第2話 異世界の知識は禁忌の香り
馬車にゆられること小1時間。
馬車の窓から遠くに、目的地の街であるルーカストの街が見えてきた。屋敷からそう遠く離れていない街だが、まずは手始めにこの街にある図書館から始めようと思ったからだ。
その街の図書館は、私が小さいころから本を借りていた所だ。もっとも、それまでは悪い魔法使いに攫われたお姫様を騎士が助ける物語とか、探検家が未発見の遺跡の罠を突破し財宝を見つけるとかいう本ばかり借りていた。まさか、自分が魔剣を探すはめになるとは当時はみじんも思わなかったな。
街の少し手前、馬車を引いていた骨馬が立ち止まりその姿が薄れて行く。私はあわてて、馬車を降りる。すると、骨馬に合わせて馬車もその姿が薄れて行く。
どうやら、馬車で送ってもらうのもここまでのようだ。まあ、親魔物派の国とはいえ、昼間からあんな目立つ馬車で街に入るのもなんだしな。別に夜ならいいという訳ではないが・・・。
馬車の姿が完全に消えると、そこには私の荷物が地面に置いてあった。まあ、あの2mある剣モドキを馬車から出す手間が省けただけいいかと考えることにした。
私は、さっそく荷物を持つとルーカストの街へ向かって歩きだした。
しかし、やっぱりこの剣モドキが一番のお荷物だな・・・。
この街はそれなり大きな街で、自警団も存在するし、街は城壁が張り巡らされ、街の入り口にはしっかりと門番もいる。親魔物派の国である以上、教会の手を警戒しどこの街でもこのようなものだ。でも、私の場合は屋敷がそれなりに近いこともあるし、母親が騎士であるからか、いつも顔パスだ。この日も、当然何事もなく街へ入ることができた。私は、そのまま図書館に行くことにした。
はて、図書館に着いたものの、どうやって手がかりを探そうか・・・。
てか、図書館広・・・、下手したら図書館で本を探しているだけで1年たっちゃう?
結局、その日はさしたる収穫も無いまま1日が過ぎてしまった。日がくれて、図書館も閉館の時間が閉まると、私は今日の寝床の手配をしていないことに気がつき、宿屋を探して街を散策することとなった。
親からは路銀の足しにと、けっこうな額のお小遣いを貰った。たぶん、私の人生の中でもらったお小遣いの中で一番の額だろう。当分はこれで持つだろうとは思うが、やっぱり大事に使わなければ。
と、いうことで、宿はそれなりの値段の場所にしなければならない。
結局、私はその街では中の下ぐらいの宿屋に泊ることにした。しばらくはこの宿屋に泊ることになるだろう。
そこでふと思った、ここで当分調べ物をするなら、家からかよってもいいじゃん!が、すぐに考え直した。きっと、家からかよったらなまけてしまう。いつこの街に見切りをつけるか分からない以上、家を出てよかったのだと。
そして、その日私は初めて一人で眠りに着いた・・・。
結局、街に着いた次の日、図書館でちょっとしたことがあった。
私が、図書館の本棚から『名剣百選』とか『伝説の剣』とかいう本を引っ張り出して、図書館内に設置されている机の上で読んでいると。どこからともなく、私に対する視線を感じたのだ。
最初は、直ぐに視線を感じなくなったこともあり、あまり気にしなかったのだが、やがてそれが何度も感じるようになる。そこで、ふと何気なくそちらの方をみると、なにやら黒い服をきた女性がこちらを見ていた。手に何冊かの本を持っているところを見ると、彼女もこの図書館を利用しに来たのだろうか?
気がつけば、その女性はいつのまにか居なくなっていた。
う〜〜ん。やっぱり、この街にきて最初に図書館に来た時、鎧をきて来たのは失敗だったかもしれない。けっこう、変なモノを見る目をされてしまっていたしな。今の私は、鎧を着ておらず、手元には愛用の両手剣しかない。彼女は、私がその鎧を着ていたのと同一人物だと分かったのかもしれない。まあ、何事も無ければ深く考えないことにした。
そして、3日目・・・。
その日は、街の様子がだいぶ違っていた。
朝から警備兵が巡回しており、その表情も何か強張っていた。この街で何かあったのだろうか?だが、私にはやる事もあるし、ここで野次馬根性を出したところで、自体が好転する訳でもないし、今日もとっとと図書館に向かうことにした。
その日、図書館で私を見つめる視線を感じることは無かった。
昼。私が、図書館の外のレストランで昼食を取っていると、私に話しかけてくる人物がいた。
「もし?よろしいでしょうか?」
それは、先日に図書館で私を見ていた女性だった。よく見ると、彼女の背中には翼が生え、背後には鎖が巻きついた尻尾が見えるところみると、彼女も何かの魔物なのだろう。
「ふぁい?」
私は、口にホットドックを頬張ったままそう答えた。
「いえ、貴方から少々この世界でないモノの気配がしたもので。」
「!」
その言葉を聞き、私は父の先祖が探していたモノが“この世のものならぬ魔剣”だという言葉を思い出していた。
この女性は何者なのだろうか?私を何かの罠にハメルつもりなのだろうか?
だが、この街に来て何も収穫が無いまま3日が過ぎようとしている私にとっては、たとえ罠であろうとも、彼女の話を聞いてみることにした。
「何故、その様な事を?」
「私は、エレリーナ。異世界に関する物事に興味がありまして、そういった知識を研究しているものです。そういった研究をしていると、この世界のものでない気配というものを、感じ取れるようになるものですよ。そこ、よろしいかしら?」
「ど、どうぞ」
私の返事を聞くと、エレリーナは手にもった本をテーブルの上に置くと、テーブルを挟んで私の反対側の席に座った。
「これから、この“異世界の知識”に関する本を図書館に返しに行こうと思ってましたの。今日は、探しモノをしていて、うっかり返却日を過ぎるところでしたわ。で、図書館に向かう途中に、先日図書館で見かけた貴方を見つけたものでした。」
そこで彼女が持っていた本を見てみる。
彼女は異世界の知識の本だと言うが、表紙はこの世界の言葉のようだ。見てみると、『ネクロノミコン』『ドール賛歌』『屍食教典儀』なんてものが見て取れる。
「この本は、あの図書館でも一部の人しか入れない場所にある、けっこう危険な本なのですのよ。あまり、安易に手を出さない方が身のためですわ。」
あの図書館にはそんな場所があったのか・・・。てか、もし私の求める情報が、そんな場所にあったのならお手上げではないか。
「はあぁぁぁ・・・」
私は思いっきりため息をついてしまった。
「どうしました?」
「私はルシィナと言う者ですが、実は・・・」
結局、私はため息ついでに彼女に身の上話をしてしまった。
すると彼女は目を輝かせながら、こう言ってきた。
「なら、ぜひ次の機会にでも、その剣モドキを見せていただけませんか?」
「ええ・・・」
そんな会話していると、その場を通りがかった母親と手を繋いだ子供が、私の前にいた女性を見つけた。
「ああ、エレリーナのお姉ちゃんだ〜。」
「あら、こんにちは。」
「こんにちは〜」
そう言って、手を振りながら母親と共にそこを立ち去って行く。
「子供が好きなんですね。」
「ええ」
そう言って、エレリーナは話始めた。
「ダークプリーストの大半は、気にいった男性を見つけるとパンデモニウムに引き篭もってしまいますが、パンデモニウムは男との永遠の愛を続けるために時間が歪んでいます。しかし、そのせいで仮にお腹に子供を宿すことができても、胎内で子供が成長することは無く、決して産むことはできないのです。子供を持てるダークプリーストというのは、パンデモニウムに行かない、変わり者だけなのですよ。」
そうか、彼女はダークプリーストだったのか。と、今更気付いた。だって、昼間から堂々としていたものだから。
「ですから、私にとって子供というのは、とても大切な存在なのです。たとえ、種族が違ってもね。」
すると、今度は別の子供が彼女にむかって走ってきた。
「こんにちは。エレリーナお姉ちゃん。」
今度は、ラミアやハーピーといった子供達だけのグループのようだ。
「こんにちは。あら、今日は貴方達だけなの?」
「うん。そうだよ。」
そう元気よく答える子供達であったが、対するエレリーナはどこか思いつめた表情だった。
「ん〜。今朝あんな事件が起こったばかりだから、あまり遅くまで遊んじゃダメよ。事件が解決するまでは、パパやママに心配かけないようにね。」
「「「「は〜〜い」」」
そう言って、子供達は立ち去っていった。
「あんな事件?」
「ええ」
エレリーナはどこか暗い表情で話はじめた。
「この街のはずれにある孤児院に、昨日の夜中に賊が押し入ったようなのです。そして、孤児院の先生方を含めて子供達がみな殺されてしまったのです。」
なるほど、今朝から街の様子がどこか変わっていたのはこのためだったのか。どうりで、街の警備が厳重なはずだ。
「そして、孤児院にいた一人の少女。名前はジェリスと言うのですが、彼女の遺体が孤児院に無かったことから、もしかしたら彼女は生き残っているかもしれないと。もしかしたら、彼女は事件を目撃しているかもしれないと、街の人達が今必死に彼女を探しているようです。」
「ひょっとして、貴方が探していた探しモノというは、そのジェリスという少女を探して?」
「ええ」
だから、今日は図書館で彼女の視線を感じなかったのか。
「この一件が片付いたら、よろしければ貴方のお手伝いをしてもよろしいかしら?」
「え?いいんですか?」
「ええ。私としても、もし貴方の求める魔剣が異世界の物でしたなら、新たな発見があるかもしれませんし。」
その後、私が寝泊まりしている宿の1階の食堂で、夜に待ち合わせる約束をし、それぞれ分かれて行った。私は引き続き図書館へ、エレリーナさんは行方不明の少女を探して。
で、私の方はというと、結局収穫は無かった。やっぱり、重要な情報はエレリーナさんの言うように、一般の人が入れないような場所にあるのだろうか・・・。
その日の夜。
私とエレリーナさんは、私が寝泊まりしている宿屋の1階にある食堂で、遅い夜食を取っていた。
「そちらも、何も収穫はありませんでしたか。」
「はい・・・。って、“そちらも”?」
「ええ、こっちもジェリスちゃんの手がかりはまったく。明日になれば、占術の得意な知人がこの街に戻ってくるのですが・・・、それに頼るしかないのでしょうか?」
「・・・」
「・・・」
二人そろってため息をついてしまった・・・。
するとそこに、街の警備兵らしき人が2人ほど店に入ってきた。そう思ったのは、一人がいつも私を顔パスで街にいれてくれる門番だったからだ。
「すみません、ここに袋を担いだ3人組の男達が来ませんでしたか?」
「いいえ、来ませんでしたけども。」
そう私が言うと、警備兵はエレリーナさんの方を見た。
「私も見ておりませんが。」
「そうですか。」
警備兵が出て行こうとしたので、私はすかさず彼らに聞いてみた・
「何かあったのですか?」
しばし、彼は考え私には話してもいいと思ったのだろう、何があったのか話てくれた。それによると・・・。
「はい、先ほど連絡が入ったのですが、深夜の孤児院襲撃事件で街を警戒していたとろ。街のはずれの城壁で、仲間の警備兵が袋を城壁から外に持ち出そうとしていた不審な3人組を発見し、何をしているか問いただそうとしたところ、その3人組が突如仲間の警備兵に襲いかかったとの報告を受けたのです。」
「!」
この状況下で、ずいぶんと大胆な事をする輩がいたものだと、私は思った。もし、その3人組が孤児院を襲撃した犯人なら、もっと警備が手薄になる時期を見計らう様なものだが、なにか急ぎの用事でもあったのだろうか。にしても、その袋というのが気になる。もしかすると・・・。
ちらりとエレリーナさんの方を見ると、どうやら彼女も同じ考えのようだ。
「現在、数名の警備兵が負傷しており、目下逃走した不審者を探索中であります。」
もし、袋の中身が彼らの本来の目的で、孤児院の出来事は目撃者を消すために行われたのだとしたら。彼らが、警戒下でムチャな行動に出たのもうなずける。
「つまり、彼らはまだこの街にいると?」
そうエレリーナさんが言うと。
「はい、なのでできるだけ建物から出ないようにして下さい。では。」
そう言って、警備兵は食堂から出て行った。
それを聞いていた、食堂の親父さんは慌てて宿屋の入り口を閉めようとする。それを見たエレリーナさんは。
「まって下さい。私もすぐ出て行きます。」
「あんたも聞いただろ、外は危険だ。」
「それは分かっています。でも、私は行かなくては。」
そう言うエレリーナさんに対し、私は・・・。
「待って!」
「止めないで下さい、ルシィラさん。」
「いえ。私も行きます。1人より2人の方がいいでしょ!」
「え?」
「その代わり、事がすんだらさっそく私の手伝いをしてもらうわよ。」
そう言って、私は片目をつぶって見せた。
「だから、準備をしたいから少し待って。それに、人探しにいい物もあるし。」
「?」
そう言って、私は急いで2階へ駆け上がった。
部屋に入って、大急ぎで鎧を着て、鞘に入った愛用の両手剣を背中にかける。あの、剣モドキは役に立つか分からないのでお留守番だ。
「っと、忘れるとこだった。」
そう言って、私は妹からもらった袋を漁る。
たしか、ここに・・・、あった。
それを持って、大急ぎで1階に戻る。よかった、エレリーナさんは、私を待ってくれていたようだ。そのエレリーナさんに、私は袋から出した物を渡す。
「これは?」
「妹が餞別にくれたマジックアイテムの一つ。」
それは、コンパスから磁石の部分を取り外し、それにキーホルダーの鎖と輪を付けた様な物だった。
「この輪を指につけて、探したい人を念じるの。すると、その人のいる大まかな方角をしめしてくれるわ。有効範囲はそれ程広くないけど、この街で探すなら十分なはずよ。私は、ジュリスちゃんを知らないから、貴方が使って。」
「分かりました。」
そして、私達は宿屋を出た。宿屋の親父さんは、私達が出るまで入り口を閉めるのを待ってくれたが、さすがに待ってはくれないだろう。出てしまった以上、次に宿屋に入るのはどのみち明日の朝行こうだ。
「では。」
そう言って、エレリーナさんは輪を指にはめ、掌を下側に向け鎖と針を垂らすと、さっそく件の少女のことを念じ始めたようだ。
すると、鎖の先の針がかすかに震えたと思うと。ある方向を刺し、そのまま動かなくなる。ためしに、エレリーナさんがその針を使った手を振ってみても、針の向く方角は変わらなかった。
「どうやらこっちのようですね。」
そう言ったあと、エレリーナさんは私のことをジト目で見つめた。
「どうして、最初にこれを貸してくれなかったのです?」
「あはははは・・・、ごめん、すかっり忘れてた・・・。」
すると、針の刺していた方角から、警備兵の笛の音が鳴り響く。どうやら、方角は合っているようだ。そうこうしているうちに、針の方角が微妙に変わっていく。どうやら、この針は思っている以上に、的確に方角を教えてくれるようだ。
私達はお互いに頷くと、針の示す方向に向かって走りだした。
はたして、私達の進んだ方角に、件のあやしい3人組がいた。
彼らの持っていた袋が、モゾモゾと動いている。おそらく、死体の見つからなかったジュリスという少女が捕えられているのだろう。
「そこまでよ。そこの怪しい者達。」
「もう見つかったか・・・、と、この街の警備兵じゃないな。」
そう言ってきたのは、両手にショートソードを持った男だ。残りの2人が袋をかかえているところを見ると、どうやらこいつが3人のリーダーのようだ。
「たしかに、街の警備兵ではないわ。でも、その袋を渡してもらうのには代わりないわ。」
「その袋の中に、孤児院の事件の生き残りがいるのは分かっています。さあ、はやく彼女を解放しなさい!」
エレリーナさんがそう言うと、その男がこう返す。
「そいつは無理な相談だな〜。何しろ、これが俺達に与えられた任務だからな。」
「任務ですって?」
「詳しいことは知らん。知っているのは、こいつの祖父が教会の重要な秘密を知っていて、そいつをおびき寄せるエサにするんだと。」
「教会!」
その話に、エレリーナさんの目が見開かれる。
やれやれ、こんな連中が街に入り込んでいたなんて・・・。
そして、私は彼らの前に出ると。
「そんな情報を私にしゃべるところを見ると・・・。」
「そう、あんた等を生かしておくつもりは無いってことだ。」
そう男が言うと、残りの2人も袋を地面に置き、腰に刺した鞘から剣を抜く。すると、私の後ろで、エレリーナさんが何やら魔力を練り始める。
「ルシィラさん、1分だけ時間を稼いでください。」
「分かったわ。」
とにかく、私は彼女の言うとおり1分だけ時間を稼ぐために、背中に担いでいた両手剣を鞘から抜き出す。
考えてみれば、これが私にとって産まれて初めての実戦だ。
てか、初戦の相手が教会の暗部で、しかも3人ですか・・・。父上、母上、エスタラニィ、もしからしたら呪いの前にここで死ぬかもしれません。でも、ここで挫ける訳には行かない。
とにかく、ここは1分の時間を稼いで、彼女に掛けてみよう。
私は、剣を上段に構えると、そのまま男達にむかって突っ込んで行く。そして、リーダーと思われる男に向かって剣を振り下ろした。
「いややあああぁぁぁ」
その男は後方に下がることで私の剣をやりすごす。そして、脇にいた男と2人で手にもった剣で突きを繰り出しくる。
私はその2人の突きを、体を真半身にして避けると、そのまま体を回転させ、私を通りこして後ろのエレリーナさんに向かおうとしていた男に向かい、その進路を塞ぐようにサイドスィングを繰り出す。
その斬撃を、男はしゃがんで避けるも、そのまま繰り出した私の蹴りをまともに食らい、2人の男の方に飛ばされる。
これで一人目と思った矢先、飛来音と共に私に向かって凶器が飛んでくる。それを、私は剣を横に薙ぎることで、剣の腹を使い叩き落とす。
「これが噂の黒鍵ってヤツかしら。」
よく見れば、蹴り飛ばした男もいつのまにか立ち上がり、こちらに向かって凶器を投げてくる。私は、真半身になり縦に持った剣の腹を男達に向けることで、剣を飛び道具を受ける盾がわりしながら、男達との距離をつめていく。
男達も、こちらに飛び道具を投げながら、徐々に接近してくる。どうやら、飛び道具で足止めして一気に襲いかかってくるつもりなのだろう。
ならば・・・。
そして、予測どおり彼らは、一斉に私に向かって突っ込んできた。
私は、彼らが私に一斉に襲いかかってくるタイミングを見計らい、自身の剣に闘気を込めて、思い切り地面に剣を叩きつける。
ドオオォォォ〜〜〜ン
私の周りに軽い小爆発が起こる。これは、自分の周りの敵を倒すための「爆裂波」と呼ばれる技だ。だが、何のペナルティも無い訳じゃない。武器を地面に叩きつける以上、連発すれば武器が持たなくなる。あまり多様することはできない。
一方、3人の男はというと。技を見きり、爆発の瞬間後方に飛びのき、技をやりすごしていた。
やはり、教会の暗部だけあって、そう簡単に一網打尽にしてはくれないか。すると、彼らの一人が予想外の行動に出てきた。
「ライトニングボルト【稲妻の矢】」
そう男が言葉を放つと同時に、男の腕から電撃が私に向かって走る。その電撃は、私の剣に命中し、私の体をつたい地面に流れて行く。
「っく」
私の体はつよいショックを受けて、よろけそうになりながらも、何とか体制を維持し、剣を手放すこともなかった。偉いぞ、私。
「ファイアボルト【火の矢】」
「フリーズボルト【冷気の矢】」
残りの2人の男も、接近戦は危険と感じたのか、魔法による遠距離戦に切り替えてくる。こいつら、そろいもそろって、飛び道具だけじゃなくて魔法も使えるのか。
なんとか、直撃を避けようと両手を剣の柄と腹に置き、剣で魔法を受けさせる。だが、魔法を使って来る2人は一斉に魔法を放つのではなく、交互に放つことで私をその場に足止めする。
ん?2人の魔法?では、残りの一人は?
そう思ったのもつかの間。
ザシュ
2人に気を取られている間に、残りの一人に接近を許し、右肩をザックリ斬られた。
「っぐ」
右肩にはいった傷のせいで、右腕に力が入らなくなり、両手で持っていた剣で防いでいた魔法の直撃を受けてしまう。
「きゃあ」
我ながら、情けない声を上げて吹き飛ばされる私。だが、今度はかなりやばかった。2人分の魔法の直撃を受けて、後方に飛ばされたうえ、壁に叩きつけられる。魔法のダメージ自体は、妹が作ってくれた護符である程度は軽減されるものの、それにも限度がある。
そんな私に向かって、先ほど私に一撃を入れた男が、余裕の表情で私に近寄ってくる。
「やれやれ、見れば見るほど、なかなか可愛いお譲ちゃんじゃないか。急ぎの用事がなければ、たっぷりと遊んで上げるのによ。」
「なぜだ、それほどの腕を持っているなら、少女を一人秘密裏に誘拐することなどたやすいはず。なぜ、孤児院の子供を皆殺しにする必要がある!」
「魔物共を粛清するのに、年齢は関係ないだけだ。」
「あの中には、人間の子供もいたはずなのだぞ!」
「魔物達と紛れて暮らしてしまった以上、もはや魔物達に汚されたも同じ。汚れた存在は粛清しなければならない。ましてや、少女の場合は魔物いる国にいる以上、将来魔物に変異させられる可能性がある。そんな、邪悪な芽を小さいうちに摘み取とっただけだ。」
男の言い分に怒りを覚えながら、今の会話で多少の体力は持ち直した私は、そのまま剣を構える。
だが、このまま魔法を受け続けたらじり貧になる。ここは多少のダメージを覚悟で、魔法を受けながらでも確実に攻撃を入れなければ。
私は、剣をやや下段に構え。そのまま彼らに向かって走り出す。
その私に、魔法が彼らの魔法が降り注ぐが、私は走るのを止める訳にはいかなかった。そして、彼らを剣の間合いに捕えると、剣を横に向けサイドスィングを繰り出す・・・。
と、見せかけて、そのまま一人の男に体当たりを食らわす。その男は、先ほど私のサイドスィングをしゃがんで避けた男だ。その男を標的にしたのは、先ほどのサイドスィングの印象がまだ残っており、それを警戒しているのではないかと思ったからだ。
思ったとおりサイドスィングを警戒し、フェイントにかかり私の体当たりが見事に決まる。そして、ぐらついた男の顔面に私は剣の柄頭を思いっきり叩き込んだ。
「ぐあ!」
そのまま、左手を剣から離し、その男の胸倉をつかむと・・・。もう一人の男に向かって、力任せに投げつける。
「ぐぺ!」
そのまま2人そろって壁に叩きつけられ、2人そろってのびてくれたようだ。
魔物である、デュラハンの腕力をなめてもらっては困る。たとえ、技は未熟でも力まかせにこれくらいの芸当はできる。
妹に今の場面を見られると、『あいかわらず、お姉ちゃんの戦い方はスマートじゃないんだから。』なんて言われそうだけど。
残りはあと一人。だが・・・。
私はまたしても、その男を見失ってしまった・・・。
背後に気配を感じ、警戒したが一瞬遅かったようだ。そのまま、左腕の前腕部分に鎧を貫いてショートソードが突き刺さる。
「うぐぅ。」
その突然の激痛に、深くにも私は剣を手放してしまった。そして、そのスキを逃すような男ではなかった。
ショートソードを突き刺された腕をかばっている間に、正面に回られ。逆手に持ったショートドードが、肩口から私の心臓目がけて振り下ろされる。
「しまっ・・・。」
だが、いつまでたってもその剣が私の体に到達する事はなかった。男は剣を持ったままかたまっている。そして、そのままバタリとその場に倒れる。
そんな私の耳に、彼女の声が聞こえてくる。
「ルシィラさん、もう大丈夫です。」
エレリーナさんはそう言うと、私のもとに歩いて来る。
「ダークプリーストと言っても、神官である以上回復魔法だって使えますよ。」
そいって、私の肩と腕の傷口に癒しの魔法をかける。
「エレリーナさん、いったい何を。」
そう私が尋ねると、彼女は無言で上を向く。私も、彼女に合わせて上を向くと・・・。
空を見ると、そこには馬の下半身をし、手に鎌を持ったナイトメアであろう少女が数人飛んでいた。
「彼女達を呼び寄せるのに、思ったより時間がかかってしまいました。私の力が高ければ、貴方も無用の怪我をなさらなくてもよかったのですが・・・。申し訳ありません・・・。」
「いいえ、おかげで助かりましたよ。」
そう言って、私は全身の緊張を解いていく。
「ナイトメということは、彼らは・・・?」
「ええ。文字通り、悪夢を見てもらっています。トラウマになる程のね。」
そう言って、彼女は笑みを浮かべる。
いや、さすがに今の笑みは私でも怖かったぞ。
「ちょっと失礼。」
そう言って、彼女は私の治療を中段して、彼らが持っていた袋の中身を確認する。私も覗き込んでみると、やはりそこには一人の少女が入っていた。
「うううん。」
どうやら、寝ているものの、別段怪我とかは無いようだ。
しばらくすると、騒ぎを聞きつけた街の警備兵が駆けつけてくる。彼らに事情を説明したあと、警備兵達はいまだに悪夢にうなされている男達を連行していった。う〜ん、やっぱりこういうときの顔パスって便利だな。
そして、私はエレリーナさんに尋ねた。
「しかし、これでよかったのですか?」
「ええ。彼らの処分はこの街の人達にまかせます。」
そう彼女の言葉を聞いた後、私は安堵感からか、そのまま気を失ってしまった・・・。
気がつくと、私は宿屋のベッドの上で目を覚ましていた。
どうやら、もう昼ごろのようだ。寝ている間にエレリーナさんが治療してくれたのだろう、肩と腕の傷はすっかり無くなっていた。
すると、それを見計らったように、部屋の扉が開きエレリーナさんが入ってくる。
「あら。気がつきましたか?」
「ええ、おかげ様で。」
「いきなり倒れたので、びっくりしましたわ。」
そう言って、私のそばに椅子も持ってきて腰かける。
「あははは・・・、面目ない。」
そう言った私に対して、彼女は真剣な眼差しで言ってきた。
「治療のかたわら、貴方が寝ている間に確認させていただきました。その首の後ろにあるのが、呪いの印なのですね。」
「ええ。」
そして、彼女は部屋の壁に立てかけてあるモノに目を止める。
「あれが、例の剣モドキなのですね。」
「はい。」
「以前お話したように、アレからはこの世界に無いものを感じます。アレが手がかりだと言うのでしたら、やはり貴方の求める魔剣というもの、この世界の物では無いのかもしれませんね。」
「かもしれません。ですが、だからと言って探すのをやめる訳には行きませんから。」
「ええ。ですから、一つ提案があります。」
「?」
「昨日申しておりました、占術の得意な私の知人に、魔剣のことを占ってもらってはいかがでしょうか?」
「いいんですか?」
「ええ、私が頼めば占ってくれるはずです。」
私はこの申し出に素直に応じることにした、とにかく今は少しでも情報が欲しいのだ。それが、どんなにおぼろげなものでも。
そして、その日の夕方。
私は、エレリーナさんの知人だという、魔女の占い師に会うことができた。その魔女に、剣モドキを渡すと彼女はこう切り出した。
「もし、その剣が貴方の探している物の手がかりならば、その探し物とは強い繋がりがあるものです。ですから、私の占術でその繋がりの糸を探ってみましょう。」
そう言って、彼女は剣を持つと目を閉じて集中しはじめた。
そうしてから30分程たったころだろうか。
彼女は、目を開いて言った。
「どうやら、ダスクハイムの中心付近ですね。」
「ダスクハイムか・・・。」
ダスクハイムの国。そこは、5年前突如として原因不明で魔界化した国だったはず。
「しかし・・・。」
「?」
「術を行ったとき、まるでその剣モドキが私に仲間の位置を教えてくれたような、気がしました。まるで、自らの意思をもっているかのように・・・。」
それから2日後、私はルーカストの街を旅立つことにした。魔女の占ってくれたダスクハイムの国を目指すためだ。
出発の日、エレリーナさんが城門まで送ってくれた。
「もう、お別れなんですね。」
「きっとまた会えますよ。」
「私もそんな気がします。私の直感ってよく当たるんですよ。」
そう言って彼女は笑顔を見せてくれた。
「それじゃ、私は引き続きこの街で魔剣のことを調べておきますね。」
「お願いします。何か分かったら、家族のいる屋敷に行って下さい。親から、定期的に手紙を寄こすように言われていますしね。」
私との約束通り、エレリーナさんがこの街の図書館で、魔剣に関する事を調べてくれることになった。
ちなみに、孤児院の生き残りであるジュリスちゃん。彼女は、訃報を聞きこの街にかけつけた、無くなった孤児院の院長さんの親戚である冒険者(たまたまこの近くにいたらしい)が引き取ることになった。例の教会の刺客の話が本当なら、彼女には祖父という肉親がいることになる。冒険者は、その祖父を探してみることにしたそうだ。
「では、私はこれで行きます。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
そう言って、彼女は手を振って見送ってくれた。
なんだか、家族のもとを出たときと状況が似てるなと思った。
結局、この街には一週間と滞在しなかったのに、けっこう長い間いたような気がしていしまう。
そんな、後ろ髪を引かれるような思いを胸に、私はダスクハイムの国を目指し、ルーカストの街を旅立った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そこは、ルーカストの街のある国から、はるか離れた砂漠地帯。
その砂漠の中に、砂嵐に守られるかのように、荘厳な神殿が建っていた。その砂漠の神殿の中、もっとも奥の間で一人のアヌビスが椅子に深く座り、目を閉じて瞑想を行っている。
そして、アヌビスが瞑想から目覚めた。
「いかが神託が下されましたか、フシャルイム様。」
そう言ったのは、瞑想から目覚めたアヌビスに使えるスフィンクスである。
「今ふたたび、世界と世界をつなぐ門が緩みはじめ、その印が一人の者に現れた。」
「・・・」
アヌビスの言葉を、傍らのスフィンクスは一字一句もらさずパピルスの巻物に記して行く。
「4つに分かれし器がそろい、魂が器に舞い戻る好機が訪れようとしている。」
「・・・(カキカキ)」
「やがて、ここに印を持つ者が訪れるであろう。そして、我はその者に新たなる予言を示すであろう・・・。」
「・・・(カキカイ)。以上でございますか?」
「うむ」
それを聞いたスフィンクスは、巻物を持って部屋を出て行った。
スフィンクスが出て行ったあと、アヌビスは一人ため息をついた。
「また、この時が来たのか・・・。」
そう言って、アヌビスは再び目を閉じた。
馬車の窓から遠くに、目的地の街であるルーカストの街が見えてきた。屋敷からそう遠く離れていない街だが、まずは手始めにこの街にある図書館から始めようと思ったからだ。
その街の図書館は、私が小さいころから本を借りていた所だ。もっとも、それまでは悪い魔法使いに攫われたお姫様を騎士が助ける物語とか、探検家が未発見の遺跡の罠を突破し財宝を見つけるとかいう本ばかり借りていた。まさか、自分が魔剣を探すはめになるとは当時はみじんも思わなかったな。
街の少し手前、馬車を引いていた骨馬が立ち止まりその姿が薄れて行く。私はあわてて、馬車を降りる。すると、骨馬に合わせて馬車もその姿が薄れて行く。
どうやら、馬車で送ってもらうのもここまでのようだ。まあ、親魔物派の国とはいえ、昼間からあんな目立つ馬車で街に入るのもなんだしな。別に夜ならいいという訳ではないが・・・。
馬車の姿が完全に消えると、そこには私の荷物が地面に置いてあった。まあ、あの2mある剣モドキを馬車から出す手間が省けただけいいかと考えることにした。
私は、さっそく荷物を持つとルーカストの街へ向かって歩きだした。
しかし、やっぱりこの剣モドキが一番のお荷物だな・・・。
この街はそれなり大きな街で、自警団も存在するし、街は城壁が張り巡らされ、街の入り口にはしっかりと門番もいる。親魔物派の国である以上、教会の手を警戒しどこの街でもこのようなものだ。でも、私の場合は屋敷がそれなりに近いこともあるし、母親が騎士であるからか、いつも顔パスだ。この日も、当然何事もなく街へ入ることができた。私は、そのまま図書館に行くことにした。
はて、図書館に着いたものの、どうやって手がかりを探そうか・・・。
てか、図書館広・・・、下手したら図書館で本を探しているだけで1年たっちゃう?
結局、その日はさしたる収穫も無いまま1日が過ぎてしまった。日がくれて、図書館も閉館の時間が閉まると、私は今日の寝床の手配をしていないことに気がつき、宿屋を探して街を散策することとなった。
親からは路銀の足しにと、けっこうな額のお小遣いを貰った。たぶん、私の人生の中でもらったお小遣いの中で一番の額だろう。当分はこれで持つだろうとは思うが、やっぱり大事に使わなければ。
と、いうことで、宿はそれなりの値段の場所にしなければならない。
結局、私はその街では中の下ぐらいの宿屋に泊ることにした。しばらくはこの宿屋に泊ることになるだろう。
そこでふと思った、ここで当分調べ物をするなら、家からかよってもいいじゃん!が、すぐに考え直した。きっと、家からかよったらなまけてしまう。いつこの街に見切りをつけるか分からない以上、家を出てよかったのだと。
そして、その日私は初めて一人で眠りに着いた・・・。
結局、街に着いた次の日、図書館でちょっとしたことがあった。
私が、図書館の本棚から『名剣百選』とか『伝説の剣』とかいう本を引っ張り出して、図書館内に設置されている机の上で読んでいると。どこからともなく、私に対する視線を感じたのだ。
最初は、直ぐに視線を感じなくなったこともあり、あまり気にしなかったのだが、やがてそれが何度も感じるようになる。そこで、ふと何気なくそちらの方をみると、なにやら黒い服をきた女性がこちらを見ていた。手に何冊かの本を持っているところを見ると、彼女もこの図書館を利用しに来たのだろうか?
気がつけば、その女性はいつのまにか居なくなっていた。
う〜〜ん。やっぱり、この街にきて最初に図書館に来た時、鎧をきて来たのは失敗だったかもしれない。けっこう、変なモノを見る目をされてしまっていたしな。今の私は、鎧を着ておらず、手元には愛用の両手剣しかない。彼女は、私がその鎧を着ていたのと同一人物だと分かったのかもしれない。まあ、何事も無ければ深く考えないことにした。
そして、3日目・・・。
その日は、街の様子がだいぶ違っていた。
朝から警備兵が巡回しており、その表情も何か強張っていた。この街で何かあったのだろうか?だが、私にはやる事もあるし、ここで野次馬根性を出したところで、自体が好転する訳でもないし、今日もとっとと図書館に向かうことにした。
その日、図書館で私を見つめる視線を感じることは無かった。
昼。私が、図書館の外のレストランで昼食を取っていると、私に話しかけてくる人物がいた。
「もし?よろしいでしょうか?」
それは、先日に図書館で私を見ていた女性だった。よく見ると、彼女の背中には翼が生え、背後には鎖が巻きついた尻尾が見えるところみると、彼女も何かの魔物なのだろう。
「ふぁい?」
私は、口にホットドックを頬張ったままそう答えた。
「いえ、貴方から少々この世界でないモノの気配がしたもので。」
「!」
その言葉を聞き、私は父の先祖が探していたモノが“この世のものならぬ魔剣”だという言葉を思い出していた。
この女性は何者なのだろうか?私を何かの罠にハメルつもりなのだろうか?
だが、この街に来て何も収穫が無いまま3日が過ぎようとしている私にとっては、たとえ罠であろうとも、彼女の話を聞いてみることにした。
「何故、その様な事を?」
「私は、エレリーナ。異世界に関する物事に興味がありまして、そういった知識を研究しているものです。そういった研究をしていると、この世界のものでない気配というものを、感じ取れるようになるものですよ。そこ、よろしいかしら?」
「ど、どうぞ」
私の返事を聞くと、エレリーナは手にもった本をテーブルの上に置くと、テーブルを挟んで私の反対側の席に座った。
「これから、この“異世界の知識”に関する本を図書館に返しに行こうと思ってましたの。今日は、探しモノをしていて、うっかり返却日を過ぎるところでしたわ。で、図書館に向かう途中に、先日図書館で見かけた貴方を見つけたものでした。」
そこで彼女が持っていた本を見てみる。
彼女は異世界の知識の本だと言うが、表紙はこの世界の言葉のようだ。見てみると、『ネクロノミコン』『ドール賛歌』『屍食教典儀』なんてものが見て取れる。
「この本は、あの図書館でも一部の人しか入れない場所にある、けっこう危険な本なのですのよ。あまり、安易に手を出さない方が身のためですわ。」
あの図書館にはそんな場所があったのか・・・。てか、もし私の求める情報が、そんな場所にあったのならお手上げではないか。
「はあぁぁぁ・・・」
私は思いっきりため息をついてしまった。
「どうしました?」
「私はルシィナと言う者ですが、実は・・・」
結局、私はため息ついでに彼女に身の上話をしてしまった。
すると彼女は目を輝かせながら、こう言ってきた。
「なら、ぜひ次の機会にでも、その剣モドキを見せていただけませんか?」
「ええ・・・」
そんな会話していると、その場を通りがかった母親と手を繋いだ子供が、私の前にいた女性を見つけた。
「ああ、エレリーナのお姉ちゃんだ〜。」
「あら、こんにちは。」
「こんにちは〜」
そう言って、手を振りながら母親と共にそこを立ち去って行く。
「子供が好きなんですね。」
「ええ」
そう言って、エレリーナは話始めた。
「ダークプリーストの大半は、気にいった男性を見つけるとパンデモニウムに引き篭もってしまいますが、パンデモニウムは男との永遠の愛を続けるために時間が歪んでいます。しかし、そのせいで仮にお腹に子供を宿すことができても、胎内で子供が成長することは無く、決して産むことはできないのです。子供を持てるダークプリーストというのは、パンデモニウムに行かない、変わり者だけなのですよ。」
そうか、彼女はダークプリーストだったのか。と、今更気付いた。だって、昼間から堂々としていたものだから。
「ですから、私にとって子供というのは、とても大切な存在なのです。たとえ、種族が違ってもね。」
すると、今度は別の子供が彼女にむかって走ってきた。
「こんにちは。エレリーナお姉ちゃん。」
今度は、ラミアやハーピーといった子供達だけのグループのようだ。
「こんにちは。あら、今日は貴方達だけなの?」
「うん。そうだよ。」
そう元気よく答える子供達であったが、対するエレリーナはどこか思いつめた表情だった。
「ん〜。今朝あんな事件が起こったばかりだから、あまり遅くまで遊んじゃダメよ。事件が解決するまでは、パパやママに心配かけないようにね。」
「「「「は〜〜い」」」
そう言って、子供達は立ち去っていった。
「あんな事件?」
「ええ」
エレリーナはどこか暗い表情で話はじめた。
「この街のはずれにある孤児院に、昨日の夜中に賊が押し入ったようなのです。そして、孤児院の先生方を含めて子供達がみな殺されてしまったのです。」
なるほど、今朝から街の様子がどこか変わっていたのはこのためだったのか。どうりで、街の警備が厳重なはずだ。
「そして、孤児院にいた一人の少女。名前はジェリスと言うのですが、彼女の遺体が孤児院に無かったことから、もしかしたら彼女は生き残っているかもしれないと。もしかしたら、彼女は事件を目撃しているかもしれないと、街の人達が今必死に彼女を探しているようです。」
「ひょっとして、貴方が探していた探しモノというは、そのジェリスという少女を探して?」
「ええ」
だから、今日は図書館で彼女の視線を感じなかったのか。
「この一件が片付いたら、よろしければ貴方のお手伝いをしてもよろしいかしら?」
「え?いいんですか?」
「ええ。私としても、もし貴方の求める魔剣が異世界の物でしたなら、新たな発見があるかもしれませんし。」
その後、私が寝泊まりしている宿の1階の食堂で、夜に待ち合わせる約束をし、それぞれ分かれて行った。私は引き続き図書館へ、エレリーナさんは行方不明の少女を探して。
で、私の方はというと、結局収穫は無かった。やっぱり、重要な情報はエレリーナさんの言うように、一般の人が入れないような場所にあるのだろうか・・・。
その日の夜。
私とエレリーナさんは、私が寝泊まりしている宿屋の1階にある食堂で、遅い夜食を取っていた。
「そちらも、何も収穫はありませんでしたか。」
「はい・・・。って、“そちらも”?」
「ええ、こっちもジェリスちゃんの手がかりはまったく。明日になれば、占術の得意な知人がこの街に戻ってくるのですが・・・、それに頼るしかないのでしょうか?」
「・・・」
「・・・」
二人そろってため息をついてしまった・・・。
するとそこに、街の警備兵らしき人が2人ほど店に入ってきた。そう思ったのは、一人がいつも私を顔パスで街にいれてくれる門番だったからだ。
「すみません、ここに袋を担いだ3人組の男達が来ませんでしたか?」
「いいえ、来ませんでしたけども。」
そう私が言うと、警備兵はエレリーナさんの方を見た。
「私も見ておりませんが。」
「そうですか。」
警備兵が出て行こうとしたので、私はすかさず彼らに聞いてみた・
「何かあったのですか?」
しばし、彼は考え私には話してもいいと思ったのだろう、何があったのか話てくれた。それによると・・・。
「はい、先ほど連絡が入ったのですが、深夜の孤児院襲撃事件で街を警戒していたとろ。街のはずれの城壁で、仲間の警備兵が袋を城壁から外に持ち出そうとしていた不審な3人組を発見し、何をしているか問いただそうとしたところ、その3人組が突如仲間の警備兵に襲いかかったとの報告を受けたのです。」
「!」
この状況下で、ずいぶんと大胆な事をする輩がいたものだと、私は思った。もし、その3人組が孤児院を襲撃した犯人なら、もっと警備が手薄になる時期を見計らう様なものだが、なにか急ぎの用事でもあったのだろうか。にしても、その袋というのが気になる。もしかすると・・・。
ちらりとエレリーナさんの方を見ると、どうやら彼女も同じ考えのようだ。
「現在、数名の警備兵が負傷しており、目下逃走した不審者を探索中であります。」
もし、袋の中身が彼らの本来の目的で、孤児院の出来事は目撃者を消すために行われたのだとしたら。彼らが、警戒下でムチャな行動に出たのもうなずける。
「つまり、彼らはまだこの街にいると?」
そうエレリーナさんが言うと。
「はい、なのでできるだけ建物から出ないようにして下さい。では。」
そう言って、警備兵は食堂から出て行った。
それを聞いていた、食堂の親父さんは慌てて宿屋の入り口を閉めようとする。それを見たエレリーナさんは。
「まって下さい。私もすぐ出て行きます。」
「あんたも聞いただろ、外は危険だ。」
「それは分かっています。でも、私は行かなくては。」
そう言うエレリーナさんに対し、私は・・・。
「待って!」
「止めないで下さい、ルシィラさん。」
「いえ。私も行きます。1人より2人の方がいいでしょ!」
「え?」
「その代わり、事がすんだらさっそく私の手伝いをしてもらうわよ。」
そう言って、私は片目をつぶって見せた。
「だから、準備をしたいから少し待って。それに、人探しにいい物もあるし。」
「?」
そう言って、私は急いで2階へ駆け上がった。
部屋に入って、大急ぎで鎧を着て、鞘に入った愛用の両手剣を背中にかける。あの、剣モドキは役に立つか分からないのでお留守番だ。
「っと、忘れるとこだった。」
そう言って、私は妹からもらった袋を漁る。
たしか、ここに・・・、あった。
それを持って、大急ぎで1階に戻る。よかった、エレリーナさんは、私を待ってくれていたようだ。そのエレリーナさんに、私は袋から出した物を渡す。
「これは?」
「妹が餞別にくれたマジックアイテムの一つ。」
それは、コンパスから磁石の部分を取り外し、それにキーホルダーの鎖と輪を付けた様な物だった。
「この輪を指につけて、探したい人を念じるの。すると、その人のいる大まかな方角をしめしてくれるわ。有効範囲はそれ程広くないけど、この街で探すなら十分なはずよ。私は、ジュリスちゃんを知らないから、貴方が使って。」
「分かりました。」
そして、私達は宿屋を出た。宿屋の親父さんは、私達が出るまで入り口を閉めるのを待ってくれたが、さすがに待ってはくれないだろう。出てしまった以上、次に宿屋に入るのはどのみち明日の朝行こうだ。
「では。」
そう言って、エレリーナさんは輪を指にはめ、掌を下側に向け鎖と針を垂らすと、さっそく件の少女のことを念じ始めたようだ。
すると、鎖の先の針がかすかに震えたと思うと。ある方向を刺し、そのまま動かなくなる。ためしに、エレリーナさんがその針を使った手を振ってみても、針の向く方角は変わらなかった。
「どうやらこっちのようですね。」
そう言ったあと、エレリーナさんは私のことをジト目で見つめた。
「どうして、最初にこれを貸してくれなかったのです?」
「あはははは・・・、ごめん、すかっり忘れてた・・・。」
すると、針の刺していた方角から、警備兵の笛の音が鳴り響く。どうやら、方角は合っているようだ。そうこうしているうちに、針の方角が微妙に変わっていく。どうやら、この針は思っている以上に、的確に方角を教えてくれるようだ。
私達はお互いに頷くと、針の示す方向に向かって走りだした。
はたして、私達の進んだ方角に、件のあやしい3人組がいた。
彼らの持っていた袋が、モゾモゾと動いている。おそらく、死体の見つからなかったジュリスという少女が捕えられているのだろう。
「そこまでよ。そこの怪しい者達。」
「もう見つかったか・・・、と、この街の警備兵じゃないな。」
そう言ってきたのは、両手にショートソードを持った男だ。残りの2人が袋をかかえているところを見ると、どうやらこいつが3人のリーダーのようだ。
「たしかに、街の警備兵ではないわ。でも、その袋を渡してもらうのには代わりないわ。」
「その袋の中に、孤児院の事件の生き残りがいるのは分かっています。さあ、はやく彼女を解放しなさい!」
エレリーナさんがそう言うと、その男がこう返す。
「そいつは無理な相談だな〜。何しろ、これが俺達に与えられた任務だからな。」
「任務ですって?」
「詳しいことは知らん。知っているのは、こいつの祖父が教会の重要な秘密を知っていて、そいつをおびき寄せるエサにするんだと。」
「教会!」
その話に、エレリーナさんの目が見開かれる。
やれやれ、こんな連中が街に入り込んでいたなんて・・・。
そして、私は彼らの前に出ると。
「そんな情報を私にしゃべるところを見ると・・・。」
「そう、あんた等を生かしておくつもりは無いってことだ。」
そう男が言うと、残りの2人も袋を地面に置き、腰に刺した鞘から剣を抜く。すると、私の後ろで、エレリーナさんが何やら魔力を練り始める。
「ルシィラさん、1分だけ時間を稼いでください。」
「分かったわ。」
とにかく、私は彼女の言うとおり1分だけ時間を稼ぐために、背中に担いでいた両手剣を鞘から抜き出す。
考えてみれば、これが私にとって産まれて初めての実戦だ。
てか、初戦の相手が教会の暗部で、しかも3人ですか・・・。父上、母上、エスタラニィ、もしからしたら呪いの前にここで死ぬかもしれません。でも、ここで挫ける訳には行かない。
とにかく、ここは1分の時間を稼いで、彼女に掛けてみよう。
私は、剣を上段に構えると、そのまま男達にむかって突っ込んで行く。そして、リーダーと思われる男に向かって剣を振り下ろした。
「いややあああぁぁぁ」
その男は後方に下がることで私の剣をやりすごす。そして、脇にいた男と2人で手にもった剣で突きを繰り出しくる。
私はその2人の突きを、体を真半身にして避けると、そのまま体を回転させ、私を通りこして後ろのエレリーナさんに向かおうとしていた男に向かい、その進路を塞ぐようにサイドスィングを繰り出す。
その斬撃を、男はしゃがんで避けるも、そのまま繰り出した私の蹴りをまともに食らい、2人の男の方に飛ばされる。
これで一人目と思った矢先、飛来音と共に私に向かって凶器が飛んでくる。それを、私は剣を横に薙ぎることで、剣の腹を使い叩き落とす。
「これが噂の黒鍵ってヤツかしら。」
よく見れば、蹴り飛ばした男もいつのまにか立ち上がり、こちらに向かって凶器を投げてくる。私は、真半身になり縦に持った剣の腹を男達に向けることで、剣を飛び道具を受ける盾がわりしながら、男達との距離をつめていく。
男達も、こちらに飛び道具を投げながら、徐々に接近してくる。どうやら、飛び道具で足止めして一気に襲いかかってくるつもりなのだろう。
ならば・・・。
そして、予測どおり彼らは、一斉に私に向かって突っ込んできた。
私は、彼らが私に一斉に襲いかかってくるタイミングを見計らい、自身の剣に闘気を込めて、思い切り地面に剣を叩きつける。
ドオオォォォ〜〜〜ン
私の周りに軽い小爆発が起こる。これは、自分の周りの敵を倒すための「爆裂波」と呼ばれる技だ。だが、何のペナルティも無い訳じゃない。武器を地面に叩きつける以上、連発すれば武器が持たなくなる。あまり多様することはできない。
一方、3人の男はというと。技を見きり、爆発の瞬間後方に飛びのき、技をやりすごしていた。
やはり、教会の暗部だけあって、そう簡単に一網打尽にしてはくれないか。すると、彼らの一人が予想外の行動に出てきた。
「ライトニングボルト【稲妻の矢】」
そう男が言葉を放つと同時に、男の腕から電撃が私に向かって走る。その電撃は、私の剣に命中し、私の体をつたい地面に流れて行く。
「っく」
私の体はつよいショックを受けて、よろけそうになりながらも、何とか体制を維持し、剣を手放すこともなかった。偉いぞ、私。
「ファイアボルト【火の矢】」
「フリーズボルト【冷気の矢】」
残りの2人の男も、接近戦は危険と感じたのか、魔法による遠距離戦に切り替えてくる。こいつら、そろいもそろって、飛び道具だけじゃなくて魔法も使えるのか。
なんとか、直撃を避けようと両手を剣の柄と腹に置き、剣で魔法を受けさせる。だが、魔法を使って来る2人は一斉に魔法を放つのではなく、交互に放つことで私をその場に足止めする。
ん?2人の魔法?では、残りの一人は?
そう思ったのもつかの間。
ザシュ
2人に気を取られている間に、残りの一人に接近を許し、右肩をザックリ斬られた。
「っぐ」
右肩にはいった傷のせいで、右腕に力が入らなくなり、両手で持っていた剣で防いでいた魔法の直撃を受けてしまう。
「きゃあ」
我ながら、情けない声を上げて吹き飛ばされる私。だが、今度はかなりやばかった。2人分の魔法の直撃を受けて、後方に飛ばされたうえ、壁に叩きつけられる。魔法のダメージ自体は、妹が作ってくれた護符である程度は軽減されるものの、それにも限度がある。
そんな私に向かって、先ほど私に一撃を入れた男が、余裕の表情で私に近寄ってくる。
「やれやれ、見れば見るほど、なかなか可愛いお譲ちゃんじゃないか。急ぎの用事がなければ、たっぷりと遊んで上げるのによ。」
「なぜだ、それほどの腕を持っているなら、少女を一人秘密裏に誘拐することなどたやすいはず。なぜ、孤児院の子供を皆殺しにする必要がある!」
「魔物共を粛清するのに、年齢は関係ないだけだ。」
「あの中には、人間の子供もいたはずなのだぞ!」
「魔物達と紛れて暮らしてしまった以上、もはや魔物達に汚されたも同じ。汚れた存在は粛清しなければならない。ましてや、少女の場合は魔物いる国にいる以上、将来魔物に変異させられる可能性がある。そんな、邪悪な芽を小さいうちに摘み取とっただけだ。」
男の言い分に怒りを覚えながら、今の会話で多少の体力は持ち直した私は、そのまま剣を構える。
だが、このまま魔法を受け続けたらじり貧になる。ここは多少のダメージを覚悟で、魔法を受けながらでも確実に攻撃を入れなければ。
私は、剣をやや下段に構え。そのまま彼らに向かって走り出す。
その私に、魔法が彼らの魔法が降り注ぐが、私は走るのを止める訳にはいかなかった。そして、彼らを剣の間合いに捕えると、剣を横に向けサイドスィングを繰り出す・・・。
と、見せかけて、そのまま一人の男に体当たりを食らわす。その男は、先ほど私のサイドスィングをしゃがんで避けた男だ。その男を標的にしたのは、先ほどのサイドスィングの印象がまだ残っており、それを警戒しているのではないかと思ったからだ。
思ったとおりサイドスィングを警戒し、フェイントにかかり私の体当たりが見事に決まる。そして、ぐらついた男の顔面に私は剣の柄頭を思いっきり叩き込んだ。
「ぐあ!」
そのまま、左手を剣から離し、その男の胸倉をつかむと・・・。もう一人の男に向かって、力任せに投げつける。
「ぐぺ!」
そのまま2人そろって壁に叩きつけられ、2人そろってのびてくれたようだ。
魔物である、デュラハンの腕力をなめてもらっては困る。たとえ、技は未熟でも力まかせにこれくらいの芸当はできる。
妹に今の場面を見られると、『あいかわらず、お姉ちゃんの戦い方はスマートじゃないんだから。』なんて言われそうだけど。
残りはあと一人。だが・・・。
私はまたしても、その男を見失ってしまった・・・。
背後に気配を感じ、警戒したが一瞬遅かったようだ。そのまま、左腕の前腕部分に鎧を貫いてショートソードが突き刺さる。
「うぐぅ。」
その突然の激痛に、深くにも私は剣を手放してしまった。そして、そのスキを逃すような男ではなかった。
ショートソードを突き刺された腕をかばっている間に、正面に回られ。逆手に持ったショートドードが、肩口から私の心臓目がけて振り下ろされる。
「しまっ・・・。」
だが、いつまでたってもその剣が私の体に到達する事はなかった。男は剣を持ったままかたまっている。そして、そのままバタリとその場に倒れる。
そんな私の耳に、彼女の声が聞こえてくる。
「ルシィラさん、もう大丈夫です。」
エレリーナさんはそう言うと、私のもとに歩いて来る。
「ダークプリーストと言っても、神官である以上回復魔法だって使えますよ。」
そいって、私の肩と腕の傷口に癒しの魔法をかける。
「エレリーナさん、いったい何を。」
そう私が尋ねると、彼女は無言で上を向く。私も、彼女に合わせて上を向くと・・・。
空を見ると、そこには馬の下半身をし、手に鎌を持ったナイトメアであろう少女が数人飛んでいた。
「彼女達を呼び寄せるのに、思ったより時間がかかってしまいました。私の力が高ければ、貴方も無用の怪我をなさらなくてもよかったのですが・・・。申し訳ありません・・・。」
「いいえ、おかげで助かりましたよ。」
そう言って、私は全身の緊張を解いていく。
「ナイトメということは、彼らは・・・?」
「ええ。文字通り、悪夢を見てもらっています。トラウマになる程のね。」
そう言って、彼女は笑みを浮かべる。
いや、さすがに今の笑みは私でも怖かったぞ。
「ちょっと失礼。」
そう言って、彼女は私の治療を中段して、彼らが持っていた袋の中身を確認する。私も覗き込んでみると、やはりそこには一人の少女が入っていた。
「うううん。」
どうやら、寝ているものの、別段怪我とかは無いようだ。
しばらくすると、騒ぎを聞きつけた街の警備兵が駆けつけてくる。彼らに事情を説明したあと、警備兵達はいまだに悪夢にうなされている男達を連行していった。う〜ん、やっぱりこういうときの顔パスって便利だな。
そして、私はエレリーナさんに尋ねた。
「しかし、これでよかったのですか?」
「ええ。彼らの処分はこの街の人達にまかせます。」
そう彼女の言葉を聞いた後、私は安堵感からか、そのまま気を失ってしまった・・・。
気がつくと、私は宿屋のベッドの上で目を覚ましていた。
どうやら、もう昼ごろのようだ。寝ている間にエレリーナさんが治療してくれたのだろう、肩と腕の傷はすっかり無くなっていた。
すると、それを見計らったように、部屋の扉が開きエレリーナさんが入ってくる。
「あら。気がつきましたか?」
「ええ、おかげ様で。」
「いきなり倒れたので、びっくりしましたわ。」
そう言って、私のそばに椅子も持ってきて腰かける。
「あははは・・・、面目ない。」
そう言った私に対して、彼女は真剣な眼差しで言ってきた。
「治療のかたわら、貴方が寝ている間に確認させていただきました。その首の後ろにあるのが、呪いの印なのですね。」
「ええ。」
そして、彼女は部屋の壁に立てかけてあるモノに目を止める。
「あれが、例の剣モドキなのですね。」
「はい。」
「以前お話したように、アレからはこの世界に無いものを感じます。アレが手がかりだと言うのでしたら、やはり貴方の求める魔剣というもの、この世界の物では無いのかもしれませんね。」
「かもしれません。ですが、だからと言って探すのをやめる訳には行きませんから。」
「ええ。ですから、一つ提案があります。」
「?」
「昨日申しておりました、占術の得意な私の知人に、魔剣のことを占ってもらってはいかがでしょうか?」
「いいんですか?」
「ええ、私が頼めば占ってくれるはずです。」
私はこの申し出に素直に応じることにした、とにかく今は少しでも情報が欲しいのだ。それが、どんなにおぼろげなものでも。
そして、その日の夕方。
私は、エレリーナさんの知人だという、魔女の占い師に会うことができた。その魔女に、剣モドキを渡すと彼女はこう切り出した。
「もし、その剣が貴方の探している物の手がかりならば、その探し物とは強い繋がりがあるものです。ですから、私の占術でその繋がりの糸を探ってみましょう。」
そう言って、彼女は剣を持つと目を閉じて集中しはじめた。
そうしてから30分程たったころだろうか。
彼女は、目を開いて言った。
「どうやら、ダスクハイムの中心付近ですね。」
「ダスクハイムか・・・。」
ダスクハイムの国。そこは、5年前突如として原因不明で魔界化した国だったはず。
「しかし・・・。」
「?」
「術を行ったとき、まるでその剣モドキが私に仲間の位置を教えてくれたような、気がしました。まるで、自らの意思をもっているかのように・・・。」
それから2日後、私はルーカストの街を旅立つことにした。魔女の占ってくれたダスクハイムの国を目指すためだ。
出発の日、エレリーナさんが城門まで送ってくれた。
「もう、お別れなんですね。」
「きっとまた会えますよ。」
「私もそんな気がします。私の直感ってよく当たるんですよ。」
そう言って彼女は笑顔を見せてくれた。
「それじゃ、私は引き続きこの街で魔剣のことを調べておきますね。」
「お願いします。何か分かったら、家族のいる屋敷に行って下さい。親から、定期的に手紙を寄こすように言われていますしね。」
私との約束通り、エレリーナさんがこの街の図書館で、魔剣に関する事を調べてくれることになった。
ちなみに、孤児院の生き残りであるジュリスちゃん。彼女は、訃報を聞きこの街にかけつけた、無くなった孤児院の院長さんの親戚である冒険者(たまたまこの近くにいたらしい)が引き取ることになった。例の教会の刺客の話が本当なら、彼女には祖父という肉親がいることになる。冒険者は、その祖父を探してみることにしたそうだ。
「では、私はこれで行きます。」
「ええ、行ってらっしゃい。」
そう言って、彼女は手を振って見送ってくれた。
なんだか、家族のもとを出たときと状況が似てるなと思った。
結局、この街には一週間と滞在しなかったのに、けっこう長い間いたような気がしていしまう。
そんな、後ろ髪を引かれるような思いを胸に、私はダスクハイムの国を目指し、ルーカストの街を旅立った。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
そこは、ルーカストの街のある国から、はるか離れた砂漠地帯。
その砂漠の中に、砂嵐に守られるかのように、荘厳な神殿が建っていた。その砂漠の神殿の中、もっとも奥の間で一人のアヌビスが椅子に深く座り、目を閉じて瞑想を行っている。
そして、アヌビスが瞑想から目覚めた。
「いかが神託が下されましたか、フシャルイム様。」
そう言ったのは、瞑想から目覚めたアヌビスに使えるスフィンクスである。
「今ふたたび、世界と世界をつなぐ門が緩みはじめ、その印が一人の者に現れた。」
「・・・」
アヌビスの言葉を、傍らのスフィンクスは一字一句もらさずパピルスの巻物に記して行く。
「4つに分かれし器がそろい、魂が器に舞い戻る好機が訪れようとしている。」
「・・・(カキカキ)」
「やがて、ここに印を持つ者が訪れるであろう。そして、我はその者に新たなる予言を示すであろう・・・。」
「・・・(カキカイ)。以上でございますか?」
「うむ」
それを聞いたスフィンクスは、巻物を持って部屋を出て行った。
スフィンクスが出て行ったあと、アヌビスは一人ため息をついた。
「また、この時が来たのか・・・。」
そう言って、アヌビスは再び目を閉じた。
11/01/28 15:19更新 / KのHF
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