連載小説
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後編
魔王城・医務室

「大丈夫よ、妹達は魔力を失ったショックで倒れただけ。クリアちゃんが魔力を分けてくれたから、少し休めばすぐ良くなるわ」

エキドナのルーナさんの診断結果に私は一安心する。

「私の所為で大事にいたらなくて良かった」
「アンジェちゃん、自分を攻めないで」
「ルーナさん……」
「子供は皆幼い頃はよく食べ、よく遊び、よく学び、よく寝るものよ。ちょっとの疲れなんてすぐ吹き飛ぶわ」
「……」
「それにアンジェちゃんだって小さい頃はこの娘達のように遊んで」


「私と妹を一緒にしないでください!」


「すみません、大声を出してしまって。お願いします、私に妹の看病をさせてください」
「判ったわ。ダクスちゃんに交代して貰うわ」


入院ベッド


「ルーナさん、二人ともぐっすり眠ってます」
「ダクスちゃんは持ち場に戻っていいわよ。後はアンジェちゃんが看病するから」

ダークプリーストが私に挨拶をする。

「初めまして、一週間前にここの医務室に配属されたダクスです。貴女がアンジェさんですね、クリアちゃんから聞いています、スターシャンという町の教会で子供達の面倒を見ているリリムがいると」

私は幼い妹二人の寝顔を見る。
背の違う双子だと言ってもいいくらい、顔つきはよく似ている。

「ラヴちゃん、ピーシュちゃん。アンジェお姉ちゃんがお見舞いに来たよ」
「ラヴ、ピーシュ」
「この娘たちの名前です。お姉ちゃんがラヴ。妹がピーシュ。年が二つ離れている姉妹です」
「……普通のリリムね」
「普通?」
「ええ、二人とも白い肌に黒い角、サキュバスを象徴する翼と尻尾は白くて、何より髪の毛も綺麗な白に染まっているわ」
「アンジェさんもラヴちゃん達と同じじゃないですか。こんなに綺麗な髪の毛をして、まるで生きてるみたい……」


「触らないで!」


「あれ……アンジェさんの髪の毛に触れたら、魔力が吸い取られたような?」
「私の髪の毛が貴女の魔力を食らったの」
「魔力を食らう?」
「私の髪の毛は精や魔力を食らう。貴女の言うとおりこの髪は生きてるのよ」
「リリムの髪の毛が精や魔力を食らう?初めて聞きました」
「これは私自身の体質よ。この娘達は何も知らずに私に近づいて魔力を吸い取られたの。本当ならクリアが標的のはずだった……それなのに」


「間違えて妹たちの魔力を奪ってしまったのね」


「……パール様」
「パールでいいわよ」
「いえ、私はそんな……旦那様の母親を呼び捨てになんか出来ません」
「ダクスちゃん。これから嫁と姑の大事なお話をするから持ち場に戻ってくれないかしら?」
「はい、何かありましたら呼んでください」

ダクスが部屋を出る。

「ふふ……可愛い寝顔ね。私のハーレムに加えて情事を教えてあげたいわ」
「ふざけるなら出ていってください」
「あら、冗談は通じないわね。昔の貴女なら『クリアは私が守る』と言ってたのに」
「何百年嫁と姑の関係を続けてると思いますか。とっくに判ってますよ、パール様はリリムをハーレムに入れないことを」
「そうかしら?リリムは希少だから、そういう機会が無いだけよ」
「どうですかね。まだ他にもハーレム入りしてない種族がいるでしょう」
「その娘達は本人の性質上、自ら進んでハーレムに入ろうとしないだけよ。ユニコーンが一番わかりやすい例じゃない」
「……」


「……う、う」


「どうしたの!?ピーシュ?」
「の、のどが……」
「喉が、喉のどこが痛いの?」
「のどが……かわいた」
「……なんだ、良かった」
「みず、のませて」
「ええ、待ってて」

私は棚に置いてある吸水瓶を手に持って、妹の口へ運ぶ。

「んく、んく」

流し込まず、相手が水を飲むように少しだけ吸水瓶を傾ける。

「ぷはっ」
「まだ、水を飲みたい?」
「ううん」
「じゃあもう少し寝ようか」「はーい」

「結構慣れてるじゃない。さすが教会の院長先生ね」
「フェイが子供達の看病をする所を思い出しただけです」
「そうかしら?ダイヤの面倒を見たときの経験が役立ってるんじゃない?」
「ダイヤの面倒は煌羅が見ていましたよ」
「小さかったあの娘も今や従者のキキーモラを連れて夫探しの旅をする歳か。そういえばダイヤと煌羅が一週間くらい前にここに帰ってきたわよ。それからスターシャンへ向かうと言ってたわ」
「ダイヤと煌羅がスターシャンに……」
「それと先日クリアちゃん達がアリスの兄妹を助けるために不思議の国へ行ったわ」
「クリアが不思議の国に!?」
「ええ、アリス夫妻の救出のためにメシャスちゃんの案内で不思議の国へーー」

私は救出から帰還までの経緯を聞いた。
何とラヴとピーシュも不思議の国に行って、意外なことにあの女王に気に入られたことには驚いた。
そして、クリアの決断も。

「クリアがラヴとピーシュを助けるため、ハートの女王に自分がリリムであることを明かすなんて……クリアも成長してるんだ。それなのに私は……」
「貴女も昔よりはだいぶ成長してるわよ」
「いえ、私は三十年間教会を支えるため、町のためだと言って、つい昨日まで実家には帰ろうとしませんでした」
「……アンジェちゃん」
「帰郷の理由はクリアの依頼による報酬目当て、迷惑を掛けないよう妹を避けてたのに八つ当たりで妹達を巻き込んで……結局私は何も変わっていない。妹と関わることから逃げ、苛立つと我を忘れて暴走する姉ですよ」










少し間があき、パール様が口を開く。

「確かに人は簡単には変われない」

「それは魔物娘も同じ」

「でも、絶対に変わらないものも無い」

「それは貴女も同じ」

「同じ……?」
「今の貴女は、自分の失敗を反省している。妹達と関わることから逃げないように頑張っている」
「……」
「昨日は妹達からバック走で逃げていた貴女が今日は妹の看病をしている」
「でも、それは私のせいで」
「それでも貴女は看病を他の魔物に任せることなく、自分から進んで看病を引き受けた」
「……」
「それが変わったと言わずに何て言うの?」
「……それでも私は皆のようには」
「だったら、貴女なりに変わればいい」
「私なりに?」
「いや、これは貴女が既にやってることね。教会の子供を叱ったり、利益を優先したり、今回の帰郷理由の一つがお金目当てだし」
「痛いところを……」
「でもそれは教会の経営のため、叱るのも子供達を思って、貴女は自ら損な役を引き受けている」
「……そうですね。私は私ですね。ありがとう、お義母様」
「立ち直ってくれて良かったわ。四度目は怒っていたけどね」


「海神の顔も三度まで?」


「ええ、普段穏やかな海の神様も何度も怒らせようとすると大変なことになるわ」
「気をつけます」

「うーん」
「ふにゃ」
「目を覚ましたようね」
「……お腹すいた」
「おなかすいた」
「そういえば私も朝から何も食べてないや……」


歓迎会会場


「ラヴちゃんとピーシュちゃんが快復したから、アンジェお姉ちゃんの歓迎会を再開するやんね」
「「「おー!」」」
「まずは糸子さんのファッションショーやんね」

「始まりました糸子のファッションショー。司会はハーレムの国の案内猫、チェシャ猫のメシャスよ」
「メシャスが司会!?嫌な予感が……」
「準備は整ったようね。エントリーナンバー一番。トビラちゃん、どうぞ」

「ああんっ、そんなに見ないで下さいですぅ。股から潮がピュッピュッと吹いちゃうですぅ」

ピンクのウサギ柄の浴衣を着たマーチヘアがノーパンΜ字開脚で登場した。

「……出オチだったわ」





魔女達がピンクのウサギ柄の浴衣の披露を終え、ショーの幕が閉じる。
メシャスが私に寄ってきた。

「アンジェちゃんお久〜旦那様とラブラブしてるぅ?他の嫁とラブラブするのを見ても横恋慕しちゃダ・メ・よ」
「未婚の魔物娘をパール様のハーレムに勧誘する猫が言う台詞か」
「んー。少なくとも一週間前は新米の娘達にハーレムの様子を見せただけよ。嘘だと思うなら、アソコにいる飲んだくれのレッサーサキュバスに聞いてみたら?」

「チクショー!あの部下ども、私の前で夫とちゅっちゅして、未婚の私に対する当て付けカーッ!隊長も隊長よ、私に隊長代理の仕事を押しつけて、副隊長と部屋に籠もってセックスシヤガッテッ!今夜はやけ酒ジャールプス、泥酔酒一本!」

「……あれはハーレム以前の問題ね」
「あたしは司会に戻るわね〜」

メシャスが席を離れたので、私はクリアの席へ向かう。

「紅と黄色、この二つの魔宝石の持ち主は、一体、何者やんね……?」
「クリアは相変わらず魔宝石の鑑定が好きね」
「アンジェ姉。楽しんでる?」
「クリア、あんな事があったのに呑気ね……でも、妹達に魔力を分けてくれたことには感謝するわ」
「別にええよ。元から妹達に魔力を分けるつもりやったから」
「元から魔力を……?」

「次は人と魔物の新たな架け橋を目指す超新星『ラブ&ピース』のライブよ」

「ラヴです」
「ピーシュです」

「「二人揃って」」

「「ラブ&ピース」」

「ショートコント」
「まかいねつ」

「はぁはぁあついよ」
「これを口に入れて」

「そのながいぼうなに?」
「口に入れるよ」

「ん、さきっぽがにがい」
「棒の中身が昇ってくるのがみえる」

「んーぷはっ」
「凄いこんなに熱くなるなんて……」

「すごくにがかった」
「口に入れた棒は」

「「体温計」」

「「ラブ&ピース」」

会場中に私以外の拍手が響く。

「ラヴちゃん凄い」
「ピーシュちゃんも中々の演技だったよ」

アリス夫妻がエールを送る。

「「ありがとうございます」」
「どうやんね?ラブ&ピース」
「……ねえ、今の何?」
「お笑いやんね」
「言い方が悪かったわ。普通のリリム二人は何であんな変わった事を?」
「そんな事言ったら、ウチの魔宝石集めやアンジェ姉の魔界銀髪も充分変わってるやんね」
「……確かに」
「ラヴとピーシュは皆を笑顔にする事で、人と魔物の新たな架け橋を作っている。それがあの娘達の個性だとウチは思う」
「個性……」
「ウチは今まで多くの妹を見てきた。母の志に従って女性を魔物に変える妹もいれば、目標に向かって旅立った妹もいる。最近はラヴの一つ下でピーシュの一つ上の妹、アメリちゃんが姉探しの旅に出たやんね」
「姉探し?」
「まだ見ぬ姉に会うために旅に出るなんてホント凄いやんね。リリムも一人一人個性的やんね……だからアンジェ姉も自分の個性を悲観しなくてもええんよ」
「クリア……」

ラヴとピーシュが私の所に来た。

「お姉ちゃん。来てくれて有難う」
「おねえちゃん。ライブおもしろかった?」
「……あのネタ、二人だけで作ったの?」
「うん、二人一緒に」
「かんがえた」
「独学か……師匠はいないの?」
「どくがく?」
「ししょう?」
「先生の事よ。私も以前礼儀知らずのキキーモラに礼儀を教えたことがあるの。ネタも二人だけで考えても限界があるから、面白い会話をする人の弟子になって、その人からお笑いを学んでみたらどうかしら?」
「面白い人の……」
「でしになる……」
「今は覚えておくだけでいいわ」
「うん」
「わかった」

すると妹達がポケットから魔宝石を出して、

「手品をします」
「まじっく」

「透明な」
「宝石を」

「ぎゅっと」
「にぎると」

「色が」
「つきました」

「これをお姉ちゃんに」
「プレゼント」

魔力を込めた魔宝石を私に差し出した。

「これを私に?……色を変えるには魔力が必要だから幼い貴女たちには大きな負担がーークリアまさか昨日は」
「正解やんね。妹達に魔力を補給させるために、昨日からお兄ちゃんと一緒に頑張って性交したやんね♪」

魔力を注いだばかりかのに二人は笑顔のままで私を見ている。
そんな妹達を私はそっと腕で抱きしめ、

「ありがとう、大事にするわ」
「「うん」」

昨日より少しだけ変われたと、私は思った。


翌朝


「女性用武士服確認よし。帰るか」
「待つやんね」
「クリア、その袋は?」
「中身は魔宝石、まだ魔力を込めてない奴。スターシャンの住民に渡してもいいし、旅行者や観光客,特に妹が来たらそれを渡して魔力を注いで魔宝石を作って」
「わかったわ」
「よろしくやんね。ラブ&ピースも協力してくれるし、魔宝石収集計画の始まりやんね」
「……魔宝石収集計画か。旦那様やフェイにエミちゃん。スターシャンに住む皆にも協力してもらおうっと」



おまけへ続く
13/12/17 22:07更新 / ドリルモール
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■作者メッセージ
 約一ヶ月ぶりの後編です。
 今回名前だけ登場したアメリはマイクロミー氏の作品『幼き王女ときままな旅』の主人公です。
 ラヴの一つ下の妹、ピーシュの一つ上の姉で、まだ見ぬ姉と会うために世界中を旅しています。
 名前の許可を下さったマイクロミー様、誠に有難うございます。アンジェ達と直接会う場合は再度連絡をします。
 訂正してほしい点がありましたら、感想欄にてお願いします。

 クリアからの依頼を終えたアンジェはスターシャンへ戻りますが、もうちょっとだけ続きます。

 また次回。







キャラクター紹介@
【名前】糸子
【性別】女
【年齢】30
【種族】ジョロウグモ
【魔宝石】黄色と緑青色の横縞模様
【能力・特技】裁縫
【概要】
 大陸生まれでサキュバスの城下町で着物屋を経営しているジョロウグモ。

 彼女の糸で作る着物は城下町や魔王城に住む魔物娘達から好評で、ファッションショー浴衣を制作したのも彼女である。

 悩みやすい性格で、クリアから依頼された魔女向けの浴衣のデザインに行き詰まったり、アラクネ属としてのプライドから武士服を作ることを躊躇していたが、アンジェの意見から女性用として作成し城下町で販売したところ、斬新な服とサキュバス(特にアルプ)の間に評判となる。

【補足事項】
 従姉妹にウシオニがいる。



キャラクター紹介A
【名前】マリア(アンジェラ)
【性別】女
【年齢】第十九王女
【種族】リリム
【魔宝石】ピンク混じりの銀色
【口調・口癖】丁寧/感情的
【能力・特技】髪の操作
【概要】
 スターシャンにある町外れの教会の院長にして魔王の娘であるリリム。

 普段はマリアという名の聖職者として、教会の子供たちの面倒を見ている。

 リリムの美貌を隠すため、魔力を抑え、分厚い眼鏡と露出の少ないシスター服を着用しているが、リリムとしての本性を表すと瞳が赤く光り,ピンク色の髪が白へと変わる。

 とある事情で、三十年もの間、魔王城に帰らなかったが、クリアからの依頼と多額の報酬目当てに魔王城へ帰郷した。

 魔王城で妹のラヴ,ピーシュと仲良くなり、クリアの話からまだ見ぬ姉と会うために世界中を旅する妹アメリの存在を知る。

【補足事項】
 教会への寄付金はお断りしている。



用語集
【魔界銀髪】
 魔王の娘第十九王女アンジェラの髪の毛。

 魔界銀を細長く伸ばした物に近い性質を持ち、髪の毛一本一本には少量であるが魔力が蓄えられており、髪の毛自体に殺傷能力は無い。

 また、魔界銀が加工することにより、色がピンクから様々な色へと変化するように、彼女の精神状態及び魔界の大気によって、髪の色がピンク,白,銀色へと変わる。

 最大の特徴は髪の毛自体が生きていることであり、アンジェラの命令で、たった一本から全ての髪の毛まで、髪の毛が彼女の頭に繋がっている限りは自由自在動かすことが可能。

 さらに魔物娘らしく髪の毛から精や魔力を奪い、自身の魔力を注ぐことで、女性を好きな魔物に変え、男性をインキュバスに変えることが可能であるが、精や魔力を奪いすぎると対象が脱力してしまうため、正当防衛でない限りは積極的に使用することは無い。

 ちなみに抜いた髪の毛の両端をコップ状の物に繋ぐと『糸伝話』という通信機になる。

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