ」
「ぼくもだよ、初太」
「マドラ〜」
「初太〜」

「ところでお二人はソーンファームに向かわれるのですよね?」

私は二人だけの世界に入っているマドラさんと初太さんを現実へと戻す。

「そうだよムッギちゃん、ぼくと初太はこれからそこへピクニックに行くんだよ」
「牧場で吹くそよ風を浴びながらサンドイッチを食べるつもりだ」
「ワーラくんには改めてお礼を言わなきゃね。新鮮なタマゴをありがとう」

「それって養鶏場のタマゴサンド?」

「そうだよ、他にもまといの野菜サンドや魔界豚のベーコンサンドも入っているんだ」
「朝から俺とマドラの二人で作った愛の一品だ」
「ぼくが材料を切って」
「俺がフライパンで火を通す」
「そして、ぼくと初太がそれぞれパンを持って」
「同時に挟めばラブラブサンドの完成だ」
「ぼくと初太の愛の結晶だよ♪」

「あの二人幸せそうだな」
「ベストカップルって感じね」

「おいマドラ。誰かが倒れてるぞ」
「ホントだ、行ってみよう」

二人が急に走りだした。私も倒れてる人に気付く。

「まだ息があるよ」
「しっかりしろ」

マドラさんがうつ伏せに倒れた人の身体を起こし、初太さんが声をかける。

銀色の鎧を着用した童顔の女兵士、
鎧の胸元には卵を丸呑みにする蛇の紋章。

「マドラ、この紋章どこかで見たぞ」
「この紋章は……討伐隊だよ」

納得した二人に対して、ワーラは首を傾げる。

「討伐隊?」
「ワーラ忘れたの?刑示板で、来訪者の情報として流れてたでしょ」
「来訪者くらい別に不思議な事じゃないだろ」
「確かに刑示板は来訪者の情報は普通流さないけど、今回だけは事情が違うのよ。一万人の人間が女王様の手によって強引に招待されたのよ」
「一万!?多過ぎじゃね?」
「何が起こっても不思議じゃない許容を持つ住民達も大騒ぎで、案内役のチェシャ猫達も猫以外の手も借りたいと言ってるくらいよ」
「女王様、いくら気紛れとはいえ一万人を招待するなんて」
「討伐隊の隊長曰く、魔王城を攻め落とそうとしたら、女王様とその妹達に止められ、水着姿にされた挙句、転送魔術でこの国に転送されたそうよ」
「っていうか水着姿って何だよ?」
「専門家によれば幻覚症状らしくて、水着水着と言いながら実際は鎧着用だったから、解除系の魔術を掛けたら治ったわ」

「ハッ!」

「起きたか」
「大丈夫?」

「ま、魔物娘!?」

警戒している所からまだ人間のようだ。

「こ、来ないでっ」
「大丈夫だよ」
「そんな事言って、あたしを狂わせる気でしょ」

グゥゥゥゥ〜

「お腹空いてるみたいだね。初太、ハムサンド出して」
「ああ」
「それと、ホルスタウロスミルクも」
「ミルクも?ミルクティー用として一本しか持ってきてないぞ」
「構わないよ、水を飲んでない可能性もあるから」
「はい、魔界豚のハムサンドとミルクだよ」

「……」
「どうしたの?」
「媚薬が……入っているかもしれない」
「大丈夫だよ、そんなに不安なら、肉の部分だけでも食べて」
「……」
「ぼくも最初は肉だけを食べてたから」

女兵士は、警戒しながらもサンドイッチの中身であるハムだけを剥がし、少しだけ齧り、一口、一口と少しずつ口にする。毒味もしくは味見するように……。

「里に来たばかりのマドラさんを思い出すな……」

ワーラがマドラさんと女兵士を見ながら呟く。

「はい、ミルク」

女兵士はマドラさんが差し出したミルクを手に取ろうとしーー躊躇する、が、それも一時のことで、ミルク瓶を手に取り、ゆっくりと喉に通す。

「美味しかったです。あたしはこれで」

女兵士は礼を言いその場から立ち去ろうとする



身体のバランスを崩し座り込む。

「大丈夫?」

マドラさんは女兵士の身体を支える。

「ちょっと、眠気が襲ってきただけです……」

「初太、肩を貸してくれる?」
「肩?」

初太さんはマドラさんの肩に寄ろうとする。

「ぼくの肩じゃないよ、この人の肩だよ。左肩は僕が支えるから初太は彼女の腕を初太の肩に乗せて」
「こ、こうか?」
「そうそう、初太上手だね、早速休める所へ連れていこう」
「里の診療所に?」
「診療所だと遠いからこのままソーンファームへ直行しよう」

「あたしからもお願いします。元々ソーンファームへ、行く予定でしたから」

「マドラさん、バスケットをお持ちします」
「ワーラくん、ありがとう」
「いえ、レディの手を煩わせないのは紳士として当然のことですから」

(紳士ねぇ……)

緊張した手取りで、木箱の上にバスケットを載せるワーラの表情は少し照れているのを私は見逃さなかった。

「さっきから眠そうだよ?」
「大丈夫です、ワーシープウールの影響だと思います」
「疲れたなら何時でも言って、休憩するから」
「はい……やっと親切な住民に会えた気がします。奇妙な形や色をした植物や、男性と抱き合う光景や誘惑する魔物娘達が多くて、気が狂いそうでした。夢なら覚めればいいと何度も……」
「何故ソーンファームへ?」
「狂うことの無い安息の地を求めて、ラピッドタウンの住民に聞いてみたら、ソーンファームを勧められて……」

「安息か……強ち間違ってはいないわね」

私は彼女に伝える。

「狂気に満ちたこの国で、比較的穏やかな場所」

虚偽なく伝える。

「それが触手と眠りと精液の牧場、ソーンファームよ」


※ソーンファーム入口※


「到着よ」
「ここがソーンファーム、風が涼しい……」



そこは地平線まで緑色に染まった草原



奇妙な植物や建物が一切見当たらない



私達にとっては『異常』と言える光景



「ここは明緑魔界のように空は青く明るく、眩しい太陽、涼しく爽やかな風が吹き付ける広大な牧場よ」
「この国にも普通という楽園があったのですね」
「そうとも言えないわね、何故なら緑色に見える草原全てが触手だから」

一見、刈り取られた雑草に見えるそれは、ツル状の植物が犇めきあい、生きているかのようにうねうねと蠢く。

「ただ、ここの触手は大人しく、故意に危害を加えない限りは住民を襲わないわ。彼らがその証明よ」
「触手の上で魔物娘達が眠ってる、ネズミのような特徴を持っていますが……ラージマウスにしては熟睡してますね」
「この牧場に住む住民の大半がドーマウス、別名眠りネズミ。人間を襲わない魔物娘よ」
「こんなに接近してるのに微動だにしない……安息の地と呼ばれるだけはありますね」

「早速ドーマウス四姉弟の家に行こう」
「ワーラ、その前にこの人を休ませる場所を探しましょう」
「ちぇー」

「有難うございます。これで狂うことなく、ゆっくり休めます」
「ええ、確かにそうねーー」

私は草原から先に咲き誇る花弁を見ながら呟く。








「誘惑に負けないかぎりはね」



※続く※
14/04/19 21:39更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
ドリルモールです。

今回はソーンファーム編。
養鶏場の双子視点で話が進みます。
次回はソーンファームの説明を挟みながら、エロありを書くつもりです。

初太とマドラのピクニックは順調に進むのか?まて次回。







キャラクター紹介@
【名前】ムッギ
【性別】女
【年齢】12(外見年齢)
【種族】マッドハッター
【容姿】麦わら帽子+黄色の燕尾服+オーバーオール+おさげ
【一人称】私
【能力・特技】タマゴの見抜き・仕訳
【概要】
 タマゴの里のマッドハッター。
 養鶏場一家の一人娘で、朝のタマゴの仕訳を行うのが日課。
 かつてマタンゴに寄生された際に双子の弟ワーラと交わり、その流れで夫婦となり、マッドハッターとなった今でも就寝前にはワーラと交わっている。
【補足事項】
 毎朝四時に起床するため、ハートの女王に『目覚まし時刑』を掛けてもらい、そのお陰で毎朝起床できる。







キャラクター紹介A
【名前】ワーラ
【性別】男
【年齢】12(外見年齢)
【種族】インキュバス
【容姿】麦わら帽子+黄色の燕尾服+オーバーオール+短髪
【一人称】俺
【能力・特技】力仕事
【概要】
 タマゴの里のインキュバス。
 養鶏場一家の一人息子で、朝の力仕事を行うのが日課。
 かつてマタンゴに寄生された双子の姉ムッギと交わり、その流れで夫婦となり、ムッギがマッドハッターになった今でも尻にしかれている。

【補足事項】
 ムッギと同じくハートの女王に『目覚まし時刑』を掛けてもらったが、朝に弱い。

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