連載小説
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スカートの帽子屋と魔法の鏡
Μ郷愁の霧・マドラ宅中庭Μ
Μ初太視点Μ


「エリンもね、最初は苦しかったよ」

マドラの記憶に存在する少女が語る

「何を考えても淫猥なことに繋がって、しかもそれを受け入れつつある自分自身に」

ショートパンツを履いたマッドハッターが

「でも帽子の声を聞いて思ったの。エリンに過去の記憶を見せないために、過去を振り返らず前に進もうと帽子も頑張ってるって」


弱々しくも、だけど強さを抱いて


M不思議の国・不思議美術館M
M満知子視点M


「改めて紹介するよ。彼女はエリン、白百合の花園の卒園生で、マドラとは同期生だよ」


コルヌさんがアタシ達にマッドハッターの少女を紹介する。

「白百合の花園?」
「リリラウネが咲き誇る学校のことだよ、ぐふふ」
「へーくん、変な声出てるよ」
「満知子、これが園内の様子だ」

アタシは刑示板のSNS機能に掲載されてる写真を見る。

巨大花弁の中にアルラウネに似た魔物が二人、互いに蜜を塗りながら女同士で交わっている

ただ全てがリリラウネ同士の組み合わせじゃないみたい

片割れしかいないリリラウネがパンダの特徴を持ったお嬢様を犯したり、赤鬼×青鬼のみのカップリングもあったわ。

参ったわ、リリラウネって魔物娘も百合の世界へ誘うの?
来訪した女性の多くが固有種化するから、そう都合よく半身と出会えないから仕方がないのかもしれないけど…


「シルクハットはともかく、ボトムスがスカートって珍しいよな。普通はズボンかショーパンだろ?」
「夫の好みに合わせていますので」

へーくんの質問にエリンは笑顔で返す



「エリン、こんな所にいたのか」



紫色に光る鎧を纏った少年が此方に向かってきた。
背はエリンより二センチ高くて、均等に整った銀髪が特徴的ね。

「ギウム、もう掃除終わったの?」
「絵画や彫刻に付着した精液と愛液は綺麗に拭き取ったぞ」
「ありがと、未婚者は作品をオカズにオナニーしちゃうことが多いからね」
「エリン、そのマッドハッターは?」
「コルヌさん、学校に通ってた時の知り合いだよ」
「ふーん…」

ギウムと呼ばれた少年がコルヌさんを前髪越しに凝視する。

「なあエリン、この美男子っぽい女の人が、例のお嬢様か?」
「違うよギウム、コルヌさんじゃないよ。帽子が違うでしょ?」
「確かにシルクハットじゃないな」

「ボクはコルヌ、魔力の感じからして君はエリンちゃんの夫のようだね」
「ギウムだ。エリンとは城下町のお茶会で出会った」
「ボク達三人を映写室まで案内してほしいんだ。ちょっと道に迷ってしまってね」
「そっちのマーチヘア夫妻も一緒にか?」

「満知子です」

アタシは少年に自己紹介する。

「ほら、へーくんも」

へーくんはステップを踏むように踊り

「『狂気の狩人(マッドハンター)』の二つ名を持つ平也だ」

一回転しながら、どや顔で自己紹介をした。

参ったわ、またへーくんのおふざけが始まったわ。大抵の住人ならこれで唖然としてしまう――


「満知子ちゃんと平也君ですね」


意外なことにエリンは平常運転

「オレの挨拶を見て何とも思わないのか?」
「白百合の花園では、そんな演技じみた自己紹介を何度も目にしています。なので当然のように受け入れちゃいます」
「なん…だと?」

驚きのあまり、へーくんの眼鏡がずれ落ちる
ここは不思議の国、へーくんのような人がいても不思議じゃないわね。

「そんなぁ……ん? マドラちゃんと同期ってことは、ひよっとしてマドラちゃんも入園経験があるのか? 白百合の花園に、美少女だらけの聖域に」
「はい、エリンや他の娘達と一緒に学びましたけど、マドラちゃんから聞いていないのですか?」
「いんや、初耳だ。満知子、マドラちゃんから聞いたか?」

アタシは首を横に振る

「まどっちと話したことといったら、ハプニングと不思議の国らしく色に狂った会話ぐらいで」
「だよな〜タマゴの里のお茶会でエロトークで盛り上がって、媚薬入りの紅茶やお菓子を口にしながら交わることしか覚えてね〜」
「そうよね、そんなへーくんを見てるとエッチな妄想ばかり浮かんで」
「思い出しただけでムラムラしてきた〜よく考えたらオレ達、マドラちゃんが前に何をやっていたのか知らないよな?」
「ヤっていた? へーくんといつもヤってるじゃない……」

参ったわ、アタシはまどっちの過去を知らないんだ

「へーくん♥ヤっちゃおっか?」

でもそれはまどっちにも同じことが言えるのよね――


「ここで立ち話をするのは何だから、そろそろ貯蔵庫に向かうとしよう」


コルヌさんの一言で、アタシ達は本来の目的を思い出す。

「エリンちゃん、ボクたちを案内してくれるかい?」
「はい、勿論です。エリンについてきてください」

「へーくんも行くよ」
「へいへい」

アタシ達は気を引き締めてエリン夫妻について行く


「ったく、これだからマーチヘアは、何が何でも交わりに行き着こうとしやがって」


その最中に、ギウムのぼやきをアタシは聞き逃さなかった。

しょうがないよ、だってアタシ、マーチヘアだし
ウサギって寂しいと死んじゃうのよ?


「人の過去を詮索されるよりはマシだけどさ」


そんなことを考えていたせいか、それ以降のギウムのぼやきを聞き逃していた。


Μ三虫士の銅像Μ


「まずはあの銅像の前で仕掛けを起動させます」

エリンちゃんが指したのは三匹の昆虫型魔物と少年の銅像

「ギウム、準備はオッケー?」
「ああ……コホン、この銅像は三虫士と呼ばれるソルジャービートル達です」

唐突にギウムが銅像の解説を始めたわ。

「左からアトス、ポルトス、アラミス、そして真ん中の少年が彼女達の弟子であり夫でもあるダルタン」

参ったわ、説明することが起動条件なの?

「普段は『虫無視の森』内を警備しており、無許可で森の昆虫を捕獲する者には――」チュッ♥

「キスしただとぉ!」

エリンがギウムの頬にキスをすると銅像が光りだし、アタシ達は別の部屋へと転送された。


Mおもちゃ箱の部屋M


「驚かせてすみません、相手の不意をつく形でキスをすることが条件でしたので」
「気にしなくていいわ、へーくんはこういう人だから」

「おーい、顔真っ赤だぞ〜」
「う、うるさい、僕はキスに弱いんだ!」
「ワーォ、シャイボーイ」

へーくんがギウムを囃している中、アタシは周囲を見渡す

「まるでおもちゃ箱をひっくり返したように、作品が乱雑してるわね」
「この部屋はハートの女王様が生み出した玩具や道具を展示しています」
「参ったわ、展示といいつつ単に散らかしてるだけじゃない」
「そういう仕様なので」

アタシは足元にある湿布を拾う

「それは『癒シップ』です。怪我した部分に貼れば癒されるように傷が治ります」

「じゃあこのハンガーは?」
「『ハングハンガー』です。自動的に洗濯物を吊り下げることができます」

「このパーティー用のクラッカーは?」
「それは『クラクラッカー』です。精や魔力を込めて引けば、凝縮した精や魔力が煙となって散布します」

「異性がその煙の匂いを嗅ぐだけでカリュブディスの如く吸い込まれるように相手を押し倒すってさ」

ギウムは補足しながら葉を何枚も重ねたような剣を拾う

「これは『まといの剣』」
「剣の形がまといの野菜に似てるでしょ?」
「斬られると服や体を被う体毛や鱗が分解、つまり全裸だ」
「効果を及ぶのは相手だけじゃありません、剣の使い手もやがてまといの野菜特有の火照りと身体のむず痒さが起きます」
「中央の芯を食べた時のように、服を脱ぎ捨てて全裸になるぞ」

「満知子、試してみるか?」
「お断りよ」

それからもアタシ達は床に散らばる玩具を次々と手に取ってゆく

こうして玩具を手に取ると何だか童心に帰った気分ね。


ママと一緒に玩具で遊んだ頃を思い出すわ…


そんなアタシを現実の世界へ引き戻したのは、魔法の鏡だった。


「鏡よ、鏡、美味しいケーキが食べられる部屋はどこ?」

「鏡よ、鏡、矯声と粘液にまみれた男女が交わる光景を見せて」


住人達が壁の鏡に向かって尋ねるように問いかけていた。

「あれはドワーフ達が作った魔法の鏡です、念じれば館内の様子を映し出すことができます」


やがて鏡に映像が浮かび上がる

一つはお茶会の光景

もう片方の鏡には――

「カエル?」

カエルの姿をした魔物娘達が、全身を粘液で覆いながら夫の上で騎乗していたわ。

「満知子、あれはミューカストードだ」

へーくんがアタシに図鑑アプリを見せる。

「参ったわ、カエルの魔物もいるの?」
「夫を一目見るだけで襲いたくなって、性器を結合させるそうだ」

何その即ハメ系の魔物、と思ったけどマーチヘアであるアタシも似たようなものだ。

事実へーくんがミューカストードの容姿を見ながら、鼻の下を伸ばしている時点で押し倒しそうになる

アタシに興奮してくれているのね♥と強引な理由をつけて。


「あのミューカストードもエルガによって魔物化された奴らなのか?」
「どうかな? まぁ、エルガさんならやりかねないかも」

「エルガって?」

「この国に住むミューカストードの代表です。従者と共に白百合の花園を訪れては、女の子達と友達になろうとしています」
「下手に断ったら粘液混じりのキスをされて、人間の女性なら即魔物化だよ」

本人はただ友達が欲しいだけで相手を欺いたりはしないけどな、とギウムが補足すると、一人のアリスが声をかけてきた


「あの、鏡の使い方を教えてくれますか?」

「いいですよ。満知子さん、ここで待ってて」
「僕はその間に移動用の玩具を探すよ」

エリンがアリスを連れて奥の鏡へと向かう。


「鏡よ、鏡、今ハプニングが発生している場所の様子を映して」

また別の住人が鏡に向かって問いかける。鏡から映し出されたのは――

「へーくん、アレって」
「満知子、ケーキ食ってロリショタ化した住人達の交わりが気になるのか?」
「お茶会の様子じゃないわよ。うねうねと蠢く緑色のジャングル、あれってさっきアタシ達がいた触手の部屋じゃない?」
「夫が触手を操って妻を凌辱してるぞ、マン・マリオネット恐るべし」
「参ったわ、地下の触手が行事系の触手を犯しているわ…」
「テンタクルも触手であーんなことやこーんなことされてる。凄くエロそうだな」

その台詞とは裏腹にへーくんの目線は刑示板(たぶれっと型)に向いていた。

「へーくん、そう言いながらまたミューカストードを見てる」
「見てないぞ、満知子」
「そんなに粘液まみれでヤリたいのならアタシが――」
「だから、今見てるのはミューカストードじゃねーよ」
「――腰を振ってあげる♥……あれ?」

へーくんが見ているのは蛙じゃない

ネジ曲がった角、青肌に黒く覆われた赤い瞳

露出の多い服に、豊満な胸、ムチムチな太もも、長い足

如何にも人を堕落させそうな女悪魔だった。

「この悪魔の種族名はデーモンだぞ〜ここテストに出るから覚えておけよ」
「参ったわ、そのまんまじゃない」


「おーい、ギウムくんが移動用の玩具を見つけたそうだよ」


「へーくん行くよ、コルヌさんが呼んでいるわ」
「また見れるよう、スリープと」

へーくんが刑示板の画面を消すとコルヌさんの下へ向かう。


「男性二人係りで休まず人形を膨らませてください。そうすれば次の部屋へワープ出来ます」

シュコシュコ…

へーくんとギウムがポンプでビニール製のサキュバス人形に空気を送る。

シュコシュコプクー

「ところでコルヌさん、貯蔵庫には何が保管されているのですか?」
「貯蔵庫には女王様が集めた訳ありの芸術作品が貯蔵されてる。例えば、昔の魔物の姿を描いた絵画とかね」
「成る程、昔の姿なら展示されず保管されるのも納得です」

シュコシュコシュコ

「昔の姿?」
「昔の魔物は牙や角が生えたモンスターの姿をしていましたよ。凄く狂暴で容赦なく他者の命を奪っていました」
「…エリンって、妙に昔の魔物に詳しいわね」
「だってエリンは旧魔王時代からやって来ましたから」

プシュー……

「なん…だと?」
「おい手を休めるな、人形が萎むぞ!」


へーくんの眼鏡がまたずれ落ちた。


Μ続くΜ
15/09/01 22:19更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ


平也「旧魔王時代、過去、つまりタイムスリップネタだとぉ!?」


Μ


 ドリルモールです。

 幻のエリンと現在のエリン

 この『再会』と『出会い』は彼らに何をもたらすのでしょうか?

 それはまた次回へ…

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