連載小説
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迷宮の美術館と雑音の触手語
Μ郷愁の霧・マドラ宅Μ
Μ初太視点Μ


「中庭に入るぞ」

何度も扉を出入りするうちにマドラの家は大体把握できた

中庭には庭師の男女が数名、花壇の手入れをしている

扉を開け、昼間の光が俺の視界を被い――


庭にはサッカーの試合をする男女がいた



   ?

俺は一瞬言葉を失っていた

中庭には何度も出入りしてきたが、彼等の姿を見たことはこれまで一度も無かった。



「ショロさん?」



マドラはそのうちの一人の名を口にする

「それにリュフ君も、この光景ってあの時の……やっぱり、しいさんにブーナちゃんも、口をポカンとしながら見てる」
「知っているのか、マドラ」
「はい、彼女達はわたしの知り合いです。でもそんな筈は……まさか、これが霧の濃度が増した影響なの?」



「マドラちゃん」



クリーム色の髪をした小柄な少女――マッドハッターがマドラに声をかける

マドラは動揺して身体を震えている
まるで場違いな人物と遭遇したかのように――

「身体震えてるよ、まだキノコの寄生が苦しいの?」

マドラは少女の名を呟く


「エリンちゃん」


M不思議の国・不思議美術館M
M満知子視点M


「ここが不思議美術館なのね」

バロック建築や近未来建築、所々にファンシーな飾りつけがされており、遊園地にあるビックリハウスを彷彿させる。
不思議の国クオリティが詰まった建物といっていいわね。

「女王立不思議美術館、女王様が魔界美術館をリスペクトして建造した摩訶不思議な作品が展示されている迷宮だよ」
「迷宮? どういう意味ですかコルヌさん」
「内部が複雑に入り組んでいてかつ所々にワープスポットがあるから、まるで迷路のようになっているのさ。不思議の国の住人でさえも一度入ったら最後、出口を求めて何ヶ月も彷徨い続けるだろうね」
「何ヶ月も彷徨い続けるのなら捜索どころじゃないわよ!」
「大丈夫、ボクなら秘密の裏口を知っているから半日もすれば脱出できる」

だから安心して、とコルヌさんが微笑む

何その優しそうな微笑み、女であるアタシでも惚れそう

いやいや、アタシにはへーくんという夫が――

「迂闊に妄想しないほうがいいよ、ただでさえ交わりにいきつくのに」
「え?」
「ほら、あれ」

コルヌさんが指した先、美術館入口の芝生には


「どうだい、僕のこのポーズ、ヌードモデルに匹敵するとは思わないか?」
「そのオチンポから出る白い絵の具で染めて」
「もっとジュポジュポしてジュポジュポして」
「ミュニャミュニャ、芸術はしゃせいだ〜」
「ナカに出して」


形振り構わずエッチなことをする夫婦達がいた。

「あれは、美術館の魔力を浴びた客ですニャ…」
「この時点で芸術だぜ」

「魔界美術館でも、芸術鑑賞後は今にも交わりたくなるほど発情してしまうと言われているくらいだから、入口で交わっても不思議じゃないさ」

と、コルヌさん。

「参ったわ、こんな建物に入るの、気が進まな……ううん、どの道待機するくらいなら入館してやる!」
「いい心構えだ。それにもしかしたら、ここで初太クンとマドラちゃんの手がかりが掴めるかもよ?」

コルヌさんが指さす方角を、交わる夫婦から男性二人組へと向ける。


「この帽子から伝わる魔力、妊娠中に産み出した帽子ですな」
「産院SAで入院中のマッドハッターの妊婦が産み出した代物です」
「この金額と量で買いましょう」
「金貨と紅茶がこんなにも沢山!?」
「魔物娘は妊娠しづらい種族、頭のキノコで寄生させて仲間を増やすマッドハッターなら尚更。お祝いの意味を込めての気持ちです」
「交渉成立です」
「ありがとうございます。またお売りいただける帽子があればいつでも美術館へとお越しください」

「あの人は帽商だよ、画商の帽子版のような人さ」
「寄生スライムタクシーも運賃として帽子の提供をしているから、帽子の売買があっても不思議じゃないわね」
「ここの美術館に住む人達は目が肥えているからね。帽商の中には帽子だけでその人物を特定できる人もいるよ」
「……へーくん、ミミックもどきを出して」


アタシはミミックもどきからマッドハッターの帽子を取り出す

まどっちが産み出した帽子を――


M絵画展示室M


美術館へ入館したアタシ達は、コルヌさんの案内の下、絵画が展示されてる部屋へ入る(チェルちゃんは美術館外で待機)

「初太は自宅でまどっちと三日三晩交わり続け、精液が注がれる度に、まどっちはキノコを産み続けた、それは家中が帽子で溢れかえるほどに――」


「満知子、二人はどのプレイで多くの帽子を産み出したんだろうな?」
「――そうね、まどっちのことだから、お嬢様らしく正常位で――ってそんな妄想している場合じゃない!」

「コルヌさん、まどっちが産み出した大量の帽子を競技場へ提供したのよね?」
「そうだよ」
「競技の参加者の中にまどっちの帽子を被ってマッドハッター化した女性がいるかもしれない」

アタシは断言する。

「つまり、この帽子に見覚えがある住人がいても不思議じゃないのよ!」
「帽子がきっかけの出会いがあっても不思議じゃないよな。その前にまずは観賞しようぜ」
「へーくん、絵の観賞してる場合?」
「違う違う、オレが観賞するのは住人のほうさ」

アタシは絵の観賞をする住人の姿を見る


「この絵のアリス、凄く可愛いよ」「へぇーあたしにも見せて」

互いに寄り添いあったり

「チェシャ猫フゥーフゥー」

興奮したり

「ハァハァ、ジャバウォックのおっぱいハァハァ!」

自慰をしてる

動物のウサギが交尾する絵を見た男性が

「マーチヘアはどこだ、マーチヘアはどこだ」

ウサギのように跳躍しながら、動き回る。


「ここは不思議の国、絵を見ただけで性的な行動を起こしても不思議じゃないさ」
「ていうかコルヌさん、アイツ捕らえないの? あの鎧からして明らかに討伐隊だろ?」
「その心配はないよ、ほら」


「いたぞ、討伐隊だ」

美術館のスタッフらしき住人が彼を取り抑えた。

「マーチヘアはどこだ、マーチヘアはどこだ」
「後でマーチヘア化した仲間を紹介してやるから」


「美術館のスタッフが総動員で、討伐隊を捕縛・外へ連れ出す役目がある」

マーチヘアを連呼する討伐隊を見ながら、アタシは次の展示室へ向かう。


M触手の展示室M


部屋には観葉植物用のケースが展示されているわ

シュルシュル
ベチョベチョ
ウネウネ

中身は全部触手だけど。

部屋に入ると、テンタクル・ブレインが現れ

『@/# :-=?』

雑音のような声を発したわ。

「はい?」
『@/# :-=?』

何を言ってるのか不明、英語のリスニングテストを思い出すわ。

「触手語で『ようこそ』って言っているよ」
「わかるのですか、コルヌさん。というより触手語?」
「テンタクルや触手との間で使われる言葉だよ」

「触手の言葉も解るなんてすげーな、流石女王様に認められた『フォーカード』の一人、知識といい、スタイルといい、正に完璧超人、うへへ」
「へーくん、コルヌさんの胸やお尻を見ながら鼻の下を伸ばすな!」

「流石に母さんには及ばないよ。君、ここの案内をお願い」
「ここでは不思議の国に生息する触手が展示されています」

テンタクル(魔物娘)のスタッフが、アタシ達の言語で説明をする。

「ねぇあの触手、チョコを食べてるけど?」
「この触手は精や魔力の次にチョコが大好きな触手です。主にバレンタインデーの日に出没します」
「迷惑な触手ね…」
「他にも豆を鉄砲のように飛ばす触手、甘酒や菱餅を好む触手、端午の節句に出没する菖蒲形の触手、短冊の願いを叶えてくれる触手もいます」
「行事が大好きな触手達ね」

アタシは『お手を触れないでください』と書かれた注意書が貼られたガラス張りを見る

ガラスの向こうには何百にも及ぶ触手が全体を被い尽くしていた

他の触手と違ってグロテスクな形をしているわね、ヴジュウジュ、グチャグチャと粘液音をたてながら落ち着かない素振りで蠢いているし

「これは『樹増の塔』地下階層から採取した触手です」
「結構いるわね」
「最初はほんの数本でしたけど、いつの間にか自生したようでして……すみません、別の客がテンタクル・ブレインに怯えているようですので」

客を落ち着かせようと、テンタクルはその場から離れる。

アタシは、へーくんと一緒にあの触手に陵辱される妄想をしながら、やっほーと手を振ってみる

『  』
「ん? 何か言った?」

アタシはウサギの聴覚を用いて、ケースの中の雑音を拾う。

ガンッ!

『"$.\>~』


……


ガンガン

『"$.\>~"$.\>~"$.\>~"$.\>~"$.\>~"$.\>~"$.\>~』

ガンガンガンガンガンガンガンガンガン

同じ雑音を幾度と繰り返しながら、触手の体当たりが続く

ピシッ、とガラスに皹が入る音がアタシの耳に届いた。


「行こうか、みんな」
「コルヌさん、もう出るんすか?籾の木を模した触手を見てる最中だけど」
「行くよ」

コルヌさんはこの部屋を出ようとする


早足で


「行こう、へーくん」
「えー、満知子も出るのかよノリ悪いな。クリスマスツリーだぞ、一緒にクリスマスセックスを妄想「いいから行くの!」




「ぎゃあああ、地下の触手がケースを突き破ったぞ!ウッ…ワタシハショクシュノオウ、ツマヲリョウジョクスル」
「わたしの夫がマン・マリオネットに操られたわぁ〜」
「落ち着いてください皆様、ここはキャア」
「テンタクルまで捕まったわぁ〜」



シュルシュル
ズソズソ
ヌチョヌチョ

「参ったわ、触手が追ってきたわ」
「うっそだろぉ!?」

『"$.\>~"$.\>~"$.\>~』
「またその雑音? アタシに乱暴するつもりなのね、同人誌みたいに!」

「二人ともあの像まで走って」

コルヌさんの指示通り、アタシはへーくんと一緒にコボルドの銅像へ向かう

銅像に到着するとコルヌさんがアタシとへーくんの頭を鷲掴みにして

チュッ!

へーくんと強引に口付けをさせられ何処へと――


M通路M


「ごめんね、触手から逃げ出すにはワープする必要があったんだ…」

「ハァハァ…」
「結果オーライ」

「ボク、ここはどこなのかスタッフに聞いてくる…」


「はぁーはぁー」


へーくんの唇…とても柔らかくて…

はっ、いけない!イケナイ!

アタシはまどっちの帽子を手に取り

「この帽子、まどっちの帽子に見覚えのある帽商を探さなくちゃ、きっと帽子を見せれば手がかりが…」
「それはどうかな〜?」
「へーくん、何疑わしい台詞を言ってるのよ」
「そもそもその帽子には、一番の特徴が無いんだよ」
「一番の特徴? 何なのへーくん」
「満知子は気づかなかったのか? マドラちゃんがいつも被っている帽子とその帽子の違い」

アタシはまどっちの帽子をくまなくチェックする。

見た目は従来のマッドハッターと同じシルクハット
色合いは図鑑のマッドハッターカラーである緑色、図鑑とは違うのはトランプのスートの模様、キノコや値札といった飾りが一切ない無地のシンプルな構造
鍔の裏面を見るとキノコ特有の襞が見える
個性豊かな帽子を持つタマゴの里の住人の中では、従来のシルクハットはかえって目立つけど……

そもそもこの帽子は初太の精を受けて、まどっちの頭から生えてきたキノコ
つまりまどっちと初太の子供と言っても不思議じゃない
どんなプレイで交わり、射精したのかな? 正常位、騎乗位、バック、松葉崩し
その時のまどっちのキャラは? ぼくっ娘キャラのまま、それとも本来のキャラであるお嬢様
そもそも、家中が帽子で埋め尽くされるくらいの交わりって――


「うーん……参ったわ、マーチヘアの妄想力を駆使しても思いつかないわ」
「妄想と記憶は別物だろ、というツッコミは置いといて、その帽子にはな――」


「コルヌさんが来ているとは思いませんでした」
「ボクも、君が帽商も兼ねているとは驚きだよ」


コルヌさんが美術館のスタッフを連れてきたようね

「あれ、その帽子…」

そのスタッフ、クリーム色の髪をしたマッドハッターの少女が

「マドラちゃんの帽子?」

まどっちの帽子に気づく。

「へーくんどうよ、まどっちの帽子だと気づいたわ!」
「よかったね〜」

「はじめまして、この美術館でスタッフ兼帽商を勤めているエリンといいます。よろしくお願いします」


M続くM
15/08/16 00:39更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ


触手語を知らないアタシでも、地下の触手達が何を言っているのか大体想像がついた

『おかす』ってね


Μ


夜遅く失礼します。
ドリルモールです。


不思議の里の麗人達、久しぶりの本編再開です。


満知子達が美術館で出会ったマッドハッターの少女、エリン。
彼女とマドラの関係が次回明らかに!?


今回登場した触手語は、さ様のテンタクル読切から着想を得て、丸一日かけて作成しました。
さ様、名称の使用許諾誠にありがとうございます。
質問等がありましたら、感想欄にてお願いします。

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