開閉するパラソルと開幕するパーティー
※不思議の国・トリックストリート※
※シャンプ視点※
「「ぎゃあああああ、おばけだぁぁぁぁぁ!」」
突如現れた傘のお化けに、コーンとリンスの悲鳴が常闇の空へと反響したわ。
「逃げろぉ!」ダッ!
リンスは踵を返して、その場から離れようとするけど
「ストップ」
スリスリスリスリスリ〜
「うぁぁぁぁぁぁ〜ぁへえ〜」ビュクッ、ビュルッ、ビュルル!
あたしの優雅な足コキでリンスは絶頂しながら停止したわ。
対してコーンは
「おい、逃げるぞ、リコ!」
リコちゃんの手を引っ張るが、当の本人は一歩も動こうとしない。
「リコ!? リコ?」
「パラカさん?」
リコちゃんがその名を呼んだ相手。
「うふ、久しぶりね。リコちゃん」
パラソルが開き、中から女性が現れ
「あれ?魔物娘?」
コーンは目をぱちくりさせる。
あたしは最初から判っていたけどね。
彼女の容姿は競技場で見かけるコンパニオン。
ただ、頭に被るパラソルには巨大な一つ目が生き物のように動き、パラソルの内側から伸びる長い舌が彼女は人間ではないことを示していた。
「コーン、あれは唐傘おばけのパラカさんだよ」
「知っているのか?リコ」
「うん、レース用のパラソルから産まれた唐傘おばけで、よく競技場で見かけるでしょ?」
「オレはいつも準備運動で忙しいし、第一選手以外眼中にない」
「うふ、君はそうやっていつも勝つことに専念しているよね」
「オレを知っているのか!?」
「いつも参加者や観客を視ているのよ。ちゃんとアタシを視ているかどうかをチェックするためにね」
「どういうことだ?」
「パラカさんはみんなから注目されることが大きな悦びで、チラ見だけでも最大限の反応を返すことで魅了しようと心がけているんだって」
「リコ、やけに詳しいじゃねーか?」
「競技場で何度も見かけていたし、コルヌおねーさんが教えてくれたの」
「ホントはセクシーなボディに見惚れてたんじゃねーの?」
「ち、違うよ」
「リコも大人になったら胸がボイーン、お尻がプルンとした女性になりたいって言ってたしな。顔真っ赤にしながら凝視しても不思議じゃねーな」
「もう、今はそんなこと思ってないよ。だってコーンへの想いに気づいちゃったんだから」
「だよな、オレは今のリコが好きだぞ」
「う〜恥ずかしいよ」
リコちゃんは頬を赤くしている。
コーンが言うように彼女の肢体は魅力的だ。
白と赤を基調としたハイレグ、歩く度にハイヒールの音がリズムよく聴こえ、それに合わせるかのようにチラリと見えるソケイ部。ハイレグ自体もところどころ濡れており、臍の窪みと胸の形がくっきりと浮かび、胸の先端に微かな突起が浮かんでいる。
彼女を性的に見る者なら誰もが見惚れ、彼女を美的に見る者なら誰もが羨むだろう。
「魔物娘だったのか。本物のお化けかと思ったぞ」
リンスのように魔物娘を妻に持つ夫は別として。
「あとパラカさんは出張で他所のイベントに出ることもあるよ」
「うふ、ここにも頻繁に訪れるわね。おばけ役として」
「だよな、傘の目がぐりぐり動いて不気味だし、長い舌が伸びているのも気持ち悪いし、傘だけ閉じて、ぴょんぴょん跳ねればおばけそのものだ」
リコちゃんとパラカの会話に首を突っ込むリンスに、あたしは幾らなんでも失礼よと注意する。
「いいわよ。だって唐傘“おばけ”ですもの。子供たちからも大人気よ」
当の本人は気にしておらず
「あーっ、おばけのお姉ちゃんだ」
「やっほー傘のおばけさん」
それどころかおばけ呼ばわりする子供たちにも笑顔で手を振っている。
「意外と大人気なんだな、さっきは逃げようとしてすまなかった」
「うふ、驚いて逃げ出すのも悪くないのよ。反応が無いほうがへこむくらいよ」
「ところでパラカさん、今日は何のイベントで来たのですか」
「うふ、ロザリーちゃんとお兄さんの送別会よ」
「そうなのですか、実はわたし達も吸血鬼の城へ行くところなんです」
こうしてパラカもあたし達と共に同行することとなった。
どうやら彼女も城から一歩も出なかったロザリーちゃんのことを気にかけており、今回ジュリーさんからパーティーの話を聞いて、居ても経ってもいられずこの街にきたことを話してくれた。
「うふ、ついでにカミラも誘ってみたけど」
「彼女も来るのですか!?」
「それがカミラは今、変わった組み合わせのリリラウネ達に見惚れていてね。秘書の娘が欠席の返事をしたわ」
「良かった……」
あたしは安心する。
あの吸血鬼が来たらロザリーちゃんの兄(以下シスコン)と低レベルの争いを繰り広げるのは火を見るより明らかだから。
「ほっ、良かった」
「何でリコちゃんがホッとしてるんだ?」
リンスの疑問にリコちゃんはわたしあの人苦手なんです、と答える。
「カミラさんがわたしへ向ける目線が怖い感じがして、何だか軽蔑と期待が入り混じったような……」
「リコは臆病だな〜カミラはフレンドリーに話しかけてくるだろ、白百合の花園での出来事を忘れたのか?」
「コーンに対してはフレンドリーというか、それを凌駕しているような気がする」
「おい、あいつ可愛いぞ」
「悪戯のしがいがあるな」
遠巻きからひそひそ話をしていた二人の少年がリコちゃん達に近づき
「なぁ、そこの可愛いお嬢ちゃん」
「これを口に含んでみてよ?」
リコちゃんに対してねぶりの果実を差し出す。
「どうしたんだよ?」
「魔女の格好をした君に声をかけているんだ」
まさかと思ったが、少年二人はリコちゃんにねぶりの果実を食べさせるつもりだったようだ。
「えっ!?わたしですか?」
ご指名が自分であることに気づき、驚くリコちゃん。
「おいお前ら、俺のリコに気安く声かけるなよ」
コーンがリコを守るように少年達の前に立つ。
「なんだ彼氏か?ヒューヒュー」
「だっせー鎧だな」
少年達がコーンの格好を囃し立てる。
「今、何て言った?」
コーンは拳を強く握り締めるが
キュッ
「リコ」
リコちゃんがその拳を優しく握る。
「だめ…」
コーンは拳を緩め
「いくぞ、リコ」
「うん」
少年二人を無視して、歩みを再開する。
「言い返さないのかよ、弱虫だな」
「弱虫、弱虫」
コーンの行動を逃げていると囃し立てる少年達。
「逃げるのか?」
「コレを試してみようぜ」
と、少年の一人が手の形をした玩具をコーンに向けて投擲しようと――
「うふ、か弱い魔女を守る騎士をそんな風に呼んじゃ、ダ・メ・よ」
「げっ、傘女!?」
「逃げろ、強引にファンにされるぞ」
ピューン
――する前に退散した。
「えっと、ありがとうございますパラカさん」
「うふ、リコちゃんも大変ね。危うくねぶりの果実を咀嚼されそうになって」
「いえ、そこまで嫌じゃありません。昔はよくねぶりの果実をおやつにして食べていましたから」
今は訳あって食べていませんけどね、と補足するリコちゃんに、へぇ〜意外、と言っていいのかしら?とパラカは感心している。
「知ってるぞ、ガキの頃はねぶりの果実をおやつにして食うけど、夫が出来たら興味を示さなくなるんだろ?」
「ハイハイ、リンスハモノシリネ〜」ナデナデ
「ふふん、どうだ俺の物知りっぷりは」
「じゃあ、こんな所で立ち止まっていないで城へ向かおうね〜」
「お〜」
あたしを乗せた蟹男は歩みを再開する。
※吸血鬼の城※
「うふ、吸血鬼の城に到着ね」
「後は城へ入るだけ…あの娘は」
あたしは、城の入口付近にパーティーの主役であるヴァンパイアの少女、ロザリーがいることに気づく。
「困りましたね」
「ロザリーちゃん、何があったの?」
「ジャンプさん、実は……」
ロザリーちゃんが指した先では
「いれてよ〜」
「いれてヨ」
『ダメデス、主ノ命令デ、ゾンビハ入レマセン』
銀貨兵がゾンビの入城を止めていた。
「門番があの娘達を城へ入れてくれません」
「主に頼んでみた?」
「それがお祖母様はお祖父様と共に寝室に篭りきりでして、本来ならお祖父様と交わるのは早朝までの予定だったのですが……」
「魔物娘は快楽に忠実でかつ時間の感覚も人間と比べて大雑把だから、職務を放棄して夫と数日の間エッチしても不思議じゃないわね」
『絶対通シマセン』
「ひっく、えっ、えーん」
「ウ、ウ」
銀貨兵の徹底ぷりに、ゾンビ少女が泣き出す。
「パーティーに出たいよ〜」
「ウ〜」
「泣かないでください」
「何だか可哀想、何とかして城へ入れないのかな?」
リコちゃんが心配そうにしていると
「うふ、だったら私に任せて」
それは、彼女達にとって救いの声に聞こえたのだろう。
「レース用パラソルから産まれた唐傘おばけ、パラカお姉さんが皆を城へ入れてあげる」
※
「うふ、準備okね」
パラカの指示通り、ゾンビ少女達は彼女の足に抱きつくと
「クローズ」
パラカの頭のパラソルが閉じて、中の子供達毎、その姿を覆い隠す。
「おおっ、やっぱりどう見ても傘のおばけだ」
カツン、カツン、カツン…
まずは先程まで門前払いをしていた銀貨兵を素通りする。
「成る程、ゾンビの魔力を遮断しているから、警備をスルーできるのですね」
感心するロザリーちゃん。
「あれじゃ前が見えないだろ?」
「傘の目で周囲の様子を確認しながら移動しているのよ」
カツン、カツン、カツン…
ガシャン、ガシャン
カツン、カツン、カツン…
続いて城内部の銀貨兵達もパラカを素通り。
「こちらが会場です」
ギィィ…
※パーティー会場※
「ロザリーが帰ってきた」
「も〜遅いですわよ!」
ゴーストとウィル・オ・ウィスプの子供達がお出迎え。
「オープン」
「わーい」
「ア〜」
パラカの傘が開き、ゾンビ少女達が解放
「かざり〜」
「キレイ〜」
部屋の飾りに目を輝かせている。
「むぅ、これはもう少しここに吊り下げたほうがいいだろうか」
その飾り付けはシスコンが担当しているようだ。
「この色の配置はこれで良さそうだな」
「何でアイツ、服を干してるんだ?」
リンスがそう思うのも無理はない
その飾りとなっているのは全て子供用の服だから。
服をハンガーに通すとハンガーのフック部分が天井まで伸び、服を吊るし上げる。
まるで自動的に服を吊るすかのように。
「あれは『ハングハンガー』でわたくしの服を飾りつけをしているのです」
「我が妹が着衣した服を披露するのも兄の役目だからな!」
「お兄さま、役者が揃いましたので、パーティーを始めますわ」
「わかった」
シスコンは飾り付けを止め、ジュースを注ぎはじめる。
「先程は自己紹介が遅れました。わたくしはロザリーと申します」
「コーンだ」
「リコです、よろしくお願いします」
「リコの仮装、とても可愛らしい魔女……あれ?あなたの身体から……」
ロザリーちゃんがリコちゃんの匂いを嗅ぎ、それからコーンの匂いを嗅ぐ。
「成る程、そういうことですか」
「どうした、二人の顔に何かついてるのか?」
リンスがずうずうしく尋ねる。
「いえ、単に勘違いしていただけですので、お気になさらず」
「ハンガー、ハンガー」
ゾンビの娘がハンガーの一本を持って振り回し始めた。
「駄目です、それを無闇に扱ったら」
ロザリーちゃんが止めようとするが時すでに遅し
ヒュッ ビョィーン プラーン「あ〜」
「何だ?ハンガーが少女を天井に吊り下げたぞ?」
突然のことにリンスは驚く。
「あれは服を自動的に吊り下げるハンガーなのです。取り扱いを間違えれば着衣している人ごと吊り下げてしまいます」
「放置プレイやSMプレイをしたい時には需要があるらしいが、俺には妹を吊り下げる趣味は無い」
「ぷらーん、ぷらーん」
「いいナー」
吊るされた本人はなんだか楽しそう。
「ところでリコ。オレが買った例のキノコは持ってるよな?」
「い、一応」
「乾物だけど、紅茶で戻せば問題ないだろ?」
「うん…」
「何買ったんだ?」
リンスが興味津々でコーンに購入品を尋ねる。
「教えねぇよ」
「隠し事はダメって女王様が言ってたぞ」
「この程度隠し事とは言わねーよ」
「くすくす、今宵も楽しいパーティーになりそうですね」
こうしてロザリー夫妻の送別会の幕が開いた。
※続く※
※シャンプ視点※
「「ぎゃあああああ、おばけだぁぁぁぁぁ!」」
突如現れた傘のお化けに、コーンとリンスの悲鳴が常闇の空へと反響したわ。
「逃げろぉ!」ダッ!
リンスは踵を返して、その場から離れようとするけど
「ストップ」
スリスリスリスリスリ〜
「うぁぁぁぁぁぁ〜ぁへえ〜」ビュクッ、ビュルッ、ビュルル!
あたしの優雅な足コキでリンスは絶頂しながら停止したわ。
対してコーンは
「おい、逃げるぞ、リコ!」
リコちゃんの手を引っ張るが、当の本人は一歩も動こうとしない。
「リコ!? リコ?」
「パラカさん?」
リコちゃんがその名を呼んだ相手。
「うふ、久しぶりね。リコちゃん」
パラソルが開き、中から女性が現れ
「あれ?魔物娘?」
コーンは目をぱちくりさせる。
あたしは最初から判っていたけどね。
彼女の容姿は競技場で見かけるコンパニオン。
ただ、頭に被るパラソルには巨大な一つ目が生き物のように動き、パラソルの内側から伸びる長い舌が彼女は人間ではないことを示していた。
「コーン、あれは唐傘おばけのパラカさんだよ」
「知っているのか?リコ」
「うん、レース用のパラソルから産まれた唐傘おばけで、よく競技場で見かけるでしょ?」
「オレはいつも準備運動で忙しいし、第一選手以外眼中にない」
「うふ、君はそうやっていつも勝つことに専念しているよね」
「オレを知っているのか!?」
「いつも参加者や観客を視ているのよ。ちゃんとアタシを視ているかどうかをチェックするためにね」
「どういうことだ?」
「パラカさんはみんなから注目されることが大きな悦びで、チラ見だけでも最大限の反応を返すことで魅了しようと心がけているんだって」
「リコ、やけに詳しいじゃねーか?」
「競技場で何度も見かけていたし、コルヌおねーさんが教えてくれたの」
「ホントはセクシーなボディに見惚れてたんじゃねーの?」
「ち、違うよ」
「リコも大人になったら胸がボイーン、お尻がプルンとした女性になりたいって言ってたしな。顔真っ赤にしながら凝視しても不思議じゃねーな」
「もう、今はそんなこと思ってないよ。だってコーンへの想いに気づいちゃったんだから」
「だよな、オレは今のリコが好きだぞ」
「う〜恥ずかしいよ」
リコちゃんは頬を赤くしている。
コーンが言うように彼女の肢体は魅力的だ。
白と赤を基調としたハイレグ、歩く度にハイヒールの音がリズムよく聴こえ、それに合わせるかのようにチラリと見えるソケイ部。ハイレグ自体もところどころ濡れており、臍の窪みと胸の形がくっきりと浮かび、胸の先端に微かな突起が浮かんでいる。
彼女を性的に見る者なら誰もが見惚れ、彼女を美的に見る者なら誰もが羨むだろう。
「魔物娘だったのか。本物のお化けかと思ったぞ」
リンスのように魔物娘を妻に持つ夫は別として。
「あとパラカさんは出張で他所のイベントに出ることもあるよ」
「うふ、ここにも頻繁に訪れるわね。おばけ役として」
「だよな、傘の目がぐりぐり動いて不気味だし、長い舌が伸びているのも気持ち悪いし、傘だけ閉じて、ぴょんぴょん跳ねればおばけそのものだ」
リコちゃんとパラカの会話に首を突っ込むリンスに、あたしは幾らなんでも失礼よと注意する。
「いいわよ。だって唐傘“おばけ”ですもの。子供たちからも大人気よ」
当の本人は気にしておらず
「あーっ、おばけのお姉ちゃんだ」
「やっほー傘のおばけさん」
それどころかおばけ呼ばわりする子供たちにも笑顔で手を振っている。
「意外と大人気なんだな、さっきは逃げようとしてすまなかった」
「うふ、驚いて逃げ出すのも悪くないのよ。反応が無いほうがへこむくらいよ」
「ところでパラカさん、今日は何のイベントで来たのですか」
「うふ、ロザリーちゃんとお兄さんの送別会よ」
「そうなのですか、実はわたし達も吸血鬼の城へ行くところなんです」
こうしてパラカもあたし達と共に同行することとなった。
どうやら彼女も城から一歩も出なかったロザリーちゃんのことを気にかけており、今回ジュリーさんからパーティーの話を聞いて、居ても経ってもいられずこの街にきたことを話してくれた。
「うふ、ついでにカミラも誘ってみたけど」
「彼女も来るのですか!?」
「それがカミラは今、変わった組み合わせのリリラウネ達に見惚れていてね。秘書の娘が欠席の返事をしたわ」
「良かった……」
あたしは安心する。
あの吸血鬼が来たらロザリーちゃんの兄(以下シスコン)と低レベルの争いを繰り広げるのは火を見るより明らかだから。
「ほっ、良かった」
「何でリコちゃんがホッとしてるんだ?」
リンスの疑問にリコちゃんはわたしあの人苦手なんです、と答える。
「カミラさんがわたしへ向ける目線が怖い感じがして、何だか軽蔑と期待が入り混じったような……」
「リコは臆病だな〜カミラはフレンドリーに話しかけてくるだろ、白百合の花園での出来事を忘れたのか?」
「コーンに対してはフレンドリーというか、それを凌駕しているような気がする」
「おい、あいつ可愛いぞ」
「悪戯のしがいがあるな」
遠巻きからひそひそ話をしていた二人の少年がリコちゃん達に近づき
「なぁ、そこの可愛いお嬢ちゃん」
「これを口に含んでみてよ?」
リコちゃんに対してねぶりの果実を差し出す。
「どうしたんだよ?」
「魔女の格好をした君に声をかけているんだ」
まさかと思ったが、少年二人はリコちゃんにねぶりの果実を食べさせるつもりだったようだ。
「えっ!?わたしですか?」
ご指名が自分であることに気づき、驚くリコちゃん。
「おいお前ら、俺のリコに気安く声かけるなよ」
コーンがリコを守るように少年達の前に立つ。
「なんだ彼氏か?ヒューヒュー」
「だっせー鎧だな」
少年達がコーンの格好を囃し立てる。
「今、何て言った?」
コーンは拳を強く握り締めるが
キュッ
「リコ」
リコちゃんがその拳を優しく握る。
「だめ…」
コーンは拳を緩め
「いくぞ、リコ」
「うん」
少年二人を無視して、歩みを再開する。
「言い返さないのかよ、弱虫だな」
「弱虫、弱虫」
コーンの行動を逃げていると囃し立てる少年達。
「逃げるのか?」
「コレを試してみようぜ」
と、少年の一人が手の形をした玩具をコーンに向けて投擲しようと――
「うふ、か弱い魔女を守る騎士をそんな風に呼んじゃ、ダ・メ・よ」
「げっ、傘女!?」
「逃げろ、強引にファンにされるぞ」
ピューン
――する前に退散した。
「えっと、ありがとうございますパラカさん」
「うふ、リコちゃんも大変ね。危うくねぶりの果実を咀嚼されそうになって」
「いえ、そこまで嫌じゃありません。昔はよくねぶりの果実をおやつにして食べていましたから」
今は訳あって食べていませんけどね、と補足するリコちゃんに、へぇ〜意外、と言っていいのかしら?とパラカは感心している。
「知ってるぞ、ガキの頃はねぶりの果実をおやつにして食うけど、夫が出来たら興味を示さなくなるんだろ?」
「ハイハイ、リンスハモノシリネ〜」ナデナデ
「ふふん、どうだ俺の物知りっぷりは」
「じゃあ、こんな所で立ち止まっていないで城へ向かおうね〜」
「お〜」
あたしを乗せた蟹男は歩みを再開する。
※吸血鬼の城※
「うふ、吸血鬼の城に到着ね」
「後は城へ入るだけ…あの娘は」
あたしは、城の入口付近にパーティーの主役であるヴァンパイアの少女、ロザリーがいることに気づく。
「困りましたね」
「ロザリーちゃん、何があったの?」
「ジャンプさん、実は……」
ロザリーちゃんが指した先では
「いれてよ〜」
「いれてヨ」
『ダメデス、主ノ命令デ、ゾンビハ入レマセン』
銀貨兵がゾンビの入城を止めていた。
「門番があの娘達を城へ入れてくれません」
「主に頼んでみた?」
「それがお祖母様はお祖父様と共に寝室に篭りきりでして、本来ならお祖父様と交わるのは早朝までの予定だったのですが……」
「魔物娘は快楽に忠実でかつ時間の感覚も人間と比べて大雑把だから、職務を放棄して夫と数日の間エッチしても不思議じゃないわね」
『絶対通シマセン』
「ひっく、えっ、えーん」
「ウ、ウ」
銀貨兵の徹底ぷりに、ゾンビ少女が泣き出す。
「パーティーに出たいよ〜」
「ウ〜」
「泣かないでください」
「何だか可哀想、何とかして城へ入れないのかな?」
リコちゃんが心配そうにしていると
「うふ、だったら私に任せて」
それは、彼女達にとって救いの声に聞こえたのだろう。
「レース用パラソルから産まれた唐傘おばけ、パラカお姉さんが皆を城へ入れてあげる」
※
「うふ、準備okね」
パラカの指示通り、ゾンビ少女達は彼女の足に抱きつくと
「クローズ」
パラカの頭のパラソルが閉じて、中の子供達毎、その姿を覆い隠す。
「おおっ、やっぱりどう見ても傘のおばけだ」
カツン、カツン、カツン…
まずは先程まで門前払いをしていた銀貨兵を素通りする。
「成る程、ゾンビの魔力を遮断しているから、警備をスルーできるのですね」
感心するロザリーちゃん。
「あれじゃ前が見えないだろ?」
「傘の目で周囲の様子を確認しながら移動しているのよ」
カツン、カツン、カツン…
ガシャン、ガシャン
カツン、カツン、カツン…
続いて城内部の銀貨兵達もパラカを素通り。
「こちらが会場です」
ギィィ…
※パーティー会場※
「ロザリーが帰ってきた」
「も〜遅いですわよ!」
ゴーストとウィル・オ・ウィスプの子供達がお出迎え。
「オープン」
「わーい」
「ア〜」
パラカの傘が開き、ゾンビ少女達が解放
「かざり〜」
「キレイ〜」
部屋の飾りに目を輝かせている。
「むぅ、これはもう少しここに吊り下げたほうがいいだろうか」
その飾り付けはシスコンが担当しているようだ。
「この色の配置はこれで良さそうだな」
「何でアイツ、服を干してるんだ?」
リンスがそう思うのも無理はない
その飾りとなっているのは全て子供用の服だから。
服をハンガーに通すとハンガーのフック部分が天井まで伸び、服を吊るし上げる。
まるで自動的に服を吊るすかのように。
「あれは『ハングハンガー』でわたくしの服を飾りつけをしているのです」
「我が妹が着衣した服を披露するのも兄の役目だからな!」
「お兄さま、役者が揃いましたので、パーティーを始めますわ」
「わかった」
シスコンは飾り付けを止め、ジュースを注ぎはじめる。
「先程は自己紹介が遅れました。わたくしはロザリーと申します」
「コーンだ」
「リコです、よろしくお願いします」
「リコの仮装、とても可愛らしい魔女……あれ?あなたの身体から……」
ロザリーちゃんがリコちゃんの匂いを嗅ぎ、それからコーンの匂いを嗅ぐ。
「成る程、そういうことですか」
「どうした、二人の顔に何かついてるのか?」
リンスがずうずうしく尋ねる。
「いえ、単に勘違いしていただけですので、お気になさらず」
「ハンガー、ハンガー」
ゾンビの娘がハンガーの一本を持って振り回し始めた。
「駄目です、それを無闇に扱ったら」
ロザリーちゃんが止めようとするが時すでに遅し
ヒュッ ビョィーン プラーン「あ〜」
「何だ?ハンガーが少女を天井に吊り下げたぞ?」
突然のことにリンスは驚く。
「あれは服を自動的に吊り下げるハンガーなのです。取り扱いを間違えれば着衣している人ごと吊り下げてしまいます」
「放置プレイやSMプレイをしたい時には需要があるらしいが、俺には妹を吊り下げる趣味は無い」
「ぷらーん、ぷらーん」
「いいナー」
吊るされた本人はなんだか楽しそう。
「ところでリコ。オレが買った例のキノコは持ってるよな?」
「い、一応」
「乾物だけど、紅茶で戻せば問題ないだろ?」
「うん…」
「何買ったんだ?」
リンスが興味津々でコーンに購入品を尋ねる。
「教えねぇよ」
「隠し事はダメって女王様が言ってたぞ」
「この程度隠し事とは言わねーよ」
「くすくす、今宵も楽しいパーティーになりそうですね」
こうしてロザリー夫妻の送別会の幕が開いた。
※続く※
15/03/23 21:40更新 / ドリルモール
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