エネミス帝国・城下町
★エネミス帝国・エネミス城通路★
★ダイヤ視点★
「そんなに、いるの?」
バイコーンとそのハーレムが集まる二角獣会
煌羅から聞いた参加者の数に、私は開いた口が未だに塞がらなかった。
「私と、バイコーン化する予定のユニコーンを含めて十九頭……十頭くらいかな〜と思ってた」
「正確には二十頭です」
「はい?」
「本来ならもう一頭出席する予定でしたが、昨日欠席の連絡が来たそうです」
「どうして欠席したの?」
「彼女は愛の女神の信者で、人間の魂がフーリーへ転生する日と本日の二角獣会が重なってしまい、前者を優先することにしたそうです」
「フーリー……不思議と納得したわ」
「フーリーって何アルか?」
おしりをフリフリする魔物アルか?と、火鼠の廿火ちゃんが私に尋ねてきた。
幸いにも私が得意げに語れる数少ない種族なので、私は廿火ちゃんに説明を始める。
「フーリーっていうのは愛の女神に仕える下級天使で、善行を働いた男性の下へ嫁ぐのよ。最大の特徴は複数のフーリーが同じ男性に嫁ぐことがあるの」
「フーリーのハーレム、バイコーンが好みそうな種族アル」
「そうよ、お父様のハーレムにも定期的に多くのフーリーが嫁いできているの。私が五歳の時に、一度に二十人のフーリー達がハーレム部屋の門を叩いた光景は今でも鮮明に覚えているわ」
「二十人!? 多いアル、びっくりアル」
「それでも最初に嫁いできた数の比じゃないらしいわ。それはもうハーレムの中で『愛の女神部隊』という大規模な部隊が編成されるくらいに」
「ねぇダイヤちゃん、お父さんの所に初めてフーリーが嫁いできたときにやったプレイって何?」
と、クロ魔女さんが興味津々に尋ねてくる。
「そ、それは……」
そこまで聞かれると思わなかった。
説明していいのかしら? 教会の子供達に話したらドン引きされた苦い思い出があるし、うーん……
「私が説明しましょう。パール様から聞いた話ですが――」
「ちょ、煌羅!?」
私を無視して、煌羅は語り続ける。
「フーリーの全身を観察した柴様は彼女達の膝が気になったようでして」
「もしかして足を使ってのホールドプレイ?」
「いえ、嫁一人一人の膝の匂いを嗅ぎながらのプレイだったそうです」
クロ魔女さんはきょとんとする。
「何で膝の匂いを嗅いだの?」
「元々はブーツで覆われた膝が気になった柴様のためにフーリー達が次々とブーツを脱ぎ捨ててしまい、柴様はブーツの持ち主を特定するために膝の匂いを確かめました」
それを聞いた栗恵さんは何やそれ?と苦笑い。
「それが習慣になったらしく、今でも新しいフーリーが嫁に来る度、ファーストキスよりも、処女を捧げるよりも、まずは膝の匂いを嗅ぎながら、膝で射精するそうです」
「ファーストスメルかしら?」
「膝の処女を奪うんやろか?」
クロ魔女さんと栗恵さんが複雑そうな顔で話し合う
「まぁ、バイコーンは夫が淫らに嫁と交わることが何よりの望みだから」
「膝の匂いを嗅ぐのもまた愛の形なんやな」
でもすんなりと受けいれてくれた。二人ともバイコーンで安心したわ。
だけどそれ以外の魔物、特に魔物化及びインキュバス化していない人間は違う。
「変わった父親だね」
と、人間であるコーハが何気なく呟いたので
「よく言われるわ」
と、私は慣れた段取りで返した。
★城門前★
「その石像も一緒に持っていくアルか?」
「そやで、いつガーゴイルになるかわからへんからな」
「ホントに動くアルか?」
「廿火ちゃん、物質は無機であるからこそ魔力が宿りやすいのさ。特に魔力を受ける器として設計された人型なら尚更」
うちのゴーレムがその例だよ、と英斗さん。
「中には付喪神という道具が長い時を経て魂が宿った魔物娘もおってな、付喪神はまだウチのハーレムにはおらんけど、いつかはハーレムに加えるつもりや、だからいつ英斗を襲ってもええように石像を肌身離さず持ち歩くんや」
「ふっ、僕も忘れてもらっちゃ困るよ」
と、石像と共に牽引されているコーハが髪を掻き分けるように言う。
「この人も大事な人アルか?」
「こいつはあくまでついでや、置きっぱなしにして他の魔物娘にお持ち帰りされないように連れて行くだけや」
「こんなにも大切にされているなんて、僕はなんて幸せ者だ」
どこまでポジティブなのかしらこの男は。
「実にユニークな」
そんな私達の前で案内役のネコさんが現れては消え
「バイコーンたちだね」
消えては現れるのを繰り返す。
「消失と出現を繰り返すなんて、ワーキャットにしては高度な魔術を使うわね」
「転送魔術なん? それとも透明魔術なん? どっちにしてもワーキャットにしては頑張ったほうやで」
「ノンノン、チェシャ猫だよぉ♪」
『ちぇしゃねこ?』
「オーウ、そろそろアソコがウズウズしてきたね。これからハズバンドのズボンを脱がしてにゃんにゃんするので、案内はこの辺で……グッドバイ!」
ネコさんはそう言って消えると、私達の前に現れることは無かった。
「そうか、あの猫が兄貴達の言っていた不思議の国版ワーキャット、チェシャ猫か」
「チェシャ猫?」
「何やそれ?」
「不思議の国に住む種族よ。不思議の国には特殊な魔力が漂っていて、特定の種族が別種族に変異するの。よくよく考えてみたら城下町で見かけたカラフルな魔物娘達は固有種だったのよ」
「つまりバイブル様の使徒達の演説を聞いていたワーラビットやドラゴンは固有種だったということですね」
「そうよ煌羅、種族名は確かえっと……マーチヘアとジャバウォックよ」
「道理でワーラビットにしては髪の毛や毛皮が妙に派手な色をしていると思ったわ、ドラゴンの所々に触手のような部位が生えているのにも納得がいくわ」
「ほな、物陰で寝てたラージマウスっぽい少女もラージマウスやないということか?」
「彼女達はドーマウス、落ち着きのないラージマウスとは対照的にいつも寝ているネズミよ」
「いつも寝ているなんて接客には向いてないわね」
「落ち着きがないのも問題やけど、ずっと寝ているのも研究に支障をきたすで」
「何でも落ち着きがないことに鬱陶しさを感じたハートの女王というリリムが、ラージマウスに眠りの魔術を掛けたそうよ」
「ダイヤは物知り博士アル、もっと聞かせてほしいアル」
廿火ちゃんが目を輝かせながら私に詰め寄ってくる。
「廿火ちゃんには悪いけど別に不思議の国に詳しいって訳じゃないの。そもそも固有種をこの目で見たことは殆ど無くて、強いて言うならスターシャンという街にドレッサというドーマウスの船医がいたくらいで……」
あとは兄貴達から聞いた話を覚えていたの、と私は補足する。
「それでも、すごいアル〜」
廿火ちゃんが満面の笑みで私に抱きついてきた。
「ちょっと、抱きつかないでよ」
「アルアル〜アルアル〜」
「だから、私の胸に顔を埋めないでよ」
「それが廿火のスキンシップなのです。いつも私達の胸に顔を埋めておりました」
「そ、そうなの……煌羅も大変だったでしょ?」
「そうですね……今なら彼女のぬくもりを受けいれることが出来ます」
「ふーん、じゃあ私と代わってあげてもいいわよ」
「お嬢様は廿火のスキンシップが嫌なのですか?」
「別に嫌って訳じゃないけどさ」
私としては
ムニュウ
お腹の辺りに感じる柔らかい感触が気になって気になって…
ムニュムニュ
それも二つ。
「アルアル〜アル……アル?」
廿火ちゃんは顔をうずめるのを止め
「どうしたの?」
「おっぱい、ナイアルヨ?」
「はい?」
「シロービも、バイブルも、ダイバも、そしてきらきらもアルアルおっぱいなのに……るぐるぐ並みにナイなんて……悲しすぎるアル……うえっ、ひっく、ひっく」
今にも泣き出しそうな勢いで嗚咽を漏らす廿火ちゃん。
「……」
嗚咽の理由があまりにも腑に落ちないため、返す言葉が無い。
「ね、だからお嬢様のことを配慮して声を掛けなかったのです」
私は、煌羅が最初廿火ちゃんに声をかけることを躊躇していたことを思い出す。
「なるほど、道理で煌羅が声をかけない訳よ……って煌羅も廿火ちゃんに何か言いなさいよ!」
「そうですね……廿火、いくら廿火でも言っていいことと悪いことがありますよ」
「煌羅……」
怒った表情をする煌羅。
私のことを思って怒ってくれている……
「るぐるぐ並みではなく、おこおこ並みといいなさい」
「確かにナイナイおっぱいじゃなく、ちょいアルおっぱいだったアル」
「でしょ?お嬢様がここまで育つのに十年の歳月を掛けましたから」
と、自慢げに語る煌羅の表情が恍惚なものへと変わる。
あー、これはさり気なく私をからかう時の表情ね。
誰に例えられているのかさっぱりだけど、酷い例えだということはよーく解ったゎ!
「そろそろ城下町にいきましょ!」
私は腹の虫を抑えるべく、早歩きで城門を出ようとするが
「ダイヤちゃん、ダイヤちゃん」
「何よ、コーハも私に何か言いたいわけ? 好き嫌いとか、好き嫌いとか」
「傘、落ちているよ」
コーハの指摘どおり、折り畳み傘を落としていることに気づく。
「ホントだ、いつの間に落としたのかしら」
「落し物には気をつけないとね♪」
と、石像と一緒に運ばれながらウインクするコーハ。
あんたも落されないように気をつけないとね。
★市民街・飲食店通り★
「メニューの大半がケーキ、クッキー、コーヒーetc…どこもかしこもデザートが置いてあるわね」
「デザート砂漠から採取したものを調理して販売しているそうです」
「このおかし、あまくておいしい!」
「これがふしぎのくにのおかしなんだね」
「まるでようせいのくにのおかしみたい」
「あははー」
テーブルの一角に妖精達がお菓子を食べているのが目に入ったわ。
小さなカップケーキが大きく感じる程の小さな身体で、カップケーキをあっという間に平らげてゆく。
「このおかし、わけてあげる」
「あーん、わたしも」
「はい、あーん」
「あははー」
夫に自分のカップケーキを分け与えようとする妖精達を見て――
「うふふ、小さなハーレムが仲良く群がる。なんて素敵な光景でしょう」
――微笑むのは、私達と同じバイコーン。
彼女の髪飾りは可愛らしい花が添えられており、手に持っているのはこの世の思えないほど美しい一輪の花。
そして、最大の特徴は――
「お嬢様、お嬢様」
「どうしたのかしら煌羅、何度も私の肩をつんつんして」
「お嬢様の勝ちです」
煌羅は微笑みながら私に言う。
バイコーンの胸部を指しながら。
「もしかして、あのバイコーンの胸が平らなことを指しているの?」
「はい」
「その作ったような微笑みがかえってムカつくんだけど?」
「ねーねー、あたしたちのなかまはいつうまれるの?」
妖精達は、バイコーンが持つ美しい花を周回しながらウキウキしている。
「もうすぐ生まれるわよ」
「わーいたのしみたのしみ」
「うまれたら、きもちよくてたまらないあそびをおしえてあげよう」
「そして、はーれむにくわえよう」
「あははー」
「この娘は私達のハーレムには加えません」
信じられないことにバイコーンがハーレムの加入を否定する。
「えーどうしてなの、イッカ?」
「遊びを教えてあげるのはいいけど、この娘は別のハーレムに加えます」
「えー、つまんなーい」
「まだよゆうがあるのに?」
「ほかのひとにあげちゃうの?」
「あははー」
「大丈夫、家に帰れば妖精花はまだまだ沢山あるから」
悲しげな妖精達を夫が慰めてようとしている。
「はーい…」
それでもがっくりしながら返事をする妖精達に
「そのかわり、後でたっぷりおっぱいエステをしてあげるから」
イッカと呼ばれたバイコーンがそう言うと
「ホント?」
「わーいわーい。きもちいいえすてだ」
「またからだがとろけちゃいそう〜」
「あははー」
妖精達は目の輝きを取り戻す。
「まずは夫と遊びましょう。いいわね?」
「はいはい」
夫がズボンを脱ぎ、男性器を晒す。
妖精達は小さな身体で夫の男性器を勃起させ、妖精のうちの一人が丸出しの下半身を膨張した先端に思い切り捻じ込む。
「あーん、おいちい」
「おなかがぽっこりしているよ〜」
「せいえきってどんなおかしよりもあまくておいしいんだよね〜」
「あははー」
小さなお腹が張り裂けそうなくらい捻じ込んでいるにも関わらず、妖精達は喜びの表情に浸ってゆく。
「キモチイイ」
「モレテルペロペロ」
「オコボレイタダキマース」
「アハハー」
「妖精の群れから嬌声が鳴り響いているわ」
「お嬢様、嬌声は何も妖精だけとは限りませんよ?」
「え?」
「よーく耳を澄ましてみてください」
煌羅の言うとおり、耳を澄ますと――
「アン、アアン」
「イクッイクー!」
「モットシテ」
「アッー!」
妖精達に負けないくらい艶めかしい男女の声が鳴り響いてきたわ。
聞いているだけで余計に動悸が激しくなり、妖精達の嬌声がハーモニーを紡ぎだし、私の頭を蹂躙しちゃう。
「宿屋や食事処、住宅地から男女同士の嬌声が聞こえてきまス」
「フンカ〜」
「今、昼間なのに住民たちはセックスの真っ最中で体がポカポカしているといってまーす!」
栗恵さんのハーレムであるゴーレム達も住民たちの嬌声に体が疼いているみたい。
彼女達が夫の英斗さんを襲うのも時間の問題ね。
「まっ、建物内ならまだしも、太陽が照りつける昼間に外で交わるわけ…………あった」
「うふふ〜どうかしら、アタシのま・き・つ・き そして チャームボ・イ・ス」
「目から石化ビーム、このバカ、バカバカバカ、あたしだけ見ていればいいのよ」
「燃やせ燃やせ、体中を情欲の炎で燃やせ!オレと一緒に熱い抱擁を交わそうぜ」
「さあ新たな種族反映のため、上質の精を、わたくしの中へ注いでくださいませ」
ラミア属の魔物達が蛇の体で、夫の全身に縛りながら行為に及んでいたわ。
「ピスコ様曰く、不思議の国の固有種が増えた影響で国に漂う魔力も不思議の国のそれに近しいものとなっているらしく、意地っ張りなメドゥーサでさえもまるで気が狂ったかのようにハイテンションで夫と交わるそうです」
「うふふ〜ここでもラミア属の執念が渦巻いているわね」
彼女たちの交わりに、クロ魔女さんが目をギラギラと輝かせているわ。
「もっとよく見せて、お互いだけしか見えていない世界を!」
「クロ魔女さーん、幾らなんでも近づきすぎよ」
「ごめん、ごめん、ついテンションが高ぶって、てへっ」
「おお〜何や変わった道具がそろっとるやんけ〜」
栗恵さんが店の商品に見惚れている。
「うへへ、これをレームの改造用パーツとして取り付けてもええな〜」
「栗恵さーん、涎、涎!?」
「すまん、すまん、ついテンションが高ぶってもうた、てへっ」
「英斗さんも何か言ってよ」
「うぉぉぉ、民衆の前での公開プレイも最高だぁ!」
「今、マスターは建物の影の下でセックスをしてまーす!」
英斗さんもラーヴァゴーレムと熱い口付けを交わしながら、ゴーレムをバックで犯していた。
「あんたが一番エロに走ってどうするのさー!」
「お嬢様、英斗さんは多くの魔物と交わることでより肉欲に爛れた存在になるという目的があるのです。例えそれが砂漠地帯でも」
ラーヴァゴーレムの溶岩のような熱い口付けが、照りつける太陽の暑さすらぬるく感じちゃう。
ピストンの度にぶるぶる震えるゴーレムの胸は土製にも関わらず崩れることなく柔らかそうに揺れているわ。
「お嬢様も夫を得たら、あのように胸が弾む交わりが出来るといいですね」
「煌羅、それ嫌味?」
「英斗、ちゃんとイマちゃんにも構ってあげりぃ」
栗恵さんがそう言うと、英斗さんはフンカの口付けを離し彼女を背中へ移動させ、自由になった片手でイマちゃんを抱えながら、スカートの中へ顔を埋める。
ペチャペチャと舌で舐める音がスカートから響かせながら、もう片方の手でイマちゃんの額を撫でる。
「今、なでなでされながらペロペロされて、嬉しくて濡れちゃいまーす!」
フワッ
突然身体が宙に浮いたような体感を感じた
「タカイタカーイ」
煌羅が私を持ち上げたからだ。
「タカイタカーイ」
「煌羅、いきなりわたしを持ち上げて、どういう風の吹き回し?」
「いえ、リビングドールとのやり取りを見て、わたしもロリータお嬢様を可愛がりたくなったので」
「ロリータじゃないでしょ、子供扱いしないで」
「訂正します。お嬢様は胸だけロリで、後はそれなりに成長した中途半端なロリですね」
「言わせておけば〜」
「私に腹を立てる暇があるなら、この街のエロありを見学したらどうです?私以外の魔物娘をハーレムに引き入れるための参考として」
「煌羅、それはバイコーンという種族の目的でしょ!」
「そういうお嬢様もバイコーンでしょ!」
「そうだった、ついテンションが高ぶっちゃって、てへっ」
「もう、ダイヤちゃんったら、自分がバイコーンだって自覚しなきゃ」
「ダイヤちゃんうっかりやな」
「もう、クロ魔女さんや栗恵さんまで〜煌羅、今日は日が暮れるまで街を探検するわよ〜」
『お〜』
「ふっ、君たちは本当に面白い人たちだね。二角獣会のことを忘れていないかい?」
『そうでした、コーハさん』
「わかればよろしい」
よりによってコイツに指摘されるなんて…私は気を引き締めて町探検を再開する。
「まったく、クロ魔女さんも栗恵さんも色々な物に釣られすぎよ」
「ごめんね、仕事中じゃなかったから気が緩んじゃって」
「何や、思い切りやったれやー!って感じになってもうた」
この暑さで気分が高揚したのかなと思ったけど、マリア義姉さんが言っていた不思議の国の影響かもしれないわね。
「大丈夫ですか、お嬢様は?」
「何が?」
「この流れですと、そろそろお嬢様にイベントが発生しても不思議ではありません」
「そうかしら? 私にイベントなんて、あいたっ」
私は誰かとぶつかってしまった。
「おい、そんなところに棒立ちしてんじゃねぇ、邪魔だ」
生意気な態度にむっとした私は顔を上げると、誰もいないことに気づいた。
どこにいるのかなと周囲を見渡しても誰もいない。
「どこ見てんだ、こっちだよこっち」
顔を下に向けると
私よりも小柄な少女が屈みながら私を睨んでいた。
「このオレにぶつかるといい度胸しているじゃねーか、ああん?」
私が立ち上がると、今度は顔を上げながら私を睨む。
「仁蔵様、こいつら懲らしめていいか?」
その少女が顎を指した方を見ると。
眼鏡を掛けた知的な女性とふくよかでのんびりした女性に守られるように馬に跨る法師が立っていた。
黒い馬
バイコーンではなく、リアル馬面の本物の馬
馬はヒヒン!と荒げるように鼻息を吐いて、嗅ぐだけで鼻が曲がりそう。
「孫よ、この程度のことで癇癪を起こしてはなりませぬ」
「仁蔵様、オレ達のハーレムこそが一番ってことを証明してやんのさ! オレの分身で、人間共を猿のように発情させて「お待ちなさい」
「うっ!」
孫と呼ばれた小柄少女の表情が引きつり、反射的に股間を押さえる。
「これ以上の発言は禁句です」
「別にいいだろ?コイツらどう見てもバイコーンじゃないか」
「だからこそです。安易に情報を漏らして対策されたらどう責任をとるつもりですか?」
「だったら今この場で倒す!」
棒を構えた孫の全身から膨大な魔力が溢れ、まるで猿のような毛と尻尾が生えてきて――
「せいやー!」
カラーン
掛け声と共に孫が構えた棒が叩き落される。
掛け声の主は半袖の服にミニスカートと背中に棒を背負った金髪の女性、でも金髪から黒い丸耳が生えており、その手足は黒い熊のそれであり、それだけで彼女も魔物娘であることがわかる。
確かあれは兄貴が言っていた別大陸にすむと言われるレンシュンマオね。
「よく見たらマオンじゃねーか何のマネだ!」
「無駄な争いを止めただけよ。それより相変わらず猿のように暴れているわね」
「ちっ、猿の本能に従う楽しさを知らない熊猫が。仁蔵様、やっぱあん時こいつの街にレンシュンマオを寄越さずにオレの分身で街の住人全員を猿のように交わらせればよかったんじゃねーのか? いや、今この場で猿のような発情させていいかもしれねーな。ケース入りのいい獲物がいるわけだし」
「もう少し感度を強くしたほうがいいかもしれませんね」
法師の眉がつり上がると
「い、いえ……ごめんなさい仁蔵様!」
「人化しなさい」
「はい……」
孫は尻尾と毛を引っ込め人間の姿となる。
「では、大事な用があるのでこの辺で」
仁蔵と呼ばれた法師が私達に一礼すると、黒い馬に跨り、孫達を引き連れ立ち去る
『二角獣会でお会いしましょう』
「え?」
反響するような女性の声
誰だったのかしら、今の声……あの四人が出したとは思えなかったけど。
「ケガはない?」
「心配要りませんサイバ様、リバサ様の部下達から訓練を受けていますので」
麦わら帽子を被った女性がマオンに声をかける。
サイバ……確か二角獣会の参加者よね。
帽子で角が見えないけど、下半身は黒い馬のそれなので彼女もバイコーンに違いないわ。
「例の植木鉢はどう?」
「ご心配なく、悪戯で引き抜かれないようきちんと施錠をしています」
マオンは私達に会釈をしてサイバと共に去ったわ。
★夕暮れ時★
★路地裏★
街を見回るうちに日も傾いてきたわ。
太陽から照り付ける暑さも大分和らいできている。
「今日はとってもいい日アル、きらきらと再会できたアル」
「そうですね。私も廿火とバッファ、二人と再会しました」
「きらきら、みんなは今何しているアルか?」
「キタはヘルスヘルの旅館の女将を、ペルシはセイヤードで運搬業を務めております」
「そうアルか、きたきたも、るしるしに会えたアルか」
「二人とも元気に暮らしていますよ」
「じゃあ、他のみんなは?」
ここで煌羅の足が止まる。
「キタとペルシ以外の行方は……判りません」
「そうアルか……」
「落ち込むことはありません。こうして再会できたのですから幸運ですよ」
「あの日からずっと、きらきらや他のみんなはどうしているのかなと心配していたアル。あの時はバッファを抱えて逃げ出すことに必死で…」
「そうですか…」
「でも今はこんなに強くなったアル」
廿火ちゃんは蹴りを入れる動作を繰り返していると
「ストップ」
煌羅が廿火ちゃんの蹴りを止めたわ。
目の前にフードを被った子が立っていたから。
「もう少しで接触するところでした」
「ごめんアル、ケガはないアルか?」
フードの下から表情が読み取れる。
顔立ちからして男の子のようね。
「いえ、僕の不注意でしたので」
声変わりする前の甲高い声で謝る男の子。
「大丈夫かい?坊や」
コーハが声をかけると
「ひっ!男の人!?」
その男の子は怯えるように後ずさりする。
男の子からもドン引きされて、さぞ悔しいでしょうね。
「ジョージ!何ボサっとしているの!」
路地裏奥から男の子を呼ぶ声、男の子とお揃いのフードを被る魔物娘が向かってくる、馬の蹄の音を立てながら。
「まったく、あなたはわたしに乗らないとこんなにも遅い……ってバイコーン!ジョージ、まさかあなた」
「違うよ、たまたま出くわしただけだよ」
「そう、失礼しました……ジョージ、置いて行くわよ!」
「おいていかないでよ。パナン〜」
ケンタウロス属の魔物娘を追うように、男の子は必死で追いかけてゆく。
「あのケンタウロス属の体毛、白かったわね。まるでユニコーンみたい」
「これからバイコーンになるのでユニコーンとして最後の一時を過ごす、というべきでしょうか」
「煌羅、二角獣会でバイコーン化する例のユニコーンってまさか」
「あのユニコーンです。名はパナンといい、少女ジョージと共にこの国に来ました」
「なるほど、あの男の子と一緒にコーハのハーレムに加わるのか……まって煌羅。何か勘違いしていない?」
「勘違いとは? まさか、お嬢様がコーハから処女を奪って、私の魔力が混じった精を啜るおつもりですか!?」
「そうそう、ようやく私もコーハを夫に迎えて、煌羅の魔力が混じったカクテルのような精を味わう……って違うゎよ!」
「私がジョージを女の子だと勘違いしていることを指摘したのですか?」
「私が言いたいのはそれよ、容姿的に男の子にしか見えないわ」
「見た目はそうかもしれませんが、あの者の身体からは精の匂いは一切感じず、魔物特有の魔力のみを発していました」
「つまりあのジョージって子は実は魔物娘だといいたいのね」
「はい、あのユニコーンと共にコーハのハーレムに加わることでしょう」
「そう――」
私は息を大きく吸い込み、夕暮れに向かって叫ぶ。
「マジで!?」
★続く★
★ダイヤ視点★
「そんなに、いるの?」
バイコーンとそのハーレムが集まる二角獣会
煌羅から聞いた参加者の数に、私は開いた口が未だに塞がらなかった。
「私と、バイコーン化する予定のユニコーンを含めて十九頭……十頭くらいかな〜と思ってた」
「正確には二十頭です」
「はい?」
「本来ならもう一頭出席する予定でしたが、昨日欠席の連絡が来たそうです」
「どうして欠席したの?」
「彼女は愛の女神の信者で、人間の魂がフーリーへ転生する日と本日の二角獣会が重なってしまい、前者を優先することにしたそうです」
「フーリー……不思議と納得したわ」
「フーリーって何アルか?」
おしりをフリフリする魔物アルか?と、火鼠の廿火ちゃんが私に尋ねてきた。
幸いにも私が得意げに語れる数少ない種族なので、私は廿火ちゃんに説明を始める。
「フーリーっていうのは愛の女神に仕える下級天使で、善行を働いた男性の下へ嫁ぐのよ。最大の特徴は複数のフーリーが同じ男性に嫁ぐことがあるの」
「フーリーのハーレム、バイコーンが好みそうな種族アル」
「そうよ、お父様のハーレムにも定期的に多くのフーリーが嫁いできているの。私が五歳の時に、一度に二十人のフーリー達がハーレム部屋の門を叩いた光景は今でも鮮明に覚えているわ」
「二十人!? 多いアル、びっくりアル」
「それでも最初に嫁いできた数の比じゃないらしいわ。それはもうハーレムの中で『愛の女神部隊』という大規模な部隊が編成されるくらいに」
「ねぇダイヤちゃん、お父さんの所に初めてフーリーが嫁いできたときにやったプレイって何?」
と、クロ魔女さんが興味津々に尋ねてくる。
「そ、それは……」
そこまで聞かれると思わなかった。
説明していいのかしら? 教会の子供達に話したらドン引きされた苦い思い出があるし、うーん……
「私が説明しましょう。パール様から聞いた話ですが――」
「ちょ、煌羅!?」
私を無視して、煌羅は語り続ける。
「フーリーの全身を観察した柴様は彼女達の膝が気になったようでして」
「もしかして足を使ってのホールドプレイ?」
「いえ、嫁一人一人の膝の匂いを嗅ぎながらのプレイだったそうです」
クロ魔女さんはきょとんとする。
「何で膝の匂いを嗅いだの?」
「元々はブーツで覆われた膝が気になった柴様のためにフーリー達が次々とブーツを脱ぎ捨ててしまい、柴様はブーツの持ち主を特定するために膝の匂いを確かめました」
それを聞いた栗恵さんは何やそれ?と苦笑い。
「それが習慣になったらしく、今でも新しいフーリーが嫁に来る度、ファーストキスよりも、処女を捧げるよりも、まずは膝の匂いを嗅ぎながら、膝で射精するそうです」
「ファーストスメルかしら?」
「膝の処女を奪うんやろか?」
クロ魔女さんと栗恵さんが複雑そうな顔で話し合う
「まぁ、バイコーンは夫が淫らに嫁と交わることが何よりの望みだから」
「膝の匂いを嗅ぐのもまた愛の形なんやな」
でもすんなりと受けいれてくれた。二人ともバイコーンで安心したわ。
だけどそれ以外の魔物、特に魔物化及びインキュバス化していない人間は違う。
「変わった父親だね」
と、人間であるコーハが何気なく呟いたので
「よく言われるわ」
と、私は慣れた段取りで返した。
★城門前★
「その石像も一緒に持っていくアルか?」
「そやで、いつガーゴイルになるかわからへんからな」
「ホントに動くアルか?」
「廿火ちゃん、物質は無機であるからこそ魔力が宿りやすいのさ。特に魔力を受ける器として設計された人型なら尚更」
うちのゴーレムがその例だよ、と英斗さん。
「中には付喪神という道具が長い時を経て魂が宿った魔物娘もおってな、付喪神はまだウチのハーレムにはおらんけど、いつかはハーレムに加えるつもりや、だからいつ英斗を襲ってもええように石像を肌身離さず持ち歩くんや」
「ふっ、僕も忘れてもらっちゃ困るよ」
と、石像と共に牽引されているコーハが髪を掻き分けるように言う。
「この人も大事な人アルか?」
「こいつはあくまでついでや、置きっぱなしにして他の魔物娘にお持ち帰りされないように連れて行くだけや」
「こんなにも大切にされているなんて、僕はなんて幸せ者だ」
どこまでポジティブなのかしらこの男は。
「実にユニークな」
そんな私達の前で案内役のネコさんが現れては消え
「バイコーンたちだね」
消えては現れるのを繰り返す。
「消失と出現を繰り返すなんて、ワーキャットにしては高度な魔術を使うわね」
「転送魔術なん? それとも透明魔術なん? どっちにしてもワーキャットにしては頑張ったほうやで」
「ノンノン、チェシャ猫だよぉ♪」
『ちぇしゃねこ?』
「オーウ、そろそろアソコがウズウズしてきたね。これからハズバンドのズボンを脱がしてにゃんにゃんするので、案内はこの辺で……グッドバイ!」
ネコさんはそう言って消えると、私達の前に現れることは無かった。
「そうか、あの猫が兄貴達の言っていた不思議の国版ワーキャット、チェシャ猫か」
「チェシャ猫?」
「何やそれ?」
「不思議の国に住む種族よ。不思議の国には特殊な魔力が漂っていて、特定の種族が別種族に変異するの。よくよく考えてみたら城下町で見かけたカラフルな魔物娘達は固有種だったのよ」
「つまりバイブル様の使徒達の演説を聞いていたワーラビットやドラゴンは固有種だったということですね」
「そうよ煌羅、種族名は確かえっと……マーチヘアとジャバウォックよ」
「道理でワーラビットにしては髪の毛や毛皮が妙に派手な色をしていると思ったわ、ドラゴンの所々に触手のような部位が生えているのにも納得がいくわ」
「ほな、物陰で寝てたラージマウスっぽい少女もラージマウスやないということか?」
「彼女達はドーマウス、落ち着きのないラージマウスとは対照的にいつも寝ているネズミよ」
「いつも寝ているなんて接客には向いてないわね」
「落ち着きがないのも問題やけど、ずっと寝ているのも研究に支障をきたすで」
「何でも落ち着きがないことに鬱陶しさを感じたハートの女王というリリムが、ラージマウスに眠りの魔術を掛けたそうよ」
「ダイヤは物知り博士アル、もっと聞かせてほしいアル」
廿火ちゃんが目を輝かせながら私に詰め寄ってくる。
「廿火ちゃんには悪いけど別に不思議の国に詳しいって訳じゃないの。そもそも固有種をこの目で見たことは殆ど無くて、強いて言うならスターシャンという街にドレッサというドーマウスの船医がいたくらいで……」
あとは兄貴達から聞いた話を覚えていたの、と私は補足する。
「それでも、すごいアル〜」
廿火ちゃんが満面の笑みで私に抱きついてきた。
「ちょっと、抱きつかないでよ」
「アルアル〜アルアル〜」
「だから、私の胸に顔を埋めないでよ」
「それが廿火のスキンシップなのです。いつも私達の胸に顔を埋めておりました」
「そ、そうなの……煌羅も大変だったでしょ?」
「そうですね……今なら彼女のぬくもりを受けいれることが出来ます」
「ふーん、じゃあ私と代わってあげてもいいわよ」
「お嬢様は廿火のスキンシップが嫌なのですか?」
「別に嫌って訳じゃないけどさ」
私としては
ムニュウ
お腹の辺りに感じる柔らかい感触が気になって気になって…
ムニュムニュ
それも二つ。
「アルアル〜アル……アル?」
廿火ちゃんは顔をうずめるのを止め
「どうしたの?」
「おっぱい、ナイアルヨ?」
「はい?」
「シロービも、バイブルも、ダイバも、そしてきらきらもアルアルおっぱいなのに……るぐるぐ並みにナイなんて……悲しすぎるアル……うえっ、ひっく、ひっく」
今にも泣き出しそうな勢いで嗚咽を漏らす廿火ちゃん。
「……」
嗚咽の理由があまりにも腑に落ちないため、返す言葉が無い。
「ね、だからお嬢様のことを配慮して声を掛けなかったのです」
私は、煌羅が最初廿火ちゃんに声をかけることを躊躇していたことを思い出す。
「なるほど、道理で煌羅が声をかけない訳よ……って煌羅も廿火ちゃんに何か言いなさいよ!」
「そうですね……廿火、いくら廿火でも言っていいことと悪いことがありますよ」
「煌羅……」
怒った表情をする煌羅。
私のことを思って怒ってくれている……
「るぐるぐ並みではなく、おこおこ並みといいなさい」
「確かにナイナイおっぱいじゃなく、ちょいアルおっぱいだったアル」
「でしょ?お嬢様がここまで育つのに十年の歳月を掛けましたから」
と、自慢げに語る煌羅の表情が恍惚なものへと変わる。
あー、これはさり気なく私をからかう時の表情ね。
誰に例えられているのかさっぱりだけど、酷い例えだということはよーく解ったゎ!
「そろそろ城下町にいきましょ!」
私は腹の虫を抑えるべく、早歩きで城門を出ようとするが
「ダイヤちゃん、ダイヤちゃん」
「何よ、コーハも私に何か言いたいわけ? 好き嫌いとか、好き嫌いとか」
「傘、落ちているよ」
コーハの指摘どおり、折り畳み傘を落としていることに気づく。
「ホントだ、いつの間に落としたのかしら」
「落し物には気をつけないとね♪」
と、石像と一緒に運ばれながらウインクするコーハ。
あんたも落されないように気をつけないとね。
★市民街・飲食店通り★
「メニューの大半がケーキ、クッキー、コーヒーetc…どこもかしこもデザートが置いてあるわね」
「デザート砂漠から採取したものを調理して販売しているそうです」
「このおかし、あまくておいしい!」
「これがふしぎのくにのおかしなんだね」
「まるでようせいのくにのおかしみたい」
「あははー」
テーブルの一角に妖精達がお菓子を食べているのが目に入ったわ。
小さなカップケーキが大きく感じる程の小さな身体で、カップケーキをあっという間に平らげてゆく。
「このおかし、わけてあげる」
「あーん、わたしも」
「はい、あーん」
「あははー」
夫に自分のカップケーキを分け与えようとする妖精達を見て――
「うふふ、小さなハーレムが仲良く群がる。なんて素敵な光景でしょう」
――微笑むのは、私達と同じバイコーン。
彼女の髪飾りは可愛らしい花が添えられており、手に持っているのはこの世の思えないほど美しい一輪の花。
そして、最大の特徴は――
「お嬢様、お嬢様」
「どうしたのかしら煌羅、何度も私の肩をつんつんして」
「お嬢様の勝ちです」
煌羅は微笑みながら私に言う。
バイコーンの胸部を指しながら。
「もしかして、あのバイコーンの胸が平らなことを指しているの?」
「はい」
「その作ったような微笑みがかえってムカつくんだけど?」
「ねーねー、あたしたちのなかまはいつうまれるの?」
妖精達は、バイコーンが持つ美しい花を周回しながらウキウキしている。
「もうすぐ生まれるわよ」
「わーいたのしみたのしみ」
「うまれたら、きもちよくてたまらないあそびをおしえてあげよう」
「そして、はーれむにくわえよう」
「あははー」
「この娘は私達のハーレムには加えません」
信じられないことにバイコーンがハーレムの加入を否定する。
「えーどうしてなの、イッカ?」
「遊びを教えてあげるのはいいけど、この娘は別のハーレムに加えます」
「えー、つまんなーい」
「まだよゆうがあるのに?」
「ほかのひとにあげちゃうの?」
「あははー」
「大丈夫、家に帰れば妖精花はまだまだ沢山あるから」
悲しげな妖精達を夫が慰めてようとしている。
「はーい…」
それでもがっくりしながら返事をする妖精達に
「そのかわり、後でたっぷりおっぱいエステをしてあげるから」
イッカと呼ばれたバイコーンがそう言うと
「ホント?」
「わーいわーい。きもちいいえすてだ」
「またからだがとろけちゃいそう〜」
「あははー」
妖精達は目の輝きを取り戻す。
「まずは夫と遊びましょう。いいわね?」
「はいはい」
夫がズボンを脱ぎ、男性器を晒す。
妖精達は小さな身体で夫の男性器を勃起させ、妖精のうちの一人が丸出しの下半身を膨張した先端に思い切り捻じ込む。
「あーん、おいちい」
「おなかがぽっこりしているよ〜」
「せいえきってどんなおかしよりもあまくておいしいんだよね〜」
「あははー」
小さなお腹が張り裂けそうなくらい捻じ込んでいるにも関わらず、妖精達は喜びの表情に浸ってゆく。
「キモチイイ」
「モレテルペロペロ」
「オコボレイタダキマース」
「アハハー」
「妖精の群れから嬌声が鳴り響いているわ」
「お嬢様、嬌声は何も妖精だけとは限りませんよ?」
「え?」
「よーく耳を澄ましてみてください」
煌羅の言うとおり、耳を澄ますと――
「アン、アアン」
「イクッイクー!」
「モットシテ」
「アッー!」
妖精達に負けないくらい艶めかしい男女の声が鳴り響いてきたわ。
聞いているだけで余計に動悸が激しくなり、妖精達の嬌声がハーモニーを紡ぎだし、私の頭を蹂躙しちゃう。
「宿屋や食事処、住宅地から男女同士の嬌声が聞こえてきまス」
「フンカ〜」
「今、昼間なのに住民たちはセックスの真っ最中で体がポカポカしているといってまーす!」
栗恵さんのハーレムであるゴーレム達も住民たちの嬌声に体が疼いているみたい。
彼女達が夫の英斗さんを襲うのも時間の問題ね。
「まっ、建物内ならまだしも、太陽が照りつける昼間に外で交わるわけ…………あった」
「うふふ〜どうかしら、アタシのま・き・つ・き そして チャームボ・イ・ス」
「目から石化ビーム、このバカ、バカバカバカ、あたしだけ見ていればいいのよ」
「燃やせ燃やせ、体中を情欲の炎で燃やせ!オレと一緒に熱い抱擁を交わそうぜ」
「さあ新たな種族反映のため、上質の精を、わたくしの中へ注いでくださいませ」
ラミア属の魔物達が蛇の体で、夫の全身に縛りながら行為に及んでいたわ。
「ピスコ様曰く、不思議の国の固有種が増えた影響で国に漂う魔力も不思議の国のそれに近しいものとなっているらしく、意地っ張りなメドゥーサでさえもまるで気が狂ったかのようにハイテンションで夫と交わるそうです」
「うふふ〜ここでもラミア属の執念が渦巻いているわね」
彼女たちの交わりに、クロ魔女さんが目をギラギラと輝かせているわ。
「もっとよく見せて、お互いだけしか見えていない世界を!」
「クロ魔女さーん、幾らなんでも近づきすぎよ」
「ごめん、ごめん、ついテンションが高ぶって、てへっ」
「おお〜何や変わった道具がそろっとるやんけ〜」
栗恵さんが店の商品に見惚れている。
「うへへ、これをレームの改造用パーツとして取り付けてもええな〜」
「栗恵さーん、涎、涎!?」
「すまん、すまん、ついテンションが高ぶってもうた、てへっ」
「英斗さんも何か言ってよ」
「うぉぉぉ、民衆の前での公開プレイも最高だぁ!」
「今、マスターは建物の影の下でセックスをしてまーす!」
英斗さんもラーヴァゴーレムと熱い口付けを交わしながら、ゴーレムをバックで犯していた。
「あんたが一番エロに走ってどうするのさー!」
「お嬢様、英斗さんは多くの魔物と交わることでより肉欲に爛れた存在になるという目的があるのです。例えそれが砂漠地帯でも」
ラーヴァゴーレムの溶岩のような熱い口付けが、照りつける太陽の暑さすらぬるく感じちゃう。
ピストンの度にぶるぶる震えるゴーレムの胸は土製にも関わらず崩れることなく柔らかそうに揺れているわ。
「お嬢様も夫を得たら、あのように胸が弾む交わりが出来るといいですね」
「煌羅、それ嫌味?」
「英斗、ちゃんとイマちゃんにも構ってあげりぃ」
栗恵さんがそう言うと、英斗さんはフンカの口付けを離し彼女を背中へ移動させ、自由になった片手でイマちゃんを抱えながら、スカートの中へ顔を埋める。
ペチャペチャと舌で舐める音がスカートから響かせながら、もう片方の手でイマちゃんの額を撫でる。
「今、なでなでされながらペロペロされて、嬉しくて濡れちゃいまーす!」
フワッ
突然身体が宙に浮いたような体感を感じた
「タカイタカーイ」
煌羅が私を持ち上げたからだ。
「タカイタカーイ」
「煌羅、いきなりわたしを持ち上げて、どういう風の吹き回し?」
「いえ、リビングドールとのやり取りを見て、わたしもロリータお嬢様を可愛がりたくなったので」
「ロリータじゃないでしょ、子供扱いしないで」
「訂正します。お嬢様は胸だけロリで、後はそれなりに成長した中途半端なロリですね」
「言わせておけば〜」
「私に腹を立てる暇があるなら、この街のエロありを見学したらどうです?私以外の魔物娘をハーレムに引き入れるための参考として」
「煌羅、それはバイコーンという種族の目的でしょ!」
「そういうお嬢様もバイコーンでしょ!」
「そうだった、ついテンションが高ぶっちゃって、てへっ」
「もう、ダイヤちゃんったら、自分がバイコーンだって自覚しなきゃ」
「ダイヤちゃんうっかりやな」
「もう、クロ魔女さんや栗恵さんまで〜煌羅、今日は日が暮れるまで街を探検するわよ〜」
『お〜』
「ふっ、君たちは本当に面白い人たちだね。二角獣会のことを忘れていないかい?」
『そうでした、コーハさん』
「わかればよろしい」
よりによってコイツに指摘されるなんて…私は気を引き締めて町探検を再開する。
「まったく、クロ魔女さんも栗恵さんも色々な物に釣られすぎよ」
「ごめんね、仕事中じゃなかったから気が緩んじゃって」
「何や、思い切りやったれやー!って感じになってもうた」
この暑さで気分が高揚したのかなと思ったけど、マリア義姉さんが言っていた不思議の国の影響かもしれないわね。
「大丈夫ですか、お嬢様は?」
「何が?」
「この流れですと、そろそろお嬢様にイベントが発生しても不思議ではありません」
「そうかしら? 私にイベントなんて、あいたっ」
私は誰かとぶつかってしまった。
「おい、そんなところに棒立ちしてんじゃねぇ、邪魔だ」
生意気な態度にむっとした私は顔を上げると、誰もいないことに気づいた。
どこにいるのかなと周囲を見渡しても誰もいない。
「どこ見てんだ、こっちだよこっち」
顔を下に向けると
私よりも小柄な少女が屈みながら私を睨んでいた。
「このオレにぶつかるといい度胸しているじゃねーか、ああん?」
私が立ち上がると、今度は顔を上げながら私を睨む。
「仁蔵様、こいつら懲らしめていいか?」
その少女が顎を指した方を見ると。
眼鏡を掛けた知的な女性とふくよかでのんびりした女性に守られるように馬に跨る法師が立っていた。
黒い馬
バイコーンではなく、リアル馬面の本物の馬
馬はヒヒン!と荒げるように鼻息を吐いて、嗅ぐだけで鼻が曲がりそう。
「孫よ、この程度のことで癇癪を起こしてはなりませぬ」
「仁蔵様、オレ達のハーレムこそが一番ってことを証明してやんのさ! オレの分身で、人間共を猿のように発情させて「お待ちなさい」
「うっ!」
孫と呼ばれた小柄少女の表情が引きつり、反射的に股間を押さえる。
「これ以上の発言は禁句です」
「別にいいだろ?コイツらどう見てもバイコーンじゃないか」
「だからこそです。安易に情報を漏らして対策されたらどう責任をとるつもりですか?」
「だったら今この場で倒す!」
棒を構えた孫の全身から膨大な魔力が溢れ、まるで猿のような毛と尻尾が生えてきて――
「せいやー!」
カラーン
掛け声と共に孫が構えた棒が叩き落される。
掛け声の主は半袖の服にミニスカートと背中に棒を背負った金髪の女性、でも金髪から黒い丸耳が生えており、その手足は黒い熊のそれであり、それだけで彼女も魔物娘であることがわかる。
確かあれは兄貴が言っていた別大陸にすむと言われるレンシュンマオね。
「よく見たらマオンじゃねーか何のマネだ!」
「無駄な争いを止めただけよ。それより相変わらず猿のように暴れているわね」
「ちっ、猿の本能に従う楽しさを知らない熊猫が。仁蔵様、やっぱあん時こいつの街にレンシュンマオを寄越さずにオレの分身で街の住人全員を猿のように交わらせればよかったんじゃねーのか? いや、今この場で猿のような発情させていいかもしれねーな。ケース入りのいい獲物がいるわけだし」
「もう少し感度を強くしたほうがいいかもしれませんね」
法師の眉がつり上がると
「い、いえ……ごめんなさい仁蔵様!」
「人化しなさい」
「はい……」
孫は尻尾と毛を引っ込め人間の姿となる。
「では、大事な用があるのでこの辺で」
仁蔵と呼ばれた法師が私達に一礼すると、黒い馬に跨り、孫達を引き連れ立ち去る
『二角獣会でお会いしましょう』
「え?」
反響するような女性の声
誰だったのかしら、今の声……あの四人が出したとは思えなかったけど。
「ケガはない?」
「心配要りませんサイバ様、リバサ様の部下達から訓練を受けていますので」
麦わら帽子を被った女性がマオンに声をかける。
サイバ……確か二角獣会の参加者よね。
帽子で角が見えないけど、下半身は黒い馬のそれなので彼女もバイコーンに違いないわ。
「例の植木鉢はどう?」
「ご心配なく、悪戯で引き抜かれないようきちんと施錠をしています」
マオンは私達に会釈をしてサイバと共に去ったわ。
★夕暮れ時★
★路地裏★
街を見回るうちに日も傾いてきたわ。
太陽から照り付ける暑さも大分和らいできている。
「今日はとってもいい日アル、きらきらと再会できたアル」
「そうですね。私も廿火とバッファ、二人と再会しました」
「きらきら、みんなは今何しているアルか?」
「キタはヘルスヘルの旅館の女将を、ペルシはセイヤードで運搬業を務めております」
「そうアルか、きたきたも、るしるしに会えたアルか」
「二人とも元気に暮らしていますよ」
「じゃあ、他のみんなは?」
ここで煌羅の足が止まる。
「キタとペルシ以外の行方は……判りません」
「そうアルか……」
「落ち込むことはありません。こうして再会できたのですから幸運ですよ」
「あの日からずっと、きらきらや他のみんなはどうしているのかなと心配していたアル。あの時はバッファを抱えて逃げ出すことに必死で…」
「そうですか…」
「でも今はこんなに強くなったアル」
廿火ちゃんは蹴りを入れる動作を繰り返していると
「ストップ」
煌羅が廿火ちゃんの蹴りを止めたわ。
目の前にフードを被った子が立っていたから。
「もう少しで接触するところでした」
「ごめんアル、ケガはないアルか?」
フードの下から表情が読み取れる。
顔立ちからして男の子のようね。
「いえ、僕の不注意でしたので」
声変わりする前の甲高い声で謝る男の子。
「大丈夫かい?坊や」
コーハが声をかけると
「ひっ!男の人!?」
その男の子は怯えるように後ずさりする。
男の子からもドン引きされて、さぞ悔しいでしょうね。
「ジョージ!何ボサっとしているの!」
路地裏奥から男の子を呼ぶ声、男の子とお揃いのフードを被る魔物娘が向かってくる、馬の蹄の音を立てながら。
「まったく、あなたはわたしに乗らないとこんなにも遅い……ってバイコーン!ジョージ、まさかあなた」
「違うよ、たまたま出くわしただけだよ」
「そう、失礼しました……ジョージ、置いて行くわよ!」
「おいていかないでよ。パナン〜」
ケンタウロス属の魔物娘を追うように、男の子は必死で追いかけてゆく。
「あのケンタウロス属の体毛、白かったわね。まるでユニコーンみたい」
「これからバイコーンになるのでユニコーンとして最後の一時を過ごす、というべきでしょうか」
「煌羅、二角獣会でバイコーン化する例のユニコーンってまさか」
「あのユニコーンです。名はパナンといい、少女ジョージと共にこの国に来ました」
「なるほど、あの男の子と一緒にコーハのハーレムに加わるのか……まって煌羅。何か勘違いしていない?」
「勘違いとは? まさか、お嬢様がコーハから処女を奪って、私の魔力が混じった精を啜るおつもりですか!?」
「そうそう、ようやく私もコーハを夫に迎えて、煌羅の魔力が混じったカクテルのような精を味わう……って違うゎよ!」
「私がジョージを女の子だと勘違いしていることを指摘したのですか?」
「私が言いたいのはそれよ、容姿的に男の子にしか見えないわ」
「見た目はそうかもしれませんが、あの者の身体からは精の匂いは一切感じず、魔物特有の魔力のみを発していました」
「つまりあのジョージって子は実は魔物娘だといいたいのね」
「はい、あのユニコーンと共にコーハのハーレムに加わることでしょう」
「そう――」
私は息を大きく吸い込み、夕暮れに向かって叫ぶ。
「マジで!?」
★続く★
15/06/22 21:46更新 / ドリルモール
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