記憶
「ワイバーンか・・幼い時一緒に居た気はするが・・」
目的地の大陸に向かう途中の船旅で、俺は一人記憶を探っていた。
俺は竜風椿、二十一歳、ショートカットの二刀流剣士だ。
我が父、竜風朱連の言葉では
俺には、幼い時良く遊んでいたワイバーンが居たらしい。
そいつに見聞を広めるついでに会って来い、という事だ。
とはいえ正直なところはっきりとは憶えていない。
なんとなく居たような気はするので、父の嘘ではないだろうとは思うが、
思い出も無ければ、名前すら憶えていないという有り様だ。
まぁ、そこに向かっている道中で
多少なりとも記憶がまた呼び起こされるかもしれない、と結論付け
俺は海を眺め一人連想ゲームをすることにした。
海・・海と言えば水着・・水着と言えばポロリ・・はっ!?違う違う。
えーと、水着と言えば何だ・・
そこでマーメイドの夫婦が泳いでいるのが目に入る。
すいすいと泳ぐ姿はまさに魚のようだ。
泳ぐたびに水飛沫が上がり、宙を舞うとまた海へと帰っていく。
まるで競争をするようにスピードを上げると海の中へ潜って行った。
「いいな・・とても涼しそうだ。」
俺はいつしか連想を止め、その楽しそうな二人を見ていた。
それを見ていると、微かにだが記憶が蘇る。
「椿ー速くー!置いていくぞー」
顔は思い出せないが、手を振っている小さなワイバーンがいた。
それに応えて走り出し、すぐに追いつき追い越し
「お前こそ速くしろよ、置いてくぞ?」
振り向きながらそう言った気がする。
「何て言ったかな・・あいつの名前は・・」
どうしても思い出せない。
聞き慣れない名前だったし、一緒にいた時間も多くは無かったから
仕方のないことかもしれないのだが・・
「あっちがもし憶えてたら、凄く失礼だよな・・」
もっと思い出そうとして、周りを見ると
船の上だというのに素振りをしているリザードマンと
それを見守る男が目に映った。
「498・・499・・500!」
「お疲れ様、休憩にする?」「ああ、少しな・・」
するとまただ。
今度は先程より、成長した後の少年が居た。
「俺が勝ったら、一緒に寝ろよ?」
木刀二つを構え、目の前の飛竜に言う。
飛竜は、翼を広げニヤリと笑った。
「良いぞ、私が勝てば約束を一つしてもらうがな」
「で、ボロ負けしたんだっけか・・懐かしい。
確か、約束って・・うわ、こりゃまずいな。」
約束の内容を思い出し苦笑いを浮かべる。
「何時になっても私の名前を億えていてくれ、だった・・
こりゃ、いよいよもって怒るでは済まされないな・・」
そうこうしているうちにも、船は港に着いた。
物静かなジパングとは違い、色々なモノが忙しなく動いている。
「凄いな・・これが大陸か・・」
船を降り、養成所がある方の出口に向かいながら呟く。
「そういや、あいつも人や物がたくさんあるって言ってたな・・」
見渡す限り、人や物で埋め尽くされ、まるで祭りでもあるかのようだ。
と、ここで見聞を広めるという目的も思い出す。
とりあえず案内所にでも入ればいいかと思い、そこに入る。
建物の中でも魔物や人が談笑していた。
窓口らしき所に行き、カウンターのウンディーネと話をする。
「すいません。この辺りに竜騎士の養成所があると聞いたんですが・・」
「竜騎士の養成所・・あっ、大きいのが有りますね。
なんでも誰にも懐かないワイバーンが一人いるとか・・」
もしかしてあいつのことだろうか。
すこし、気になってもっと深い話を聞こうとする。
「そのワイバーンの名前とかって、分かりますか?」
「えーっと、確か・・この紙に書いてあります。
養成所へ入るならこの紙が必要ですから持って行ってください。
申し訳ありませんが、次の人が控えておりますので・・」
「あ、すいません長話してしまって。」
そう言って紙を受け取り、建物を出る。
その後、俺は街を港町を出て、養成所に向かっていた。
渡された紙には、竜騎士の宣伝文句が書いてあり、隊長の名前や
有名人など、名前が載っている。
それらの真下に一番見たかった情報が載っていた。
「えーと、誰一人として懐かせることのできぬ孤高のワイバーン・・?
随分と仰々しく書いたもんだな・・って怪我人も幾らか出てるのか・・
名前は・・ラーシュ・ラグナス・・あっ!」
思い出した、完全に思い出した。
あいつの名前はラーシュ・ラグナスがフルネームのはずだ。
「そうだ!ラーシュ・ラグナスだ!
良かった・・これであいつに怒られなくて済む!」
一番大事なそこが思い出せれば後は芋づる式に記憶は蘇っていく。
先程とは比べ物にならないほどの鮮明さだ。
一緒に寝たときの寝顔も、帰り際の寂しそうな顔もくっきりと思い出せた。
「あいつ綺麗になったかな・・あ、でも俺が行ってもまた駄目なんじゃ・・」
と同時に、俺のことを憶えているだろうかと不安になる。
が、もう養成所は目の前だ。
「・・ま、ここまで来たんだから、顔ぐらい見ておくか。」
養成所の門の前まで行く。
すると、こんな声が聞こえてきた。
「くっ、ラーシュ!暴れるなっ!あっ、こら待たんか!」
どうやら、探すのに苦労はしなさそうだ。
そう思いながら、門をくぐることにした。
=続く=
目的地の大陸に向かう途中の船旅で、俺は一人記憶を探っていた。
俺は竜風椿、二十一歳、ショートカットの二刀流剣士だ。
我が父、竜風朱連の言葉では
俺には、幼い時良く遊んでいたワイバーンが居たらしい。
そいつに見聞を広めるついでに会って来い、という事だ。
とはいえ正直なところはっきりとは憶えていない。
なんとなく居たような気はするので、父の嘘ではないだろうとは思うが、
思い出も無ければ、名前すら憶えていないという有り様だ。
まぁ、そこに向かっている道中で
多少なりとも記憶がまた呼び起こされるかもしれない、と結論付け
俺は海を眺め一人連想ゲームをすることにした。
海・・海と言えば水着・・水着と言えばポロリ・・はっ!?違う違う。
えーと、水着と言えば何だ・・
そこでマーメイドの夫婦が泳いでいるのが目に入る。
すいすいと泳ぐ姿はまさに魚のようだ。
泳ぐたびに水飛沫が上がり、宙を舞うとまた海へと帰っていく。
まるで競争をするようにスピードを上げると海の中へ潜って行った。
「いいな・・とても涼しそうだ。」
俺はいつしか連想を止め、その楽しそうな二人を見ていた。
それを見ていると、微かにだが記憶が蘇る。
「椿ー速くー!置いていくぞー」
顔は思い出せないが、手を振っている小さなワイバーンがいた。
それに応えて走り出し、すぐに追いつき追い越し
「お前こそ速くしろよ、置いてくぞ?」
振り向きながらそう言った気がする。
「何て言ったかな・・あいつの名前は・・」
どうしても思い出せない。
聞き慣れない名前だったし、一緒にいた時間も多くは無かったから
仕方のないことかもしれないのだが・・
「あっちがもし憶えてたら、凄く失礼だよな・・」
もっと思い出そうとして、周りを見ると
船の上だというのに素振りをしているリザードマンと
それを見守る男が目に映った。
「498・・499・・500!」
「お疲れ様、休憩にする?」「ああ、少しな・・」
するとまただ。
今度は先程より、成長した後の少年が居た。
「俺が勝ったら、一緒に寝ろよ?」
木刀二つを構え、目の前の飛竜に言う。
飛竜は、翼を広げニヤリと笑った。
「良いぞ、私が勝てば約束を一つしてもらうがな」
「で、ボロ負けしたんだっけか・・懐かしい。
確か、約束って・・うわ、こりゃまずいな。」
約束の内容を思い出し苦笑いを浮かべる。
「何時になっても私の名前を億えていてくれ、だった・・
こりゃ、いよいよもって怒るでは済まされないな・・」
そうこうしているうちにも、船は港に着いた。
物静かなジパングとは違い、色々なモノが忙しなく動いている。
「凄いな・・これが大陸か・・」
船を降り、養成所がある方の出口に向かいながら呟く。
「そういや、あいつも人や物がたくさんあるって言ってたな・・」
見渡す限り、人や物で埋め尽くされ、まるで祭りでもあるかのようだ。
と、ここで見聞を広めるという目的も思い出す。
とりあえず案内所にでも入ればいいかと思い、そこに入る。
建物の中でも魔物や人が談笑していた。
窓口らしき所に行き、カウンターのウンディーネと話をする。
「すいません。この辺りに竜騎士の養成所があると聞いたんですが・・」
「竜騎士の養成所・・あっ、大きいのが有りますね。
なんでも誰にも懐かないワイバーンが一人いるとか・・」
もしかしてあいつのことだろうか。
すこし、気になってもっと深い話を聞こうとする。
「そのワイバーンの名前とかって、分かりますか?」
「えーっと、確か・・この紙に書いてあります。
養成所へ入るならこの紙が必要ですから持って行ってください。
申し訳ありませんが、次の人が控えておりますので・・」
「あ、すいません長話してしまって。」
そう言って紙を受け取り、建物を出る。
その後、俺は街を港町を出て、養成所に向かっていた。
渡された紙には、竜騎士の宣伝文句が書いてあり、隊長の名前や
有名人など、名前が載っている。
それらの真下に一番見たかった情報が載っていた。
「えーと、誰一人として懐かせることのできぬ孤高のワイバーン・・?
随分と仰々しく書いたもんだな・・って怪我人も幾らか出てるのか・・
名前は・・ラーシュ・ラグナス・・あっ!」
思い出した、完全に思い出した。
あいつの名前はラーシュ・ラグナスがフルネームのはずだ。
「そうだ!ラーシュ・ラグナスだ!
良かった・・これであいつに怒られなくて済む!」
一番大事なそこが思い出せれば後は芋づる式に記憶は蘇っていく。
先程とは比べ物にならないほどの鮮明さだ。
一緒に寝たときの寝顔も、帰り際の寂しそうな顔もくっきりと思い出せた。
「あいつ綺麗になったかな・・あ、でも俺が行ってもまた駄目なんじゃ・・」
と同時に、俺のことを憶えているだろうかと不安になる。
が、もう養成所は目の前だ。
「・・ま、ここまで来たんだから、顔ぐらい見ておくか。」
養成所の門の前まで行く。
すると、こんな声が聞こえてきた。
「くっ、ラーシュ!暴れるなっ!あっ、こら待たんか!」
どうやら、探すのに苦労はしなさそうだ。
そう思いながら、門をくぐることにした。
=続く=
13/08/27 03:09更新 / GARU
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