連載小説
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睡魔との闘い(ミルナルート初め)
ナナキの前でしばらく思考した後、口を開く。

「・・ワーシープの毛皮運びをやる。
なかなかに大変だろうが、他の奴ほど激しくは無いだろうしな。」
頷いて依頼書に何か署名をする彼女。
途中までさらさらと文字を書いていたがパッと顔を上げる。
「そうそう、同行者についてだけど・・?」
「ん・・ああ、ゲーティアだ。
帰り際に大声で叫んでたから、呼ばないと面倒だからな。
それに毛皮運びという力仕事をする上ではかなりの戦力になってくれるだろう。」
それを聞きふふ、と笑って署名の続きをする彼女。
「・・これで署名完了。ゲーティアには知らせておくから、現地集合ね。場所はここから東の・・」
「お!居た居た!お〜い!!グロゥ〜!!」
そこまで言いかけたところで、後ろからかけられた大声に二人して苦笑いした後振り向く。
そこには元気な顔で走ってくるゲーティアが!

「遅かったじゃないか・・。まぁ、俺も結構な朝早くに起きたけどな。」
「本当だよ!あたしも早起きしてミルナの家に行ったのにあいつ、え?ああ〜グロゥさんならもうエメラルダに行きましたよ〜、なんて言うんだからさ。
ダッシュでここまで来たんだ!」
「ふふ、それは災難だったわね。
そうそう、仕事仲間はゲーティア、あなたに決まったわ。
仕事はワーシープの毛皮運びよ。それじゃがんばってね。」
「おう!へへ、行こうぜ!グロゥ!」「ああ、分かった。」
ナナキに見送られつつ、仕事場へと向かう。
仕事がどんなものかは行ってみて確認すればいいだろう。
物品を運搬するタイプなら軽い仕事のはずだ・・。
しかも聞いてみたところ、朝からなのに仕事は夜まで。
これはさっさと終わらせてどこか散策も出来るかもしれないな。

   そう思っていた時期が俺にもありました。

運んでいる途中、太陽が昼の位置に来たというのに俺達は半分しか道を進めていなかった。
足が重い・・目が上手く開けられない。
人とはこれほどまで足が重いと感じる事が出来るものなのだろうか。
「くっ・・!!まだ・・!大丈夫か・・!?ゲーティア・・!!」
「うっ、ああ、大丈夫だよ・・!グロゥ・・あんたは大丈夫かい!?」
「正直・・足っが、震えてっ・・歩けなくなるかも知れん・・!!」
後ろに積んであるワーシープの毛皮に睡眠促進効果があるのは知っていた。
もちろん魔力を遮るためのアクセサリーは身につけているがそれでも・・
大量の毛皮を運んでいるので魔力も尋常なものではない。
塵も積もれば山となるとはよく言ったものだ・・!!
つまり・・何が言いたいかと言うと・・眠い、眠すぎる。
「ふ・・ん・・・っ・・・・す・・・・・」
「っ・・わ・・む・・ぅ・・く・・」
おお・・なんかグ―ルがシルフと一緒に腕を関節ごと回転させて・・嵐が・・
うっへへ・・へ・・へ・・はは・・っ!!!??俺の右腕に鋭い痛みが・・!!

目を覚まして横を見るとゲーティアが鉄の棒を持っていた。
どうやら、あれで意識を引き上げてくれたらしい。
「グロゥぅぅ・・!!あたしも頑張るから、寝るな・・!!」
「ぬぅぅ・・すまない!・・ふっ・・はうあ!!いかんいかんっ・・!!」
頭をぶんぶん振り睡魔を振り払おうとする。
しかし、振り払った先からまた別の睡魔が・・!!
このままでは埒が明かない・・!
そう思った俺は、大股で出来るだけ進もうとする。
しかし、睡魔の力は恐ろしく我慢や気力といった壁を次々と崩して進んでくる。
もはや最後の手段・・とゲーティアの方を見るが、彼女も荷車を引きつつ眠っていた。
否、荷車をもう動かそうとはしていなかった。
「・・ここまで・・か・・う・・あ・・ぁ・・」
その事実がさらに瞼を重くさせ、もはや我慢できずに座り込む。
そして程無くして、俺も眠ってしまった・・・


(・・なんだ・・ここは・・)
そこにはサキュバスが沢山いる。
!!・・一人のサキュバスに気付かれた・・!!
さらに悪い事に他のサキュバスも!!
「うふ・・可愛い子・・逃しはしないわ・・!!」
そして・・俺は、数々のサキュバスに・・・
違う・・俺は・・こんな事になりたくなど!!


「否・・断じて否ぁッ!!俺はそんな事になってたまるものかぁッ!!」
いろんな意味で悪夢を見た・・!!
いや、他人にとっては良い夢かもしれないが、
俺にとっては絶対的悪夢だった!!
しかし、幸いなことにその悪夢は俺を夢の中から一気に引き上げてくれた。

「くかー・・ん、ぐごご・・ふみゃ・・」
隣を見るととても幸せそうにいびきをかいてゲーティアが眠っている。
・・俺はあんな夢見てたってのに!!
そう思い、ゲーティアの手から鉄の棒をかすめ取る。
そして・・・足に思いっ切り押し付けた!!
「・・チョイサァァァァー!!!」
「ぐあっ!!!ちょっ、痛い痛い痛い!!や、やめぇぇえ!!ぐ、グロゥ!!何をすんのさ!」
当然ながら、怒り反論してくる彼女。
それに対して俺は、私情たっぷりに言い返した。
「うるさいやい、お前は気持ち良さそうに眠ってただろうがな?
俺なんぞ、大量のサキュバスに接近される夢だぞ!?」
・・・うーん、我ながら素晴らしい自分勝手っぷりだ。
しかし彼女は、申し訳なさそうな顔をしてきた。
「そっか・・いや、なんか、ごめん。
あたし、ナナキと酒を飲んで楽しく話してる夢見てたわ・・。」
「・・もう良いよ、それよりこれを早く運んじまおう。
見ろよ、もう夕日が出てしまっている。仕事の制限時間に間に合わなくなってしまうぞ。」
その言葉通り、何度も眠っては起き眠っては起きを繰り返していたので空の色は赤に染まりかけていた。
初仕事を失敗などと、万に一つもそんな事にはなれない。
「ああ、もうあたしは寝ない!!こうなったら瞼が落ちても歩き続けるよ!」
拳をギュっと握り締め、決意も新たに荷車を引き始めるゲーティア。
その目は、もはや血走っていると表現してもよいほどだろう。
「俺もだ・・あんな夢はもう見たくない!このまま一気に運び切るぞ。」
俺も歯にぐっと力を込めつつ、荷車を引く。
そこから後は、もう二人とも寝ることなど無かった。
「「素数を数えろ・・2、3、5、7、11、13、17・・」」

そして・・俺達は遂に・・この長い長い戦いを生き抜く事に成功した!!
「遅かったわねぇ?・・大丈夫?あなた達目が血走っているけど・・」
「「大丈夫だ。問題無い・・。」」
運び先のベテランのアラクネが少し心配そうに尋ねてくるが、
俺達は立ったまま無念無想の境地に達していたため淡々と答える。
その様があまりに異様であった為か、アラクネは少し引いたようでもあった。
しかし、そこは流石にベテランゆえかすぐに調子を取り戻す。
「まぁ・・ともかくここまで御苦労さま。
お礼の方はエメラルダのナナキさんに送るから、本当にありがとうね。
これでまた、枕作りを再開できるわ〜、よし!さっそく取り掛かるわよ!!」
彼女はそう言ったかと思うと、奥の方にひっこんでしまった。

残されてしまった俺達はふらふらになりつつ顔を見合わせた。
「・・とりあえず、成功ってことで良いんだよな。」
「ああ、きっと大丈夫だろうね。
それにしても・・疲れた・・エメラルダまで走れるかい?」
「・・明日で良いか・・?正直、エメラルダまで行ったらきっと倒れるぞ。
だから・・もう帰る事にする。」
そう言った俺に対して、ゲーティアは「ほほーぅ・・」、と意味有り気に笑った。
その笑い方が妙に気に掛ったので、「なんだよ」と問うとにやにや顔を崩さぬまま彼女は続ける。
「ふふ・・だってあんな胸を見て、飛び込みたくない奴はいないだろ?
だ〜か〜ら、あんたもあの胸に帰ってから飛びこ、痛ぁっ。」
まるでエロオヤジのような言い草につい頭を小突く。
「ば、馬鹿を言うな!大体俺はあいつとは会って二日目だぞ!?
そんな事が出来る訳もないだろ!そ、それにあいつは嫌がるぞ。」
そう言う俺に、「はッ・・」とまたもや笑う彼女。

「あたしの目から見れば少なくともあんたを嫌っちゃいないよ?
それどころか、きっと好きだね、あいつは。」
「・・?だから、どうしたっていうんだ?」
聞き返す俺に彼女は、ニヤッとした表情になる。
「その意味は自分で考えなよ、どの道そん時がくりゃ分かるって奴さ。
明日も相当な仕事が無い限り呼んでくれ、じゃあな!!」
そう言って、走って帰っていく彼女。
俺はと言うと、とりあえず帰る事にした。
帰って寝ない事にはあの言葉の意味を考える事さえできないと思ったからだ。



夜も遅くなったころやっとこさ家に帰ってみると、ミルナが気持ち良さそうに寝室のベッドで眠っていた。
これまでには無い経験に苦笑しつつ、呟く。
「・・帰る家に誰かがいることがこんなにほっとするとはな。・・飯食って風呂、入ってくるか。」
そして、居間に行く。
そこでもまた、驚くべきものを発見した。
パンが、わざわざ俺のために焼いてくれていたパンがあったのだ。
その横には彼女らしい可愛い字で伝言が書いてある。
=グロゥさん、私寝ちゃうかも知れないからパン焼いておきました。
イグニスさんから貰った籠のおかげで、サクサクのままですよ。
あとお風呂沸いてます。=
その気遣いに、気付けば一筋、頬を何かが伝っていく。
「ミルナ・・ったく、迷惑掛けるなぁ・・明日からは、ちゃんと帰ってきてやんなきゃな・・」
そのパンは、何も塗っていないはずなのに塩味で少し甘かった。
その後、風呂に少しの間浸かり、着替えを済ませ寝室に入る。
そして彼女の横を通り過ぎようとした瞬間、いきなり手を掴まれた。

「・・帰ってきてたんですね・・もう、言ってくれればいいのに・・」
「起こす訳には、いかないからな。
あと・・なんだその・・パンと風呂、ありがとうな。」
俺がそう言うと、ミルナは仰向けになったまま手を広げ、こう言ってきた。
「じゃあ・・お礼、下さい。あなたを・・ギュっってさせてください。
私達、スキンシップって大好きなんですよ?」
その体勢のまま、ふんわりといつもの調子で微笑む彼女。
「あ・・ああ・・あ〜うん・・分かった・・」
その要求に応えて良いものか戸惑うが、
彼女からそうしたいと言ってきたなら大丈夫なはずだ、と素直に従い、
文字通り胸に飛び込んだ。
飛び込んだ・・わけだが・・色々凄かった。

(何だ・・これは・・楽園か・・!!)
彼女の柔らかい体の各部がこちらの体に当たり何とも言えぬ安らぎを与えてくる。
加えて緩く抱き締められているので体の力もどんどん抜けて行った。
しかし、何より凄かったのはその、胸。
大きな乳房に両側から顔を挟まれもう天国と言っても良いほどだ。
姉がいたならば、して欲しい事に間違いなく上位に入るであろう
この行為の、その人気の所以が分かった気がした。
そんな感覚をいつまでも味わっていたかったが、
生憎と今日の仕事のせいで意識が限界を迎えかけた。
流石にこのまま寝るのはまずいだろう。
「あ〜ミルナ・・?あんまり話も出来ないで悪いんだけど・・
俺・・疲れて眠っちゃいそうだから、そろそろ・・」
「あ・・そうですねえ〜」
そう言いつつ、俺を抱きしめる力を強める彼女。
俺の思惑とは真逆の行動に俺が戸惑っていると、声がかかる。
「このまま・・寝ちゃっても構いませんよ・・私、あなたなら大丈夫ですから。
・・でも〜すこし軽い女みたいですね、これじゃぁ・・」
そんな事を最後に漏らし、はぁ・・とため息をつく彼女。
確かに、警戒心が薄すぎる。
会って二日の異性と同衾するなど普通では軽い女と見られてもしょうがない行為だ。
しかし・・軽い女が、わざわざ帰ってこない同居人のために色々としてあげられるだろうか?
俺の認識では軽い女というのは、誰にでもこういう事をする奴の事だ。
そう思い・・彼女に一つ質問をしてみる。

「なぁ・・あのパン、あっただろ?
あれ・・相手が俺じゃなかったら焼いていたか?」
「ふぇ・・?いえ焼きませんよ〜、よく分かんないですけどあなたに焼いてあげたいなぁって思ったんです。
えへへ・・不思議です・・どうしてなんでしょうか〜?」
「さぁ・・?なんでだろうな?」
・・やはりか。
それが俺だけに対するものであったなら、彼女は軽い女などとは言えないだろう。
むしろ・・俺から言わせてもらえば、良い女だ。
「まぁ、そうだな。
俺から見れば・・軽い女なんかじゃないと思うぞ、ミルナは。
それどころか、とても優しい良い人だ。」
「あ・・ありがとうございます!グロゥさんこそ優しいんですね・・。」
「や、やめてくれ・・少し恥ずかしい。」
純真な瞳で見つめてくる彼女から、つい目を逸らす。
そうは言っても、嬉しいものは嬉しい。
彼女が何故俺だけに、と思ったかは分からないが・・それでも彼女にとって特別であるという事実に変わりは無い。

「じゃ、じゃあおやすみ、ミルナ。
明日は・・そうだな、なるべく早く帰って来るようにするよ。」
「あ、はい〜。
私も、明日に備えて眠りますね、じゃぁお休みなさい・・」
照れ臭さも消え切らないうちに彼女の胸に再び顔を埋めた。
そこからはとても良い匂いがして、
昼間のワーシープの毛皮よりももっと良い気持ちで眠りに入れる気がする。
事実俺は、それをしてから数秒の後にはもう目を開けられなくなって、一分足らずで意識は夢の中に滑って行った。

・・滑って行く意識の中、窓に何人か見えたのは気のせいであるはずだ。
13/09/08 16:59更新 / GARU
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■作者メッセージ
「あんたら、静かに・・!ああ・・でもあれは優しい良い人に見えるねぇ・・」
「確かに、優しい人だね・・あそこから襲っても文句は言われないかもしれないだろうに。」
「ん〜・・でも二人とも奥手すぎない?ちょっと心配ね・・」
「あ〜、両想いっぽいのにね・・」
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完結いつになるんだろ・・

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