妄想の暴走と回顧の上映
Μ郷愁の霧Μ
Μマドラ視点Μ
「あの女の人が、せんせーなのですか?」
「そうだ」
『泣かないで、せんせーがいるでしょ?』
容姿は若い人間の女性、初太と同じ色をした黒髪のセミロング、後ろ髪には緑色のリボンを巻いています
大人しめで健気な雰囲気から、ちょっとしたことで壊れてしまいそうな儚さを抱きます
ですがその声には決して動じることのない芯の強さ、そして表情は相手を受け入れる優しさを感じるのです
『だって、もうおとうさんとおかあさんは、じこで…えっく』
「事故…?」
「そういえばマドラにはまだ言ってなかったな」
「俺の両親は交通事故で亡くなった」
Μ不思議の国・不思議美術館Μ
Μ満知子視点Μ
「この通路を左に曲がってください」
エリンの案内でアタシ達は迷路のような通路を歩く
途中レスカティエ展の作業をしていた夫婦達を目にしながら
「んー、ちゅっちゅっ♥」
「あへぇー」
チェシャ猫が係員をうつぶせにして胸を押し付けキスを連発しているわ
それは仕事を忘れるほどに。
「満知子、ここにもパネルが落ちてるぞ。ふーん、魔法少女ミミル・ミルティエか」
へーくんが魔法少女の姿が描かれたパネルを持ち上げる、アタシの目はパネルの裏側にいく
「んな!?」
裏側を見たアタシに衝撃が走る
魔法少女から一転、魔力の触手で恥部を隠しただけというほぼ丸裸なロリ魔女ならぬロリ痴女
徹底的に幼体をアピールするとは、貧相なアタシへの当て付けか!
それを皮切りにへーくんが次々とパネルを持ち上げては女性達のafterを目にする
「こっちはダークプリーストのサーシャ様プラス少女二人の堕落トリオだな」
少女二人はともかく、肌色をちょい足しした程度の修道服は、よっぽど夫を誘惑出来る自信があるという訳?
「エルフとワーウルフのハイブリッド、プリメーラ様」
股間を毛で覆うだけの野生解放な自然体に、半ズボンを履いただけのアタシは安心出来そうにない
「レスカティエの女王、ローパーのフランツィスカ様」
身体から飛び出る触手にドロドロしたドレスという液体づくしの前には、アタシの愛液は雨漏りも同然orz
「黒稲荷の今宵様」
現代人のアタシには高嶺の花とも思える献身的な和服狐耳美女、こぼれ落ちそうな胸元があざとすぎる!
参ったわ〜どいつもコイツも魔物化したらこんなにも魅力的になれるのよ〜!
「はぁはぁ…この人達もはぁはぁ…」
アタシは気持ちを落ち着かせエリンに尋ねる
「最初に見た魔界勇者、名前は…えーと…ウィル………ウィルさんと同じレスカティエの勇者なの?」
「はい、堕落の乙女達と呼ばれていまして、彼女達は皆共通の夫を持ち、毎日淫らに交わっているそうです」
「八人も嫁がいるってそれ何てエロゲ?」
「いえ、正確には九人いまして、メルセ様が描かれたパネルがある筈ですけど…」
「まだ運ばれてきてないのかな?」
エリンとコルヌさんが残りのパネルを探している一方、へーくんが未だに両手にパネルを持って交互に凝視していることにアタシはムッとする
それは両手にパネルというジョーク?
それともパネルを重ね合わせ、見ろよ満知子、女体と女体が重なって百合っぽくねーか?と見せびらかすつもりなの?
「ふーん、このヒロイン達って共通してる部分があるんだな」
「へーくん、なに言ってるの?あら百合…ううん、あらゆる層に対応できるよう見た目や体型が差別化されているじゃない」
「満知子、さては美女達の容姿と自分のを比べていたのか〜?」
「図星で悪かったわね!」
「真っ赤な瞳だよ、真っ赤な瞳の宝石」
言われてみれば彼女達の服や身体には真っ赤な瞳を模した宝石が装飾されており、今宵の服にも真っ赤な瞳の刺繍がある
まるで彼女達を崇拝する主がいるかのように。
「この妖しい感じが堪らないな。ギウムもそう思うだろ」
「そうだな……ん、この宝石って――」
ギウムが何かを思い出すように顎に指を当てていると――
「ギウム、ギウム」
「エリン、今僕は大事な――んっ」
「んちゅ、くちゅ…」
エリンがギウムに深い口づけを始めた
何、いきなりキスってどういうこと?
ベッドルームにワープして交わるつもりなの?
「ぬり、ぬり」
次に指で自分の服をなぞり、菌糸の粘りを頬を塗りたくる
マーキング、マーキングなの?
「ぱんっ、ぱんっ!」
自分の帽子を脱いでそれをギウムの頭上でパンパンと叩く
お尻をパンパンさせてほしいジェスチャーなの!?
参ったわ、これは二人がセックスする展開に入るの、そうなのねー♥
「凄くキレイな宝石だよね!」
「うん」
「でもエリンが身に付けてるキノコのアクセサリーのほうがいいよね?」
「エリンのアクセサリーの方が可愛い」
「やったあ、エリンとっても嬉しい」
「はは、エリンったら嬉しそうに抱きついて」
「皆さん、休憩はここまでにして引き続き案内します」
エリンはギウムに抱きつきながら、通路でイチャイチャする交わる夫婦の横を通り、時には跨がってゆく
「あれ…エロありは?」
「満知子、目的地へ向かうためにはエリンちゃん達の案内が必要だろ?」
「そ、そうよね」
「満知子、オレ達も腕組むか?」
「……腕を組むだけなら」
アタシは細い腕をへーくんの腕に入れる
へーくんの腕は女とアタシと比べたらちゃんと筋肉がついているのがわかる
暖かいなぁ、へーくんのぬくもり…
昔、お母さんの腕を組みながら歩いていたことを思い出す。
「ねぇ、へーくん…もっと」
もっと腕だけじゃなく、足にも絡ませてほしい、絡ませながらお互いの温もりを肌で感じて、最終的には性器と性器も絡ませて――
「ふむふむ、そういうことか」
へーくんは刑示板(たぶれっと型)を弄っている最中
……
「へーくん、ナニアタシそっちのけでタブレット弄っているの?」
「満知子が自分から言っただろ?腕を組むだけならって」
「……」
参ったわ、妄想のしすぎかしら…何度も本来の目的を忘れそうになる
そもそも今の状況がアタシを深き妄想へと堕落させているのだろう
「うぉぉぉ!」
「アン!アン!」
「むにゃ〜」
「展示物を涎まみれにしちゃらめぇ♥」
「今日は運ぶのはここまでにして交わるぞ、四つん這いになれ」
「うん♥」
通路では置きっぱなしの展示物と運搬係が裸で絡み合うのが続いている
「それにしても膨大な数の展示物ね、レスカティエ展ってそんなに凄いの?」
「凄いも何もレスカティエは当時教団で二番目の実力を持つ国だったからな」
「知ってるの!?へーくん」
「刑示板のアプリ、ワンダーぺディアに書いてあるぞ。魔界化したレスカティエは教団から見れば汚点と言われているが、住人達は以前と比べて暮らしが良くなったという意見が多く、日夜幸せそうに生活しているとのこと」
「流石不思議の国、情報収集もお手軽なのね」
「お手軽か…僕の村にもそういう風に情報が得られれば、あんな悲劇にならなかったのかな…」
ギウムがそう呟く
それは怒りではなく、後悔に満ちたような感じがして――
「ギウム、今はエリンがいるよ」
エリンはギウムに言う、か弱くも強さを込めて
「そうだな、魔物は全員が悪いやつって訳じゃないし、エリンのように見た目は人間の女の子と変わらない魔物だっているしな」
「うん」
「頭に大きなキノコを被ってることを除けばだけど」
「もうギウムったら、これはエリン達帽子屋の象徴なのに〜」
「満知子、この世界にも優しく支えてくれる人もいるんだな」
「うん…」
やっぱり、へーくんの腕はあったかいなぁ…
そう腕を組みながら歩いているとアタシ達の前に現れたのは紺色の重厚な扉
アタシは曲解なしに結び付いた、ここが目的地なのだと
「ここが映写室です」
エリン夫妻の案内でアタシは映写室へ入る――
Μ映写室Μ
不思議の国とは別世界に思えたのがアタシの第一印象だった
中央にはフィルムを映す映写機、椅子が並べられただけの質素な作り、まるで映写機から映し出される映像を観賞してほしいかのように
「貴賓室がある通路を開く仕掛けを起動させるには、映写フィルムを二つ用意する必要がある。不思議の国の代表者を含めた二人分の記憶がね」
普段はボクのファンである女の子達に頼んでいるけど、とコルヌさんは映写機の蓋を開ける
「どうやって上映するの?」
「まずはこれを頭に被る」
と、コルヌさんが映写機から取り出したのは昔の特撮物に出てきそうな脳を検査する機械っぽいもの
コルヌさんは帽子を脱いで、それを頭に被ると映写機のフィルムが回りだした
上映に合わせて部屋も薄暗くなる
「さあ、ボクの物語のはじまりはじまり…」
Μ
『ここが白百合の花園だよ』
『綺麗ですね』
映し出されたのまどっち
帽子を被っているシンプルなシルクハットに赤と青のリボンのアクセントが栄えている
そして首から下は燕尾服――ではなく
「紺色のワンピースにロングスカートから見える生足と花柄のサンダルを履いているぞ? マドラちゃんが女の子の格好とは珍しい」
「へーくん、おかしなこと言うわね。まどっちが自宅で披露してたじゃない」
「女の子の格好は基本自宅だけだろ? マドラちゃん外出してるんだぜ」
「言われてみれば…」
『きゃっ』
『大丈夫かい?』
『すみません…何かにつまづいてしまって…こんなところに子供が寝てる?』
『この娘はドーマウスだよ』
「それにあのマドラちゃん、妙に大人しめって感じがするんだよな。なんというか…貴族の家に大事にされすぎた箱入りのお嬢様っていうか――」
『はしたないですよ、お腹や胸を出したまま眠っちゃ』
『マドラちゃんは親切だね』
「まるで、マッドハッターになっていないかのようだ」
「へーくんったらおかしなこと言って、まどっちはマッドハッターでしょ、帽子のような巨大キノコに寄生された静かな狂人」
「種族的な意味じゃなくてさ、精神面ではまだ人間って感じがする」
「この頃のマドラちゃんは訳あって完全なマッドハッターじゃないよ」
と、へーくんの推測をコルヌさんが断言してくる
「コルヌさん、それってどういう…」
「早送りするよ」
「満知子、映像が早送りしたぞ、まるでビデオみたいだ」
へーくんが言うように、コルヌさんが念じるように集中させると映写機が高速で回り、映像の場面が次々と変わる
「この映写機で流れる映像は本人の意思によって早送りや巻き戻しが可能です」
「その気になればフィルムを焼ききって上映中止も出来るよ」
エリンとギウムの解説する頃には、場面は変わり園長室に移っていた
『おお、君がコルヌ君が言っていた娘なのか、びっくり』
『は、はじめまして…今日からここで学ばせていただく、マドラ=グンティエと申します』
『ここの園長であるカミラだ、種族はヴァンパイア』
容姿はアタシ達の世界にいる演劇で男役をする女性みたいな人ね
『マドラ君、君のその容姿は、正に束縛された蛹、君のような大人しい令嬢がやがて美しい麗蝶へ羽化すると思うと――』 キュルキュル
「少し早送りしよう、この後一時間くらい学園長の語りが続くからね」
暫くの間、演劇のポーズを取りながら語る女性の姿が映り続ける
あの園長は相当鬱陶しいタイプだというのは妄想抜きで理解したわ。
「お、エリンが映ったぞ」
「うん、懐かしいな…」
ようやく教室へと場面転換
そこにいたのはエリンを含めた四人の少女
年齢や容姿、服装までもがバラバラな四人、共通点は帽子を模した巨大なキノコを被っていること
『全員着席したようだね』
まどっちとコルヌさんが着席すると、教壇からウサミミのような頭巾を被った女性がまどっち達に声をかける
『ようこそ、白百合の花園へ。わたしが講師の聞々実(ききみ)キン、あらゆる生命との会話が出来るマッドハッターだ。これから君達には講習を受けてもらう、立派なマッドハッターになるためのね』
『はーい先生、立派なマッドハッターになるにはどうすればいいのカナ?』
『ブーナ君、いい質問だ。それは――』
『帽子と会話することだ』
Μ続くΜ
Μマドラ視点Μ
「あの女の人が、せんせーなのですか?」
「そうだ」
『泣かないで、せんせーがいるでしょ?』
容姿は若い人間の女性、初太と同じ色をした黒髪のセミロング、後ろ髪には緑色のリボンを巻いています
大人しめで健気な雰囲気から、ちょっとしたことで壊れてしまいそうな儚さを抱きます
ですがその声には決して動じることのない芯の強さ、そして表情は相手を受け入れる優しさを感じるのです
『だって、もうおとうさんとおかあさんは、じこで…えっく』
「事故…?」
「そういえばマドラにはまだ言ってなかったな」
「俺の両親は交通事故で亡くなった」
Μ不思議の国・不思議美術館Μ
Μ満知子視点Μ
「この通路を左に曲がってください」
エリンの案内でアタシ達は迷路のような通路を歩く
途中レスカティエ展の作業をしていた夫婦達を目にしながら
「んー、ちゅっちゅっ♥」
「あへぇー」
チェシャ猫が係員をうつぶせにして胸を押し付けキスを連発しているわ
それは仕事を忘れるほどに。
「満知子、ここにもパネルが落ちてるぞ。ふーん、魔法少女ミミル・ミルティエか」
へーくんが魔法少女の姿が描かれたパネルを持ち上げる、アタシの目はパネルの裏側にいく
「んな!?」
裏側を見たアタシに衝撃が走る
魔法少女から一転、魔力の触手で恥部を隠しただけというほぼ丸裸なロリ魔女ならぬロリ痴女
徹底的に幼体をアピールするとは、貧相なアタシへの当て付けか!
それを皮切りにへーくんが次々とパネルを持ち上げては女性達のafterを目にする
「こっちはダークプリーストのサーシャ様プラス少女二人の堕落トリオだな」
少女二人はともかく、肌色をちょい足しした程度の修道服は、よっぽど夫を誘惑出来る自信があるという訳?
「エルフとワーウルフのハイブリッド、プリメーラ様」
股間を毛で覆うだけの野生解放な自然体に、半ズボンを履いただけのアタシは安心出来そうにない
「レスカティエの女王、ローパーのフランツィスカ様」
身体から飛び出る触手にドロドロしたドレスという液体づくしの前には、アタシの愛液は雨漏りも同然orz
「黒稲荷の今宵様」
現代人のアタシには高嶺の花とも思える献身的な和服狐耳美女、こぼれ落ちそうな胸元があざとすぎる!
参ったわ〜どいつもコイツも魔物化したらこんなにも魅力的になれるのよ〜!
「はぁはぁ…この人達もはぁはぁ…」
アタシは気持ちを落ち着かせエリンに尋ねる
「最初に見た魔界勇者、名前は…えーと…ウィル………ウィルさんと同じレスカティエの勇者なの?」
「はい、堕落の乙女達と呼ばれていまして、彼女達は皆共通の夫を持ち、毎日淫らに交わっているそうです」
「八人も嫁がいるってそれ何てエロゲ?」
「いえ、正確には九人いまして、メルセ様が描かれたパネルがある筈ですけど…」
「まだ運ばれてきてないのかな?」
エリンとコルヌさんが残りのパネルを探している一方、へーくんが未だに両手にパネルを持って交互に凝視していることにアタシはムッとする
それは両手にパネルというジョーク?
それともパネルを重ね合わせ、見ろよ満知子、女体と女体が重なって百合っぽくねーか?と見せびらかすつもりなの?
「ふーん、このヒロイン達って共通してる部分があるんだな」
「へーくん、なに言ってるの?あら百合…ううん、あらゆる層に対応できるよう見た目や体型が差別化されているじゃない」
「満知子、さては美女達の容姿と自分のを比べていたのか〜?」
「図星で悪かったわね!」
「真っ赤な瞳だよ、真っ赤な瞳の宝石」
言われてみれば彼女達の服や身体には真っ赤な瞳を模した宝石が装飾されており、今宵の服にも真っ赤な瞳の刺繍がある
まるで彼女達を崇拝する主がいるかのように。
「この妖しい感じが堪らないな。ギウムもそう思うだろ」
「そうだな……ん、この宝石って――」
ギウムが何かを思い出すように顎に指を当てていると――
「ギウム、ギウム」
「エリン、今僕は大事な――んっ」
「んちゅ、くちゅ…」
エリンがギウムに深い口づけを始めた
何、いきなりキスってどういうこと?
ベッドルームにワープして交わるつもりなの?
「ぬり、ぬり」
次に指で自分の服をなぞり、菌糸の粘りを頬を塗りたくる
マーキング、マーキングなの?
「ぱんっ、ぱんっ!」
自分の帽子を脱いでそれをギウムの頭上でパンパンと叩く
お尻をパンパンさせてほしいジェスチャーなの!?
参ったわ、これは二人がセックスする展開に入るの、そうなのねー♥
「凄くキレイな宝石だよね!」
「うん」
「でもエリンが身に付けてるキノコのアクセサリーのほうがいいよね?」
「エリンのアクセサリーの方が可愛い」
「やったあ、エリンとっても嬉しい」
「はは、エリンったら嬉しそうに抱きついて」
「皆さん、休憩はここまでにして引き続き案内します」
エリンはギウムに抱きつきながら、通路でイチャイチャする交わる夫婦の横を通り、時には跨がってゆく
「あれ…エロありは?」
「満知子、目的地へ向かうためにはエリンちゃん達の案内が必要だろ?」
「そ、そうよね」
「満知子、オレ達も腕組むか?」
「……腕を組むだけなら」
アタシは細い腕をへーくんの腕に入れる
へーくんの腕は女とアタシと比べたらちゃんと筋肉がついているのがわかる
暖かいなぁ、へーくんのぬくもり…
昔、お母さんの腕を組みながら歩いていたことを思い出す。
「ねぇ、へーくん…もっと」
もっと腕だけじゃなく、足にも絡ませてほしい、絡ませながらお互いの温もりを肌で感じて、最終的には性器と性器も絡ませて――
「ふむふむ、そういうことか」
へーくんは刑示板(たぶれっと型)を弄っている最中
……
「へーくん、ナニアタシそっちのけでタブレット弄っているの?」
「満知子が自分から言っただろ?腕を組むだけならって」
「……」
参ったわ、妄想のしすぎかしら…何度も本来の目的を忘れそうになる
そもそも今の状況がアタシを深き妄想へと堕落させているのだろう
「うぉぉぉ!」
「アン!アン!」
「むにゃ〜」
「展示物を涎まみれにしちゃらめぇ♥」
「今日は運ぶのはここまでにして交わるぞ、四つん這いになれ」
「うん♥」
通路では置きっぱなしの展示物と運搬係が裸で絡み合うのが続いている
「それにしても膨大な数の展示物ね、レスカティエ展ってそんなに凄いの?」
「凄いも何もレスカティエは当時教団で二番目の実力を持つ国だったからな」
「知ってるの!?へーくん」
「刑示板のアプリ、ワンダーぺディアに書いてあるぞ。魔界化したレスカティエは教団から見れば汚点と言われているが、住人達は以前と比べて暮らしが良くなったという意見が多く、日夜幸せそうに生活しているとのこと」
「流石不思議の国、情報収集もお手軽なのね」
「お手軽か…僕の村にもそういう風に情報が得られれば、あんな悲劇にならなかったのかな…」
ギウムがそう呟く
それは怒りではなく、後悔に満ちたような感じがして――
「ギウム、今はエリンがいるよ」
エリンはギウムに言う、か弱くも強さを込めて
「そうだな、魔物は全員が悪いやつって訳じゃないし、エリンのように見た目は人間の女の子と変わらない魔物だっているしな」
「うん」
「頭に大きなキノコを被ってることを除けばだけど」
「もうギウムったら、これはエリン達帽子屋の象徴なのに〜」
「満知子、この世界にも優しく支えてくれる人もいるんだな」
「うん…」
やっぱり、へーくんの腕はあったかいなぁ…
そう腕を組みながら歩いているとアタシ達の前に現れたのは紺色の重厚な扉
アタシは曲解なしに結び付いた、ここが目的地なのだと
「ここが映写室です」
エリン夫妻の案内でアタシは映写室へ入る――
Μ映写室Μ
不思議の国とは別世界に思えたのがアタシの第一印象だった
中央にはフィルムを映す映写機、椅子が並べられただけの質素な作り、まるで映写機から映し出される映像を観賞してほしいかのように
「貴賓室がある通路を開く仕掛けを起動させるには、映写フィルムを二つ用意する必要がある。不思議の国の代表者を含めた二人分の記憶がね」
普段はボクのファンである女の子達に頼んでいるけど、とコルヌさんは映写機の蓋を開ける
「どうやって上映するの?」
「まずはこれを頭に被る」
と、コルヌさんが映写機から取り出したのは昔の特撮物に出てきそうな脳を検査する機械っぽいもの
コルヌさんは帽子を脱いで、それを頭に被ると映写機のフィルムが回りだした
上映に合わせて部屋も薄暗くなる
「さあ、ボクの物語のはじまりはじまり…」
Μ
『ここが白百合の花園だよ』
『綺麗ですね』
映し出されたのまどっち
帽子を被っているシンプルなシルクハットに赤と青のリボンのアクセントが栄えている
そして首から下は燕尾服――ではなく
「紺色のワンピースにロングスカートから見える生足と花柄のサンダルを履いているぞ? マドラちゃんが女の子の格好とは珍しい」
「へーくん、おかしなこと言うわね。まどっちが自宅で披露してたじゃない」
「女の子の格好は基本自宅だけだろ? マドラちゃん外出してるんだぜ」
「言われてみれば…」
『きゃっ』
『大丈夫かい?』
『すみません…何かにつまづいてしまって…こんなところに子供が寝てる?』
『この娘はドーマウスだよ』
「それにあのマドラちゃん、妙に大人しめって感じがするんだよな。なんというか…貴族の家に大事にされすぎた箱入りのお嬢様っていうか――」
『はしたないですよ、お腹や胸を出したまま眠っちゃ』
『マドラちゃんは親切だね』
「まるで、マッドハッターになっていないかのようだ」
「へーくんったらおかしなこと言って、まどっちはマッドハッターでしょ、帽子のような巨大キノコに寄生された静かな狂人」
「種族的な意味じゃなくてさ、精神面ではまだ人間って感じがする」
「この頃のマドラちゃんは訳あって完全なマッドハッターじゃないよ」
と、へーくんの推測をコルヌさんが断言してくる
「コルヌさん、それってどういう…」
「早送りするよ」
「満知子、映像が早送りしたぞ、まるでビデオみたいだ」
へーくんが言うように、コルヌさんが念じるように集中させると映写機が高速で回り、映像の場面が次々と変わる
「この映写機で流れる映像は本人の意思によって早送りや巻き戻しが可能です」
「その気になればフィルムを焼ききって上映中止も出来るよ」
エリンとギウムの解説する頃には、場面は変わり園長室に移っていた
『おお、君がコルヌ君が言っていた娘なのか、びっくり』
『は、はじめまして…今日からここで学ばせていただく、マドラ=グンティエと申します』
『ここの園長であるカミラだ、種族はヴァンパイア』
容姿はアタシ達の世界にいる演劇で男役をする女性みたいな人ね
『マドラ君、君のその容姿は、正に束縛された蛹、君のような大人しい令嬢がやがて美しい麗蝶へ羽化すると思うと――』 キュルキュル
「少し早送りしよう、この後一時間くらい学園長の語りが続くからね」
暫くの間、演劇のポーズを取りながら語る女性の姿が映り続ける
あの園長は相当鬱陶しいタイプだというのは妄想抜きで理解したわ。
「お、エリンが映ったぞ」
「うん、懐かしいな…」
ようやく教室へと場面転換
そこにいたのはエリンを含めた四人の少女
年齢や容姿、服装までもがバラバラな四人、共通点は帽子を模した巨大なキノコを被っていること
『全員着席したようだね』
まどっちとコルヌさんが着席すると、教壇からウサミミのような頭巾を被った女性がまどっち達に声をかける
『ようこそ、白百合の花園へ。わたしが講師の聞々実(ききみ)キン、あらゆる生命との会話が出来るマッドハッターだ。これから君達には講習を受けてもらう、立派なマッドハッターになるためのね』
『はーい先生、立派なマッドハッターになるにはどうすればいいのカナ?』
『ブーナ君、いい質問だ。それは――』
『帽子と会話することだ』
Μ続くΜ
16/05/04 23:48更新 / ドリルモール
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