デート,
「グロゥさん起きて下さい、ご飯出来てますよ。
ふふ・・昨日は言われちゃったからやり返してみました。」
目が覚めた時、目の前で微笑むミルナに言われる。
寝癖がついていたり、服が少々乱れている所を見ると
その一言を言う為に、わざわざ俺よりも早起きしたらしい。
どうやら昨日、俺に言われた事が不服だったようだ。
・・身長の割に、子供っぽいよな・・
そんな思いと共に体を起こす。
「おはよう、ミルナって早起き出来たんだな。」
「もう、昨日だって起こされたとはいえちゃんと起きました。
だから起きられないわけじゃないんですよ?」
「そうか、それは悪い事を言ったな。」
会話を交わしつつ食卓へと向かう。
朝食は昨日と同じく、焼きパンとミルクというシンプルなものだ。
食事の終わり際、ミルナが唐突に言った。
「グロゥさん、今日もしお仕事が早めに終わったら
二人で町を見て回りませんか?
もし・・グロゥさんが嫌じゃなければですけど・・」
「え?ああ・・うん。
もし、早めに終わったら、その時は一緒に行く。」
その答えを聞いた彼女はとても嬉しそうな顔で「はい!」と
元気よく返事をして牛乳を飲み干した。
・・あまり喋るほうでもない俺と一緒に行って楽しいのか・・?
そう思わないでも無かったが、言わずにおいた。
彼女の笑顔を曇らせるのは気が引けたし、それがデートという物の類に
入ることは俺でもわかったからだ。
俺自身、楽しそうだと思っていたからでもあるが。
朝食を食べ終わりエメラルダへと向かう。
今日の仕事は出来るだけ早く終わりそうな物がいいなと思いつつ
ナナキに話しかけたところ、予想外の言葉が返ってきた。
「あら、おはよう。
張り切ってるのに悪いんだけど・・今日、仕事はないわ。
正確に言うなら、さっきまで有ったってところね。
ゲーティアがさっき来て、友達と一緒にラストの一個を受けちゃったから。」
それは、普段ならば彼女の態度通り都合の悪いことだったが、
今日に限って言えばそれは当てはまらなかった。
無いなら無いで、ミルナと一緒に居られる時間が増えるからだ。
「そうか、無いなら仕方ないな、それじゃ!!」
「もう帰るの?お酒の一杯でも飲んで行けばいいのに・・」
名残惜しそうに行った彼女には「悪いな」と一言だけ返して家の方へ走る。
背後からは、「手間のかかる人達ね・・」とナナキが言うのが聞こえた。
恐らく、ギルド内で問題児でもいるのだろう。
家に帰りつきミルナのいる部屋へと歩いていく。
振り向いて俺を見た彼女の顔は、思った通り驚きの表情を浮かべていた。
「ただいまだ、ミルナ。
仕事なんだが、今日はもう無くなっていた。
だから、その分今朝の件、早く行って長く楽しめるぞ。」
だが俺がそう伝えると、いつものよく似合う笑顔になる。
「本当ですか!?嬉しいなぁ・・あ、準備して来ますね。
待たせちゃうかもしれないですけど・・」
そしてそう言いつつ、居間から出て行った。
何の気なしに、後姿を見ると尻尾が嬉しそうに揺れている。
牛が嬉しいとき尻尾を振るのかは知らないが、彼女の雰囲気は確かに楽しげだ。
ならば、そう考えて良いだろうと思うことにした。
「すいませ〜ん!お待たせしちゃいました?」
「いや、そんなには待っていない。むしろ早い位だ。」
駆け足で寄ってくる彼女にそう返す。
事実、俺の経験から言わせてもらえば(そんなに経験など無いが)
かなり早い部類だ。
彼女は俺の手を握りながら引っ張っていこうとする。
「じゃあ、行きましょうか。
私ずっと前から行きたかった場所が有ったんです!」
「・・?ならなんで前に行かなかったんだ?」
俺が返すと、彼女は少し不機嫌そうな顔になってしまった。
そして、何やらぶつぶつと呟いている。
「む〜・・グロゥさんって、意外と鈍いのかな・・」
「どうした?行くなら早く行かないと、時間無くなるぞ?」
「分かってます!さ、行きますよ!」
そう言って、俺の腕を引っ張って行く。
言葉は不機嫌そうだったが、顔を見たところ気分はそうでも無いらしい。
道中、ミルナがいつも行くというパン屋に寄った。
店名はファイア・ベーカリー、イグニスとその夫が経営する店だ。
「お、ミルナちゃん!誰だい、その良い男は!
あんたもついに彼氏を見つけたかい?」
「え、や、ち、違いますよ、フレアさん!
この人は・・えーと・・一緒に住んでるグロゥさんです!」
パン屋のイグニス、フレアとミルナが話している。
ミルナから教えてもらったのだが、このイグニスのパン屋、結構な人気らしい。
彼女曰くいつも来てるから、炎の赤には慣れ凶暴化もしなくなったという。
「一緒に!ほえ〜・・そりゃまたあんたも大胆なことするねぇ!
ってことは・・もうやっちまったかい?」
そう言われてなぜかミルナは真っ赤になった。
それはもう、自分の顔を見ただけで凶暴化しそうな程に。
「そ、そんな事できるわけないじゃないですかぁっ!
だ・・大体ですねッ、さっきも言ったようにグロゥさんは・・」
彼女がそう言おうとした時、奥から一人男が歩いてくる。
彼は話を聞いていたらしく、自然に会話に入ってきた。
「恋人じゃねえのか?
長い間贔屓にしてもらってるけど、おめえのそんな顔見んの初めてだぜ?
これまでフレアが何言ったって、そんな事無いですって、冷静に返してたじゃねえか。
それがこんなに慌てるとは・・」
「わーわー!!それ以上は言わないで下さいよ!」
・・随分と、賑やかな事だな・・
そんな感想を抱きながら無言でミルナの傍に立っていたのだが、
そんな俺にも話題は飛び火してきた。
「兄ちゃんよ、黙ってねえで会話に入ってきたらどうだい?
彼氏ってんなら彼女のピンチぐらい救ってやろうと思わないのかい、ええ?」
そう言うフレアは喧嘩腰のように見えたが、目を見ると穏やかに光っていた。
どうやら、これが彼女の普通の接し方らしい。
「ピンチのようには見えなかったからな。
それに・・ミルナの顔だって、赤くはなっているが笑っている。
まぁ、確かに会話の一つや二つくらいするべきだったな。」
「おお、彼氏の方は意外とクールなんだねぇ・・」
そう言って俺の目を覗き込んでくるフレア。
どうしたのだろうか・・と不思議に思っていると彼女は再び口を開いた。
「うんうん・・良い目だよ。
ちゃんと、ミルナを大事にしてくれそうな、守ってくれそうな・・ね。」
「まるで、ミルナの姉であるようなことを言うんだな。」
俺がつい口に出すと、彼女はフッと笑って言う。
「いや・・なんていうかさ?ミルナとは付き合い長くって。
ここに来るたびに、少し寂しそうな目をする訳よ。
その度にそんな寂しそうな目をしてんじゃないよって言うんだけど、
今日に限って凄く嬉しそうな顔をしてる。
だから、その何だ、あいつにとってあんたは少なくとも特別ではあるんだ。
へへ、これ以上は言わねぇよ?お節介になっちまうからね。」
「・・分かっている。
少なくとも・・俺もミルナの事は好きだし可愛いとも思うからな。」
「そうかい・・じゃあ、大事にしてやんなよ、良い子だからさ!」
言ってミルナの方へ話に行くフレア。
どうやら今日の昼食がどうとかという話にパンを売ろうとしているようだ。
「じゃあなお二人さん、仲良くやんなよ!」
「もう、フレアさん・・私達は大丈夫ですよ。」
「へへ、グロゥさんだったか?あんた、幸せになるぜ。」
「そうか・・それは楽しみにしておく。」
パン屋の二人に別れを告げ、再び歩き出す。
道中の休憩所で買ったパンを食べ、昼食とした。
しばらく歩いていると、大きな木の所に着く。
ミルナは俺に向き直ると、手を取り説明してくる。
「あ、ここです。
ここがグロゥさんと一緒に来たかった場所なんですよ!」
「この大きな木が・・?何か秘密でもあるのか?」
不思議に思い尋ねてみると答えは思ったより単純だった。
ミルナは赤くなり、もじもじしながら言う。
「え・・いや、その・・笑わないで下さいよ?
この木の下って日陰が涼しそうじゃないですか。
だから、ぐ、グロゥさんに膝枕してもらって寝たら気持ち良さそうだなぁって・・」
言いながらも、顔はどんどん俯いて行く。
どうやら俺があまり表情を変えなかったのが原因のようだ。
しかし言葉でそれを慰めるのはどうにも苦手なので行動で示すことにした。
彼女が言っていた通り、木の下に行き座る。
そしてミルナに向き直り自らの膝を叩き言った。
「・・ほら、来い。
やりたいと言うなら俺はその依頼を受けるから。」
素直に成り切れず、照れ隠しに依頼という言葉を使ってしまう。
だが彼女の顔はパァッ、と明るくなり歩み寄ってきた。
「グロゥさん・・!!では・・お言葉に甘えてっ、と・・うわぁ、気持ち良い・・」
「そうか、なら一応この依頼は成功で良いんだな・・」
「まだですよ・・枕は眠るときに要るんですから・・ふあぁ・・」
そしてそのままくたりと眠ってしまう。
起こそうとして肩を揺すったが半眼の彼女に見上げられてしまった。
「むぅ・・枕は寝てる人を起こしちゃいけないんです・・」
そしてまた眠る彼女。
その寝顔を眺めながら俺は自分自身について考えていた。
正直・・彼女がここまで気になってくるとは最初は思っていなかった。
適当に付き合ってしまえば良いと思っていたが・・
いつの間にか、ミルナの事を、好きになっていたようだ。
いや・・考えてみれば好きになったのは三日目からだ。
俺のために夜ご飯を作っておいてくれた。
この事は、俺の心に暖かな光を与えてくれたのだ。
であるならば・・彼女を守る事を生涯の依頼としても良いのではないか。
これを引き受けるのは勇気がいるが・・彼女からもしそう言われたら迷わず受け入れよう。
・・結局受け身の態度しかとれぬとは、情けないな・・
「う・・ん、あ・・おはようございます・・うん〜・・はぁ・・」
「・・ああ、おはよう、もう夜になりかけてるがな。」
考えを纏め上げ、ミルナを見守り数時間。
ようやく起きた彼女と一緒に夜の帰り道を歩いていた。
まだ少し寝惚けてはいるが、しっかりとした足取りである。
その途中、どうしても聞きたくなって聞いてしまった。
「なぁ・・ミルナ。
俺が、もしお前の事を襲ったとしたら、どうする?」
素直に好きか、などとは聞けなかったので、そんな事を口走ってしまった。
これは冗談だとしても性質が悪い。
「え?う〜ん・・どうでしょうね?でも、変なこと聞くんですね。」
しかし彼女からはあいまいな答えしか帰って来なかった。
どうにもはぐらかされた様な気分だが、嫌ってはいない事は分かる。
とりあえずそれが分かっただけでも良しとする事にした。
「いや・・なんでもない・・変な事を聞いて悪かったな。」
「ああ、大丈夫ですよ、気にしてないですから!」
それでも彼女は笑っている。
そこから先はずっと無言だった。
(素直な思いを伝えられたなら、どんなに良いだろうな・・)
家に帰り、ご飯を食べ風呂に入り、座ったソファで考えていた。
すると彼女が俺に体重を預けてくる。
どうした、と見るとその瞼は既にくっつきかけていた。
「ん・・あの・・グロゥさん。
このまま・・寝ちゃっても、良いですか・・?」
その声は心なしか、甘えるような声音だ。
これを断れる男など、そうそういないだろう。
「・・ああ、良いぞ。でも俺もこのまま寝るからな。」
断る事無く彼女は頷き、そして寝息を立て始める。
(ミルナはこんなに素直なんだよな・・無防備すぎる気もするが。)
その顔を見ていると、先程の悩みもいくらか軽くなった。
「まあ・・いいか。
さて、俺も疲れたし寝るとするかな・・」
そして俺も、彼女と同じく眠ろうとする。
・・しかし眠れるわけがなかった。
というのもミルナのある一部分が激しく自己主張をしているのだ。
否、それだけだったならばなんとか我慢すれば良い。
最も俺を困らせたのは彼女が俺を抱き枕よろしく抱き締めている事だ。
少しでも動けばそれが擦れて、彼女が艶っぽい声を上げてしまう。
だからと言って動かなければ今度は押し付けられたそれが、
俺の体でムニュゥ・・と潰れて何とも言えない気持ちになる。
傍から見れば贅沢極まりない悩みだろうが、俺は確かに悩んでいた。
(どうしようか・・これは参ったな・・眠れない。)
しかし、色々と考えてみたところこれは彼女の顔が見えている事が原因だと分かった。
ならば・・と俺は彼女を少し動かす。
具体的には、下にいる俺の首の横に彼女の顔が来るようにした。
これならば彼女の顔を見ることは無いので眠れるはずだ。
「よし・・今度こそお休みだな、ミルナ・・」
少々恥ずかしかったが、そんな台詞を言って目を閉じる。
・・結局、今度は体の感触が気になり、眠れたのはそれからまた少し後だったが。
ふふ・・昨日は言われちゃったからやり返してみました。」
目が覚めた時、目の前で微笑むミルナに言われる。
寝癖がついていたり、服が少々乱れている所を見ると
その一言を言う為に、わざわざ俺よりも早起きしたらしい。
どうやら昨日、俺に言われた事が不服だったようだ。
・・身長の割に、子供っぽいよな・・
そんな思いと共に体を起こす。
「おはよう、ミルナって早起き出来たんだな。」
「もう、昨日だって起こされたとはいえちゃんと起きました。
だから起きられないわけじゃないんですよ?」
「そうか、それは悪い事を言ったな。」
会話を交わしつつ食卓へと向かう。
朝食は昨日と同じく、焼きパンとミルクというシンプルなものだ。
食事の終わり際、ミルナが唐突に言った。
「グロゥさん、今日もしお仕事が早めに終わったら
二人で町を見て回りませんか?
もし・・グロゥさんが嫌じゃなければですけど・・」
「え?ああ・・うん。
もし、早めに終わったら、その時は一緒に行く。」
その答えを聞いた彼女はとても嬉しそうな顔で「はい!」と
元気よく返事をして牛乳を飲み干した。
・・あまり喋るほうでもない俺と一緒に行って楽しいのか・・?
そう思わないでも無かったが、言わずにおいた。
彼女の笑顔を曇らせるのは気が引けたし、それがデートという物の類に
入ることは俺でもわかったからだ。
俺自身、楽しそうだと思っていたからでもあるが。
朝食を食べ終わりエメラルダへと向かう。
今日の仕事は出来るだけ早く終わりそうな物がいいなと思いつつ
ナナキに話しかけたところ、予想外の言葉が返ってきた。
「あら、おはよう。
張り切ってるのに悪いんだけど・・今日、仕事はないわ。
正確に言うなら、さっきまで有ったってところね。
ゲーティアがさっき来て、友達と一緒にラストの一個を受けちゃったから。」
それは、普段ならば彼女の態度通り都合の悪いことだったが、
今日に限って言えばそれは当てはまらなかった。
無いなら無いで、ミルナと一緒に居られる時間が増えるからだ。
「そうか、無いなら仕方ないな、それじゃ!!」
「もう帰るの?お酒の一杯でも飲んで行けばいいのに・・」
名残惜しそうに行った彼女には「悪いな」と一言だけ返して家の方へ走る。
背後からは、「手間のかかる人達ね・・」とナナキが言うのが聞こえた。
恐らく、ギルド内で問題児でもいるのだろう。
家に帰りつきミルナのいる部屋へと歩いていく。
振り向いて俺を見た彼女の顔は、思った通り驚きの表情を浮かべていた。
「ただいまだ、ミルナ。
仕事なんだが、今日はもう無くなっていた。
だから、その分今朝の件、早く行って長く楽しめるぞ。」
だが俺がそう伝えると、いつものよく似合う笑顔になる。
「本当ですか!?嬉しいなぁ・・あ、準備して来ますね。
待たせちゃうかもしれないですけど・・」
そしてそう言いつつ、居間から出て行った。
何の気なしに、後姿を見ると尻尾が嬉しそうに揺れている。
牛が嬉しいとき尻尾を振るのかは知らないが、彼女の雰囲気は確かに楽しげだ。
ならば、そう考えて良いだろうと思うことにした。
「すいませ〜ん!お待たせしちゃいました?」
「いや、そんなには待っていない。むしろ早い位だ。」
駆け足で寄ってくる彼女にそう返す。
事実、俺の経験から言わせてもらえば(そんなに経験など無いが)
かなり早い部類だ。
彼女は俺の手を握りながら引っ張っていこうとする。
「じゃあ、行きましょうか。
私ずっと前から行きたかった場所が有ったんです!」
「・・?ならなんで前に行かなかったんだ?」
俺が返すと、彼女は少し不機嫌そうな顔になってしまった。
そして、何やらぶつぶつと呟いている。
「む〜・・グロゥさんって、意外と鈍いのかな・・」
「どうした?行くなら早く行かないと、時間無くなるぞ?」
「分かってます!さ、行きますよ!」
そう言って、俺の腕を引っ張って行く。
言葉は不機嫌そうだったが、顔を見たところ気分はそうでも無いらしい。
道中、ミルナがいつも行くというパン屋に寄った。
店名はファイア・ベーカリー、イグニスとその夫が経営する店だ。
「お、ミルナちゃん!誰だい、その良い男は!
あんたもついに彼氏を見つけたかい?」
「え、や、ち、違いますよ、フレアさん!
この人は・・えーと・・一緒に住んでるグロゥさんです!」
パン屋のイグニス、フレアとミルナが話している。
ミルナから教えてもらったのだが、このイグニスのパン屋、結構な人気らしい。
彼女曰くいつも来てるから、炎の赤には慣れ凶暴化もしなくなったという。
「一緒に!ほえ〜・・そりゃまたあんたも大胆なことするねぇ!
ってことは・・もうやっちまったかい?」
そう言われてなぜかミルナは真っ赤になった。
それはもう、自分の顔を見ただけで凶暴化しそうな程に。
「そ、そんな事できるわけないじゃないですかぁっ!
だ・・大体ですねッ、さっきも言ったようにグロゥさんは・・」
彼女がそう言おうとした時、奥から一人男が歩いてくる。
彼は話を聞いていたらしく、自然に会話に入ってきた。
「恋人じゃねえのか?
長い間贔屓にしてもらってるけど、おめえのそんな顔見んの初めてだぜ?
これまでフレアが何言ったって、そんな事無いですって、冷静に返してたじゃねえか。
それがこんなに慌てるとは・・」
「わーわー!!それ以上は言わないで下さいよ!」
・・随分と、賑やかな事だな・・
そんな感想を抱きながら無言でミルナの傍に立っていたのだが、
そんな俺にも話題は飛び火してきた。
「兄ちゃんよ、黙ってねえで会話に入ってきたらどうだい?
彼氏ってんなら彼女のピンチぐらい救ってやろうと思わないのかい、ええ?」
そう言うフレアは喧嘩腰のように見えたが、目を見ると穏やかに光っていた。
どうやら、これが彼女の普通の接し方らしい。
「ピンチのようには見えなかったからな。
それに・・ミルナの顔だって、赤くはなっているが笑っている。
まぁ、確かに会話の一つや二つくらいするべきだったな。」
「おお、彼氏の方は意外とクールなんだねぇ・・」
そう言って俺の目を覗き込んでくるフレア。
どうしたのだろうか・・と不思議に思っていると彼女は再び口を開いた。
「うんうん・・良い目だよ。
ちゃんと、ミルナを大事にしてくれそうな、守ってくれそうな・・ね。」
「まるで、ミルナの姉であるようなことを言うんだな。」
俺がつい口に出すと、彼女はフッと笑って言う。
「いや・・なんていうかさ?ミルナとは付き合い長くって。
ここに来るたびに、少し寂しそうな目をする訳よ。
その度にそんな寂しそうな目をしてんじゃないよって言うんだけど、
今日に限って凄く嬉しそうな顔をしてる。
だから、その何だ、あいつにとってあんたは少なくとも特別ではあるんだ。
へへ、これ以上は言わねぇよ?お節介になっちまうからね。」
「・・分かっている。
少なくとも・・俺もミルナの事は好きだし可愛いとも思うからな。」
「そうかい・・じゃあ、大事にしてやんなよ、良い子だからさ!」
言ってミルナの方へ話に行くフレア。
どうやら今日の昼食がどうとかという話にパンを売ろうとしているようだ。
「じゃあなお二人さん、仲良くやんなよ!」
「もう、フレアさん・・私達は大丈夫ですよ。」
「へへ、グロゥさんだったか?あんた、幸せになるぜ。」
「そうか・・それは楽しみにしておく。」
パン屋の二人に別れを告げ、再び歩き出す。
道中の休憩所で買ったパンを食べ、昼食とした。
しばらく歩いていると、大きな木の所に着く。
ミルナは俺に向き直ると、手を取り説明してくる。
「あ、ここです。
ここがグロゥさんと一緒に来たかった場所なんですよ!」
「この大きな木が・・?何か秘密でもあるのか?」
不思議に思い尋ねてみると答えは思ったより単純だった。
ミルナは赤くなり、もじもじしながら言う。
「え・・いや、その・・笑わないで下さいよ?
この木の下って日陰が涼しそうじゃないですか。
だから、ぐ、グロゥさんに膝枕してもらって寝たら気持ち良さそうだなぁって・・」
言いながらも、顔はどんどん俯いて行く。
どうやら俺があまり表情を変えなかったのが原因のようだ。
しかし言葉でそれを慰めるのはどうにも苦手なので行動で示すことにした。
彼女が言っていた通り、木の下に行き座る。
そしてミルナに向き直り自らの膝を叩き言った。
「・・ほら、来い。
やりたいと言うなら俺はその依頼を受けるから。」
素直に成り切れず、照れ隠しに依頼という言葉を使ってしまう。
だが彼女の顔はパァッ、と明るくなり歩み寄ってきた。
「グロゥさん・・!!では・・お言葉に甘えてっ、と・・うわぁ、気持ち良い・・」
「そうか、なら一応この依頼は成功で良いんだな・・」
「まだですよ・・枕は眠るときに要るんですから・・ふあぁ・・」
そしてそのままくたりと眠ってしまう。
起こそうとして肩を揺すったが半眼の彼女に見上げられてしまった。
「むぅ・・枕は寝てる人を起こしちゃいけないんです・・」
そしてまた眠る彼女。
その寝顔を眺めながら俺は自分自身について考えていた。
正直・・彼女がここまで気になってくるとは最初は思っていなかった。
適当に付き合ってしまえば良いと思っていたが・・
いつの間にか、ミルナの事を、好きになっていたようだ。
いや・・考えてみれば好きになったのは三日目からだ。
俺のために夜ご飯を作っておいてくれた。
この事は、俺の心に暖かな光を与えてくれたのだ。
であるならば・・彼女を守る事を生涯の依頼としても良いのではないか。
これを引き受けるのは勇気がいるが・・彼女からもしそう言われたら迷わず受け入れよう。
・・結局受け身の態度しかとれぬとは、情けないな・・
「う・・ん、あ・・おはようございます・・うん〜・・はぁ・・」
「・・ああ、おはよう、もう夜になりかけてるがな。」
考えを纏め上げ、ミルナを見守り数時間。
ようやく起きた彼女と一緒に夜の帰り道を歩いていた。
まだ少し寝惚けてはいるが、しっかりとした足取りである。
その途中、どうしても聞きたくなって聞いてしまった。
「なぁ・・ミルナ。
俺が、もしお前の事を襲ったとしたら、どうする?」
素直に好きか、などとは聞けなかったので、そんな事を口走ってしまった。
これは冗談だとしても性質が悪い。
「え?う〜ん・・どうでしょうね?でも、変なこと聞くんですね。」
しかし彼女からはあいまいな答えしか帰って来なかった。
どうにもはぐらかされた様な気分だが、嫌ってはいない事は分かる。
とりあえずそれが分かっただけでも良しとする事にした。
「いや・・なんでもない・・変な事を聞いて悪かったな。」
「ああ、大丈夫ですよ、気にしてないですから!」
それでも彼女は笑っている。
そこから先はずっと無言だった。
(素直な思いを伝えられたなら、どんなに良いだろうな・・)
家に帰り、ご飯を食べ風呂に入り、座ったソファで考えていた。
すると彼女が俺に体重を預けてくる。
どうした、と見るとその瞼は既にくっつきかけていた。
「ん・・あの・・グロゥさん。
このまま・・寝ちゃっても、良いですか・・?」
その声は心なしか、甘えるような声音だ。
これを断れる男など、そうそういないだろう。
「・・ああ、良いぞ。でも俺もこのまま寝るからな。」
断る事無く彼女は頷き、そして寝息を立て始める。
(ミルナはこんなに素直なんだよな・・無防備すぎる気もするが。)
その顔を見ていると、先程の悩みもいくらか軽くなった。
「まあ・・いいか。
さて、俺も疲れたし寝るとするかな・・」
そして俺も、彼女と同じく眠ろうとする。
・・しかし眠れるわけがなかった。
というのもミルナのある一部分が激しく自己主張をしているのだ。
否、それだけだったならばなんとか我慢すれば良い。
最も俺を困らせたのは彼女が俺を抱き枕よろしく抱き締めている事だ。
少しでも動けばそれが擦れて、彼女が艶っぽい声を上げてしまう。
だからと言って動かなければ今度は押し付けられたそれが、
俺の体でムニュゥ・・と潰れて何とも言えない気持ちになる。
傍から見れば贅沢極まりない悩みだろうが、俺は確かに悩んでいた。
(どうしようか・・これは参ったな・・眠れない。)
しかし、色々と考えてみたところこれは彼女の顔が見えている事が原因だと分かった。
ならば・・と俺は彼女を少し動かす。
具体的には、下にいる俺の首の横に彼女の顔が来るようにした。
これならば彼女の顔を見ることは無いので眠れるはずだ。
「よし・・今度こそお休みだな、ミルナ・・」
少々恥ずかしかったが、そんな台詞を言って目を閉じる。
・・結局、今度は体の感触が気になり、眠れたのはそれからまた少し後だったが。
13/09/22 20:52更新 / GARU
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