素直じゃない蛇、過ぎる馬鹿
反魔物領より少し離れ、親魔物領よりも少し離れた所にある洞窟。
そんな洞窟の中佇む男が一人、その名をストーレ・トリアという。
早速だがこの男、実は動けない状態だ。
何故なら隣で呆れているメドゥーサ、ファリス・ピリーに出会ったから。
とは言っても、恐怖で動けないのでも無ければ足をくじいたりした訳でもない。
ならばどうして彼は動けない状況にあるのか。
それは至極簡単で・・馬鹿らしい理由だった。
時は数瞬前に遡る。
「さて・・今日は何を見つけることが出来る・・?」
いつものように装備を整え、洞窟探検に勤しんでいたストーレ。
彼はそれなりには腕の立つ冒険家で今は何でも屋を営んでおり、
かつては勇者だのともてはやされたこともある。
しかし彼の性格上、それも長くは続かなかった。
偏見に塗れた言い方をするならば、
そもそも勇者というのは反魔物国家から見た救いの主の事だ。
だがストーレは、少なくとも魔物と戦いたい訳ではなかった。
どちらかというと、交流する方だったのだ。
そのことで過去色々あったのだが・・ここでは割愛させていただこう。
さて、彼は洞窟を少し進んだ所で綺麗な石を見つけた。
と言っても、宝石と言えるような代物ではなく例えるなら・・そう。
子供が河原で大事に取っておくようなそんな石だ。
「よし・・これは良いものを拾ったな・・。」
彼はそれを持っていたポーチに入れると満足げに頷いた。
しかし次の瞬間・・ファリスに見つかってしまう。
彼女は住処を荒らされていると感じて寄ってきたのだが、
その様子を見るとつまらなそうに去って行こうとした。
別段敵意を感じた訳でもなく、
無闇に目を覗かせて固まらせる訳にもいかないから。
しかしストーレはまるで全身を雷が駆け巡ったような感覚を覚えた。
ファリスの事が気になって仕方がない。
(何という可憐な・・目を合わせることも無く去って行くのもいい・・)
・・そう、もうお解りだろう。
ストーレはファリスに、俗に言う一目惚れをしたのだ。
「待ってくれるか!」
突然掛けられる大声に、多少ビクッとしながらも止まる彼女。
その顔は不機嫌そうだった。
それもそうだろう、いきなり住処に入って来られた人間に呼び止められたのだ。
その不機嫌な顔を崩さず、目を合わせず言う彼女。
「・・何よ、用事かあるならさっさと言って欲しいんだけど?」
そして彼は用件を言った。
「何故・・君は私と目を合わせようとしない?
普通、目を合わせて話すものだろう?」
「アンタね・・見れば分かると思うけど、私はメドゥーサよ?
メドゥーサって種族は目を合わせると石化させるのよ。
だから、その・・無闇に石化なんてしたくないでしょ?ここまで言って・・」
なんとか嫌悪感を引きだし、返って貰おうとするファリス。
しかし、次に彼はとんでもない行動に出た。
「成程!君は私を石化させたくなかったのか・・
何という優しさだ・・だが、私に遠慮はいらない。
正直に言おう、私は君に一目惚れをした!故に石と化そうと構わない!」
なんとわざわざ彼女を下から覗きあげ・・そのまんま石と化したのだ!
「ちょ・・!!バッカじゃないの!?この男・・!
だ、大体一目惚れって・・わ、私に一目惚れって・・。」
彼の突然すぎる言葉に戸惑う彼女。
それもそうだろう。
あしらおうとした言葉の返しがそれなのだから。
「どうしよう・・解除出来るけど・・いやでも・・
あんなことまた言われたら恥ずかしいし・・
でも、解かなきゃ帰って貰えないわよね。
あ、解いたお礼に一つ頼んでみようかな・・。」
迷いに迷って結局解く事にした彼女。
制御できない訳ではなかったし・・それに嬉しかったからだ。
「おお、戻った!成程・・確かに、これは厄介ではあるな・・。
君の瞳を見続ける事が出来ないとは・・!」
戻った途端に、懲りた様子もなく項垂れる彼。
戻してもらって第一声がそれなのか、固まった事への恐怖は無かったのか、と呆れる。
しかしそんな態度を取っていても・・彼女は少しだけ、この馬鹿に興味を持ち始めていた。
「あの、あなたさ・・ここに、結構来たりしてるの?」
その真っ直ぐすぎる目と合わせないように、視線をずらしながらストーレに問う。
「ん?ああ、かなりの頻度で来ているな。
何せ、私は街で何でも屋をやっているし、
ここには綺麗な石や壊れた武具など役立つものが多いからなぁ・・。
反魔物領に近いと分かっていても、ついつい来てしまうんだ。」
ただそれだけなのに、表情をクルクルと変えて話す彼に
ファリスは不思議そうな顔をして訊いた。
「え・・武具はともかく、石なんてどんな風に使うのよ。
ここに落ちてる石は、湿ってて火打石になんてならないわよ?」
対して、そんなの決まっている、と答えるストーレ。
「必要とする者がいるんだ。
例えば・・そうだな、私にはよく分からない本があったとしよう。
実はそれはかなり強力な魔法書だった・・と仮定してみる。
すると、私にとっては読めもしない本だが、リッチやら魔女にとっては大事な物となる。
例えが極端すぎるかもしれないが、まぁそう言う事だ。」
確かに極端な例えだったが、理解は出来た。
「へ、へぇ・・変わった人がいるのね・・そんなもの欲しがるなんて。」
言うと、彼はそうでもない、と少しだけ穏やかな目になった。
初めて見る子供っぽくない目に、彼女は思わず見惚れてしまう。
「この石は・・街の子供たちが欲しがるんだ。
大人にとってはなんてことは無い物でも、彼らにとっては宝物となる。
そもそも金稼ぎが目標じゃないから、こういう物も店先に並べられるんだ。」
「子供達・・なるほどね。
確かに私も子供のころはそういう事してた気がする・・。
・・じゃなくって、一つ約束をして欲しいのよ!忘れかけてたけど!」
本当に忘れかけていた事を、今更になって言う彼女。
そんな彼女の様子を疑いもせず、彼は即答した。
「分かった!約束しよう、君が言うのであれば!」
これには彼女も絶句する。
普通約束の内容を訊いてから承諾の是非を考えるのに、
あろうことか、この男は訊く前に承諾したのだ。
(この男・・もしかして、馬鹿なんじゃ無いの・・?)
恐らく馬鹿である。
ともかく、彼女は気を取り直して要件を言った。
「えーっとね、魔力を遮断できる眼鏡を持ってきて欲しいのよ。
まぁ初対面の人に頼む事じゃないんだけど・・私ってこういう能力じゃない?
一応制御は出来るんだけど、気分が高まってくるとそれが緩くなって
ふと目を合わせると固まっちゃうって言う事があるの。
別にあなたはそれでも良いかもしれないけど、
ここに他の誰かが来た時それじゃ困るでしょ?
(あんたが来る度に固まられても、話す時間が少なくなっちゃうし・・)
う、うるさいわね!黙っててよ、アンタは私の髪なんだから!
と、とにかく、お願いするわ。
アンタが勝手に約束するって言ったんだから、ちゃんとやりなさいよ?」
思う限りに無理難題を押し付けてみた彼女。
これならば、果たすまでは時間がかかるか、不可能だろう。
そうすればこの心を乱す厄介な男とも話す時間が少なくて済む。
・・そう思っていたのだがストーレは表情を崩さなかった。
それどころか、もっと明るい顔をして答えたのだ。
「分かった!幸い、ゲイザーが営んでいる眼鏡屋があってな。
そこの店主の夫と友人なのだ、時間は少々かかるが果たせるぞ。
ではこうしては居られないな、急ではあるが失礼させてもらう!」
「あ、ちょ・・」
そう言って出口へ走り出すストーレ。
当初の目的ではこれで良かった・・はずなのだが彼女の心には寂しさが残っていた。
「まったく・・何なのよあの男・・勝手に来て勝手に帰って・・。
大体、一目惚れした・・!?普通、直接本人には言わないでしょ!?
やっぱり、あの男、馬鹿だわ・・!!」
芽生えだした気持ちに気付かないふりをして一人悪態をつくファリス。
しかし・・彼女自身がそれに気付かずには居られなかった。
「あたしあの人に惚れちゃったかも〜」
「いや〜明るくって良い男だったわね〜」
「確かに、素直じゃない私の気持ちを突き破ってくれそうな良い人だよね」
「そうそう、だっていうのにファリスちゃんは素直じゃなくてね〜」
「そういうアンタらだってあたしの一部じゃないの!!」
ついに堪え切れなくなり、頭上の井戸端会議に終止符を打つ。
この髪の蛇は彼女の一部、すなわち彼女だ。
だから彼女が恥ずかしいと思っている事や、
隠したい目を逸らしたいと思っていることも全てお見通し。
「まったく・・本当に何なのよ、あの男は・・。」
しかし、気付いてしまったものはもう隠せない。
彼女は分からないこの感情に惑いながら、とりあえず、眠ることにした。
・・ひそかに彼に会う時を楽しみにしながら。
====洞窟に何度か通って数日後=====
「ほらよ、ちょいと手間がかかったが、きちんと仕上げたぜ。
魔力を一切通さねぇ特別製の眼鏡だ・・。
いや〜苦労したぜ、しかもあいつこれ作ってる間不機嫌でよぉ・・。
ま、上手くやれよ。」
そう言って、眼鏡と共に袋を差し出す男。
ストーレが不思議に思って中身を聞くと、おまけだと返ってきた。
付け加えて、途中で開けんなよとも。
「では世話になったな、今度何かお返しをしよう。」
「へーへー期待してるぜ・・じゃ、そっちも頑張りな。」
別れを告げ足早に洞窟を目指し歩き始める。
しかし、その途中不穏な噂を耳にしてしまう。
どうやら教団の一味が洞窟へ向かったらしいのだ。
いやな予感が胸に広がり、その歩みをさらに速めるストーレ。
いつしかその歩みは、走りへと変わっていた。
「頼む・・違っていてくれ・・!」
走り続けて遂に洞窟へとついた彼。
だが彼の不安は消えはせず、むしろその大きさを増していた。
「静かすぎる・・それに3人程の足跡があるな・・。」
ここまでの物的証拠を前に、現実逃避するほど彼も馬鹿ではない。
慎重に、それでいて足早に奥へ進んでいく。
だが急にストーレは走り出した。
こんな声を聞いてしまったからだ。
「もう!こっちに来ないでって言ってるでしょ!さっさと帰ってよ!」
声のする方へ無我夢中で走る。
その足取りは、軽い怒気を帯びていた。
そのまま薄暗い中を走り続け・・ついに声の主、ファリスを見つける。
見ると周りの綺麗な石達は散れている。
そして彼女はというと、気丈に声を張り上げてはいるが目は閉じられ体は小刻みに震えていた。
その視線の先にある恐怖の源は・・3人の教団達だ。
彼らは得物を手にじりじりとファリスに歩み寄って行く。
「や・・やめてって・・!来ないでよぉ・・!!」
怯えたような彼女の声を訊いた瞬間、ストーレの中で何かが切れた。
(もはやこれまでだ・・!!堪忍袋の緒が切れた・・!!)
「そこまでだ!!それ以上ファリスに近寄ることは許さん!」
「な、何者・・ぐぅ!?」
叫びながらかなりのスピードで一人の懐に飛び込み拳を打ち付け、
その場の全ての視線が集まるのも構わず続けて、足払いを仕掛け転ばせる。
動きが止まった所に残りの二人が駆け付けた。
避けられない、と痛みに耐えるべく歯を食いしばるが、それは来なかった。
来るはずのそれが来ない事を疑問に思い、
振り向くとそこには金縛りにあったように二人が突っ立っている。
「な・・これは・・ファリス、君なのか!?」
訊きつつ彼女を見たが、依然彼女は震えていた。
どう見ても、能力を使える状態にはない。
そもそも、彼女の能力は石にする能力で、金縛りには出来ないはず。
(ならば一体誰が・・)
しかし、答えはすぐに出た。
「動かないで。
そこから動いたら、あなたも金縛りになっちゃうわよ?」
悪戯っぽい声に、視線を送るとそこにはエキドナが居る。
先程の発言から察するに、彼女が金縛りにしたらしい。
見ると転ばせた一人も指先一つ動かせなくなっていた。
(とはいえ・・動けないのは困る。
ファリスの不安を取り除いてやらねばならんのに・・!)
「どうすれば良い?」
訊くと彼女はこう言った。
「ん〜・・ちょっと待っててね・・あ、来た来た!」
なにが来たと言うのだろうか、と戸惑う彼だったがすぐに理解する。
と言うより、オーガ、ワーム、ミノタウロスの三種が来て理解しないでいるなど出来ない。
「お・・こいつ、連れ帰って良いのかい?
あんまり強くなさそうだけど・・ま、無理やりってのも楽しそうだ!」
「わ・・やめろぉぉー・・!!」
突然の事にストーレが呆然とする中、現れた三人は教団を連れ去って行く。
彼が動けたのはあのエキドナに再び話しかけられた時だった。
「・・もう動いていいわよ。
しっかし、あなたも無謀なことするわね?」
「無謀・・か。
確かに無謀だったかもしれないが、それよりもファリスの事が大事だった。」
言う彼にエキドナはふふっ、と笑いファリスを呼んできた。
彼女は落ち着いたようで、ゆっくりと這いストーレの近くに来る。
そして口を開こうとした時、エキドナが去って行く。
曰く、「お邪魔」みたいだから。
余計な事をとファリスは思わないでもなかったが、
同時に二人っきりにしてくれた事に感謝してもいた。
「・・ま、まぁ助けてもらったんだから礼は言うわ。
でも、いざとなったら固めればいいだけの話だったのよ?
だ・・だからあなたが来なくても、その・・えーと・・」
強がりたいと思う気持ちと感謝を伝えたい気持ちがごちゃ混ぜになり
彼女が上手く言葉に出来ないでいると、ストーレは笑って言った。
「良いさ、ファリスが無事だったならばどちらでも。
私にとって大事だったのはそれだけだからな。」
感謝の言葉も無かったというのに、そう言って見せた彼に彼女は閉口する。
この時だけは、この男が自分より大人に見えたからだ。
(何となく負けた気がする・・。)
しかしそんな彼女の様子を気にも留めず、彼は眼鏡を差し出した。
「これが友人に作ってもらった魔力を遮断する眼鏡だ。
と言っても、私が試したわけではないから本当か分からないが。」
「・・本当に、作れちゃったんだ・・。
じゃ、じゃあかけてみようかな・・。」
そう言って眼鏡をかける彼女。
彼はその様子を、じっくりと見つめていたが不意に立ち上がった。
「おお・・なんと・・!まるで、女神のようだ・・!
いや、普段も十分女神と呼んで差支えは無いがこちらも同じく素晴らしい!
何というべきか・・可愛くもあるのだがそれでいて大人びて見える。
それに・・おお、本当に君の視線を浴びても石と化さずに済むとは・・!
だがやはりこれでは眼鏡越しになってしまう・・そこだけが残念だな。」
畳みかけるように言う彼。
彼女はついて行けなかったがとりあえず彼の顔がどんどん近付いてきた事だけは分かった。
同時に、自分の事が可愛いと言ってくれていることも。
「ちょ、ちょっと顔!顔が近いってば!
あなたは恥ずかしくないかもしれないけど、私は恥ずかしいの!
別に、見るなとは言わないから少し離れてよ、もう!」
「む・・恥じらう君もまた良いのだがな・・。」
言いつつ、素直に引いてくれるストーレ。
そしてそういえば、ともう一つ袋を差し出した。
「これを着いたときに開けてくれ、と言われていたのだが・・。
一体何が入っているというのだろうな?」
「さぁ・・?ま、開けてみるわね・・っ・・!?」
「お・・おい、どう・・し・・」
開けた瞬間、二人は気を失った。
========ゲイザーの家====
「はぁっはぁっ・・ところでさぁ・・あの袋なんだ?」
「ん・・あれか、あれはな・・媚薬とかの詰め合わせだ・・。
正直なところ、お前が居てくれれば媚薬なんて俺達には要らないからな。
そういうことには奥手なあいつに丸投げしてやった。
ま、強力すぎて気絶するかも知んないけどな!さ、そろそろ六回戦いけるか?」
「ああ、お前となら、いくらでも・・何ならどっちが先に果てるかやる!?」
==================
ファリスが気がついたとき、彼女はストーレに押し倒されていた。
驚き払いのけようとするが、頭は不思議な事にそれを受け入れている。
理由はすぐに分かった。
袋の辺りから甘ったるい匂いが次々に溢れ出ているのだ。
その匂いを嗅いだせいで普段より・・そう、強がれなくなっている。
「も、もう・・何を・・」
「いや・・何というか、君を気付けば押し倒していた。
うん、ホントにそうとしか言えないのだ・・。」
そういう彼は自分でも困惑しているようだった。
彼女が眠っている間に行為まで至らなかったのは、
彼が素直であっても、弁える所は弁えている証拠だろう。
「と、とにかく君が嫌だと言うならば私は我慢し・・ファリス・・?」
躊躇するストーレの胸元に彼女は自らの顔を擦りつけた。
「あなたね・・ここまでやったなら、無理矢理にでもやっちゃえば良いのよ。
それに、あの薬のせいかも知れないけど・・
私はあなたにそうされるなら構わない、から。」
「・・君に、気を遣わせてしまったようだな。」
そう言って、彼はファリスを腕で包み込み胸元に抱えた。
ファリスはその温かさをじっくりと味わったかと思うと、
今度は彼女から彼の口を奪いに行く。
「あむ・・ん・・ん、はぁ・・ねぇ、あなたからは?」
「ん・・ああ、そうだな、ふ・・む、んぅ・・う・・」
最初は互いの唇の感触を楽しんで、そのうちに
どちらからともなく舌を入れ始めた。
自然と抱き合いながらそのまま口の中の唾液までもを味わっていたのだが、
我慢できなくなったのはやはりファリスだった。
「んむ・・むぅ・・ん・・はぁ・・ね、そろそろ・・こっちも・・
もうこんなになってるの・・あなたの、せいよ・・。」
そう言って自らの秘所を指す彼女。
その言葉の通り、そこはしっとりと湿っていた。
「分かった。
・・だが、これからする事に驚かないでくれよ?」
ストーレはおもむろに体を下げ彼女の秘所に顔を近づける。
そして、恐る恐るといった様子でそこを舐め始めた。
ゆっくりと舌が這う感触にファリスはビクッとなる。
「んっ・・!」「む・・大丈夫か?やめた方が・・。」
気遣う彼の頭を彼女は両手で押さえ、続けて、と頼んだ。
「・・分かった、ここからは流石に我慢など出来ないぞ・・!
ちゅ・・れろっ・・ん・・んっ・・れろれろ・・」
先程よりも速く、舌でそこを舐めたくるストーレ。
敏感なところを何度も何度も往復する柔らかくねっとりとした感覚。
そのうちファリスは強がるのも忘れ更なる快楽を欲しがった。
「は・・ぁっ!んっ、ひゃ・・!!スト・・レ―・・もっと・・。
・・ひああっ!?そこ、いぃ・・!!も、っと・・ぉぉ!!」
彼女の特に敏感なところ。
そこをストーレの舌が通る度に彼女の体はビクッと震えた。
しかしいくら体が震えても先程の言葉通り彼はそれを止めない。
それどころか、そこを重点的に責めてくる。
そんな事を「大好きな」彼にされて彼女が耐えられる訳は無かった。
「はぁっ!!も、もぅダメぇ・・っ!!ひ、やぁぁあああぁあ!!」
我慢し続けた快感は耐え切れなくなった瞬間に流れ込み、
瞬く間に彼女の意識を焼き切り白に染める。
そんな彼女の姿を見て、ついストーレは彼女の蛇の部分を抱き締めた。
「ファリス・・すまない。
つい、君がそんな反応をするのが可愛くて・・」
「は・・ぁ・・も、ぅ・・良いって・・言ってる、でしょ・・?
それより、あなたも・・もう我慢出来なさそうよ・・」
そう言ってストーレの膨らんだ股間に尻尾の先で触れ、微笑むファリス。
対してストーレも優しい笑みを浮かべた。
「・・実は私は我慢弱くてな。
出来れば、このまま君の膣に入れてしまいたいのだ。」
こんなときでも素直に話すのか、そう思った彼女だったが
その素直さが今は有難かった。
流れを作って貰えるし気分も高まり自分も素直になれるからだ。
もっとも今の彼女には、何故有難いかを考える余裕は無かったが。
「うん・・いいわ。
実を言うとね・・?私も、我慢できないの・・。」
未だ快感の残る体をくねくねと、出来る限り彼に魅力的に映るように動かし誘う。
それは功を奏したようで彼はファリスの胴体を覆うように体を動かした。
そして彼女の秘所にはち切れそうな欲望の象徴をあてがう。
そこから口を開こうとした瞬間、しかしその口から洩れてきたのは喘ぎだった。
ファリスが蛇体を彼の腰に回し、押し込んだためだ。
「ファ、ファリスっ・・?く、あぁ・・っ・・!なるほど・・っ、
確かに君も我慢は出来なさそうだな・・凄い、気持ち良いぞ・・」
「そう・・?でも、これから、もっと気持ち良くしてあげるわ・・。
ほら・・こんな風に、しちゃえば・・どう・・?」
そう言って、巻き付けた際に余った尻尾を彼の背に這わせる。
背中を走るぞわっという感覚に彼はたまらず身を震わせた。
「まだよ・・次はもっとあなたの目を見させて・・」
そこからさらに互いの首に回し、彼の顔を引き寄せる。
密着しそうなほどに近づいた彼の顔。
レンズ一枚、この有難くも恨めしい一枚を隔てての見つめ合いだ。
彼同様、レンズ一枚すらも邪魔に思えるほどストーレを感じていたかった。
「ねぇ・・あなたは、固まっても良いって言ったよね。
その言葉、いまでも・・変わらない・・?」
眼鏡越しに彼の真っ直ぐな瞳を覗き込み問う。
その問いに彼は初めて会った時となんら変わらない笑みを返し、
眼鏡を取ってくれた。
「当然だ、君の瞳を釘付けにしたって良い・・!!
むしろ私が釘付けなのだからな・・あっ!」
言い終わるかというタイミングで彼が顔を引き攣らせる。
彼の言葉が嬉しくなって、ファリスが無意識に膣内を締めたからだ。
「あっ・・ごめん、あなたの言葉が嬉しくっ・・てぇ!?」
「すまん、ファリスっ・・!もう我慢ならん!!」
そう言って少々乱暴に突き込んでくるストーレ。
ファリスは自分の中を膨れ上がった欲望が駆け巡るのを感じた。
「ふやぁっ・・!ちょ、ちょっと、激し・・はむぅ・・!!」
「ん・・んむぅ・・!!ふむぁ・・は・・」
それだけでなく、喘ぐ彼女の口を塞ぐ。
彼女は声すら出せぬこの状況で、全てを求められる快感に震えていた。
もっと、と彼女自身も彼を求め、蛇体を、人体を、全てを彼に絡めていく。
そして彼が腰を動かす度に、何ともいえぬ気持ち良さが駆け抜けた。
「っはぁ・・!!ね、ねえっ、もう、そろそろぉ・・!!」
「くっ・・凄いな、さらに・・強く、なってる・・!!」
「そ、それ・・あなたが、んっこんなにっ・・
気持ち良くするからぁ・・ふ、やぁ・・!!」
押し寄せる快楽の波に彼女はもう限界に限りなく近づいていた。
もう一押し・・それだけで自分は壊れるだろう、そう思っていた。
ここでストーレが腰を上げようとする。
恐らくは一気に突き直すつもりだったのだろうが、ファリスにはそれが逃げに思えた。
(あ・・だめぇ・・逃がさないんだから・・)
「ねぇ・・私の目を、瞳を・・見て・・?」
「む・・?何だ、今までも見ていただろう・・んっ!?」
体に起きた異変に気付いた様子のストーレ、だが気付いた所でもう遅い。
彼の体は次々と石に変じていく。
それが止まったのは、もう陰部と顔以外が石と化した時だった。
「駄目よ・・だめ・・もうこのまま、離さないからぁ・・
気持ち良く、私と一緒に、気持ち良くぅ・・」
半ば固定されたペニスを、奥に奥にと運んでいく。
そのまま自分で動き、高まって行くが・・足りない、と彼女は感じていた。
何が、とは言えないが何かが圧倒的に足りないのだ。
その足りない何かのせいで、高まる体は絶頂へとは至らなかった。
(イきたい、のにっ・・なんでよ・・なんでイけないの・・っ?)
「もう・・私の馬鹿・・そんなんだから、いけないのよ・・」
一方頭の蛇は、石化した彼の体へと這い寄りつつ不平をこぼした。
もはや軽く涙目になっている彼女に、ストーレが口を動かす。
その体は石化していたはずだが、いつの間にか平素の肌へと戻っていた。
「ファリス・・良いのだ、ファリス。無理をしなくて良い・・。」
優しく告げ、動き始める彼。
動き自体は先程の彼女と変わらないはずなのに、快感は段違いだった。
同時に足りなかったものを悟る。
彼が自分をこれ以上無いほどに欲してくれる事、そして包み込んでくれる事だった。
「ひやっ・・さっきはっ、ごめ、ひああぁぁ・・!!」
「構わないと・・っ!言っているだろう・・あっ、く、ふふ・・
それにしても、はぁっ・・君は心配性っなんだな・・
私は、離れたりなど、んっ、するものか・・!
だから・・なっ・・君は、気持ち良くなることだけ、考えてくれ・・っ」
そう言ってさらに体を密着させてくるストーレ。
その状態のまま、何度も何度も突かれる。
一回、また一回とそうされる度に、ファリスは思考が塗り潰されていくのを
感じていた。
理性などという、心を縛りつける下らないものを放り投げ体が限界を訴えるのも構わず腰を振り続け・・ついに、待望の時は来た。
「あっあっ、は、あっ、イ、イクぅっ!ストーレぇっ!
わたひっ、トンでっちゃうよぉぉぉおっ!!んはぁあああああっ!!」
はしたない声を張り上げ、体を震わせる彼女を彼はしっかりと抱きとめる。
「だいっ、じょうぶだっ、君はぁっ、私がっ、抱き締めているからっ!!
だからっ・・んっ!!んぁ・・!!くああああ・・・・っ!!」
そして彼も同様に絶頂へと至り、彼女の膣へと精を吐きだした。
ドクドクと自分の中に彼の精が、愛が流れ込んでくるのを感じながら
彼女は意識を手放す。
あまりに酷使された体が、ビクビクと揺れる。
その体を両の腕でしっかりと抱きしめ、ストーレもまた意識を手放していた。
=====翌朝=====
いつの間にか横たえていた藁のベッドから体を起こす。
「ん・・あれ・・?もう、朝なの・・。
あ、そうだストーレ・・ストーレ・・?」
「ん・・おお、やっと起きたか。
君の寝顔は実に可憐でまさに眠り姫というのが似合っていた。
だが、起きぬけの寝惚けた君もなかなかに無防備で可愛らしいものだ。」
不安そうに自らの恋人の名を呼ぶと、洞窟の奥からやってくる。
恥ずかしい台詞を恥ずかしがる様子も見せず言いながらだ。
その言葉達に、つい顔を赤くし俯いてしまう。
「もう・・そういうことばっかり言って。」
「ふふ、その恥じらう顔もそれはそれで良いものだぞ。
ああ、そうそう・・言いたい事があったんだ。
唐突かもしれないが、君さえよければ私が住んでいる街に越さないか?
まぁ、君が無理だというのなら私が越せばいいだけなのだが。」
にやけた顔を崩さずそう訊くストーレ。
ファリスはほとんど反射的に答えていた。
「あなたの所に行くに決まってるじゃない。
大体、こんな事をしておきながら、
たまにしか会いに来ないなんて許さないんだから。
・・それに、あなたはこっちに住んだら色々と不都合があるでしょ?」
すると、彼は顔面一杯に喜びを滲ませ彼女に歩み寄り抱き締めた。
「ありがとう、とても嬉しいぞ!君がそこまで私を気遣ってくれるとは!
それでは早速、準備を・・」
言って離れようとする彼の目をファリスは覗き込む。
瞬間、魔力が流れ込み彼の足だけが石と化し、自然とストーレは座り込んだ。
「もう、そんなに急がなくたって良いでしょ・・?
こうやって、抱き合ってゆっくりしてからでも・・。」
「・・そうだな。
私も急いで準備するより、そちらの方が良い・・。」
言って、ファリスを今度は胸元に抱きよせるストーレ。
ファリスは頭を彼に預け目を閉じた。
そのままじっとしていたが、不意に口を開く。
「ねぇ・・ストーレ?あなた、私に一目惚れしたって言ったわよね。」
「ああ、それがどうかしたか?」
頭を擦りつけつつ言う。
「私もね・・考えてみたら、あなたに一目惚れしてたみたい。」
何故言ったかは分からないが、何となく言いたくなった言葉。
それを受け止め、彼はあの時と変わらない笑顔を浮かべた。
「そうか・・ふふ、君は本当に素直じゃないな。」
「あなただって、素直すぎるとか、馬鹿だとか言われてるわよ、きっと。」
そう言って微笑み合う二人。
その周りには、これまたあの時と同じ石達が転がっている。
しかし、ファリスにはそれがあの時より、綺麗に見えていた。
そんな洞窟の中佇む男が一人、その名をストーレ・トリアという。
早速だがこの男、実は動けない状態だ。
何故なら隣で呆れているメドゥーサ、ファリス・ピリーに出会ったから。
とは言っても、恐怖で動けないのでも無ければ足をくじいたりした訳でもない。
ならばどうして彼は動けない状況にあるのか。
それは至極簡単で・・馬鹿らしい理由だった。
時は数瞬前に遡る。
「さて・・今日は何を見つけることが出来る・・?」
いつものように装備を整え、洞窟探検に勤しんでいたストーレ。
彼はそれなりには腕の立つ冒険家で今は何でも屋を営んでおり、
かつては勇者だのともてはやされたこともある。
しかし彼の性格上、それも長くは続かなかった。
偏見に塗れた言い方をするならば、
そもそも勇者というのは反魔物国家から見た救いの主の事だ。
だがストーレは、少なくとも魔物と戦いたい訳ではなかった。
どちらかというと、交流する方だったのだ。
そのことで過去色々あったのだが・・ここでは割愛させていただこう。
さて、彼は洞窟を少し進んだ所で綺麗な石を見つけた。
と言っても、宝石と言えるような代物ではなく例えるなら・・そう。
子供が河原で大事に取っておくようなそんな石だ。
「よし・・これは良いものを拾ったな・・。」
彼はそれを持っていたポーチに入れると満足げに頷いた。
しかし次の瞬間・・ファリスに見つかってしまう。
彼女は住処を荒らされていると感じて寄ってきたのだが、
その様子を見るとつまらなそうに去って行こうとした。
別段敵意を感じた訳でもなく、
無闇に目を覗かせて固まらせる訳にもいかないから。
しかしストーレはまるで全身を雷が駆け巡ったような感覚を覚えた。
ファリスの事が気になって仕方がない。
(何という可憐な・・目を合わせることも無く去って行くのもいい・・)
・・そう、もうお解りだろう。
ストーレはファリスに、俗に言う一目惚れをしたのだ。
「待ってくれるか!」
突然掛けられる大声に、多少ビクッとしながらも止まる彼女。
その顔は不機嫌そうだった。
それもそうだろう、いきなり住処に入って来られた人間に呼び止められたのだ。
その不機嫌な顔を崩さず、目を合わせず言う彼女。
「・・何よ、用事かあるならさっさと言って欲しいんだけど?」
そして彼は用件を言った。
「何故・・君は私と目を合わせようとしない?
普通、目を合わせて話すものだろう?」
「アンタね・・見れば分かると思うけど、私はメドゥーサよ?
メドゥーサって種族は目を合わせると石化させるのよ。
だから、その・・無闇に石化なんてしたくないでしょ?ここまで言って・・」
なんとか嫌悪感を引きだし、返って貰おうとするファリス。
しかし、次に彼はとんでもない行動に出た。
「成程!君は私を石化させたくなかったのか・・
何という優しさだ・・だが、私に遠慮はいらない。
正直に言おう、私は君に一目惚れをした!故に石と化そうと構わない!」
なんとわざわざ彼女を下から覗きあげ・・そのまんま石と化したのだ!
「ちょ・・!!バッカじゃないの!?この男・・!
だ、大体一目惚れって・・わ、私に一目惚れって・・。」
彼の突然すぎる言葉に戸惑う彼女。
それもそうだろう。
あしらおうとした言葉の返しがそれなのだから。
「どうしよう・・解除出来るけど・・いやでも・・
あんなことまた言われたら恥ずかしいし・・
でも、解かなきゃ帰って貰えないわよね。
あ、解いたお礼に一つ頼んでみようかな・・。」
迷いに迷って結局解く事にした彼女。
制御できない訳ではなかったし・・それに嬉しかったからだ。
「おお、戻った!成程・・確かに、これは厄介ではあるな・・。
君の瞳を見続ける事が出来ないとは・・!」
戻った途端に、懲りた様子もなく項垂れる彼。
戻してもらって第一声がそれなのか、固まった事への恐怖は無かったのか、と呆れる。
しかしそんな態度を取っていても・・彼女は少しだけ、この馬鹿に興味を持ち始めていた。
「あの、あなたさ・・ここに、結構来たりしてるの?」
その真っ直ぐすぎる目と合わせないように、視線をずらしながらストーレに問う。
「ん?ああ、かなりの頻度で来ているな。
何せ、私は街で何でも屋をやっているし、
ここには綺麗な石や壊れた武具など役立つものが多いからなぁ・・。
反魔物領に近いと分かっていても、ついつい来てしまうんだ。」
ただそれだけなのに、表情をクルクルと変えて話す彼に
ファリスは不思議そうな顔をして訊いた。
「え・・武具はともかく、石なんてどんな風に使うのよ。
ここに落ちてる石は、湿ってて火打石になんてならないわよ?」
対して、そんなの決まっている、と答えるストーレ。
「必要とする者がいるんだ。
例えば・・そうだな、私にはよく分からない本があったとしよう。
実はそれはかなり強力な魔法書だった・・と仮定してみる。
すると、私にとっては読めもしない本だが、リッチやら魔女にとっては大事な物となる。
例えが極端すぎるかもしれないが、まぁそう言う事だ。」
確かに極端な例えだったが、理解は出来た。
「へ、へぇ・・変わった人がいるのね・・そんなもの欲しがるなんて。」
言うと、彼はそうでもない、と少しだけ穏やかな目になった。
初めて見る子供っぽくない目に、彼女は思わず見惚れてしまう。
「この石は・・街の子供たちが欲しがるんだ。
大人にとってはなんてことは無い物でも、彼らにとっては宝物となる。
そもそも金稼ぎが目標じゃないから、こういう物も店先に並べられるんだ。」
「子供達・・なるほどね。
確かに私も子供のころはそういう事してた気がする・・。
・・じゃなくって、一つ約束をして欲しいのよ!忘れかけてたけど!」
本当に忘れかけていた事を、今更になって言う彼女。
そんな彼女の様子を疑いもせず、彼は即答した。
「分かった!約束しよう、君が言うのであれば!」
これには彼女も絶句する。
普通約束の内容を訊いてから承諾の是非を考えるのに、
あろうことか、この男は訊く前に承諾したのだ。
(この男・・もしかして、馬鹿なんじゃ無いの・・?)
恐らく馬鹿である。
ともかく、彼女は気を取り直して要件を言った。
「えーっとね、魔力を遮断できる眼鏡を持ってきて欲しいのよ。
まぁ初対面の人に頼む事じゃないんだけど・・私ってこういう能力じゃない?
一応制御は出来るんだけど、気分が高まってくるとそれが緩くなって
ふと目を合わせると固まっちゃうって言う事があるの。
別にあなたはそれでも良いかもしれないけど、
ここに他の誰かが来た時それじゃ困るでしょ?
(あんたが来る度に固まられても、話す時間が少なくなっちゃうし・・)
う、うるさいわね!黙っててよ、アンタは私の髪なんだから!
と、とにかく、お願いするわ。
アンタが勝手に約束するって言ったんだから、ちゃんとやりなさいよ?」
思う限りに無理難題を押し付けてみた彼女。
これならば、果たすまでは時間がかかるか、不可能だろう。
そうすればこの心を乱す厄介な男とも話す時間が少なくて済む。
・・そう思っていたのだがストーレは表情を崩さなかった。
それどころか、もっと明るい顔をして答えたのだ。
「分かった!幸い、ゲイザーが営んでいる眼鏡屋があってな。
そこの店主の夫と友人なのだ、時間は少々かかるが果たせるぞ。
ではこうしては居られないな、急ではあるが失礼させてもらう!」
「あ、ちょ・・」
そう言って出口へ走り出すストーレ。
当初の目的ではこれで良かった・・はずなのだが彼女の心には寂しさが残っていた。
「まったく・・何なのよあの男・・勝手に来て勝手に帰って・・。
大体、一目惚れした・・!?普通、直接本人には言わないでしょ!?
やっぱり、あの男、馬鹿だわ・・!!」
芽生えだした気持ちに気付かないふりをして一人悪態をつくファリス。
しかし・・彼女自身がそれに気付かずには居られなかった。
「あたしあの人に惚れちゃったかも〜」
「いや〜明るくって良い男だったわね〜」
「確かに、素直じゃない私の気持ちを突き破ってくれそうな良い人だよね」
「そうそう、だっていうのにファリスちゃんは素直じゃなくてね〜」
「そういうアンタらだってあたしの一部じゃないの!!」
ついに堪え切れなくなり、頭上の井戸端会議に終止符を打つ。
この髪の蛇は彼女の一部、すなわち彼女だ。
だから彼女が恥ずかしいと思っている事や、
隠したい目を逸らしたいと思っていることも全てお見通し。
「まったく・・本当に何なのよ、あの男は・・。」
しかし、気付いてしまったものはもう隠せない。
彼女は分からないこの感情に惑いながら、とりあえず、眠ることにした。
・・ひそかに彼に会う時を楽しみにしながら。
====洞窟に何度か通って数日後=====
「ほらよ、ちょいと手間がかかったが、きちんと仕上げたぜ。
魔力を一切通さねぇ特別製の眼鏡だ・・。
いや〜苦労したぜ、しかもあいつこれ作ってる間不機嫌でよぉ・・。
ま、上手くやれよ。」
そう言って、眼鏡と共に袋を差し出す男。
ストーレが不思議に思って中身を聞くと、おまけだと返ってきた。
付け加えて、途中で開けんなよとも。
「では世話になったな、今度何かお返しをしよう。」
「へーへー期待してるぜ・・じゃ、そっちも頑張りな。」
別れを告げ足早に洞窟を目指し歩き始める。
しかし、その途中不穏な噂を耳にしてしまう。
どうやら教団の一味が洞窟へ向かったらしいのだ。
いやな予感が胸に広がり、その歩みをさらに速めるストーレ。
いつしかその歩みは、走りへと変わっていた。
「頼む・・違っていてくれ・・!」
走り続けて遂に洞窟へとついた彼。
だが彼の不安は消えはせず、むしろその大きさを増していた。
「静かすぎる・・それに3人程の足跡があるな・・。」
ここまでの物的証拠を前に、現実逃避するほど彼も馬鹿ではない。
慎重に、それでいて足早に奥へ進んでいく。
だが急にストーレは走り出した。
こんな声を聞いてしまったからだ。
「もう!こっちに来ないでって言ってるでしょ!さっさと帰ってよ!」
声のする方へ無我夢中で走る。
その足取りは、軽い怒気を帯びていた。
そのまま薄暗い中を走り続け・・ついに声の主、ファリスを見つける。
見ると周りの綺麗な石達は散れている。
そして彼女はというと、気丈に声を張り上げてはいるが目は閉じられ体は小刻みに震えていた。
その視線の先にある恐怖の源は・・3人の教団達だ。
彼らは得物を手にじりじりとファリスに歩み寄って行く。
「や・・やめてって・・!来ないでよぉ・・!!」
怯えたような彼女の声を訊いた瞬間、ストーレの中で何かが切れた。
(もはやこれまでだ・・!!堪忍袋の緒が切れた・・!!)
「そこまでだ!!それ以上ファリスに近寄ることは許さん!」
「な、何者・・ぐぅ!?」
叫びながらかなりのスピードで一人の懐に飛び込み拳を打ち付け、
その場の全ての視線が集まるのも構わず続けて、足払いを仕掛け転ばせる。
動きが止まった所に残りの二人が駆け付けた。
避けられない、と痛みに耐えるべく歯を食いしばるが、それは来なかった。
来るはずのそれが来ない事を疑問に思い、
振り向くとそこには金縛りにあったように二人が突っ立っている。
「な・・これは・・ファリス、君なのか!?」
訊きつつ彼女を見たが、依然彼女は震えていた。
どう見ても、能力を使える状態にはない。
そもそも、彼女の能力は石にする能力で、金縛りには出来ないはず。
(ならば一体誰が・・)
しかし、答えはすぐに出た。
「動かないで。
そこから動いたら、あなたも金縛りになっちゃうわよ?」
悪戯っぽい声に、視線を送るとそこにはエキドナが居る。
先程の発言から察するに、彼女が金縛りにしたらしい。
見ると転ばせた一人も指先一つ動かせなくなっていた。
(とはいえ・・動けないのは困る。
ファリスの不安を取り除いてやらねばならんのに・・!)
「どうすれば良い?」
訊くと彼女はこう言った。
「ん〜・・ちょっと待っててね・・あ、来た来た!」
なにが来たと言うのだろうか、と戸惑う彼だったがすぐに理解する。
と言うより、オーガ、ワーム、ミノタウロスの三種が来て理解しないでいるなど出来ない。
「お・・こいつ、連れ帰って良いのかい?
あんまり強くなさそうだけど・・ま、無理やりってのも楽しそうだ!」
「わ・・やめろぉぉー・・!!」
突然の事にストーレが呆然とする中、現れた三人は教団を連れ去って行く。
彼が動けたのはあのエキドナに再び話しかけられた時だった。
「・・もう動いていいわよ。
しっかし、あなたも無謀なことするわね?」
「無謀・・か。
確かに無謀だったかもしれないが、それよりもファリスの事が大事だった。」
言う彼にエキドナはふふっ、と笑いファリスを呼んできた。
彼女は落ち着いたようで、ゆっくりと這いストーレの近くに来る。
そして口を開こうとした時、エキドナが去って行く。
曰く、「お邪魔」みたいだから。
余計な事をとファリスは思わないでもなかったが、
同時に二人っきりにしてくれた事に感謝してもいた。
「・・ま、まぁ助けてもらったんだから礼は言うわ。
でも、いざとなったら固めればいいだけの話だったのよ?
だ・・だからあなたが来なくても、その・・えーと・・」
強がりたいと思う気持ちと感謝を伝えたい気持ちがごちゃ混ぜになり
彼女が上手く言葉に出来ないでいると、ストーレは笑って言った。
「良いさ、ファリスが無事だったならばどちらでも。
私にとって大事だったのはそれだけだからな。」
感謝の言葉も無かったというのに、そう言って見せた彼に彼女は閉口する。
この時だけは、この男が自分より大人に見えたからだ。
(何となく負けた気がする・・。)
しかしそんな彼女の様子を気にも留めず、彼は眼鏡を差し出した。
「これが友人に作ってもらった魔力を遮断する眼鏡だ。
と言っても、私が試したわけではないから本当か分からないが。」
「・・本当に、作れちゃったんだ・・。
じゃ、じゃあかけてみようかな・・。」
そう言って眼鏡をかける彼女。
彼はその様子を、じっくりと見つめていたが不意に立ち上がった。
「おお・・なんと・・!まるで、女神のようだ・・!
いや、普段も十分女神と呼んで差支えは無いがこちらも同じく素晴らしい!
何というべきか・・可愛くもあるのだがそれでいて大人びて見える。
それに・・おお、本当に君の視線を浴びても石と化さずに済むとは・・!
だがやはりこれでは眼鏡越しになってしまう・・そこだけが残念だな。」
畳みかけるように言う彼。
彼女はついて行けなかったがとりあえず彼の顔がどんどん近付いてきた事だけは分かった。
同時に、自分の事が可愛いと言ってくれていることも。
「ちょ、ちょっと顔!顔が近いってば!
あなたは恥ずかしくないかもしれないけど、私は恥ずかしいの!
別に、見るなとは言わないから少し離れてよ、もう!」
「む・・恥じらう君もまた良いのだがな・・。」
言いつつ、素直に引いてくれるストーレ。
そしてそういえば、ともう一つ袋を差し出した。
「これを着いたときに開けてくれ、と言われていたのだが・・。
一体何が入っているというのだろうな?」
「さぁ・・?ま、開けてみるわね・・っ・・!?」
「お・・おい、どう・・し・・」
開けた瞬間、二人は気を失った。
========ゲイザーの家====
「はぁっはぁっ・・ところでさぁ・・あの袋なんだ?」
「ん・・あれか、あれはな・・媚薬とかの詰め合わせだ・・。
正直なところ、お前が居てくれれば媚薬なんて俺達には要らないからな。
そういうことには奥手なあいつに丸投げしてやった。
ま、強力すぎて気絶するかも知んないけどな!さ、そろそろ六回戦いけるか?」
「ああ、お前となら、いくらでも・・何ならどっちが先に果てるかやる!?」
==================
ファリスが気がついたとき、彼女はストーレに押し倒されていた。
驚き払いのけようとするが、頭は不思議な事にそれを受け入れている。
理由はすぐに分かった。
袋の辺りから甘ったるい匂いが次々に溢れ出ているのだ。
その匂いを嗅いだせいで普段より・・そう、強がれなくなっている。
「も、もう・・何を・・」
「いや・・何というか、君を気付けば押し倒していた。
うん、ホントにそうとしか言えないのだ・・。」
そういう彼は自分でも困惑しているようだった。
彼女が眠っている間に行為まで至らなかったのは、
彼が素直であっても、弁える所は弁えている証拠だろう。
「と、とにかく君が嫌だと言うならば私は我慢し・・ファリス・・?」
躊躇するストーレの胸元に彼女は自らの顔を擦りつけた。
「あなたね・・ここまでやったなら、無理矢理にでもやっちゃえば良いのよ。
それに、あの薬のせいかも知れないけど・・
私はあなたにそうされるなら構わない、から。」
「・・君に、気を遣わせてしまったようだな。」
そう言って、彼はファリスを腕で包み込み胸元に抱えた。
ファリスはその温かさをじっくりと味わったかと思うと、
今度は彼女から彼の口を奪いに行く。
「あむ・・ん・・ん、はぁ・・ねぇ、あなたからは?」
「ん・・ああ、そうだな、ふ・・む、んぅ・・う・・」
最初は互いの唇の感触を楽しんで、そのうちに
どちらからともなく舌を入れ始めた。
自然と抱き合いながらそのまま口の中の唾液までもを味わっていたのだが、
我慢できなくなったのはやはりファリスだった。
「んむ・・むぅ・・ん・・はぁ・・ね、そろそろ・・こっちも・・
もうこんなになってるの・・あなたの、せいよ・・。」
そう言って自らの秘所を指す彼女。
その言葉の通り、そこはしっとりと湿っていた。
「分かった。
・・だが、これからする事に驚かないでくれよ?」
ストーレはおもむろに体を下げ彼女の秘所に顔を近づける。
そして、恐る恐るといった様子でそこを舐め始めた。
ゆっくりと舌が這う感触にファリスはビクッとなる。
「んっ・・!」「む・・大丈夫か?やめた方が・・。」
気遣う彼の頭を彼女は両手で押さえ、続けて、と頼んだ。
「・・分かった、ここからは流石に我慢など出来ないぞ・・!
ちゅ・・れろっ・・ん・・んっ・・れろれろ・・」
先程よりも速く、舌でそこを舐めたくるストーレ。
敏感なところを何度も何度も往復する柔らかくねっとりとした感覚。
そのうちファリスは強がるのも忘れ更なる快楽を欲しがった。
「は・・ぁっ!んっ、ひゃ・・!!スト・・レ―・・もっと・・。
・・ひああっ!?そこ、いぃ・・!!も、っと・・ぉぉ!!」
彼女の特に敏感なところ。
そこをストーレの舌が通る度に彼女の体はビクッと震えた。
しかしいくら体が震えても先程の言葉通り彼はそれを止めない。
それどころか、そこを重点的に責めてくる。
そんな事を「大好きな」彼にされて彼女が耐えられる訳は無かった。
「はぁっ!!も、もぅダメぇ・・っ!!ひ、やぁぁあああぁあ!!」
我慢し続けた快感は耐え切れなくなった瞬間に流れ込み、
瞬く間に彼女の意識を焼き切り白に染める。
そんな彼女の姿を見て、ついストーレは彼女の蛇の部分を抱き締めた。
「ファリス・・すまない。
つい、君がそんな反応をするのが可愛くて・・」
「は・・ぁ・・も、ぅ・・良いって・・言ってる、でしょ・・?
それより、あなたも・・もう我慢出来なさそうよ・・」
そう言ってストーレの膨らんだ股間に尻尾の先で触れ、微笑むファリス。
対してストーレも優しい笑みを浮かべた。
「・・実は私は我慢弱くてな。
出来れば、このまま君の膣に入れてしまいたいのだ。」
こんなときでも素直に話すのか、そう思った彼女だったが
その素直さが今は有難かった。
流れを作って貰えるし気分も高まり自分も素直になれるからだ。
もっとも今の彼女には、何故有難いかを考える余裕は無かったが。
「うん・・いいわ。
実を言うとね・・?私も、我慢できないの・・。」
未だ快感の残る体をくねくねと、出来る限り彼に魅力的に映るように動かし誘う。
それは功を奏したようで彼はファリスの胴体を覆うように体を動かした。
そして彼女の秘所にはち切れそうな欲望の象徴をあてがう。
そこから口を開こうとした瞬間、しかしその口から洩れてきたのは喘ぎだった。
ファリスが蛇体を彼の腰に回し、押し込んだためだ。
「ファ、ファリスっ・・?く、あぁ・・っ・・!なるほど・・っ、
確かに君も我慢は出来なさそうだな・・凄い、気持ち良いぞ・・」
「そう・・?でも、これから、もっと気持ち良くしてあげるわ・・。
ほら・・こんな風に、しちゃえば・・どう・・?」
そう言って、巻き付けた際に余った尻尾を彼の背に這わせる。
背中を走るぞわっという感覚に彼はたまらず身を震わせた。
「まだよ・・次はもっとあなたの目を見させて・・」
そこからさらに互いの首に回し、彼の顔を引き寄せる。
密着しそうなほどに近づいた彼の顔。
レンズ一枚、この有難くも恨めしい一枚を隔てての見つめ合いだ。
彼同様、レンズ一枚すらも邪魔に思えるほどストーレを感じていたかった。
「ねぇ・・あなたは、固まっても良いって言ったよね。
その言葉、いまでも・・変わらない・・?」
眼鏡越しに彼の真っ直ぐな瞳を覗き込み問う。
その問いに彼は初めて会った時となんら変わらない笑みを返し、
眼鏡を取ってくれた。
「当然だ、君の瞳を釘付けにしたって良い・・!!
むしろ私が釘付けなのだからな・・あっ!」
言い終わるかというタイミングで彼が顔を引き攣らせる。
彼の言葉が嬉しくなって、ファリスが無意識に膣内を締めたからだ。
「あっ・・ごめん、あなたの言葉が嬉しくっ・・てぇ!?」
「すまん、ファリスっ・・!もう我慢ならん!!」
そう言って少々乱暴に突き込んでくるストーレ。
ファリスは自分の中を膨れ上がった欲望が駆け巡るのを感じた。
「ふやぁっ・・!ちょ、ちょっと、激し・・はむぅ・・!!」
「ん・・んむぅ・・!!ふむぁ・・は・・」
それだけでなく、喘ぐ彼女の口を塞ぐ。
彼女は声すら出せぬこの状況で、全てを求められる快感に震えていた。
もっと、と彼女自身も彼を求め、蛇体を、人体を、全てを彼に絡めていく。
そして彼が腰を動かす度に、何ともいえぬ気持ち良さが駆け抜けた。
「っはぁ・・!!ね、ねえっ、もう、そろそろぉ・・!!」
「くっ・・凄いな、さらに・・強く、なってる・・!!」
「そ、それ・・あなたが、んっこんなにっ・・
気持ち良くするからぁ・・ふ、やぁ・・!!」
押し寄せる快楽の波に彼女はもう限界に限りなく近づいていた。
もう一押し・・それだけで自分は壊れるだろう、そう思っていた。
ここでストーレが腰を上げようとする。
恐らくは一気に突き直すつもりだったのだろうが、ファリスにはそれが逃げに思えた。
(あ・・だめぇ・・逃がさないんだから・・)
「ねぇ・・私の目を、瞳を・・見て・・?」
「む・・?何だ、今までも見ていただろう・・んっ!?」
体に起きた異変に気付いた様子のストーレ、だが気付いた所でもう遅い。
彼の体は次々と石に変じていく。
それが止まったのは、もう陰部と顔以外が石と化した時だった。
「駄目よ・・だめ・・もうこのまま、離さないからぁ・・
気持ち良く、私と一緒に、気持ち良くぅ・・」
半ば固定されたペニスを、奥に奥にと運んでいく。
そのまま自分で動き、高まって行くが・・足りない、と彼女は感じていた。
何が、とは言えないが何かが圧倒的に足りないのだ。
その足りない何かのせいで、高まる体は絶頂へとは至らなかった。
(イきたい、のにっ・・なんでよ・・なんでイけないの・・っ?)
「もう・・私の馬鹿・・そんなんだから、いけないのよ・・」
一方頭の蛇は、石化した彼の体へと這い寄りつつ不平をこぼした。
もはや軽く涙目になっている彼女に、ストーレが口を動かす。
その体は石化していたはずだが、いつの間にか平素の肌へと戻っていた。
「ファリス・・良いのだ、ファリス。無理をしなくて良い・・。」
優しく告げ、動き始める彼。
動き自体は先程の彼女と変わらないはずなのに、快感は段違いだった。
同時に足りなかったものを悟る。
彼が自分をこれ以上無いほどに欲してくれる事、そして包み込んでくれる事だった。
「ひやっ・・さっきはっ、ごめ、ひああぁぁ・・!!」
「構わないと・・っ!言っているだろう・・あっ、く、ふふ・・
それにしても、はぁっ・・君は心配性っなんだな・・
私は、離れたりなど、んっ、するものか・・!
だから・・なっ・・君は、気持ち良くなることだけ、考えてくれ・・っ」
そう言ってさらに体を密着させてくるストーレ。
その状態のまま、何度も何度も突かれる。
一回、また一回とそうされる度に、ファリスは思考が塗り潰されていくのを
感じていた。
理性などという、心を縛りつける下らないものを放り投げ体が限界を訴えるのも構わず腰を振り続け・・ついに、待望の時は来た。
「あっあっ、は、あっ、イ、イクぅっ!ストーレぇっ!
わたひっ、トンでっちゃうよぉぉぉおっ!!んはぁあああああっ!!」
はしたない声を張り上げ、体を震わせる彼女を彼はしっかりと抱きとめる。
「だいっ、じょうぶだっ、君はぁっ、私がっ、抱き締めているからっ!!
だからっ・・んっ!!んぁ・・!!くああああ・・・・っ!!」
そして彼も同様に絶頂へと至り、彼女の膣へと精を吐きだした。
ドクドクと自分の中に彼の精が、愛が流れ込んでくるのを感じながら
彼女は意識を手放す。
あまりに酷使された体が、ビクビクと揺れる。
その体を両の腕でしっかりと抱きしめ、ストーレもまた意識を手放していた。
=====翌朝=====
いつの間にか横たえていた藁のベッドから体を起こす。
「ん・・あれ・・?もう、朝なの・・。
あ、そうだストーレ・・ストーレ・・?」
「ん・・おお、やっと起きたか。
君の寝顔は実に可憐でまさに眠り姫というのが似合っていた。
だが、起きぬけの寝惚けた君もなかなかに無防備で可愛らしいものだ。」
不安そうに自らの恋人の名を呼ぶと、洞窟の奥からやってくる。
恥ずかしい台詞を恥ずかしがる様子も見せず言いながらだ。
その言葉達に、つい顔を赤くし俯いてしまう。
「もう・・そういうことばっかり言って。」
「ふふ、その恥じらう顔もそれはそれで良いものだぞ。
ああ、そうそう・・言いたい事があったんだ。
唐突かもしれないが、君さえよければ私が住んでいる街に越さないか?
まぁ、君が無理だというのなら私が越せばいいだけなのだが。」
にやけた顔を崩さずそう訊くストーレ。
ファリスはほとんど反射的に答えていた。
「あなたの所に行くに決まってるじゃない。
大体、こんな事をしておきながら、
たまにしか会いに来ないなんて許さないんだから。
・・それに、あなたはこっちに住んだら色々と不都合があるでしょ?」
すると、彼は顔面一杯に喜びを滲ませ彼女に歩み寄り抱き締めた。
「ありがとう、とても嬉しいぞ!君がそこまで私を気遣ってくれるとは!
それでは早速、準備を・・」
言って離れようとする彼の目をファリスは覗き込む。
瞬間、魔力が流れ込み彼の足だけが石と化し、自然とストーレは座り込んだ。
「もう、そんなに急がなくたって良いでしょ・・?
こうやって、抱き合ってゆっくりしてからでも・・。」
「・・そうだな。
私も急いで準備するより、そちらの方が良い・・。」
言って、ファリスを今度は胸元に抱きよせるストーレ。
ファリスは頭を彼に預け目を閉じた。
そのままじっとしていたが、不意に口を開く。
「ねぇ・・ストーレ?あなた、私に一目惚れしたって言ったわよね。」
「ああ、それがどうかしたか?」
頭を擦りつけつつ言う。
「私もね・・考えてみたら、あなたに一目惚れしてたみたい。」
何故言ったかは分からないが、何となく言いたくなった言葉。
それを受け止め、彼はあの時と変わらない笑顔を浮かべた。
「そうか・・ふふ、君は本当に素直じゃないな。」
「あなただって、素直すぎるとか、馬鹿だとか言われてるわよ、きっと。」
そう言って微笑み合う二人。
その周りには、これまたあの時と同じ石達が転がっている。
しかし、ファリスにはそれがあの時より、綺麗に見えていた。
14/02/15 22:15更新 / GARU